ピアノ三重奏のトリオ・ミーナ(Pf.西本夏生さん Vn.鎌田泉さん Vc.石川祐支さん)による、小児がんチャリティーコンサート。2019年の第1回から毎年開催(第2回は無観客配信)されている公演は、今年で6回目となりました。また今回は、先に蘭越パームホールでも同一のプログラムにて演奏会を開催(2024/08/24)。なお演奏会の収益は「(公財)がんの子どもを守る会」および小児がん研究のために寄付されます。
演奏会当日、いつものように小ホールロビーには子ども達の絵がいくつも飾られていました。そして夜の公演の前(16:30から約1時間)には、活動にゆかりあるお子さんや親御さん達のための「キッズ・コンサート」(北大病院をはじめ、世界各地にリアルタイムでウェブ配信されているそうです)が開催されました。このキッズコンサートも毎年恒例となっていて、トリオミーナが最も大切にしている企画とのこと。今回、ご厚意により私も小6の娘と一緒に会場にて聴かせて頂きました。子ども達からのリクエスト曲を全部で10曲も!子ども達にとってなじみ深い曲の数々を聴けて、聴き手もくじ引きや打楽器(または手拍子)で参加できてと、会場は大いに盛り上がりました。うちの娘も大喜び!きっと病床にいる子ども達にも喜ばれたことと存じます。素敵な企画と演奏を本当にありがとうございます!
Trio MiinA トリオ・ミーナ第6回公演 小児がんチャリティーコンサート
2024年09月20日(金)19:00~ 札幌コンサートホールKitara 小ホール
【演奏】
西本 夏生(ピアノ)
鎌田 泉(ヴァイオリン)
石川 祐支(チェロ)
鈴木 勇人(ヴィオラ) ※賛助出演
【曲目】
ブリッジ:ピアノ三重奏のためのファンタジー ハ短調 H.79
スメタナ:ピアノ三重奏曲 ト短調 Op.15
ブラームス:ピアノ四重奏曲 第1番 ト短調 Op.25
(アンコール)ロンドンデリーの歌(アイルランド民謡)
今回のプログラムノートは、作曲家の久原琉生さん(キッズコンサートの演目の編曲をご担当)による執筆でした。
今年もトリオ・ミーナと出会え、音楽に無心で浸れる夢のような時間を過ごせて幸せです!どんな演目でも、その懐の深さで驚くほど生きた音楽として私達に届けてくださる――それは初めて出会った第1回公演の時から確かにそうなのですが、回を重ねる毎にどんどんレベルアップして、更なるサブライズな再会となるのが本当にうれしい!今回は大曲が並ぶ「濃い」プログラムでした。そのいずれの演奏も、音楽そのものの熱や鼓動や息づかいまでもがガンガン伝わってくるのがすごい!これぞライブの醍醐味!と、私はこの場にいられた喜びをヒシヒシと感じました。ブリッジのファンタジーは、比較的短い演奏時間の中で楽しい要素が盛り盛り!また自身の幼い子を亡くした頃に書かれたというスメタナの作品では、その悲しみを受け入れた上でなお生きていく、作曲家の誠実な思いと強さを感じ取ることができました。もちろん思いは人それぞれであり、とてもセンシティブな事なので安易に一般化はできません。それでも、もしかすると会場にいらしていて同じような悲しみを抱いておられる方たちにとっても、癒やしとなったのでは?そしてブラームスのピアノ四重奏の、とんでもなく充実した演奏が素晴らしかったです!私はちょうどこの前日に大ホールにてブラームスの交響曲を聴いたばかりだったのですが、その交響曲にも引けを取らない重厚さパワフルさに驚愕!様々な要素がブラームスらしく絡み合い変化しながら、勢いや熱がうねりとなってグイグイ迫り来るのが快感!加えて室内楽らしい内省的なところや照れ隠しのようなところもあり、前日よりさらにブラームスの本質に近づけたと思えたのがとてもうれしかったです。交響曲を世に送り出すよりはるか前の若い頃に、こんなにも充実した室内楽作品を生み出していたなんて!ブラームスの偉大さ再確認できました。このピアノ四重奏曲第1番は、シェーンベルクが管弦楽への編曲をしたことでも有名な作品。しかし個人的には、大胆かつ熱心に編曲し作品の魅力を広く伝えたシェーンベルクに敬意を払いつつも、断然原曲の方が良いと思います!シェーンベルクは「この曲が好きなのに、ピアノが目立ちすぎて弦が聞こえない」(大意)と言っていたそうですが、それは不幸にも良い演奏に出会えてなかっただけなのかも。この日私が出会ったトリオ・ミーナの演奏では、弦の繊細なところも当然ながらハッキリと聞こえました!やはり名曲は素晴らしい演奏があってこそですね!重ねて、この日の出会いに感謝です。
小児がんチャリティーコンサートとして、演奏会の収益はすべて寄付されるとのこと。また、夜の公演直前の夕方には「キッズ・コンサート」も開催くださいました。今回、私は娘と一緒に会場にて拝聴しましたが、編曲の良さ(作曲家の久原琉生さん、いつもありがとうございます!)と、もちろんクオリティ高い演奏で、大人だって十二分に楽しめる内容でした!ご招待された会場の子ども達(うちの子も!)は、とても楽しんでいましたよ♪重量級の本プログラムの準備と本番だってとても大変な事と存じます。にもかかわらず、普段とは異なるレパートリーを10曲も用意し、闘病中の子ども達とご家族、活動にゆかりあるかた達に聴かせてくださるなんて!改めて頭が下がります。大切な活動がこれからも良い形で続いていきますように。これから先も私はずっと応援&追いかけ続けます!
トリオ・ミーナの皆様が舞台へ。ピアノの西本夏生さんは上は白、下は黒のモノトーンコーデ。ヴァイオリンの鎌田泉さんは緑色のノースリーブのドレス。チェロの石川祐支さんは黒シャツ姿でした。すぐに演奏開始です。1曲目は、ブリッジ「ピアノ三重奏のためのファンタジー ハ短調 H.79」。4楽章構成ですが、すべて続けての演奏でした。本レビューでは、「3つの楽想」に着目して振り返ります。はじめは劇的に。冒頭の弦ユニゾンと続いたピアノがインパクト絶大!壮絶なドラマの幕開けを思わせるものでした。よどみない流れで波を作るピアノに乗って対話する2つの弦は、運命の波に翻弄されているよう。しかし弦がユニゾンでパワフルに突き進むように変化し、その鮮やかさが印象的でした。ピアノ独奏がロマンチック!その後は弦も優美に歌い、世界が一変したと感じました。続いて詩的なシーン。ピアノのアルペジオが美しい。チェロが艶っぽく歌うのが素敵すぎました!一部ヴァイオリンに主役を譲る時は少し抑えて滑らかに支え、ヴァイオリンがお休みの時は伸びやか歌う、この変化もぐっときました。ピアノが駆け出し、スケルツォに。ピアノに乗って弦が小刻みに休符を入れながらピッチカートでメロディを奏でたり、ピアノと弦が丁々発止のやり取りをしたり、ピアノもジャズのように跳ねていたり。個人的にはこのスケルツォのリズムがすごく面白く、ゾクゾクワクワクしました!次第に収束していく流れでの、小さな音でのピッチカートが良い!そして回想的になり、今まで登場した様々なシーンが再び。ほんの短い作品の中でも、人生を歩んで振り返っているような気持ちになりました。終盤は明るい雰囲気になり、ラストは輝かしいピアノと重音盛り盛りの弦で思いっきり華やかに!ドラマチックでロマンチック、かつ遊び心もある作品。15分程のコンパクトな作品でも、楽しい要素満載!とても充実した音楽に没頭することができました。
2曲目は、スメタナ「ピアノ三重奏曲 ト短調 Op.15」。第1楽章 はじめのヴァイオリン独奏の凄み!深く哀しい響きが忘れられません。チェロとピアノが重なると、次第に激しくなり、弦もピアノも全力で来る悲痛な叫びがすごい!少し穏やかになってから(歌う弦が優美!)、再び激しくなるところでは、弦の気迫あふれるトレモロとピアノの力強い重低音に圧倒されました。弦もピアノも音を刻みながら力強く進むのには、悲観しても決して立ち止まらない心身の強さを感じました。ピアノ独奏のこぼれ落ちるような1つ1つの音がなんて美しいこと!はじめのヴァイオリン独奏が戻ってきて、繰り返しに入るも、先ほどよりもやや明るくなり、歩みの力強さが増したと感じました。クライマックスのダイナミックさ豪華さ!たった3人で創っているとは、にわかには信じられないほどの音の厚み迫力がガツンときました!第2楽章 前楽章と似たメロディが今度はポルカ風に。生き生きと踊るような音楽の鼓動にドキドキしました。ピアノに合いの手を入れるピッチカートがドンピシャなタイミングで気持ちイイ!中間部では、歌曲のようにゆったり歌う弦に癒やされました。ヴァイオリンの消えゆく高音、チェロの高音域での包容力ある滑らかな流れ!最高です!厳格なところでは、ピアノの厚みある重低音と弦の堂々たる響きが神々しい!ヴァイオリンが独り言のように歌うところでは、チェロがごく小さな音での重低音でずっと支えていたのが印象的でした。第3楽章 はじめからガンガン来る情熱的な演奏がアツイ!勢いあるよどみない流れはリズミカルで、ピアノにポンポンと合いの手を入れるピッチカートがまた絶妙!そして2拍子になってからの、優雅に歌うチェロと続いたヴァイオリンが超素敵でした!願わくばずっと聴いていたかったほど。しかしパッと切り替えて(この切り替えが見事!)、はじめのタランテラ風のリズムに。前よりもさらに加速した音楽にぐいぐい引っ張られていくのが快感でした。止まらない流れはしかし肩で息をするようにダッダッダッとリズムを刻んでいる(と私は感じました)ようで、それがガンガン来るのに聴く方もドキドキが止まらない!はじめのメロディが葬送行進曲のようになって登場したところでは、重くじっくり弾く弦とがっつり低音のピアノの底知れぬエネルギーがすごい!そこから、ふっと呼吸を合わせて勢いあるラストスパートの気迫とパワフルさが素晴らしかったです!悲しみのどん底にあってもなお生きていく、若き日のスメタナの思いが強く感じられた、スペシャルな体験でした。
後半は、ヴィオラの鈴木勇人さん(衣装は黒シャツでした)をゲストにお迎えし、ピアノカルテットの編成によるブラームス「ピアノ四重奏曲 第1番 ト短調 Op.25」。第1楽章 はじめは寂しげなピアノから。ほどなく入ったチェロの音色にゾクッとし、ヴィオラが哀しく歌いヴァイオリンが重なったのに引き込まれました。この最初だけで、ものすごい奥行きと厚み!力をぐっと溜めてから(チェロの重低音の良さ!)、弦とピアノが交互に出てぶつかり合うパッション!すごい!寄せては返す波のように強弱を変化させながら、弦が主役になったりピアノが躍り出たりと、滑らかな流れ。そこから大きな波が来て情熱的に盛り上がる、この勢いと熱を何度も体感できるのがたまらなくうれしかったです!また、例えばヴィオラやヴァイオリンが歌う下で、ピアノや他の弦が作る音楽の鼓動を感じ取るのが気持ちイイ!ブラームスはとても良く作っているなと改めて思うと同時に、こんなにも生きた音楽として私達に聴かせてくださるカルテットのお力を痛感しました。そして私がハッとさせられたのは、楽章終盤での弦楽三重奏から静かに始まったところです。今まで外に向かっていたエネルギーが内向きになり、じっくり内面を掘り下げるような音楽。そこから再び力一杯盛り上がる、この熱量!心揺さぶられずにはいられない!重く暗く沈みゆく締めくくりに、私は思わず感嘆のため息です。第2楽章 タタタタタタ……♪とチェロが刻むリズムにリードされて、ヴァイオリン&ヴィオラがそっと歌い始める、この出だしがぐっと来ました!音の刻みをヴィオラが引き継いでも、途切れることなく続く舞踏的なリズムが印象深かったです。ヴァイオリン&ヴィオラによる悲痛な歌のインパクト!メロディをピアノが引き継ぎ、その跳ねる音を、弧を描くような滑らかな演奏で支えるチェロが超素敵でした。やや明るくなる中間部のトリオでは、超スピードでの生き生きした掛け合いがとても面白かったです。そして終盤コーダでは、駆け足でささっと通り過ぎ静かに締めくくるのがイイ!「なーんてね」と、ブラームスの照れ隠しのようで、個人的に好きなところです。小粋に演奏してくださりうれしい!第3楽章 どっしり大らかなピアノと優美に歌う弦の美しさ!大編成のオケにも引けを取らない、厚みある響きと、どこまでも広がっていきそうな壮大さでした。さらなる奥行きを生み出す「地を這うような三連符」の存在感。じっくり進む重い足取りには秘めたエネルギーが感じられ、中間部で軽やかになってからのタタタッタタタッ♪のリズムが小気味よく、ガツンと盛り上がるパッション!はじめの方の優雅さとは対照的なその力強さはインパクト絶大で、クラクラしました。ヴァイオリン&ヴィオラのトリルの多幸感!弦が重音をのばし、ピアノがかわいらしく音階を上るラストが幸せな感じ!第4楽章 「ジプシー風ロンド」の前のめりで情熱的なメロディとリズムにゾクゾク!ピアノの音盛り盛り超高速演奏がカッコイイ!弦の合いの手が入るタイミングが絶妙で、目と耳が釘付けになりました。パッと登場した力強い盛り上がりの華やかさは、目が覚めるようなインパクト!ピアノのリズムに乗って、やや哀しく歌う弦がとても繊細で、ここは室内楽ならではの良さと感じました。ピアノ独奏にて、はらはらと音階を下っていくのがドラマチック!続いた弦楽三重奏がすごく良かったです。メロディを三者で少しずつずらして奏で、織り成す美の奥行きと繊細さ!ピアノ独奏を経てからの、弦楽三重奏の掛け合いと疾走感!そこから一気にアクセル踏み込んで、全員合奏で熱狂的に駆け抜けるラストは圧巻でした!熱量と厚みとリズムと勢いがグイグイ来て、繊細さ美しさがじんわりきて、ブラームスの情熱と秘めた思いと、そして息づかいと鼓動まで、すべてを体現してくださった演奏に大感激です!本当にありがとうございます!
カーテンコールにて、出演者の皆様へ花束贈呈がありました。ピアノの西本さんがマイクを持ち、ご挨拶とトーク。今回は「濃い」プログラムで、「思いが逃げそうな気がして」ここまでトークはナシで演奏したとのこと。「お楽しみ頂けましたでしょうか?」の問いかけに、会場から大きな拍手が起きました。トリオとしては6年目、カルテットとしては2年目となるミーナ。これまでに色々なことがあった、と仰っていました。ここまで続けてこられたのは、活動を支えるスタッフや支援者、そして聴きに来てくれるお客さん達のおかげ、といった事を仰り、再び会場から温かな拍手。最後に来年の開催日時の予告(2025/10/11土曜、kitara小ホール)をしてから、アンコールの曲目を口頭で告げられ、演奏に移りました。
アンコールは、「ロンドンデリーの歌」。アイルランドの民謡で、私は歌詞付きの「ダニー・ボーイ」として認識していました。ピアノカルテットによる演奏です。語りかけるようなピアノの序奏の優しさ!弦がゆったり歌い始めると、穏やかでどこか懐かしいメロディが心に染み入りました。主にヴァイオリンが主旋律を歌い、ヴィオラとチェロが対旋律やメロディのユニゾンを担当。3つ弦があると、素朴な歌でも彩りが増してさらに素敵になります!終盤では、ヴィオラのソロやチェロのソロも登場し、それぞれの音色による歌の良さも味わえました。超充実の「濃い」本プログラムの後に、そっと心に寄り添ってくれる民謡の素敵な演奏に感謝です。私達聴き手の高ぶった気持ちが静まり癒やされました。
終演後、いつものように私はロビーにて心ばかりの寄附をして、帰路につきました。今年もトリオ・ミーナに出会えてよかった!大切な活動が末永く続いていきますように。来年の公演も、私は今から楽しみにしています!
この日の前日にkitara大ホールで聴いた、札響の演奏会です。「あいプランPRESENTS ラブ&サンクスコンサート」(2024/09/19)。地元北海道で活躍するヴァイオリニストの小野寺百音さんは、メンコンにて丁寧で美しくかつ安定した独奏を披露。個人的に愛してやまないブラ1の超充実した演奏に大感激!指揮の藤岡幸夫さんと札響による、生きた音楽と共に「生きる」喜びに、札幌市民でよかったと心底実感しました。
今年(2024年)、生誕200年のスメタナ。札響の演奏会にて連作交響詩「わが祖国」が取り上げられました。「札幌交響楽団 hitaruシリーズ定期演奏会 第18回~モルダウ・・・『わが祖国』全曲」(2024/08/01)。若き日の早坂文雄が書いた作品は、和の「雅」な響きが魅力的!スメタナ「わが祖国」は、長編大河ドラマを一気見したような充実のひととき!札響首席客演指揮者に就任した下野竜也さんと札響による誠実で愛情あふれる演奏から、「地元を愛する気持ち」の尊さを肌で感じられたのは何よりの喜びでした。
昨年度の公演のレポートです。「Trio MiinA トリオ・ミーナ第5回公演 小児がんチャリティーコンサート」(2023/09/22)。彩り豊かな新作初演、凄まじさに打ちのめされたショスタコーヴィッチ、お初のピアノカルテットによるシューマンの充実ぶり!今回もうれしい驚きの連続で、最初から最後までとても楽しかったです!
最後までおつきあい頂きありがとうございました。