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札幌交響楽団 第647回定期演奏会(土曜夜公演)(2022/09)レポート

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↑札響公式サイトで、今回のソリスト三浦文彰さんのメッセージ動画を見ることができます。

今回(2022/09)の札響定期は、フィンランド出身の指揮者オッコ・カムさんによるオールシベリウスプログラムです。オッコ・カムさんと札響の共演は、コロナ禍での公演中止(2020年5月)を経て、2005年以来17年ぶりとなるそう。シベリウスを十八番とするマエストロの導きで、札響が得意とするシベリウスの演奏!そして協奏曲のソリストは今をときめくヴァイオリニストの三浦文彰さん!絶対良いに決まってる!と、私はとても楽しみにしていました。

今回の「オンラインプレトーク」は、札響のヴァイオリン奏者・岡部亜希子さん、オーボエ奏者・宮城完爾さんがご出演。オッコ・カムさんと札響が前回共演した時のお話やソリスト三浦さんの子供時代のお話など、長く札響と共に歩んできた宮城さんはまるで生き字引!また協奏曲の注目ポイントについては、ヴァイオリニストならではの岡部さんの視点が興味深かったです。

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札幌交響楽団 第647回定期演奏会(土曜夜公演)
2022年09月10日(土)17:00~ 札幌コンサートホールKitara 大ホール

【指揮】
オッコ・カム

【ヴァイオリン】
三浦 文彰

管弦楽
札幌交響楽団コンサートマスター:田島高宏)

【曲目】
シベリウス交響詩「大洋女神」
シベリウス:ヴァイオリン協奏曲
ソリストアンコール)J.S.バッハ無伴奏ヴァイオリン・パルティータ第1番 BWV.1002 サラバンド ドゥーブル

シベリウス:レンミンカイネン組曲(四つの伝説曲)


なんて素敵なシベリウス!同じシベリウスでも、2022年3月のピエタリ・インキネンさん指揮では胸のすくような澄んだ音がとても印象的でした。一方、今回のオッコ・カムさん指揮では、音の波やうねりに驚かされ、細かく変化するテンポやリズムに気分が高揚(グルーヴ感というのでしょうか?)、超気持ち良かったです!波やうねり、とまとめちゃうのがもったいないほど、どこをとっても同じ音や表現はなく、シーン毎に新たな表情の音楽が生まれているような演奏。それが面白くてワクワクして、私は初聴きの曲もよく知る曲も最初から最後までかなり前のめりで聴いていました。札響の新たな一面(いえ百面くらい)とシベリウスの魅力を再確認。この組み合わせは「鉄板」よね、との予想のはるか斜め上を行く、こんなサプライズは大歓迎です!

ソリスト三浦文彰さんの演奏、私は生演奏では「お初」でした。なんて美しい!私の印象では力ずくでゴリゴリ進めるのではなく、軽やかでしなやかな演奏のように感じました。名器ストラディヴァリウスの音色(超素敵!)が、まるでご自身の声と同じく自然に身体から発せられたもののよう。ただ個人的にシベリウスのヴァイオリン協奏曲の独奏は、もっと力強いイメージを持っていたので、はじめ儚げな独奏ヴァイオリンが登場したときは正直ちょっとだけ戸惑いました(ごめんなさい!)。しかし演奏に説得力が感じられ、いつの間にか繊細で壊れそうな存在に惹きつけられていました。また低音が効いたオケは独奏と対立するのではなく、どっしり構えて優しく包み込むのが良かったです。ドラマチックな第1楽章も、愛ある第2楽章も、グルーヴ感の第3楽章も、独奏とオケがぴたっと身体を密着させて同じ鼓動を感じているようで、聴いている私はドキドキしました。

それにしても、前回の定期のドミトリー・シトコヴェツキーさん然り今回のオッコ・カムさん然り、世界的な指揮者が自身の十八番の演目を振り、それに対して演奏で結果を出せる我が町のオケって、やっぱりすごいなとつくづく思います。特に弦は、前回のドミトリー・シトコヴェツキーさんはもとより、今回だってシベリウスもオッコ・カムさんも元々はヴァイオリニストでもあることから、要求されるレベルがすごく高かったのでは?しかしトゥッティもソロも当たり前のように見事な演奏をしてくださいました。力強い波や微妙なニュアンスなどの幅広い表現と作品への愛情で、奥行きや立体感のある音楽が生まれたのは、まさに奏者お一人お一人のお力によるもの。もちろん他のパートも素晴らしかったです。私は「シベリウスは弦」のイメージが強かったのですが、今回3つの作品を一度に聴くシベリウス祭りを体験したことで、実はシベリウス木管金管・打楽器・ハープの活かし方がとても上手いと、今更ながらそう思いました。管弦楽の魔術師がここにも!


1曲目は交響詩「大洋女神」。演奏機会がとても少ない演目だそうです。プログラムによると札響の過去の演奏歴は2回で、いずれも2005年3月(指揮:尾高忠明)の演奏。編成では、低音木管バスクラリネットコントラファゴット)が入り、ティンパニとハープがそれぞれ2台ずつあったのが目を引きました。中低弦とティンパニの重低音から静かに始まった冒頭、深海を思わせる響きでインパクト大!フルートの登場で、大きな存在が海面へ浮かび上がってきたように感じられました。また時折入るハープが水面のキラキラを、雄大なホルンには壮大な海のイメージが浮かびました。大きな波のように、弦がクレッシェンドとデクレッシェンドを繰り返すところが、海の深さや大きさだけでなく底知れぬ恐ろしさも感じられてすごく良かったです。オーボエに続き低音木管が登場してからはさらに不気味な感じに。うねりのような低弦が超カッコイイ!金管群が登場してからの力強さ!弦の音の波も一層激しくなり、圧倒されました。終盤は次第に波が穏やかになり、ラストは静かに締めくくり。音響の良いkitaraにて札響による演奏だからこその、壮大さに加えて底知れぬ深さまで感じられるダイナミックな音楽!隠れた名曲を生命力感じさせる素晴らしい演奏で聴けてうれしかったです。

ソリスト三浦文彰さんをお迎えして、2曲目は「ヴァイオリン協奏曲」。個人的にとても好きな曲です。ちなみに私は札響での前回の演奏(2021/03/16 指揮:飯森範親 ヴァイオリン:金川真弓)も聴いています。第1楽章、1st・2ndヴァイオリンのごく小さな音に続いて登場した独奏ヴァイオリン。儚げな美しい音色をとても素敵と感じた一方で、個人的なイメージとは少し違うかも?と、少しだけ戸惑いました。しかし、高音から低音に移った時の深さにぐっと来て、以降はソリストの個性ある音色と演奏に引き込まれました。壮大なオケ演奏を経て、ファゴット続いてクラリネットがメロディを先取りしてからの、独奏ヴァイオリンによる慟哭!なんて繊細で美しい!この壊れそうな存在を包むオケも素敵でした。ソリスト小休止のときの、低音の効いたオケにゾクゾク。低弦の重低音の波(これが個人的にツボでした)に続き、再登場した独奏ヴァイオリンの超高音がインパクト大!オケが沈黙してからの長い独奏では、kitaraに響くふくよかで美しいヴァイオリンを堪能しました。楽章の終盤では、駆け抜けていく独奏ヴァイオリンはもちろんのこと、ぴたっと併走するオケも素晴らしかったです。第2楽章、木管群の前奏に続いて登場した独奏ヴァイオリンが、落ち着きある感じでゆったりと歌うのが美しい!オケのターンでの、コントラバスの重低音(ツボ)とティンパニに乗って、弦と管がやり取りしながら高揚していくところもとっても素敵。再登場した独奏ヴァイオリンの哀しげな響きが胸を打ちました。さらにこの後の流れが良かったです。独奏ヴァイオリンとオケがゆったり対話していくうちに、いつしか独奏ヴァイオリンは幸せあふれる感じに。これはまさに愛!独奏ヴァイオリンとオケの弦が、天国的な響きで一緒にフェードアウトしたラストが印象的でした。そして第3楽章へ。中低弦とティンパニによる重低音の序奏からテンションがあがり、続いた妖艶な独奏ヴァイオリン!おそらく演奏は難しいのに、軽やかにステップを踏むようなリズミカルな演奏、超素敵でした。また今回驚いたのは、独奏ヴァイオリンが登場したタイミングで、オケの弦はヴィオラ2、チェロ2、コントラバス1と、首席・副首席のみが演奏する形になったこと。後から加わった2nd・1stヴァイオリンもそれぞれトップ2人ずつでした。独奏ヴァイオリンを際立たせる粋な演出!来ました、オケ全員参加の重低音でのメロディ!超男前!変わった音を発したホルンやファゴットも印象に残っています。メロディを今度は高音で演奏する独奏ヴァイオリンもクールで超カッコイイ!その下で音の波を作るオケの弦がまた素敵でした。独奏ヴァイオリンが頂点に達した後の壮大なオケが気持ちイイ!クライマックスでの駆け抜ける独奏ヴァイオリンには目と耳が釘付けになりました。シンクロするオケの弦の、ポンと一度きりのピッチカートがドンピシャのタイミングで入ったのが気持ち良かったです。金管群のアクセントが入るラストは独奏ヴァイオリンが駆け上り、オケも全員参加で力強い1音で潔く締めくくり。気分爽快になれる演奏でした!よく知る曲を新鮮な気持ちで聴けて、私はますますこの曲を好きになりました。

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ソリストアンコール、土曜夜公演では「J.S.バッハ 無伴奏ヴァイオリン・パルティータ第1番 BWV.1002 サラバンド ドゥーブル」。最初の重音に私は「バッハだ」とピンときて、有名なサラバンドでは美しい音色に聞き惚れました。続くドゥーブルでは、原曲にあるのかどうかわからないのですが、時折プチッとごく控えめなピッチカートが入った(違っていましたら申し訳ありません)のが印象的でした。感情を込めない純粋な音楽、やはりバッハこそ原点!ちなみに日曜昼公演では別の演目だったようです。できれば私はそちらの超絶技巧アルプス一万尺も聴いてみたかった、なんて思ったり。三浦さん、難易度エグすぎる超ハイレベルのシベリウスの協奏曲に加えて、ソリストアンコールに至るまで、素敵な演奏をありがとうございます!ぜひまた札響との協演をお待ちしています!


後半は「レンミンカイネン組曲(四つの伝説曲)」。なお今回「トゥオネラの白鳥」は3番目に演奏されました。プログラムノートによると、シベリウスは全曲版の出版の際に「白鳥」を2番目にしたとのことですが、元々は3番目だったそう。最初は「レンミンカイネンとサーリの乙女たち」。1st・2ndヴァイオリンのごく小さな音に木管群が重なる出だしに続き、中低弦が入ると木管群は軽やかに走り出して、冒険の始まりのイメージが浮かびました。低音が効いた音の波が、行く道には困難も多そうな印象。トランペットのパンチのある響きで空気が変わりました。光が見えたように明るくなってからは、歌う木管金管を支えるジェットコースターのような弦がすごい!シベリウスさんお得意の超ハイレベルでえぐい弦!高音弦が低めの音でメロディを歌うところでの、さらに低い音での低弦によるうねりが男前!ティンパニで気分があがり、爽快な音楽には視界が開けるようでした。2番目は「トゥオネラのレンミンカイネン」。コントラバスから入りすぐチェロも参戦して、細かく音を刻む低音での演奏がぞっとするような妖しさ。ヴィオラ、2ndヴァイオリン、1stヴァイオリンが順番に入ってからの、弦のトレモロによる音の波にはぞわぞわしました。木管群が入ると弦はさらに心ざわつかせる感じになり、金管群が加わると気持ちは最高潮に。感情の波が何度も寄せては返す流れの中で、弦の変化の素晴らしさはもちろんのこと、波を導く大太鼓がとても印象に残っています。何度目かの頂点に達した時の、シンバルの一撃がインパクト大!弦が一層ザワザワした後は、ずっと動いていた弦が沈黙(!)し、木管群による寂しげな音楽に。一体何が……。タンバリンに導かれてのごく小さな音による高音弦が美しい!そこに重なる高音域で歌う独奏チェロ!恐ろしい場面の描写にもかかわらず、音色の美しさに引き込まれました。3番目はいよいよ「トゥオネラの白鳥」。「オンラインプレトーク」にて宮城さんが「コールアングレ協奏曲」と仰っていた、オーボエ奏者の見せ場です!なお今回コールアングレイングリッシュホルン)独奏を担当したのは、いつもの宮城さんではなく副首席の浅原さんでした。高音弦のごく小さな音による神秘的な音の波(水面)の上を、妖しくも美しく泳ぐコールアングレ(白鳥)。楽器自体の音域のためか、チャイコフスキーの「白鳥の湖」情景でのオーボエよりも深みのある落ち着いた印象。周りで何が起きようと変わらず優雅に泳ぐ白鳥の存在感=コールアングレ独奏、素晴らしかったです!そこに時折入る独奏チェロ!前の曲では高音域だった独奏チェロは、ここでは低音域での演奏でした。やはり素敵すぎ!出番はそれほど多くないにもかかわらず、登場する度に気持ちを全部持って行かれました。そして今回、独奏チェロの一部にシンクロした独奏ヴィオラと独奏ヴァイオリンの存在に私は気付きました。影ながら響きを増幅させたりそのままメロディを引き継いで高音域を駆け上ったりしていたんですね!ありがとうございます!また一度だけ入った美しいハープも印象的でした。そして最後は「レンミンカイネンの帰郷」。中低弦とティンパニに乗って、クラリネットファゴットの低音。続いて登場した金管群のパンチのある響きが超カッコイイ!ポンと一瞬入るピッチカートにタンバリンのリズム感が気持ちイイ!メロディを高らかに歌う木管群とジェットコースターのような弦の音の波にゾクゾクし、パワフルな金管群の響きに勝利をイメージしました。クライマックス直前の、低音パート(弦も管も)とティンパニによる地鳴りのような音のうねりがすごい!ラストは全員参加で華々しく締めくくり。ものすごく夢中になれた演奏でした!録音ではよくわからなかった、緻密さと立体感、そしてこの日のグルーヴ感がもう最高!オッコ・カムさんと札響という最強タッグによるシベリウス、この日の演奏を聴けた私達は幸せです。ありがとうございました!オッコ・カムさん、ぜひまた札響と一緒にシベリウスの最高の演奏を聴かせてください。お待ちしています!


この日の1週間前に開催された「札響名曲シリーズ 森の響フレンド名曲コンサート~下野竜也の三大交響曲」(2022/09/03)。「親子丼、天丼、カツ丼」を一度に堪能!完成度の高い未完成、当たり前を堂々と主張する運命、聴きやすさと各パートの良さの新世界より。名曲と真摯に向き合った丁寧な演奏は聞き応え抜群でした。

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前回の札響定期はこちら。「札幌交響楽団 第646回定期演奏会」(土曜夜公演は2022/06/25)。シトコヴェツキーさん編曲の弦楽合奏ゴルトベルク変奏曲は、緻密かつ心に染み入る演奏でバッハの偉大さを再認識。「白鳥の湖」では、美メロだけじゃないチャイコフスキーの骨太な魅力も堪能できました。

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最後までおつきあい頂きありがとうございました。