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ウィステリアホール プレミアムクラシック 15th クラリネット&ファゴット&ピアノ(2022/04) レポート

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2022年度最初のウィステリアホール主催公演です。クラリネットファゴットとピアノによる、フランス系中心のプログラム。ブラームスをシーズンテーマに掲げた昨年度(2021年度)の主催公演をすべて聴いた私は、本年度もウィステリアホールさんに全幅の信頼を寄せて、守備範囲外の演目も積極的に聴いていきたいと考えています。そして2022年度シーズン初回となる今回を楽しみにしていました。


ウィステリアホール プレミアムクラシック2022シーズン 15th クラリネットファゴット&ピアノ
2022年04月29日(金・祝)14:00~ ウィステリアホール

【演奏】
三瓶佳紀(クラリネット) ※札幌交響楽団首席クラリネット奏者
森純一(ファゴット) ※東京フィルハーモニー交響楽団ファゴット奏者
新堀聡子(ピアノ)

【曲目】
サン=サーンス クラリネットソナタ 変ホ長調 作品167
サン=サーンス ファゴットソナタ ト長調 作品168
プーランク クラリネットファゴットのためのソナタ FP 32

ジャンジャン プレリュードとスケルツォ
ボザ イタリア幻想曲
グリンカ 悲愴三重奏曲 ニ短調

(アンコール)ダンディ クラリネット三重奏曲 より 第3楽章


クラリネットファゴットによるフランス系の曲の演奏、超素敵でした!今回私は初聴きの曲ばかりでしたが、いずれも聴いていて心地よく、とても癒やされました。今回の演奏を聴いて、多くの作曲家が最晩年にクラリネットファゴット室内楽を書き残している理由が私にも少しわかった気がします。今の私が言うと叱られるかもしれませんが、人は特に人生の終盤において、人生のままならなさや自分のふがいなさを自覚させられてしまうのかもと想像します。そんな時に、クラリネットファゴットの落ち着いた深みのある音色はあくまでやさしい響きで、つらさを感じる人の心にそっと寄り添ってくれる良さがあるなと感じました。しかも今回の演目では、木管は奏法や音の高さを変える工夫で、時々「なーんてね」と洒落た外し方をしてくれるのがまた良かったです。これをエスプリというでしょうか?私、今後人生に疲れたときは、フランス系の木管室内楽を聴きたいと思います。

素人が思いつきで物を言うのをお許しください。クラリネット、なんてふくよかで素敵な音色なんでしょう!今回の演目のカラーもあるかと思われますが、穏やかとか楽しいとかそんなシンプルな形容詞一つではとても表現しきれない、様々な感情をむき出しにせずまるい音色で包んでくれているような良さが感じられました。これは本当に素敵!今後、個人的になじんできた独墺系の作品を聴き直した際に、今までとは違った印象で聴けるような気がします。そしてファゴットです!オケでは深刻な弦の合間にまるい音色で一息つかせてくれる和み系の存在と、今まで私はそんなイメージでしか認識していませんでした(ひどすぎ。ごめんなさい!)。しかし、弦がいない室内楽ファゴットはカッコ良くて頼もしい!持ち前の低音の良さはもちろんのこと、高音での速いテンポの演奏では金管のような華やかさも感じられました。今後は室内楽でもオケでも、私はクラリネットファゴットに大注目することになりそうです。木管の多彩な表情を素晴らしい演奏で聴かせてくださった三瓶さんと森さん、そしてピアノ伴奏で支えてくださった新堀さんのおかげです。ありがとうございます!


開演前に新堀さんからご挨拶。2022シーズン最初の公演ということで、年間公演予定のお話も少しありました。また、この日の新堀さんは白地に赤のグラデーション模様がデザインされたノースリーブドレス姿、木管のお二人はスーツにネクタイ姿でした。

前半1曲目はサン=サーンスクラリネットソナタ。作曲家最晩年の作品です。第1楽章、ピアノの短い序奏に続いて登場した穏やかなクラリネット。もうなんて素敵なの!と、最初から私は心掴まれました。うまく言えないのですが、穏やかで温かみがある上で哀しみも内包しているような、とてもふくよかな音色。中盤のコロコロ歌うようなクラリネットも、また寄り添うピアノがどっしり下支えしたり繊細な音で語りかけるようだったりするのも素敵でした。静かに消え入るような締めくくりも良かったです。第2楽章は、スキップするようなリズムが楽しい。メロディは明るいのに、クラリネットがほんの少しほの暗い表情を垣間見せたのが印象的でした。第3楽章はピアノの重低音とクラリネットの低い音でドラマチックな音楽に。クラリネットの深みのある音色をじっくり味わえました。またピアノの間奏を経て、後半ではクラリネットが高音で優しくささやくような感じになったのがまた素敵でした。第4楽章は、快活に速いテンポで自由に駆け抜けるクラリネットがすごい!ずっと歌っていて息継ぎできるタイミングが見当たらないのに、情熱的なメロディを区切りなく一息で演奏するのには驚かされました。多彩な表情を見せてくれた後、第1楽章のテーマが帰ってきて、最初に心掴まれたあの音色に再会。私は胸いっぱいになりました。そして第1楽章と同じようにラストは静かに締めくくり。個人的に耳慣れたブラームスとはまったくカラーが違う曲。しかし私は三瓶さんのクラリネットのおかげで、サン=サーンスクラリネットソナタに完全に魅了されてしまいました。ありがとうございます!最初の曲にドハマリした私は、この後に続く演目もとても楽しみになりました。

2曲目はサン=サーンスファゴットソナタ。作品番号はクラリネットソナタのすぐ次で、やはり作曲家最晩年の作品です。第1楽章、キラキラしたピアノに続いてファゴットが登場。なんなの超カッコイイ!と、私はまたもや冒頭で落ちました。まるく温かみのある音色なのに、影のある大人な印象。ゆったりと歌い、ふと低音から高音へ駆け上ったところは胸焦がす感じで、私もう参りました。第2楽章は、出だしの低音から早速ズキュンと胸を打ち抜かれました。舞曲の独特のリズムを、ミステリアスな音色で奏でるファゴットがとっても魅力的。第3楽章は、ゆったりしたテンポで歌うファゴットが大人の落ち着いた雰囲気で、時折高音から重低音になるのが印象的でした。一転して軽快なリズムになったフィナーレは、音を小刻みにしながら駆け抜けるファゴットがとても華やかで、ラストは明るく締めくくり。ファゴットって素敵です!クラリネットソナタと比べて数が少ないと思われるファゴットソナタですが、サン=サーンスが亡くなる年に最後のソナタとしてこの作品を残してくれたことに感謝です。もちろんそれを魅力的なファゴットによる演奏で聴かせてくださった森さんには、もっと感謝です!

3曲目に入る前に、木管のお二人のトークがありました。お二人は武蔵野音楽大学の同級生で、在学中は木管五重奏で一緒に演奏した仲だそうです。卒業後はなかなか共演する機会がなく、この日は約30年ぶりとなる共演とのこと。今回、同級生デュオで演奏するプーランククラリネットファゴットソナタについて、「同じ長さの音符を2つの楽器で違うように演奏することもできる、楽しい曲」と三瓶さん。また森さんは、プーランクが最晩年にクラリネットソナタを書いていることに触れて「ファゴットソナタを書き残してくれたら、きっと素晴らしい作品だったと思う」と仰っていました。

プーランククラリネットファゴットのためのソナタクラリネットファゴットというめずらしい編成で、作曲家20代前半に作曲されたものだそうです。基本クラリネットが高音域でメロディを担当し、ファゴットが下支えするスタイルでした。第1楽章、コロコロ高らかに歌うクラリネットに重低音で支えるファゴット!個人的にはこの低音がクセになりそう。交互に演奏して掛け合うところやピタッと音を止めるところもきっちり揃う、驚異のシンクロ率での演奏でした。ゆったりとした第2楽章は、クラリネットは低音での深みを感じる演奏もあり、ファゴットは支える役目でありながらも時折クラリネットと足並み揃えて同じように演奏するところがあったのが面白かったです。第3楽章は変化が多く、自由な感じのクラリネットに片時も離れず併走するファゴット。間合いやテンポが気持ちいいほど息ぴったり!素晴らしい演奏を聴かせて頂きました。ありがとうございます!


後半の1曲目はジャンジャン「プレリュードとスケルツォファゴット&ピアノによる演奏です。ゆったりした前半は、私は勝手にキラキラしたピアノ=海、大人びた雰囲気のファゴット=船乗り、のようなイメージで聴きました。ファゴットは基本サクソフォーンのような高音で歌い、時折ファゴットにしか出せない重低音になるのがインパクト大。ピアノの間奏を経て、後半は一転して速いテンポの楽しい感じに。ファゴットは音を小刻みにしたり何度も低音から高音へ駆け上ったり、重厚さのある音色で軽やかに歌ったのがとても素敵でした。

ボザ「イタリア幻想曲」は、クラリネット&ピアノによる演奏。ピアノの重厚な序奏から入り、クラリネットが登場。速いテンポで駆け抜けるクラリネットの超絶技巧に聴き入りました。そして中盤のシチリアーナ風の舞曲の美しさ切なさに私は胸打たれ、思わず涙。すっと懐に入ってくるようなやさしい響き、もう素敵すぎます!シチリアーナはどうやら私の弱点のようです。終盤、ピアノと掛け合いながら、まるい音色で跳ねるようなクラリネットも素敵でした。

プログラム最後の演目は、グリンカ「悲愴三重奏曲」クラリネットファゴット&ピアノというめずらしい編成の曲で、この日初めて出演者全員が揃っての演奏でした。プログラムノートによると、この曲はグリンカがイタリア留学中の青年時代に作曲したトリオで、自筆譜には「その苦しみ故に私は初めて愛を知った」と記されているそうです。第1楽章、インパクト大な強奏から入り、哀しげなメロディをクラリネットファゴットが交互に演奏。木管のあたたかみのある音色のおかげで、哀しげではあっても、一度にわーっと感情揺さぶられるのではなく、哀しみが層になってじわじわと重なる印象でした。第2楽章は、ピアノの軽快なリズムに乗って、クラリネットファゴットの掛け合いが楽しい。中盤の少しゆったりしたところも素敵でした。第3楽章、はじめのクラリネットのターンではピアノが刻む力強い一定のリズムにあわせ低音から高音まで自在に行き来しながら歌い、続いてファゴットのターンでは穏やかでありながら少し哀しみを感じる歌い方で、時折入る重低音がアクセントに。そして高音でキラキラと感情の高まりを奏でるピアノに対し、クラリネットファゴットが重なって穏やかに歌うのが印象に残っています。第4楽章は情熱的なピアノに、クラリネットファゴットの掛け合いが素朴な音色でありながら胸に来ました。しみじみ聴き入る、とっても素敵な演奏でした!こちらを聴いた限りでは、若き日のグリンカが異国の地で苦しみや哀しみを超えて知った「愛」は、きっと良いものだったのでは?と私は感じました。そして、仮にこの曲を木管ではなく弦で演奏したら、もしかすると哀しみや苦しみが強すぎて「愛」が違った印象できこえてしまうかも?と、私は後からそう思いました。ちなみにネット検索でざっと見たところ、グリンカ「悲愴三重奏曲」は木管を弦に置き換えたピアノトリオによる演奏もあるようです。しかしこの曲に関しては、私は弦での演奏は聴かずにおこうと思います。

アンコールダンディ「クラリネット三重奏曲」より 第3楽章。本来の編成(クラリネット&チェロ&ピアノ)の、チェロをファゴットに置き換えたスペシャルバージョンです。ピアノの序奏から入り、ピアノ伴奏でまずはクラリネットが、続いてファゴットがゆったりと歌い、ほどなくファゴットに寄り添うようにクラリネットも重なりました。素朴に語らうようなクラリネットファゴットが沁みます。一瞬感情が昂ぶるところもあたたかな音色が心地よく、日が沈むような静かな締めくくりも印象的でした。こんなに素敵な曲があったのですね!普段あまりに偏った作品ばかり聴いている私にとって、フランス系中心のプログラムはとても新鮮で楽しかったです。クラリネットファゴットの魅力をたっぷり堪能できました。最初からアンコールに至るまで、素晴らしい演奏をありがとうございました!


ウィステリアホールのプレミアムクラシック。昨年度(2021年度)の公演から「ソプラノ・クラリネット・ピアノ」(2021/11/07)のレビュー記事を紹介します。クラリネットは札響副首席の白子正樹さん。ブラームスの歌曲とクラリネットソナタ。めずらしい編成でのシュポアシューベルト。アンコールに至るまで、耳に身体に心地よい響きで、ずっと聴いていたい演奏でした。

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クラリネット室内楽として、こちらも紹介させてください。「2人が最後に愛したクラリネット五重奏曲~モーツァルトブラームス~」(2022/03/14)。表情豊かなクラリネットと、やさしい響きの弦。晩年にクラリネットを愛した2人の作曲家の名曲を、札響メンバー5名による愛あふれる演奏で聴けた、素晴らしい演奏会でした。

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最後までおつきあい頂きありがとうございました。