札幌交響楽団 苫小牧公演2024。しばらくお休みしていた私のコンサート通いは、地元オケの地方公演から再開です。大注目はブラームスの二重協奏曲!オケは我らが札響、ソリストはコンマス&首席の最強デュオ!行くに決まっています!七飯にも蘭越にも名古屋にも遠征した私にとって、苫小牧はご近所です。当日はJRで移動し、会場に入ると全席自由席の前の方に陣取って、ドキドキワクワクしながら開演を待ちました。
札幌交響楽団 苫小牧公演2024
2024年03月23日(土)14:00~ 苫小牧市民会館
【指揮】
広上 淳一(札響友情指揮者)
【独奏】
会田 莉凡(ヴァイオリン) ※札響コンサートマスター
石川 祐支(チェロ) ※札響首席チェロ奏者
【曲目】
ブラームス:ヴァイオリンとチェロのための二重協奏曲
チャイコフスキー:交響曲第5番
(アンコール)グリーグ:過ぎにし春
ブラームスの二重協奏曲。個人的に愛してやまない作品の1つに最高の形で出会うことができました!ブラームス「らしい」骨太の管弦楽をベースにした上で、こちらもブラームス「らしい」内に秘めた感情の室内楽的なやりとり。一見相反する2つの要素が両立する、奇跡的な演奏!しかし、おそらくブラームスってそんな人(矛盾するものをいくつも抱えた人)なんですよね。深刻さがベースにあっても感情には波があり、また単純に割り切れない感情の機微もある。様々な思惑を抱えながらも、最後は力強く希望へ向かう。それらがすべて1つの流れとしてぐいぐい迫り来て、その勢いに身を任せるのは快感でした。脈打つ音楽の息づかいと鼓動から、ブラームス自身の体温が伝わってくるよう!「これこそブラームス!」と、ブラームス推しの私はとてもうれしかったです。ありがとうございます!もちろんこの布陣ですから、間違いないとは信じていました。それでも自分の事前予想をはるかに超えた演奏を前に、自分の認識はまだまだ甘かったなと痛感。もう、絶対に敵いません!最高にうれしい!いつの頃からか「ブラームスの二重協奏曲を、会田さんと石川さんがソリスト&オケは札響で聴きたい」と夢見ていた私。その望みが思いの外早くに叶ってしまいましたが、「これで終わり」ではなく、「ここからまた始まる!」と、今の私の気持ちは前を向いています。これからも必ず別のステージで、私達の想像をはるかに超える新たな夢を何度でも見せてください!演目はブラームスに限らず、オケでも室内楽でも。
また後半チャイ5は素直に聴けて胸打たれ、気分爽快になれました。たとえチャイ5のフィナーレが繊細な人の「カラ元気」であっても、少々塞いでいた今の私にとっては大変共感できるもので、むしろありがたかったです。この日私は、生演奏から数ヶ月離れていたのがウソみたいに、札響の響きに自然となじみ思いっきり楽しむことができました。その懐の深さに感謝です。帰れる場所があるって幸せ!これからも末長くお世話になります!
前半は、ブラームス「ヴァイオリンとチェロのための二重協奏曲」。オケの編成は8型でしょうか?演奏前にソリストのお2人は、マエストロ広上、田島コンマス、そしてお互いに握手し合いました。会田さんは鮮やかな赤のドレス!指揮の広上さん、おヒゲお似合いです♪第1楽章 オケのパワフルな序奏に続いた、独奏チェロの重低音の鳴り!ああ何度聴いてもすごい!底知れぬエネルギーで、運命の重たい歯車をぐーっと回すような、じっくりたっぷりのチェロに身も心も全部持って行かれました。ギターをかき鳴らすようなピッチカートの凄み!木管に続いて、独奏ヴァイオリンが登場。はじめの柔らかな美音にうっとりしたのも束の間、独奏チェロと呼応し始めると切れ味抜群のシャープな音に。2つの独奏の絡み合って異なる個性が一心同体となり、加速し力強く音階を駆け上る気迫!一気に運命が回り出すこの瞬間に痺れる!オケのターンでは、こちらも高音弦と低弦ががっちり絡むスタイルでその重なりゾクゾクさせられ、ティンパニの力強さ、金管の壮大さ、トリルが華やかな木管の存在感!と、ブラームス流の骨太な管弦楽に、私は最初からどっぷりハマりました。独奏2つはこれ以上無いほどの一体感!ぴたっと寄り添い歩みを進める独奏2つの、高音も低音もビリビリ来る!後から楽譜を見ると、ここは鏡映しだとか交互にリレー形式になっているとかの確認はできるのですが、目の前で繰り広げられた演奏はあまりにも自然で、重なりや繋ぎ目がある事を聴き手にまるで意識させないほどでした。その上で独奏ヴァイオリンが感情を高ぶらせたり、独奏チェロが丸みのある音色で優しさを垣間見せたりと、ふと現れる感情のゆらぎがたまらなく素敵!この真剣勝負の中、ソリストのお2人は常にアイコンタクトをしながらお互いの呼吸を確認しつつ、笑顔を見せる余裕まで!演奏を心から楽しんでいらっしゃる様子が伝わってきました。また独奏2つと気持ちを共有するオケの仕事ぶりが素晴らしい!壮大で力強いところも、少し穏やかになるところも、様々な感情が違和感なく一続きになっていて、とても説得力があると感じました。独奏を支える、ピッチカートや弦を細かく擦る演奏はまさに音楽自体の鼓動のよう!また細かい部分では、余韻を残したクラリネットの温かみや、独奏2つをヴィオラがリードしたところが印象的でした。終盤、一呼吸置いてからの二重奏キター!この風格この貫禄に震える!合流したオケの重厚さが超男前!第1楽章が終わったところで客席の一部から拍手が起きました。今すぐに感激を伝えたい、わかります!第2楽章 前の楽章の厳しさから一転、落ち着いた音色でゆったり歌う独奏2つがすごく素敵!唯一無二の音をお持ちのソリストお2人が、今回もまた素晴らしい音で私たちを魅了してくださいました。オケの優しく温かな管に澄んだ弦は、空と大地の広がりのよう。高音での独奏2つの語らいがなんて美しい!また個人的には、比較的チェロの見せ場が多いこの曲において、こと今回の第2楽章に関して言えばヴァイオリンのターンだったと感じました。ヴァイオリンのこの上なく美しい高音を、優美なチェロが寄り添い支える。これは愛ですね!独奏チェロが(演出として)ためらう感じの演奏の時に、オケの弦のピッチカートが良いタイミングで入るのがツボ。オケのピッチカートは、後半の盛り上がりでは明るい未来を予感させる響きになったのが素敵でした。独奏2つが一緒に幸せいっぱいに歌い、オケの管の余韻が温かなラストの多幸感!そしてここで独奏チェロがじっくり調弦をしてから、第3楽章へ。舞曲風の独奏チェロの艶っぽさ!並走するオケも同じ鼓動を共有して、このリズムにドキドキ。独奏2つが一緒に力一杯駆け抜け、パワフルなオケへつながる流れが超カッコいい!2つの重音の重なりがキレッキレ!丁々発止のやりとりの気迫!堂々と歌う独奏チェロの貫禄!オケの中低弦とホルンが重なったことで、独奏チェロは一層輝きが増していたと感じました。全体合奏の壮大なところもあれば、弦楽合奏の室内楽的なところ、さらに親密な二重奏と、シーンが次々と変化。それらすべてが一つのつながりで、かつどのシーンも素晴らしくて、札響のお力を再確認。改めて、札響の皆様すごいです!楽章のはじめの方で独奏チェロが歌ったメロディを、終盤に独奏ヴァイオリンとのデュオで歌ったのには胸が熱くなりました。クライマックスでの、独奏ヴァイオリンと独奏チェロが交互に主役になり支あうのがすごく素敵!ソリストお2人の信頼関係、ヨアヒムとブラームスのそれ以上かも!ティンパニに導かれ、オケの堂々たる強奏の締めくくりが輝かしい!演奏後、ソリストのお2人がハグ。客席は拍手喝采!なんて密で壮大で愛と情熱あふれる、ブラームスの二重協奏曲!この場にいられた私達は幸せです。最高の演奏をありがとうございました!
後半は、チャイコフスキー「交響曲第5番」。ちなみに私は、広上さん指揮&札響によるチャイ5を以前hitaru定期(2021/2/25)で聴いています。初めて聴いたその時にとても感激したので、今回同じ布陣で再び聴けることを楽しみにしていました。オケは前半よりも菅も弦も増員され、12型(10型?)に。第1楽章 じっくりゆっくりの冒頭、中低弦の重々しさとクラリネットの暗い「運命の動機」にゾクっとしました。一歩一歩進むような弦のリズム、木管群が次第にコロコロ歌い始めたのにドキドキ。運命が回り出した?そこからガツンと盛り上がったのには圧倒されましたが、この日のこの時に限って言えばまだ私の気持ちが追いつけなかったです(ごめんなさい!)。しかし強弱の波がハッキリしていて明快な演奏が気持ちいい!澄んだ弦楽合奏やピッチカートからの幸せな流れ、ホルンと弦が囁くように会話するところ等、美しい響きを穏やかな気持ちで聴くことができました。ファゴット、ティンパニ、低弦で静かに沈み行くラストに、ふと悲愴のラストを思い出したり。第2楽章 中低弦による厳かな出だしが鳥肌もの!ホルンの温かな響きがなんて素敵なこと!ホルンと各木管が呼応し合うところの優しさ、チェロがメロディを歌う良さ、そして感極まっての弦の美しさには胸打たれました。もう大好き!金管がパワフルな、第4楽章の先取りのような勇ましい盛り上がりがすごい!私の気持ちはようやく追いつき、盛り上がりに乗れたのがうれしかったです。静かな締めくくりは温かな感じで、厳しさ寂しさを乗り越えての温かさに心癒されました。第3楽章 美メロと軽やかなリズムが素敵なワルツ、楽しく聴けました。木管群が歌うところでの弦ピッチカートの合いの手が気持ち良く、次々と各パートにメロディが受け渡される駆け足のところでは、それぞれのパートの仕事ぶり(皆様完璧!)を追いかけました。クラリネットとファゴットによる「運命の動機」がここではコミカルな感じで楽しかったです。第4楽章 低音が効いた冒頭部分がぐっと来ます。細かく強弱を変化させるのが感情の揺らぎのよう。トランペットに私は夜明けをイメージしました。駆け抜ける音楽の勢いとリズム感が気持ちよく、ティンパニが鼓舞し金管が全力で来る盛り上がりは大迫力!そして大感激!クライマックスの明るく前進する音楽には、繊細な人の芯の強さを強く認識。華やかなトランペットが祝福してくれているようでした。繊細な感情を内に秘めた上での力強さ!思い切った快演に、清々しい気持ちになれました!札響のチャイ5、大好きです!何度でも聴きたい!
カーテンコールで何度も戻ってきてくださった指揮の広上さんは、順に奏者の皆様に起立を促して讃えた後、マイクを持ってごあいさつとトーク。「『さよならマエストロ』も終わって、コンサートに足を運ぶ日が戻ってきました」という掴みから入り、「お楽しみ頂けましたか?」との問いかけに会場には大きな拍手が起きました。「私達の仲間」である素晴らしい2人のソリストのこと、札響は世界レベルのオケに育ってきていること、今回の会場は古いながらも音響に優れたホールであること、といった話題が登場。「TBSの回し者ではないけど」と前置きした上で、ドラマの台詞「音楽は人を救う」を引用し、お正月に震災の被害を受けた能登半島のお話に。広上さんがアーティスティック・リーダーをされているアンサンブル金沢についても触れ、被災地への支援をお願いします、というお話でトーク終了となりました。
曲目は告げられずにアンコールへ。私はロビーでアンコールボードを見つけられませんでしたが(ごめんなさい!)、演目はおそらくグリーグの「過ぎにし春」だったと思います。弦のみでの演奏でした。澄んだ音色による少し哀しくも優しい音楽が心に染み入ります。ああ私はやっぱり札響の弦が好き!個人的には、「過ぎにし」というよりは、「これから来る」春を感じました。まさに春の息吹が聴こえてくるようで、雪解けのこの時期にぴったり!大熱演の後に、心温まり心洗われる素敵なアンコールまでありがとうございました!
終演後はロビーにて能登半島地震・被災地支援の呼びかけがありました。もちろん私も募金(余談ですが、私は一万円札を崩しに一度会場を出てから戻り、心ばかりの金額を撤収作業中の会場スタッフのかたに手渡しました。一万円札を出してしまうと札幌へ帰る電車賃が無かったので・恥)。私は今回残念ながら奏者の皆様とお話しできませんでしたが、またの機会にぜひお願いいたします。きっと札幌でも同じ布陣でブラームスのドッペルコンチェルトの再演を!CD化も熱望!お待ちしています!
昨年末(2023年12月)には、今回のソリストのお2人が参加する弦楽四重奏団の旗揚げ公演を聴きました。「リッカ弦楽四重奏団 結成記念コンサート」(2023/12/13)。札幌にスケール桁違いのカルテットが爆誕!熱量高く核心を突く演奏による、ハイドン、ショスタコーヴィチ、ブラームス。ハートに火がついた音楽家たちの本気を目の当たりにした、最高にアツイ夜でした!
名古屋遠征してブラームスのドッペルコンチェルトを聴いた公演はこちら。「セントラル愛知交響楽団 第196回定期演奏会~春・声~」(2023/05/13)。ディーリアスの美しさに誘われた、愛あふれる春のブラームス。魅力的な独奏とオケによる二重協奏曲に打ちのめされる快感!ブラ1の「苦悩から歓喜へ」の素晴らしさ!しらかわホール定期のラストイヤー初回公演に居合わせて幸せでした。
最後までおつきあい頂きありがとうございました。