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セントラル愛知交響楽団 第196回定期演奏会~春・声~(2023/05) レポート

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札幌から名古屋への遠征2日目は、セントラル愛知交響楽団定期演奏会を聴きました。2023年度のテーマは「ブラームスブラームスブラームス」。また今年度最初の定期でもある今回は、タイトルに「春・声」が掲げられ、ブラームス作品と合わせてディーリアス「春の牧歌」も取り上げられました。大好きなブラームスを2曲も聴ける!しかも私たちの札幌交響楽団が誇る首席チェロ奏者・石川祐支さんがソリストとしてご出演!私は企画発表されたとき即座に遠征することを決め、この日をずっと楽しみにしていました。また当日は話題の名フィル定期(土曜夕公演)と日程が被っていたにもかかわらず、会場には大変多くのお客さん達が集まりほぼ満員に近い盛況ぶりでした。


セントラル愛知交響楽団 第196回定期演奏会~春・声~
2023年5月13日(土)14:30~ 三井住友海上しらかわホール

【指揮】
角田 鋼亮(常任指揮者)

【独奏】
島田 真千子(ヴァイオリン) ※セントラル愛知交響楽団ソロコンサートマスター
石川 祐支(チェロ)     ※札幌交響楽団首席チェロ奏者

管弦楽
セントラル愛知交響楽団コンサートマスター:寺田 史人)

【曲目】
ディーリアス:春の牧歌
ブラームス:ヴァイオリンとチェロのための二重協奏曲 イ短調 op.102
ソリストアンコール)J.S.バッハ:4つのデュエット 第2番 BWV803 ヘ長調 ※ヴァイオリン&チェロ編曲版

ブラームス交響曲第1番 ハ短調 op.68


個人的に愛してやまないブラームスの、こんなにも充実した、愛あふれる演奏に出会えて幸せです!それこそ普段ブラームスばかり聴いている私ですが、こんなにも清々しい気持ちになれたのは久しぶりでした。オケはピッチカート1音1音といった細部に至るまできっちりと演奏していたのに加え、演奏に迷いが無く信じる道をまっすぐに進み、思い切り伸び伸びと歌っていた印象です。特にブラ1の終盤の充実ぶりは鳥肌モノ!ブラームスの喜びがまるで自分たちの喜びであるかのような「苦悩から歓喜へ」の素晴らしさは特筆したいです。その響きからも演奏姿からも、指揮の角田さんとオケの皆様は心からブラームスがお好きだというのがひしひしと伝わってきました。プレトークで指揮の角田さんはブラームスに「寄り添いたい」と控えめに仰っていましたが、確かに「全てお見通しだ」なんて傲慢さは微塵もない誠実な演奏だったと私は思います。しかしこれ以上無いほどブラームスの思いに肉薄し、愛情を込めて表現されていたと感じました。いちブラームスファンの私は本当にうれしかったです。ありがとうございます!

そしてブラームスの二重協奏曲のすごさに打ちのめされる快感!地元で獲得したつもりの免疫は、圧倒的な演奏の前には無力でした。実を言うと、私はこの日の約2週間前に今回のソリストお二人による二重協奏曲(ピアノトリオ版)の演奏を聴いています。その時、もうこれ以上のものはない完璧でしょ!と思わせておきながら、今回さらにパワーアップして華麗に登場……もう絶対に敵いません!主役として輝けるソリストお二人の独奏は、私達の心を捉えて離さない唯一無二の魅力があります。しかしその主役としての魅力にとどまらず、支える役目では丁寧な仕事ぶりで相方の影になり、かつオケとも驚くほどの親和性があったと感じました。お二人ともオーケストラのコンマスや首席でいらっしゃることも関係しているのかもしれませんが、これほどまでにオケとシンクロしながら主役としても輝けるソリストってそうそういないのでは?ソリストとオケの演奏が密接に繋がっていたからこそのグルーヴ感にはやられっぱなしでした!ソリストお二人の大熱演に応えるように、オケもとても張り切って演奏していらしたとお見受けします。ちなみに私(席は比較的前の方の中央寄りでした)にはヴィオラパートがやや目立って聞こえたのですが、それは独奏のヴァイオリンともチェロとも違う魅力がある音色だったからかも?でもおかげでブラームスが内声をしっかり作っていることが改めてよくわかりました。

また最初にディーリアス「春の牧歌」というめずらしい演目を取り上げたのもとても気が利いていました。雪解けのような美しさに心が洗われ、セントラル愛知交響楽団さんが持つ美しい音色をはじめにじっくり味わえたのがうれしかったです。私にとって初聴きだったディーリアスは、しみじみ素敵で、他の作品も聴いてみたくなりました。加えて「春の訪れ」を今回のブラームス2作品にも感じることができたのがよかったです。個人的に、ブラームスは四季でいうと「秋」に例えられることが多いように感じています。しかし今回の二重協奏曲と交響曲第1番は、いずれも深刻さから希望へ向かう、まさに春にぴったりなブラームス!これはうれしい気づきでした。

今回の会場である三井住友海上しらかわホール、とても良いホールでした。北海道の北広島にある花ホールを少し大きくした感じで、演奏家と物理的にも心理的にも距離が近いのがとても良いです!音響はプレトークでもご紹介くださった通りとても優れていて、ごく小さな音から大きな音まで自然に響いて包まれる感じが素敵でした。残念ながら本年度で閉館とのこと。何も出来ない自分がもどかしいですが、様々な事情があってのことと存じます。しらかわホール定期のラストイヤー、幸先の良いスタートおめでとうございます!今後の公演のますますのご盛会をお祈りいたします。


開演前(14:10頃から)、指揮の角田鋼亮さんによるプレトークがありました。最初に今年度のテーマはブラームス、と紹介。またホール閉館に伴い、三井住友海上しらかわホールでの定期演奏会は今シーズン限りというお話になり、ここで楽団員を代表して、コンサートマスターの寺田史人さんとコントラバス奏者の榊原利修さんステージへ。思い出話と共にホールの良さを語ってくださいました。多岐に渡ったお話の一部をピックアップしてご紹介します(順番は前後しています)。1994年にホールが出来たとき、名古屋にはステージに木を縦に並べたホール(音響が優れているそうです)は他になかったそう。(ウィーンフィルにとってのウィーン楽友協会など)オケがホールと一体となるのを夢見てきたそうです。しらかわホールは、シューベルト交響曲にちょうどいいというのが最初のコンセプトで、セントラル愛知交響楽団とは相性が良いとのこと。20代で初めてこのホールの指揮台に立ったという角田さんは、下からも音が来るような音響の良さに加えて、お客さんの表情がよく見えてお客さんと一緒に演奏会を作っていけることの良さを語られました。今年度のテーマであるブラームスについても少し触れられ、曰く「弦奏者にとってブラームスは特別」。ブラームスには皆様並々ならぬ思い入れがおありのようでした。楽団員のお二人が退場し、角田さんによる今回の演目の紹介へ。まず、昨年度の最後の定期がマーラーで、今年度最初がディーリアスというのは、「歌」つながりと解説。今回の「春の牧歌」は「もしかしたら日本初演かも」(!)。ディーリアスは両親が羊毛ビジネスで成功し、経済的に恵まれていたそうです。また、ブラームスの朋友で二重協奏曲の初演者でもあるヴァイオリニストのヨアヒムがディーリアス家に演奏に来ていたという、ブラームスとの意外な関連についてもご紹介くださいました。またブラームスの二重協奏曲は、独奏ヴァイオリンと独奏チェロの対話、ソリストとオケとの対話に注目くださいとのこと。ヴァイオリンの島田さんとチェロの石川さんは、丁寧な演奏をする素晴らしいソリストであり、オケはそれに寄り添いたいとも仰っていました。そしてブラ1のポイントは「シューマンの死」「クララへの愛情」の大きく2つ。クララのイニシャルがうまく作品に盛り込まれていて(シューマンもよくやっているそう)、名前を連呼する第4楽章は「(クララのことを)どれだけ好きなんだ」(!)。作品が世に送り出された当時ブラームスは43歳。「私も今年43歳」という角田さんは「彼(ブラームス)の気持ちに寄り添いたい」。「お楽しみください。後ほどお会いしましょう」と、トークは締めくくられました。


弦の編成は10-8-6-6-4。また前半1曲目のみハープ1台が入りました。最初の演目は、ディーリアス「春の牧歌」。穏やかな出だしから、木管群による美しくも少し哀しいメロディが素敵で、じんわり心に沁みました。支えていた弦が主役となってメロディを奏でたときに、明るく視界が開けたようで、聴いている私達も気持ちが晴れやかに。牧歌的なホルンに、ハープに乗って歌う木管はまるで草花の息吹のよう!またチェロパートやヴィオラパートがメロディを奏でるところもあり、少し愁いを帯びた響きがとても印象に残っています。澄んだ弦の響きが雪解けを思わせ、春の訪れの喜びを噛みしめているような音楽。重厚なブラームスの前に、心が洗われる演奏が聴けてうれしかったです。

ソリストの島田真千子さんと石川祐支さんをお迎えして、2曲目は、ブラームス「ヴァイオリンとチェロのための二重協奏曲」。第1楽章。骨太で華やかなオケ前奏に続いて登場した独奏チェロの重低音の凄み!ああ痺れる!!瞬時に空気を変えたこの第一声に否応なく引き込まれました。このカデンツァでのじっくり足取りを確かめるような歌い方、ピッチカートの力強さ!木管群に続いて登場した美しくもシャープな独奏ヴァイオリンと絡み合いながら、一緒に音階駆け上り、重音をさらに重ねるところの気迫!最初から両者一歩も譲らないソリストたちの真剣勝負に圧倒されました。オケのターンでは重厚な響きに加え休符の入り方が絶妙で、抑えきれない情熱に対して何度も肩で息をしているような感じにドキドキ。それに続いたソリストたちの対話での、オケの弦による音の刻みとピッチカートは心臓の鼓動を思わせるものでゾクゾクしました。ソリストたちの掛け合いは息を呑む緊迫感!独奏ヴァイオリンから入るところでのヴァイオリンの低音にぐっと来ました。穏やかになっていく流れでの、合間に入ったクラリネットの柔らかな音色が印象的でした。高音で歌う独奏チェロの音色が柔らかで艶っぽくてとっても素敵!ここではオケの中低弦が支えになっていて、オケと見事に親和する独奏チェロに、地元オケ首席でのソロ演奏の姿が重なりました。独奏2つのスタッカートがキレッキレ!そこから力強くトリルでオケに繋げる流れが男前でホレボレ。オケのターンでの、独奏2つが大きく弓をうねらせる演奏が情熱的!独奏2つが、前半では交互に歌っていたメロディを後半になると一緒に歌うのがなんとも良くて、チェロの方は少し音が丸くなっているのが素敵!独奏2つが一緒にクライマックスに向けてクレッシェンドしながら音を繰り出すのが圧巻でした。一度しか歌わない二重奏(最高に素敵でした!)を経て、締めくくりに向かう流れでも一切の妥協はナシで、独奏2つはオケとシンクロしながら1音1音きっちり積み上げつつもアツイ!あまりのすごさに、私はしばし呆然としてしまったほど。第2楽章。木管群に続いて登場した独奏2つの音色がなんて艶やかで美しい!親密な会話をするようなところの甘く優しい響きも素敵でした。この独奏2つを支えるオケがどこまでも広がる優しい世界のよう。独奏チェロが一瞬低音になる(渋い!)ところで、オケの弦のピッチカートがピタっとベストなタイミングで入ったのが気持ち良かったです。穏やかなオケに続いた、独奏2つの感極まったような多幸感が超素敵!第3楽章。中低弦のピッチカートに乗って、独奏チェロ、続いて独奏ヴァイオリンが舞曲のようなメロディを奏でるところにドキドキ。穏やかな対話から独奏2つが全力で弦をかき鳴らしてオケに繋げた流れに痺れました!オケの合間に入った独奏2つによる重音が超カッコイイ!オケの低弦に乗って歌った、温かく貫禄ある独奏チェロに、私は思わず感涙しそうに。ソリストの二重奏では、2つの個性の思いが一つになり希望が見えたと感じ、胸が熱くなりました。クライマックスでの、オケの木管が穏やかに歌い、その下で細かく音を繰り出していく独奏2つの仕事ぶりがすごい!その流れで主役に踊り出した独奏2つは、交互に主役になりながら、支えに回るときは細やかな伴奏で相手を引き立てていたのがとても素敵でした。輝かしい二重奏をオケのティンパニが祝福し、オケと一緒に堂々たる締めくくり。ああ素敵すぎて何を言ってもこの思いには足りない!ただこれ以上無いほど最高の二重協奏曲に出会えて感激です!ありがとうございました!

ソリストアンコールは、J.S.バッハ「4つのデュエット 第2番 BWV803 ヘ長調。軽快なメロディをヴァイオリンとチェロで追いかけっこしたり、テンポ良く掛け合ったり、(実際は楽譜通りと思われますが)自由な感じで次々と音を繰り出したり。協奏曲ではとても真剣な表情だったお二人ですが、アンコールでは笑顔も見られて、聴いている私達もリラックスして楽しめました。カーテンコールで何度も戻って来て下さったソリストのお二人が、最後にがっちり握手。盛大な拍手が送られ、前半終了となりました。


後半は、ブラームス交響曲第1番」。第1楽章。ティンパニが効いた重厚な出だしの力強さに私は思わず身震い。第4楽章では歓喜に変わるメロディを木管が歌うところのもの悲しさ、ホルンと木管群の会話の広がり、深刻な弦、何度も来る盛り上がりの力強い波!目の前で繰り広げられるザ・ブラームスの世界にただただ夢中になりました。またテンポも細かく入る休符のリズムもとても良く、繰り返しに入るところの頂点の一撃が私のツボにピタっとハマったのがうれしかったです。この深刻な楽章が、最後は少し希望の光が見えるような締めくくり。木管群の柔らかな響きはもちろんのこと、個人的にはここでの弦の音色が印象的でした。あくまでさりげなく第4楽章を予告するかのよう。第2楽章。ファゴットの低音と一緒にそろりと始まった弦がなんて素敵なこと!この大地の広がりを思わせる響きに包まれる幸せ!オーボエソロはじめ木管群の温かな歌が素敵で、それを支える弦の涼しげな音色に私は雪解けの早春をイメージ。ピッチカートが愛らしい!澄んだ音色のコンマスソロが美しく、ホルンの響きと一緒にさらに世界の広がりを感じさせてくれました。第3楽章。弦のピッチカートに乗って木管群が軽やかに歌うのがウキウキとした感じ。高音と低音がこだまし合うのがとっても素敵でした。これはまさに愛!そのまま続けて第4楽章へ。重低音から湧き上がる冒頭の力強さにぞくっとして、弦のピッチカートからティンパニへの流れにドキドキ。そして雄大なホルン(クララへのメッセージ)で苦悩から歓喜へ。ここからがすごく良かったです!明るいフルートに続いたトロンボーンがなんて温かく神々しいこと!ゆったりと歌う弦の音色が素敵すぎて鳥肌ものでした。うまく言えないのですが、喜びを噛みしめているような大人の落ち着きが感じられ、なんとも艶っぽくて素敵!幸せな感じの木管群を支えていた弦が、エネルギーを溜めて上昇するのが気分爽快!華やかな全員合奏では、輝かしい高音はもちろんのこと、支える低音のカッコ良さに痺れました。私、やっぱりブラームスの低音が好きすぎます!一度しか出てこない、弦が思いっきり弾くところでは、高音弦と鏡映しの低弦が超男前でうれしい!オケの全員がノリノリで生き生きとした演奏。そのまっすぐな響きに、また指揮の角田さんの背中からも、オケの皆様の演奏姿からも、演奏を楽しみ心からブラ1を愛していらっしゃることが伝わってきました。クライマックスでははじめにトロンボーンが奏でたコーラルを全員合奏で。その堂々たる響きに私は胸が熱くなりました。自信に満ちた希望あふれる締めくくりが素晴らしい!ブラ1、なんて良い曲なんでしょう!知っていたつもりのブラ1で、こんなにも清々しい快演に出会えた喜び!私は胸がいっぱいになりました。会場はブラボーと盛大な拍手でオケを賞賛。お客さん達も皆、演奏を心から楽しんだ様子が会場の空気から伝わってきて、とても良い雰囲気です。地元の方々に愛されているオケとホールなのですね!私、札幌からはるばる来て本当によかったです。オケとお客さん達が一緒になって作る、素晴らしい演奏会。この場にいられたことに感謝です。ありがとうございました!

 

 

この日の前日に聴いた「名古屋フィルハーモニー交響楽団 第512回定期演奏会〈継承されざる個性〉」(金曜夜公演は2023/05/12)。円形配置のノモス・ガンマの凄まじさ、王道ボレロのアンサンブルの良さ、そして服部百音さん独奏に度肝を抜かれたバルトーク。指揮の井上道義さんによる継承されざる個性は、価値観がひっくり返るどえりゃあ体験でした!

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今回のソリストのお二人が出演された「蘭越パームホール20周年 深淵なるバッハとブラームスの世界」(2023/04/30)。温かみのある木のホールにて、最小単位から広がる深く壮大な世界!ピアノトリオによるブラームス二重協奏曲は、大ホールに引けを取らない堂々たる響きで、想像を超えたスケールの大きさでした。

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最後までおつきあい頂きありがとうございました。