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WISTERIA HALL PREMIUM CLASSIC Ⅸ 「ソプラノ・クラリネット・ピアノ」(2021/11) レポート

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私にとっては2週間ぶりのウィステリアホール。今回の「ソプラノ・クラリネット・ピアノ」コンサートは、今年4月にやむなく中止となった演奏会の振替公演です。開催くださりありがとうございます!ずっと楽しみに待っていました。なおチケットは90席(収容率50%以下)すべて完売したそうです。


WISTERIA HALL PREMIUM CLASSIC Ⅸ 「ソプラノ・クラリネット・ピアノ」
2021年11月07日(日)14:00~ ウィステリアホール

【演奏】
中江早希(ソプラノ)
白子正樹(クラリネット) ※札幌交響楽団副首席クラリネット奏者
新堀聡子(ピアノ)

【曲目】
ブラームス
 “セレナーデ” Op.106-1
 “メロディのように” Op.105-1
 “わが恋は緑” Op.63-5
 “永遠の愛” Op.43-1

ブラームス クラリネットソナタ第1番 ヘ短調 Op.120-1

シュポア 6つのドイツ歌曲集 Op.103
シューベルト 岩の上の羊飼い Op.129, D 965

(アンコール)R.シュトラウス モルゲン


耳に身体に心地よい響きで、もうずっとずっと聴いていたい演奏でした!この日の会場に入れた私は超ラッキーだったと思います。あくまで私の場合ですが、愛してやまない低弦や低い声の演奏を聴くと全身全霊で酔いしれる反面、色々もたないからちょっと休ませて!となってしまうことがあります(※どうかしている自覚はあります)。それに対して、ソプラノやクラリネットのやわらかで優しい音色は心地よくて、低弦や低い声とは違う意味で好きとわかったのが今回大収穫でした。今回、私の最推しのブラームスはもちろん、普段あまり聴かないシューベルトと初聴きのシュポアも「ソプラノ・クラリネット・ピアノ」の演奏で聴けて本当によかったです。ひとつ気付いたのは、この3名の作曲家はいずれも「子守歌が得意」!慈しむような音楽を心地よい響きで生み出せる作曲家たちなんですね。今回の企画・選曲の良さと、何より演奏の素晴らしさにただただ感謝です。

ソプラノの中江早希さん。人類の宝です!以前拝聴したkitara大ホールに響きわたる演奏ももちろん素晴らしかったですが、今回の小さなホールで私達ひとりひとりにやさしく語りかけるような歌声の良さといったら!この独り占め感(正確には90人占めですが)、最高です!声の豊かな表情によって感情が伝わってくる細やかな演奏で、私達はたとえドイツ語はわからなくても自然とその世界に浸ることができました。濁音が多く男性的なドイツ語(と私は勝手に思っていました)が、中江さんの演奏にかかるとやわらかで美しい響きになるのが不思議!唯一無二の上質なお声そのもののみならず、特に語尾での息が鼻に抜けるような発声のやわらかさや、やはり一言一言心を込めて発しているからでは?と素人ながらそう感じました。なお今回プログラムと一緒に配布された歌詞の対訳はすべて中江さんによるものでした。飾らない言葉ですっと入ってくる詞の中でも所々に「香気」「甘美」といった気の利いた語句が光り、「~熱く焦がれてるんだ」「~引き寄せるんだ」と韻を踏む、素敵な日本語訳。言葉を大切にしていらっしゃるかたとお見受けしました。加えてチャーミングなお人柄!中江さんに熱心なファンが多いのも頷けます。中江さん、全国で引く手あまたの超ご多忙な中、札幌の小さなホールでの公演に出演くださりありがとうございます。そしてこれからも時々はこんな室内楽形式での演奏を聴かせてください!

クラリネットの白子正樹さん。オケの一員としての演奏ではおなじみですし、今年8月には札響ポップスコンサートの「スタープレーヤー」としてのソロ演奏を私は拝聴してその実力は存じておりました。今回初めて拝聴した室内楽での演奏もとっても素晴らしかったです!コンパクトな会場での演奏は大ホールのそれとは勝手が違うと思われますが、深刻な苦悩から明るい鳥の歌まで、様々な表情での演奏を聴かせてくださいました。さりげなく心に響くその音色はとても心地よかったです。また主役に躍り出たと思ったらあっという間に脇役に切り替える(その逆もあり)流れがごく自然だったのも、後からすごいなと気付きました。あるかたが仰った「うまい人が演奏すると難しそうに聞こえない」は真理なのでしょう。私は、今まで木管楽器はほぼノーマークで、今回使用されたクラリネットの種類(色々あるんですよね?)が何なのかもわかりません(ごめんなさい!)。しかしブラームスが最晩年に引退撤回するほど魅了されたクラリネット。個人的にもっと聴いていきたいと考えていて、今回白子さんの演奏に触れたことでその思いがいっそう強くなりました。白子さん、今後ぜひ他のブラームスクラリネット作品シリーズの演奏も聴かせてください。五重奏曲はモーツァルトの名作もお願いします。もちろん札響での演奏もこれから楽しみにしています!

そしてピアノの新堀聡子さん。毎回素敵な企画とピアノ演奏で私達を楽しませてくださりありがとうございます!ブラームス室内楽の中でも特にピアノが入った作品が大好きな私にとって、今シーズンのウィステリアホールはそれを毎回たっぷり聴けちゃう夢のような企画ばかり!しかも他楽器の添え物ではない「ブラームスのピアノ」を、毎回新堀さんの演奏で聴けるなんて、こんなにうれしいことはありません。今年6月に聴いた新堀さんのオールブラームスリサイタルで大感激して以来、私は新堀さんによる「ブラームスのピアノ」を全作品(!)聴いてみたいと密かな希望を抱いています。今回のブラームス最晩年のクラリネットソナタ第1番では、最初期のピアノ・ソナタからの変化を感じ、私は感慨深く拝聴しました。またブラームス作品のみならず、他の様々な作品のピアノ伴奏も抜群の安定感で、共演するかたは皆存分にその実力を発揮されている印象です。主催公演では毎回素晴らしいゲストが最高の演奏をしてくださっていますが、それはひとえに新堀さんへの信頼の厚さによるものでは?新堀さん、これからも企画と演奏を楽しみにしています!あと私はいつも色々勝手なことばかり書いて申し訳ありません!素人の思いつきですからどうぞ真に受けずに聞き流してくださいませ。


演奏が始まる前に、新堀さんからごあいさつ。新堀さんは白のノースリーブドレス姿でした。主催公演は年6回を予定されているとのこと。この大変な時期に、毎回素晴らしい企画を実現くださりありがとうございます!

演奏内容に入ります。最初はブラームスの歌曲4曲をソプラノ&ピアノで。ソプラノの中江さんは少し紫ががったアースカラーのドレス姿でした。中江さんは暗譜で会場に目線を向けての演奏。作品番号がだんだんと若くなる演奏順でした。「セレナーデ op.106-1」ブラームスお得意のラブソング。軽快なピアノにのって、スキップするように駆け上るソプラノがなんて美しい響き!この世のものとは思えない天上的な歌声に、あっという間に引き込まれてしまいました。少しゆったりする「メロディのように op.105-1」、これが最高に素晴らしかったです!今のこの瞬間を慈しむように優しく、時折ふっと淋しげな表情もみせる丁寧な演奏に、私は思わずため息がでました。それにしても、ブラームスのそばに若い女性歌手ヘルミーネ・シュピーズがいた頃(作品番号100の前後)はどれも名曲揃いですよね!ヘルミーネは中江さんのような天上的な声で歌ってくれたのかしらと妄想がはかどります。「わが恋は緑 op.63-5」は、詩は若いですが曲自体はブラームスらしく重厚。4行の詩が2回登場する構成で、それぞれ3行目にあたる起承転結の「転」の部分の演奏が個人的にすごく心に刺さり、短い曲ながら舞台演劇のような盛り上がりが感じられました。しかしシューマン家の末子フェリックスによる中二病全開ポエム(超失礼)が、ブラームスおじさんの手にかかるとこんなにドラマチックな曲になっちゃうんですよね。すごい!「永遠の愛 op.43-1」、これはズシンと心に響きました。男性の方が激情に駆られるところで圧倒され、対して女性の方が訥々と思いをまっすぐに訴える様子に鳥肌。か弱い存在と思える女性の方に人間的な強さを感じました。重々しく始まり最後は美しい響きで締めくくったピアノも素敵。この曲はドイツ・レクイエムが世に出る前の歌曲で、まだ作曲家20代の頃の苦しい恋や苦い別離の記憶が生々しかったのかも。今回、私はよく知る曲(楽器が歌う演奏含め)ばかりでしたが、こんなにハートに訴えるブラームスの歌曲は初めて聴きました……最初から胸がいっぱいになって思わず涙。

次はクラリネット&ピアノによるブラームスクラリネットソナタ第1番」です。クラリネットの白子さんはスーツにネクタイの装い。第1楽章、冒頭の重厚なピアノに続いてすぐクラリネットが登場し、純朴でありながら意思を感じるほの暗い音色に引き込まれました。ブラームスらしい厳粛なピアノの響きが情熱的でドラマチック!またクラリネットのやわらかな音色が、「苦悩」と一言では表現できない様々な感情を抱えているように変化していったのも印象に残っています。だんだんと音が小さくなりビシッと止めた締めくくりも見事でした。第2楽章は、子守歌をやさしく歌っているようなクラリネットがとっても素敵!ピアノも前の楽章からがらりと変わって、か弱い存在に寄り添うような響きでした。第3楽章は、素朴なダンスのようなゆったりした3拍子のテンポに、ほっとします。クラリネットとピアノも息ぴったりで、メインとサブがごく自然に何度も入れ替わっていました。第4楽章では、もう最初の頃の重さ暗さはなく、生き生きとした楽しい音楽に。ピアノにシンクロして速いテンポで細かく音を刻むクラリネットが素敵!ほとんど息つく暇はない演奏だったにもかかわらず、音が途切れないどころか朗らかに「歌う」、ずっと聴いていたい演奏だったのが本当に素晴らしいです。ラスト、クラリネットもピアノも少し音をのばして余韻を残したのも印象的でした。この作品は、ブラームスクラリネット奏者ミュールフェルトをクララの家に連れて行き、自らピアノを弾いて彼女に聴かせた曲。年老いて引きこもりがちになっていたクララはとても喜んだそうです。彼らが聴いたらきっと喜んでくれそうな、人生経験を積んだからこそわかる心の機微を感じ取れた演奏でした。


後半は3名全員そろっての演奏で、ソプラノの中江さんは若草色のドレスにお着替えされていました。「ソプラノ・クラリネット・ピアノ」というめずらしい編成でも、今回取り上げられたシュポアシューベルトはいずれもアレンジではなくオリジナル曲だそう。作曲家自身がこの編成に魅力を感じていたんですね。まずはシュポア「6つのドイツ歌曲集」。私、シュポアの作品を聴いたのは今回が初めてでした。1曲目「静まれ我が心よ」は、ドラマチックで荒波のようなピアノとクラリネットに、感情を露わにするソプラノがインパクト大!こんな表現でも金切り声にならず、厳しくも美しい声だったのがとても印象に残っています。2曲目「ふたつの歌」では、コロコロと楽しそうに歌う小鳥(クラリネット)と、それを真似して(?)玉を転がす声で歌う少女(ソプラノ)。2つの歌が呼応したり重なったりしてとっても素敵!3曲目「憧れ」は、冒頭ジャズのテイストも感じられる大人な雰囲気のクラリネットに心奪われ、少し背伸びした少女のようなソプラノが良かったです。4曲目「ゆりかごの歌」、ゆりかごのようなピアノとクラリネットに、限りなく優しい歌声のソプラノ。なんて素敵なんでしょう!なんとシュポアさんも子守歌を書くのがお得意なんですね!?5曲目「ひそやかな歌」では一転、美しい響きの中にも厳しさを感じました。6曲目「目覚めよ」は、意思が感じられるソプラノに、中盤で少しずつ運命が歩みを早めて近付いてくるようなピアノとクラリネットが印象的。クラリネットはほぼ休みナシで大変だったかも?すべて表情が異なる6曲を続けての演奏だったにもかかわらず、それぞれの曲の世界がしっかりと作られており、自然と引き込まれずっと夢中になって聴けました。ソプラノの表情豊かで美しい声にうっとり。そしてクラリネットも多彩な表現で「歌」のような美しい響きを聴かせてくださいました。加えて、クラリネットはソプラノがいないときは高らかに歌い、ソプラノが登場したらさっとボリュームを下げて脇に徹する、その切り替えが素晴らしかったです!

プログラム最後の曲はシューベルト「岩の上の羊飼い」。プログラムノートによると「シューベルト最後の歌曲とされている」そうです。モーツァルトブラームスクラリネットに魅了されたのは最晩年ですから、この偶然(必然?)に何か不思議なものを感じます。演奏は、はじめのピアノとクラリネットによる序奏を経て、ソプラノが登場。その天真爛漫な感じに、私は往年のアニメ『アルプスの少女ハイジ』を思い起こしました(※発想が貧弱……)。ただ中盤では少し淋しげになり、「少女」よりは大人に近いハイティーンくらいのイメージ。後半はまた明るさを取り戻して、スキップしているような歌声にこちらも楽しくなりました。この曲はクラリネットが共演で大正解だと思います。こだまのようだったりデュエットで歌ったりあるいは伴奏したりは、クラリネットのまるい音色だからこそ天真爛漫な存在が映える気がしました。ラストの盛り上がりを一息で吹ききったクラリネットが素晴らしい!気分が上向き、爽やかな気持ちになれた演奏でした。


カーテンコールの後、ソプラノ中江さんからお話がありました。かわいらしいお声とチャーミングなお話ぶりで、会場はほっこりした雰囲気に。公演が元々4月の予定だったためか「春」を思わせる歌が多かったのは、確かにおっしゃる通りかも。しかし肌寒かったこの日、とても心温まりましたよ!アンコールR.シュトラウス「モルゲン」。愛妻家のR.シュトラウスが歌手である妻のために書いた曲のひとつで、ピアノ版だけでなく作曲家自身の編曲による管弦楽版があるそう。今回は本来の歌曲の編成(声楽&ピアノ)にクラリネットが加わったスペシャルバージョンです。イントロのクラリネットが素敵!満を持してソプラノが登場し、その美しさに息をのみました。ああなんて優しい世界!R.シュトラウスは心から妻を愛していたんだなとしみじみ。さりげない伴奏で寄り添ってくださったピアノとクラリネットによる締めくくりも見事でした。今回の演奏会は、あらゆるものに直接触れられない今の状況において、形のない人間的な心の温もりに触れたと確かに思える、スペシャルな体験でした。いえありきたりな言葉をいくつ重ねても足りないのがもどかしい。最初からアンコールに至るまで、耳に身体に心地よい響きでの素晴らしい演奏をありがとうございました!

※中江さんのツイートへのリンク失礼します。


この日の公演の一部は、後日ウィステリアホールのYouTube公式チャンネルで配信予定とのことです。皆様要チェックですよ!

なお WISTERIAHALL WEBCAST では、今回ご出演の中江早希さん、白子正樹さん(ピアノはいずれももちろん新堀聡子さん)の演奏動画が数多く公開されています。また、今回はソプラノ中江さんが演奏したブラームス「メロディのように」op.105-1は、バリトン駒田敏章さんによる演奏(こちらも超素敵です!)で聴けますよ。

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ウィステリアホールのプレミアムクラシック、前回は2週間前(2021/10/24)、朗読と歌で綴る「マゲローネのロマンス」でした。ブラームスの連作歌曲をオリジナル日本語訳による朗読と字幕付きで。舞台演劇さながらの朗読に「ブラームスのピアノ」、そしてバリトン駒田敏章さんの堂々たる演奏、素晴らしかったです!物語の世界に引き込まれ、会場にいながら中世の物語の世界を旅した幸せな時間でした。

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今回のウィステリアホール「ソプラノ・クラリネット・ピアノ」演奏会の約1週間前(2021/10/30)に聴いた「青木晃一×石田敏明 ヴィオラ・ピアノデュオコンサート」レポートは以下のリンクからどうぞ。味わい深い音色に超絶技巧の数々。札響副首席・青木さんのヴィオラはヴァイオリンに引けを取らない表現力で、「名バイプレーヤーが主役」な演奏を存分に楽しめました!

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最後にこちらも紹介させてください。何度でも推します!『ブラームス回想録集』全3巻の愛が重い感想記事は以下のリンクからどうぞ。生涯にわたって良き友だったクララ・シューマンやヨアヒムはもちろん、女性歌手ヘルミーネ・シュピーズやクラリネット奏者ミュールフェルトといったブラームスの創作に影響を及ぼした人達が様々な人物の回想録に登場します。『ブラームス回想録集』は、難しいことは抜きでシンプルに読み物として大変面白いですので、超おすすめです!

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最後までおつきあい頂きありがとうございました。