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辻 彩奈&阪田 知樹 デュオリサイタル(2022/07) レポート

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ヴァイオリニストの辻彩奈さんとピアニストの阪田知樹さんのデュオリサイタルが開催されました。2022年7月に全国10カ所を回るコンサートツアーの一つで、札幌公演ではブラームスのヴァイオリン・ソナタ第2番がメインプログラム。また演目の中にはクララ・シューマンの作品も!これは絶対に聴きたい!と、私は早い段階でチケットを入手し、当日を楽しみにしていました。


辻 彩奈&阪田 知樹 デュオリサイタル
2022年07月19日(火)19:00~ 札幌コンサートホールKitara 小ホール

【演奏】
辻 彩奈(ヴァイオリン)
阪田 知樹(ピアノ)

【曲目】
J.S.バッハG線上のアリア
シューベルト:ヴァイオリンとピアノのためのソナチネ 第1番 ニ長調 D384 op.137-1
ストラヴィンスキー:イタリア組曲

クララ・シューマン:3つのロマンス op.22
ブラームス:ヴァイオリン・ソナタ 第2番 イ長調 op.100

(アンコール)
マスネ:タイスの瞑想曲
パラディス(S.ドゥシュキン):シチリアーノ


ピアノはスタインウェイでした。


愛あふれ歌心あるブラームス、想像以上の素晴らしさでした!辻さんと阪田さんはともに20代のお若いかたにもかかわらず、作曲当時50代のブラームスの想いを見事に形にしてくださったことに大感謝です!ヴァイオリン・ソナタ第2番は、「雨の歌」の愛称で親しまれている有名な第1番と、完成度が高く演奏家の勝負曲でもある第3番の2つに挟まれた真ん中っ子で、やや影が薄い存在かもしれません。しかし、ブラームスが若いアルト歌手のヘルミーネ・シュピーズに恋をしていた(※ブラームスにはクララ以外にも恋バナがいくつかあります)幸せいっぱいな頃の作品。優しく美しいメロディをずっと「歌って」いて、他の2曲に引けを取らない名曲だと私は思っています。第2番をメインに選ぶなんて、お目が高い!とはいえ派手さはなく、一歩間違えると単調でつまらなくなる怖さがある難しい曲です。そんな作品を、辻さんと阪田さんはずっと歌いながらもテンポや演出に変化をつける演奏で、男女の心情や駆け引きの機微(ヴァイオリン=ヘルミーネ、ピアノ=ブラームス、と私は勝手に設定)を丁寧に表現してくださいました。これは何度も共演を重ねてきたお2人が、高い技術があった上で、愛情込めて真摯に作品に向き合ってこられたからこそと拝察します。傍目にはさらっと演奏しているように見えても、ここに至るまでには相当な努力の積み重ねがあったに違いありません。本当にありがとうございます!

また他の選曲もとても気が利いていました。ロマンティックなブラームスソナタ2番の前座は、ブラームスと縁のあるクララ・シューマンの作品。また前半のシューベルトブラームスとはまた別の個性の「歌う」音楽で、ストラヴィンスキーは懐かしさと作曲家の個性が同居する「踊る」ような音楽。そして1曲目とアンコールの小品の数々は心穏やかになれる美しい音楽と、バラエティ豊か。しかしいずれの演目の演奏も、ヴァイオリンとピアノは対立するのではなく、信頼し合った上で重なり合う幸せな共演と感じられました。聴いている私達も幸せな気持ちになれて、音楽ってステキ!としみじみ。テレビではよくわからなかった、お2人の呼吸や間合いが絶妙に合うのを肌で感じられたのもよかったです。辻さんと阪田さん、素晴らしいデュオとの出会いに感謝!今後お2人の演奏がどのように変化していくのかもとっても楽しみです!


奏者のお2人が舞台へ。辻さんは青いドレス、阪田さんはダークスーツに白シャツにノータイでした。すぐに演奏開始です。1曲目はおなじみJ.S.バッハG線上のアリア。ゆりかごのような優しい響きのピアノに乗って、ヴァイオリンが低めの音でゆったりと美しいメロディを奏でるのにうっとり。心洗われました。丁寧にビブラートを効かせたところも印象に残っています。超有名曲をお2人の個性が感じられる演奏で、掴みはバッチリOK!

2曲目はシューベルト「ヴァイオリンとピアノのためのソナチネ 第1番 ニ長調 D384 op.137-1」。第1楽章、堂々として快活な出だしがインパクト大で早速引き込まれました。明るい音楽の流れの中で、メロディをヴァイオリンとピアノが追いかけっこしたり、細かく攻守交代しながら呼応するようにやり取りしたり、意味ある休符がぴたっと足並み揃ったりと、奏者のお2人が息ぴったりなのが素晴らしい!中盤にヴァイオリンが一瞬ふと哀しげな響きになったのも印象に残っています。第2楽章、主にピアノがメインで奏でた、ゆったりしたリズムの舞曲の響きが心地よかったです。ヴァイオリンは、ピアノがメインのときは音量を下げて細やかな演奏、逆に主役となったときは素朴でも存在感ある歌を聴かせてくださいました。第3楽章は再び快活に。スキップするようだったり駆け足だったりとテンポを細かく変化させながら、ヴァイオリンとピアノがウキウキと会話しているようで楽しい。輝かしく潔い締めくくりがインパクト大!とっても素敵でした!ヴァイオリンとピアノが対等で息ぴったりのやり取りをしながら歌っている演奏に、私は後半ブラームスへの期待がゲージMAXまで上昇しました。

ここでお2人のトークが入りました。今回の札幌公演は、全国ツアー10カ所のうちの8番目。前日は松山でリサイタルがあり、お2人はこの日に飛行機で移動してきたそう(ハードスケジュールですね……!)。着いてみたら札幌も意外と暑かったと阪田さん。「(同じ時間に)大ホールではPMFの演奏会があって、迷ったかたも多かったと思いますが、こちらを選んでくださりありがとうございます」と辻さん。いえ私の場合、こちらのリサイタルのチケットは発売初日に購入したので迷いはなかったです!ただ後から発表されたPMFの企画には、大好きなブラームスのピアノトリオ第1番があって、もし開催日時がずれていたらPMFの方も聴きたかったなとは思いました……。最後に阪田さんから今回の演目それぞれについて簡単な解説があり、トーク終了となりました。

前半ラストはストラヴィンスキー「イタリア組曲ストラヴィンスキーバレエ音楽『プルチネルラ』をヴァイオリンとピアノのために編曲したものだそうです。第1曲、ヴァイオリンの第一声から入り、すぐさまピアノとヴァイオリンが一緒に同じリズムに乗るのが素晴らしい!あうんの呼吸とはまさにこの事!安定感あるピアノに乗って、バロック期の作品のような懐かしいメロディを奏でるヴァイオリン。メロディが繰り返される度に高音で華やかだったり低音でシリアスだったり少し不穏な雰囲気だったりと表情が変化するのが楽しかったです。第2曲、低音のピアノのリズムに乗って、切なく歌うヴァイオリンが素敵。中盤の、感極まったような重音とピッチカートがインパクト大でした。第3曲、細かく音を刻みながらもスピード感ある演奏に圧倒されました。民族音楽のようでありながらどこか都会的な雰囲気。ボン、と一度だけのピッチカートで締めたのも印象的でした。第4曲、素朴な舞曲が心地よく、華やかなヴァイオリンと低音で支えるピアノが一緒にダンスしているよう。第5曲、疾走感あるリズミカルな音楽を、ヴァイオリンが時にかすれるような音でパワフルに演奏。第6曲、前半メヌエットではピアノの重低音がとても印象的でした。後半は変化が多く気迫に満ちた感じに。リズミカルで超カッコイイ!時に優等生路線から外れたりもする自由自在なヴァイオリンに、がっちり骨太で支えるピアノ。2つが見事にシンクロしながらダンスしているような演奏が最高!すごいものを聴かせて頂きました!


後半の1曲目はクララ・シューマン「3つのロマンス op.22」。私は以前ブラームスのヴァイオリンソナタ全曲演奏会にて出会い一目惚れした曲で、今回久しぶりに聴けるのを楽しみにしていました。阪田さんによると「ロマンティックな曲で、ロマン派の作曲家たち、メンデルスゾーンブラームスロベルト・シューマンのようなところもある」とのこと。せっかくなので、今回私はそれを意識して聴いてみることに。第1曲は、絵画的なメンデルスゾーンの雰囲気。ロマンティックに歌うヴァイオリンが水面を優雅に進む小舟のようで、美しくも落ち着きあるピアノは穏やかな水面のよう。そんな情景が目に浮かぶ、しっとりとした素敵な演奏でした。第2曲は、哀愁漂うヴァイオリンと寄り添うピアノが心の内面を表しているようで、1曲目とはまた違う良さがありました。強いて言えばロベルト・シューマンのシリアス展開に近いかも?個人的には、クララの曲はロベルトほど深刻ではなく、まだまだ気持ちに余裕があるようにも感じました。高めの音のピッチカートで締めくくるラストがチャーミング!第3曲、厚みのあるピアノに情熱的に歌うヴァイオリン。とってもブラームスっぽい!ピアノが旋律を引き継いで主役に躍り出た時は、ヴァイオリンはピッチカートで合いの手を入れるというところまで「らしい」!クララがこの曲を書いたときはまだブラームスとは出会っていないはずですが、ヴァイオリニストのヨアヒム(クララはこの作品をヨアヒムに献呈しています)を通じて既に2人には共通する想いがあったのかも!と、私は自席で密かに喜んでいました。クライマックスの盛り上がりを経て、曲は静かに締めくくり。私はクララの奥ゆかしい感じの締めくくりも好きですが、もしブラームスなら何かしらインパクトのあるラストを用意したかも?とも思いました(笑)。この後に続くメインのブラームスの前に、クララのロマンティックな曲が聴けてうれしかったです。

いよいよ本日のトリ、ブラームス「ヴァイオリン・ソナタ 第2番 イ長調 op.100」。第1楽章、温かみのあるピアノと柔らかく呼応するヴァイオリン!限りなく優しく美しい、この曲の本質に迫る出だしから早速心掴まれました。明るさに陰りが見える少しシリアスなところ(こちらも印象的でした)を経て、歌曲『メロディのように op.105-1』に似たところへ。大きな愛で包み込むようなピアノと甘やかに歌うヴァイオリンが素敵すぎました。お互いの信頼と愛が感じられ、まるで作曲当時のブラームスとヘルミーネが目に浮かぶよう。明るく力強い締めくくりが清々しかったです。続く第2楽章は、緩・急・緩・急……と、2種類の旋律が少しずつ変化しながら交互に登場するスタイル。「緩」では伸びやかに歌うヴァイオリンがとっても素敵!天真爛漫だったり哀しみを垣間見せたりと、豊かな表情の変化を聴かせてくださいました。また影ながらそっと支える、大人の落ち着きあるピアノも良かったです。そんなピアノが「急」では(演出として)ややぎこちなくなるのが個人的にはツボ。ここでのピアノは「好きな女性にもっと近づきたくて距離感を探っている不器用な男性」と私は勝手に妄想しています。今回、細かく音を区切りながら切ないメロディを奏でるピアノがすごく良くて、当時の作曲家自身の心情を思い胸焦がされました。そのピアノに呼応するヴァイオリンがまた素晴らしかったです。独特のリズムを刻むピアノに対して、低い音で合いの手を入れたり同じ旋律をピッチカートしたり旋律を引き継いだり。男性のアプローチに女性の方の心情が変化していく様が感じられました。この掛け合いの見事さは何度も共演を重ねてきたお2人だからこそ!そんなやり取りを最後は「なーんてね」と冗談っぽく駆け足で締めくくり。リズミカルで明るい感じに、思わず笑みがこぼれます。第3楽章は、はじめの低めの音程でゆったりと歌うヴァイオリンと包容力ある響きのピアノの重なりがとっても素敵でした。思い合う2人は落ち着いた関係になったのだなとしみじみ。多幸感に影が差す、ピアノのアルペジオも印象に残っています。歌曲『わが恋は緑 op.63-5』に似たところでは、はじめヴァイオリンが切なく歌い、続いてピアノとヴァイオリンが交互に歌う……ああ素敵すぎ!思い合う2人の語らい、これって愛ですよね!この小粋な演出を奏者のお2人は自然に流れるような演奏で、それこそ歌うように聴かせてくださいました。そして重音が印象的な、ふくよかで幸せいっぱいの明るいラストが最高でした。歌詞のない歌曲を歌っているようで、あふれる愛が感じられる演奏。こんなブラームスに出会えて本当に幸せです!ありがとうございます!

カーテンコールの後、お2人のトークに。辻さんは「くだけた話をします」と前置きした上で、「札幌と言えば六花亭。私は六花亭のマルセイバターサンドが世界で一番好きなお菓子です」と告白。私もです!0キロカロリーなら無限に食べちゃうくらい好き!また、ドレスは風呂敷に包んで持ち運ぶという辻さんは、六花亭の包装紙と同じ花が描かれている風呂敷が欲しいのだそう。それがポイント交換の景品と知って「六花亭のお菓子を頑張って食べて、ポイントを貯める」と、とっても健気なことを仰っていました。六花亭さんお願いします、辻さんに風呂敷をプレゼントしてくださいませ。そして、sns上では「バームクーヘン大使」のハッシュタグで各地のバームクーヘンを取り上げている阪田さんは、六花亭のお菓子ならチョコマロンがお好きなのだそうです。六花亭さん、もうこれは「辻彩奈&阪田知樹デュオリサイタル in ふきのとうホール」の開催待ったなしですよ!個人的には辻さんと阪田さんのデュオでブラームスのヴァイオリン・ソナタの第1番と第3番、お2人がライフワークとしているフランクのソナタの演奏も拝聴したいです。ぜひご検討をお願いいたします!もちろん楽屋にはマルセイバターサンドとチョコマロンをたくさん用意してください♪できれば六花亭の札幌本店限定で持ち帰り不可の「マルセイバターサンドアイス」も♪

トークの最後に阪田さんから曲名紹介があり、アンコール1曲目はおなじみマスネ「タイスの瞑想曲」。波のような優しい響きのピアノに、高い音でゆったりと天国的に歌うヴァイオリン。名曲を美しい響きで聴かせてくださいました。途中でぐっと低い音が登場するところもツボ。ちなみに私はこの曲の演奏にうっとりしつつ、この日の最初に聴いた「G線上のアリア」を連想。もちろんカラーが異なる曲ではありますが、包容力のあるピアノと、そのピアノに乗って伸びやかに歌うヴァイオリン――辻さんと阪田さんのデュオの良さのコアはこれなのかも?と、私は勝手ながらそう感じたのでした。

拍手喝采の会場にお2人が戻って来てくださり、曲名紹介ナシでアンコール2曲目へ。パラディス(S.ドゥシュキン)「シチリアーノ」。今回の演目のうち、この曲のみ私は初聴きで、その時は曲名はわからないまま聴いていました。独特のリズム感がある、切なくも美しい音楽が新鮮!一歩一歩、歩みを進めるような丁寧な演奏で、少しビブラートがかかったところも印象的でした。辻さん阪田さん、アンコールに至るまでバラエティ豊かな演目の数々を素晴らしい演奏で聴かせてくださり、ありがとうございました!近い将来、再び札幌でのリサイタル開催をぜひお待ちしています!

※おことわり。辻彩奈さんのお名前の「辻」は配布されたプログラムでは「一点しんにょう」の表記になっていました。しかし「一点しんにょう」の場合、web閲覧環境によっては文字化け等で読めなくなるおそれがあるため、大変申し訳ありませんが弊ブログでは「辻」の表記を採用いたしました。ご了承くださいませ。


最後に読書感想文のご紹介。ブラームス回想録集』全3巻、愛が重いレビュー記事です。「人間ブラームス」の魅力満載、そして当時の音楽文化全般についても耳よりな情報が盛りだくさん。ブラームスのファンであってもなくても超おすすめの本です!アルト歌手のヘルミーネ・シュピースがオイタしたエピソードや、ブラームスと親しかったスイスの文学者ヨーゼフ・ヴィトマンによる、ヴァイオリン・ソナタ第2番につけた歌詞(!)もありますよ。

nyaon-c-faf.hatenadiary.com


最後までおつきあい頂きありがとうございました。