自由にしかし楽しく!クラシック音楽

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北広島市芸術文化ホール 開館25周年記念事業「夏の夜のホワイエコンサート」 ~ MOZART & Jazzy Quintet ~(2023/07) レポート

www.city.kitahiroshima.hokkaido.jp
北広島市の花ホール 開館25周年記念事業としてクラリネット五重奏の演奏会が開催されました。この編成では代表格のモーツァルトと、多彩なジャズの名曲たちを、札幌交響楽団の現役メンバーと卒業メンバーによる演奏にて楽しめる企画。アルコール含むワンドリンク付きで、大ホールではなく広いホワイエにイスを並べ、いつでも立ち回ることができる気取らない会でした。なお120席は早い段階で全席完売。私は参加を諦めていたのですが、追加で席をご用意くださるとのお誘いがあり、恐縮しつつもご厚意に甘えてうかがいました。お招きを心より感謝いたします。


北広島市芸術文化ホール 開館25周年記念事業「夏の夜のホワイエコンサート」~ MOZART & Jazzy Quintet
2023年07月14日(金)18:30~ 北広島市芸術文化ホール(花ホール) ホワイエ

【演奏】
渡部 大三郎(クラリネット) ※元札幌交響楽団クラリネット奏者
グレブ・ニキティン(1stヴァイオリン) ※東京交響楽団コンサートマスター(元札幌交響楽団コンサートマスター
佐藤 郁子(2ndヴァイオリン) ※札幌交響楽団ヴァイオリン奏者
青木 晃一(ヴィオラ) ※札幌交響楽団副首席ヴィオラ奏者
坪田 亮(チェロ) ※元札幌交響楽団チェロ奏者

【曲目】
モーツァルトクラリネット五重奏曲 イ長調 K.581 より抜粋

オギンスキ(編曲 一柳慧):ポロネーズイ短調「祖国への別れ」
ガーシュインサマータイム
コスマ:枯葉
ベシェ:小さな花
マークス=シモーン:オール・オブ・ミー
ボンファ:黒いオルフェ
ロシア民謡黒い瞳

(アンコール)
谷村新司いい日旅立ち
イヴァノヴィチ:ドナウ川のさざなみ


リラックスした雰囲気でハイクオリティの生演奏を楽しめる、贅沢な時間を過ごすことができました!今回中心となって演奏されたクラリネットの渡部大三郎さんは、とても力強い音と多彩な表現で私達を魅了。特にジャズでの渡部さん独自の音色は、まるでヴィンテージウイスキーのような色合いと味わいの深さがありとっても素敵!ずっと吹きっぱなし話しっぱなし(トークもすべて渡部さんでした)でも、最後までその色と味は薄まることなく、たっぷりと観客を楽しませてくださいました。なお帰宅後にさっと調べたところ、渡部さんは2005年に札響を定年退職。今でも現役で演奏活動を続けていらっしゃるようです。年齢を重ねた今も活動を続け、こんなにパワフルで魅力的な演奏をなさるとは!ただただ敬服いたします。またお話の端々から、渡部さんは現在北広島市に在住されていることや、お若い頃に8年間アメリカにいらしたこと、その前の学生時代は東京にてキャバレー(下着姿の女性が踊るお店だったそう)にて演奏するアルバイトを4年続けていらしたこと等がわかりました。様々な経験を重ねて出来た年輪が、音色の色合いと味わいの深さを作っているとお見受けしました。この出会いに感謝です!

そして弦がとにかく素晴らしかったです。アドリブ的に自由自在な変化をするクラリネットにごく自然とシンクロして、弦同士の重なりやリレーでは絶妙に呼吸が合う、見事な仕事ぶり!クラシックのレパートリーとはカラーが異なるジャズの数々についても、弦が一体となってその曲が持つ特有のリズムやテンポを体現しつつ、陰影あるカラーを作り出していたと感じました。土台がしっかりしているからこそ、ソロはいっそう輝く!加えてニキティンさんのソロ演奏は存在感抜群で、クラリネットと好対照になっていました。今回ご出演の皆様は、世代は異なるとはいえ、札響で「同じ釜の飯を食ってきた」かたたち。もちろん人知れぬ苦労もあったことと存じますが、私達の目の前で繰り広げられるアンサンブルはクオリティ高く、見て聴いてとても気持ちの良いものでした。ありがとうございます!

今回のような自由に席を立ってバーコーナーに行ったり飲み物を頂いたりできる会は、私は初めてでした。大体のお客さんは大人しく座って鑑賞していましたが、自由に動いてよいとのお墨付きがあるだけでも気持ちは違います。トークの中でも渡部さんは「こちら(演奏者)の緊張もほぐれますから」と、大人しいお客さん達が好きに動けるように促してくださいました。トークではくだけたお話もたくさん出てきて、さながら夜のバーでゆったり演奏を楽しんでいるようなひととき。咳ひとつするのも憚られる真剣勝負な演奏会もいいけど、こんなリラックスした雰囲気の会も楽しいです!めずらしい企画を立て、それを実行してくださった主催の皆様にも感謝です。


開演前に、司会のかたからごあいさつと今回の演奏会についてのお話がありました。前身である「夜のロビーコンサート」の第1回にご出演くださった皆様が、今回の開館25周年記念事業コンサートにもご出演くださったということです。司会のアナウンスの後、出演者の皆様が拍手で迎えられました。男性奏者は黒シャツ、紅一点の佐藤さんはオレンジがかった黄色のオーガンジー素材のふわっとしたドレス姿で華やか♪配置は向かって左から、1stヴァイオリン・2ndヴァイオリン・チェロ・ヴィオラクラリネットでした。クラリネットの渡部さんからはじめのごあいさつと「今日は札響メンバーを4人連れてきました」(渡部さんをはじめ、全員が札響の卒業メンバーか現役メンバーという事で)。以降、演奏の合間には渡部さんによる楽しいトークがありました。また各奏者の紹介も渡部さんからで、渡部さんの「古い友達」というニキティンさんに関しては最初にプライベートな話題を(ここまで言っていいのかしらと……!)、他3名の弦奏者についてはアンコールが始まる前にそれぞれ華々しい経歴をご紹介くださいました。

最初はクラシックの演目で、モーツァルトクラリネット五重奏曲 イ長調 K.581」。渡部さんのお話によると、フランスの映画「幸福」にも使われた曲だそうです。全4楽章のうち第1楽章から第3楽章までが演奏されました。第1楽章 序奏の弦楽四重奏の美しさ!ほどなく登場したクラリネットがパワフルな音でインパクト大!クラリネットは力強く、明るいメロディの中でふと陰りを見せるところもハッキリ。また音を転がすようなところでは自由にテンポを変化させていたと私は感じました。そのテンポの変化に対し、弦はさりげなく寄り添いごく自然に溶け合っていたのが素晴らしい!チェロのピッチカートに乗って1stヴァイオリンが甘やかに歌うところや、1stヴァイオリンから始める幸せいっぱいの弦のリレーがとっても素敵で、札響の弦の良さを再確認しました。第2楽章 ゆったりと歌うクラリネットが素敵!ぐっと長くのばす音も、ささやくようなところも優しい響きで、前の楽章の力いっぱい来る感じとは異なる魅力がありました。寄り添う弦はひたすら優しく、クラリネットと呼応する1stヴァイオリンの高音が印象的でした。第3楽章 はじめの堂々としたクラリネットと華やかな弦は、素敵な音が幾重にも重なる贅沢な響き!中盤の弦楽四重奏では、少し哀しげに歌う1stヴァイオリンと、それに合いの手を入れる他の弦の掛け合いが素敵で、アンサンブルの良さをたっぷり味わえました。終盤のトリオでは、クラリネットが朗らかに歌うのを弦がズンチャッチャで支え、このリズム感がなんとも心地よく、幸せな音楽でした。なお省略された第4楽章にはヴィオラのソロがあり、私は密かに楽しみにしていたのでした……また次の機会にはぜひ第4楽章の演奏もお願いいたします!

ここからはジャズです。はじめは、オギンスキ(編曲 一柳慧)のポロネーズイ短調「祖国への別れ」ポーランド映画灰とダイヤモンド」のテーマ曲で、渡部さんの先輩の演奏家が素晴らしい録音を残している(レコードのみ)とご紹介くださいました。また、ニキティンさんの説によると、この曲の歌詞は「ロシア兵の言葉」だとか。はじめ弦楽四重奏から入り、ニキティンさんのヴァイオリンが哀しく切なく歌うのが鮮烈な印象で、とても刺さりました!クラリネットが歌うときは、ほの暗く寂しい感じで、1stヴァイオリンとクラリネットの会話が素敵!支えた3つの弦による「ポロネーズ」のリズムも印象的でした。

ガーシュインサマータイム。冒頭のパワフルで即興的なクラリネットソロがすごい!音階駆け上りが大迫力!夜の雰囲気な弦楽四重奏に乗って歌うクラリネットは、金管楽器のようなパンチある音色でサマータイム♪と歌い、独り言のようなところでは影を感じさせる、多彩な表情を見せてくださいました。

コスマ「枯葉」。先ほどとはガラリと雰囲気が変わり、シャンソンを歌うクラリネットも素敵!ベースを作る弦のタッターン♪のリズムが心地よく、ピッチカートが印象的。クラリネットと弦は親密に会話しているようでした。

ベシェ「小さな花」。弦のタッターン♪のベースに乗って、小粋に音を転がしながら歌うクラリネットの良さ!間奏部分はニキティンさんのソロ演奏がカッコイイ!ラスト直前には弦が沈黙。独白のようなクラリネットのソロに、ぐっと引き込まれました。

マークス=シモーン「オール・オブ・ミー」。フランスのシャンソンからガラリと変わった、アメリカのジャズらしいリズムが楽しい!詞の内容(重い愛?)とは裏腹に、軽快に歌うクラリネットが楽しかったです。締めくくりの弦のピッチカートが可愛らしい♪

ボンファ「黒いオルフェ。はじめのクラリネットソロの力強さ!弦のベースに乗って、ほの暗く、時に情熱的に歌うクラリネットが大人っぽくて素敵!間奏部分ではニキティンさんのソロがたっぷり、続いてチェロのソロも!今回はひたすらピッチカート(もちろん重低音で支えるのも素敵です)だったチェロに見せ場があってうれしかったです。

プログラム最後の曲は、ロシア民謡黒い瞳。ロシアの曲ということで、渡部さんは今の戦禍に触れ、ニキティンさん(モスクワのお生まれとのこと)は悩んでいらした事と「ロシアに賛成しないお考え」とお話くださいました。はじめはクラリネットソロから。この曲は私もどこかで耳にしたことがありました!正確には思い出せないのですが、日本語でどなたかが歌っていたかも?耳なじみのよいメロディを繰り返しながら、だんだんとテンポが速くなる演奏。自然と手拍子が起きたほど、客席もノリノリでした。ここまでの演奏が終わると、渡部さんとニキティンさんががっちり握手。客席からは大きな拍手が送られました。

アンコール1曲目は、谷村新司いい日旅立ち山口百恵さんが歌っていた曲ですね。渡部さんは、昨年亡くなった恩師を思いながらじっくり演奏したいと仰っていました。おなじみのメロディを、たっぷりの声量でゆったり歌うクラリネットが素敵!間奏部分はここでもまたニキティンさんのソロ演奏が冴えていました。演奏に合わせて小声で歌っていたお客さんも!

アンコール2曲目は、イヴァノヴィチ「ドナウ川のさざなみ」。「皆様ご存じの」って、ごめんなさい私は知らなかったです(苦笑)。はじめの弦によるヴァイオリンのトレモロと中低弦のピッチカートにゾクゾク。弦が作る3拍子のリズムに乗って、クラリネットの歌は哀愁ありながらも、明るく駆けるようなところもあり、人間らしさを感じる良さでした。私にとっては初聴きの曲でしたが、どこか懐かしい、昭和の雰囲気!ご年配の方々にはおなじみの曲なのでしょうか?こちらでも鼻歌を歌うお客さんがいらっしゃいましたよ。

ニキティンさんは最終便で東京に戻られるとのことで、渡部さんから簡単なごあいさつの後、会はお開きに。1時間の予定がたっぷり1時間半!とっても楽しい時間でした。演奏家の皆様、花ホールの皆様、素敵な演奏会をありがとうございました!


この日の5日前に聴いた演奏会です。「第26回北洋銀行presentsクラシックコンサート 札響メンバーによる弦楽アンサンブル」(2023/07/09)。美唄へプチ遠征。定番曲だけでなく、様々なジャンルや作曲家風に変奏する攻めた演目も。札幌でもなかなか出会えない、超充実のすごい弦楽アンサンブルでした!「桐原組」の再結成&再演を札幌でもぜひ♪

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今回ご出演のヴィオラ・青木晃一さんが中心となって企画・開催された室内楽のコンサートです。「ブラームス室内楽シリーズ イ調で結ぶ作品集」(2023/06/26)。会田莉凡さんのヴァイオリンを堪能できたソナタ、「音楽する」三重奏曲、ピアノ四重奏曲の「化学反応」の素晴らしさ!ブラームスの隠れた名曲たちの充実した演奏に浸れた、とても幸せな時間でした!

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最後までおつきあい頂きありがとうございました。