↑神尾真由子さんへのインタビュー動画がkitara公式にて公開されています。
ともに第13回チャイコフスキー国際コンクール(2007年)で各部門の最高位となった、神尾真由子さんとミロスラフ・クルティシェフさん。その世界的なソリストお2人によるデュオ・リサイタルがkitara主催で開催されました。2021年5月の札響定期で私達の度肝を抜いた神尾真由子さんが、今回のリサイタルではどのような神業を披露してくださるのか、期待せずにはいられません!私は日時が隣接したり重なったりした数多の他公演を見送り、この公演に全集中してのぞみました。会場は平日夜にもかかわらずほぼ満席。前日のhitaruでの札響新定期もほぼ満席だったそうですから、お客さんの中には連日参戦のかたも多かったと思われます。
<Kitaraワールドソリストシリーズ>神尾 真由子&ミロスラフ・クルティシェフ デュオ・リサイタル
2021年11月19日(金)19:00~ 札幌コンサートホールKitara 大ホール
【演奏】
神尾真由子(ヴァイオリン)
ミロスラフ・クルティシェフ(ピアノ)
【曲目】 ※プログラム記載内容から2曲目と3曲目の演奏順入れ替えがありました。以下に記載の順で演奏。
シュニトケ:古い様式による組曲
J.S.バッハ:無伴奏ヴァイオリンのためのパルティータ 第2番 ニ短調 BWV1004
リスト:巡礼の年 第2年 「イタリア」 S.161より 第7曲 ダンテを読んで―ソナタ風幻想曲
ベートーヴェン:ピアノとヴァイオリンのためのソナタ 第9番 イ長調 作品47 <クロイツェル>
(アンコール)
バッツィーニ:妖精の踊り
マスネ:タイスの瞑想曲
聴く方にも気力体力が求められる、濃密な2時間半。神尾真由子さん、すごいとか神パフォーマンスとかそんな形容ではとても言い表せない、私達の想像を遙かに超える演奏でした!若くして世界の頂点に立った演奏家が、その後ずっと人々の期待に応え続けるのは並大抵ではないはず。なのに、そんな「期待」なんて軽々と超えてまだ見ぬ高みに連れて行ってくださるなんて!同時代に生きてその演奏に直接触れられる私達は幸せです。そして神尾真由子さんと協演するミロスラフ・クルティシェフさんもまた素晴らしいです。独奏では力強いロシアピアニズムを披露してくださいました。一方デュオの演奏では、ヴァイオリンに負けない存在感でありながら、ヴァイオリンをかき消すことはしない絶妙なバランス。かつ阿吽の呼吸でテンポや強弱を細かく変化させ、ヴァイオリンと見事にシンクロしていました。日本の会場だとどうしても神尾さんお目当てのお客さんが多いと思われますが、そんな環境でも最高のパフォーマンスをされていた印象です。プロのお仕事とはいえ頭が下がります。次はぜひソリストとして日本のオケと協演し、ロシア系作曲家のピアノ協奏曲の演奏を聴かせてください!
今回が希代の名演奏だったのは誰もが認めることと思います。ただあくまで私の場合ですが、凄みに圧倒されるとそれだけで「最高!」となってしまい、細部をきちんと聴けていなかった気がするのが心残りです。また、ヴァイオリンが強奏した時の高い音がキーンと耳に触ることがあったのも少しだけ気になりました。強奏は大ホールで演奏する以上やむを得ない面があると思いますし、これだけハイクオリティな演奏の中では些末なことなのですが。リミッター振り切った凄技に打ちのめされるのは快感です。その一方で、落ち着いて細部をじっくり味わいたい気持ちもあるので、今後可能なら小ホールにて比較的地味な作品をゆったりとした演奏で聴かせて頂きたいなとも思います。今はまだこの勢いを加速する時期かもしれませんから、「ゆったり」はいつかその時が来たらぜひ。この先年齢を重ねたお2人の変化も私は知りたいです。神尾真由子さんとミロスラフ・クルティシェフさんのデュオ、これからも私は追いかけます!
お2人が舞台に登場。ミロスラフ・クルティシェフさんは黒いシャツとスラックス姿。神尾真由子さんはタイトなシルエットの白いベアトップドレスで、バックスリットが大きく開いた大胆なデザインの衣装、足元はヒールの高い銀ラメのピンヒールでした。すぐに演奏開始です。最初はシュニトケ「古い様式による組曲」。プログラムによると、シュニトケは1998年まで存命だった作曲家で、今回の作品は「18世紀音楽への指向」を表した作品だそうです。ピアノの序奏に続いてヴァイオリンが登場。そうそうこの感じ!と、私は神尾真由子さん独特の深みのある音にうれしくなりました。バロック風の独特なテンポで音を刻むピアノに、重なるヴァイオリンも丁寧に音を紡いで様々な表情に変化。1曲目と2曲目のダンスのように軽やかなメロディが楽しい。3曲目は切ない感じで、ヴァイオリンの中から空気が漏れ出る繊細な音までが素敵でした。4曲目はヴァイオリンとピアノがずっと重なり合ってドキドキ。ヴァイオリンは高音の合間に時折「深い」低い音が入るのが個人的にツボで、5曲の中ではこの4曲目「フーガ」が私は一番好きになりました。最後の5曲目の途中に登場した不協和音は、その後の高音が一層美しい響きにきこえるためのスパイスだったのかも?まだ続きがありそうな終わり方をしたのも印象に残っています。
続いて、神尾真由子さん独奏によるJ.S.バッハ「無伴奏ヴァイオリンのためのパルティータ 第2番」。プログラムノートによると、様々な国の舞曲がベースになっているようです。もうすごいものを聴きました……ヴァイオリン一挺でここまでできるんですね……。アンコールピースとして1曲さらっと演奏するのとは訳が違う、全5曲約30分を超人的な集中力での演奏。しかも発せられる音はすべて形容しがたい深さがありました。とりわけ素晴らしかったのは、最後の一番ボリュームがある5曲目「シャコンヌ」。これにはガツンとやられました。幾重にも音を重ねながら、繰り返しと変化を組み立てていく演奏は、堅牢な建築物のよう。容赦ない厳しさを打ち立てながらも、途中で一瞬登場した天国的な響きが大変美しかったのが印象的でした。他楽器のためのアレンジが数多く存在する「シャコンヌ」。やはり無伴奏ヴァイオリンの原曲が燦然と輝くからこそ、その高みを目指したいがための編曲の多さなのかもしれないなと、私は今回の神尾さんの演奏を聴いてそう思いました。
後半のはじめはミロスラフ・クルティシェフさん独奏によるリスト「巡礼の年 第2年 『イタリア』 S.161より 第7曲 ダンテを読んで―ソナタ風幻想曲」。冒頭、鍵盤に全体重をかけたような大音量に驚かされ、その後もパワフル・重厚な響きで音が多いリストの難曲を聴かせてくださいました。しかし一辺倒な弾き方ではなく、少し穏やかなところでは音量を下げて繊細に弾いていらした印象。弦がいるとつい弦ばかり追いかけてしまう私としては、今回ピアノ独奏を聴けてよかったです。独奏を聴けたおかげで、この後のソナタではピアノの演奏にも注目できました。
再びお2人で舞台に登場。神尾さんのヘアスタイルは前半のアップからストレートボブにイメチェンされていました。プログラム最後の曲は、ベートーヴェン「ピアノとヴァイオリンのためのソナタ 第9番<クロイツェル>」。約40分の大曲、凄みに圧倒されました!今後、他の録音を聴いたら物足りなく感じそうです。第1楽章はもうゾクゾクするカッコ良さ!低音から高音へ駆け上るところや、ピアノが主役のときのピッチカート、すべてに魂が揺さぶられました。少し穏やかになる第2楽章は、派手さはなくても緻密で、感情の機微が伝わってくる演奏。細かく変化を繰り返しながら、お2人は呼吸や間合いを揃えて見事にシンクロしていました。そしてバーンとピアノが登場し第3楽章へ。小刻みにステップを踏む舞曲のような音楽を楽しませて頂きました。しかし演奏する方は息つく暇はなく、ピアノとヴァイオリンが少しでもズレたら大惨事になる難しい演奏だと思います。深刻に始まった曲が明るく締めくくり。私、大好きな曲を、最高の演奏で聴けて幸せです!
アンコール1曲目は、バッツィーニ「妖精の踊り」。速いテンポで繰り出される超絶技巧の連続、もうすごいことすごいこと……。弓も弦を抑える手も目にも留まらぬ早業、同時進行で左手ピッチカートも!もう手が何本あっても足りなさそう。目の前で繰り広げられるとんでもない演奏に、私達は魂が吸い取られたように引き込まれました。私は曲名を知るまではそれこそパガニーニの「悪魔」の形容がぴったりかな?と思っていましたが、妖精さんだったんですね……。会場はどよめく拍手の嵐!拍手鳴りやまない中、お2人が演奏準備に入りアンコール2曲目へ。おなじみ、マスネ「タイスの瞑想曲」でした。先ほどの曲からガラリと雰囲気が変わり、ゆったりしたピアノに優しい音色のヴァイオリン。ヴァイオリンのささやくような音も歌う高音も深い低音も、溜息が出るような美しさ!今回は厳しさやパワフルさを感じさせる演目が続いたので、最後にこのような心癒やされる演奏を聴けてほっとしました。こんな曲の演奏もとっても素敵です!お2人の表現力の幅広さを改めて感じました。最初から最後まで魂に響く演奏をありがとうございました!
【来場御礼】
— 札幌コンサートホール Kitara (@Kitara_sapporo) 2021年11月20日
「神尾 真由子&ミロスラフ・クルティシェフ デュオ・リサイタル」にお越しいただき、ありがとうございました!神尾さんとクルティシェフさんお二人の息の合ったすてきな演奏をお楽しみいただけましたでしょうか? pic.twitter.com/8JG4m5WZXn
私がヘビロテしている1枚、神尾真由子&ミロスラフ・クルティシェフのCD「ロマンティック・ソナタ プレイズ・フランク/ブラームス/R.シュトラウス」、超おすすめです!中間楽章で惹きつける神業はさすが!恋人同士の会話のようにも聞こえるロマンティックなソナタ、プライベートでもご夫婦のお2人による息の合ったやりとりが素敵です。いつかお2人にこんなロマンティックな曲をサロンのような小さなホールで演奏して頂きたいなと、私は勝手な希望を抱いています。実現した暁には、私はチケット争奪戦を何とか制して、万難を排し聴きにうかがいます!
私が今までに聴いた世界的ヴァイオリニストの演奏会、過去のレビュー記事へのリンクを3つ貼っておきます。どの公演も強く記憶に残るスペシャルな体験でした!いずれも終演後にはCDにサインを頂いて、我が家の家宝になっています。
2019/10/6 チョン・キョンファ ヴァイオリンリサイタル2019 北広島公演(花ホール)
2019/3/24 竹澤恭子ヴァイオリン・リサイタル(ふきのとうホール)
2018/11/17 安永徹&市野あゆみ ブラームス ピアノとヴァイオリンのためのソナタ全曲演奏会(kitara小ホール)
なお、安永徹さんと市野あゆみさんは、2022/3/17に「<Kitara・アクロス福岡連携事業> 安永徹&市野あゆみ~札響・九響の室内楽」にご出演予定。私はとても楽しみにしています!
最後までおつきあい頂きありがとうございました。