自由にしかし楽しく!クラシック音楽

クラシック音楽の演奏会や関連本などの感想を書くブログです。「アニメ『クラシカロイド』のことを書くブログ(http://nyaon-c.hatenablog.com/)」の姉妹ブログです。

コメント・ご連絡はすべてツイッターにお願いします。ツイッターID:@faf40085924 ※アカウント変更しました。
※無断転載を禁じます。

ウィステリアホール5周年記念事業 ジングシュピール「ファウスト」(2023/05) レポート

www.msnw-wishall.jp
ウィステリアホール5周年記念事業として開催された、ジングシュピールファウスト」。ウィステリアホールではおなじみの出演者の皆様による、歌とお芝居でゲーテの「ファウスト」を上演するオリジナル作品です。企画発表当初から話題となっていたため、当日は札響定期と日程が被っていたにもかかわらず会場はほぼ満席。またウィステリアホール5周年記念として、来場者全員にオリジナルCDが配られました。

ウィステリアホール5周年記念事業 ジングシュピールファウスト」 -長編作品を歌と芝居で構成したオリジナル公演-
2023年05月28日(日)14:00~ ウィステリアホール

【出演】
ソプラノ:中江 早希
バリトン:駒田 敏章
俳優:宇井 晴雄
ピアノ:新堀 聡子

【曲目】
<第1幕>
ブゾーニメフィストフェレスの歌(蚤の歌)
シューベルト:トゥーレの王 Op.5-5 D 367
シューマンゲーテファウストからの情景」より「庭の場面」
シューベルト:糸を紡ぐグレートヒェン Op.2 D118
ワーグナーゲーテファウスト」からの7つのコンポジションより「グレートヒェンのメロドラマ」
シューマンゲーテファウストからの情景」より「教会の場面」

<第2幕>
シューマンゲーテファウストからの情景」より「日の出」
シューマン:塔守リュンコイスの歌 Op.79-28
シューマンゲーテファウストからの情景」より「真夜中 ファウスト盲目に」
シューマンゲーテファウストからの情景」より「ファウストの死」
シューマンゲーテファウストからの情景」より「救済と変容」

<劇伴/劇中使用楽曲>
リスト:メフィスト・ワルツ第1番「村の居酒屋での踊り」S514/R181より
モーツァルト:歌劇「魔笛」K.620より
プロコフィエフ:交響組曲「キージェ中尉」Op.60より
ベルリオーズ幻想交響曲 Op.14より
ワーグナー:楽劇「トリスタンとイゾルデ」より
シューベルト:水の上で歌う Op.72,D.774より


お芝居と歌でこんなにも心揺さぶられ、魂が震える体験は初めてです!実は予習(さらっとストーリーを追った程度です)の段階ではこの物語を正直受け入れがたく(苦笑)、やや不安な気持ちで当日を迎えた私。そんな私が最初から最後までのめり込み、どっぷり浸れたのは嬉しい誤算でした。ありがとうございます!オリジナル台本の良さはもちろんのこと、何よりお芝居と歌が素晴らしかったです。バリトンの駒田敏章さんが演じる、知的で男前なファウストを嫌いになれなかった時点で私の完敗(笑)。またソプラノの中江早希さんが演じるグレートヒェンは可憐なだけでなく、信心深さと意志の強さに凄みを感じさせ、愛あふれ慈悲深いのはまるで聖母のようでもある、とても魅力的な女性でした。そしてメフィストフェレスを演じた宇井晴雄さんのカメレオン俳優ぶりがすごいです!狂言回し的な存在で台詞の量がとても多く、それでもテンポ良く物語を進めてくださいました。また主役のファウストやヒロインのグレートヒェンがお話の中心になる時は、同じ舞台に立っていても気配を消し、一度きりの登場人物をその瞬間だけ演じても説得力がある!と私は後から気付きました。その時は観客に意識させないレベルで演じ分けていたなんて、すごいことでは!?また信頼する新堀聡子さんのピアノは、バリトンとソプラノの歌唱を支えた他、シーンに応じた劇伴も演奏し、物語世界の土台を作ってくださいました。映像や照明での演出で、限られた舞台上を様々な世界に変化させた舞台スタッフのかたにも大拍手です!大きな舞台でのオペラやミュージカルとは訳が違う、ミニマムなキャストと仕掛けでここまでできるんですね!こんなにも素晴らしい舞台、一度きりなのが惜しいです。ぜひ再演や映像作品化をお願いいたします!

オリジナルの台本は駒田さんと宇井さんが書かれたそうです。ゲーテの「ファウスト」にまつわる音楽作品は多々あれど、原作全てを網羅したものはなく(例えばシューマン作品は原作の全編にわたるとはいえピックアップした情景に曲をつけたもの。グノーのオペラはグレートヒェンの死までで後半はナシ)、今回のように既存の音楽作品とストーリーの台詞劇を組み合わせた舞台は今までなかったのでは?ゲーテの「ファウスト」のストーリーをぎゅっと圧縮し、音楽はシューマンゲーテファウストからの情景」の曲を中心に、他の作曲家の作品も取り混ぜて構成。台詞劇と演奏で進められ、ナレーションはありませんでした。テンポ良く進み、引き込まれる展開だったため、お話を知らない人でも楽しめた内容だったと私は思います。メインの登場人物の呼び方は、グレートヒェンはマリガリータ呼びは使われず全編にわたりグレートヒェンで統一。またファウストをハインリヒ様と呼んだのはグレートヒェンのみで、他の人はファウストと呼んでいたと思います。ストーリーは時間的制約がある上に、台詞で説明できる情報量には限りがあるため、ゲーテの原作から思い切って省いた部分もあったようです。例えば、メフィストフェレスは黒イヌの姿ではなく最初から人の姿でファウストの前に現れたり、グレートヒェンの兄の絶命後にファウストメフィストフェレスが魔女の祭典「ワルプルギスの夜」に出かけた話や、ファウストが美女ヘレネーを追い求め子を成す話などは省略したり、それに関連して登場人物もぐっと減っていたり。この辺りはシューマンも曲を付けておらず、また読み解くにはギリシャ神話はじめ数多の教養も必要となってくるため、省いて正解と思われます。結果としてファウストはグレートヒェンのみを愛したと捉えられる構成になっていたのは個人的に好印象でした。別の女を追い求める展開は私にはどうしても受け入れられなくて(苦笑)。あとは、グレートヒェンの兄に致命傷を与えたのは誰かがはっきりしなかったり、ファウストが失明した瞬間があやふやだったり等、想像に任せる余白も残してあったと感じました。ただ、グレートヒェンの兄の登場は、お話を知らない人にはちょっと唐突だったかも?確か遠くに赴任していて普段は自宅におらず、妹の噂を聞きつけ急ぎ帰宅したのですが、グレートヒェンに兄がいることはこの時まで話題にすら出ていなかった気がします(勘違いでしたら申し訳ありません)。しかしその瞬間だけの登場にもかかわらず、宇井さんが演じたグレートヒェンの兄はものすごい存在感で、お話を展開させる重要ポイントとなってくださいました。

学者として成功したファウストが悪魔メフィストフェレスと契約。それは、この世で何でも望みを叶えてもらう代わりに死後は魂をメフィストフェレスに渡す。その死はファウストが「とどまれ、お前は美しい」と言った瞬間に訪れる、というもの。ファウストは名声は要らないようですが(劇中でも「名声など意味は無い」と明言していました。これは既に得たものだからかも?)、肉欲や支配欲に関しては正直に「欲しい」と願う人のようです。個人的には、ファウストは自分の欲望ばかりが大事で他人を不幸にするクズでは!?とか、そもそもずば抜けて頭が良い人がなぜこんなに短絡的な行動をするの?とか、悪魔メフィストフェレスは約束を必ず守るなかなか良いヤツでは?等、ツッコミどころ満載(笑)。しかし、人の欲望は果てしなく、それによって周りを不幸にもするというのは、人類がずっと抱えてきた普遍的なテーマなのだと思います。文豪ゲーテが生涯かけて取り組み、多くの作曲家が影響を受けて曲を生み出したのは、作品を通じて人の生き方そのものを問うているからですよね。設定や登場人物は、すべての人が自己を映し出すための単なる枠組みに過ぎないのだと今は思います。ゲーテの「ファウスト」はそれこそ一生かけて読むべきものではありますが、今回の舞台を拝見して私が最も感じ入ったのは、ずばり「最後に愛は勝つ」です。限りない欲をどんなに満たそうとしても、過ぎ去っていくものはただ空しいだけ。それでも最後に魂が救われ永遠の存在となれるのは純粋な愛の力によってなのだと、私なりにそう受け止めました。しかし物語の要である、ファウストがどのような思いで「とどまれ、お前は美しい」と言ったのかについてや、この世での「瞬間」と天での「永遠」をどう捉えるかについては、今はまだ自分の答えを出さずにいたいと思います。この辺りは今回の舞台ではフラットに描かれていたため、私達に解釈の余地が残されていたのもありがたかったです。

舞台は向かって左端にピアノ、右端に段差がある少し高い場所が設けられ、舞台後ろには幅いっぱいの大きなスクリーン。ドイツ語の歌詞の日本語訳は演奏とシンクロしてスクリーンに表示されました。またシーンに合わせた映像(影絵に近い派手では無いもの)がスクリーンに映し出され、その時に応じて明るさを変化させた照明やスポットライトによる演出も。ピアノの新堀さんは黒い衣装で、他の皆様は下が黒・上が白のシンプルな装い。主な登場人物では、ファウストを駒田さん、メフィストフェレスを宇井さん、グレートヒェンを中江さんが演じ、他の登場人物はお三方が羽織り物を変える等して演じ分けていました。なおプログラムに演目解説やストーリーは書かれておらず、プレトークやアフタートークもナシ。ミニマムなキャストと仕掛けによる歌とお芝居のみで、私達は最初から最後まで物語の世界に没頭できました。

以下、舞台のレポートは印象深かったところを中心に、ストーリーを端折りながら書きます。なお台詞は大意です(一字一句の違いについてはご容赦を)。第1幕。暗がりにいる神(中江さん)と悪魔メフィストフェレスとの対話から。小賢しそうなメフィストフェレスのキャラ立ちが最初からすごくて引き込まれました。背景がファウストの部屋になり、メフィストフェレスファウストと対面。魔除けを外してほしいと願うメフィストフェレスは、やはり悪魔なんだなと(笑)。ファウストは落ち着いた話しぶりの知的な印象。2人で酒場に繰り出して、バリトン独唱でブゾーニメフィストフェレスの歌(蚤の歌)」。「蚤の歌」には様々な作曲家が曲を付けているようですが、今回はブゾーニの作品が取り上げられました。ノミが跳ねているようなお声とピアノで、バカバカしい内容を(演出として)投げやりな感じでの演奏。魔女に若返りの薬をもらいに行くシーンでは、ぐっと腰を曲げて頭から布を被っている老魔女(中江さん)の存在感がすごい!声色がとても面白くて、私は老魔女の再登場を密かに期待してしまいました(実際はこの一度きりでした)。駒田さんは髪を束ねてイメチェンし、若返ったファウストに。グレートヒェンに一目ぼれして、「あの娘が欲しい!」。「欲しい」とか、お若いですね……。グレートヒェンの部屋に宝石箱を置きに行くシーンでは、ファウストは「見つかったら変態だと思われる」とそわそわ。すごく良いお声でそんな変なことを仰るのと、学問で大成した博士が形無しになっているのとで、ちょっと笑えました。いやいやどう見ても変態ですから(笑)。ソプラノ独唱でシューベルト「トゥーレの王 Op.5-5 D 367」。はじめは無伴奏で、途中からピアノの和音の伴奏が入る演奏でした。素朴な昔語りのようでありながら、やや影のあるお声に、既に恋してしまった乙女の揺らぐ心が垣間見えるよう。バリトンとソプラノの二重唱でシューマン ゲーテファウストからの情景」より「庭の場面」ファウストとグレートヒェンの明るい掛け合いが素敵でした。また、グレートヒェンが花占いで「好き、嫌い、好き……」と花びらを1つずつ取る(スクリーンには1枚ずつ舞う花びら)のが可憐で、最後「好き」となったときの喜びの声が愛らしい!今すぐ抱きしめたくなる!お芝居のみでの、グレートヒェンがファウストに「神様を信じていらっしゃる?」と問うシーンでは、「~が神と言えるかもしれない」なんて理屈を言うファウスト。彼女がイメージする神なんてたぶん信じてないよこの人……。グレートヒェンがファウストの周りをウロウロする邪悪な存在(メフィストフェレス)を嫌がるのに対しても、ファウストは「気が合わないだけだ」なんて!なんかかみ合わない感じ(笑)。それでも恋は理屈じゃない、わかる!ソプラノ独唱でシューベルト「糸を紡ぐグレートヒェン Op.2 D118」では、スクリーンに速度を変えながら回る糸車が映し出されました。糸車がくるくる回るようなピアノに乗って、恋に悩み苦しむグレートヒェンの思いそのもののようなソプラノが切ない!既にグレートヒェンはファウストに心奪われているのが伝わってきました。結局、ファウストからもらった睡眠薬で同居の母親を眠らせて、グレートヒェンはファウストを受け入れることに。直接の描写はありませんでしたが、メフィストフェレスファウストに「一度じゃ済まず……」等とやいやい言う台詞で、男女2人が何度も逢瀬を重ね、母親が亡くなってしまった状況が掴めました。噂好きなご近所さん(宇井さん)が、グレートヒェンに「男と通じた嫁入り前の娘がいた」とヒソヒソ。グレートヒェンは一人になってから、以前なら世間と一緒になって非難したであろうそんな娘に自分がなってしまったことに愕然として、続く演奏がすごかったです。ソプラノ独唱でワーグナー「グレートヒェンのメロドラマ」。中江さんは膝をつき壁に向かい懺悔する姿勢で、高らかに歌うのではなくボソボソ独白する演奏。派手な感情表現はないのに、「この恥辱からお救いください」というグレートヒェンの苦しみが痛いほど伝わってくる演奏は鳥肌モノでした!場面が変わり、外で諍いの音がして、お腹に血痕があるグレートヒェンの兄(宇井さん)がグレートヒェンの前に登場。自慢の妹だったお前が世間から汚い言葉で罵られている……と、おそらくそのせいで喧嘩になり致命傷を負ったことは語らずに、絶命。打ちひしがれるグレートヒェンの背後に悪霊(駒田さん)が現れ、二重唱でシューマン ゲーテファウストからの情景」より「教会の場面」。「お前はなんと変わってしまったことか」と、バリトンのひときわ低い声の恐ろしさ、「ああ苦しい!」とソプラノの悲痛な叫び。バリトンによる「お前の腹の中に動く萌芽が」との言葉で、グレートヒェンが懐妊していることがわかりました。容赦なくバリトンが「怒リノ日」「最後の審判のラッパが」……ああもう止めて!私はお話に入り込みすぎて苦しくてとてもつらかったです。救いのなさに絶望したところで、第1幕終了となりました。(シューマンファウストからの情景」では第1部の最後にあたる、牢屋のグレートヒェンとの別れは第2幕に持ち越されました)。

第2幕。「裁判になったら神の前に出なきゃいけないから」と、グレートヒェンの兄が来る直前にメフィストフェレスファウストを連れて異世界へ高飛び。しかし地上界ではいつの間にか、グレートヒェンが婚前交渉と嬰児殺しの罪で処刑を待つ状況に。それを知ったファウストはグレートヒェンを助けに行くため、グレートヒェンの牢屋の前へ。ここでのグレートヒェンが素晴らしくて、私は震えが止まりませんでした!泣き叫んだりせず普通に話しているのに「あなたは誰?」等と言う、気がおかしくなっているグレートヒェンがあまりに自然でぞわっとしました……。しかし来た人が愛するファウストだと分かっても、グレートヒェンは頑なに牢を出るのを拒みます。信心深くまじめな彼女が罪に問われて、その原因を作った男の方はお咎めなしなのが理不尽!「もう明るくなるから戻ろう」とメフィストフェレスが現れ、「いや!」となったグレートヒェンを救い出すのは不可能に。おそらく彼女は処刑されたのでしょうが、その描写は無く、次の場面はかなり年月が経った後。山々が広がる映像がスクリーンに映し出され、バリトン独唱でシューマン ゲーテファウストからの情景」より「日の出」。壮大な世界を讃えるような堂々たる響き。「目がくらみ」「目の痛みに」等の歌詞は、この先ファウストが失明することを暗示しているよう。ファウストが悟りの境地にいるようにも私は感じたので、もうここで「とどまれ、お前は美しい」と言っちゃっても良いのでは?と、密かに思ったのは内緒です(笑)。「あれから色々あった」という説明は、メフィストフェレスが「皇帝に仕えたこともありましたね」……なんとお話がかなり進んでいる!しかし一発で状況はわかりました。しかし、もうここまで散々欲を満たしてきたはずなのに、ファウストは「海が欲しい」。ソプラノ独唱で、シューマン「塔守リュンコイスの歌 Op.79-28」。目に映る自然の美しさを静かに歌うソプラノが美しい!なおここでは日本語訳がスクリーンに出ていなかったようです。意味を深読みしないよう、あえて歌詞を出さなかったのかも?ファウストメフィストフェレスの手助けにより海を支配できるようになると、今度はその海を高い場所から見下ろすために「老夫婦が住む高台が欲しい」。少々手こずったメフィストフェレスは家に火を放って、老夫婦はじめそこにいた人達を皆殺しに。「交渉を望んだんだ!」と怒るファウストに対して、「力に楯突くな!」とメフィストフェレスが一喝しファウストが黙ってしまったシーンが忘れられません。ファウストは「死後にメフィストフェレスに従う」契約だったはずだったのに、既に現世においてもメフィストフェレスの「力」の奴隷となっているのでは……そう思うと、私はなんとも空しい気持ちになりました。「憂い」(中江さん)とファウストとの対話は二重唱で、シューマン ゲーテファウストからの情景」より「真夜中 ファウスト盲目に」。「憂い」に対して反発するファウスト。しかしどんなに強がっても、「憂い」が言うところの空しさをファウスト自身も気付いているのでは?(あくまで私見です)。束ねていた髪がほどかれたことで、薬で若返ったファウストは再び年を重ねたとわかりました。スクリーンには骸骨(絵はかわいらしかったです)がたくさん!メフィストフェレスの台詞によると、悪霊達にファウストの墓穴を掘らせているにもかかわらず、ファウスト自身は開拓工事が進められていると思い込んでいるそう。ファウストは理想郷が築かれるのを想像し、バリトン独唱で、シューマン ゲーテファウストからの情景」より「ファウストの死」。まるで夢を見ているような語り口。そして歌詞の中にあの台詞が!ついに「とどまれ、お前は美しい」と言ったことで、ファウストは息絶えました。急ぎその魂を回収しようとしたメフィストフェレスでしたが、まばゆい光で照らされ、目がくらみ動けなくなりました。「おまえ達(天使)の方がよっぽど性悪じゃないか!」と天に向かって悪態をついてはみても、光には敵わず、メフィストフェレスは退場。個人的には、この瞬間のためにずっと頑張ってきたメフィストフェレスがなんだか可哀想に思えてしまいました……。ここからはシューマン ゲーテファウストからの情景」の第3部「救済と変容」から曲を抜粋して、バリトンとソプラノによる演奏で進められました。ファウストの亡骸に天使(中江さん)が手をかざし、ファウストの魂は光の滝(背景に映し出されていました)の前へ。光の滝のように美しいピアノの響きに乗ったバリトン独唱は、ただただ魂が浄化されていくよう。そして、こちら側に背を向けていた中江さんが正面を向きました。ああグレートヒェン!天で愛するファウストと再会できましたね!地上では道徳的人道的に罪に問われたけど、純粋に人が愛し合うこと自体が罪なはずはないのです!私は胸がいっぱいになりました。背景は宇宙に浮かぶ地球。美しく慈悲深いソプラノ独唱に救われました。ラストは二重唱となり、背景は宇宙空間へ。愛しあう2人の魂が寄り添い永遠の存在になったと感じられる演出が素晴らしい!物語は静かに幕を下ろし、小さな会場は割れんばかりの拍手!出演者の皆様はカーテンコールに何度も戻ってきてくださいました。この舞台を目の当たりにできた私達は幸せです!今回の舞台は私にとって得がたい体験となりました。本当にありがとうございました!

ウィステリアホール5周年記念オリジナルCDは、バリトン駒田敏章さんとピアノ新堀聡子さんによるシューマンシューベルトの歌曲集。私は帰宅後に何度もリピートしています。こちら大切にします!

 

ウィステリアホールでの音楽劇はこちらも『ウィステリアホール プレミアムクラシック12 朗読と歌で綴る「マゲローネのロマンス」』(2021/10/24)。ブラームスの連作歌曲をオリジナル日本語訳による朗読と字幕付きで。物語の世界に引き込まれ、会場にいながら中世の物語の世界を旅した幸せな時間でした。

nyaon-c-faf.hatenadiary.com

 

なお、ソプラノ中江早希さんとバリトン駒田敏章さんはウィステリアホールの公演に多数ご出演されています。いずれも大変素晴らしいもので、私にとって忘れられない体験となりました!各公演のレビューは以下のリンクからどうぞ。

nyaon-c-faf.hatenadiary.com

 

nyaon-c-faf.hatenadiary.com

 

nyaon-c-faf.hatenadiary.com

 

この日の前日に聴いた「札幌交響楽団 第653回定期演奏会」(土曜夕公演は2023/05/27)。最初の計画発表から3年の時を経てやっと出会えたドイツ・レクイエム。体温を感じる人の声はストレートに心に響き、遠いと感じていた作品が一番自分のハートに近いものと思えるように。会場全体の気持ちが一つになれたラストも素敵でした。

nyaon-c-faf.hatenadiary.com

 

最後までおつきあい頂きありがとうございました。

札幌交響楽団 第653回定期演奏会(土曜夕公演)(2023/05) レポート

www.sso.or.jp
ブラームス生誕190年の今年(2023年)、首席指揮者のバーメルトさんと札響によるブラームスドイツ・レクイエムの演奏がついに実現しました!はじめに予定されていた2020年から実に3年の時を経て、いよいよ迎えた本番当日。聴衆の期待は大きく、土曜夕公演は9割近い席が埋まっていました。

今回のオンラインプレトークはヴァイオリン副首席奏者の飯村真理さんとバストロンボーン奏者の澤山雄介さんがご出演。楽曲の事のみならず、舞台上ではお互いが遠いお二人のやりとりも楽しいです♪

www.sso.or.jp

 

札幌交響楽団 第653回定期演奏会(土曜夕公演)
2023年05月27日(土)17:00~ 札幌コンサートホールKitara 大ホール

【指揮】
マティアス・バーメルト

【出演】
安井 陽子(ソプラノ)
甲斐 栄次郎(バリトン

札響合唱団(合唱)
札幌放送合唱団(合唱)
(合唱指揮:長内勲、大嶋恵人、中原聡章)

管弦楽
札幌交響楽団コンサートマスター:会田 莉凡)

【曲目】
(ロビーコンサート)モーツァルト:フルート四重奏曲第1番
(出演:フルート/福島さゆり、ヴァイオリン/会田莉凡、ヴィオラ/青木晃一、チェロ/武田芽衣

メンデルスゾーン:「真夏の夜の夢」序曲、夜想曲
ブラームスドイツ・レクイエム


やっと出会えたバーメルトさんと札響によるドイツ・レクイエムはしみじみ良くて、今の私の心を癒やしてくれました。やっぱり私はブラームスが好きで、札響の響きが好きなことを再確認。またソリストお二人と合唱団による「人の声」には体温を感じ、たとえ言葉の意味や宗教的なことがわからなくてもストレートに心に響いてきました。それをまっすぐにハートで感じたことで、無心に音楽に浸ることができたのがうれしかったです。ちなみに今回、私は特に第5曲のソプラノ独唱に救われました。好きなバリトンがメインの第3曲が思った以上にこたえてしまい上手く受け止められず、第5曲のソプラノに癒やされたのは自分でも想定外で驚き!ソリストお二人の演奏に心揺さぶられ感激したのと同時に、ブラームスが最後の最後にこの第5曲を付け加えたのは大正解と心から思いました。今回はこんな感じ方でしたが、次に聴くときはまた別のことに気づけるかも!と思うとワクワクします。私は今回の演奏に触れたことで、ブラームス作品の中では自分から一番遠いものと感じていたドイツ・レクイエムが、今では自分のハートに一番近い存在とさえ思えるようになりました。コロナ禍のため、初対面まで思いの外時間がかかってしまいましたが、素晴らしい出会いとなったことに感謝いたします。長丁場を頑張ってくださった合唱団のお一人お一人も、もちろんバーメルトさんと札響の皆様も、長きにわたり温めてきた思いを演奏に昇華してくださりありがとうございます!そして「長きにわたり温めてきた思い」は聴き手の方にもあったと私は思います。とっつきにくいイメージがある宗教曲にもかかわらず、多くのお客さんが集まり、約75分という演奏時間を客席は集中して聴き入っていました。ラスト、バーメルトさんが指揮棒を下ろすまで沈黙が続き、そのシーンと張り詰めた空気も素晴らしかったです!昨年度のハイドン「戦時のミサ」(こちらも指揮はバーメルトさん)でも、演奏の音が消えた後に長い静寂があったことを思い出しました。その時も今回も事前に約束していた訳ではなく、会場にいたお客さん達は皆、自主的にそうしたのです。演奏から真摯な「祈り」の思いが客席に伝わってきたのに加え、バーメルトさん×札響と私達聴き手は篤い信頼で結ばれていることを実感し、私は胸が熱くなりました。地元オケと地元ファンはとても良い関係になっていて、私もそこの末席にいられることが素直にうれしいです。


本年度より開演前のロビーコンサートが復活しました。今回の演目はモーツァルト「フルート四重奏曲第1番」。3楽章構成の曲を抜粋ではなくフルで聴かせてくださいました。4名のメンバーによる演奏です。メロディを歌うフルートは多幸感いっぱい!どこで息継ぎするの?と素人目には思えるほど、フルートがずっと朗らかに歌っていて、鳥がさえずるようだったり、ふと陰りを見せたり、ゆったり穏やかにささやいていたりと、多彩な表情を見せてくださいました。音を震わせながら長くのばしたり、細かく刻んだりと様々な奏法(奏法の名前がわからず申し訳ありません!)を、息づかいまで伝わる距離で体感できるのがうれしい!弦も、はじめはタタタタ……とベースを刻んでいたのが、第2楽章ではずっとピッチカート(面白い!)、第3楽章ではフルートに負けずに歌うシーンもあり、短いながらも充実した素敵な演奏でした。やはりリアルに目の前で演奏が聴けるのは良いですね♪


前半はシーズンテーマ「夜」にちなんだ、メンデルスゾーンの「真夏の夜の夢」から。序曲 フルートの透明な響きが印象的な冒頭に続き、ザワザワした澄んだ弦がそろりと登場。私は「札響の響き!」と感じ、懐かしくうれしくなりました。時々他のオケを聴くことがあっても、私はやはりここに戻ってきたい!華やかな音楽に、聴いている私達の気持ちも晴れやかに。ダンダンダンダン……とティンパニの勇ましいリズムに乗って、軽快に歌う弦が2回区切りを入れる際、(私の感覚では)思いっきり溜めてこぶしを効かせた感じだったのが面白かったです。このリズミカルな弦は、木管群をピッチカートで支える時も金管群と呼応する時もノリノリでした!夜想曲 温かなホルンの歌がとっても素敵!重なったファゴットと低弦もとても優しくて、心穏やかになれました。木管群が穏やかに歌い、ヴァイオリンが壮大な世界を広げてくれて、なんて素敵な夜の時間!後半の重厚なドイレクの前に、華やかで心安らげる音楽が聴けてよかったです。


後半はブラームスドイツ・レクイエム。独唱のお2人は指揮台の前の椅子に着席され、出番の時はその場に立って演奏されました。合唱団はP席に原則1席飛ばしで入り、第5曲のみ着席して他ではすべて立って歌唱。なおマスク着用なしでした。オルガンはパイプオルガンではなくポジティブオルガンが低弦の後ろに、ハープ2台は2ndヴァイオリンの後ろに配置。第1曲 中低弦によるオケの厳かな序奏から引き込まれ、「幸いなるかな」とそろりと入った合唱は神秘的で美しくて鳥肌ものでした。木管の柔らかな響きと重なる合唱が素敵!男声による「喜びをもって刈り入れるであろう」が、意思を感じて胸に来ました。オケは、祈りのような合唱と重なるときは自然と音量を下げていたのが印象的で、ヴァイオリンがお休みの中で2台ハープの美しさが際立っていたと私は思います。派手さは無いけど、祈りに寄り添うようでとても優しい。第2曲 ティンパニの鼓動が印象的なオケの重量感、合唱の「人はみな草のごとく」の力強さ!「だから耐えるのです」からは祈りの美しさ!一緒に祈っているような木管とハープ&弦ピッチカートの温かさも素敵でした。「だが、主の言葉はとこしえに残るのです」からは、金管も入り力強く前進。合唱の響きに魂の声が聞こえたように感じ、私は圧倒されたと同時に光が見えた気がしました。第3曲 バリトン独唱の底知れぬエネルギーがものすごい衝撃!死がテーマだからかもしれませんが、特に「命 Leben 」の揺らぐ発声はズシンと来て、私一人ではとても受け止められない……。合唱もオケもバリトンと同じように揺らぐところがあって、個人的には正直しんどくなってしまいました。もちろん演奏が素晴らしかったからこそ刺さったのだと思います。「正しい者たちの魂は」からの合唱とオケは壮大で圧倒されましたが、この時の私にはちょっときつかったかも。第4曲 合唱と木管&弦によるオケは、穏やかな天を思わせる響きで心穏やかになれました。個人的には、弦が緻密にリズムを作り上げているように感じ、その仕事ぶりも密かに感心。そして、第5曲 に私は救われました!ソプラノ独唱がなんて美しく優しい!しかし芯の通った強さが感じられ、中でも「悲しみ Traurigkeit 」のところで力強く発声を震わせたのが強く心に響きました。まるで第3曲での揺らぎを受け止めているかのよう。悲しむ人を大きな愛で包み込み慰める、深い愛を感じるソプラノ独唱に感激です!短いチェロ独奏にも心癒やされました。もう何もコワくない!第6曲 バリトン独唱の「ある瞬間 augenblick 」の力強い発声に合わせて、オケがタン・タンと韻を踏んだのがピタッとキマって、「最後の審判のラッパ letzten Posaune 」には金管群がシンクロしたのにゾクッとしました。さあここから!合唱とオケによる「死者の復活」はこの日一番の力強さ!なんて気迫!また細かく息を継ぐようなところに情熱がほとばしるブラームス「らしさ」も感じました。女声合唱による「主よ」から始まる流れが輝かしい!クライマックスでは、合唱が金管群&ティンパニと重なるところは勇ましく、弦合奏と重なるところは崇高に、力いっぱい希望の光に向かって前進するのが清々しかったです。第7曲 第1曲を思わせる中低弦が効いたオケは、ここではヴァイオリンも一緒に。柔らかな木管群と重なる合唱は崇高な祈りのよう。女声合唱がメインの澄んだお声の響きに、魂が洗われました。ラストはオケによる木管群の穏やかな響きにハープ&弦ピッチカートで静かに締めくくり。指揮のバーメルトさんはしばらく腕を下ろさず、会場もその余韻に浸りました。長い静寂の後、バーメルトさんが腕を下ろしてからようやく会場に大きな拍手!ああ素晴らしい!最初の計画発表から3年の時を経てやっと出会えた、バーメルトさんと札響によるドイツ・レクイエム。会場にいたお客さん達も皆、万感の思いでこのラストを迎えたに違いありません。演奏そのものの良さに加えて、この日この瞬間を待っていた会場全体の気持ちが一つになれたことに感激!この場にいられたことに感謝します。ありがとうございました!

 

今回ドイレクを聴くにあたって、予習のつもりで読んだ本のレビューは以下にあります。「『《ドイツ・レクイエム》への道: ブラームスと神の声・人の声』西原稔(著) 読みました」。何事においてもそうですが、すぐに答えが見つかるはずもなく……。しかしそれを受け止め、この先も自分なりに向き合っていきたいとの思いを新たにしました。

nyaon-c-faf.hatenadiary.com

 

ブラームスと言えばこちらも。札幌交響楽団 首席チェロ奏者・石川祐支さんがソリストとして出演された「セントラル愛知交響楽団 第196回定期演奏会~春・声~」(2023/05/13)。ディーリアスの美しさに誘われた、愛あふれる春のブラームス。魅力的な独奏とオケによる二重協奏曲に打ちのめされる快感!ブラ1の「苦悩から歓喜へ」の素晴らしさ!しらかわホール定期のラストイヤー初回公演に居合わせて幸せでした。

nyaon-c-faf.hatenadiary.com

 

最後までおつきあい頂きありがとうございました。

『《ドイツ・レクイエム》への道: ブラームスと神の声・人の声』西原稔(著) 読みました

www.ongakunotomo.co.jp


今回ご紹介するのは『《ドイツ・レクイエム》への道: ブラームスと神の声・人の声』西原稔(著) です。2020年9月 音楽之友社

早速レビューに入ります。以下、ネタバレが含まれます。ご了承頂けるかたのみ「続きを読む」からお進みください。

続きを読む

セントラル愛知交響楽団 第196回定期演奏会~春・声~(2023/05) レポート

www.caso.jp
札幌から名古屋への遠征2日目は、セントラル愛知交響楽団定期演奏会を聴きました。2023年度のテーマは「ブラームスブラームスブラームス」。また今年度最初の定期でもある今回は、タイトルに「春・声」が掲げられ、ブラームス作品と合わせてディーリアス「春の牧歌」も取り上げられました。大好きなブラームスを2曲も聴ける!しかも私たちの札幌交響楽団が誇る首席チェロ奏者・石川祐支さんがソリストとしてご出演!私は企画発表されたとき即座に遠征することを決め、この日をずっと楽しみにしていました。また当日は話題の名フィル定期(土曜夕公演)と日程が被っていたにもかかわらず、会場には大変多くのお客さん達が集まりほぼ満員に近い盛況ぶりでした。


セントラル愛知交響楽団 第196回定期演奏会~春・声~
2023年5月13日(土)14:30~ 三井住友海上しらかわホール

【指揮】
角田 鋼亮(常任指揮者)

【独奏】
島田 真千子(ヴァイオリン) ※セントラル愛知交響楽団ソロコンサートマスター
石川 祐支(チェロ)     ※札幌交響楽団首席チェロ奏者

管弦楽
セントラル愛知交響楽団コンサートマスター:寺田 史人)

【曲目】
ディーリアス:春の牧歌
ブラームス:ヴァイオリンとチェロのための二重協奏曲 イ短調 op.102
ソリストアンコール)J.S.バッハ:4つのデュエット 第2番 BWV803 ヘ長調 ※ヴァイオリン&チェロ編曲版

ブラームス交響曲第1番 ハ短調 op.68


個人的に愛してやまないブラームスの、こんなにも充実した、愛あふれる演奏に出会えて幸せです!それこそ普段ブラームスばかり聴いている私ですが、こんなにも清々しい気持ちになれたのは久しぶりでした。オケはピッチカート1音1音といった細部に至るまできっちりと演奏していたのに加え、演奏に迷いが無く信じる道をまっすぐに進み、思い切り伸び伸びと歌っていた印象です。特にブラ1の終盤の充実ぶりは鳥肌モノ!ブラームスの喜びがまるで自分たちの喜びであるかのような「苦悩から歓喜へ」の素晴らしさは特筆したいです。その響きからも演奏姿からも、指揮の角田さんとオケの皆様は心からブラームスがお好きだというのがひしひしと伝わってきました。プレトークで指揮の角田さんはブラームスに「寄り添いたい」と控えめに仰っていましたが、確かに「全てお見通しだ」なんて傲慢さは微塵もない誠実な演奏だったと私は思います。しかしこれ以上無いほどブラームスの思いに肉薄し、愛情を込めて表現されていたと感じました。いちブラームスファンの私は本当にうれしかったです。ありがとうございます!

そしてブラームスの二重協奏曲のすごさに打ちのめされる快感!地元で獲得したつもりの免疫は、圧倒的な演奏の前には無力でした。実を言うと、私はこの日の約2週間前に今回のソリストお二人による二重協奏曲(ピアノトリオ版)の演奏を聴いています。その時、もうこれ以上のものはない完璧でしょ!と思わせておきながら、今回さらにパワーアップして華麗に登場……もう絶対に敵いません!主役として輝けるソリストお二人の独奏は、私達の心を捉えて離さない唯一無二の魅力があります。しかしその主役としての魅力にとどまらず、支える役目では丁寧な仕事ぶりで相方の影になり、かつオケとも驚くほどの親和性があったと感じました。お二人ともオーケストラのコンマスや首席でいらっしゃることも関係しているのかもしれませんが、これほどまでにオケとシンクロしながら主役としても輝けるソリストってそうそういないのでは?ソリストとオケの演奏が密接に繋がっていたからこそのグルーヴ感にはやられっぱなしでした!ソリストお二人の大熱演に応えるように、オケもとても張り切って演奏していらしたとお見受けします。ちなみに私(席は比較的前の方の中央寄りでした)にはヴィオラパートがやや目立って聞こえたのですが、それは独奏のヴァイオリンともチェロとも違う魅力がある音色だったからかも?でもおかげでブラームスが内声をしっかり作っていることが改めてよくわかりました。

また最初にディーリアス「春の牧歌」というめずらしい演目を取り上げたのもとても気が利いていました。雪解けのような美しさに心が洗われ、セントラル愛知交響楽団さんが持つ美しい音色をはじめにじっくり味わえたのがうれしかったです。私にとって初聴きだったディーリアスは、しみじみ素敵で、他の作品も聴いてみたくなりました。加えて「春の訪れ」を今回のブラームス2作品にも感じることができたのがよかったです。個人的に、ブラームスは四季でいうと「秋」に例えられることが多いように感じています。しかし今回の二重協奏曲と交響曲第1番は、いずれも深刻さから希望へ向かう、まさに春にぴったりなブラームス!これはうれしい気づきでした。

今回の会場である三井住友海上しらかわホール、とても良いホールでした。北海道の北広島にある花ホールを少し大きくした感じで、演奏家と物理的にも心理的にも距離が近いのがとても良いです!音響はプレトークでもご紹介くださった通りとても優れていて、ごく小さな音から大きな音まで自然に響いて包まれる感じが素敵でした。残念ながら本年度で閉館とのこと。何も出来ない自分がもどかしいですが、様々な事情があってのことと存じます。しらかわホール定期のラストイヤー、幸先の良いスタートおめでとうございます!今後の公演のますますのご盛会をお祈りいたします。


開演前(14:10頃から)、指揮の角田鋼亮さんによるプレトークがありました。最初に今年度のテーマはブラームス、と紹介。またホール閉館に伴い、三井住友海上しらかわホールでの定期演奏会は今シーズン限りというお話になり、ここで楽団員を代表して、コンサートマスターの寺田史人さんとコントラバス奏者の榊原利修さんステージへ。思い出話と共にホールの良さを語ってくださいました。多岐に渡ったお話の一部をピックアップしてご紹介します(順番は前後しています)。1994年にホールが出来たとき、名古屋にはステージに木を縦に並べたホール(音響が優れているそうです)は他になかったそう。(ウィーンフィルにとってのウィーン楽友協会など)オケがホールと一体となるのを夢見てきたそうです。しらかわホールは、シューベルト交響曲にちょうどいいというのが最初のコンセプトで、セントラル愛知交響楽団とは相性が良いとのこと。20代で初めてこのホールの指揮台に立ったという角田さんは、下からも音が来るような音響の良さに加えて、お客さんの表情がよく見えてお客さんと一緒に演奏会を作っていけることの良さを語られました。今年度のテーマであるブラームスについても少し触れられ、曰く「弦奏者にとってブラームスは特別」。ブラームスには皆様並々ならぬ思い入れがおありのようでした。楽団員のお二人が退場し、角田さんによる今回の演目の紹介へ。まず、昨年度の最後の定期がマーラーで、今年度最初がディーリアスというのは、「歌」つながりと解説。今回の「春の牧歌」は「もしかしたら日本初演かも」(!)。ディーリアスは両親が羊毛ビジネスで成功し、経済的に恵まれていたそうです。また、ブラームスの朋友で二重協奏曲の初演者でもあるヴァイオリニストのヨアヒムがディーリアス家に演奏に来ていたという、ブラームスとの意外な関連についてもご紹介くださいました。またブラームスの二重協奏曲は、独奏ヴァイオリンと独奏チェロの対話、ソリストとオケとの対話に注目くださいとのこと。ヴァイオリンの島田さんとチェロの石川さんは、丁寧な演奏をする素晴らしいソリストであり、オケはそれに寄り添いたいとも仰っていました。そしてブラ1のポイントは「シューマンの死」「クララへの愛情」の大きく2つ。クララのイニシャルがうまく作品に盛り込まれていて(シューマンもよくやっているそう)、名前を連呼する第4楽章は「(クララのことを)どれだけ好きなんだ」(!)。作品が世に送り出された当時ブラームスは43歳。「私も今年43歳」という角田さんは「彼(ブラームス)の気持ちに寄り添いたい」。「お楽しみください。後ほどお会いしましょう」と、トークは締めくくられました。


弦の編成は10-8-6-6-4。また前半1曲目のみハープ1台が入りました。最初の演目は、ディーリアス「春の牧歌」。穏やかな出だしから、木管群による美しくも少し哀しいメロディが素敵で、じんわり心に沁みました。支えていた弦が主役となってメロディを奏でたときに、明るく視界が開けたようで、聴いている私達も気持ちが晴れやかに。牧歌的なホルンに、ハープに乗って歌う木管はまるで草花の息吹のよう!またチェロパートやヴィオラパートがメロディを奏でるところもあり、少し愁いを帯びた響きがとても印象に残っています。澄んだ弦の響きが雪解けを思わせ、春の訪れの喜びを噛みしめているような音楽。重厚なブラームスの前に、心が洗われる演奏が聴けてうれしかったです。

ソリストの島田真千子さんと石川祐支さんをお迎えして、2曲目は、ブラームス「ヴァイオリンとチェロのための二重協奏曲」。第1楽章。骨太で華やかなオケ前奏に続いて登場した独奏チェロの重低音の凄み!ああ痺れる!!瞬時に空気を変えたこの第一声に否応なく引き込まれました。このカデンツァでのじっくり足取りを確かめるような歌い方、ピッチカートの力強さ!木管群に続いて登場した美しくもシャープな独奏ヴァイオリンと絡み合いながら、一緒に音階駆け上り、重音をさらに重ねるところの気迫!最初から両者一歩も譲らないソリストたちの真剣勝負に圧倒されました。オケのターンでは重厚な響きに加え休符の入り方が絶妙で、抑えきれない情熱に対して何度も肩で息をしているような感じにドキドキ。それに続いたソリストたちの対話での、オケの弦による音の刻みとピッチカートは心臓の鼓動を思わせるものでゾクゾクしました。ソリストたちの掛け合いは息を呑む緊迫感!独奏ヴァイオリンから入るところでのヴァイオリンの低音にぐっと来ました。穏やかになっていく流れでの、合間に入ったクラリネットの柔らかな音色が印象的でした。高音で歌う独奏チェロの音色が柔らかで艶っぽくてとっても素敵!ここではオケの中低弦が支えになっていて、オケと見事に親和する独奏チェロに、地元オケ首席でのソロ演奏の姿が重なりました。独奏2つのスタッカートがキレッキレ!そこから力強くトリルでオケに繋げる流れが男前でホレボレ。オケのターンでの、独奏2つが大きく弓をうねらせる演奏が情熱的!独奏2つが、前半では交互に歌っていたメロディを後半になると一緒に歌うのがなんとも良くて、チェロの方は少し音が丸くなっているのが素敵!独奏2つが一緒にクライマックスに向けてクレッシェンドしながら音を繰り出すのが圧巻でした。一度しか歌わない二重奏(最高に素敵でした!)を経て、締めくくりに向かう流れでも一切の妥協はナシで、独奏2つはオケとシンクロしながら1音1音きっちり積み上げつつもアツイ!あまりのすごさに、私はしばし呆然としてしまったほど。第2楽章。木管群に続いて登場した独奏2つの音色がなんて艶やかで美しい!親密な会話をするようなところの甘く優しい響きも素敵でした。この独奏2つを支えるオケがどこまでも広がる優しい世界のよう。独奏チェロが一瞬低音になる(渋い!)ところで、オケの弦のピッチカートがピタっとベストなタイミングで入ったのが気持ち良かったです。穏やかなオケに続いた、独奏2つの感極まったような多幸感が超素敵!第3楽章。中低弦のピッチカートに乗って、独奏チェロ、続いて独奏ヴァイオリンが舞曲のようなメロディを奏でるところにドキドキ。穏やかな対話から独奏2つが全力で弦をかき鳴らしてオケに繋げた流れに痺れました!オケの合間に入った独奏2つによる重音が超カッコイイ!オケの低弦に乗って歌った、温かく貫禄ある独奏チェロに、私は思わず感涙しそうに。ソリストの二重奏では、2つの個性の思いが一つになり希望が見えたと感じ、胸が熱くなりました。クライマックスでの、オケの木管が穏やかに歌い、その下で細かく音を繰り出していく独奏2つの仕事ぶりがすごい!その流れで主役に踊り出した独奏2つは、交互に主役になりながら、支えに回るときは細やかな伴奏で相手を引き立てていたのがとても素敵でした。輝かしい二重奏をオケのティンパニが祝福し、オケと一緒に堂々たる締めくくり。ああ素敵すぎて何を言ってもこの思いには足りない!ただこれ以上無いほど最高の二重協奏曲に出会えて感激です!ありがとうございました!

ソリストアンコールは、J.S.バッハ「4つのデュエット 第2番 BWV803 ヘ長調。軽快なメロディをヴァイオリンとチェロで追いかけっこしたり、テンポ良く掛け合ったり、(実際は楽譜通りと思われますが)自由な感じで次々と音を繰り出したり。協奏曲ではとても真剣な表情だったお二人ですが、アンコールでは笑顔も見られて、聴いている私達もリラックスして楽しめました。カーテンコールで何度も戻って来て下さったソリストのお二人が、最後にがっちり握手。盛大な拍手が送られ、前半終了となりました。


後半は、ブラームス交響曲第1番」。第1楽章。ティンパニが効いた重厚な出だしの力強さに私は思わず身震い。第4楽章では歓喜に変わるメロディを木管が歌うところのもの悲しさ、ホルンと木管群の会話の広がり、深刻な弦、何度も来る盛り上がりの力強い波!目の前で繰り広げられるザ・ブラームスの世界にただただ夢中になりました。またテンポも細かく入る休符のリズムもとても良く、繰り返しに入るところの頂点の一撃が私のツボにピタっとハマったのがうれしかったです。この深刻な楽章が、最後は少し希望の光が見えるような締めくくり。木管群の柔らかな響きはもちろんのこと、個人的にはここでの弦の音色が印象的でした。あくまでさりげなく第4楽章を予告するかのよう。第2楽章。ファゴットの低音と一緒にそろりと始まった弦がなんて素敵なこと!この大地の広がりを思わせる響きに包まれる幸せ!オーボエソロはじめ木管群の温かな歌が素敵で、それを支える弦の涼しげな音色に私は雪解けの早春をイメージ。ピッチカートが愛らしい!澄んだ音色のコンマスソロが美しく、ホルンの響きと一緒にさらに世界の広がりを感じさせてくれました。第3楽章。弦のピッチカートに乗って木管群が軽やかに歌うのがウキウキとした感じ。高音と低音がこだまし合うのがとっても素敵でした。これはまさに愛!そのまま続けて第4楽章へ。重低音から湧き上がる冒頭の力強さにぞくっとして、弦のピッチカートからティンパニへの流れにドキドキ。そして雄大なホルン(クララへのメッセージ)で苦悩から歓喜へ。ここからがすごく良かったです!明るいフルートに続いたトロンボーンがなんて温かく神々しいこと!ゆったりと歌う弦の音色が素敵すぎて鳥肌ものでした。うまく言えないのですが、喜びを噛みしめているような大人の落ち着きが感じられ、なんとも艶っぽくて素敵!幸せな感じの木管群を支えていた弦が、エネルギーを溜めて上昇するのが気分爽快!華やかな全員合奏では、輝かしい高音はもちろんのこと、支える低音のカッコ良さに痺れました。私、やっぱりブラームスの低音が好きすぎます!一度しか出てこない、弦が思いっきり弾くところでは、高音弦と鏡映しの低弦が超男前でうれしい!オケの全員がノリノリで生き生きとした演奏。そのまっすぐな響きに、また指揮の角田さんの背中からも、オケの皆様の演奏姿からも、演奏を楽しみ心からブラ1を愛していらっしゃることが伝わってきました。クライマックスでははじめにトロンボーンが奏でたコーラルを全員合奏で。その堂々たる響きに私は胸が熱くなりました。自信に満ちた希望あふれる締めくくりが素晴らしい!ブラ1、なんて良い曲なんでしょう!知っていたつもりのブラ1で、こんなにも清々しい快演に出会えた喜び!私は胸がいっぱいになりました。会場はブラボーと盛大な拍手でオケを賞賛。お客さん達も皆、演奏を心から楽しんだ様子が会場の空気から伝わってきて、とても良い雰囲気です。地元の方々に愛されているオケとホールなのですね!私、札幌からはるばる来て本当によかったです。オケとお客さん達が一緒になって作る、素晴らしい演奏会。この場にいられたことに感謝です。ありがとうございました!

 

 

この日の前日に聴いた「名古屋フィルハーモニー交響楽団 第512回定期演奏会〈継承されざる個性〉」(金曜夜公演は2023/05/12)。円形配置のノモス・ガンマの凄まじさ、王道ボレロのアンサンブルの良さ、そして服部百音さん独奏に度肝を抜かれたバルトーク。指揮の井上道義さんによる継承されざる個性は、価値観がひっくり返るどえりゃあ体験でした!

nyaon-c-faf.hatenadiary.com

 

今回のソリストのお二人が出演された「蘭越パームホール20周年 深淵なるバッハとブラームスの世界」(2023/04/30)。温かみのある木のホールにて、最小単位から広がる深く壮大な世界!ピアノトリオによるブラームス二重協奏曲は、大ホールに引けを取らない堂々たる響きで、想像を超えたスケールの大きさでした。

nyaon-c-faf.hatenadiary.com

 

最後までおつきあい頂きありがとうございました。

名古屋フィルハーモニー交響楽団 第512回定期演奏会〈継承されざる個性〉(金曜夜公演)(2023/05) レポート

www.nagoya-phil.or.jp
札幌から名古屋への遠征1日目(今回も気持ちよく送り出してくれた家族に感謝です)。名古屋フィルハーモニー交響楽団定期演奏会を聴きました。2023年度のテーマは「継承」。なのに今回のタイトルは「継承されざる個性」(!)。以前から憧れていた、指揮の井上道義さんとヴァイオリンの服部百音さんの演奏をついに聴ける!そして噂の「円形配置」を体験したくて、私は楽しみにしていました。なお、当日券の受付には長蛇の列が出来ていて、完売したため惜しくも会場に入れなかった人も大勢いらしたようです。


名古屋フィルハーモニー交響楽団 第512回定期演奏会〈継承されざる個性〉(金曜夜公演)
2023年5月12日(金)18:45~ 愛知県芸術劇場コンサートホール

【指揮】
井上 道義

【ヴァイオリン】
服部 百音

管弦楽
名古屋フィルハーモニー交響楽団コンサートマスター:日比 浩一)

【曲目】
バルトークルーマニア舞曲 Sz.47a, BB 61
バルトーク:ヴァイオリン協奏曲第2番 Sz.112, BB 117
ソリストアンコール)ピエール・ブーレーズ:アンセム1 無伴奏ヴァイオリンのための(抜粋)

クセナキス:ノモス・ガンマ
ラヴェルボレロ


価値観がひっくり返る、どえりゃあ体験でした!噂の円形配置も、苦手意識があったバルトークも、訳分かんないほど面白い!この体験を経た今なら、巷で言われる「クラシック音楽がわかる・わからない論争」なんて意味が無いと、私ははっきり言えます。専門的な理解は専門家にお任せして、私達一般の愛好家は感受性のまま受け止めて楽しめばそれでいい。むしろそれがいい!古代の人が太鼓を叩き始めた太古の昔から、人間は音楽を「感じて」いたのだという思いを私は新たにしました。この場にいられたことに改めて感謝です。

ただ聴き手には一見カオスに思えるような演奏でも、演奏する方は当然きっちりされていると拝察します。狙った音やタイミングとは違う「外しちゃった音」というのは不思議と素人でもわかるものですが、今回の演奏にはそんな外し方はほぼ無かったように私は感じました。これだけの大編成で音が濁らないのは、客演を含めオケメンバーのお一人お一人が一流の演奏家でいらっしゃる証!王道のボレロ(ただし円形配置)では、特にアンサンブルの良さが際立っていて、指揮者やコンマスを頼れず周りに同じパートがいない中で鼓舞奮闘する奏者お一人お一人の力量の高さがうかがえました。さらに他の演目では、勢いあるところやあえて妙な音を発するときでも思い切りの良さがありました。これができるオケだからこそ、ノモス・ガンマの快演(怪演!)であり、バルトークの生命力!名フィルすごい!名フィルを導いた井上ミッキーすごい!ちなみに指揮の井上道義さんは何度も札響(私は札幌在住です)に来てくださっていますが、うまく予定が合わず私は今回の名フィルが「お初」でした。既に2024年末の引退を表明している井上マエストロ、もっと早くに出会いたかったと私は今更ながら後悔しています。次に札響にいらしてくださる時は必ず聴きにうかがいます!そして井上道義さんを信頼しているという、ソリストの服部百音さん(彼女の実演も私は「お初」でした)には度肝を抜かれました!お若いお嬢さん的なイメージは瞬時に吹き飛ぶ、音の凄みと気迫!難曲というバルトークを今まさに身体から湧き出たように演奏し、大編成オケと互角に対峙。その演奏から目と耳が離せないほど、私達を夢中にさせてくれました。いま23歳という服部百音さんの、これからのご活躍に期待大&この先さらに進化した服部百音さんに出会えるのが楽しみです!

私が聴いたのは1日目でしたが、2日目のカーテンコールではステージ・マネージャーにも盛大な拍手が送られたとのこと。大がかりな円形配置の準備段階での試行錯誤から本番の短時間での転換、そして照明の演出まで、今回の公演は特に裏方スタッフの大活躍があってこそですね!またプログラムと一緒に「出演者一覧」と裏面には円形配置(ノモス・ガンマ)の席次表がある資料が配布されたため、各演目の出演者と円の中のどこでどなたが演奏されていらっしゃるか一目瞭然だったのが助かりました。プログラム内容も今回の演目解説にとどまらず、コラムや次回の予習(インタビュー形式の楽しい内容)、「写真で名フィる?」(今回は音楽監督の川瀬賢太郎さん。札響の指揮者でもいらっしゃいます)など、大変充実していて読み応え抜群!こちら大切に保管します。そして今回初めてうかがった愛知県芸術劇場コンサートホール、とても良いホールでした。音響の良さに加え、視界確保や座席に着くまでの動線にも配慮されている印象です。今回は円形配置を真上から見たくて、私は3階R1を選んで大正解!ほとんど見切れ無しで、前後に人がいないため視界良好かつ間近にオケを感じることができました。特に円形配置では、まるで円の真ん中にいるような感覚に感激!お安い席でお値段以上にめいいっぱい楽しませて頂きました!


オケの男性陣は燕尾服ではなく黒シャツ。指揮の井上さんも黒でまとめたシンプルな装いでした。前半の弦は12-10-8-6-4。1曲目は、バルトークルーマニア舞曲 Sz.47a, BB 61」。こちらは作曲家が若い頃の作品で、有名なルーマニア民俗舞曲 Sz.56 とは別のものでした。ティンパニに乗ったファゴットの低音からゆっくり始まり、この最初の特徴的なリズムを各パートで受け継ぎながらテンポが変化したり強弱の波があったり。金管打楽器が大活躍する、血が騒ぐような舞曲でした。中でも、盛り上がりの頂点での大迫力シンバルや、少し穏やかになったところでの2台ハープの美しさ、ヴィオラパートが主役でメロディを奏でたところの憂いを帯びた感じが印象に残っています。ルーマニア民俗舞曲 Sz.56 の美しい響きとは違った、音のうねりやリズムを全身で感じ取れる、インパクトある演奏でした。

ソリストの服部百音さん(赤いベアトップのドレス姿)をお迎えして、2曲目は、バルトーク「ヴァイオリン協奏曲第2番 Sz.112, BB 117」。第1楽章。ハープと弦ピッチカートによるオケの序奏のリズムがカッコイイ!ほどなく登場した独奏ヴァイオリンの深い音が強烈なインパクトでした!オケの木管群や弦が合いの手を入れるのが絶妙で、独奏はまるで妖艶にダンスを踊っているよう。独奏がオケを挑発するように掠れた音色を発し、オケがそれに応えるやり取りにぐっときました。神秘的な音色で彷徨うような独奏と、それを支えるオケの陰影がすごい。パパパパ……とけたたましく鳴ったミュート付き金管群のパンチある響きの迫力!超高速で駆け抜ける独奏もすごければ、ピタっと併走するオケもお見事!明るさや心地良い音は無く、その空気を引き裂くような切れ味抜群の音で独特なリズムを刻む独奏と、うねりを作るオケに圧倒されました。そんな中でハープとチェレスタがやけに美しくて、影の力強さより一層際立たせていた印象です。終盤のカデンツァは気迫に満ちていて、音階を上下するうねりやシャープな重音に引き込まれました。合流したオケでは、独奏のリズムに合わせた弦の強いピチカートによるバンバンという音がインパクトありました。オケによる重低音をぐっとのばした締めくくりがカッコイイ!第2楽章。ハープと2ndヴァイオリン・ヴィオラ・チェロによるオケ序奏がなんと美しいこと!前の楽章とのギャップがすごくて、とても印象に残っています。そこに重なった独奏ヴァイオリンもゆったりと美しい響き!またオケが美しい弦メインから神秘的な木管のターンになってからは、独奏は妖しげな感じに。ここでもハープとチェレスタの美しさがむしろ妖しさを際立たせているように感じました。短い楽章で次々とカラーが変化していく様に、片時も目と耳が離せない!中盤に登場した超高速の独奏のすごさと、リズミカルに呼応するオケのリズム感の良さ!ここではティンパニやスネアドラム等の太鼓が、縁を叩いてカッという音を鳴らしていたのも印象的でした。神秘的に静かにフェードアウトしてから、続けて第3楽章へ。さらに鬼気迫る独奏のカッコ良さに、絶妙なタイミングで掛け合うオケのうねりがすごい!独奏は独特なリズムを刻みながらどこまでも自由な感じでした。その独奏の間隙に入るオケの合いの手が小気味よく、打楽器のみならず、強奏する木管金管(ここではミュートなし)、弦に至るまで、オケ全体が一つの生命体となり同じ生体リズムを刻んでいるかのよう。オケの弦は弓で弦を叩く奏法(コル・レーニョ奏法)も登場しました。この音とリズムで生み出されるうねりはどう表現すればよいのか……ちなみに私が休憩時間中にプログラムの隅に書き込んだ走り書きメモには「ぐおんぐおん」と書いてありました(!何が何だか……)。ただ私はメロディを追うのでも美しい音にうっとりするのでも無く、得体の知れないうねりに身も心も飲み込まれる感じで没頭。私自身がきちんとわかったかどうかは別として、超面白かったです!今までピンとこなかったバルトークでこんなに夢中になれたなんて!服部百音さん、そして井上道義エストロに導かれた名フィルの皆様、すごすぎます!価値観が変わる演奏と、素晴らしい音楽家たちとの出会いに感謝です。

ソリストアンコールは、ピエール・ブーレーズ「アンセム1 無伴奏ヴァイオリンのための」(抜粋)。はじめに会場の照明が落とされて真っ暗に!そこからソリストの服部百音さんだけスポットライトで照らされる演出でした。私には調性が掴めない(もしかすると無調かも?)、わかりやすいメロディもない音楽。しかしその分、音そのものに集中できる不思議な魅力がありました。弦を細かく擦る音や乾いたピッチカート等、繰り出される様々な音にただただ引き込まれ、ワンフレーズ毎に入る沈黙の不気味さにぞくっとしました。ラストは音がフェードアウトするのとシンクロしてスポットライトの光が弱くなっていき、会場は再び真っ暗闇に。全体に照明が付き明るくなったところで会場がどよめき大きな拍手が起きました。演奏のすごさに加え、演出も斬新な、気の利いたアンコール。私はまたしても打ちのめされました!服部百音さん、協奏曲からアンコールに至るまで私達の度肝を抜く演奏をありがとうございました!この前半だけでもすごすぎたのに、後半はどうなってしまうの!?と私はドキドキしつつ、長めの休憩時間となりました。


休憩時間は30分。通常配置から円形配置への大がかりな転換が壮観!また後半の開始5分前から指揮の井上さん(上はグレーのゆったりした服にお着替えされていました)によるトークがありました。はじめ、「百音ちゃんの(エレガントな)お辞儀の仕方から学ぶ」と仰って丁寧なお辞儀をされて、会場が和みました。まずは前半のお話から。バルトークの2番はソリストの服部さんがやりたいと望んだそうです。曰く、今ある録音がよくない、本当はもっと良い曲なはずだ(!)と。しかし井上さんが仰るにこの曲は難曲だそうで、「弾くのはやめた方がいい」(!)。ソリストは言うまでもなく、オケも一番難しいらしく「ギリギリ頑張った!」「今日も良かったけど、明日はもっと良くなる」。会場に大きな拍手が起きました。作曲家は難しい方向に行くかわかりやすい方向かの2種類で、バルトークは前者。難しい中でもどこまで作れるかが肝だそう。バルトークは「吸血鬼がいる」ハンガリールーマニアの民謡を研究した人で、そこでは農民が歌っているとか。ちなみに井上さんはルーマニアには以前よく行っていたそうです。「今の日本には歌はないよね……」と少し寂しそうに仰いました。「男が魅力的」な、オペラ「青ひげ公の城」をぜひ見てくださいとおすすめくださり、簡単なストーリー解説も。続けて後半のお話になりました。クセナキスは元々は建築家で、今回演奏するノモス・ガンマは「全部騒音だから」(!)。今回の円形配置では、コンマスは役に立たないし、自分の役目も指揮ではない(!)。例えるなら、山道などで迷わないためにつかまる「紐」の役目。打楽器の音がぐるっと回ったりするのは、本当は円の真ん中で聴いてほしいそうです。「あとはボレロだから、楽しんでください」と仰って、トーク終了となりました。

後半の弦は16-13-12-10-8。後半1曲目は、クセナキス「ノモス・ガンマ」。プログラムと一緒に円形配置の席次表も配布されました。各奏者はセクション関係なく円の中でバラバラに(規則性はぱっと見わからず)、たくさんの打楽器は円の外側をぐるっと取り囲むように配置。しかしすさまじい演奏でした……。「考えるな感じろ」とはまさにこの事!どのように書けばよいか、そもそもほんの少しでも伝わるかどうかわからないのですが、自分がその場にいられた記念にレポート書きたいと思います。私にとって一番の衝撃は円を取り囲む打楽器陣でした。各奏者が順にダダダダン!と強打して大音量の響きが円をぐるっと回るのが何度も何度も!空気の振動だけでなく、地響きがして床からの衝撃が来るのは、足元から熱いマグマが噴き出すようにも感じました。その円の中では、弦が妙な音を発し(金切り声のようなキーンとする音や、コル・レーニョ奏法もありました)、木管が悲鳴をあげ、金管がスパーク。楽しいというよりは、はっきり言って恐ろしい!でも未知の体験にゾクゾクしました。次にどの場所からどんな音が湧き上がってくるのか、全く予想できない中、ただその渦の中でものすごい音に襲われ続け、身動きとれなかった私。そんなカオスの終わりは(私にとっては)突然でした。全員がありったけの大音量を鳴らした後、ラストはオケメンバー全員が席から立ち上がり、正面を向いてお辞儀。え?終わったの?と私はしばし呆然……。美しいメロディもキレイな音もない、音の衝撃を全身で受ける体験!どれほど時間が経過したかも今自分がどこにいるのかもあやふやになる、訳わからないほどすごい体験でした!

同じ円形配置のまま、メインのスネアドラムのみ指揮者の前(円の中央)に移動。指揮の井上さんは上の服を赤にお色直ししていました。プログラム最後の演目は、おなじみのラヴェルボレロ。はじめに照明が真っ暗になり、各奏者の譜面台だけが蝋燭で照らされたように少し明るくなりました。同心円状に広がるほのかな光がきれい!この最初の舞台の美しさに、私は演奏が始まる前から感激して、いっその事このままでいて!とつい思ったり(ダメです)。真っ暗な中、演奏開始です。ごく小さな音のスネアドラムとチェロ&ヴィオラのピッチカートから始まり、メロディのトップバッターはフルート。なんとその時のメロディ担当がその場に立ち上がって演奏し、そこにスポットライトが当たる演出でした(以降も同じ。同時に2人以上の奏者が立つ場合も同様に、それぞれがスポットライトで照らされました)。そろりとピアニッシモで先陣を切ったフルートをはじめ、ソロ演奏はどなたも素敵!あえて音程をずらして演奏するピッコロも抜かりなく、難易度ウルトラハイパークラスという噂のトロンボーンも難なくまだまだ続けられそうな余裕さえ感じられました。当然ですよね、勝手にハラハラしてしまってごめんなさい!円の中にバラバラに配置された各ソロを追いかけるのはもちろん楽しかったですが、個人的にもう一つ面白かったのが弦のピッチカートの聞こえ方です。パート毎に固まっていないため、チェロもヴァイオリンも入り交じってピッチカートが聞こえてくる!しかし皆様足並みがきっちり揃っていて、どの方向からも同じテンポでポン・ポン♪と来るのが何気にすごい!原則、周りに同じパートの人はいない配置で、それぞれの奏者が鼓舞奮闘してのこの仕事ぶりが素晴らしいです!各管楽器のソロが一通り終わり、ヴァイオリンがメロディの演奏に移ったタイミングで舞台全体に照明がつきました。全員合奏は次第に音が大きくなり、そしてクライマックスでもう一段明るく盛り上がったところで全体の照明がさらに明るく!聴いている私達の気持ちも最高潮に盛り上がりました!タムタムやシンバルがド派手に鳴り、全員合奏の大音量で締めくくり。ああなんて楽しい!知っていたつもりのボレロでこんなにも楽しめたなんて、感激です!前半バルトークに後半の円形配置での2曲、最初から最後までめったに出来ない体験を、ありがとうございました!

 

 

私は札幌に住んでいて、普段オーケストラは地元の札幌交響楽団の演奏に親しんでいます。他、室内楽や歌曲の演奏を好んで聴いています。素人のふわっとした感想になりますが、今まで聴いてきた演奏会のレポートは弊ブログの「演奏会のレポート」カテゴリにありますので、よろしければご覧ください。

nyaon-c-faf.hatenadiary.com


最後までおつきあい頂きありがとうございました。

蘭越パームホール20周年 深淵なるバッハとブラームスの世界(2023/04) レポート

※おことわり。本レポートは5/13(第196回セントラル愛知交響楽団 定期演奏会)の公演を聴くよりも前に書き上げていましたが、私の判断で5/13のレポートと同時公開といたしました。ご了承くださいませ。


蘭越町にあるパームホールにて、ホール20周年記念の演奏会が開催されました。ピアノトリオによるブラームス「ヴァイオリンとチェロのための二重協奏曲」とソロ演奏によるバッハの無伴奏が聴ける会で、出演はヴァイオリンをセントラル愛知交響楽団ソロコンサートマスターの島田真千子さん、チェロを札幌交響楽団首席チェロ奏者の石川祐支さん、そしてピアノを札幌を中心に活動されている石田敏明さんという豪華な顔ぶれ!私はJRの一日フリーパスを使って日帰り旅行です。当日、会場には満席近くの大勢のお客さん達(約60名)が集まっていました。


蘭越パームホール20周年 深淵なるバッハとブラームスの世界
2023年04月30日(日)15:00~ 蘭越パームホール

【演奏】
島田 真千子(ヴァイオリン) ※セントラル愛知交響楽団ソロコンサートマスター
石川 祐支(チェロ)     ※札幌交響楽団首席チェロ奏者
石田 敏明(ピアノ)

【曲目】
J.S.バッハ:デュエット BWV803 ※ヴァイオリン&チェロ編曲版
J.S.バッハ無伴奏ヴァイオリンソナタ第1番 ト短調  BWV1001
J.S.バッハ無伴奏チェロ組曲第1番 ト長調  BWV1007

ブラームス:ヴァイオリンとチェロのための二重協奏曲 イ短調 Op.102 ※ピアノトリオ版

(アンコール)エルガー:愛のあいさつ ※ピアノトリオ版


札幌にいてもそうそう出会えない、どえらい演奏に出会えました!弦楽器1つの独奏またはピアノトリオという小さな編成で、なんて深くなんて壮大な世界!バッハの無伴奏は、最小単位から広がる世界が素晴らしく、派手な演出はないからこそ素材そのものの良さをじっくり味わえました。そしてブラームスの二重協奏曲のすごさといったら!お一人で世界を創りあげることができるソリストが二人合わさるととんでもないことになり、熱く骨太で壮大な、なんて形容では足りないほど想像を超えた世界が目の前で繰り広げられました。さらに両者一歩も譲らない真剣勝負でありながら、重なるところはきっちりシンクロし、掛け合うところは息ぴったり。オケでコンマスと首席を務めておられるお二人とはいえ、普段は異なるオケで別々に活動しているわけで、しかも指揮者なしでここまで合うなんて!音楽の流れを止めることなく、ごく自然に息が合っている演奏には驚かされ、生き生きとした演奏からはまるで音楽そのものの鼓動や息遣いまでもが伝わってくるようでした。またこの両者を支えるピアノが素晴らしかったです。弦のお二人の勢いを受け止め、情熱的な両端楽章ではパワフルに、穏やかな中間楽章では柔らかな響きで、オーケストラの役割を一手に引き受けてくださいました。この三つ巴による演奏は、小さなホールでも大ホールに引けを取らない堂々たる響きでスケール無限大!この場にいられたことに感謝です。

今回初めてうかがった蘭越パームホール、とても素敵なホールでした。木で作られた温かみのある内装で、音響も素晴らしく特に弦楽器の余韻がきれい!またステージの後ろには大きな窓があり、自然光が入って演奏家を柔らかく照らすのは視覚面からもすごく素敵でした。オーナーの金子さんのお人柄の良さに、集まったお客さん達の和やかな雰囲気かつ演奏を聴く姿勢の真剣さ。札幌のホールにはない魅力が満載で、こんな素敵な場所が地方の小さな町にあることに私は感激しました。札幌からは日帰り圏内で、近くには温泉もあって(昆布温泉、良いお湯でした♪)、良いところです。ぜひまたうかがいたいと思います。


開演前にホールのオーナーの金子さんからごあいさつ。昨日は雨に見舞われ、(特に弦楽器には好ましくない)湿気が心配だったものの、今日は良いお天気でよかったというお話から。素晴らしい演奏家をお招きして、ホール20周年記念のコンサートを開催できる喜びを語られました。また20年の間には色々なことがあったそうで、コロナ禍で1年間ずっと演奏会をやめていた時期があったり(たまたま時期が良くて開催できた会があると、出来なかった会の方に不公平となると考えて、すぱっと止めたそうです)、ダブルブッキングが一度だけあったりも。演奏会を開催するには、まず来てくれる演奏家がいることと、聴きに来るお客さん達がいること、そして場所の3つが揃う必要があり、都会から離れた地元で続けてこられたことのありがたさも語られました。そして金子さん自身、バッハは昔からお好きで、ここ数年はブラームスにも強く惹かれているとのこと。今日の演奏をとても楽しみにしていると仰っていました。

島田さんと石川さんが舞台へ。すぐに演奏開始です。1曲目はプログラムには記載がなかった演目で、ヴァイオリンとチェロの二重奏でした。J.S.バッハ「デュエット」。こちらは演奏後の解説にて、鍵盤楽器のための4つのデュエットのヴァイオリン&チェロ編曲版と紹介されました。ちなみに私が帰宅後に可能な範囲で調べたところ、4つのデュエットはバッハ作品番号のBWV802-805にあたり、そのうちこの日に演奏されたのはBWV803と思われます(違っていましたら申し訳ありません)。はじめヴァイオリンから入り、チェロが追いかけるスタイル。私は曲名を聴く前からバッハらしい音楽!とピンときて、うれしくなりました。軽快なメロディを楽しく会話するように両者で呼応しあったり、両者で主役と脇役が交代したり、ちょっと愁いを帯びたり。派手な演出はなくても、お二人がそれぞれ持つ音の素晴らしさと、もちろん演奏の良さを楽しめました。肩の凝らない小品の素敵な演奏のおかげで、会場が良い感じに温まりました。

島田さん独奏によるJ.S.バッハ無伴奏ヴァイオリンソナタ第1番ト短調  BWV1001」。なおプログラムに記載は無く、トークでも触れられませんでしたが、島田さんはバッハの無伴奏ソナタ&パルティータ全曲集のCDをリリースされているようです。演奏前に島田さんから曲の解説があり、私たちは4つの楽章のキャラクターを大まかに把握することができました。「教会音楽のような」第1楽章アダージョ は、最初の重音がインパクト大!一定のテンポでのゆったりした流れの中で、何度も登場する重音が厳かな感じ。トリルによる音の揺らぎがチェンバロのようでとても印象的でした。「追いかけっこしながら繰り返しが2声から4声まで」の第2楽章フーガ は、確かに緻密な追いかけっこになっていて、お一人で1つのヴァイオリンを弾いているのに一体どんな仕組みなのかとつい思ってしまいました(ど素人でごめんなさい!)。重なる音が増えていく職人技にただただ驚かされ、また単旋律のところでは規則正しく音階を上下する中、一番低い音に来た時の力強さがアクセントになっていてカッコ良かったです。「イタリアの舞曲」第3楽章シチリアーナ は、ゆったりしたステップのようなリズムに、何度も登場する重音が艶っぽく幸せな感じ!個人的にはモーツァルトを連想しました。「速いテンポでどんどん和音が変わっていく」第4楽章プレスト は、休みなしでずっと音を繰り出していく演奏がアツイ!テンポや強弱を一定に保ち、ピッチカート等の演出がなくても、緻密な構成の音楽をきっちり演奏。それが純粋に心に響くのを楽しめました。

石川さん独奏で、J.S.バッハ無伴奏チェロ組曲第1番 ト長調 BWV1007」。こちらも演奏前に石川さんによる解説がありました。バッハの無伴奏チェロ組曲は、スペインのチェリストであるカザルスが13歳の頃(!)に古本屋で発見し、比較的最近演奏されるようになったものだそうです。組曲は全部で6つあり、それぞれ舞曲が6つずつの詰め合わせ。今回演奏する第1番が特に有名です、といったお話でした。前奏曲 は、おなじみのメロディの堂々たる響き!ああなんて輝かしい!4つの音の連なりでは、高音の輝かしさの中で1音だけ重低音が入るのが印象的でした。ラストの重音の余韻が超素敵!アルマンド は、はじめのインパクトある重音に、何度も登場するトリルが素敵でした。クーラント では、はじめステップのようなリズムが楽しく、後半ではいくつも連なる音を繰り返しながら次第に盛り上がっていくのが面白かったです。サラバンド は、重音にトリルが印象的で、アルマンドに似ている?と一瞬思いました。しかしアルマンドよりもゆったりしていて、一音一音の響きの余韻までが素敵!メヌエット は、1番目の明るい舞曲も素敵でしたが、個人的には2番目の少し影ある舞曲の美しさに惹かれました。ジーグ は生き生きと跳ねるような音が楽しく、ずっと同じ調子ではなく時折速くなったり音を刻んだりと変化するのも素敵!舞曲の楽しいリズム感に、チェロの低音の魅力あふれる響きをたっぷり堪能できた、幸せな時間でした。

15分間の休憩時間には、別棟でお菓子とコーヒーのサービスがありました。また、ホール内ではオーナーの金子さんから「蘭越パームホール友の会」への入会案内も。笑いの絶えない、和やかな休憩時間でした。

後半はピアノトリオの編成による、ブラームス「ヴァイオリンとチェロのための二重協奏曲 イ短調 Op.102」。演奏前に島田さんからお話がありました。ここで初登場のピアニスト石田さんを「オーケストラのたくさんの音を今日はお一人で弾いてくださいます」と紹介。また「札幌交響楽団が誇る首席チェロ」の石川さんと島田さんはともに名古屋のご出身で、子供の頃同じジュニアオケで演奏されていたそうです。高校と大学は別だったものの、大学生の時に小澤征爾さんのもとでカルテットを組んだことがあり、今回は何十年かぶりの共演とのこと。ブラームスの二重協奏曲については、ブラームスが当時仲違いしていたヴァイオリニストのヨアヒムと和解するために書いた曲で、初演はブラームス指揮、独奏はヨアヒムとヨアヒム四重奏団のチェリスト、といったお話がありました。同じカルテットで演奏した石川さんと時を経てこの二重協奏曲を一緒に演奏できる巡り合わせ、そしてブラームスがお好きというオーナー・金子さんへ捧げます、と仰って、いよいよ演奏開始です。第1楽章。ピアノのパワフルな前奏に続いて登場した、チェロの重低音のインパクト!この掴みの力強さにぐっときました。ギターを鳴らすように4本の弦を順番に弾くピッチカートが見た目にも超クール!ピアノの間奏を経て登場したヴァイオリンの冴えた音色が刺さり、弦の二重奏で音階を駆け上りピアノの強奏に繋がる流れがすごい!このパッションあふれる演奏!最初からぐいぐい引っ張られていく感覚にゾクゾクしました。弦は登場する度に鮮烈な印象で、丁々発止の掛け合いをしながらその一続きの中で何度も盛り上がりの波があり、最初から最後まで私達の気持ちを掴んで離さない気迫に満ちたものでした。すべて良くて選べないのですが、例えば、ピアノの後に再登場した歌うチェロの艶っぽさ、二重奏での音階を上るヴァイオリンのシャープな高音と鏡写しで下るチェロの渋い低音、ヴァイオリンから始まる流れでのヴァイオリンの深い低音、高音域でゆったり歌うチェロの美しさ、深刻な空気を一変したスタッカートの小粋な感じ!強く主張するところだけでなく、ヴァイオリンとチェロで細かく交代しながらメロディを繋げて演奏する流れではまるでお一人で弾いているような一体感!ピアノのターンでのヴァイオリンの高音の圧倒的な存在感!そして終盤、一呼吸置いてここでしか登場しないメロディの二重奏では、艶やかで大人の余裕さえ感じさせる弦の音色が素敵すぎて!弦のお二人はなんて良い音をお持ちなの!と、私はリアルに震えました。この特別な音を引っ張ることなく、ピアノと一緒に駆け抜け楽章締めくくり。この大熱演に、会場はどよめき大きな拍手が起きました。楽章間だと皆様わかっていたはずなのに、今すぐ感激を伝えずにはいられない!すっごい!第2楽章。ピアノの穏やかな前奏に続いてヴァイオリンとチェロが登場。これがまた素敵すぎる音色!落ち着きあるのに幸せな感じで、視界がぱっと開けたようになったのが何とも良かったです。控えめなピアノに乗って、ゆったり親密な会話をする2つの弦。本来は協奏曲とはいえ、プライベートな感じがとっても素敵で、この曲はピアノトリオとして成立する世界線もあったのでは?とつい思ったりしました。感極まったような高音が美しい!第3楽章。舞曲のようなメロディをチェロ、続けてヴァイオリンがリズミカルに奏でたのにドキドキ。幸せそうなやり取りから、弦の二重奏でパワフルに音を刻みピアノに繋げた流れには一気にテンション高まりました。ピアノの合間に入った重音×2がアツイ!2つの弦が交互に低い音を鳴らしながらクレッシェンドで上り詰めるところのグルーヴ感!終盤の二重奏で歌うところはなんとも温かく、希望の光が見えたように感じました。クライマックスでは、2つの弦がお互いを思いやるように交互に高らかに歌ったのがすごく素敵で、私は胸がいっぱいに。力強く音階を駆け上り、思いっきり明るく締めくくり。なんて気持ちの良い快演!札幌から聴きに来て本当に良かった!大ホールでの演奏に引けを取らない、壮大で骨太で情熱的などえらい演奏を私達に聴かせてくださり、ありがとうございます!

カーテンコールの後、ピアノの石田さんからお話がありました。石田さんは、石川さんとは2012年に共演した事があるものの、島田さんとはこの日の前日が初対面とのこと。素晴らしい演奏家と大絶賛されていました。同じメンバーで今度はピアノトリオの演奏会をしたい(!私、確かに聞きましたよ!)と仰って、会場は大きな拍手。蘭越パームホールでは何度も演奏されている石田さんから、ホール20周年の記念すべき会で演奏できたことへの感謝、そしておめでとうございますとお祝いの言葉が送られました。「お礼の意味を込めて」アンコールへ。おなじみエルガー「愛のあいさつ」をピアノトリオによる演奏。ピアノの優しい響きに乗って、まずはヴァイオリンが美しくメロディを奏で、後からチェロが続きました。おなじみのメロディは、ヴァイオリンもチェロもどちらも素敵!重なるところの甘やかで柔らかな響きの良さは、このトリオだからこそ!このトリオの重なる良さ、願わくばもうずっと聴いていたいほどでした。王道バッハ、熱いブラームスの真剣勝負に加え、ほっと心穏やかになれるアンコールまで、充実の隅々まで楽しめた演奏会、最高です!素晴らしい演奏をありがとうございました。いつか再びこのトリオでの演奏をぜひ聴かせてくださいませ。

最後にオーナーの金子さんのごあいさつ。「超」楽しかったと晴れやかな表情で仰って、演奏を心から楽しまれたことが伝わってきました。また、こんなに豪華な演奏家をお招きしてコンサート開催できた喜びと、再びこのホールで演奏して頂きたいとの思いを述べられ、会場は盛大な拍手!あえて今日の出演者の皆様にプレッシャーをかけている感じがほほえましくて(金子さんのお人柄だからこそ!)、本当に良い雰囲気です♪そしてこの後に開かれる懇談会の案内(希望者が別途会費を支払い参加)があり、演奏会はお開きに。私はJRの時間があったため、泣く泣く失礼して帰路につきました。蘭越パームホール、20周年おめでとうございます。とっても素敵なところでした!また必ずうかがいます!


札響七飯公演」(2022/12/29)。生命力あふれるベト7、弦の本領発揮アイネ・クライネ・ナハトムジーク、札響首席チェロ奏者・石川祐支さんソリストハイドンは魅力あふれる独奏と密なアンサンブル。真冬の北海道で超アツイ演奏、最高の一年の締めくくりでした!

nyaon-c-faf.hatenadiary.com

 

Kitaraアーティスト・サポートプログラムⅡ〉青木晃一×石田敏明 デュオリサイタル~ブラームスから拡がるヴィオラ×ピアノの響~」(2023/03/15)。雄弁さと歌心と超絶技巧による「主役としてのヴィオラ」の輝き!ブラームス最後のソナタでは、感情の機微を丁寧に表現する演奏によって作曲家の最晩年の境地を見ることができました。

nyaon-c-faf.hatenadiary.com

 

最後までおつきあい頂きありがとうございました。

Kitaraあ・ら・かると きがるにオーケストラ(2023/05) レポート

www.kitara-sapporo.or.jp

www.sso.or.jp

ゴールデンウィーク恒例の、Kitaraあ・ら・かると きがるにオーケストラ。今年(2023年)は、指揮に鈴木優人さん、ソプラノに中江早希さんをお迎えし、オルガンあり、高校生との共演あり、札響メンバーのソロが活躍する演目ありと、バラエティ豊かな演目が取り上げられました。私は小5の娘と一緒に参加。なお、チケットは全席完売(P席とP席寄りのLAとRAは販売なし)したそうです。

Kitaraあ・ら・かると きがるにオーケストラ
2023年5月3日(水)15:00~ 札幌コンサートホールKitara 大ホール

【指揮・お話】
鈴木 優人

【ソプラノ】
中江 早希

管弦楽
札幌交響楽団コンサートマスター:田島高宏)

【曲目】
<第1部>
ビゼー:歌劇「カルメン」第1幕への前奏曲
ストラヴィンスキー組曲火の鳥」(1919年版)より 王女たちのロンド、カスチェイ王の凶悪な踊り
デュカス:交響詩魔法使いの弟子
モーツァルト:歌劇「魔笛」より夜の女王のアリア 「復讐の心は地獄のようにわが胸に燃え」
サン=サーンス交響曲第3番 ハ短調 「オルガン付き」 op.78第2楽章より(オルガン/吉村怜子)

<第2部>
三善晃:札幌コンサートホール開館記念ファンファーレ(共演:札幌日本大学高等学校吹奏楽金管セクション)
ヴィヴァルディ:ヴァイオリン協奏曲「四季」より第2番「夏」(ヴァイオリン独奏/田島高宏、チェンバロ/鈴木優人)
アンダーソン:タイプライター(タイプライター/大垣内英伸)
チャイコフスキー交響曲第4番より第3楽章、第4楽章

(アンコール)オッフェンバック:喜歌劇「天国と地獄」序曲より(後半部分)


バラエティ豊かな音楽を親子で超満喫しました!演奏によって様々な世界が目の前に広がるのは、まさにマジック!5歳以上が入場できる今回は就学前の子ども達も大勢いましたが、みんなが演奏に夢中になって楽しんでいた様子がうかがえました。kitaraがあって札響がいて、連休中の親子でのお出かけに「気軽に」行ける演奏会があるなんて、札幌で子育てしていて本当によかったと私は再認識。大所帯を率いて自らもチェンバロ演奏をされた指揮の鈴木優人さんはじめ、「北海道が誇る才能」のソプラノ・中江早希さん、オルガン・吉村怜子さんに、大舞台でプロと一緒に堂々と演奏した高校生の皆さん、見事なソロを披露くださった田島高宏さんに大垣内英伸さん、そして札響メンバーに大拍手!「やる方は気軽じゃない」(by鈴木優人さん)演奏を、フルスロットルのパフォーマンスで私達に聴かせてくださりありがとうございます!

個人的には、特に交響曲などは抜粋で聴くとムズムズしてしまい(苦笑)、演奏する方も途中から入るのは気持ちの面を含め難しいのかも?とも正直思いました。せっかくならフルで聴きたい!時間的にムリなら交響詩やオペラの序曲など、短い時間で完結する作品のほうがいい!なんて。しかしこれは頻繁に演奏会へ足を運ぶ人(私もそうです)の感じ方であって、今回のメインターゲットである子ども達やビギナー層(演奏会は年に一度とか、それこそ今回が初参加とか)にとっては、個性が異なる様々な作品に触れられた方がきっと楽しいと思います。色々あったほうが自分好みの音楽が見つけやすく、そこから興味が広がるはず!実際うちの娘は「楽しかった!」と喜んでいましたし、帰宅してからもしばらくは小さな声で「夜の女王のアリア」を真似っこして歌っていたりも。高校生以下は500円というサービス価格で聴ける「Kitaraあ・ら・かると きがるにオーケストラ」、子どもと一緒に演奏会を楽しみたい人にとっては本当にありがたいです。来年以降も素敵な企画をお待ちしています!


第1部のテーマは「魔法」。オケメンバーと指揮者の鈴木優人さんが舞台へ。鈴木さんは黒いスーツ姿で、中は赤いシャツ、ノータイでした。すぐに演奏開始です。1曲目はビゼーの歌劇「カルメン」第1幕への前奏曲。最初の一音から大迫力でド派手な演奏!シンバルが存在感抜群で、低音が1,2,1,2のリズムを刻むのがカッコイイ。クレッシェンドで盛り上がっていく流れにテンションが上がり、最初の曲から一気にお祭り気分になりました。1曲目の後に、指揮の鈴木さんがマイクを持ってごあいさつと札響紹介&自己紹介。「アラカルト」=つまみ食いするようないいとこ取りのプログラムで、今回の企画はコロナ禍に入る前の2019年に構想し、ずっと温めてきたもの、といったお話がありました。以降、曲の合間には鈴木さんによる楽しいトークがありました。

ストラヴィンスキー組曲火の鳥」(1919年版)より。「捕まった王女が悲しそうな」という「王女たちのロンド」は、少し哀しげで牧歌的な木管群&ホルンの歌と、澄んだ弦合奏がとっても素敵!独奏チェロが要所要所で素敵に歌ったのが印象的で、王女や姫が登場する作品には独奏チェロが似合うとしみじみ。続いて、「悪い奴の悪だくみ。一番悪い音楽(!)」という「カスチェイ王の凶悪な踊り」。ジャン!とインパクト大な全員合奏から入り、勇ましい金管群の悪そうな響き!木琴がキレッキレ!波が押し寄せるように繰り返し盛り上がりが来るのにはゾクゾクしました。また金管群がお休みの時の、弦の美しさにははっとさせられました。さっきまで悪そうな音を発していたのに(笑)。ちなみに鈴木さんが指揮される8月のhitaru定期ではストラヴィンスキー組曲火の鳥」(1919年版)がフルで演奏される予定なので、私は今から楽しみです!

デュカスの交響詩魔法使いの弟子。ディズニーの映画「ファンタジア」で有名というお話から、ざっくりとストーリー解説もありました。ちなみにフランスの作曲家であるデュカスはこの作品で有名になったのだそうです。「箒みたいな形をしているファゴットが大活躍」といったお話も。透明感ある前奏から、何かが起きたようなコミカルな展開に続いて、歩き出した箒そのもののようなファゴットの存在感!様々な楽器にこのリズムとメロディが引き継がれていったのが楽しく、時折入る鉄琴がアクセントになっていました。大パニックになったところは音楽もカオスな感じに!ストーリー上で、いったん暴走が止まった?と思わせてからの、再び箒が歩き出したところの不気味な低音(コントラファゴット?)が印象的でした。終盤近くで一度静まりかえった時に拍手が起きてしまいましたが、演奏はそのまま続行。ヴィオラソロとクラリネットソロが素敵でした(これが魔法使いの師匠なのでしょうか?)。ジャジャジャジャン♪でビシッと締めくくり。演奏後、指揮の鈴木さんが会場に「ハッピーエンドだと思う人」「バッドエンドだと思う人」と挙手を求めました。正解は、帰ってきた師匠が魔法の暴走を止めて、めでたしめでたしの「ハッピーエンド」。ただし弟子はこっぴどく怒られてはいます(笑)。

モーツァルトの作品の中で一番有名かも」という、モーツァルトの歌劇「魔笛」より夜の女王のアリア 「復讐の心は地獄のようにわが胸に燃え」。オケの前奏が始まってからソプラノの中江早希さんが舞台へ登場しました。衣装は黒のゴージャスなドレス!はじめの方では、一度だけ登場した怨念感じる巻き舌が大迫力でした。そしてあの超高音「ア・ア・ア・ア・ア・ア・ア・ア・アー!」の貫禄!これは実演で聴いてこそわかる桁違いのスケール!終盤に向かう流れでのお声はどこか哀しく感じました。本来哀しい歌でも気持ちにより添ってくれる歌でもないのに、中江さんのこのお声がとても心に沁みて、私は思わず涙が。演奏後、指揮の鈴木さんが「中江早希女王です!」とソプラノ中江さんを紹介くださいました。「指揮台から飛ばされそうになりました」と、ものすごい気迫に満ちた演奏を絶賛。中江さんのお話では、この曲はソプラノにとってはオリンピック並(にハイレベル)で、一番高い音は本来人間が出せる音ではなく宇宙と交信しているような気持ちになるのだとか。今日の衣装は初めて着用するもので、たくさん来ている子ども達のために奮発したのだそうです。出身地の鷹栖町のふるさと応援大使をされているとのお話もありました。

「もう一つの北海道が誇る才能」と、オルガンの吉村怜子さん(札幌出身)が紹介され、オルガンの前にご着席。前半最後の演目は、サン=サーンス交響曲第3番 ハ短調 「オルガン付き」 op.78第2楽章より。バーンとオルガンの大音量から!身構えていてもやはりここはビクッとなります(笑)。弦が一歩ずつ音階を上っていくのがカッコイイ!また今回は煌びやかなピアノ連弾の存在もよくわかりました。各木管がメロディをリレーしていくのが幸せな感じ!全員合奏は、kitara自慢のパイプオルガンとの相乗効果でさらにスケール大きく大迫力!私は、「ガン付き」の最後の部分だけ久しぶりに聴いて、この曲の魅力を再確認しました。初聴きだったお客さん達にも喜ばれたのでは?

第2部のテーマは「夏」。指揮の鈴木さんはジャケットを脱いで赤いシャツ姿に。はじめは三善晃の札幌コンサートホール開館記念ファンファーレ札幌日本大学高等学校吹奏楽部の金管セクションのメンバー11名(プログラムにお名前が掲載されていました)が共演して、金管のみ23名の編成です。会場の照明が暗くなり、明るく照らされた舞台には扇形に金管メンバーがずらり。華やかなファンファーレが始まってしばらくすると、客席の後方からも金管群の響きが!2階CB、LB、RBの3カ所に数名ずつの別働隊(バンダ)がいて、そこにもスポットライトが当てられました。サラウンドで聴くファンファーレの立体感!これをkitara大ホールで聴ける贅沢!とても気分があがりました。ちなみに指揮の鈴木さんは、この作品の作曲者である三善晃さんにピアノの指導を受けたことがあるそうで、その厳しい指導について(!)いくつかエピソード紹介してくださいました。

弦の少数精鋭メンバー(コンマスと他は3-3-2-2-1)とチェンバロで、ヴィヴァルディのヴァイオリン協奏曲「四季」より第2番「夏」。チェロ以外の弦メンバーは立奏でした。演奏前に、この曲は夏の厳しさから、ハエの羽音が聞こえ、稲妻が鳴る、3楽章構成、というシンプルな解説。ちなみに指揮の鈴木さんは今年のkitaraニューイヤーコンサートではヴィヴァルディの「春」を演奏されたそうです。個人的にはこちら「夏」の演奏が今回のハイライトでした!少数精鋭の弦とチェンバロの組み合わせは、どうやら私のツボのようです。はじめのジリジリと歩みを進めるような合奏は、哀しげな弦の音色に引き込まれました。厳しい暑さを表現していると思われますが、個人的にはなぜか真逆の冬の厳しさを連想。何度も登場したコンマスソロは登場する度に様々な表情を見せてくださいました。またそれを支えた独奏チェロとチェンバロの仕事ぶり!三者室内楽的な密な重なりがすごく素敵でした。低音での弦の音の刻みはハエの羽音?とてもカッコ良かったです。そして終盤の稲妻がすごい!弦の少数精鋭メンバーによるダダダダダ……の音の波が鮮明で、一糸乱れぬ弓の高速な動き!コンマスソロもキレッキレで、厳しさを体現した音がインパクト大!以前聴いた「春」のコンマスソロ(この時も田島さんでした)の柔らかさとはまったくカラーが異なる音で、今回の音もとても魅力的でした。演奏後、コンマスの田島さんが舞台に残って指揮の鈴木さんと一緒にトーク。鈴木さんは、田島さんの「過酷な」ヴァイオリン独奏を讃えて、「弓の毛が切れていますよ」。しかし田島さんが「いえ少し古くなっただけです」と応えて、客席が和みました。そしてチェンバロの素晴らしさを讃えて、会場は大きな拍手。さすが私たちのコンマス田島さん!札響の魅力は「素晴らしい演奏家が揃っていて、みんな音楽が好きで人が好き」。鈴木さんが指揮される8月のhitaru定期など、これから開催予定の演奏会についても紹介し、「皆さんは周りの人も巻き込んで、聴きに来てほしいです」。また、トークの時間に舞台の配置転換をされていたステージスタッフの皆様には、鈴木さんの方から感謝が伝えられ、お客さん達も自然と温かな拍手を贈りました。

「楽しい曲でクールダウン」と登場した演目は、アンダーソンのタイプライター。今はタイプライターの実物を知らない人も多いとの配慮から、演奏前に実物を客席に見せてさらっと説明がありました。今回タイプライターを担当したソリストは、札響打楽器奏者の大垣内英伸さん。また卓上ベルと擦って音を鳴らず木製の打楽器(ギロ?)は、他の打楽器奏者(それぞれ大家さんと細江さん)が担当されました。軽快なオケに乗って、カタカタカタカタカタカタ(チン!)(ザッ!)と、リズミカルなタイプライターの響きが楽しい!ベルとギロの入るタイミングが絶妙でした。2分ほどの短い曲はあっという間で、もっと見て(聴いて)いたかったです。演奏のフィニッシュと同時に大垣内さんが原稿を抜き取り、なんとそこには大きくタイピングされた「札響」の文字が!カタカタと規則正しく素早いタイピングをしながら、実際に読める原稿を作っていたとは驚きです!聴いて&見て、とにかく楽しい演奏でした!

プログラム最後の演目は、チャイコフスキー交響曲第4番より第3楽章、第4楽章。「オーケストラの作りが分かる」という第3楽章。弦の連続ピッチカートが軽快に歌っているようで楽しい!オーボエを皮切りに木管のターンになり、ロシア民謡のようなメロディを順番に歌うのが素敵!金管ティンパニが登場してからは、パッパッパッパッ……のリズムが楽しく、木管もそれに乗って軽やかに歌い出したのが楽しい!「何も考えずに聴いて」という第4楽章は、はじめからド派手な勢いある演奏に一気にテンション上がりました!ロシア民謡を管楽器でリレーしていくのが楽しく、弦が変化しながらうねりや波や盛り上がりを作ってくれたのがとても頼もしい!クライマックス直前に一度クールダウンするところでの、デクレッシェンドする低弦が素敵でした。最後はリミッター振り切っての大盛り上がりで締めくくり。大編成によるド派手な演奏に圧倒されました!同じチャイコフスキー交響曲でも、第6番の消え入るようなラストとは真逆で、4番5番の派手なラストがあったからこその第6番の静かな締めくくりなのかも?と、私は少し思ったり。考えすぎですね(笑)。

カーテンコールで舞台へ戻ってきてくださった指揮の鈴木さんは、紫色のアフロヘアーの被り物!走って戻ってきた勢いのままアンコールへ。オッフェンバックの喜歌劇「天国と地獄」序曲より(後半部分)。運動会でおなじみの(余談ですが、隣にいた娘に曲名を聞かれ、私は慌てて「後でね」と小声で注意しました……)、軽快で楽しい音楽に気持ちもウキウキ。指揮の鈴木さんが客席に合図して手拍子が始まりました。そしてソプラノ中江さん(シンプルなドレスにお着替えされていました)と、ファンファーレに参加した吹奏楽部の高校生たちが舞台へ(!)。カンカンのところでは足を上げるダンスを披露(中江さんと引率の先生は身振りにとどめていました)。客席は大いに盛り上がり、終盤にはオケメンバーが全員立って演奏して(チェロの皆様がとても大変そうでした)、テンションもりもりMAXでフィナーレ。超楽しかったです!盛りだくさんの楽しい演奏会、ありがとうございました!

 

鈴木優人さんのお父様である鈴木雅明さんが指揮した「札幌交響楽団 hitaruシリーズ定期演奏会 第12回」(2023/03/09)。バッハ演奏の第一人者による、矢代秋雄とチャイ6の2つの交響曲。この2曲を組み合わせた心意気と、リズムを活かした生き生きとした演奏に感激!私にとって記念すべき出会いとなりました。

nyaon-c-faf.hatenadiary.com

 

親しみやすい名曲の数々をリーズナブルなチケット料金で聴けた「ロジネットジャパンチャリティーコンサート2023」(2023/04/15)。前半ジャズは寺久保エレナさんのA.Saxに痺れ、オケは独奏の伴奏を超えた魅力満載!後半は情景が目に浮かぶ交響詩にオーケストラの醍醐味が味わえたスペイン奇想曲。多彩な響きを無心に楽しめました!

nyaon-c-faf.hatenadiary.com

 

昨年のきがるにオーケストラはこちら。「Kitaraあ・ら・かると きがるにオーケストラ ココロおどるアメリカン・ミュージック」(2022/05/03)。札幌ご出身の若手指揮者・太田弦さんと札響によるアメリカ音楽!角野隼斗さんのピアノは自由な感じで、ソリストもオケもノリノリ♪マエストロのコスプレまで、モリモリMAXな楽しい演奏会でした。

nyaon-c-faf.hatenadiary.com

 

最後までおつきあい頂きありがとうございました。