https://www.rokkatei.co.jp/wp-content/uploads/2024/09/241107.pdf
↑今回の演奏会チラシです。 ※pdfファイルです。
ふきのとうホールの主催公演。今回は、ヴァイオリニストの堀米ゆず子さんと豪華メンバーによる「室内楽の夕べ」です。「時代を超えて輝く名曲、世代を超えて紡ぐ新しい響き!」と題し、ベートーヴェンのピアノトリオ「大公」とブラームスのピアノカルテット第2番の大曲2つが聴ける会!企画発表当初から、私はとても楽しみにしていました。
〈時代を超えて輝く名曲、世代を超えて紡ぐ新しい響き! 堀米 ゆず子 室内楽の夕べ 〉
2024年11月07日(金)19:00~ ふきのとうホール
【演奏】
堀米 ゆず子(ヴァイオリン)
店村 眞積(ヴィオラ)
金子 鈴太郎(チェロ)
津田 裕也(ピアノ)
【曲目】
L.v.ベートーヴェン:ピアノ三重奏曲第7番 変ロ長調 op.97「大公」
J.ブラームス:ピアノ四重奏曲第2番 イ長調 op.26
(アンコール)
R.シューマン:ピアノ四重奏曲 変ホ長調 op.47 より 第3楽章
極上の音色と響きにて編まれた、幸せな音楽に浸れる幸せ!世代を超えた名手たちの手によって、名曲たちがより一層輝きを増し、その音楽にどっぷり浸れたのは何より幸せな体験でした。まず第一に、今回ご出演の4名それぞれが持つ豊かで味わい深い音に大感激です!その聴く人を惹きつけてやまない音たちが、ふきのとうホールで共鳴し合うと、なんとも贅沢な響きに!それだけでなく、魅力的な音をお持ちの名手たちが編み出す音楽は、格別の素晴らしさでした。こんな出会いが待っているから、ふきのとうホール通いはやめられない!今回の演目はいずれも明るい性格かつ比較的演奏時間が長いもので、ともすればイージーリスニング的になるおそれもあると個人的には思います。しかし今回の演奏は、聴き手の心を掴みじっくりと「聴かせる」ものでした。私は音楽に関しては素人なので間違っていたら申し訳ないのですが、派手でパワフルなシーンよりも静かで穏やかなシーンの方が、聴き手を惹きつけるのは難しいのでは?と想像します。その「静かで穏やかなシーン」での、しっかりとした作り込みと細やかな表現がとりわけ良かったと私は感じました。加えて丁寧に作った土台があるからこそ、情熱爆発するシーンが際立つ!室内楽はソロともオーケストラとも違った難しさがあると想像しますが、今回のトリオおよびカルテットは常設チームに引けを取らないほど生き生きとしたアンサンブルにて私達聴き手を魅了してくださいました。本当にありがとうございます!
ベートーヴェンのピアノトリオ「大公」は、ベートーヴェン「らしい」生命力があふれる音楽に、聴いているこちらも明るく元気になれました。また個人的に意外性を感じたのは、緩徐楽章です。ベートーヴェンに詳しくない私は、ベートーヴェンがこんなに繊細で美しい曲を書くなんて!と良い意味で驚愕。今まで見過ごしてきたベートーヴェンの魅力を新たに知ることができました。そしてブラームスのピアノ四重奏曲第2番は、若き日のブラームスをリアルに感じられたのがうれしい!ブラームスが書いた3つのピアノ四重奏曲を並べると、有名なのはシェーンベルクが管弦楽版に編曲した事でも知られる第1番や「ウェルテル四重奏曲」とも呼ばれる第3番。この2つの熱情の作品に挟まれた真ん中っ子の第2番は、少し影が薄い存在かもしれません。しかし第2番は意外にも(!?)、とても情熱的だと思えたのが今回のハイライトです。第2番は、柔和な表情をしていても、内に秘めた思いはアツイ!しかも、ほの暗い第1番や屈折した思いがある第3番とは異なり、明るく純粋で一途。それは「世間に身構えることを余儀なくされた」しかめっ面の壮年期ブラームスではなく、天真爛漫でピュアな若き日のブラームスそのもの!と感じました。そんなベートーヴェンとブラームスの「2大B」の魅力を最大限に引き出した演奏に、聴き手は大満足!さらに今回はアンコールの選曲と、もちろん演奏そのものがとても洒落ていました。ベートーヴェンにもブラームスにも無い魅力がそこにはあって、聴き手はさらに大大大満足!本プログラムからアンコールまで、超充実の素晴らしい演奏との出会いに、改めて感謝です。
出演者の皆様が舞台へ。ヴァイオリンの堀米ゆず子さんは黒に装飾が入ったドレス姿。チェロの金子鈴太郎さんとピアノの津田裕也さんは、濃色のスーツと白シャツと赤いネクタイの装いでした。前半は、L.v.ベートーヴェン「ピアノ三重奏曲第7番 変ロ長調 op.97『大公』」。第1楽章 穏やかなピアノから始まって、滑らかに弦が重なると世界がぱっと開けたように感じました。輝かしいピアノと心地よい音色の弦による、愛らしく幸せな音楽!一辺倒ではなく、強弱やテンポを細かく変化させ編まれる音楽は、小川のせせらぎから泉が湧き上がる力強さまで、様々な表情を生き生きと魅せてくれました。流麗さに癒やされ、ベートーヴェンらしい生命力を感じる力強いうねりが何度も押し寄せてくるのが快感!ステップを踏むようなピアノの愛らしさ、流れるようなピアノに乗って歌う弦の優雅さ!明るさに少し陰りが見えたシーンでの、トリルが印象的なピアノとメロディを奏でる弦ピッチカートの良さ!その引き締まった空気と絶妙な間合い、即興的にも感じられた楽しい音楽に、ぐっと引き込まれました。また、チェロがメロディを重低音でも高音域でも歌ってくれて(どちらも素敵!)、ヴァイオリンの美麗で柔らかな響きと絡みあったのがうれしい!そして楽章の終盤では、滑らかな流れの中で一度ぐっと静まってから、パッと躍り出て力強く華やかに駆け抜けたのがとても鮮やかでした。第2楽章 はじめの弦の二重奏は、チェロとヴァイオリンが手を取り合いダンスしているよう。ダンスのメロディがピアノに移ると、弦ピッチカートが小粋な感じで楽しい!ステップしたりターンしたりとダンスのような音楽は、勢いが止まることなくテンポ良く掛け合い明るく歌う、なんて生き生きとした音楽!聴いている方も自然とウキウキな気持ちになりました。また快活なところが一段落した後のシーンでは、時折揺らぐ音が印象的な艶っぽいチェロと、なんとも艶やかな音色のヴァイオリンが、重なり合うのがすごく素敵!ピアノ輝かしさ、合いの手を入れる弦の重音のインパクト!またこちらの楽章でも締めくくりに向かう流れが素晴らしかったです。感情と鼓動をしっかりと保持した上でいったん緩やかに静まり、ガツンと力強く盛り上げたラストが気持ちイイ!第3楽章 この日の演奏はもちろん最初から最後まで素晴らしいものでしたが、個人的にはとりわけこの第3楽章に惹かれました。ピアノの和音に乗って、弦が曲線を描くようにゆったりと優しく歌うのが素敵すぎて!心地良い波長に身を委ねるのがこの上なく幸せでした。チェロとヴァイオリンの対話は、穏やかだったり少し活発になったりと変化していく流れがとても自然!支えるピアノは弦と気持ちを共有し、さりげなく弦とシンクロしたり一緒にリズムを取ったりしていたのがニクイ!ピアノが主役となった時は、弦は節目節目で合いの手を入れたりじっくりゆったり音をのばしたり。3つの楽器の柔らかく優しい響きが溶け合うのがしみじみ良かったです。はじめと似たメロディが帰ってきた時、チェロが最初よりもやや不安げな表情に変化していて、その細やかで丁寧な表現ともちろん音楽そのものがぐっと来ました。ヴァイオリンと一緒になると再び柔和な表情を取り戻し、チェロとヴァイオリンが寄り添いながら静かに語り合いながら歩みを進めていくのが素敵!まるで気心知れた男女の穏やかな語らいのよう!そのまま続けて第4楽章へ。 穏やかな流れから一転、パーンと力強く始まった冒頭のインパクト!ピアノが楽しそうに跳ねたりコロコロ歌ったり。そこに弦が小気味よく呼応し、躍動感あふれる幸せな音楽が楽しい!音楽を奏でる皆様が、にこやかなお顔だったのが印象的で、演奏をとても楽しんでいらっしゃるのが伝わってきました。弦とピアノがコミカルに当意即妙なやり取りをする、その間合いの良さ!また、弦がトリルを交えながら楽しくステップを踏むようなところでの、ベースとなったピアノが超高音を転がすように奏でた、そのコロコロ歌うピアノの可憐さ!そしてラストへの持っていき方がまたまた素晴らしかったです。ピアノの超高音のトリルに乗って、弦がピアニッシモでたくさんの音の連なりを超高速で奏で(神業!)、音の連なりがピアノに移ると弦はピアノの拍を打ったりじっくり音をのばして重なったりと、一瞬の隙も見せない流れに驚愕!力強く何度も重音を重ねる、その堂々たる明るいラストが清々しい!トリオという小さな編成から、こんなにも充実した音楽が生み出されるなんて!ベートーヴェン流の幸せを体感できた、幸せな時間でした。
ヴィオラの店村眞積さん(濃色のスーツと白シャツ、ネクタイは青色の装いでした)が加わり、後半は、J.ブラームス「ピアノ四重奏曲第2番 イ長調 op.26」。第1楽章 冒頭のピアノと続いたチェロの優しさ!あたたかな日差しを思わせる響きにじんわり心温まりました。穏やかな流れから、全員合奏で思いっきり力強く情熱爆発したところの輝かしさ!厚みある自信に満ちた響きは、明るい未来を予想させるもので、私は早くも胸がいっぱいになりました。音楽の流れの中での強弱の波やリズム感の良さはもちろんのこと、私がとても惹かれたのは、音そのものの豊かさです。表情豊かで魅力が幾重にも重なった音が、連なる流れの中でも細やかに変化していく様は、「優美」なんてまとめるのがもったいないほど。柔和な顔を持つ音楽は、若さ(ブラームス20代の作品です)ゆえのエネルギーと希望が満ちあふれ、ふと垣間見せる不安な表情に思慮深さも感じさせる!スキップするようなところは、様々な思いを抱えているからこそ、愛らしくも少し哀しく感じました。「タタタタター♪」の音型を繰り返しながら次第に盛り上がっていく流れの熱量!頂点に達してからの明るく喜びに満ちた歌のきらめき!この曲がこんなにもドラマチックだったなんて!冒頭のメロディが戻ってくると、ピアノは最初の時よりぐっと厚みを増した響きに変化。続く弦もまた厚みを増していて、ヴィオラが歌い次にヴァイオリンが歌ったところは、はじめの時よりももっと心に染み入るものになっていました。明るく力強い締めくくりが清々しい!第2楽章 穏やかな歌曲のような、豊かで柔らかな響きが素敵で、心穏やかになりました。チェロのぐっと低い音の存在感!そのチェロの低音が音階を上下するピアノと呼応し合い、明るさに陰りが見えるところでの緊迫感にドキドキ。明るく歌うところでは、ヴァイオリンの幸せな響きと高音域で歌うチェロが美しい!再び静まってから、強奏で悲劇的に始まったピアノはインパクト大!ピアノが主役のドラマチックなところから、弦楽三重奏になり、その研ぎ澄まされた空気、祈りにも似た温かく優しい音楽にハッとさせられました。穏やかなピアノに乗って、ヴァイオリン&チェロが幸せに歌うところの良さ!ピアノトリオの演奏を待ち、ヴィオラが加わると、豊かな響きがさらに豊潤になり、私は胸がいっぱいになりました。再び悲劇的なところを経て、全員合奏による幸せなところになると、悲劇を乗り越えたからこその意志の強さを感じられる音楽に!とりわけヴァイオリンの艶っぽく奥行きある音色による歌が素晴らしく、とても胸打たれました。第3楽章 居間でのくつろいだ会話を思わせる親密な音楽は心地よく、議論白熱したような躍動感ある盛り上がりはアツイ!少しずつ盛り上がっていく流れでは、弦がぐっとエネルギーを溜めているように感じられ、ついに頂点に達した時のパッションがすごい!穏やかなシーンと激情のシーンが一連の流れとなって、表情やテンポを細やかに変化させながらもよどみなく流れる、フレッシュで生き生きとした音楽。この生きた音楽の鼓動が自分の鼓動とシンクロするのが快感でした。トリオでの、ピアノが情熱的に激しく鳴ると弦も力一杯呼応する丁々発止なやり取りの熱量!超カッコイイ!また幸せなシーンでは、弦の柔らかな響きを支えるピアノのキラキラした高音がなんとも美しく、包み込んでくれる大きな愛を感じました。第4楽章 出だしの勢いとパワフルさ!鮮烈な印象で始まったこの楽章は、親しみやすい民族舞曲のようなリズミカルで生き生きとした音楽!聴いている私達も気持ちが上がりました。ステップ踏むような「タッターン♪」を弦とピアノが呼応し合う間合いの良さや、「タタン タタン♪」と自信に満ちた輝かしい響きは、音が踊っているようで楽しい!1つのシーンが終わったかと思うと、間髪を入れずヴィオラが次のシーンに繋いだのが鮮やか!盛り上がるところはもちろんのこと、少しゆったり進むところもしっかりと脈が続いていて、止まらない流れに全身全霊で乗れるのが快感でした。終盤の穏やかなところでは、音量控えめでも流麗に歌うヴァイオリンがこの上なく素敵!思いっきり明るく楽しく駆け抜けたラストスパートが最高に気持ち良かったです!希望も情熱も、それらをひたむきに追求するピュアな思いも、若き日のブラームスが今まさに目の前に現れた!と思えた、最高の出会いをありがとうございます!
カーテンコール。何度も戻ってきてくださった奏者の皆様が着席し、チェロの金子鈴太郎さんがマイクなしで簡単にごあいさつくださいました。続けて「(大曲2つで)お腹いっぱいかと思いますが、デザートを用意しました」と、手元では早速調弦を始めつつ(「これを見ればおわかり頂けるように」といった趣旨の事を仰っていました)、アンコールの曲名を紹介。R.シューマン「ピアノ四重奏曲 変ホ長調 op.47」 より 第3楽章。チェロがこの上なく素敵な、個人的に大好きな曲、キター!私は心の中で大喜びです。チェロに特殊な調弦が必要(第3楽章のみ)で、じっくり調弦をされてから、演奏へ。優しいピアノの響きに乗って、大らかに甘く優しく歌うチェロ!ああなんて素敵なのでしょう……。こんな風に愛を表現できるシューマン、それ以上に、こんなにも大らかな愛を感じる音色で私達を包み込むようにたっぷりと歌ってくださる金子さんに、完敗です。ヴァイオリンに主役が移り、チェロが重なるのは、お互いを思いやるクララとロベルトの語らいのよう!少し切ないピアノに乗ってヴィオラが歌ったところは、美しくも落ち着いた響き!ぐっと大人な雰囲気を感じました。内緒話をするように4つの楽器がささやき合ったり、感極まるように盛り上がったりと、色合いが変化していくのがまた素敵!ベートーヴェンにもブラームスにもきっと書けない(!?)、こんなにも甘美で優しく美しい音楽を、今回のメンバーによる極上の音色にて堪能できて幸せです!ガッツリなメインディッシュ2つに加え、甘いデザートまで、最高な夜をありがとうございました!またいつの日か同じメンバーによる室内楽を聴ける日を心待ちにしています。
ふきのとうホール主催公演の室内楽、こちらも大変素晴らしい会でした!「ふきのとうホール レジデント・アーティスト 小菅 優コンサートシリーズ Vol.5 エルサレム弦楽四重奏団&小菅 優 室内楽の夕べ」(2024/06/16)。内なる思いを丁寧に体現した真摯な演奏を通じて、若き日のブラームスに出会えたピアノソロ。生きたアンサンブルのおかげでお初でも思いっきり楽しめたベン=ハイム。ドヴォルザークP五重奏はこれぞまさに室内楽!ふきのとうホールでの小菅優さんとの再会は、今回も素敵なサプライズの連続でした!
ピアノ三重奏&ピアノ四重奏の演奏会はこちらも。「Trio MiinA トリオ・ミーナ第6回公演 小児がんチャリティーコンサート」(2024/09/20)。今年6回目となる小児がんチャリティーコンサート。楽しい要素が盛り盛りのブリッジ、作曲家の誠実な思いと強さを感じ取れたスメタナ、交響曲的でも室内楽的でもあるブラームスのピアノ四重奏に大感激!活動に縁ある子ども達のためのキッズ・コンサートでは全10曲も!今年も音楽に無心で浸れる夢のような時間を過ごせて幸せでした。
最後までおつきあい頂きありがとうございました。