自由にしかし楽しく!クラシック音楽

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レジデント・アーティスト 小菅 優コンサートシリーズ Vol.3 吉田 誠&小菅 優 デュオ・リサイタル(2022/10) レポート

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↑今回の演奏会チラシです。 ※pdfファイルです。

クラリネット奏者の吉田誠さんとピアニストの小菅優さんのデュオ・リサイタルが開催されました。ふきのとうホール主催公演で、コロナ禍での2度の公演中止を経て、ようやくこの日に開催が実現。私はお二人のCDと出会い、最初の企画発表があった2020年から、ずっとこの日を待っていました。

レジデント・アーティスト 小菅 優コンサートシリーズ Vol.3 吉田 誠&小菅 優 デュオ・リサイタル
2022年10月15日(土)16:00~ ふきのとうホール

【演奏】
吉田 誠(クラリネット
小菅 優(ピアノ)

【曲目】
ブラームスクラリネットとピアノのためのソナタ 第2番 変ホ長調 op.120-2

ブラームス:子守唄 Op.49-4
ブラームス:眠りの精
シューマン:リーダークライス Op.39-5 より 月夜
ブラームス:さびしい森の歌 Op.85-6
シューマン:3つのロマンス Op.94
ブラームス:青春の歌Ⅰ「9つの歌曲と歌」 Op.63-5
シューマン:ミルテの花 Op.25 より 最後に

プーランククラリネットとピアノのためのソナタ FP 184
サン=サーンスクラリネットとピアノのためのソナタ  変ホ長調 Op.167

(アンコール)
サン=サーンス:鐘
サン=サーンス:もしもあなたが私に何も言うことがないのなら

ピアノはスタインウェイでした。


ようやく吉田誠&小菅優デュオのライブに出会えた喜び!しかも繰り返し聴いてきたCDのイメージを遙かに超えたクオリティ!お二人は何年も温めてきた企画を、待ち焦がれていた私達に最高の演奏で聴かせてくださいました。本当にありがとうございます!クラリネットソナタの演奏は、お二人の大切なレパートリーであるブラームスの第2番はもちろんのこと、後半のフランス系の作品もとても良かったです。プーランクでは度肝を抜かれ、サン=サーンスでは今までの作曲家のイメージが変わりました。また「サン=サーンスは、愛と情熱のブラームスに似ているかも!?」と思えたのには自分でも驚いています。そして歌曲の演奏が最高に素晴らしかったです。言葉はないのに歌っていて、私達の感情を揺さぶる演奏。お二人はBSP『クラシック倶楽部』にご出演された際、歌曲の演奏にあたって、詩にある言葉の意味と真摯に向き合い、ドイツ語やフランス語の発声まで意識したアプローチをなさっていました。日本語訳もご自分達の言葉で書かれますし、言葉をとても大切にされていらっしゃる方々とお見受けします。だからこその、これほどまでの説得力!加えて今回のプログラムは、一つの大きな物語をイメージした歌曲の選曲と演奏順の工夫が秀逸でした。各演目がまるで物語の章立てになっているようで、それぞれ独立した作品が根底では全部繋がっているとも思えてきます。違っていたら申し訳ないのですが、あくまで個人的には、今回の歌曲の演奏の流れに「シューマン家の末子・フェリックスの誕生から死まで」を見届けたブラームスの心情の移り変わりを感じました。要となった演目はブラームス「青春の歌Ⅰ Op.63-5(我が恋は緑)」(作詞はフェリックス)と思われますが、実は今回、こちらの演奏に私は雷に打たれたような衝撃を受けたのです。ありったけの情熱を前のめりに全力でぶつけてくる演奏は、痛々しくもまっすぐな若さのパワーがすごい!かつての私はこの曲を、青臭い詩に対して大袈裟な音楽がちぐはぐだと感じていました。でもそれは浅はかな考えでした。若い情熱の爆発は、大人の冷笑なんて吹き飛ばすほどのエネルギーに満ちている!私はようやくこの曲の本質がわかった気がします。私はお二人のプログラムと演奏による物語をもっと聴いてみたいです。ブラームスシューマン家のエピソードはそれこそ山のようにありますし、フランスの作曲家にまつわる物語にも惹かれます。ふきのとうホールにて再びデュオ・リサイタルが開催された暁には、私達がまだ知らない物語を、お二人の音楽でぜひ聴かせてください!

今回、ふきのとうホール主催公演にはめずらしく、プログラムには曲目解説に加え、歌曲の歌詞の日本語訳まで掲載されていました。執筆はすべて小菅優さんによるもの。文面からは作品への愛が感じられ、幅広い知識による解説は作品の深い理解に繋がる、何度でも読み返したくなる充実した内容です。プログラムは大切に保管します。あと大変個人的なことですが、開演前にプログラムに目を通した私が、はっとさせられたのが、シューマン「3つのロマンス Op.94」の解説にあった「昔話が伝えられるかのように物語的な語り口で描かれているように感じる」との一文。折しもこの演奏会の直前に聴いたサロンコンサートで、チェリストのかたがシューマン「幻想小曲集 op.73」のことを「短編小説を読んでいるよう」と形容されていたからです。これを単なる偶然とは思えませんでした。シューマンを突き詰めると文学的だという理解に至るのは、一体どんな要因や理由があるのでしょう?とても気になります。私はブラームスのことは好きでもシューマンは正直ピンとこなくて、今まであまり聴いてきませんでした。しかし、ブラームスシューマンは切っても切り離せない関係にありますから、シューマンの魅力がわかればブラームスも今よりもっと楽しめそうとも思います。クラシック音楽って奥が深い!一生かかってもすべて知り尽くすことは不可能な大海の、まだ波打ち際にいる私ですが、少しずつ泳ぎ出して新たな景色が見えてくるのはとても楽しいです。


吉田誠さんと小菅優さんが舞台へ。すぐに演奏開始です。1曲目は、ブラームスクラリネットとピアノのためのソナタ 第2番 変ホ長調 op.120-2」。吉田さんと小菅さんが初めて一緒に演奏したという思い出の曲。2020年リリースのCDにも収録されています。第1楽章、冒頭の優しい響きのピアノと重なる柔らかなクラリネットの甘やかな歌から早速引き込まれました。メインとサブを流れるように入れ替わるピアノとクラリネット。小さな音で繊細に心情を歌うところはもちろんのこと、時折感情を爆発させ力強く歌うところがすごい!一度は引退を決めたはずの最晩年のブラームス、なんと情熱的なこと!終盤は落ち着きを取り戻し、静かに締めくくったのも素敵でした。第2楽章、悲劇的なピアノとほの暗いクラリネットの、哀しくドラマチックに歌うところの前のめりな感じが良くて、ピアノが沈黙するところの一人語りのようなクラリネットも印象的でした。この後に続いた、重厚なピアノが素晴らしい!私はこのぶ厚いピアノにものすごくブラームスらしさを感じ、とても胸打たれました。重なる低音のクラリネットの深さにも、清濁併せ呑んだ最晩年のブラームスの心情を垣間見たような気持ちに。ピアノもクラリネットもゆっくりと歩みを進めながら、高音域へ。輝かしいピアノと感極まったように高音で歌うクラリネットは、天に昇ったような神々しさ!私は胸が熱くなりました。第3楽章では、はじめの方の、ピアノとクラリネットの穏やかに会話しているような温かな響きに心癒やされました。個人的に、音階を駆け下りるのがブラームスで駆け上るのがシューマンだと勝手に思っていたのですが、ここでは穏やかな流れの中で自在に音階を駆け下りたり駆け上ったり。生き生きとした音楽が、ブラームスの遊び心のようでもあり楽しかったです。そして終盤、短調になってからのドラマチックな流れが圧巻でした。インパクト大なピアノから始まり、ピアノとクラリネットがダンスしているように情熱的に絡み、音が多いクラリネットの細やかな変化がすごい!クライマックスでは音階を駆け上り、希望に満ちたラストで気分爽快になりました。ああやっと出会えた!個人的に慣れ親しんできたブラームス最晩年のソナタですが、ここまで引き込まれる演奏を聴いたのは初めてです。

しかし真に驚かされたのはここからでした。ブラームスロベルト・シューマンの歌曲および「ロマンス」を組み合わせ、まるで一つの物語として繋がっているように続けての演奏。研ぎ澄まされた空気に客席も集中し、途中で拍手等による中断は起きませんでした。はじめはブラームス「子守唄 Op.49-4」。揺りかごのようなピアノの優しいリズムに、まるい音色で優しく歌うクラリネットが、温かなのにどこか哀しい感じ。歌詞の日本語訳の「神様がお望みであればまた起こしてもらえる」に、ドキっとしました。幼子を天から預かっているような感覚は、私も身に覚えがあります。続いてこちらも子守歌の、ブラームス「眠りの精」。同じメロディを優しく繰り返す音楽は、そのまま眠ってしまいそうな心地良さ。個人的には、20歳当時のブラームスシューマン家の子供達を寝かしつけるために歌っていたことを思うと、切ない気持ちになりました。そして子供達がようやく眠りについたのでしょうか。続く曲は、シューマン「リーダークライス Op.39」より「月夜」。規則正しく音を刻むピアノに、ひとり物思いにふけるように歌うクラリネットシューマン家の留守を守る若きブラームスは、「同じ月を見ている」クララさんへの手紙を書いていたのかもしれません。ブラームス「さびしい森の歌 Op.85-6」では、暗く深い森のようなピアノの響きと、物静かにやわらかく歌うクラリネットが印象的。叶わぬ恋にひとり思い悩むブラームスを想像しました。内面を見つめる曲が続き、シューマン「3つのロマンス Op.94」。第1曲、重厚なピアノに、憂いを帯びたクラリネット。時折、感情を吐露するようにクラリネットが強奏し、またピアノと一緒に音を刻んだ(付点のリズム?)ところの切なさが印象的でした。第2曲、心に平穏さを取り戻したかのように、温かな音色で優しく歌うクラリネット。しかし高音の切なさは、哀しみを内に秘めているよう。そのため中盤での嵐のような激しさも地続きと感じました。第3曲、一人語りのような暗さから、突然スキップするような明るさへ。この変化は個人的には唐突に感じられました。暗さと明るさが交互に登場しながら、ラストは明るく静かな締めくくり。気持ちがどこを漂っているのかが掴みにくい、今の私には少し難しい演目でした(ごめんなさい!)。そして時は流れ、ブラームス「青春の歌Ⅰ Op.63-5(我が恋は緑)」へ。ピアノもクラリネットも全力でくる演奏!この勢いこの情熱大爆発!前のめりな感情が、起承転結の「転」で魂の叫びとなり、そのひたむきさには打ちのめされました。あの幼子だったフェリックスは恋を語る青年に成長した!父親代わりに彼の成長をずっと見守ってきたブラームスの喜びも感じ取れました。クライマックスを経て、物語は終盤へ。シューマン「ミルテの花  Op.25」より「最後に」。先ほどから雰囲気は一変し、穏やかな音楽に。温かな音色で歌うクラリネットを、私は子守歌のようにも感じました。そして物語を静かに締めくくった、ピアノの後奏の優しさ美しさがとても印象に残っています。実の父親の顔を知らずに育ったフェリックスは、若くして父・ロベルトのいる天に召されました。天でフェリックスが父親と出会い親子水入らずの時を過ごしてほしい、この世では叶わなかった恋を実らせてほしいと、残された者達は願ったのかもしれません。ああなんという人生ドラマ!連作歌曲ではない、それぞれ独立した歌曲を、こんなにドラマチックに感じられたのは初めてです。素晴らしいプログラムと演奏を本当にありがとうございます。


後半の1曲目は、プーランククラリネットとピアノのためのソナタ FP 184」。第1楽章、冒頭からクラリネットの速いパセージに驚き、音を震わせる(奏法の名前がわからず申し訳ありません)のに心がざわつきました。ドイツ系とはカラーが違う、生真面目路線をあえて外してくる感じ。リズミカルでほの暗い音楽は、クラリネットピアノがシンクロするリズム感が良くて、意味ある休符がピタッと揃うのが気持ちイイ。少しゆったりしたところでは、繊細ながらも感情の波がくるように時折強い音が発せられたり、低音でうごめくようだったり。演奏の凄みに圧倒されました。第2楽章は、「神なる主、神なる子羊」のモチーフが使われているとのことで、重々しいピアノに深刻さが感じられました。また個人的には、寂しく歌うクラリネットシャンソンのように感じ、クラリネット小休止の際メロディを引き継いだピアノの切ない響きが印象に残っています。再び快活になる第3楽章は、駆け抜けるクラリネットがすごい!ピアノのターンでも音を震わせていたり、息つく間がないほど忙しく歌うクラリネット。ただただついて行くのに精一杯でした。ラストは引っ張らずにクラリネットとピアノの1音ですぱっと締めくくり。私は初聴きだったこちら、勢いとリズム感そして気迫ある演奏に度肝を抜かれ、のめり込みました。フランス流のエスプリと一言では片付けられないような、軽快さの影に隠れて得体の知れないものがあるように思えて、気分爽快とはなれない不思議な感覚。とても新鮮でした。今後時間をおいて、再び聴いてみたいです。きっと今回とはまた違った捉え方ができる気がします。

プログラム最後の曲は、サン=サーンスクラリネットとピアノのためのソナタ  変ホ長調 Op.167」。第1楽章、温かで優しい響きに引き込まれ、私は前半でのブラームスを思い起こしました。「十字架のモチーフ」の存在以上に、お二人の演奏からにじみ出る真心の温かさを感じたからと思います。時折哀しみを垣間見せたり、少し楽しそうに駆けていったり、しかし大声で主張する感じはない独り言のような音楽を心穏やかに聴きました。静かに消え入るラストも印象的。第2楽章は、クラリネットとピアノの軽快な掛け合いが楽しい。クラリネットが高音で切なく歌うところが素敵で、自在に音階を駆け下りたり駆け上ったりするところに一瞬ブラームスを想起しましたが、ブラームスはここまで自由な感じにはしないだろうなとも思いました。前の楽章では重厚さが感じられたピアノが、ここでは軽やかにステップを踏んでいるようだったのも素敵。そして個人的に強く心揺さぶられたのが第3楽章です。鐘の響きを思わせるピアノの重低音がズシンと来てから、一番低い音によるクラリネットの重厚な響きが重なり、厳粛な教会音楽を聴いているような気持ちに。ドラマチックなピアノのアルペジオの後、今度は高音域でささやくようなクラリネットと高音で控えめに寄り添うピアノが、切なく哀しく心に染み入りました。クラリネットが消え入ってからの、ピアノ独奏の儚げな美しさ!ガラリと雰囲気が変わって快活になる第4楽章は、クラリネットが息つく間もない程に忙しく歌い、時には音を震わせ、生命力のある音楽が素晴らしい!そして第1楽章の最初のメロディが再び。温かで優しい響きに、まるで人生を懐かしく振り返っているような気持ちになりました。めでたしめでたしと単純には言い切れなくても、様々な経験と思いを経て、この境地にたどり着けたのなら救われるのかなと。静かに消え入るラストでの、ピアノがボーン、ボーン、と2度響かせた和音がとても印象に残っています。作曲家最晩年のソナタは、なんと優しく美しい音楽!私はサン=サーンスのことをよく知りません。しかし、彼は皮肉屋さんの仮面を被っていても、その実とても心優しい人だったのでは?そして歌心のある人!そう思えたのは、私達のハートに直接語りかけるように歌った、吉田誠&小菅優デュオによる演奏のおかげです。


カーテンコールの後、マイクなしでお二人がご挨拶。3年ぶりにふきのとうホールに戻り、ようやくデュオ・リサイタルが開催できたことの喜びを語られました。小菅さんからアンコールの曲名紹介があり、アンコールへ。サン=サーンス「鐘」。鐘の響きのようなピアノの低音に、独白のようなクラリネット。中盤からはピアノが高音メインとなり希望の光が見えてきて、クライマックスでの高らかに愛を歌うクラリネットが素敵でした!拍手喝采の会場にお二人が戻ってきて、そのままアンコール2曲目へ。サン=サーンス「もしもあなたが私に何も言うことがないのなら」。か弱い存在を優しく包むピアノに、美しく穏やかに歌うクラリネットが素敵。個人的には幻想的な響きとも感じ、歌詞の内容(帰宅後に調べました)とは関係ないのに、演奏を聴いていた時はなぜか月夜に佇む女性を思い浮かべていました。また、ピアノの後奏の優しい響きもとても良かったです。前半ドイツものから後半フランスものと充実したプログラムの大熱演の後、アンコールを2曲も素敵な演奏で聴かせてくださり、ありがとうございます!

なお帰宅後に調べたところ、アンコールの2つの歌曲はいずれもビクトル・ユゴーの詩に曲をつけたもののようです。アンコールだったためプログラムに日本語訳はありませんでしたが、フランスを活動拠点とされている吉田さんによる日本語訳も拝見したいと私は思いました。今後吉田誠&小菅優デュオによるフランスもののCDをリリースする際には、ライナーノートにぜひ掲載お願いいたします!そして新CDをリリースした暁には、ふきのとうホールにて記念の演奏会を。お待ちしています!


2年前の記事になりますが、吉田誠&小菅優ブラームスクラリネットソナタ(全曲)、シューマン:幻想小曲集ほか」(2020年11月25日発売)CDを聴いた際のレビューが弊ブログにあります(※他のCDと同時レビューで申し訳ありません)。吉田誠&小菅優デュオで、次はフランスもののCDをぜひ!

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ふきのとうホール主催公演として、フランスの歌曲がたっぷり聴けたこちらの演奏会レポートも。「藤木大地 カウンターテナー・リサイタル」(2022/06/10)。この声を知る驚き、触れる喜び!加えて「真心に触れる喜び」でもありました。「死んだ男の残したものは」と続く演目の流れが圧巻!唯一無二の演奏は魂を揺さぶられるスペシャルな体験でした。

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最後までおつきあい頂きありがとうございました。