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名古屋フィルハーモニー交響楽団 第512回定期演奏会〈継承されざる個性〉(金曜夜公演)(2023/05) レポート

www.nagoya-phil.or.jp
札幌から名古屋への遠征1日目(今回も気持ちよく送り出してくれた家族に感謝です)。名古屋フィルハーモニー交響楽団定期演奏会を聴きました。2023年度のテーマは「継承」。なのに今回のタイトルは「継承されざる個性」(!)。以前から憧れていた、指揮の井上道義さんとヴァイオリンの服部百音さんの演奏をついに聴ける!そして噂の「円形配置」を体験したくて、私は楽しみにしていました。なお、当日券の受付には長蛇の列が出来ていて、完売したため惜しくも会場に入れなかった人も大勢いらしたようです。


名古屋フィルハーモニー交響楽団 第512回定期演奏会〈継承されざる個性〉(金曜夜公演)
2023年5月12日(金)18:45~ 愛知県芸術劇場コンサートホール

【指揮】
井上 道義

【ヴァイオリン】
服部 百音

管弦楽
名古屋フィルハーモニー交響楽団コンサートマスター:日比 浩一)

【曲目】
バルトークルーマニア舞曲 Sz.47a, BB 61
バルトーク:ヴァイオリン協奏曲第2番 Sz.112, BB 117
ソリストアンコール)ピエール・ブーレーズ:アンセム1 無伴奏ヴァイオリンのための(抜粋)

クセナキス:ノモス・ガンマ
ラヴェルボレロ


価値観がひっくり返る、どえりゃあ体験でした!噂の円形配置も、苦手意識があったバルトークも、訳分かんないほど面白い!この体験を経た今なら、巷で言われる「クラシック音楽がわかる・わからない論争」なんて意味が無いと、私ははっきり言えます。専門的な理解は専門家にお任せして、私達一般の愛好家は感受性のまま受け止めて楽しめばそれでいい。むしろそれがいい!古代の人が太鼓を叩き始めた太古の昔から、人間は音楽を「感じて」いたのだという思いを私は新たにしました。この場にいられたことに改めて感謝です。

ただ聴き手には一見カオスに思えるような演奏でも、演奏する方は当然きっちりされていると拝察します。狙った音やタイミングとは違う「外しちゃった音」というのは不思議と素人でもわかるものですが、今回の演奏にはそんな外し方はほぼ無かったように私は感じました。これだけの大編成で音が濁らないのは、客演を含めオケメンバーのお一人お一人が一流の演奏家でいらっしゃる証!王道のボレロ(ただし円形配置)では、特にアンサンブルの良さが際立っていて、指揮者やコンマスを頼れず周りに同じパートがいない中で鼓舞奮闘する奏者お一人お一人の力量の高さがうかがえました。さらに他の演目では、勢いあるところやあえて妙な音を発するときでも思い切りの良さがありました。これができるオケだからこそ、ノモス・ガンマの快演(怪演!)であり、バルトークの生命力!名フィルすごい!名フィルを導いた井上ミッキーすごい!ちなみに指揮の井上道義さんは何度も札響(私は札幌在住です)に来てくださっていますが、うまく予定が合わず私は今回の名フィルが「お初」でした。既に2024年末の引退を表明している井上マエストロ、もっと早くに出会いたかったと私は今更ながら後悔しています。次に札響にいらしてくださる時は必ず聴きにうかがいます!そして井上道義さんを信頼しているという、ソリストの服部百音さん(彼女の実演も私は「お初」でした)には度肝を抜かれました!お若いお嬢さん的なイメージは瞬時に吹き飛ぶ、音の凄みと気迫!難曲というバルトークを今まさに身体から湧き出たように演奏し、大編成オケと互角に対峙。その演奏から目と耳が離せないほど、私達を夢中にさせてくれました。いま23歳という服部百音さんの、これからのご活躍に期待大&この先さらに進化した服部百音さんに出会えるのが楽しみです!

私が聴いたのは1日目でしたが、2日目のカーテンコールではステージ・マネージャーにも盛大な拍手が送られたとのこと。大がかりな円形配置の準備段階での試行錯誤から本番の短時間での転換、そして照明の演出まで、今回の公演は特に裏方スタッフの大活躍があってこそですね!またプログラムと一緒に「出演者一覧」と裏面には円形配置(ノモス・ガンマ)の席次表がある資料が配布されたため、各演目の出演者と円の中のどこでどなたが演奏されていらっしゃるか一目瞭然だったのが助かりました。プログラム内容も今回の演目解説にとどまらず、コラムや次回の予習(インタビュー形式の楽しい内容)、「写真で名フィる?」(今回は音楽監督の川瀬賢太郎さん。札響の指揮者でもいらっしゃいます)など、大変充実していて読み応え抜群!こちら大切に保管します。そして今回初めてうかがった愛知県芸術劇場コンサートホール、とても良いホールでした。音響の良さに加え、視界確保や座席に着くまでの動線にも配慮されている印象です。今回は円形配置を真上から見たくて、私は3階R1を選んで大正解!ほとんど見切れ無しで、前後に人がいないため視界良好かつ間近にオケを感じることができました。特に円形配置では、まるで円の真ん中にいるような感覚に感激!お安い席でお値段以上にめいいっぱい楽しませて頂きました!


オケの男性陣は燕尾服ではなく黒シャツ。指揮の井上さんも黒でまとめたシンプルな装いでした。前半の弦は12-10-8-6-4。1曲目は、バルトークルーマニア舞曲 Sz.47a, BB 61」。こちらは作曲家が若い頃の作品で、有名なルーマニア民俗舞曲 Sz.56 とは別のものでした。ティンパニに乗ったファゴットの低音からゆっくり始まり、この最初の特徴的なリズムを各パートで受け継ぎながらテンポが変化したり強弱の波があったり。金管打楽器が大活躍する、血が騒ぐような舞曲でした。中でも、盛り上がりの頂点での大迫力シンバルや、少し穏やかになったところでの2台ハープの美しさ、ヴィオラパートが主役でメロディを奏でたところの憂いを帯びた感じが印象に残っています。ルーマニア民俗舞曲 Sz.56 の美しい響きとは違った、音のうねりやリズムを全身で感じ取れる、インパクトある演奏でした。

ソリストの服部百音さん(赤いベアトップのドレス姿)をお迎えして、2曲目は、バルトーク「ヴァイオリン協奏曲第2番 Sz.112, BB 117」。第1楽章。ハープと弦ピッチカートによるオケの序奏のリズムがカッコイイ!ほどなく登場した独奏ヴァイオリンの深い音が強烈なインパクトでした!オケの木管群や弦が合いの手を入れるのが絶妙で、独奏はまるで妖艶にダンスを踊っているよう。独奏がオケを挑発するように掠れた音色を発し、オケがそれに応えるやり取りにぐっときました。神秘的な音色で彷徨うような独奏と、それを支えるオケの陰影がすごい。パパパパ……とけたたましく鳴ったミュート付き金管群のパンチある響きの迫力!超高速で駆け抜ける独奏もすごければ、ピタっと併走するオケもお見事!明るさや心地良い音は無く、その空気を引き裂くような切れ味抜群の音で独特なリズムを刻む独奏と、うねりを作るオケに圧倒されました。そんな中でハープとチェレスタがやけに美しくて、影の力強さより一層際立たせていた印象です。終盤のカデンツァは気迫に満ちていて、音階を上下するうねりやシャープな重音に引き込まれました。合流したオケでは、独奏のリズムに合わせた弦の強いピチカートによるバンバンという音がインパクトありました。オケによる重低音をぐっとのばした締めくくりがカッコイイ!第2楽章。ハープと2ndヴァイオリン・ヴィオラ・チェロによるオケ序奏がなんと美しいこと!前の楽章とのギャップがすごくて、とても印象に残っています。そこに重なった独奏ヴァイオリンもゆったりと美しい響き!またオケが美しい弦メインから神秘的な木管のターンになってからは、独奏は妖しげな感じに。ここでもハープとチェレスタの美しさがむしろ妖しさを際立たせているように感じました。短い楽章で次々とカラーが変化していく様に、片時も目と耳が離せない!中盤に登場した超高速の独奏のすごさと、リズミカルに呼応するオケのリズム感の良さ!ここではティンパニやスネアドラム等の太鼓が、縁を叩いてカッという音を鳴らしていたのも印象的でした。神秘的に静かにフェードアウトしてから、続けて第3楽章へ。さらに鬼気迫る独奏のカッコ良さに、絶妙なタイミングで掛け合うオケのうねりがすごい!独奏は独特なリズムを刻みながらどこまでも自由な感じでした。その独奏の間隙に入るオケの合いの手が小気味よく、打楽器のみならず、強奏する木管金管(ここではミュートなし)、弦に至るまで、オケ全体が一つの生命体となり同じ生体リズムを刻んでいるかのよう。オケの弦は弓で弦を叩く奏法(コル・レーニョ奏法)も登場しました。この音とリズムで生み出されるうねりはどう表現すればよいのか……ちなみに私が休憩時間中にプログラムの隅に書き込んだ走り書きメモには「ぐおんぐおん」と書いてありました(!何が何だか……)。ただ私はメロディを追うのでも美しい音にうっとりするのでも無く、得体の知れないうねりに身も心も飲み込まれる感じで没頭。私自身がきちんとわかったかどうかは別として、超面白かったです!今までピンとこなかったバルトークでこんなに夢中になれたなんて!服部百音さん、そして井上道義エストロに導かれた名フィルの皆様、すごすぎます!価値観が変わる演奏と、素晴らしい音楽家たちとの出会いに感謝です。

ソリストアンコールは、ピエール・ブーレーズ「アンセム1 無伴奏ヴァイオリンのための」(抜粋)。はじめに会場の照明が落とされて真っ暗に!そこからソリストの服部百音さんだけスポットライトで照らされる演出でした。私には調性が掴めない(もしかすると無調かも?)、わかりやすいメロディもない音楽。しかしその分、音そのものに集中できる不思議な魅力がありました。弦を細かく擦る音や乾いたピッチカート等、繰り出される様々な音にただただ引き込まれ、ワンフレーズ毎に入る沈黙の不気味さにぞくっとしました。ラストは音がフェードアウトするのとシンクロしてスポットライトの光が弱くなっていき、会場は再び真っ暗闇に。全体に照明が付き明るくなったところで会場がどよめき大きな拍手が起きました。演奏のすごさに加え、演出も斬新な、気の利いたアンコール。私はまたしても打ちのめされました!服部百音さん、協奏曲からアンコールに至るまで私達の度肝を抜く演奏をありがとうございました!この前半だけでもすごすぎたのに、後半はどうなってしまうの!?と私はドキドキしつつ、長めの休憩時間となりました。


休憩時間は30分。通常配置から円形配置への大がかりな転換が壮観!また後半の開始5分前から指揮の井上さん(上はグレーのゆったりした服にお着替えされていました)によるトークがありました。はじめ、「百音ちゃんの(エレガントな)お辞儀の仕方から学ぶ」と仰って丁寧なお辞儀をされて、会場が和みました。まずは前半のお話から。バルトークの2番はソリストの服部さんがやりたいと望んだそうです。曰く、今ある録音がよくない、本当はもっと良い曲なはずだ(!)と。しかし井上さんが仰るにこの曲は難曲だそうで、「弾くのはやめた方がいい」(!)。ソリストは言うまでもなく、オケも一番難しいらしく「ギリギリ頑張った!」「今日も良かったけど、明日はもっと良くなる」。会場に大きな拍手が起きました。作曲家は難しい方向に行くかわかりやすい方向かの2種類で、バルトークは前者。難しい中でもどこまで作れるかが肝だそう。バルトークは「吸血鬼がいる」ハンガリールーマニアの民謡を研究した人で、そこでは農民が歌っているとか。ちなみに井上さんはルーマニアには以前よく行っていたそうです。「今の日本には歌はないよね……」と少し寂しそうに仰いました。「男が魅力的」な、オペラ「青ひげ公の城」をぜひ見てくださいとおすすめくださり、簡単なストーリー解説も。続けて後半のお話になりました。クセナキスは元々は建築家で、今回演奏するノモス・ガンマは「全部騒音だから」(!)。今回の円形配置では、コンマスは役に立たないし、自分の役目も指揮ではない(!)。例えるなら、山道などで迷わないためにつかまる「紐」の役目。打楽器の音がぐるっと回ったりするのは、本当は円の真ん中で聴いてほしいそうです。「あとはボレロだから、楽しんでください」と仰って、トーク終了となりました。

後半の弦は16-13-12-10-8。後半1曲目は、クセナキス「ノモス・ガンマ」。プログラムと一緒に円形配置の席次表も配布されました。各奏者はセクション関係なく円の中でバラバラに(規則性はぱっと見わからず)、たくさんの打楽器は円の外側をぐるっと取り囲むように配置。しかしすさまじい演奏でした……。「考えるな感じろ」とはまさにこの事!どのように書けばよいか、そもそもほんの少しでも伝わるかどうかわからないのですが、自分がその場にいられた記念にレポート書きたいと思います。私にとって一番の衝撃は円を取り囲む打楽器陣でした。各奏者が順にダダダダン!と強打して大音量の響きが円をぐるっと回るのが何度も何度も!空気の振動だけでなく、地響きがして床からの衝撃が来るのは、足元から熱いマグマが噴き出すようにも感じました。その円の中では、弦が妙な音を発し(金切り声のようなキーンとする音や、コル・レーニョ奏法もありました)、木管が悲鳴をあげ、金管がスパーク。楽しいというよりは、はっきり言って恐ろしい!でも未知の体験にゾクゾクしました。次にどの場所からどんな音が湧き上がってくるのか、全く予想できない中、ただその渦の中でものすごい音に襲われ続け、身動きとれなかった私。そんなカオスの終わりは(私にとっては)突然でした。全員がありったけの大音量を鳴らした後、ラストはオケメンバー全員が席から立ち上がり、正面を向いてお辞儀。え?終わったの?と私はしばし呆然……。美しいメロディもキレイな音もない、音の衝撃を全身で受ける体験!どれほど時間が経過したかも今自分がどこにいるのかもあやふやになる、訳わからないほどすごい体験でした!

同じ円形配置のまま、メインのスネアドラムのみ指揮者の前(円の中央)に移動。指揮の井上さんは上の服を赤にお色直ししていました。プログラム最後の演目は、おなじみのラヴェルボレロ。はじめに照明が真っ暗になり、各奏者の譜面台だけが蝋燭で照らされたように少し明るくなりました。同心円状に広がるほのかな光がきれい!この最初の舞台の美しさに、私は演奏が始まる前から感激して、いっその事このままでいて!とつい思ったり(ダメです)。真っ暗な中、演奏開始です。ごく小さな音のスネアドラムとチェロ&ヴィオラのピッチカートから始まり、メロディのトップバッターはフルート。なんとその時のメロディ担当がその場に立ち上がって演奏し、そこにスポットライトが当たる演出でした(以降も同じ。同時に2人以上の奏者が立つ場合も同様に、それぞれがスポットライトで照らされました)。そろりとピアニッシモで先陣を切ったフルートをはじめ、ソロ演奏はどなたも素敵!あえて音程をずらして演奏するピッコロも抜かりなく、難易度ウルトラハイパークラスという噂のトロンボーンも難なくまだまだ続けられそうな余裕さえ感じられました。当然ですよね、勝手にハラハラしてしまってごめんなさい!円の中にバラバラに配置された各ソロを追いかけるのはもちろん楽しかったですが、個人的にもう一つ面白かったのが弦のピッチカートの聞こえ方です。パート毎に固まっていないため、チェロもヴァイオリンも入り交じってピッチカートが聞こえてくる!しかし皆様足並みがきっちり揃っていて、どの方向からも同じテンポでポン・ポン♪と来るのが何気にすごい!原則、周りに同じパートの人はいない配置で、それぞれの奏者が鼓舞奮闘してのこの仕事ぶりが素晴らしいです!各管楽器のソロが一通り終わり、ヴァイオリンがメロディの演奏に移ったタイミングで舞台全体に照明がつきました。全員合奏は次第に音が大きくなり、そしてクライマックスでもう一段明るく盛り上がったところで全体の照明がさらに明るく!聴いている私達の気持ちも最高潮に盛り上がりました!タムタムやシンバルがド派手に鳴り、全員合奏の大音量で締めくくり。ああなんて楽しい!知っていたつもりのボレロでこんなにも楽しめたなんて、感激です!前半バルトークに後半の円形配置での2曲、最初から最後までめったに出来ない体験を、ありがとうございました!

 

 

私は札幌に住んでいて、普段オーケストラは地元の札幌交響楽団の演奏に親しんでいます。他、室内楽や歌曲の演奏を好んで聴いています。素人のふわっとした感想になりますが、今まで聴いてきた演奏会のレポートは弊ブログの「演奏会のレポート」カテゴリにありますので、よろしければご覧ください。

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