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WISTERIA HALL PREMIUM CLASSIC Ⅻ 朗読と歌で綴る「マゲローネのロマンス」(2021/10) レポート

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ブラームスの連作歌曲『美しきマゲローネのロマンス』を、オリジナルの日本語訳による朗読と字幕付きで!おそらく首都圏でもめずらしい演奏会を札幌で聴けるとあって、私は昨年度からずっと楽しみにしていました。昨年度はやむなく中止となりましたが、今回再企画されて本当にうれしかったです。そして待ちに待った演奏会当日。作品自体があまり有名ではない上に、今回は札響定期と開催日時が被っていたにもかかわらず、会場は定員90席のほとんどが埋まっていました。

なお、ブラームス『美しきマゲローネのロマンス』op.33については、今回の演奏会の前に予習を兼ねてCDを聴いた感想記事を書いています。超ざっくりと物語の内容や作品の背景を知りたいかたは、そちらの記事も参考にしてください。

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WISTERIA HALL PREMIUM CLASSIC 朗読と歌で綴る「マゲローネのロマンス」
2021年10月24日(日)14:00~ ウィステリアホール

【演奏】
駒田敏章(バリトン
新堀聡子(ピアノ)
宇井晴雄(朗読)

【曲目】
ブラームス “マゲローネのロマンス”Op.33【日本語字幕付き】
  1.旅に出れば後悔なんかしない
  2.弓矢があれば敵なしだ
  3.この胸をつらぬくのは 苦しみか喜びか
  4.愛の女神は遠いところからたった一人で訪れた
  5.惨めな男を憐れんでくれるのかい
  6.嬉しくて 浮かれて 抑えられない
  7.唇が震えている 僕は本当に口づけを?
  8.愛しのリュートよ 行かねばならぬ
    (休憩)
  9.おやすみ 愛しい人
 10.絶望
 11.幸せはつかの間の光のよう
 12.この別れは受け入れざるを得ないのか?
 13.あなた どこにいるの?
 14.私の心は解き放たれた
 15.愛は果てることなく生き続ける


ピアノはスタインウェイでした。


演奏と朗読に引き込まれ、会場にいながらにして中世の物語の世界を旅した約2時間。めったにない体験ができました!照明を工夫していた以外、過剰な装飾や映像・効果音等はナシで、小さなステージにあるのはピアノ1台と字幕を映し出すスクリーンそしてイスと譜面台のみ。純粋に物語の朗読とピアノ&バリトンによる演奏のみで物語の世界を創りあげるって、すごいことですよね。作品に真剣に向き合って素晴らしい舞台にしてくださった出演者の皆様、本当にありがとうございます!この一度きりなのがもったいないです。叶うなら再演(ウィステリアホールに限らず道外のホールでも)、CD化(もちろんオリジナル日本語訳付きで)を希望します!ここを見てくださっている音楽関係のお仕事のかた、ぜひともご検討ください!

今回は出演者の皆様が新たに日本語訳をつけられたとのこと。頭が下がります。そのオリジナル日本語訳にも工夫が見られました。例えば曲のタイトルで、第8曲は直訳すれば「わたしたちは別れなければならぬ」になるところを「愛しのリュートよ 行かねばならぬ」と主語を具体的にしてわかりやすく。第13曲「スリマ」は、「あなた どこにいるの?」と、歌詞の一行目を持ってくることで状況を把握しやすく。他もタイトルは意訳が多いようです。スクリーンに映し出された歌詞の対訳もおそらくそうなのだと思われますが、私には「ん?」と引っかかるところはなくすんなりと読めました。ただ私はドイツ語がわからないので、万一間違いがあったとしても気づけていません。申し訳ありません。

物語はテンポ良く進んでわかりやすかったので、もし予習なしのまっさらな状態で聴いてもついていけたと思います。宇井さんの落ち着いた語り口の朗読はすっと入ってきました。また会話部分では時に駒田さんも登場人物として登場し、そこでは感情が露わになる演技でさながら舞台演劇のような盛り上がりも見せてくださいました。そして新堀さんによる「ブラームスのピアノ」の安定感に、なによりバリトン駒田さんの演奏が素晴らしかったです!低い声LOVEの私のひいき目を大幅に差し引いても、ペーターが超男前!心が揺らいだりアクシデントに見舞われたりしてもヘタレにならず、むしろそんな状況すらカッコイイ!聴く人は皆とりこになるはずです。そして女性の歌だって意外にも(失礼)ハマっていて、今回の2曲に関してはそのひたむきさに胸打たれました。なお基本は立って、女性の心情を歌う曲のみイスに腰掛けての演奏でした。私、これからも様々な歌曲を駒田さんの演奏で聴きたいです。2020年3月に予定され公演中止となったブラームスシューマンの歌曲の演奏会、可能なら再企画を希望します!いえ詰まるところ演目はなんでもいいので、これからも時々は札幌にいらしてその演奏を聴かせてください!

ヨーロッパに古くから伝わるマゲローネとペーターの逸話は、キリスト教賛美の色合いが強いお話らしいのですが、今回はキリスト教にまつわる部分には深入りしていませんでした。私も自分が出来る範囲で調べてもあまりピンとこなかったので、現代の日本で演奏するときはそれでいいと思います。ただひとつだけ。今回の演奏会では、「3つの指輪」が行方不明のままで終わってしまったのが少し気になりました。物を知らない私でも、「3つの指輪」がキリスト教の世界では意味深だと何となく把握しています。一言でいいので、「3つの指輪」がペーターより先に故郷の両親のもとに戻っていると触れて頂けたら安心できたかもと個人的には思います。しかしこれは私だけかもしれませんので参考程度に聞き流してくださいませ。


演奏内容に入ります。3名の出演者の皆様が舞台に登場し、すぐに演奏開始。「むかしむかし……」と、朗読から始まりました。家柄が良く体格や容姿や知性にも恵まれ、人望もあって、馬上試合では向かうところ敵なし、でも浮かない様子のペーター。そんな彼に吟遊詩人が旅をすすめます。ピアノの序奏から入った第1曲「旅に出れば後悔なんかしない」では、バリトンの力強い歌声に私はあっという間に引き込まれました。旅に出て、パートナーを見つけて、息子に昔を語る……スクリーンの日本語字幕を追いながら聴いていると、そうかこの吟遊詩人は未来予想をしている!と、アハ体験。ペーターの父親がそうであったように、これからペーターも、そしておそらく将来のペーターの息子も同じ道を進むのねと、私は座席でひとりで感激していました。ペーターが両親を説得し、供も連れずにいざ旅立ちです。第2曲「弓矢があれば敵なしだ」バリトンが、もうとっても男前!意気揚々と進む若者の勇姿が目に浮かぶようです。当然不安だってあるのでしょうが、それが霞むほどの男らしさにホレボレしました。そしてナポリでも馬上試合では無双ぶりを発揮したペーターなのに、マゲローネに恋をして揺らぎます。第3曲「この胸をつらぬくのは 苦しみか喜びか」は、ペーターがひとりで静かに物思いにふける感じの歌声に、内省的な「ブラームスのピアノ」が心に沁みます。どうした男前?と少し心配になりますが、彼女に希望を見いだす、前向きな気持ちへの切り替えも見事でした。この後、第4曲「愛の女神は遠いところからたった一人で訪れた」第5曲「惨めな男を憐れんでくれるのかい」の、2つのペーターからの恋歌が良かったのはもちろん(ブラームスのラブソングはほんっとピュア!)、間の朗読部分でのマゲローネと乳母のやりとりが素晴らしかったです!その頃はペーターの素性がわかっていなかったので、乳母(台詞:駒田さん)はマゲローネ(台詞:宇井さん)をたしなめるわけですが、彼なしでは生きられないとマゲローネが全力で訴え、彼をあしざまに言う乳母をなじる。迫真の演技!箱入りのお姫様がこれほどまで強く主張するなんて、おそらく今までなかったでしょうし、なんだかんだで乳母は姫の味方。乳母の手引きで若い2人が逢い引き出来ることになり、ペーターがそわそわしてリュートを手に歌う第6曲「嬉しくて 浮かれて 抑えられない」。ただでさえ浮かれた設定の上に歌詞の言葉数が多く(しゃべりすぎ?)、一歩間違えればチャラい感じになってしまいそうなところを、思慮深さや知性を感じさせる演奏だったのが印象的でした。物語はいよいよ2人の逢瀬に!朗読を聴いているとドキドキします!朗読では2人はキスはしていますが、その先はわからない余白を持たせていました(原作もそうなっているはず)。そしてひとり宿に戻ったペーターが歌う第7曲「唇が震えている 僕は本当に口づけを?」が、すごく良かったです!演奏を聴いた限りでは、ペーターは意中の女性をものにして、ヒャッハーとなるチャラ男ではなく、かといって一気に冷めるクズ男でもないんです!逢瀬を思い出し現実を噛みしめながら、「一度死に生まれ変わった」と、彼女に責任を持つ覚悟を決めたんですよね。んもう男前!若い2人で何度か会ううち、ペーターはちょっと試したくなって帰国をマゲローネにほのめかし、マゲローネが取り乱して、ペーターが「違うんだ!」と全力で否定する流れ、宇井さんの一人芝居が見事でした。2人で駆け落ちすることになり、ペーターが宿での最後の夜にリュートを手に歌う第8曲「愛しのリュートよ 行かねばならぬ」。感傷に浸って、前向きに勇ましく決意表明して、再び落ち着く。ここでも私はペーターの覚悟を感じました。ここまでの演奏が終わると駒田さんの「休憩です」との一言で、前半終了。

後半は駆け落ちの場面から。夜中にマゲローネはひとりで城を抜け出し、ペーターと落ち合って、馬を走らせかなり遠くへ来たところで木陰で休むことに。ペーターがマゲローネに歌った子守歌の第9曲「おやすみ 愛しい人」が、もう超素敵!男前がこんなに優しく愛する女性を慈しむ子守歌を歌うなんて、最っ高です!私もこんなふうに低音ボイスでやさしく歌って貰って寝かしつけられたい(←)。途中でちょっと声が大きくなったのですが(自然界に語りかけている?)、再びささやくような歌声になる(姫を起こしちゃいけないと我に返った?)のもツボでした。ここからの、第10曲「絶望」がすっごい!指輪を失い、マゲローネは置き去りにして、自分は遭難したなんて、もうどうしようもない状況。しかし、絶望を歌いながらもなんという雄々しさ!ものすごい気迫に打ちのめされ、もうゾクゾクしました!場面は変わり、保護された羊飼いの小屋でマゲローネが糸車を回しながら歌う第11曲「幸せはつかの間の光のよう」。ただひとりでそっとさびしさに耐えるような歌声に、自然と涙が。個人的には、箱入り娘なりのじっと耐え忍ぶ強さも感じました。一方、異国の地にいるペーターが異国の楽器を手に歌う第12曲「この別れは受け入れざるを得ないのか?」。演出として声が揺らぐところが、異国の響きのようでもあり、また心の揺らぎのようでもあるのが、すごく印象に残っています。異国での暮らしが約2年(!)続き、ペーターは異教徒の娘スリマと駆け落ちして故郷に戻ることを決めます。しかし結局ペーターはひとりで舟をこぎ出し、スリマが本来出発の合図のために歌っている第13曲「あなた どこにいるの?」。おそらく置いていかれたことにうすうす気付いているのに、恨み言一つ言わず明るくまっすぐに歌うなんて!だめもう無理。スリマがあまりに不憫で、私はもうボロ泣きです。しかしペーターのほうは気持ちを切り替えて、船上で歌う第14曲「私の心は解き放たれた」に。もう不安はなく自信に満ちた印象。大海原を前に向かっていく様は無敵!ここからの物語の語りはちょっとだけ駆け足で(ここは長いですからね……)、ラストは結婚した2人が毎年歌った曲である第15曲「愛は果てることなく生き続ける」。声のトーンが第1曲の吟遊詩人に近い貫禄を感じさせ、ペーターは年齢を重ねたのだとわかります。物語はハッピーエンドで静かに幕を下ろしました。最後の1曲まで、声量たっぷりの素晴らしい演奏でした!


演奏が終わり、カーテンコールでは駒田さんから「めずらしい演奏会におこしくださりありがとうございます」とごあいさつ。今回の演奏会では、ドイツ語の物語の世界をいかに日本語で伝えられるかを模索したとのこと。「おわりです」でお開きとなりました。こんなに夢中になれる演奏を聴けた私達は幸せです。ありがとうございました!


WISTERIAHALL WEBCAST では、バリトン駒田敏章さんによる歌曲の演奏(解説・対訳歌詞付き)が公開されています。STAY HOME 期間中のみならず、公演再開された今も定期的に動画UPくださり、ありがとうございます!毎回楽しみにしています。

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ウィステリアホールのプレミアムクラシック、前回2021/08/24はチェロアンサンブル&ピアノでした。仙台フィル&札響のチェリスト4名の協演!皆が同列でお互いに高めあうアンサンブルの良さ!トークも楽しく、とても幸せな時間を過ごすことができました。

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最後までおつきあい頂きありがとうございました。