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第21回 楽興の時 青木晃一×石田敏明 ~ロベルトとクララ、そしてヨハネスの愛~(2024/03) レポート

Studio26のシリーズ「楽興の時」。第21回となる今回は、札響副首席ヴィオラ奏者の青木晃一さんとピアニストの石田敏明さんのデュオによる、シューマン夫妻とブラームスを取り上げる演奏会です。しかもブラームスソナタはレクチャー付き!絶対に聴きたい!と、私は企画発表当初から楽しみにしていました。ちなみに私が聴いたのは、同一内容での昼・夜2回公演のうち、昼の第1公演です。


第21回 楽興の時 青木晃一×石田敏明 ~ロベルトとクララ、そしてヨハネスの愛~ (第1公演)
2024年03月24日(日)14:00~ Studio26

【演奏】
青木 晃一(ヴィオラ) ※札幌交響楽団副首席ヴィオラ奏者
石田 敏明(ピアノ)

【曲目】
ロベルト・シューマン:まどろみの歌 op.124-16
ロベルト・シューマン:ヘ長のロマンス op.28-2
クララ・シューマン:3つのロマンス op.22
ロベルト・シューマン:3つのロマンス op.94

ヨハネス・ブラームス:永遠の愛 op.43-1
ヨハネス・ブラームス:ピアノとクラリネット(もしくはヴィオラ)のためのソナタ 第2番 op.120-2

(アンコール)
ロベルト・シューマン:夕べの歌
ロベルト・シューマントロイメライ


小さな空間で心温まる時間。まるでシューマン家の居間で音楽とお話を楽しんでいるような、幸せなひとときを過ごすことができました。聴き手の心が温まり癒やされるのは、演奏する青木さんと石田さんのお2人に作品への深い「愛」があるからこそですよね!青木さんがトークの中で「作曲家によって色々な愛の形がある」といった事を仰っていましたが、それぞれの「愛」を私達聴き手に届けてくださるのは、やはり作品と真摯に向き合い表現する音楽家です。今回取り上げられた作品たちは、編曲にしても置き換えにしても本来ヴィオラとは別の楽器を想定して書かれたもので、ブラームスソナタに至っては作曲家自身の編曲が「微妙」(!)。そんなスタートラインから、まるで最初からその形であったかのように自然な、聴き手の心にすっと染み入る演奏で私たちに「愛」を届けてくださいました。もちろん解説で紹介頂いた事柄はほんの一部であり、見えない部分での無数の積み重ねがあってこその結果と拝察します。いつも本当にありがとうございます!

今回の注目は、レクチャー付きのブラームスソナタop.120-2。私は前回お2人の演奏で拝聴した時(2023/11/26)、あまりにも自然で通常のヴィオラ版との違いに気付けなかったのですが(ごめんなさい!)、今回いくつか具体例を紹介くださった事でようやく(ほんの一部を)理解しました。手の内を明かすなんて「特別」な事をあえてやってくださり、恐縮です。また個人的には、ヴィオラ版が「微妙」な仕上がりだということに、完璧主義のブラームスでもこんなことがあるんだ!と少しほっとしたりも。なお今回の解説では触れられませんでしたが、ブラームスソナタop.120のヴィオラ版に納得していなかったからか、後日ピアノパートにも大きく手を入れた上でヴァイオリン向けの編曲をしています。今回のレクチャー付きの演奏を聴いて、私はそのヴァイオリン版にも興味が沸きました。(楽器の音域的に出せない)低い音を一体どのように表現しているの?とか、高音域はさらに華やかになっているの?とか、とても気になります!演奏機会が極めて少ないというヴァイオリン版、聴ける機会があれば聴いてみたいです。


出演者のお2人が会場へ。拍手で迎えられ、すぐに演奏開始です。1曲目は、ロベルト・シューマン「まどろみの歌 op.124-16」。穏やかなピアノに乗って、まるく揺らぐ音色で歌うヴィオラの優しさが心に染み入り、初めて聴くのにとても懐かしい感じがしました。重音が素敵すぎ!中盤シリアスになるところの、ヴィオラの少し影のある音色と胸の鼓動のようなピアノのリズムが印象的でした。演奏後の解説によると、元々はピアノ曲(!)なのだそう。「歌のようですよね」との青木さんの言葉に、会場はうんうんとうなづいていました。

ロベルト・シューマン「ヘ長のロマンス op.28-2」。こちらも元々はピアノ曲だそうです。原曲は「嬰ヘ長調」だったのが、編曲で「ヘ長調」に(ピアノの実演付きで解説がありました)。今回の編曲版は、石田さんによると「ヴィオラが美味しいところを持って行く(!)」。それを受けて青木さんは「それはライオネル・ターティスの編曲によるものなので」と静かに反論(笑)。ヴィオラがはじめ低い音でしっとり歌い、続いて高音で美しく歌ったのは、男女の会話のよう。感極まったところの力強さ。ふくよかな重音が優しく美しい!表情が次々と変化し、まるで短編映画を見ているような気持ちになりました。ちなみに編曲者の紹介があったのはこの作品のみでしたが、もしかすると1曲目の「まどろみの歌 op.124-16」と、この後に登場するブラームスの歌曲「永遠の愛 op.43-1」も、ライオネル・ターティスの編曲だったのでは?と個人的には感じました。華やかなところと影のあるところのメリハリやビブラートの効かせ方が「らしい」ような?とはいえヴィオラ向けの編曲者、他はプリムローズしか私は思い浮かばないのですが(恥)。

クララ・シューマン「3つのロマンス op.22」。ヴァイオリンのための作品を、今回はヴィオラによる演奏で。ロベルト・シューマンの9歳年下の妻であるクララ・シューマンは、ピアニストとして有名で、数は少ないながら作曲もしたそう。ピアニストの「暗譜による演奏」は、クララやリストが始めたことで、現代ではスタンダードになってしまったとか(石田さんは「なんてことを!」と仰っていました・笑)。かつてドイツの100マルク紙幣の肖像に採用されていて(石田さんがドイツで学ばれていた時は通貨がユーロになる前だったそうです)、ドイツではとても有名な人物、といった紹介がありました。第1曲 大きな愛で包むピアノと滑らかに美しく歌うヴィオラが素敵!一瞬深刻さを垣間見せたヴィオラの重音が印象的でした。第2曲 深刻さと明るさを行ったり来たりするのは夫のロベルトのカラーに近い?と感じました。ヴィオラが音を震わせたのが印象的で、ピアノとヴィオラのテンポ良い掛け合いが良かったです。締めくくりの控えめなピッチカートが愛らしい!第3曲 ブラームスの雰囲気があって、個人的に好きな曲です。厚みあるピアノは大樹のよう。伸びやかに歌うヴィオラは幸せそう。ヴァイオリンよりも落ち着いた「大人の愛」を感じました。ピアノが主役になった時、ヴィオラが伴奏にスイッチするのが自然で、泉が湧き出るように流麗な演奏が素晴らしい!静かな締めくくりの余韻も良かったです。しみじみ素敵な演奏でした!

ロベルト・シューマン「3つのロマンス op.94」オーボエのための作品でも、クラリネット等の管楽器や弦楽器での演奏も広く行われているそうです。しかしヴィオラでの演奏機会は少ないとか。「(ヴィオラでの演奏は)大人っぽい。オリジナルと聴き比べるのも面白いのでは?」と青木さん。第1曲 寂しげな響きにぐっと来て、高音のはかなさも低音の深さもヴィオラの音色ならではの良さを感じました。第2曲 優しく美しくもどこか切なく、中盤のシリアスなところのぐっと低い音に惹きつけられました。本心はシリアスな部分にあるのかも?第3曲 個人的にこちらが一番印象深かったです。深刻なところとスキップするようなところが交互に来て、それらが地続きだと感じられたのが大収穫!スキップといっても脳天気な感じではなく、哀しみをぐっと堪えた上で口角を上げるような。そんなニュアンスがヴィオラの音色にあったと思いました。個人的に今までピンとこなかったこの曲が、ようやくしっくり来た気がします。ありがとうございます!

ヨハネス・ブラームス「永遠の愛 op.43-1」。若い頃にロベルト・シューマンに才能を見出されたブラームスについては、シューマン夫妻との密な交流があったことや、歌曲をたくさん書いたこと等が紹介されました。今回取り上げる歌曲の歌詞(内容は男女カップルの会話です)について、青木さんが大掴みな解説をしてくださったのですが、それが面白すぎて私は笑いを堪えるのに一苦労。的確だけど、なんて大胆なまとめ方(笑)。演奏は、重々しいピアノと深刻なヴィオラから始まり、感情が高ぶるところではヴィオラの叫び声のような高音とピアノのダイナミックさがインパクト大!明るい未来を信じるラストは、ヴィオラの希望に満ちた輝かしさとピアノの明るさ力強さ(鋼の意志!)が清々しい!シーンの移り変わりがはっきりとわかる、ドラマチックな演奏にとても引き込まれました。愛を信じられる力は強い!

ヨハネス・ブラームス「ピアノとクラリネット(もしくはヴィオラ)のためのソナタ 第2番 op.120-2」ブラームスクラリネット奏者(ミュールフェルト)のために書いた作品。ただブラームスは作曲と並行してヴィオラ向けの編曲をしており、クラリネット版とヴィオラ版は同時に出版されたそうです。青木さんによると、当時ヴィオラの名手がいなかったこともあって、ブラームスによるヴィオラ向け編曲は(ヴィオラが弾きやすいよう、必要以上に音を低くしている等)「微妙」。クラリネット版とヴィオラ版の違いについて、「特別ですよ」と、実演付きでのレクチャーをしてくださいました。ありがとうございます!違いは多岐にわたるものの、この日は大きく2つ例をあげての解説。まず、「ヴィオラ向けに音を低くしたために微妙になってしまった」ところとして、第1楽章15小節を取り上げて実演くださいました。はじめにクラリネット版を高音で明るく歌い、続けてヴィオラ版を落ち着いた低音で歌い、両者の違いは一目瞭然。クラリネット版は力強く跳ねるようなピアノも相まってとても華やか!しかし、ヴィオラ版の低音も柔らかさ温かさがあって心にすっと入ってくる良さ。ヴィオラ版も絶対に素敵ですよ!「低い音だと楽譜に書かれたamabile(アマービレ)=愛らしい、にはならない」と青木さん。一方「ヴィオラ向け編曲の方が良い」ところもあり、第2楽章109小節を取り上げての実演に。クラリネット版では、メロディが低い音になっていく過程でヴィオラからピアノにメロディが移りました(スイッチが滑らかで自然!さすがです!)。「ピアノが美味しいところを持っていく(!)」のには理由があって、ここまで低い音はクラリネットには出せないからだそう。しかしヴィオラなら出せる(!)ため、メロディはずっとヴィオラが担当できるそうです。ヴィオラ版の実演では、ぐっと深い低音と贅沢な重音の魅力が盛り盛りで、ここはヴィオラ版の方に軍配が上がると私は感じました。こういった点を踏まえ、青木さんと石田さんは「クラリネット版をメインに、重音奏法等のヴィオラ版の良いところは取り入れる」スタイルでブラームスソナタを演奏するとのことです。こんなに手の内を明かしてくださって、いいのでしょうか……!?大変興味深い解説を聴き、聴き手の期待が一層高まったところで、いよいよ演奏開始です。第1楽章 そっと入った冒頭部分の心地良さ!聴き手にぱっと「愛らしさ」が伝わる掴みから素晴らしい!解説で触れられた高音部分の華やかさ!ここはヴィオラもピアノもまっすく力強く弾いたのが清々しかったです。また穏やかなところでは、優しく大きな愛で包むピアノと愛らしいヴィオラとの細やかなやりとりが自然体で心地よく、私は陽だまりで静かに語らう老夫婦(夫婦ではないけど、クララとブラームスかも?)をイメージ。そして、ピアノのターンでのヴィオラが丁寧に音を紡ぐところでは、流れが途切れず気持ちがずっと続いていると感じました。もしかすると、クラリネット版では息継ぎの都合で休符になっている部分も休みなく繋げて演奏していたかも?(勘違いでしたらごめんなさい)。締めくくりの優しさ心地良さ!第2楽章 前の楽章から一転、ここでの掴みはシリアスな感じで、瞬時に空気を変えたのはさすがです。思いっきり来るピアノの激情の素晴らしさ!ヴィオラは内に秘めた情熱を隠しきれない感じで、運命の荒波を思わせるピアノに乗って思いを吐露するように歌うのがとてもドラマチック!互いに高め合う、このデュオならではの良さを感じました。解説で紹介されたコラール風のところでは、はじめの厳かなピアノにドキドキし、満を持してヴィオラの登場。高音域と低音域それぞれの味わいがあり、人の体温を感じる祈りが心に染み入りました。やっぱり重音が良すぎます!そして楽章の締めくくりに向かう流れがとても良かったです。ヴィオラもピアノも少しずつ音量を下げていき、緩やかに眠りにつくような流れに引き込まれました。ラストのピアノの低音の一打は、控えめなのにインパクト大!第3楽章 いくつもの変奏が続くこの楽章はとても楽しくて、青木さんと石田さんの息の合ったやりとりをずっと聴いていたいほどでした。はじめの方は穏やかな流れで、変奏によって変化していくリズムの違いを楽しみ、心地よい響きにうっとり聴き入りました。ヴィオラとピアノが交互にメロディを受け渡すのが滑らかでエレガント!終盤に登場する力強くドラマチックなところの盛り上がりから、フィナーレへの流れの良さ!華やかなシーンをつなぐ中間の部分での確かな足取りから、ブラームスってこんな人(すべてに意味のあるつながりを持たせる人)なんだと私は再確認しました。明るく輝かしい締めくくりが最高!ブラームスが最後に残してくれたソナタ。それをより完成度の高さを追求した再アレンジと演奏で聴けて幸せです!改めてありがとうございます!

カーテンコール、ごあいさつに続いてアンコールへ。ロベルト・シューマン「夕べの歌」。石田さんの解説によると、元々はピアノ連弾曲で、初心者である子供が(比較的弾きやすい)メロディを弾き、年長者(年上の子だったり親だったり先生だったり)が伴奏を弾く形式なのだそう。「ヴィオラは初心者パートを弾くんですね」と青木さんがボソッと仰って、会場が和みました。青木さん、面白いです(笑)。ゆったりとしたピアノに乗って歌うヴィオラは、しっとり美しく大人っぽい印象。夕暮れ時に、寂しさよりもしみじみと今この時を慈しんでいるような、そんな温かさを感じました。この曲もまるで歌曲のよう!と、個人的には思ったりも。

青木さんが耳を澄ます仕草をして、熱い拍手に応える形でアンコール2曲目へ(ありがとうございます!)。最後はおなじみの作品を取り上げてくださいました。ロベルト・シューマントロイメライ。ゆっくりたっぷり、優しい歌がとっても素敵!「クララ~♪」のところでふと響きがまるくなるのが印象深く、温かな愛を感じました。休憩なしで演奏とお話をたっぷり約90分の公演!しかし楽しい時間はあっという間で、叶うならずっとここにいたいと思ったほどでした。青木さん、石田さん、夜の公演も控えているにもかかわらず、演奏もトークも盛り盛りで愛あふれる演奏会をありがとうございました!またお目にかかれる機会を楽しみにしています。


青木晃一×石田敏明デュオの演奏会。こちらもメインプログラムはブラームスソナタ第2番でした。「青木晃一&石田敏明 ビオラ&ピアノ デュオコンサート」(2023/11/26)。野幌までプチ遠征。メインのブラームスに加え、小品をアンコール含め10曲と盛りだくさん!魅力あふれる演奏で、耳慣れたブラームスソナタが一層愛しくなりました。

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Studio26で開催され、ヴィオラの青木晃一さんが出演された演奏会です。「シリーズ イギリス音楽 Vol.1 ヴィオラとピアノで奏でるイギリス音楽の花束」(2023/12/28)。レベッカ・クラークのソナタをはじめ、親しみやすい個性と独奏楽器としてのヴィオラの魅力をたっぷり堪能。オンリーワンの魅力にたくさん出会えた、心温まる演奏会でした。トークも楽しかったです。

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最後までおつきあい頂きありがとうございました。