ヴァイオリニストの辻彩奈さんとピアニストの阪田知樹さんのデュオリサイタルが開催されました。札幌公演は、2024年7月に全国7カ所をまわるツアーの3番目。2年ぶりに札幌にてお2人と再会できる!ブラームスのソナタは前回が第2番で今回は第3番!私は早い段階でチケットを入手し、当日を楽しみにしていました。
辻彩奈&阪田知樹デュオリサイタル
2024年07月08日(月)19:00~ 札幌コンサートホールKitara 小ホール
【演奏】
辻彩奈(ヴァイオリン)
阪田知樹(ピアノ)
【曲目】
エルガー:愛の挨拶
シューマン:3つのロマンス op.94
クライスラー:愛の喜び、愛の悲しみ、美しきロスマリン
ブラームス(ヨアヒム編):ハンガリー舞曲第1番・第5番
ブラームス:F.A.E.ソナタ より スケルツォ
シューマン:ヴァイオリン・ソナタ第1番 イ短調 op.105
ブラームス:ヴァイオリン・ソナタ第3番 ニ短調 op.108
(アンコール)
ドビュッシー(ハイフェッツ編):美しき夕暮れ
パラディス:シチリアーノ 変ホ長調
ピアノはスタインウェイでした。
札幌の地にて、辻彩奈&阪田知樹デュオに再会でき、その音楽をたっぷり味わえて最高に幸せです!メインにお魚もお肉もあって、前菜からデザートまで思いっきり楽しめたフルコース。すべてが大変美味しゅうございました!我が最推しのブラームスは、ありがたいことに青年期から円熟期までの幅広い作品が取り上げられ、それぞれの年代における情熱や歌心が楽しめました。特にエネルギッシュなソナタ第3番の充実ぶりは半端なかったです!またブラームスとは切っても切り離せない関係にあるシューマンは、相反する性格が全て地続きと感じられる説得力があり、かつシューマンらしい歌心の良さを堪能できました。加えて前半やアンコールにて取り上げられた珠玉の名曲たちは、名曲が名曲である所以がよくわかるフレッシュな演奏で、いずれもとても魅力的!なんと演奏ツアーでは各会場で異なるプログラムを組んでいらっしゃるとか(!)。デュオの引き出しの多さに驚愕です。お2人の素晴らしい演奏を前に「お若いのに」という前置きは不要!その上で、年齢的には実際お若いので、これから先きっと何十年も辻彩奈&阪田知樹デュオの演奏が聴けると思うと私はワクワクします。次はどんな演奏を聴かせてくださるのか、とても楽しみです!
ヴァイオリンの辻さんが持つ唯一無二の音と豊かな表現力に、私はまたしても魅了されました。とってもチャーミングな女性で、聴き手は身構えずに聴けるのですが、いざ演奏となると演奏そのものの力で瞬時に世界を変えるのは流石です。演奏の手元をよくよく観察すると、とても緻密で丁寧な動きをなさっていました。しかし聴き手にはそんな苦労はまったく感じさせず、流麗かつテンポと切れ味の良い、生き生きとした音楽として届くのがすごい!またヴァイオリンと思いを共有し、支えにも主役にも自在に変化する阪田さんピアノが素晴らしかったです。稀代のリスト弾きでいらっしゃる阪田さんは、ソロ演奏にて2000人超の会場の一番後ろまで届く華やかな音にて観客を魅了できるかた。しかしデュオでは音量をしっかりコントロールしてヴァイオリンの繊細な響きを潰さず、ヴァイオリンと波長を合わせながらも、ここぞというときにインパクトを与えたり、世界観の土台を作ったり、ヴァイオリンと親密に会話するようだったり。これはきっと聴き手が思うほど簡単なことではないと存じます。今回、阪田さんがトークの中でソナタ2作品について「ピアノの厚み」と仰っていたので、私は個人的に慣れ親しんできたブラームスのソナタではピアノを意識的に聴いてみました。ブラームス自身がピアノの名手だったこともありピアノパートは難易度が高いそうですが、阪田さんのピアノは安定感あってめちゃくちゃ頼れる!クララ・シューマンが「卵の上をつま先立ちで歩く」と形容したピアノの激ムズパートは、一体どこにあったのか、素人にはまったくわからないほどでした(※間違い探しのような聴き方はしていません、念のため)。ブラームスが「ピアノとヴァイオリンのためのソナタ」と名付けた通り、ピアノも弦と同じく重要だという事を、今回の演奏に出会った事で私は心底納得しました。そしてお2人はこれ以上ないほど息ぴったり!呼吸や間合いが完全に一致し、リズムやテンポが生き生きとして、初めて音楽に生命が宿るのですね!人間同士の事ですから、たとえそれぞれが素晴らしいソリストであっても、デュオになると上手くいかないケースは実際あると思います。しかし辻彩奈&阪田知樹デュオに関してはそんな心配とは無縁。輝ける2人のスターソリストがお互いに高め合う、最高のデュオです!この関係性は、人間的な相性の良さのみならず、お互いに話し合い歩み寄ることを日々繰り返し積み重ねてきた努力の賜物ではないかと拝察します。ただただ敬服いたします。私は2年前、大好きなブラームスのソナタ第2番を聴きたくて演奏会に足を運びました。そして今、演目ファーストではなく「辻彩奈&阪田知樹デュオの演奏だから聴きたい」と思いが変化。素晴らしいデュオとの出会いに感謝です。辻彩奈&阪田知樹デュオの演奏会なら、たとえプログラムにブラームスがなくても私は足を運びます!でもソナタ第1番の演奏は、いつかきっと聴けますように。
出演者のお2人が舞台へ。辻さんは白地に花柄のノースリーブドレス、阪田さんは白黒の柄の上着がおしゃれなモノトーンコーデでした。すぐに演奏開始です。前半は演奏時間が比較的短い、バラエティに富んだ作品たちが演奏されました。最初の演目は、エルガー「愛の挨拶」。優しい音色と心地よいリズムのピアノに乗って、甘く柔らかく歌うヴァイオリンが素敵!超高音に振り切ったところはこの上なく美しい!ごあいさつの1曲目に心癒されました。
シューマン「3つのロマンス op.94」。第1曲 少し哀しく温かみのあるメロディをゆったりと歌うヴァイオリンは美しく、細やかに寄り添うピアノは心の機微までもヴァイオリンと共有しているよう!中間部ではピアノがリードし、跳ねるリズムに、落ち着いて見える人も内心は胸がドキドキしているような内面の複雑さを感じられました。第2曲 歌曲を思わせる美しい音楽で、幸せでも悲しさや寂しさを内に秘めているよう。フレーズの終わりでふっと力を抜く(?)丸みを帯びた響きなど、ヴァイオリンは細やかに強弱やニュアンス変化させていて、とても繊細!中間部のやや激しくなるところも気持ちは地続きと感じられ、音を刻むピアノの力強さが印象深かったです。第3曲 はじめのヴァイオリンは深刻な感じで、ポロンポロン♪というピアノはこぼれる涙のよう。そして、スキップするようなシーンにスイッチする間合いが絶妙でした。驚くほどドンピシャなタイミング!ヴァイオリンによる、高音のステップの合間に細かく入る低音が控え目なのにインパクト大で、大はしゃぎではなく、哀しみを堪えながら口角を上げている感じが伝わってきました。ピアノから始まる、柔らかな歌も素敵でした。2年前のクララ・シューマン「3つのロマンス op.22」に続き、今回はロベルト・シューマンの「3つのロマンス op.94」を辻彩奈&阪田知樹デュオの演奏で聴けてうれしかったです!細やかかつリズム感の良い演奏で、ロベルト・シューマンが描いた「複雑な感情を内に秘めた愛」が感じられました。
ここで出演者のお2人によるごあいさつとトークがありました。辻さんによると、この日の前半プログラムは親しみやすい小品を集めたとのこと。阪田さんから、この日のプログラムについて、1曲目のエルガー(イギリス)は別として、クライスラーはオーストリア、他はドイツ出身の作曲家による独墺プログラム、と紹介。また、前半は「ヴァイオリンの美」を、後半のソナタ2作品では(ヴァイオリンだけでなく)ピアノの厚みも楽しんで頂けると思います、と仰っていました。阪田さんの名解説に、「いきなり話を振ったのに、ありがとうございます」と辻さん。なんと、打ち合わせも台本もナシだったんですね!?すごいです!
クライスラーの「愛の三部作」は3曲続けての演奏でした。「愛の喜び」はじめの思いっきり華やかなところは、ヴァイオリンもピアノも幸せの絶頂のような明るく自信に満ちた響き!瞬時に目が覚めるインパクトでした。交互に登場した少し穏やかなところは、ヴィンナ・ワルツを思わせる明るさとリズム感。一本調子ではなくステップが細かく変化。その間合いが絶妙で、ヴァイオリンとピアノがちょっと駆け引きしながら軽やかに楽しくダンスしているようでした。「愛の悲しみ」幸せの絶頂から一変、哀しいメロディを歌うヴァイオリンが美しい!ヴァイオリンが細かく音を刻むところも聴く側には滑らかに感じられ、全体としてはたゆたうような音楽と私は感じました。ワルツは少し幸せな感じで、寄り添うピアノのリズムが心地よかったです。細かくビブラートを繰り返して、タン♪と小さな音で終わったラストが愛らしい!「美しきロスマリン」は、まさに舞踏会に可愛らしい女性が現れたかのようで、美しく柔らかな音色で楽しそうにステップを踏むヴァイオリンがなんとも魅力的でした。楽しい時間は、突然(と私は感じました)タン♪と控え目な可愛らしい音で締めくくり。もっと浸っていたかったのに(笑)。美メロとリズムの良さで、ヴァイオリンの魅力をたっぷり堪能できました。
ここでも出演者のお2人によるトークがありました。まずは辻さんから、2年前の札幌での公演で話題となった、「マルセイバターサンド」と「六花亭の風呂敷」について。マルセイバターサンドが大好きなことが痛いほど伝わってくる、熱いお話しぶりが微笑ましかったです。辻さんの猛アピールが功を奏してか(?)、今回楽屋のお菓子にはマルセイバターサンドが用意されていたのだそう(!)。また、「じゃんじゃん食べて」お買い物ポイントを貯めて交換しなくては手に入らない「六花亭の風呂敷」は、2年前の札幌公演の後に、なんと主催する道新プレイガイドの関係者からプレゼントされた(!)とのこと。「きっとご自分のポイントを使って」と、贈って下さった方への気遣いもされていました。2枚とも(ということは、贈ってくださったのはお2人!?)演奏会のドレスを包むのに大活用されているそうです。本当によかった!望みは言ってみるものですね!辻さんにプレゼントしてくださったかた達に大感謝です!阪田さんは、美味しいものが多い北海道での滞在中の食事を楽しみにしているそうですが、いかんせん滞在期間が短いため、思うようには回りきれない、といった事を仰っていました。そして六花亭のお菓子の中では、阪田さんは2年前と同じく「チョコマロン」推し。「チョコマロン」は空港などでは見かけないため、帰る前にできれば直営店に寄りたいとのこと。楽しいお話しに、会場もほっこりしました。美味しいものを食べに、ぜひ何度でも札幌にいらしてくださいませ!
ブラームス(ヨアヒム編)の「ハンガリー舞曲」から2曲。「第1番」ヴァイオリンのはじめの1音の深み!艶っぽく歌うヴァイオリンが超カッコイイ!ピアノのキラキラした音の美しさ!がっちり支えるピアノとヴァイオリンが一緒に刻むリズムに、聴いている方も血が騒ぎました。情熱的なところでのやや掠れた音の存在感!一気に駆け抜け、強奏での締めくくりがアツイ!「第5番」はじめからガンガン飛ばしてくるヴァイオリンに色気たるや!ピアノの下支えが、ヴァイオリンの裏拍(?)で鳴ったりメロディと鏡映しで音階を上下したりと、まるでオーケストラのような厚み奥行きでゾクゾクしました。中間部のBメロでは、じっくり抑揚を付けて何度もクレッシェンドを繰り返す波が印象深かったです。ジャンジャンジャン!とビシッと潔い締めくくりがクール!躍動感あふれるヴァイオリンに、がっちり支えるピアノ。超絶カッコイイ舞曲にクラクラしました!
前半最後の演目は、ブラームス「F.A.E.ソナタ」 より スケルツォ。ブラームスが20歳で書いた、貴重なヴァイオリンとピアノのための曲!ヨアヒムのモットー「自由だが孤独に(Frei aber einsam)」にちなんで、ヨアヒムと親しい3人の音楽家の合作で作られ、ヨアヒムに献呈された作品です。ブラームスは40代でソナタ第1番を世に送り出す前に、例によって同じ編成の曲をいくつも破棄していますが、「F.A.E.ソナタ」は他の作曲家(シューマン、ディートリッヒ)との合作だったために破棄を免れました(ありがたい・涙)。こんなにブラームスを追いかけている私でも、生演奏で聴くのはなんと今回が初めてで、個人的にとても楽しみにしていました。ダダダダー ダダダダー ♪と、ヴァイオリンのぐっと低い音の渋さに、最初からしびれる!ピアノの下でエネルギーをためているようにうねりながら、ぱっと主役に躍り出るヴァイオリンが鮮やか!ダダダダダダ……♪と力強く鳴るピアノがエネルギッシュで、まだ何も諦めていない頃のブラームスらしさを感じ、うれしくなりました。前のめりなテンポで生き生きと、メインとサブを滑らかに交代しながら、ぐいぐい進む演奏が清々しい!中間部の少し穏やかなところは丁寧に美しく聴かせてくださいました。若きパッションあふれる作品を、お若いデュオの生き生きとした演奏で聴けて幸せです!破棄された他の作品も聴いてみたかった……と、叶わぬ事をつい思ったりも。
後半は、大作のソナタが2つ取り上げられました。1曲目は、シューマン「ヴァイオリン・ソナタ第1番 イ短調 op.105」。第1楽章 重厚なピアノに乗って、ヴァイオリンがほの暗く歌ったり高音で情熱的に訴えかけてきたりと、1つの流れの中で陰と陽を行ったり来たり。そのどちらもハッとさせられる明快さがあり、それでも気持ちはどこかを彷徨っているような不思議な感じで、お2人が作る世界にぐっと引き込まれました。ヴァイオリンによる、シューマンらしい音階駆け上りは足取り確かで気持ちイイ!中盤、ピアノが起点となった(演出として)疾走するようなところにもシューマンらしさが感じられ、ぐっと来ました。クライマックスの力強さ!第2楽章 温かなピアノと優しく滑らかに歌うヴァイオリン。まるで歌曲のよう!と感じました。ちょっと小走りになるところのリズムが楽しい!情熱的になるところは舞曲のように感じられました。ラストのピッチカートは、指先で弦をそっとなでて鳴らした小さな音。タンタン♪と囁くようなピアノと重なり、愛らしい!第3楽章 ヴァイオリンもピアノも細かく音を繰り出す流れは息つく暇もないほどで、緊迫感がありながらも生き生きとした掛け合いに引き込まれました。メロディをやり取りしながらメインとサブが鮮やかに交代するのも、タッターン♪で足並み揃えるのも、呼吸と間合いが見事にぴったりなのが気持ちイイ!テンポが変化するところも、回想のようなメロディも、前へ前へと進むその勢いに乗るのが快感でした。強奏を繰り返す堂々たる締めくくりがカッコイイ!情熱も歌心も躍動感も、すべて地続きと思える説得力ある演奏に引き込まれました。次はシューマンのソナタ2番の演奏もぜひ聴かせてください!
プログラム最後の演目は、ブラームス「ヴァイオリン・ソナタ第3番 ニ短調 op.108」。第1楽章 そっと始まったヴァイオリンの切なく美しい響きが素敵!低音で支えるピアノの安定感!ヴァイオリンの抑揚に合わせてピアノがタタタタン♪と奏でる、その鼓動がぐっと来ました。ピアノの強奏から始まる展開では、ヴァイオリンとピアノが密に絡み合っての情熱的な演奏がアツイ!ヴァイオリンの重音や深みある低音のインパクトはもちろんのこと、重なりながら表に出たり裏に回ったりするピアノの鮮やかさが印象深かったです。大らかで美しいピアノ独奏からの流れでは、ヴァイオリンが強弱や抑揚を細やかに変化させながらうねうねした音を連ねていて、気持ちが途切れない1つの連なりに引き込まれました。ついに悲鳴を上げたヴァイオリンの気迫!続くピアノがドラマチック!ヴァイオリンの熱情は、秘めた思いがあるからこその説得力を感じました。ヴァイオリンとピアノが細かく呼応し合う、間合いが気持ちイイ!楽章の締めくくりでは、ヴァイオリンが万感の思いが込められた響きでゆっくり音階を下っていくのがなんとも美しく、重なるピアノがゆっくり音階を上っていきタララン♪と締めくくったのには希望の光が見えるようでした。第2楽章 優しいピアノに乗って、ゆったりと落ち着きある低音で歌うヴァイオリンが美しい!ピアノが前向きに変化したときは、ヴァイオリンの音色も柔らかく変化して、伏し目がちだったのが顔を上げたようにも感じられて、ジーンと来ました。柔らかな重音の優しさ!ビブラートは今この時を慈しんでいるよう!思いやりと愛あふれる、温かで美しい調べが心に染み入りました。ブラームスはこうでなくっちゃ!第3楽章 研ぎ澄まされた空気で細かく呼応しあうピアノとヴァイオリンは、これ以上ないほどぴたっと呼吸が合っていて、掛け合いの見事さにホレボレ。激しい盛り上がりでのヴァイオリンのシャープな音がキレッキレ!後に続く展開への期待に胸が高まる、緊迫感とリズム感にドキドキしました。そっと締めくくり、そのまま続けて第4楽章へ。 はじめから全力で来る激情に震える!高音で情熱的に歌うヴァイオリンの気迫に、支えるピアノの厚みとダイナミックさに、ゾクゾクしました。タンタ タタンタ♪と力強く歩みを進めるピアノ独奏が骨太かつ重厚でしびれる!メロディを引き継いだヴァイオリンは繊細で美しく、支えに回ったピアノの奥行きがさらにヴァイオリンの美を際立たせていたと感じました。激しいところの気迫のすごさはもちろんのこと、ピアニッシモで細やかに演奏するところも引き込まれる良さで、そこから2人でぐわっと強奏で盛り上がっていく流れがカッコイイ!ピアノから始まる力強い締めくくりが鮮烈!なんてパッション!ブラームスが50代で書いた作品が、こんなにも情熱に満ちあふれた音楽だったなんて!知っていたつもりの曲で、初めて出会ったかのような新鮮な気持ちになれた、幸せな出会いでした。
カーテンコール。続いてお2人のトークがありました。辻さんは「いつも自分たちでプログラムを考えるのに、演奏後はいつも疲れています」と衝撃の告白。そうですよね……こんなにも盛りだくさんプログラムですもの。でも聴く方としてはとってもありがたいです。「あれもこれもと欲張ってしまって。お楽しみ頂けたならうれしいです」との言葉に、会場から大きな拍手が起きました。また、今回のツアーでは札幌は3カ所目で、前々日はブラームスのソナタ全曲、前日はフランスものプログラムの公演だったとのこと。前日名古屋での公演の後に、新幹線で東京に移動して飛行機に乗り、夜のうちに札幌入りされたのだそうです。超ハードスケジュール!しかも3日続けて異なるプログラム!お2人ともお若いとはいえ、相当大変なことと存じます。おそれいりました!阪田さんは、プログラム最後に取り上げたブラームスについて、「2年前は2番を取り上げて、今回は3番。3番は(若い頃とは違った達観もあるけれど)エネルギッシュなんです!」と仰っていました。熱い演奏を聴いたばかりの私達もそれは納得です!「(2年前は2番に続いて)3番を札幌の皆様と共有できてうれしい」。札幌市民も同じ思いで、会場には温かな拍手が起きました。
トークの最後に阪田さんから曲名紹介があり、アンコール1曲目はドビュッシー(ハイフェッツ編)「美しき夕暮れ」。元々は歌曲で、名ヴァイオリニストによる編曲版です。序奏のピアノの柔らかさ美しさに驚愕!ドイツものの重厚さとはカラーが異なるピアノにまず心掴まれました。ヴァイオリンは囁くように始まり、こちらにも気持ちを持っていかれました(!)。感極まる超高音の美!柔らかく美しく歌いながらも、それだけではないゆらぎや音の掠れ(表現が適切でなかったらごめんなさい)がとても魅力的でした。歌曲の歌詞(帰宅に調べました)を確認すると、「死」を意識(!)したもので、単に「キレイ」だけでは片付けられない世界のようです。ほんの短い時間で、こんなにも奥行きを感じさせる演奏に感激です!
拍手喝采の会場にお2人が戻って来てくださり、曲名紹介ナシでアンコール2曲目へ。パラディス「シチリアーノ 変ホ長調」。2024年6月26日にリリースされたばかりの辻彩奈&阪田知樹デュオのCDに収録されている曲!私は演奏が始まってすぐにピンときました。一歩ずつ歩みを進めるヴァイオリンの細やかさ、寄り添うピアノの心地よいリズム。ヴァイオリンが前向きな感じになると、ピアノもまたじんわり明るく変化して、まるで水彩絵の具が重なっていくよう。しっとりと美しい音楽は、子守歌のようにも感じられた優しい世界!お2人にとって重要なレパートリーを、最後の最後に心を込めた演奏で聴かせてくださり、ありがとうございます!
終演後、CD購入者対象のサイン会がありました。私は新譜を手に列に並び、お2人にはCD本体にサインをして頂いて、少しお話しすることもできました。ブラームス大好きをアピールしたオバサンは私です(笑)。次回のリサイタルでは、ソナタ第1番をぜひ!と厚かましくお願いまでして、帰路につきました。遠路はるばるお越しくださったうえ、超充実のプログラムと演奏そして心温まるトークにサイン会まで、ありがとうございます!とっても楽しい時間を過ごす事ができました。またお目にかかれる日を今から心待ちにしています!
【新譜情報】辻彩奈/阪田知樹「ブラームス:ヴァイオリン・ソナタ全集」(2024年6月26日発売)
↑ついに辻彩奈&阪田知樹デュオのCDがリリースされました!ブラームスのヴァイオリン・ソナタを全曲なんて、うれしすぎます!私は発売初日に入手(タワレコ特典のアナザージャケットもGET♪)。ブラームスの3つのヴァイオリン・ソナタと、パラディス「シチリアーノ」が収録されています。
2年前に札幌で開催されたデュオリサイタルのレポートです。「辻 彩奈&阪田 知樹 デュオリサイタル」(2022/07/19)。愛あふれ歌心あるブラームスのソナタ2番は想像以上の素晴らしさ!クララやシューベルト、ストラヴィンスキー等バラエティ豊かな演目を、信頼し合った上で重なり合う幸せな共演で聴かせてくださいました。
※おことわり。辻彩奈さんのお名前の「辻」は配布されたプログラムでは「一点しんにょう」の表記になっていました。しかし「一点しんにょう」の場合、web閲覧環境によっては文字化け等で読めなくなるおそれがあるため、大変申し訳ありませんが弊ブログでは「辻」の表記を採用いたしました。ご了承くださいませ。
最後までおつきあい頂きありがとうございました。