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宮田 大&田村 響 デュオ・リサイタル (札幌公演) (2023/07) レポート

※おことわり。こちらのレビュー公開時以降にも、同じ出演者と演目によるリサイタルが控えているようです(最新情報は宮田大さん公式サイト等でご確認ください)。これからリサイタルをお聴きになるかたで、新鮮な気持ちで本番を迎えたいかたは、どうぞ本レビューをお読みくださるのはすべての公演の終了後にお願いいたします。

moula.jp


日本を代表するチェリストの宮田大さんとピアニストの田村響さんのデュオ・リサイタルがKitara大ホールにて開催されました。同じ出演者と演目による演奏会は、神奈川、埼玉に続いて札幌は3番目。当日、Kitara大ホールはP席・LB・RBと3階席は使用しない形で、ほぼ満席に近い盛況ぶりでした。

宮田 大&田村 響 デュオ・リサイタル (札幌公演)
2023年07月02日(日)13:00~ 札幌コンサートホールKitara 大ホール

【演奏】
宮田 大(チェロ)
田村 響(ピアノ)

【曲目】
ベートーヴェンモーツァルトの「魔笛」の主題による7つの変奏曲
黛敏郎:「BUNRAKU~文楽~」 (チェロソロ)
シューベルト即興曲 op.142-2 (ピアノソロ)
ラフマニノフ前奏曲 嬰ハ短調 op.3-2「鐘」 (ピアノソロ)
三枝成彰:震災のためのレクイエム
プロコフィエフ:チェロ・ソナタ ハ長調 op.119

(アンコール)
ポンセ/加羽沢 美濃 編曲:エストレリアータ
ファリャ:火祭りの踊り

ピアノはスタインウェイでした。


宮田大さんが持つチェロの音をたっぷり楽しめて幸せです!今回の演奏会においては、どんな奏法や表現であってもその音は心地よく、周波数がちょうど生体リズムに合うと私は感じました。弦とピアノのデュオには広すぎるKitara大ホール(と個人的には思っています)でも、無理に大きな音を発することはなく、響きがとてもキレイ。親しみやすいトークがあったおかげで、物理的心理的な距離もいつの間にか気にならなくなっていました。なおトークは宮田さんがメインでしたが、演奏ではチェロとピアノはあくまで対等だったと私は思います。チェロが主役の時のしっかりした土台も、主役に躍り出た時の華やかさも、田村響さんのピアノは大変頼れる存在でした。掛け合いや重なりの良さは何度も共演を重ねているお二人だからこそ!また今回ご出演のお二人はテレビ番組等のメディア出演が多いこともあってか、ファン層は幅広く、今回は普段のKitaraの客層とは異なるお客さん達も大勢いらしていた印象です。しかしプログラムも演奏自体もビギナー向けの手加減はナシで、お二人は様々な個性の作品をいずれも個性が際立つ演奏で私達に聴かせてくださいました。ありがとうございます!


出演者のお二人は舞台へ。すぐに演奏開始です。1曲目はベートーヴェンモーツァルトの『魔笛』の主題による7つの変奏曲」。最初に主題が提示され、7つの変奏が続くスタイルの作品です。ダーン!と最初の一音で心掴んでからの、ピアノとチェロがゆったりダンスしているような楽しい主題から。そのダンスの足取りが軽やかになったり、スキップするようなリズムになったりと、ピアノとチェロの幸せな掛け合いが楽しめました。短調になるところ(第4変奏?)では、はじめのピアノのもの悲しさ、トリルの切なさが素敵!チェロもここでは低音域でじっくり歌い、他の変奏とは違う個性が印象的でした。続く明るいところ(第5変奏?)での音階駆け上りが輝かしい!ゆったりしたところを経て、ラストの第7変奏では、ピアノに合いの手を入れるピッチカートがカッコイイ!チェロは高音域になったかと思うとぐっと低音を効かせたり、とてもダイナミック!耳なじみの良いメロディをベースに、ピアノとチェロの様々な表情を楽しませてくださいました。

最初の演目の後に、出演者のお二人によるごあいさつとトークがありました。全国をツアーで回っており、前日と前々日も別の会場(横浜と埼玉)で演奏されたそうです。北海道は「ちょっと寒いくらい」で、「(暑い東京に戻ると思うと)北海道に住みたい気持ちが分かる(!)」。最初の演目は、「モーツァルトはチェロの曲を書いていないので、ベートーヴェンのおかげで(チェロの演奏で)モーツァルトに会える」良さがあるそうです。次の「文楽」については、作曲家・黛敏郎さんは日本を代表する作曲家で、テレビ番組「題名のない音楽会」の司会を務められていたというお話から。様々な和楽器の音と表現が出てくることや、宮田さんご自身は(老いた小野小町の伝説で文楽の演目でもある)「関寺小町(せきでらこまち)」の物語をイメージしているというお話もありました。なお今回は、日本人作曲家と寒い国の作曲家の作品を集めたとのこと。「前半は(デュオだけでなく)それぞれのソロの魅力を聴いて頂けたら」と仰っていました。

チェロソロによる、黛敏郎の「BUNRAKU~文楽~」。これがとんでもなくすごい演奏で、私は度肝を抜かれました!チェロの音とはにわかには信じられない、私にとっては初めて聴く音ばかり!はじめはピッチカートでしたが、ベンベンからバチバチ、ブアンブアン(擬態語がうまく当てはめられず・汗)と変化し、それぞれが異なる和楽器(琵琶や三味線など)思わせる響き。弦を擦る演奏ではユニークな音の揺らぎがあり、まるで太夫の語りのようにも感じました。左手でピッチカートし、弦を押さえながら下の方に手を滑らせる弾き方は見た目にも鮮やか!西洋音楽では出会えないような独特のリズムは、個人的にはなぜか懐かしく感じました。終盤は1つのチェロをお一人で演奏しているのに、同時にたくさんの音が重なる不思議!高速での締めくくりは気迫に満ちていました。客席からブラボーも出た、圧巻の演奏でした!

ピアノソロで2曲。シューベルト即興曲 op.142-2」。素朴な舞曲のリズムでステップを踏むピアノの響きがとても優しく、転調で明るさに少し影が差すところが印象的。そして穏やかに盛り上がるところでの音の厚みが素敵!シューベルトらしい歌心が感じられ、心穏やかになれる音楽でした。

そのまま続けて、ピアノソロによるラフマニノフ前奏曲 嬰ハ短調 op.3-2『鐘』」。美しい高音に対して、低音は大きな鐘が鳴るようにダーン、ダーンと響くのがインパクト大!後半ではフォルテッシモのさらに上を行くような力強い響きになり、圧倒されました。ここに来ると低音だけでなく、高音も別のキレイな音がする鐘の響きでは?と思ったりも。これだけ壮大に広がった世界が、ラストではピアニッシモでフェードアウト。その余韻も素敵でした。

ここで再びトーク。宮田さんは、ソロ演奏で大きな世界を作った田村さんをベタ褒めでした。ちなみに宮田さんは独奏だと「独りぼっちで心細い、視線を感じる(!)」そうです。田村さんは、(デュオでもソロでも)会場によっても音が違うため、あまり決めてかからず、その時その時に感じ取って音楽を作っていきたい、といった事を仰っていました。

三枝成彰「震災のためのレクイエム」阪神淡路大震災がきっかけで作られた曲で、初演は「1000人のチェロ」だったそう。今回のチェロとピアノ版は作曲家自身の編曲によるものとのことです。この美しく柔らかなチェロの音!宮田さんが持つ音の素晴らしさに引き込まれました。宮田さん自身が仰っていた「嘆き」は、しかし個人的にはとても温かく感じられました。壮大で美しいメロディを切なく優しく歌うのがとっても素敵!内省的なルルルー♪を繰り返すところは、まるで子守歌のよう。ラストの美しい高音でフェードアウトするチェロはとても息が長く、まるでこの世での命を慈しんでいるかのようでした。心に訴えかけてきて、同時にとても心癒やされる音楽。多彩な音楽を楽しめた前半が終了し、20分間の休憩時間に私はロビーに出て宮田大さんのCDを一枚購入。今回の演目が収録されたものはなかったので、ラフマニノフソナタのCDを選びました。


後半は、プロコフィエフ「チェロ・ソナタ ハ長調 op.119」。第1楽章 冒頭のチェロの重低音がゾクッとする良さ!早速引き込まれました。秘めた情熱を感じる低音での演奏から、突然ピッチカートを激しく繰り返す演奏になったのがインパクト大!すごい気迫!高音域で歌うところは美しく、超高音でふっと消え入るようなところが印象的でした。力強いピアノに乗ってチェロもまた力強く弦を鳴らしたかと思ったら、次は小さな音で囁くようになったりと、一つのつながりの中で強弱や熱量の変化が大きく、相反するものが同居しているのが面白かったです。第2楽章 タッタッター♪とステップを踏む感じから、一気に情熱的なダンスへ!中盤の優雅に歌うところが艶っぽくとっても素敵で、宮田さんのチェロの音をじっくり味わうことができました。第3楽章 情熱的に歌うのと激しいピッチカートが交互にくる、熱量高い演奏がすごい!明るく歌うところは、優雅さに加えて前のめりな情熱も感じられました。超高速での演奏や、ピアノもチェロもめいいっぱい音を鳴らす盛り盛りな演奏。目の前で繰り広げられる凄技に圧倒されました。高らかに歌っていたチェロが、締めくくりで重低音を鳴らしたのがすごく素敵!最初の重低音に戻ったと私は感じ、一体どこに連れて行かれるかドキドキだったのが、ようやくほっと一息つけました。超難曲と思われるこの曲を、とても精力的な演奏で私達を引きつけ、情熱あふれる音楽を聴かせてくださいました。ありがとうございます!

後半の演奏中に何度も汗を拭っていた宮田さん。カーテンコールにて「暑いですね……」と仰って、会場が和みました。また後半のプロコフィエフソナタについて、「しんしんと降る雪」と「燃え上がる炎」が同居する、一つの物語のようと解説。「まだゼイゼイしていますけど……」とピアノの田村さんと顔を見合わせてから、アンコールの曲名紹介くださり、アンコールへ。ポンセ加羽沢美濃 編)「エストレリアータ」エストレリアータとは、「小さな星」という意味だそう。星が瞬くような美しいピアノに乗って、ゆったり歌うチェロの心地よい響き!揺らぎながらのばす音がなんとも素敵でした。また、同じメロディを繰り返しながらも強弱や音域を細かく変える演奏で、色合いの変化も楽しい。燃えるようなソナタの後に、心が落ち着く音楽。とても癒やされました。

これでおしまいかと思いきや、舞台へ戻って来てくださったお二人が何も言わずに着席して、サプライズなアンコール2曲目へ。私は情熱的なピアノの前奏でピンときました。大好きな曲が来て、心の中で大喜び!ファリャ「火祭りの踊り」。高音域で思いっきり情熱的に弾くチェロが超カッコイイ!合間に鳴るピアノのタンタン♪が絶妙!ピアノのターンでは、チェロは打楽器のように弓と左手でテンポ良く弦を叩いていたのも楽しかったです。弦を押さえる左手を滑らせてキュイーンと鳴らしたり、一瞬ソロになって切なく歌ったりと、見所聴き所しかない演奏!クライマックスはありえない程に超高速の演奏で、とんでもない熱量の高さ!最後の最後に燃え上がる音楽をありがとうございます!

カーテンコールで何度も戻って来たお二人が最後にがっちり握手して、会場に大きく手を振ってくだり、会はお開きに。素晴らしい演奏をありがとうございました!終演後のサイン会はありませんでしたが、会場でのCD購入特典としてサイン入りのポストカードを頂きました。次回のリサイタルではサイン会もぜひ♪そして今後できればブラームスソナタの録音と演奏会も、きっとお願いいたします!

※宮田大さん公式ツイッターへのリンク失礼します。

 

ふきのとうホール レジデント・アーティスト 小菅 優コンサートシリーズ Vol.4 ベネディクト・クレックナー&小菅 優 デュオ・リサイタル」(2023/06/29)。バッハに強い影響を受けた第1番、円熟期にのびのび楽しく書いた第2番。愛してやまないブラームスのチェロ・ソナタ2曲に再び恋に落ちた、最高に素敵な出会いでした!

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最後までおつきあい頂きありがとうございました。