ブラームスのヴァイオリン・ソナタの全曲演奏。私の大好きな3曲ですし、なんと今回は元ベルリンフィルのコンサートマスターである安永徹さんの演奏とのこと。ご近所で世界的なソリストの生演奏を聴ける絶好のチャンス!これはぜひとも行きたい!と、幼稚園行事のあとに急いで駆けつける形で行ってまいりました。
なお、8月に行った「長尾春花・加藤洋之 ブラームス:ヴァイオリン・ソナタ全曲演奏会(2018年8月) レポート」の記事は以下のリンクからどうぞ。
今回は8月のような長文にはせずできるだけ簡潔にまとめたいと思います。いつものように素人コメントであることをご了承下さい。なお、ひどい間違いは指摘頂けますと助かります。
安永 徹&市野 あゆみ ブラームス ピアノとヴァイオリンのためのソナタ全曲演奏会
2018年11月17日(土) 16:00~ 札幌コンサートホールkitara 小ホール
【出演】
- 安永 徹(ヴァイオリン)
- 市野 あゆみ(ピアノ)
【プログラム】
- ブラームス ピアノとヴァイオリンのためのソナタ
- 第1番 ト長調 作品78
- 第2番 イ長調 作品100
- 第3番 ニ短調 作品108
- (アンコール)
- ブラームス:歌曲「歌の調べのように」 op.105-1
- ブラームス:歌曲「まどろみはますます浅く」 op.105-2
- シューマン:歌曲「私のバラ」 op.90-2
席は事前に前の方を確保。私はホールの音響について詳しくはわからないのですが、室内楽はできれば演奏する手元を見たいので、可能なら前側中央寄りの席を選ぶようにしています。今回はピアノの手元が見える角度ではなかったですが、そのかわりヴァイオリンの手元はバッチリ見ることができました。私の席からは、ヴァイオリンの内側から漏れ出る空気の流れまで感じられる程、繊細な音の違いを聴けたので本当によかったです。
始まる前に席に着いてから配布されたプログラムに目を通しました。プログラムノーツは市野あゆみさん(安永徹さんとはご夫婦)によるもの。各曲の解説にとどまらず、作曲家の実績や作曲にかける想いについても詳しく載っていました。ブラームスが「内なる魂の力」にどう動かされているかについて、興味深い証言が残されているとは恥ずかしながら存じませんでした。親しい人達にも決して明かさなかったことなのに…。このソースとなったインタビュー記事が何かしらの形でのこっているのであれば、ぜひ読みたいと思います。また、作曲家自身はヴァイオリン・ソナタではなく「ピアノとヴァイオリンのためのソナタ」と書いており、ピアノの位置づけが重要であることも。さらに、奏者が演奏するにあたり作曲家について学んでも「(作曲家の意図を読み取ろうとするのは)演奏者の感性のフィルターを通したものでしかありえない」と。こちらの一文で、市野さんともちろんパートナーである安永さんも大変誠実な演奏家であることがうかがえて、私は静かに感激しました。このプログラムノーツはずっと大事にとっておこうと思います。
開演5分前位に注意事項等のアナウンスがありました。これはいつものこと。しかし、その直後に客席がしーんと静まりかえり、咳払い一つない状態になったのには驚きました。ああ今日集まっている人達はコアなクラシック音楽ファンなのだわ…せめて私はその場にいて恥ずかしくないふるまいをしようと背筋がのびました。そんな静寂の中、舞台袖のほうでヴァイオリンのチューニングが聞こえ、程なくお二人が登場。拍手で迎えられました。チューニングは済んでいるので、早速演奏開始。ピアノに譜面をめくる係の人はつかず、市野さん自らが演奏しながらめくっておられました。
第1番。やはり私は1番が好きです。演奏前にガチガチに緊張していた私は、いつの間にかリラックスして聴いていました。第2番。比較的穏やかなこの曲は、私は第2楽章が好きです。以前にも書いたのですが、ここは好きな女性との距離を少しずつ詰めていこうとする不器用な男の様子だと私は勝手に思っています。しかし、演奏は既に熟年夫婦な印象で、ちょっと緊張してためらっていたりだんだん楽しくなったりといったふうには聞こえませんでした。ただ、ここは解釈の違いなだけなので、美しい旋律を流暢に聴かせてくださる今回のような形式もアリと思います。休憩を挟み、第3番。もちろん第4楽章が大本番なのですが、私はその前の第3楽章が好きです。この第3楽章は後に続くガチンコ勝負の前に必要不可欠な部分だと思っていて、ドキドキする心臓の鼓動のようなあるいは何かが近づいてくる足音のような、緊張感がキモなのかなと。いざ演奏の印象は「ん?ちょっと遅い?」…これも私が手持ちの録音で慣れているものとの違いであり、じっくり聞かせて下さる今回のような形式も決して間違ってはいないのだと思います。第4楽章はお二方ともさすがの安定感で難しい演奏を見事に体現してくださいました。演奏後、会場は拍手とブラボー。なお、当たり前なのかもしれませんが、この日の観客は楽章の区切りでの拍手が起こるハプニングはありませんでしたし、曲が終わってからも余韻が味わえて拍手が早すぎることはなかったです。演奏者も一流なら聴衆も一流で、同じ空間に身を置くことができた私は良い時間を共有できたことに感謝しています。
アンコールでは安永さんがまずお話をされました。「F.A.E.ソナタの第3楽章」をやるのが本来の流れかもしれないけれど、今回は歌曲の歌の部分をヴァイオリンで演奏する形式で歌曲を、とのこと。私は先日ブラームス歌曲のコンサートに行ったばかりで、歌曲の気分が盛り上がっていたところでしたのでうれしかったです。op.105-1 は、ピアノとヴァイオリンのためのソナタ 第2番第1楽章に似た主題が出てくるとのこと。ブラームスがちょうど歌手のヘルミーネ・シュピーズと懇意だったころ、彼女がこのop.105-1と続くop.105-2を歌ったことがあったようです。今回は人の声ではなくヴァイオリンが歌ったわけですが、とても美しい歌でした。ブラームスはクララとの仲が有名ですが、他の女性との恋バナもいくつかあるようですよ。ちなみに声フェチです。op.105-2 は、私は先日の歌曲のコンサートで先に聴いていました。歌詞は死に行く人がいまわの際に心情を吐露する様子なのですが、ブラームスらしい曲だと思います。そしてアンコール3曲目で、ローベルト・シューマン先生の歌曲が登場!この曲のみ、歌詞の日本語訳を市野あゆみさんが読み上げてくださいました。2曲目に続いて、こちらは死の床にある想い人への心情とは…。きっとブラームスのop.105-2との比較のために選んでくださったのだと思います。シューマンの歌曲もとても美しかったですが、なにより「ああピアノが全然違う!」と感じました。8月のコンサートでのクララの曲のときもそう感じたので、もしかすると作曲家の個性は主旋律よりも伴奏のほうに際だってあらわれるのかもと改めて思いました。今回は拍手喝采のたびに舞台に戻って1曲ずつ披露する形でのアンコールでした。3回もアンコールに応えてくださり感謝です。
コンサート後はCD購入者対象のサイン会。私も1枚だけですが購入し列に並びました。厚かましくもお二方の握手までして頂き感激!舞い上がってしまい、「ありがとうございました」くらいしか言えず申し訳なかったです。重ねて、素敵な演奏をありがとうございました!
ベートーヴェン:ヴァイオリン・ソナタ第9番「クロイツェル」&第10番
- アーティスト: 安永徹(Vn)市野あゆみ(Pf),ベートーヴェン
- 出版社/メーカー: オクタヴィア・レコード
- 発売日: 2012/05/23
- メディア: CD
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↑サインを頂きたくて、コンサート後にその場で購入したCDです。私は初めて聴きましたがベートーヴェンの10番は有名な5番9番に負けず劣らず素敵な曲でした。お二方の演奏によるベートーヴェンのヴァイオリンソナタは全曲がCDになっているようです。いつかブラームスのCDもぜひ出して頂きたいです。
そして専門家によるレビュー記事をあわせて紹介します。私は「よかった!」しか言えないので、理論的な分析や同じ奏者の実績との比較が大変参考になります。今回について私は「やっぱりそうだったのね…」と思った部分もありましたが、少し気の毒かなと思うところも。安永徹さん、もし体調の面で何かしらの不安を抱えておられるのでしたら、まずはお身体を労って頂きたいです。そしていつかベストなパフォーマンスでの演奏を私達に聴かせてくださることを願っています。
同じく11月に行った「第9回川村英司レクチャー・コンサート 僕の好きなブラームス歌曲 ~ブラームスはお好き~(2018/11) レポート」の記事は以下のリンクにあります。やはりブラームスは秋の季語!?
最後までおつきあい頂きありがとうございました。
※この記事は「自由にしかし楽しく!クラシック音楽(https://nyaon-c-faf.hatenadiary.com/)」のブロガー・にゃおん(nyaon_c)が書いたものです。他サイトに全部または一部を転載されているのを見つけたかたは、お手数ですがお知らせ下さいませ。ツイッターID:@nyaon_c