自由にしかし楽しく!クラシック音楽

クラシック音楽の演奏会や関連本などの感想を書くブログです。「アニメ『クラシカロイド』のことを書くブログ(http://nyaon-c.hatenablog.com/)」の姉妹ブログです。

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牛田智大 ピアノ・リサイタル(2023/03) レポート

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www.japanarts.co.jp
↑「今シーズンのリサイタルプログラムについて」、牛田智大さんへのインタビュー記事です。

ピアニストの牛田智大さんが全国各地を回った2023年のリサイタルツアー。その最終日となる札幌公演です。個人的に愛してやまないブラームスソナタに、彼に大きな影響を与えたシューベルトシューマンソナタを聴けるとあって、企画発表当初から私は楽しみにしていました。

はじめて弊ブログをお読みくださる皆様へ。アクセスありがとうございます!私はピアノはもちろん他の楽器も一切演奏できない「聴き専」かつ演奏会通い歴は4年ほどのヒヨッコです。また家で聴く録音は別として、演奏会は室内楽やオーケストラを中心に通っており、今までピアノリサイタルはほとんど聴いてきませんでした。演奏家へのリスペクトは常に心がけているつもりですが、素人が感じたままに書いているコンサートレビューのため、至らないところは多々あると存じます。おそれいりますが、弊ブログの記述はどうか真に受けずさらっと読み流して頂けましたら幸いです。もちろん何かありましたら遠慮なくツイッターにてコメントをお願いいたします。


牛田智大 ピアノ・リサイタル
2023年03月31日(金)19:00~ 札幌コンサートホールKitara 大ホール

【出演】
牛田 智大

【曲目】
シューベルト:アレグレット ハ短調 D.915
シューベルト:ピアノ・ソナタ第13番 イ長調 Op.120 D.664
シューマン:ピアノ・ソナタ第1番 嬰へ短調 Op.11
ブラームス:ピアノ・ソナタ第3番 へ短調 Op.5

(アンコール)
J.S.バッハブゾーニ編曲:コラール前奏曲 “われ汝に呼ばわる” BWV639
J.S.バッハブゾーニ編曲:シャコンヌ
パデレフスキ:ノクターン Op.16-4


重量級プログラムの大変充実した演奏に圧倒され、音楽そのものに無心で浸ることができた、あっという間の2時間半でした!私にとってははじめましてのピアニスト・牛田智大さんの演奏は、この日聴いた限りの印象ではとても実直で丁寧かつ情熱的!奇をてらうことなく一音一音じっくりと積み重ねることで、曲そのものが持つパワーを最大限に引き出していらしたと私は感じました。その貫禄ある演奏に、「お若いのに」なんて色眼鏡は瞬時に消え去ってしまったほどです。一方、一音一音の生命力ある強さや、まっすぐで情熱的な響きは、その若さがあるからこそ!かといって力任せに弾いているわけではなく、重厚なところの力強さと同じくらい、柔らかで美しいところでは細やかな心くばりが感じられる繊細さがありました。しかもどの演目においても、あたかもそれが第1曲目であるかのような全身全霊での演奏で、力強さも繊細さもベストを尽くして体現されていらしたのには恐れ入りました。すべて暗譜による演奏でトークや箸休め的な企画はナシ。そんな本プログラムだけでも大変なはずなのに、たっぷりのアンコールに至るまで集中力と勢いを保ち、どの演目も超がつくクオリティの高さ!その姿勢と力量、ただただ敬服です!ピアニスト・牛田智大さんとの出会いに感謝いたします。

今回メインで取り上げられた独墺ロマン派の3つのピアノ・ソナタは、いずれも作曲家が若い頃に自分が持てる力をすべて注ぎ込んで生み出した大作揃い。生半可な気持ちでは到底太刀打ちできないと思われる難しい演目たちを、牛田さんは豊かな音と表現力によって作曲家の姿まで浮かび上がるような演奏で聴かせてくださいました。歌心あふれるシューベルトはただ素敵♪で終わるのでなく、暗い影や心の揺らぎをじっくり表現した演奏から内面の孤独感や不安も垣間見え、とても奥行きが感じられました。また個人的によく掴めずにいたシューマンの二面性が、この日の演奏では自信に満ちたブレない軸があった上での陰と陽だったため、自然と受け入れることができました。そしてブラームスです。作曲当時ブラームスは20歳そこそこで、管弦楽作品はまだ書いていない頃。しかしピアノ・ソナタ第3番は交響曲にも引けを取らない重厚さと壮大さ!かつブラームス流の歌心と若さゆえの迸るパッションもある、とんでもない作品と改めて実感しました。シューマンに期待ゲージMAXの記事で世に紹介されて、半端ないプレッシャーの中、ピアノ一つでその期待を超える作品を生み出した若き日のブラームス。牛田さんの誠実で生き生きとした演奏を聴きながら、若き日のブラームスのことを思い浮かべた私はこみ上げてくるものがありました。そもそも演奏機会が少ないブラームスのピアノ・ソナタで、これほどまでに充実した演奏に出会えたなんて感激です!本当にありがとうございます!牛田さん、近い将来きっとブラームスのピアノ・ソナタの第1番と第2番の演奏を、例えばベートーヴェンショパン、リストのピアノ・ソナタとの組み合わせで聴かせてください。さらにオケとの協演でブラームスのピアノ協奏曲もぜひ!若さと祈りの第1番も、円熟の交響曲的な第2番も、私は牛田さんのピアノで聴きたいです。いえ詰まるところどの作曲家のどんな演目でも良いので、牛田さんの演奏によって作曲家に出会える喜びを何度でも体感したい!これから先も、その時の牛田さんのアプローチによる演奏を私達に聴かせてくださいませ。


1曲目はシューベルトのアレグレット ハ短調 D.915。初めの寂しげなメロディに早速引き込まれました。不穏な感じの和音を2回鳴らしたところが、運命が扉を叩くようで強く印象に残っています。この物悲しさに対し、ふと明るさを見せたところがなんとも優しく美しい!ピアニッシモの響きが心に深く沁み入りました。個人的には、まるで魂がどこかへ行ってしまいそうなのを繋ぎ止めているようにも感じた、不思議な魅力のある音楽でした。

2曲目はシューベルトのピアノ・ソナタ第13番 イ長調 Op.120 D.664。第1楽章。素朴に歌うような、明るい高音のメロディは身体にすっとなじみました。タタタタタン♪の優しく切ない響きが胸に来て、メロディが低音になったときは暗い影を落としたよう。それでも高音と低音が呼応し合ったり、何度も音階を駆け上ったりに、私は生命力を感じました。「魂がどこかへ行ってしまいそう」と感じた1曲目の直後だったからかも?第2楽章。穏やかな子守唄のような音楽は、しかし時折登場する音の揺らぎに心がざわつきました。個人的に、ここはブラームスの連作歌曲『美しきマゲローネのロマンス』op.33の第12曲に似ている?と思ったり(マニアックでごめんなさい!)。またこの楽章で特に印象深かったのは、ごく小さな音からクレッシェンドでぐっと盛り上がった流れです。思い悩んでいた人が、自らの意思で運命を好転させたようにも感じました。第3楽章。軽やかにステップしたりクルクル回ったりと、楽しくダンスしているような可愛らしい響きが素敵。それと交互に現れるパワフルな低音が効いたところや、何度も登場する力強い音階駆け上りがとても生き生きとしていて、生命力あふれる感じ!明るく力強い締めくくりに、私は気分爽快になりました。暗い影や切なさや揺らぎがあったからこそ、ラストの明るさが一層輝いて感じられたのかもしれません。演奏時間が比較的短い作品でも、一つの物語を味わえたような深みのある演奏でした。

前半最後はシューマンのピアノ・ソナタ第1番 嬰へ短調 Op.11。第1楽章。はじめの悲劇的なメロディに、うねるような低音の存在感!この低音が私は忘れられません。堰を切ったように速いテンポで進む流れでは、高音と低音が呼応したり高音に低音が併走したりがとてもリズミカル!加えて強弱の波や細かく変化するテンポが感情の機微を表しているようでドラマチック!ぐっと暗く沈んだ締めくくりから、一転して第2楽章は穏やかで明るい音楽に。明るく歌う高音が美しい!それに対しての低音が、タタータ♪の繰り返しによる下支え、また高音の旋律をこだまするように繰り返していたのが印象に残っています。第3楽章。ジャズや映画音楽を思わせる、即興的にテンポを細かく変化させ、跳ねるような音が新鮮!シューマンの知らなかった一面を垣間見たようで、素直に面白かったです。第4楽章。タッタター♪のリズムに乗って、前向きで勇ましいところと、ピアニッシモで低音が効いた影のあるところが交互に現れました。この陽と陰が一つの流れの中で違和感なく繋がっていたのがすごい!一見異なる性質が矛盾なく同居していたのは、音の一つ一つにしっかり存在感があったため、(シューマン自身の)自分軸がブレていない(あくまで個人的な感覚です)と思えたからかも?また様々な形での音階駆け上りが何度も登場し、私はそこにもシューマン「らしさ」を感じました。クライマックスでの少しずつ加速しながら力強く進むところが男前でカッコイイ!堂々たる響きの締めくくりが圧巻でした。一筋縄ではいかない性質で様々な変化を見せつつも、がっちり芯が通っていると感じた、骨太のシューマン!クララさんが父親の反対を押し切ってシューマンの元へ走ったのも頷ける、そんな演奏でした。

後半は、ブラームスのピアノ・ソナタ第3番 へ短調 Op.5。第1楽章。弾き始めの力強さがものすごいインパクト!その熱量に最初からガツンとやられました。じっくりと着実に進む演奏で、一つ一つの音が説得力を持って響いてくるのがすごい!重低音が一歩一歩前進するようなところも、幻想的なメロディの下で一定のリズムを刻む低音の存在感も、バスを重視するブラームスらしさが感じられシビレました。重厚な音楽はまるで交響曲のよう。明るく希望に満ちた部分では、オーケストラの木管群と高音弦が作る壮大な世界!?と私は一瞬錯覚してしまったほど!第2楽章。ゆったりとした、優しく美しい歌曲のような音楽。丁寧な演奏によって、右手の語りに対して左手が細かく呼応したり、歩幅を同じく寄り添って歩んだりしていると感じ取ることができました。これは愛し合う2人なのかも!ほぼピアニッシモなのに、心に訴えかけてくるものはとてつもなく大きいものでした。次第に盛り上がり、感極まったところでの堂々たる響きがすごく素敵!なんてピュアな愛!その真っ直ぐさは若き日のブラームスそのものと感じました。第3楽章。冒頭の音階駆け上りからインパクト大!(演出として)前のめりなメロディと、それを支える低音の力強さ。迸る情熱を、熱量高い思い切った演奏で聴かせてくださいました。ブラームス壮年期の「秘めた情熱」とは違い、これは若さゆえに抑えきれないパッション!まだ何一つ諦めてなどいない瑞々しさがまぶしい!中間部の少し穏やかなところでは、一音一音の存在感からぐっとエネルギーを蓄えていると感じられ、そこから再び盛り上がっていく流れが胸熱でした。第4楽章。メロディは第2楽章と似ていても、支える低音は運命が扉を叩くようにタタターン♪と繰り返し鳴るのが不穏な感じでとても印象的。ピアニッシモで沈んでいくのが、希望の光が見える第2楽章と好対照でした。第5楽章。前半での分厚い音の響きがとてもドラマチック!ここでも低音の存在感が印象に残っています。少し明るくなる後半、しばらくは前半と同じ低音が続いていたのと、クライマックスで出てくる軽快なメロディの前触れがあった事に、私はこの日初めて気付きました。大曲をここまで弾いてきても、当たり前とはいえお疲れを見せず一音一音を大切に演奏くださっていることに感激です!軽快なメロディから始まるクライマックスでは暗さは一掃され、自信に満ちた響きが晴々しい!ラストの音の余韻まで希望があふれているようでした。現在23歳である牛田智大さんの誠実で生き生きとした演奏によって、ようやく作曲当時20歳のブラームスに出会えた喜び!私は胸がいっぱいになりました。素晴らしい演奏を本当にありがとうございます!


アンコール1曲目は、J.S.バッハブゾーニ編曲のコラール前奏曲 “われ汝に呼ばわる”  BWV639。振り子時計のようなリズムを刻む重低音に、一人語りのようなメロディ。ブラームスの若さ瑞々しさを聴いた直後だったためか、こちらはすごく大人の落ち着きあるしっとりした演奏と私は感じました。

アンコール2曲目は、J.S.バッハブゾーニ編曲のシャコンヌ。左手の低音から入ったので、私は一瞬ブラームス編曲による「左手のためのシャコンヌ」かと早とちり。しかしすぐに両手での演奏になり、この時点で有名なブゾーニ版では?と気づきました。ちなみに私は実演では初聴きで、まさかここで聴けるなんて!と心の中で大喜び。ヴァイオリン独奏の原曲に忠実な単旋律のところの繊細な良さはもちろんのこと、原曲には存在しない音が盛り盛りのところの分厚さと低音のパワフルさがすごい!派手に音階を駆け上がるところはピアノならではのきらびやかさ。後半での天国的な響きは重厚なのに美しい!ここまで弾き続けてきたお疲れはまったく見せずに、力強さ緻密さのあるがっちりした演奏。まるでもう一つ大作のソナタを聴いたようでした。重量級の本プログラムの後に、こんなすごい切り札まで用意してくださったなんて!私は度肝を抜かれ、そして心の底から感激しました!

しかしここでは終わらず、なんとアンコール3曲目までありました。パデレフスキのノクターンOp.16-4。ゆったりとしたタタタン・タタタン♪のリズムに乗って、優しく可愛らしいメロディがとっても素敵!厳格で重厚なシャコンヌの後に、ホッと出来てうれしかったです。ラストの消え行く音の余韻まで愛しい!私は、盛りだくさんの演奏をめいいっぱい楽しませて頂きながら、願わくばもっともっと聴いていたい……とつい欲張りにもそう思ってしまったほど、牛田さんのピアノにすっかり魅せられてしまいました。牛田さん、充実した演奏にて名曲の数々をたっぷり聴かせてくださり、ありがとうございます!これからますますのご活躍を大期待&また演奏を拝聴できる機会をとても楽しみにしています!

 

牛田智大さん公式ツイッターへのリンク失礼します。


ありがたいことに、2023年3月の札幌kitaraは「ブラームス祭り」とも言えるほど、ブラームス作品を聴く機会に恵まれました。今回はブラームス最初期のソナタでしたが、最後のソナタop.120-1が聴けた演奏会はこちら。「Kitaraアーティスト・サポートプログラムⅡ〉青木晃一×石田敏明 デュオリサイタル~ブラームスから拡がるヴィオラ×ピアノの響~」(2023/03/15)。雄弁さと歌心と超絶技巧による「主役としてのヴィオラ」の輝き!ブラームス最後のソナタでは、感情の機微を丁寧に表現する演奏によって、作曲家の最晩年の境地を見ることができました。

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今回と同じく、前半にシューベルトシューマンで後半ブラームスという組み合わせの室内楽のコンサートはこちら。「アンサンブルコンサート 愛と悲しみを謳ったロマン派時代の音楽家たち」(2022/12/16)。シューマンシューベルトの歌曲は、一つ一つが短いながらも完結した物語!ブラームスのピアノ四重奏曲第3番は、情熱的で血の通った演奏に、最初から最後まで夢中になれました。

nyaon-c-faf.hatenadiary.com

 

最後までおつきあい頂きありがとうございました。