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ブラームス室内楽シリーズ イ調で結ぶ作品集(2023/06) レポート

domingo.ne.jp
ブラームスイ長調イ短調室内楽作品を集めた演奏会が開催されました。弦奏者は全員札響メンバー、ピアノは札幌を中心に活動されている石田敏明さん。ブラームス室内楽、とりわけピアノと弦による編成が好きな私にとっては夢のような企画です!3月に開催された青木晃一&石田敏明デュオリサイタルにてこちらの演奏会を知って以来、私はこの日が来るのを心待ちにしていました。


ブラームス室内楽シリーズ イ調で結ぶ作品集
2023年06月26日(月)19:00~ 札幌コンサートホールKitara 小ホール

【演奏】
会田 莉凡(ヴァイオリン) ※札幌交響楽団コンサートマスター
青木 晃一(ヴィオラ) ※札幌交響楽団副首席ヴィオラ奏者
猿渡 輔(チェロ) ※札幌交響楽団副首席チェロ奏者
石田 敏明(ピアノ)

【曲目】
ヨハネス・ブラームス(1833-1897)作曲
 ピアノとヴァイオリンのためのソナタ 第2番イ長調 作品100
 ピアノ、ヴィオラとチェロのための三重奏曲 イ短調 作品114
 ピアノ四重奏曲 第2番 イ長調 作品26

(アンコール)ブラームス:歌曲「愛の歌 op.71-5」(ピアノ四重奏版)


ブラームスの隠れた名曲たちの充実した演奏に浸れた、とても幸せな時間でした!同じ「イ調」とはいえ作曲した年代も編成も異なる作品たちの、それぞれに異なる味わいが楽しめたのがうれしかったです。ヴァイオリニストの個性がはっきりと出るソナタ第2番では、オケのコンマスとはまた別の顔を見せてくださった会田莉凡さんのヴァイオリンをたっぷり堪能できました。また演奏機会がとても少ない三重奏曲は、今回のメンバーならではの密に溶け合う演奏が素敵!今回の演奏に触れて、私はドイツ語圏特有の「音楽する(musizieren ムジツィーレン)」の本質がようやく見えてきた気がしました。そして大曲・ピアノ四重奏曲第2番での「化学反応」の素晴らしさ!ピアノ四重奏曲第2番は比較的淡々としていて演奏時間も長いため、ドラマチックな第1番や第3番とは違った難しさがあると思われます。しかし今回ご出演の皆様にかかれば、退屈とは無縁の魅力あふれる音楽に!ブラームスの思いに丁寧に誠実に向き合い、細やかに表現しながらも生き生きとした演奏には、最初から最後まで夢中になれて50分超があっという間に感じられました。若い頃の作品でもブラームスらしさが随所に感じられ、それを余すところなく表現した演奏に浸れる――ブラームス大好きな私にとって、こんなにうれしいことはありません。私、ブラームス好きでよかった、札幌でこんなにも充実した演奏に出会えてよかった!と心の底から感激しました。素晴らしい演奏を本当にありがとうございます!

また会場には一般のお客さん達だけでなく、札響の現役メンバーに卒業メンバー、そして前日の定期を指揮した広上マエストロのお姿も!お客さんとして来場した皆様はプライベートなのでお声がけは控えましたが、終演後の和気あいあいと集う様子を拝見して、今回ご出演の皆様は仕事仲間にとても愛されていらっしゃることが窺えました。こんなに良い雰囲気の札響が、我が町のオケで本当によかった!


今回の演目はすべてブラームス作曲の、イ長調あるいはイ短調の作品です。1曲目はデュオで、「ピアノとヴァイオリンのためのソナタ 第2番イ長調 作品100」。第1楽章 そっと手触りを確かめるように優しい響きで始まったピアノと、それに応える柔らかなヴァイオリンが素敵!私は瞬時に恋に落ちました。歌曲『メロディのように op.105-1』に似たところでは、はじめにメロディを歌ったピアノは大樹のような包容力で、続いて歌ったヴァイオリンが素敵すぎて!上手く言えないのですが、美しいけど甘すぎず、自立した女性がイメージできてカッコ良かったです。また個人的には、ヴァイオリンが主役のところでの存在感はもちろんのこと、ピアノが主役の時のベースを作るヴァイオリンがとても細やかで、効果的に奥行きを作っていると感じました。ほんの一瞬、ヴァイオリン独奏となったところの儚さが愛しい。重音を繰り返し、明るく歌う楽章締めくくりが輝かしい!第2楽章 は、アンダンテとスケルツォが色合いを変化させながら交互に登場するスタイル。はじめのゆったりと優雅なアンダンテでは、ピアノとヴァイオリンがお互いを思い合うように優しく歌うのが心地よく、しみじみ聴き入りました。またスケルツォでの駆け引き(と私は勝手に妄想)はテンポ良く、足並みを揃えてからはポロロンポロロンというピアノに重なった、音を刻むヴァイオリンが愛らしい。また続くアンダンテでの、高音長くのばしながら美しく歌うヴァイオリンがなんとも素敵でした!まるで澄んだ声のソプラノが切なくラブソングを歌っているよう。その後に続いたスケルツォでのピッチカートが大きな動作も相まって超カッコイイ!「なーんてね」と冗談っぽく駆け足で締めくくるところはリズミカルで楽しかったです。第3楽章 はじめの低い音程でゆったり歌うヴァイオリンがなんて魅力的!大人の包容力を感じさせるピアノの豊かな響きも素敵でした。歌曲『わが恋は緑 op.63-5』に似たところでは、特に後半でのピアノとヴァイオリンが交互にメロディを演奏する掛け合いが素晴らしくて、ピアノがメロディを歌う際のヴァイオリンの重なり方(うねうねした音)がとても良かったです。これは愛ですね!明るくふくよかな音がいっぱいの、幸せな締めくくりが最高でした!個人的に大好きなヴァイオリン・ソナタ第2番を、会田莉凡さんのヴァイオリンで聴けた喜び!このソナタ第2番は、ブラームス若い女性歌手ヘルミーネと一番幸せだった頃の作品。ヘルミーネは守られ甘えるだけの女の子ではなく、自分の意思があり影ながら相手を支える魅力的な女性だったのではないかと想像できる、そんな素敵な演奏に出会えてうれしかったです。

2曲目はトリオで、「ピアノ、ヴィオラとチェロのための三重奏曲 イ短調 作品114」。本来はクラリネットのために作曲されたクラリネット三重奏曲(クラリネット・チェロ・ピアノ)ですが、ブラームス本人が「クラリネットヴィオラに置き換え可」としています。ヴィオラ版は演奏機会がとても少ないこともあって(私は録音を含めて今回が初聴き)、今回のメンバーでの演奏が聴けるのを私はとても楽しみにしていました。弦の配置は、舞台に向かって左側にヴィオラ、右側にチェロ。第1楽章 冒頭の哀しく歌うチェロに心掴まれました!ヴィオラが重なると更に深みが増し、ピアノの分厚い低音のざわめきにゾクゾク。三重奏で力強く盛り上がるのがすごく情熱的!2つの弦が一緒に音階を駆け上り、一緒に音が揺らぐのがとても良くて、弦同士ならではの親和性を感じました。ピアノに乗って高音域で歌っていたチェロが、ヴィオラに主役を譲るとぱっと切り替わり、ぐっと低い音でベースを作るのが素敵!2つの弦が会話するように交互に演奏したり重なったりのリズムが心地よく、主役として歌うヴィオラは柔らかな響きでピアノ・チェロと溶け合う感じが素敵!楽章締めくくりでの、低音に沈んでいくピアノ・チェロに対して、高音でフェードアウトするヴィオラが対照的で印象に残っています。第2楽章 高音域で清らかに歌うヴィオラがとっても素敵!クラリネットなら素朴な感じになるのが、ヴィオラだと艶っぽい!チェロが主役で穏やかに歌ったところもまた色気があって、弦2つそれぞれの良さを同時に味わえる幸せな時間でした。ヴィオラが甘く歌い、チェロがピッチカートで寄り添うのが超素敵!ブラームスらしいピアノの和音に乗って、繊細に表情を変化させていく弦2つ。ずっと聴いていたい良さでした!第3楽章 は、前の楽章よりも明るく軽やかになり、素朴な舞曲を踊っている感じが楽しい!三者の絡みはとても素敵でしたが、重音やピッチカートがあるチェロに対して、ヴィオラはそれが無いのがちょっと寂しい(ブラームスヴィオラ向けの編曲はしていないので当然ではあるのですが)と、ふと思ったりも(ごめんなさい!)。しかしヴィオラは重音やピッチカートがなくても表情豊かで魅力的でした。第4楽章 冒頭チェロが情熱的でカッコイイ!同じメロディを繰り返したヴィオラは情熱に哀愁も加わって更なる深み!ピアノは大きな音を響かせドラマチック!しかし情熱一辺倒ではなく、音が揺らぐたおやかなところもあって、それが無理なく繋がっているのが良かったです。クライマックスでは思いっきり情熱的に盛り上げ、音をのばしすぎず潔く締めくくったラストが印象的でした。一度は引退を決めた晩年のブラームスが、クラリネット奏者のミュールフェルトに出会って引退撤回し、最初に書いたのがこの三重奏曲。ブラームス自身が得意とする楽器(ピアノとチェロ)との組み合わせで書いたこと自体も愛ですが、三者が一緒に「音楽する」ことこそ愛!と、今回の密に溶け合う演奏に触れて実感しました。どのパートにも難しさがあるのは承知の上で、とりわけクラリネットの楽譜で演奏したヴィオラは大変だったことと存じます。素晴らしい演奏に出会えたおかげで、私は今まであまり意識してこなかったこの作品をとても好きになりました。ありがとうございます!めずらしい編成のためもあってか、演奏機会が大変少ないようですが、もっと注目されていい作品だと思います!


後半は出演者の皆様が全員揃ってのカルテットで、「ピアノ四重奏曲 第2番 イ長調 作品26」。弦の配置は、舞台に向かって左からヴァイオリン・チェロ・ヴィオラの順でした。第1楽章 冒頭の美しいピアノが温かな雰囲気で素敵!早速その世界に引き込まれました。弦が足並みを揃えてメロディをユニゾンで奏でてからの輝かしさ!大きく包み込むピアノに乗って、弦が時折1つや2つになって波を作りながら穏やかに歌うのが心地よく、ピアノが沈黙して弦の三重奏になるところの儚い感じにはハッとさせられました。力強く堂々とした響きのところの良さはもちろんのこと、ピアノと弦が細かく呼応しながらの対話や、ささやくようなところでの細やかさも印象深かったです。第2楽章 ピアノが音階の上下を何度か繰り返し、合間に入る弦の低い音が妖しくゾクッとしました。続く、ヴァイオリンから始まる弦の歌がなんて美しいこと!このギャップ萌え♪フェードアウトしていく流れでの、チェロのぐっと低い音が空気を締めてくれたのがとても印象的でした。悲劇的なピアノ(カッコイイ!)に重なる弦の悲壮感、弦の三重奏になってからは気持ちが浄化されていくよう。穏やかなピアノの和音に乗っての弦は幸せいっぱいな感じで、控えめなトリルがとっても素敵!途中で短調になって(こちらも素敵でした)、その後に続いた弦の歌がまた美しく優しい!ピアノが音階の上下をリフレインする締めくくりは、まるで幸せな今の時を慈しむようでした。第3楽章 強弱の波を作りながら各楽器が明るくリズム良く掛け合い、朗らかにダンスしている感じが楽しい。そして個人的には、中間部のトリオの情熱的な演奏にとても惹かれました。ピアノと弦3つが交互に思いの丈を叫ぶ、若くまっすぐな生命力あふれる演奏!ブラームスはこうでなくっちゃ!最初のメロディが戻ってくると前より一層輝かしくなっていたのも素敵!第4楽章 ハンガリー舞曲風のリズムによる明るく生き生きとした演奏に、聴く側の気持ちもあがりました。全員合奏の中でも、ヴァイオリンがひときわ華麗に喜びを歌っていたところが素敵!またヴァイオリンが沈黙し、ヴィオラ・チェロ・ピアノの三重奏となったところは意外性があり引きつけられました。ピアノが主役となったところの華やかさに、それを支える弦の重なりの良さ!いったん穏やかになってから、はつらつと駆け抜けるフィナーレが楽しく、堂々たる締めくくりは気分爽快!互いが支え合い絡み合うことで足し算を超えた世界が生まれる、室内楽の良さをたっぷり味わえました。50分超の演奏時間があっという間に感じた、充実の演奏はできればずっと聴いていたかったほど!若き日のブラームスが、シューマン夫妻とヨアヒムも交えて語らう時間はこんな感じだったのでは?時に熱くなりながらも音楽談義は尽きなかった、そんな情景を勝手に想像しながら、ブラームスらしい音楽そのものに浸れた幸せな時間でした。


カーテンコールでは、はじめに石田さんがマイクを持ってごあいさつ。続けて各奏者の皆様が順番にお話してくださいました。会田さんは、札響入団して2年目にして初めての札幌での室内楽とのこと。大変だった(そうですよね!)けど、kitara小ホールで弾けたことやピアニスト石田さんとの出会いへの感謝、そしてこれからも札幌での室内楽をやっていきたいとの意気込みも語られました。猿渡さんは、50分超の作品(ピアノ四重奏曲第2番)を演奏するのは大変でも、本番ならではの化学反応が楽しめたそうで、聴いてくれたお客さん達への感謝の言葉も。青木さんは、今回は「イ長調イ短調ブラームスをやったら面白そう」と石田さんに声をかけて始まった企画と仰っていました。長丁場の演奏会で、疲れていませんか?と青木さんが客席を気遣ってくださってから、アンコールの曲目紹介して、アンコールの演奏へ。ブラームスの歌曲「愛の歌 op.71-5」(ピアノ四重奏アレンジ)。穏やかなピアノに乗って、優しく甘く歌う弦が素敵!メロディを順番に歌ったり重なったりの色彩の変化も楽しめて、アレンジもとっても素敵です。ブラームスのラブソングはほんっとピュア!心洗われました。大熱演の後に、素敵なアンコールまでありがとうございます!「ブラームス室内楽シリーズ」の続編もぜひ!お待ちしています♪


Kitaraアーティスト・サポートプログラムⅡ〉青木晃一×石田敏明 デュオリサイタル~ブラームスから拡がるヴィオラ×ピアノの響~」(2023/03/15)。雄弁さと歌心と超絶技巧による「主役としてのヴィオラ」の輝き!ブラームス最後のソナタでは、感情の機微を丁寧に表現する演奏によって作曲家の最晩年の境地を見ることができました。

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森の響フレンド 札響名曲コンサート~ウィーンのヴァイオリンで聴くブラームスとJ.シュトラウス」(2023/06/17)。歌心と純粋な情熱が感じられたブラームスのヴァイオリン協奏曲、ウィーンの「方言」をマスターした道産子オケによるウィンナ・ワルツ。北海道の初夏にぴったりな華やかで明るい音楽に気持ちが晴れやかになりました。

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最後までおつきあい頂きありがとうございました。