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オリジナル楽器で聴くブラームスⅡ 佐藤俊介×鈴木秀美×スーアン・チャイ(2022/11) レポート

https://www.rokkatei.co.jp/wp-content/uploads/2022/08/221127.pdf

↑今回の演奏会チラシです。 ※pdfファイルです。

今回(2022/11/27)のふきのとうホール主催公演は、「オリジナル楽器で聴くブラームス」の第2回目です(第1回は2017/07/04)。ブラームスの時代に一般的だった、フォルテピアノとガット弦を張った弦楽器による演奏。大好きなブラームス室内楽を、作曲当時のものと近い楽器による演奏で聴ける!とあって、私は企画発表当初から楽しみにしていました。


オリジナル楽器で聴くブラームス佐藤俊介×鈴木秀美×スーアン・チャイ
2022年11月27日(日)16:00~ ふきのとうホール

【演奏】
佐藤 俊介(ヴァイオリン)
鈴木 秀美(チェロ)
スーアン・チャイ(フォルテピアノ

【曲目】
R.シューマン:幻想小曲集 op.73
J.ブラームス:チェロ・ソナタ第2番 ヘ長調 Op.99
J.ブラームスピアノ三重奏曲第2番 ハ長調 Op.87

(アンコール)J.ブラームスピアノ三重奏曲第3番より 第3楽章

ピアノはフォルテピアノ(持ち込みとのことです)。ヴァイオリンとチェロはガット弦を張ったもので、またチェロはエンドピンがないものでした。


ブラームス自身が意図していたであろう響きで、ブラームスと出会えた喜び!オリジナル楽器の「音」を楽しめたのに加え、何よりブラームスの本質に迫った演奏そのものが大変素晴らしかったことに私は感激しました。音の表情には血の通った温かさがあり、ブラームスがとりわけ重視したテンポには呼吸や鼓動が感じられる、まさに生きた音楽。そんな音楽が生まれたのは、奏者の皆様が作品そのものと真摯に向き合い、作曲家の想いを心を込めて体現くださったからと拝察します。しかもモダン楽器とは勝手が違うオリジナル楽器による演奏。一筋縄ではいかないはずですのに、奏者の皆様は、端から見る限りはスマートな演奏姿にて、思いっきり情熱的に生き生きと演奏してくださいました。本当にありがとうございます。私は第1回公演を聞き逃してしまったことが悔やまれてなりません。今回ご出演された皆様による「オリジナル楽器で聴くブラームス」、ぜひ今後も第3回、第4回……とシリーズ化して聴かせてくださいませ。ヴァイオリンソナタチェロソナタ、ピアノトリオはもちろんのこと、例えばゲスト奏者をお招きしてのナチュラルホルンによる「ホルン三重奏曲」や、ミュールフェルトが愛用した型の楽器による「クラリネット三重奏曲」など、聴いてみたい演目はいくつもあります。いつかきっとお願いいたします。札幌にてお待ちしています!

演奏自体の素晴らしさはもちろんのこと、今回はオリジナル楽器だからこその新たな発見がありました。以下に書くことは音楽経験ナシのいち個人による感覚的なものですので、間違いや勘違いがありましたら申し訳ありません。今回のオリジナル楽器について、私はいずれも生演奏では初対面でした。しかし、ふきのとうホールの最高な音響のおかげで、録音ではよくわからなかったモダン楽器との違いを自分なりに感じ取ることができました。率直な印象として、フォルテピアノの響きはモダンピアノよりも素朴で、ガット弦の響きは温かさがあり、いずれも残響は少ないようでした。また「温かさ」は音質そのものだけでなく、うまく言えないのですが音を発した後のゆらぎ(ヴィブラート等で演出するのではなく自然に響く音)の味わい深さにあるのでは?と感じました。音のゆらぎは、スチール弦は振れ幅が安定していて、ガット弦はその時その時で違う(これが人間らしくて親近感ある?)気がします。演奏方法自体もモダン楽器とは異なると思われますが、私が特に注目したのはチェロです。エンドピンがないため、楽器を脚の間に挟み身体全体で抱えこむような体勢での演奏。弓のあて方もモダン楽器とは異なっていたかもしれません。この体勢でガット弦を強奏するのは、もしかすると相当な力が必要なのかも?そしてこのことをブラームスは把握して曲作りをしていたのでは?と私が思ったのは、チェロ・ソナタ第2番のはじめの方の、強奏の合間に細かく入れられた休符の存在です。なぜわざわざそうしているのか、私は以前からずっと疑問に思っていました。おそらく強奏に力が必要なオリジナル楽器の場合、休符で一呼吸おくことによって、都度全力で強奏できてインパクトある音を生み出せるからですね!今回ようやく腑に落ちました。また、ピアノトリオ第2番での3つの楽器の重なりにもブラームスの工夫が感じられました。どうやら弦の響きの合間にピアノを鳴らすことで、細かく呼応し合ってリズムを作り、音楽を生き生きとさせている?これは残響が多いモダン楽器による演奏では気付きにくい発見でした。改めて、ブラームスってすごい!言うまでもなく、オリジナル楽器による素晴らしい演奏を聴かせてくださった奏者の皆様のおかげです。重ねてありがとうございます。


最初の演目はシューマン「幻想小曲集 op.73」。元々はクラリネット&ピアノのために書かれたものですが、クラリネット以外の楽器でもよく演奏される作品。この日はヴァイオリン&ピアノによる演奏でした。第1曲、ピアノは美しくも素朴な感じでした。続いて登場したヴァイオリンの、穏やかで心温まる音色がとても新鮮!特にぐっと深い低音と、感極まった高音のゆらぎが印象に残っています。第2曲は、ヴァイオリンとピアノが楽しく会話しているよう。残響が少ない(あくまで私の素人感覚です)ためか、きっちり交互に姿を現す印象。何度も音階を駆け上るところは、穏やかながらも少し前のめりで、秘めた想いが感じられて素敵でした。そして第3曲へ。情熱的に音階を駆け上るヴァイオリンの、最初の低音に心掴まれました!何度も登場する音階の駆け上りですが、起点となる低音はこの一番初めが特に良かったです。中間部の独白のようなヴァイオリンは、あふれる想いがありながらも一言一言を大切に発しているように感じられました。堂々たるフィナーレは、すぱっと潔い締めくくり。個人的にモダン楽器(チェロ&ピアノ)による演奏で何度も聴いてきた演目でしたが、この日の演奏でのラストは想像よりもずっと早く音が消えてしまったので少し戸惑ってしまいました(ごめんなさい!)。しかし、これがガット弦の弦楽器とフォルテピアノ「らしさ」であり、作曲家が意図した本来の響き(クラリネットでの演奏ならあえて息をのばさない)なのかも?とも思いました。

ブラームス「チェロ・ソナタ第2番」。第1楽章、ピアノの分厚い響きに乗っての、チェロの強奏は最初の1音から骨太でものすごく圧倒されました。細かく休符が入るそのタイミングで深く呼吸し、また次の瞬間は強奏になるため、新たな音が来るたびに鮮烈で強いインパクトが感じられました。なんと情熱的で力強いこと!またチェロの低音は、コントラバスのような少しくぐもった音で、私は瞬時にこの低音のとりこに。高音のゆらぎも、やはりスチール弦とは振れ幅が違う感じなのがとても良かったです。盛り上がりが重音で頂点に達した後の、弓をダイナミックに動かしながら音が沈んでいく様がドラマチックで超素敵!ピアノのターンでの、チェロの弓を大きくうねらせる演奏(トレモロ?)が、うごめく感情のようだったのも印象的でした。第2楽章、訥々と語るようなピアノに合わせた、チェロのピッチカートの音色に私は魅了されました。ガット弦のピッチカートは初めて聴きましたが、弦を強くはじいても奥ゆかしい感じの響き。ピッチカートと滑らかに歌うところが交互にくる流れで、優しく穏やかな歌にもしみじみ聴き入りました。そしてこの楽章で圧巻だったのは、音を長くのばしながらフェードアウトするラストです。放っておけばすぐに音が消えてしまうところを、少しずつ力を抜きながらギリギリまで弦を擦る演奏で表現されていたとお見受けしました。男性的な性格の作品の中で異彩を放った、この繊細な音が忘れられません。第3楽章、冒頭のピアノが私には新鮮に感じられました。残響が残るモダンピアノのきらびやかな響きがツヤ肌なら、フォルテピアノの落ち着いた響きはマット肌!どちらも素敵!ブラームスの遊び心ある音楽を、ピアノとチェロが呼応しながらリズミカルに生き生きと情熱的に演奏。自信に満ちあふれた力強いチェロが超カッコイイ!中盤の高音域で歌うところも素敵でした。低く太い音をバーンとのばしたラストが前の楽章と好対比で強く印象に残っています。第4楽章、はじめのピアノとチェロは歌曲のような優しい響き。変化が多い流れの中で、低音での音の刻みやパワフルな重音、軽快なピッチカート、哀愁を帯びた歌と、精力的な演奏によるチェロの様々な表情が魅力的!低く太い音をのばす堂々たる締めくくりに、私は気分爽快になりました。骨太で力強くしかし繊細な、これこそがブラームスのチェロ!個人的に愛してやまないブラームスのチェロ・ソナタを、「ブラームスのチェロ」で聴けた喜びはひとしおでした。


後半はブラームス「ピアノトリオ第2番」。第1楽章、冒頭の堂々たる弦のユニゾンがすごい!ガット弦を全力で弾いたこの音色は格別でした。音階を上る高揚感!穏やかなところからクレッシェンドで浮かび上がるところは、音の自然なゆらぎも相まって生命力あふれる感じ。また、弦の響きの間隙を縫うようにピアノの響きが聞こえて、細かく呼応しあうリズム感が心地よかったです。ヴァイオリンとチェロが甘やかに歌ったり、時折ふと陰りを見せたり、ピアノがドラマチックだったりと、変化の多い生き生きとした流れが素晴らしい!第2楽章は、弦が奏でる哀しげなメロディが、やわらかな響きなのに胸に来る感じで、ここでもピアノが弦に合いの手を入れるような響きだったのが印象的でした。一瞬ピアノが沈黙して弦2つが重音を重ねる、悲劇的な響きがインパクト大!しかし、音がキツすぎず温かな印象でした。ピアノの支えの上でチェロとヴァイオリンが交互に歌ったところが、高音域の自然な音のゆらぎもありとても美しかったです。第3楽章、はじめのピアノと小刻みな弦の妖艶さにぞわぞわ。研ぎ澄まされたヴァイオリンの神秘的な音色がすごく素敵!下支えするキラキラしたピアノとぐっと重低音のチェロも神秘性を際立たせていました。続いてヴァイオリンとチェロが一緒に甘やかに歌ったところがまた素敵で、喜びが感じられる落ち着いた優しい音色が心に染み入りました。楽章締めくくりの低音ピッチカートとピアノの一打は、渋いのにとても温かみがある響き!第4楽章では、冒頭の弦の音色がとっても良かったです!穏やかでも幸せな思いを内に秘めている感じ。高らかに喜びを歌い出すヴァイオリンが素敵!またピアノが速いテンポで軽快に歌うところでは、シンクロしたチェロの渋さが印象的でした。緩急の波をつけながら朗らかに歌う音楽は、聴いていて清々しかったです。ラストは分厚い音の重なりで、明るく輝かしい締めくくり。なんて幸せな音楽!3つの楽器が密に絡み合う響きには、情熱だけでなく愛が感じられ、まさにブラームスの本質に触れたと感じました。

カーテンコールの後、アンコールへ。ブラームス「ピアノトリオ第3番」より 第3楽章。弦2つの重なりとピアノが交互に出てくる流れは、穏やかな大人の会話を思わせる優雅な響き。甘やかなピアノに、ポンポンと合いの手を入れた弦のピッチカートが可憐!中盤やや不穏な空気になり、少し影を感じる音色による演奏には温かな雰囲気を感じました。まるでシューマン家の居間でくつろぐ3人(ロベルトとクララそしてブラームス)のような親密さ!大熱演の後に心温まるアンコールまでありがとうございます!「オリジナル楽器で聴くブラームス」、今後ふきのとうホールにて再会できる日を心待ちにしています!


ふきのとうホール主催公演で、ブラームスの再発見があったこちらのレポートを紹介します。「レジデント・アーティスト 小菅 優コンサートシリーズ Vol.3 吉田 誠&小菅 優 デュオ・リサイタル」(2022/10/15)。独仏3つのクラリネットソナタ、それぞれ独立した歌曲を一つの物語のように構成した演奏、小菅優さんによるプログラムノート。待ち焦がれていた私達に最高の演奏で聴かせてくださいました。

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こちらの演奏会でも素晴らしいブラームスとの出会いがありました。「Kitaraアフタヌーンコンサート〉東京六人組」(2022/11/12)。3つのホールによる共同委嘱新作・ハイドンバリエーションやきらきら星変装曲等、オーケストラの響きをぎゅっと濃縮したカラフルな演奏はとっても楽しかったです!

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最後までおつきあい頂きありがとうございました。