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ウィステリアホール プレミアムクラシック 13th「ピアノ三重奏」(2022/01) レポート

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2022年最初のウィステリアホール プレミアムクラシックは「ピアノ三重奏」です。シーズンテーマのブラームスは第1番、ブラームスと縁があるシューマンも第1番。ともに代表格の作品が取り上げられるということで、私はプログラム発表当初から楽しみにしていました。

ウィステリアホール プレミアムクラシック 13th「ピアノ三重奏
2022年01月16日(日)14:00~ ウィステリアホール

【演奏】
三上亮(ヴァイオリン)
奥泉貴圭(チェロ)
新堀聡子(ピアノ)

【曲目】
シューマンピアノ三重奏曲 第1番 Op.63
ブラームスピアノ三重奏曲 第1番 Op.8

(アンコール)ブラームス:子守歌


ピアノはベーゼンドルファーでした。


シューマンブラームスのいずれも第1番のピアノ三重奏曲。このクララさんがいるホームを想定したアットホームな(と私は思っています)ピアノトリオ2曲を、慣れ親しんだウィステリアホールにて素敵な演奏で聴けて、しみじみよかったです。ご近所にほっとできる場所があるのは大変ありがたいこと。またピアノトリオはそれぞれが主役でありながら支え合うのが良いですよね。一人が突出して目立ってはおかしなことになってしまうけれど、今回の演奏家の皆様は下支えと個性が際立つところのバランスが絶妙で、安心して聴けました。普段は別々に活動されていて、全員揃ってのリハーサル時間だって限られていたはず。にもかかわらず、このクオリティの高さ!敬服いたします。三上さん、奥泉さん、記録的な大雪の中、遠方より札幌までお越し下さりありがとうございます!いつかきっと別の曲でも新堀さんとのトリオでの演奏を聴かせてくださいね。

私、シューマン室内楽はなかなかイイなと思い、最近録音をちょこちょこ聴いています。ちなみに現段階でのマイベストはピアノ五重奏曲op.44で、知的で明るいシューマンが好みです。一方、鬱なシューマンとはまだ仲良くなれていません……影があるから光が際立つのはわかるのですが、シューマンの場合はどうしてもリアルなことが思い浮かんでしまって、ちょっと今の私にはまだ厳しいです。そのため今回も、鬱なところの演奏では私は無意識に集中しないようにしていたかも(ごめんなさい!)。偏った聴き方でしたが、明るいところではシューマンらしい音楽をとっても素敵と聴き入りました。そしてブラームスでは、シューマン夫妻と若きブラームスの3人での幸せな時間が感じられ、リラックスして楽しめました。やっぱり私はブラームスのピアノトリオ第1番が好きと再確認。何度でも聴きたいです!


開演前にプレトークがありました。ヴァイオリンの三上さんは元札響コンマス、チェロの奥泉さんは札幌ご出身と、今回のゲスト演奏家は札幌にゆかりのあるかたとのこと。悪天候で空の便の欠航が続いていた中で、三上さんも奥泉さんも搭乗便が奇跡的に飛んだのだそうです。三上さんはご自分のことを晴れ男と仰っておられました。また、お三方はそれぞれブラームス第1番の演奏経験はあるものの、シューマン第1番は今回が初めてだったそう。「(リハーサルで)シューマンの不安げな感じが出せた」と新堀さん談。これから始まる演奏に期待が高まりました。

前半はシューマンのピアノトリオ第1番。第1楽章は出だしの物憂げ(でも深刻すぎない)ヴァイオリンに早速引き込まれました。掴みをヴァイオリンにしたのは、シューマンメンデルスゾーンメンデルスゾーン第1番の冒頭はチェロなので)を意識していたせい?と思ったり。厳しくも美しい響きがよかったのはもちろん、例えば弦が低い音を重ねるときの激しさやピアノが主役のときの繊細さ等、シーン毎に違う表情を見せるゆらぎが印象に残っています。第2楽章、スキップするように音が駆け上る、この感じはザ・シューマン!と聴いている私達の気分も上向きに。ただ同じシューマンの幻想小曲集op.73の人生バラ色な華やかさとは違って、大人の落ち着きが感じられます。生き生きとしたリズム感と、弦の大人っぽい音色がとっても素敵でした。第3楽章は前の楽章からガラリと雰囲気が変わって、哀しげで深く内面を見つめるかのようなゆっくりした音楽に。個人的には「妻への誕生日プレゼントなのになぜ?」とつい思ってしまう暗さ。丁寧な演奏で、ラストに全員一緒に音を止めて、短めの休符を挟んだかのようにすぐ次の楽章へ移ったのが印象的でした。第4楽章は、今までの鬱な雰囲気を振り払うように明るくパワフルな演奏に。この楽章は私が好きなシューマンです。これでこそ「まだ期待される多くのものを持っている人」。シューマン先生はこうでなくっちゃ!しかし底抜けに明るいわけではなく、切なさ悲しさも垣間見えます。目まぐるしく変化する音楽を情熱的に演奏する様に、私は引き込まれ圧倒されました。クライマックスはお三方で力強く駆け抜け、大盛り上がりで締めくくり。素晴らしかったです!

後半はブラームスのピアノトリオ第1番。第1楽章はピアノから始まり、続くあたたかで美しいチェロにたちまち心掴まれ、ああ今日これが聴けてよかったと私は胸がいっぱいに。この冒頭は、シューマン夫妻と出会ったばかりの天真爛漫なブラームスが感じられ本当に好きです。しかし曲が進むにつれ、ブラームスらしいほの暗さと重厚さも出てきて、若い頃の作品に「髪を櫛で整える」改訂をした晩年の彼も同居しているのがまた良い!そんな多面性がある曲を、奏者のお三方は表情豊かに演奏してくださいました。第2楽章では、はじめの少し不安そうな部分に引き込まれ、個性的なリズムを刻む奏者のお三方は息ぴったり。中間部の、ピアノとチェロが穏やかに幸せなメロディを奏でるのに重ねて、ヴァイオリンが高音で気持ちの高まりを歌うところが超良かったです!かわいらしいピッチカートも印象的。ここを聴くと私はなぜかクララさんを連想します。第3楽章、ブラームス晩年のピアノ小品を思わせるぽつぽつと語るようなピアノと、それに重なる繊細な弦が、派手さは無くてもこの曲のキモのように感じられ、とても良かったです。中盤、チェロがほの暗いメロディを歌うところが超素敵!ヴァイオリンも加わっての三重奏になってからは、誰かが突出して目立つわけではなく、繊細なアンサンブルが素晴らしかったです。第4楽章、ここでもはじめのチェロに心奪われ(ブラームスのチェロ偏愛ぶり!いえ大好きです)、だんだんと情熱的になる演奏にただ聞き惚れました。弦が力強く演奏するところはもちろん、ピアノが主役のターンでの対旋律や規則正しいリズムを刻む弦も印象に残っています。ピアノは、前の楽章が晩年のピアノ小品ならこちらは最初期のピアノソナタに近い情熱を感じました。天真爛漫に始まった曲は、力強く締めくくり。私、大好きな曲を最高の演奏で聴けて幸せです!


アンコールブラームス「子守歌」!ピアノの序奏から入り、主にヴァイオリンがメロディを歌いました。メロディの美しさに重なる伴奏も素敵。誰もが知る名曲を丁寧な演奏でしみじみ聴かせてくださいました。しかし管弦楽作品では重厚で男前な音楽を書くブラームスが、こんな幼子(あるいは幼子をケアする大人自身)を慈しむ優しさにあふれた作品も生み出しているんですよね。どちらも本質だと思いますし、そんなブラームスが私は好きだと再確認。今回も素晴らしい演奏をありがとうございました!


ウィステリアホールのプレミアムクラシック。今シーズンのラストとなる来月(2022/02)はブラームス弦楽四重奏&ピアノ五重奏!とても楽しみにしています!

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前回(2021/11/07)は「ソプラノ・クラリネット・ピアノ」の演奏会でした。ブラームスの歌曲とクラリネットソナタ。めずらしい編成でのシュポアシューベルト。アンコールのR.シュトラウスに至るまで、耳に身体に心地よい響きで、ずっと聴いていたい演奏でした。

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ピアノ三重奏の演奏会として、トリオ・ミーナ第3回公演(2021/11/23)も紹介させてください。隠れた名曲グラナドスに王道メントリの素晴らしさ。そして世界初演パスカル・ヒメノは斬新で超面白かったです!ちなみに2019年12月の第1回公演で、ブラームスのピアノトリオ第1番が取り上げられました。

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最後までおつきあい頂きありがとうございました。