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蘭越パームホール20周年 深淵なるバッハとブラームスの世界(2023/04) レポート

※おことわり。本レポートは5/13(第196回セントラル愛知交響楽団 定期演奏会)の公演を聴くよりも前に書き上げていましたが、私の判断で5/13のレポートと同時公開といたしました。ご了承くださいませ。


蘭越町にあるパームホールにて、ホール20周年記念の演奏会が開催されました。ピアノトリオによるブラームス「ヴァイオリンとチェロのための二重協奏曲」とソロ演奏によるバッハの無伴奏が聴ける会で、出演はヴァイオリンをセントラル愛知交響楽団ソロコンサートマスターの島田真千子さん、チェロを札幌交響楽団首席チェロ奏者の石川祐支さん、そしてピアノを札幌を中心に活動されている石田敏明さんという豪華な顔ぶれ!私はJRの一日フリーパスを使って日帰り旅行です。当日、会場には満席近くの大勢のお客さん達(約60名)が集まっていました。


蘭越パームホール20周年 深淵なるバッハとブラームスの世界
2023年04月30日(日)15:00~ 蘭越パームホール

【演奏】
島田 真千子(ヴァイオリン) ※セントラル愛知交響楽団ソロコンサートマスター
石川 祐支(チェロ)     ※札幌交響楽団首席チェロ奏者
石田 敏明(ピアノ)

【曲目】
J.S.バッハ:デュエット BWV803 ※ヴァイオリン&チェロ編曲版
J.S.バッハ無伴奏ヴァイオリンソナタ第1番 ト短調  BWV1001
J.S.バッハ無伴奏チェロ組曲第1番 ト長調  BWV1007

ブラームス:ヴァイオリンとチェロのための二重協奏曲 イ短調 Op.102 ※ピアノトリオ版

(アンコール)エルガー:愛のあいさつ ※ピアノトリオ版


札幌にいてもそうそう出会えない、どえらい演奏に出会えました!弦楽器1つの独奏またはピアノトリオという小さな編成で、なんて深くなんて壮大な世界!バッハの無伴奏は、最小単位から広がる世界が素晴らしく、派手な演出はないからこそ素材そのものの良さをじっくり味わえました。そしてブラームスの二重協奏曲のすごさといったら!お一人で世界を創りあげることができるソリストが二人合わさるととんでもないことになり、熱く骨太で壮大な、なんて形容では足りないほど想像を超えた世界が目の前で繰り広げられました。さらに両者一歩も譲らない真剣勝負でありながら、重なるところはきっちりシンクロし、掛け合うところは息ぴったり。オケでコンマスと首席を務めておられるお二人とはいえ、普段は異なるオケで別々に活動しているわけで、しかも指揮者なしでここまで合うなんて!音楽の流れを止めることなく、ごく自然に息が合っている演奏には驚かされ、生き生きとした演奏からはまるで音楽そのものの鼓動や息遣いまでもが伝わってくるようでした。またこの両者を支えるピアノが素晴らしかったです。弦のお二人の勢いを受け止め、情熱的な両端楽章ではパワフルに、穏やかな中間楽章では柔らかな響きで、オーケストラの役割を一手に引き受けてくださいました。この三つ巴による演奏は、小さなホールでも大ホールに引けを取らない堂々たる響きでスケール無限大!この場にいられたことに感謝です。

今回初めてうかがった蘭越パームホール、とても素敵なホールでした。木で作られた温かみのある内装で、音響も素晴らしく特に弦楽器の余韻がきれい!またステージの後ろには大きな窓があり、自然光が入って演奏家を柔らかく照らすのは視覚面からもすごく素敵でした。オーナーの金子さんのお人柄の良さに、集まったお客さん達の和やかな雰囲気かつ演奏を聴く姿勢の真剣さ。札幌のホールにはない魅力が満載で、こんな素敵な場所が地方の小さな町にあることに私は感激しました。札幌からは日帰り圏内で、近くには温泉もあって(昆布温泉、良いお湯でした♪)、良いところです。ぜひまたうかがいたいと思います。


開演前にホールのオーナーの金子さんからごあいさつ。昨日は雨に見舞われ、(特に弦楽器には好ましくない)湿気が心配だったものの、今日は良いお天気でよかったというお話から。素晴らしい演奏家をお招きして、ホール20周年記念のコンサートを開催できる喜びを語られました。また20年の間には色々なことがあったそうで、コロナ禍で1年間ずっと演奏会をやめていた時期があったり(たまたま時期が良くて開催できた会があると、出来なかった会の方に不公平となると考えて、すぱっと止めたそうです)、ダブルブッキングが一度だけあったりも。演奏会を開催するには、まず来てくれる演奏家がいることと、聴きに来るお客さん達がいること、そして場所の3つが揃う必要があり、都会から離れた地元で続けてこられたことのありがたさも語られました。そして金子さん自身、バッハは昔からお好きで、ここ数年はブラームスにも強く惹かれているとのこと。今日の演奏をとても楽しみにしていると仰っていました。

島田さんと石川さんが舞台へ。すぐに演奏開始です。1曲目はプログラムには記載がなかった演目で、ヴァイオリンとチェロの二重奏でした。J.S.バッハ「デュエット」。こちらは演奏後の解説にて、鍵盤楽器のための4つのデュエットのヴァイオリン&チェロ編曲版と紹介されました。ちなみに私が帰宅後に可能な範囲で調べたところ、4つのデュエットはバッハ作品番号のBWV802-805にあたり、そのうちこの日に演奏されたのはBWV803と思われます(違っていましたら申し訳ありません)。はじめヴァイオリンから入り、チェロが追いかけるスタイル。私は曲名を聴く前からバッハらしい音楽!とピンときて、うれしくなりました。軽快なメロディを楽しく会話するように両者で呼応しあったり、両者で主役と脇役が交代したり、ちょっと愁いを帯びたり。派手な演出はなくても、お二人がそれぞれ持つ音の素晴らしさと、もちろん演奏の良さを楽しめました。肩の凝らない小品の素敵な演奏のおかげで、会場が良い感じに温まりました。

島田さん独奏によるJ.S.バッハ無伴奏ヴァイオリンソナタ第1番ト短調  BWV1001」。なおプログラムに記載は無く、トークでも触れられませんでしたが、島田さんはバッハの無伴奏ソナタ&パルティータ全曲集のCDをリリースされているようです。演奏前に島田さんから曲の解説があり、私たちは4つの楽章のキャラクターを大まかに把握することができました。「教会音楽のような」第1楽章アダージョ は、最初の重音がインパクト大!一定のテンポでのゆったりした流れの中で、何度も登場する重音が厳かな感じ。トリルによる音の揺らぎがチェンバロのようでとても印象的でした。「追いかけっこしながら繰り返しが2声から4声まで」の第2楽章フーガ は、確かに緻密な追いかけっこになっていて、お一人で1つのヴァイオリンを弾いているのに一体どんな仕組みなのかとつい思ってしまいました(ど素人でごめんなさい!)。重なる音が増えていく職人技にただただ驚かされ、また単旋律のところでは規則正しく音階を上下する中、一番低い音に来た時の力強さがアクセントになっていてカッコ良かったです。「イタリアの舞曲」第3楽章シチリアーナ は、ゆったりしたステップのようなリズムに、何度も登場する重音が艶っぽく幸せな感じ!個人的にはモーツァルトを連想しました。「速いテンポでどんどん和音が変わっていく」第4楽章プレスト は、休みなしでずっと音を繰り出していく演奏がアツイ!テンポや強弱を一定に保ち、ピッチカート等の演出がなくても、緻密な構成の音楽をきっちり演奏。それが純粋に心に響くのを楽しめました。

石川さん独奏で、J.S.バッハ無伴奏チェロ組曲第1番 ト長調 BWV1007」。こちらも演奏前に石川さんによる解説がありました。バッハの無伴奏チェロ組曲は、スペインのチェリストであるカザルスが13歳の頃(!)に古本屋で発見し、比較的最近演奏されるようになったものだそうです。組曲は全部で6つあり、それぞれ舞曲が6つずつの詰め合わせ。今回演奏する第1番が特に有名です、といったお話でした。前奏曲 は、おなじみのメロディの堂々たる響き!ああなんて輝かしい!4つの音の連なりでは、高音の輝かしさの中で1音だけ重低音が入るのが印象的でした。ラストの重音の余韻が超素敵!アルマンド は、はじめのインパクトある重音に、何度も登場するトリルが素敵でした。クーラント では、はじめステップのようなリズムが楽しく、後半ではいくつも連なる音を繰り返しながら次第に盛り上がっていくのが面白かったです。サラバンド は、重音にトリルが印象的で、アルマンドに似ている?と一瞬思いました。しかしアルマンドよりもゆったりしていて、一音一音の響きの余韻までが素敵!メヌエット は、1番目の明るい舞曲も素敵でしたが、個人的には2番目の少し影ある舞曲の美しさに惹かれました。ジーグ は生き生きと跳ねるような音が楽しく、ずっと同じ調子ではなく時折速くなったり音を刻んだりと変化するのも素敵!舞曲の楽しいリズム感に、チェロの低音の魅力あふれる響きをたっぷり堪能できた、幸せな時間でした。

15分間の休憩時間には、別棟でお菓子とコーヒーのサービスがありました。また、ホール内ではオーナーの金子さんから「蘭越パームホール友の会」への入会案内も。笑いの絶えない、和やかな休憩時間でした。

後半はピアノトリオの編成による、ブラームス「ヴァイオリンとチェロのための二重協奏曲 イ短調 Op.102」。演奏前に島田さんからお話がありました。ここで初登場のピアニスト石田さんを「オーケストラのたくさんの音を今日はお一人で弾いてくださいます」と紹介。また「札幌交響楽団が誇る首席チェロ」の石川さんと島田さんはともに名古屋のご出身で、子供の頃同じジュニアオケで演奏されていたそうです。高校と大学は別だったものの、大学生の時に小澤征爾さんのもとでカルテットを組んだことがあり、今回は何十年かぶりの共演とのこと。ブラームスの二重協奏曲については、ブラームスが当時仲違いしていたヴァイオリニストのヨアヒムと和解するために書いた曲で、初演はブラームス指揮、独奏はヨアヒムとヨアヒム四重奏団のチェリスト、といったお話がありました。同じカルテットで演奏した石川さんと時を経てこの二重協奏曲を一緒に演奏できる巡り合わせ、そしてブラームスがお好きというオーナー・金子さんへ捧げます、と仰って、いよいよ演奏開始です。第1楽章。ピアノのパワフルな前奏に続いて登場した、チェロの重低音のインパクト!この掴みの力強さにぐっときました。ギターを鳴らすように4本の弦を順番に弾くピッチカートが見た目にも超クール!ピアノの間奏を経て登場したヴァイオリンの冴えた音色が刺さり、弦の二重奏で音階を駆け上りピアノの強奏に繋がる流れがすごい!このパッションあふれる演奏!最初からぐいぐい引っ張られていく感覚にゾクゾクしました。弦は登場する度に鮮烈な印象で、丁々発止の掛け合いをしながらその一続きの中で何度も盛り上がりの波があり、最初から最後まで私達の気持ちを掴んで離さない気迫に満ちたものでした。すべて良くて選べないのですが、例えば、ピアノの後に再登場した歌うチェロの艶っぽさ、二重奏での音階を上るヴァイオリンのシャープな高音と鏡写しで下るチェロの渋い低音、ヴァイオリンから始まる流れでのヴァイオリンの深い低音、高音域でゆったり歌うチェロの美しさ、深刻な空気を一変したスタッカートの小粋な感じ!強く主張するところだけでなく、ヴァイオリンとチェロで細かく交代しながらメロディを繋げて演奏する流れではまるでお一人で弾いているような一体感!ピアノのターンでのヴァイオリンの高音の圧倒的な存在感!そして終盤、一呼吸置いてここでしか登場しないメロディの二重奏では、艶やかで大人の余裕さえ感じさせる弦の音色が素敵すぎて!弦のお二人はなんて良い音をお持ちなの!と、私はリアルに震えました。この特別な音を引っ張ることなく、ピアノと一緒に駆け抜け楽章締めくくり。この大熱演に、会場はどよめき大きな拍手が起きました。楽章間だと皆様わかっていたはずなのに、今すぐ感激を伝えずにはいられない!すっごい!第2楽章。ピアノの穏やかな前奏に続いてヴァイオリンとチェロが登場。これがまた素敵すぎる音色!落ち着きあるのに幸せな感じで、視界がぱっと開けたようになったのが何とも良かったです。控えめなピアノに乗って、ゆったり親密な会話をする2つの弦。本来は協奏曲とはいえ、プライベートな感じがとっても素敵で、この曲はピアノトリオとして成立する世界線もあったのでは?とつい思ったりしました。感極まったような高音が美しい!第3楽章。舞曲のようなメロディをチェロ、続けてヴァイオリンがリズミカルに奏でたのにドキドキ。幸せそうなやり取りから、弦の二重奏でパワフルに音を刻みピアノに繋げた流れには一気にテンション高まりました。ピアノの合間に入った重音×2がアツイ!2つの弦が交互に低い音を鳴らしながらクレッシェンドで上り詰めるところのグルーヴ感!終盤の二重奏で歌うところはなんとも温かく、希望の光が見えたように感じました。クライマックスでは、2つの弦がお互いを思いやるように交互に高らかに歌ったのがすごく素敵で、私は胸がいっぱいに。力強く音階を駆け上り、思いっきり明るく締めくくり。なんて気持ちの良い快演!札幌から聴きに来て本当に良かった!大ホールでの演奏に引けを取らない、壮大で骨太で情熱的などえらい演奏を私達に聴かせてくださり、ありがとうございます!

カーテンコールの後、ピアノの石田さんからお話がありました。石田さんは、石川さんとは2012年に共演した事があるものの、島田さんとはこの日の前日が初対面とのこと。素晴らしい演奏家と大絶賛されていました。同じメンバーで今度はピアノトリオの演奏会をしたい(!私、確かに聞きましたよ!)と仰って、会場は大きな拍手。蘭越パームホールでは何度も演奏されている石田さんから、ホール20周年の記念すべき会で演奏できたことへの感謝、そしておめでとうございますとお祝いの言葉が送られました。「お礼の意味を込めて」アンコールへ。おなじみエルガー「愛のあいさつ」をピアノトリオによる演奏。ピアノの優しい響きに乗って、まずはヴァイオリンが美しくメロディを奏で、後からチェロが続きました。おなじみのメロディは、ヴァイオリンもチェロもどちらも素敵!重なるところの甘やかで柔らかな響きの良さは、このトリオだからこそ!このトリオの重なる良さ、願わくばもうずっと聴いていたいほどでした。王道バッハ、熱いブラームスの真剣勝負に加え、ほっと心穏やかになれるアンコールまで、充実の隅々まで楽しめた演奏会、最高です!素晴らしい演奏をありがとうございました。いつか再びこのトリオでの演奏をぜひ聴かせてくださいませ。

最後にオーナーの金子さんのごあいさつ。「超」楽しかったと晴れやかな表情で仰って、演奏を心から楽しまれたことが伝わってきました。また、こんなに豪華な演奏家をお招きしてコンサート開催できた喜びと、再びこのホールで演奏して頂きたいとの思いを述べられ、会場は盛大な拍手!あえて今日の出演者の皆様にプレッシャーをかけている感じがほほえましくて(金子さんのお人柄だからこそ!)、本当に良い雰囲気です♪そしてこの後に開かれる懇談会の案内(希望者が別途会費を支払い参加)があり、演奏会はお開きに。私はJRの時間があったため、泣く泣く失礼して帰路につきました。蘭越パームホール、20周年おめでとうございます。とっても素敵なところでした!また必ずうかがいます!


札響七飯公演」(2022/12/29)。生命力あふれるベト7、弦の本領発揮アイネ・クライネ・ナハトムジーク、札響首席チェロ奏者・石川祐支さんソリストハイドンは魅力あふれる独奏と密なアンサンブル。真冬の北海道で超アツイ演奏、最高の一年の締めくくりでした!

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Kitaraアーティスト・サポートプログラムⅡ〉青木晃一×石田敏明 デュオリサイタル~ブラームスから拡がるヴィオラ×ピアノの響~」(2023/03/15)。雄弁さと歌心と超絶技巧による「主役としてのヴィオラ」の輝き!ブラームス最後のソナタでは、感情の機微を丁寧に表現する演奏によって作曲家の最晩年の境地を見ることができました。

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