自由にしかし楽しく!クラシック音楽

クラシック音楽の演奏会や関連本などの感想を書くブログです。「アニメ『クラシカロイド』のことを書くブログ(http://nyaon-c.hatenablog.com/)」の姉妹ブログです。

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新進演奏家育成プロジェクト リサイタル・シリーズSAPPORO23 トリオ イリゼ・リサイタル(2022/01) レポート

www.jfm.or.jp


トリオ・イリゼは、札響の赤間さゆらさん(Vn)と小野木遼さん(Vc)、そして地元札幌でご活躍の水口真由さん(Pf)の新進演奏家3名によるピアノ三重奏団です。私は今回の演奏会をKitara公式サイトの公演情報で知りました。王道のメントリをあえて前半に持ってきて、後半にブラームス第2番(演奏機会が多い第1番ではなく第2番!)。チャレンジ精神あふれるプログラムを期待のメンバーの演奏で聴ける!とあって、私は早い段階から当日を楽しみにしていました。

出演者のかたならびに関係者の皆様におことわりです。弊ブログは素人が趣味で思いつきを書いているだけのものです。今回のレポートもおそらく勘違いや大事なところの見逃し等が多々あるかと思われます。おそれいりますが、私の勝手な感想についてはどうぞ真に受けずに聞き流してくださいませ。


新進演奏家育成プロジェクト リサイタル・シリーズSAPPORO23 トリオ イリゼ・リサイタル
2022年01月21日(金)19:00~ 札幌コンサートホールKitara小ホール

【演奏】
水口真由(ピアノ)
赤間さゆら(ヴァイオリン)
小野木遼(チェロ)

【曲目】
W.A.モーツァルトピアノ三重奏曲第6番 ト長調 KV564
F.メンデルスゾーンピアノ三重奏曲第1番 ニ短調 Op.49 Q29
J.ブラームスピアノ三重奏曲第2番 ハ長調 Op.87

(アンコール)J.ブラームス:メロディのように op.105-1


全身全霊のとんでもない熱量が伝わってきた演奏、素晴らしかったです!音楽は情熱が命!奏者の皆様は、お若くてもオケの一員としての演奏やピアノ伴奏の経験を積んでいらっしゃるので、きれいにまとめる演奏はお手の物と思われます。しかしこの日のトリオイリゼの皆様が選んだのは、いつもの「お約束」とは違う道。最初から最後まで誰一人遠慮せず全力投球で重厚な独墺プログラムに挑み、見事に駆け抜けられました。今の世の中に蔓延する「ガチはダサい」みたいな風潮を跳ね飛ばす圧倒的な熱量、もう最高にカッコイイ!会場には制服姿の高校生(ご招待でしょうか?)も大勢来ていましたが、若い彼らにも良い刺激になったのでは?うちの高校生の息子も誘えばよかったです。この日の特別な空気を多くのかたと共有したかったのに、1席飛ばし収容率50%以下での開催だったのがもったいない。今度はKitara小ホールを満席にして、第2回公演の開催をお待ちしています!

聴き手に絶大なインパクトを与えたトリオイリゼでしたが、演奏はどこまでも丁寧で曲へのリスペクトが感じられました。書に例えるなら、原型が分からないほど崩した草書ではなく、思い切った筆づかいでありながらも輪郭がはっきりした楷書(あくまで個人的な印象です)。もとより技術があり全体の調和を大事にできるかたたちですから、誰かが浮くことはなくしっかりとアンサンブルが成立していました。実際フォルテッシモや華やかなメロディが主張するシーンに限らず、穏やかなところや伴奏にまわるところも皆様大変な集中力でベストを尽くしておられた印象です。また特に弦は、プロ奏者でも高音や低音に振り切った際に妙な音を発する場合がありますが、この日はそれすら皆無。個人的に好きなヴァイオリンの低音もチェロの高音も上質な音色を聴かせてくださいました。楽章の合間にも細かく調弦されていましたし、美しい響きになるように相当気を遣われていたのかも。そんな音のすべてに魂が込められた演奏のおかげで、私達はその曲を書いた頃の作曲家の思いをうかがい知ることもできました。モーツァルトは心地よいBGMで片付けられないロマン派の先駆けのような感情が垣間見え、あらゆることに恵まれていたメンデルスゾーンだって人知れず苦悩を抱え悲痛な叫びをあげる。そしてブラームスです!ピアノトリオ第2番はブラームス40代後半の作品。21歳で作曲したピアノトリオ第1番(初版)の天真爛漫さと比べたらもちろん渋くなってはいるのですが、第2番は朗らかで情熱的!少なくともこの頃のブラームスには、時々言われる諦念や厭世感といった表現はあてはまらない!と、今回の演奏を拝聴して私はそう確信しました。さらにアンコールのブラームス歌曲ではその純粋さに胸打たれ、こんなブラームスに出会えてよかったと心から思いました。本当にありがとうございます。


出演者の皆様が舞台に登場。水口さんは白のドレス、赤間さんは上半身にラメが入った黒のドレス、小野木さんは黒シャツの装い。また演奏以外の時は皆様マスク着用されていました。そして弦のお2人は紙の楽譜、ピアノの水口さんはタブレット端末の楽譜で譜めくり係はいませんでした。すぐに演奏開始です。最初の曲はモーツァルトのピアノトリオ第6番。第1楽章、弦が低い音を重ねるインパクト大な冒頭に早速引き込まれました。モーツァルトらしい軽やかなピアノに、春の日差しのようで時折鳥がさえずるようにも聞こえた弦が心地よく、途中少し日の光が陰ったような深みのある弦の音も良かったです。第2楽章は、ぽつぽつ語るようなピアノに重なる繊細な弦が素敵。この楽章では、チェロが下支えだけでなくメロディを担当する部分が増えたのも印象に残っています。中盤のちょっと切ない音楽を聴いていると、モーツァルトなのにロマン派っぽいなと思ったり。第3楽章は、軽やかなステップの素朴なダンスを思わせる音楽がじんわりと心に沁みます。ここでも中盤少し明るさに陰りが見えたのが印象的で、ラストは静かに締めくくったのも新鮮。とっても素敵でした!この後に控える大曲の前に、シンプルでもピアノトリオの三者三様の良さが感じられる曲を聴けて、私達の気持ちも温まりました。


2曲目はメンデルスゾーンのピアノトリオ第1番。第1楽章、あの冒頭チェロと続くヴァイオリンを素敵♪とゆっくり構えていた私が甘かったです。ほどなく三者が全力でぶつかり合うものすごい熱量の演奏に。緩急はありましたが力強い部分は容赦なく、全員が一歩も譲らずフォルテッシモで音を重ねるところや、弦が速いテンポで小刻みに音を刻むところ等、どこをとっても演奏の内から湧き上がるパワーがすごすぎて、私は息つく暇がないほどその勢いにのまれました。お坊ちゃんイメージのメンデルスゾーンにこんなに心かき乱されるなんて!と、楽章が終わってもしばらく呆然としてしまったほど。第2楽章は一転して「無言歌」のような音楽に。はじめの方の穏やかなピアノにうっとり。続いて歌うような弦が重なるとさらに美しさが増し、やさしい響きの良さを味わいました。個人的には、前の楽章で打ちのめされた後に少しほっとできたのもよかったです。第3楽章は、軽やかなステップを思わせる楽しい音楽が心地よく、中でもヴァイオリンのメロディを引き継いだチェロがヴァイオリンのような高音域で歌ったところや、ラストのかわいらしい弦のピッチカートとピアノの重なりが印象に残っています。第4楽章は、舞曲のようなリズムとスピード感にゾクゾク。勢いを止めること無く各楽器がメロディを受け渡していって、サブに回っても小刻みに音を刻む等で忙しく、少しでもズレたら大惨事になりそう。しかし当然ながら今回のトリオイリゼの皆様は見事に演奏されて、心配ご無用でした。速いテンポのところはもちろん素晴らしかったですが、それだけでなく、例えば中盤の少しゆったりとチェロが歌い後からヴァイオリンが重なったところの美しさが印象的でした。ラストは全員全力でのパワフルな演奏で締めくくり。大熱演、素晴らしい演奏でした!


後半はブラームスのピアノトリオ第2番。第1楽章、弦のユニゾンによる堂々とした冒頭が良すぎて、私は全幅の信頼を寄せて演奏について行こうと決めました。今回の演奏会は3曲とも掴みがすごく良かったです。ブラームスらしい重厚さがありながら、低音から高音へ上昇する高揚感が素敵!時折ぐっと情熱を抑える感じになるのもまた「らしく」て、その抑えたところの演奏も良かったです。クライマックスは冒頭のユニゾンをピアノも加わって全員で明るく演奏し楽章締めくくりへ。清々しい!第2楽章は、ゆったりしたピアノに添って弦がユニゾンで哀しげなメロディを演奏。弦は時折交互に演奏しながらも、基本ずっとシンクロ。緻密なのにそうとは感じさせない演奏が素晴らしいです。中盤の、一瞬ピアノが沈黙して弦2つが重音を重ねるところの厳粛さにはリアルに鳥肌!後の方にはヴァイオリンもチェロもピアノ伴奏に合わせたソロパートがあり、またピアノ独奏もあって、それぞれの見せ場も楽しめました。第3楽章、はじめのピアノと小刻みな弦による不安げな雰囲気にまたもや引き込まれました。中盤のブラームスらしいキラキラしたピアノとチェロの低音に支えられた、神秘的なヴァイオリンにぞわぞわ。この研ぎ澄まされたヴァイオリンの音色が超素敵でした!そしてヴァイオリンがチェロと一緒に比較的低い音域で美しいメロディを奏でたところや、ラストの低音でのピアノと弦のピッチカートが印象に残っています。ブラームス21歳当時の作品である第1番が、超高音で喜びを歌ったり可憐なピッチカートで楽章締めくくったりしたのとは大違い。もう渋くなっちゃって(笑)。第4楽章では、はじめ低音域で歌っていた弦が、ぱっと高音域になって高らかに喜びを歌い出すのがインパクト大で、聴いている私達の気持ちも上向きに。ピアノも速いテンポで多くの音を奏でて、あふれる思いを語っているかのよう。重厚さはあってもここまでまっすぐ朗らかに歌うブラームスはとても珍しく、私は演奏に全集中してその良さを噛みしめました。ラストは全員参加の幾重にも重ねた音をのばして明るく締めくくり。こんなに情熱的なブラームスが聴けて本当にうれしかったです。ありがとうございます!


カーテンコールの後、ピアノの水口さんがマイクを持ってごあいさつ。このコロナ禍の中、演奏会に来場したお客さん達と、開催に尽力くださった皆様への感謝の気持ちをお話されました。そして、会場のお客さん達は皆マスク姿ということで、マスクなしで顔を合わせられる日が一日も早く来ますようにとのお話も。こちらこそ、大変な状況の中で演奏会の準備を進め、なによりこの日に全身全霊での演奏を披露くださったことに感謝です。


アンコールは、ブラームスの歌曲「メロディのように」のピアノトリオ版!年齢を重ねるほどに偏屈になっていったブラームスですが、大家になってもこんなに素直で美しい曲を生み出しているんですよね。よく知る曲の演奏が聴ける!と私は心の中で大喜び。演奏は、ピアノの伴奏にあわせて、メロディをまずはチェロが歌い、途中からヴァイオリンがメロディを引き継いでチェロがハモるスタイルでした。つい先ほどまでパワフルで情熱的な演奏をしていた皆様が、やさしく美しい音色で歌うような演奏を聴かせてくださり、私は胸がいっぱいに。円熟期のブラームス、なんてピュアなの!私は自然と涙が出てきました。ラストはチェロ独奏が徐々にフェードアウトして控えめなピッチカートで締めくくり。演奏もアレンジも素敵でした!最初から最後まで本気の素晴らしい演奏をありがとうございました!


今回の5日前(2022/01/16)に聴いたウィステリアホールのコンサートでは、シューマンブラームスのいずれも第1番のピアノトリオが取り上げられました。ブラームス第1番は、シューマン夫妻と出会ったばかりの天真爛漫さと晩年のほの暗さ重厚さが同居。そんな多面性がある曲を、表情豊かな演奏で楽しませてくださいました。

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トリオ・イリゼのチェロ・小野木遼さんは、ウィステリアホール「チェロアンサンブル&ピアノ」(2021/08/29)にもご出演。今回のアンコールで取り上げられたブラームスの歌曲「メロディのように」は、ピアノ伴奏で小野木さんのチェロが歌う形の演奏を聴かせてくださいました。

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最後までおつきあい頂きありがとうございました。