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ふきのとうホール レジデント・アーティスト 小菅 優コンサートシリーズ Vol.4 ベネディクト・クレックナー&小菅 優 デュオ・リサイタル(2023/06) レポート

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↑今回の演奏会チラシです。 ※pdfファイルです。

ふきのとうホール レジデント・アーティストのピアニスト・小菅優さんと、チェリストのベネディクト・クレックナーさんのデュオ・リサイタルが開催されました。ブラームスのチェロ・ソナタ(全2曲)に、バッハ、そしてバッハをオマージュした藤倉大さんの作品を組み合わせたプログラム。なおチケットは全席完売したとのことです。


ふきのとうホール レジデント・アーティスト 小菅 優コンサートシリーズ Vol.4 ベネディクト・クレックナー&小菅 優 デュオ・リサイタル
2023年06月29日(木)19:00~ ふきのとうホール

【演奏】
ベネディクト・クレックナー(チェロ)
小菅 優(ピアノ)

【曲目】
藤倉大:Sweet Suites(チェロソロ)
J.S.バッハ無伴奏チェロ組曲第3番 ハ長調 BWV1009(チェロソロ)
J.ブラームス:チェロ・ソナタ第1番 ホ短調 Op.38

J.S.バッハ(ヘス編):主よ、人の望みの喜びよ BWV147(ピアノソロ)
J.S.バッハブゾーニ編):われ汝に呼ばわる、主イエスキリストよ BWV639(ピアノソロ)
J.ブラームス:チェロ・ソナタ第2番 ヘ長調 Op.99

(アンコール)
R.シューマン:幻想小曲集 op.73 より 第3番
カタロニア民謡(P.カザルス編):鳥の歌

ピアノはスタインウェイでした。


昨年に引き続き、またしても小菅優さんのシリーズに打ちのめされた喜び!期待に胸膨らませて来た私達に、その期待をはるかに上回る音楽で応えてくださいました。小菅優さんのピアノは、がっちりした土台を作る安定感とあふれる情熱がある「ブラームスの響き」そのもので、身も心も丸ごと委ねることができました。また初めてお目にかかったベネディクト・クレックナーさんのチェロがすごい!力強い音がホールと共鳴すると、まるで大地が鳴るような底知れぬエネルギーが感じられ、私達の心と身体にダイレクトに響いてくる力がありました。何度も共演を重ね、信頼関係が出来上がっているこのお二人が一緒にブラームスソナタを演奏するのが最高に良かったです!今回、バッハの無伴奏組曲に続けてブラームスソナタ第1番が演奏されたのを聴いて、この若い頃の作品がバッハに強い影響を受けていることを私は初めて心から実感。そのバッハに関しても、ドイツ・ロマン派後期のブラームスと現代の作曲家である藤倉大さんとではまったく異なる活かし方をしているのがとても面白かったです。またブラームス円熟期の作品であるソナタ第2番は、ブラームスは本当に伸び伸びと楽しく書いたことがお二人の生き生きとした演奏から感じられ、聴く方も楽しくなりました。個人的に愛してやまないブラームスのチェロ・ソナタ2曲に、初めて出会った時以上に夢中になれて、新鮮な気持ちで聴けたのが本当にうれしかったです。ありがとうございます!

今回のプログラム・ノートも大変充実して読み応えがありました。執筆は小菅優さん(チェロ独奏の曲目解説のみベネディクト・クレックナーさん)によるもの。演目解説にとどまらず、お二人の出会いから今日に至るまでのことも書かれてあり、今回ご出演のお二人により一層親近感がわきました。こちら記念として大切に保管します。


ベネディクト・クレックナーさんが舞台へ。衣装は黒いスーツに白シャツ、黒いネクタイでした。1曲目はチェロソロで、藤倉大「Sweet Suites」。バッハの無伴奏チェロ組曲からインスピレーションを得た作品とのこと。またベネディクト・クレックナーさんと小菅優さんは、作曲家の藤倉大さんとはお親しいそうです。はじめは、タッタッタ タッタッタ♪と音を刻む演奏から。時折とても高い音を発したのが印象に残っています。続く、ダイナミックに弓を動かしてぐおんぐおんと鳴らすのには度肝を抜かれました!こんな力強いチェロの音は初めて!舞曲のメロディが入っているため聴きやすくはありましたが、極めて現代的な音楽と私は感じました。開放弦による地響きのような低音の力強さや、ラストの揺らぎながら消えいく超高音がものすごいインパクト!あまりの衝撃に、私はしばし呆然としてしまい、会場もシーンと静まりかえっていました。

そのまま続けて、チェロソロによるJ.S.バッハ無伴奏チェロ組曲第3番 ハ長調 BWV1009」。第1曲 高音で歌う合間に入る、ぐっと低い音がすごい!ホールと一緒に鳴る低音が、まるで大地が鳴っているようにも感じられました。第2曲 はふくよかな音とリズムの良さ!第3曲 はテンポが速くなり、弓が時々チェロ本体に当たって物理的なバチバチした音が鳴っていた熱演でした。第4曲 は、とてもゆったりした流れの中で、何度も登場する低音の厚みある重音が素敵!第5曲 こちらが個人的にはハイライトでした。軽快なところに続いた、中盤の少し切ないところがとっても素敵!あくまで素朴なメロディを、控えめなトリル等の細やかな表現で、とても魅力的に聴かせてくださいました。第6曲 ダイナミックな演奏が素晴らしく、低音盛り盛りの終盤がアツイ!基本のバッハ無伴奏で、ベネディクト・クレックナーさんのチェロの魅力をたっぷり堪能できました!

出演者のお二人が揃って舞台へ。小菅優さんは、濃いオレンジ色に模様が入ったノースリーブのドレス姿でした。J.ブラームス「チェロ・ソナタ第1番 ホ短調 Op.38」。第1楽章 冒頭チェロのぐっと低い音に、私はハッとしました。先ほどのバッハで聴いた低音を思わせる、深い響き!ゆらぎながらじっくりと足取りを確かめるように進む演奏が、低音の良さをより際立たせたように感じました。高音で切なく歌うところの艶っぽさ、情熱的に盛り上がってからの力強さ!ピアノの裏で2回鳴らした重低音の凄み!ピアノと一緒に消え入る楽章締めくくりの余韻もとても素敵でした。第2楽章 メヌエットのリズムが心地よく、ピアノとチェロが素朴なダンスをしているよう。私はここもバッハの無伴奏チェロ組曲と似ている!と感じました。中盤のトリオでは、お互いを何度も確かめ合うような間合いがとても良くて、切なくも温かなのが素敵。第3楽章 冒頭のピアノがとてもパワフル!続くチェロも情熱的で力強く、バッハの雰囲気はありつつも、これは完全に若きブラームスのパッションだと私は感じました。またピアノのリズムに合わせて低い音を刻んだり、軽やかにスキップするようだったりと、時折ちょっとした遊び心を見せてくれるところは、真剣勝負の中でも演奏を楽しんでいらした印象です。少しずつ熱量をあげていき駆け抜けたクライマックスの充実ぶりが素晴らしい!よく知っていたつもりの曲なのに、まるで初めて出会った時のように聴けた、新鮮な驚きに満ちた演奏でした!カーテンコールでは拍手喝采の中、お二人は何度も舞台へ戻って来てくださいました。お二人の生演奏に触れ、あまりの素晴らしさに感激した私は、前半終了後の20分間の休憩時間に急いでロビーに出て、お二人によるブラームスのチェロ・ソナタのCDを購入。これ以上同じ曲のCDは増やすまいとの決意は一体どこへ行ったのやら(笑)。


後半1曲目はピアノソロで、J.S.バッハ(ヘス編)「主よ、人の望みの喜びよ BWV147」。耳なじみのあるメロディを美しく奏でるピアノ。心地よく優しい響きに聴き入りました。また低音でずっしりくる和音、一部のみ低音がメロディを奏でたところ等、存在感ある左手がぐっと引き締めていたと個人的には感じました。

そのまま続けてピアノソロによる、J.S.バッハブゾーニ編)「われ汝に呼ばわる、主イエスキリストよ BWV639」。左手による低音の重みがすごい!チェンバロ風に音をのばさずに演奏され、3連符が印象的でした。哀しげな音楽は、ぽつぽつと一人語りのよう。ラストの重低音の和音がずしりと来ました。悲劇的な音楽は、1つ前の幸福な音楽と好対照。ただ、どちらも「神とひとり向き合う自己」なのかも?とも私は思いました。

出演者のお二人が揃って、J.ブラームス「チェロ・ソナタ第2番 ヘ長調 Op.99」。第1楽章 ピアノの序奏が全力で来て、すぐに続いたチェロがそれ以上の気迫!私はこの曲を初めて聴いた時よりもずっと大きな衝撃を感じ、一気に気分があがりました。チェロは細かく入る休符も呼吸のリズムにして、常にフレッシュで勢いある音を鳴らす情熱あふれる演奏。揺らぐ低音の艶っぽさ!パワフルな重音はなんて豊かな音!メロディを奏でるときの堂々たる響きはもちろんのこと、輝かしいピアノに合いの手を入れるときの存在感や、ピアノの裏でのエネルギーを溜めているような音の刻みもすごかったです。弓を大きくうねらせながら音階をゆっくり下っていくのが超カッコイイ!楽章締めくくりの自信に満ちた響きが清々しい!第2楽章 ピアノの優しい響きと重なるピッチカートのリズムがとても良く、かなり強めにバンバン鳴らす音でしたが、心地よく聴き入りました。ゆったり歌うところは歌曲のよう。ピアノのターンでのチェロの存在感ある重低音!チェロのフェードアウトする音が儚く美しい!第3楽章 ピアノもチェロもリミッター振り切った精力的な演奏で、前のめりでリズミカルな掛け合いがアツイ!個人的に特に好きな楽章で、こんなに燃える演奏に出会えたのはすごくうれしかったです。一方、ゆったり歌うところは、ややゆっくりに情感たっぷり。極端なほどにテンポと表情を変化させたことで、どちらの個性も際立ったように感じました。第4楽章 明るくウキウキとした歌い方は、大はしゃぎはしないけど喜びが隠しきれない感じ。ついに喜びがあふれ、楽しいピアノに乗って低音をガンガン鳴らすチェロが超パワフル!チェロの刻む音は、音そのものはもちろん弓の動きもダイナミック!少し哀愁あるところの歌い方は、演歌調にまではならずに大人の貫禄を感じさせる、ホレボレする良さでした。ピッチカートで楽しいメロディを奏でたり、弓をガンガンめいいっぱい動かしたりと、変化が多く忙しいにもかかわらず、とてもノリノリな感じ♪思いっきり情熱的に演奏しながらの超高速の締めくくりがカッコイイ!円熟期のブラームスがのびのびと書いた曲を、思いっきり生き生きと説得力のある響きで聴かせてくださいました。本当にありがとうございます!

カーテンコールでは、クレックナーさんが「こんにちは」と日本語でごあいさつ。アンコールの曲目紹介は英語でした。私は「ブラームスの友人のシューマン」「幻想」が聞き取れたので、好きな曲が来た!と心の中で大喜び!アンコール1曲目は、R.シューマン「幻想小曲集 op.73 より 第3番」。何度も登場する音階駆け上りは、喜びに満ち輝かしい!チェロもピアノも情熱的で、エネルギーに満ちあふれた感じがカッコイイ!ブラームスの情熱とは違った個性を楽しめました。

拍手喝采の会場にお二人が戻って来てくださいました。再びクレックナーさんから英語で曲名紹介があり(私は聞き取れた「カザルス」「ピース ピース」からなんとなく曲目がわかりました)、アンコール2曲目は、カタロニア民謡(P.カザルス編)「鳥の歌」。繊細なピアノに乗って、途切れ途切れに言葉少なく歌うチェロ。それがかえって雄弁に感じられ、悲しみや平和を願う気持ちが伝わってきて、心に沁みる演奏でした。クレックナーさんのチェロは、情熱的で力強いだけではない、寡黙な表現も素敵です!

終演後、ロビーではお二人のサイン会がありました。私は購入したCDにサインを頂き、帰路につきました。愛してやまない曲に再び恋に落ちた、最高に素敵な出会いをありがとうございました!サイン入りCDは家宝にします!ベネディクト・クレックナーさん、きっとまた札幌にいらしてくださいませ。そして小菅優さん、次のふきのとうホールの公演も楽しみにしています!


ふきのとうホール レジデント・アーティスト 小菅 優コンサートシリーズ Vol.3 吉田 誠&小菅 優 デュオ・リサイタル」(2022/10/15)。独仏3つのクラリネットソナタ、それぞれ独立した歌曲を一つの物語のように構成した演奏、小菅優さんによるプログラムノート。待ち焦がれていた私達に最高の演奏で聴かせてくださいました。

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ブラームス室内楽シリーズ イ調で結ぶ作品集」(2023/06/26)。会田莉凡さんのヴァイオリンを堪能できたソナタ、「音楽する」三重奏曲、ピアノ四重奏曲の「化学反応」の素晴らしさ!ブラームスの隠れた名曲たちの充実した演奏に浸れた、とても幸せな時間でした!

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最後までおつきあい頂きありがとうございました。