蘭越パームホールにて、ヴァイオリン・チェロ・ピアノによるコンサートが開催されました。昨年度(2023年度)、ホール20周年記念演奏会に出演されたメンバー3名が再集結!ありがとうございます!昨年の記念すべき出会いから、再会できる日を心待ちにしていました。私は今回もJRの一日フリーパスを使って日帰り旅行です。好天に恵まれたゴールデンウィークの中日、列車は観光客らしき人達でいっぱい!また会場には早い時間から多くのお客さん達が集まっていました。
蘭越パームホール ヴァイオリン・チェロ・ピアノによる調べ
2023年05月03日(金・祝)15:00~ 蘭越パームホール
【演奏】
島田 真千子(ヴァイオリン) ※セントラル愛知交響楽団ソロコンサートマスター
石川 祐支(チェロ) ※札幌交響楽団首席チェロ奏者
石田 敏明(ピアノ)
【曲目】
J.S.バッハ:無伴奏ヴァイオリンソナタ第1番 ト短調 BWV1001
J.S.バッハ:無伴奏チェロ組曲第2番 ニ短調 BWV1008
ベートーヴェン:6つのバガデル op.126 より
ベートーヴェン:バガデル イ短調「エリーゼのために」
ハイドン:ピアノ三重奏曲 ト長調 Hob.XV-25「ジプシー風」
(アンコール)
エルガー:愛のあいさつ ※ピアノトリオ版
ブラームス:ハンガリー舞曲第5番 ※ピアノトリオ版
蘭越パームホールにて、このメンバーと1年ぶりに再会でき、その音楽に浸る幸せ!昨年の公演にて「同じメンバーで今度はピアノトリオの演奏会をしたい」と仰っていた事を、早くも実現くださりありがとうございます!1年ぶりに触れた島田さんの音色も、札幌で親しんできた石川さんと石田さんの音色も、自然光がさす温かな木のホールにてゆったり味わえるのは格別でした。加えてピアノトリオでの密な掛け合いの素晴らしさ!お一人お一人が持つ唯一無二の音がただ同時に鳴っているのではない、そこに呼吸と勢いがあり、情熱や愛があふれ、音楽にたちまち生命が宿るのはまさにミラクル!ここにしかない生きた音楽との一期一会に、今回もドキドキワクワクさせられっぱなしでした。いつも予測不可能で、毎回スペシャルな体験となる!そんな演奏を聴かせてくださる音楽家の皆様との出会いに心から感謝いたします。
蘭越パームホール。この居心地の良い空間にて、時を忘れて素敵な響きに浸るのは、とても豊かでかけがえのない時間です。その幸せを改めて実感した私は、多くは望まないので、ひとえにこの幸せがいつまでも続いてほしいと願います。オーナー・金子さんが仰った「ゆっくり、がいい」に、私は心底共感いたします。都会やネット上の喧噪から離れ、タイパやコスパといったものとは無縁の場所があるのは救いです。もちろん地元・蘭越の皆様にとっても大切な場所なのだと、札幌からお邪魔した私から見てそう感じます。超ご多忙な音楽家の皆様が、都会から遠く離れた蘭越に集まり演奏会に出演くださるのは、きっとパームホールと蘭越町に「戻って来たい」と思わせる魅力があるからですよね!そしてやはり大切なのは「ご縁」。これも昨今の情勢ではおろそかにされている感じではありますが、世の中は人と人との「ご縁」があってこそ成り立っているのだと、私はつくづくそう思いました。様々な「ご縁」を大切にして、地道にホールを守り育ててくださっている金子さんをはじめ、パームホールを愛する地元蘭越町の皆様、なにより「ご縁」で繋がり素敵な演奏を届けてくださる音楽家の皆様。蘭越パームホールを形作るすべての皆様にお礼申し上げます。この温かな場所に私はこれからもお邪魔したいと思っています。
開演前にパームホールのオーナーの金子さんからごあいさつとお話がありました。今回の「ご縁」は昨年に続いて2度目。既に出演者の皆様が来年も蘭越パームホールにぜひ来たい(!)と申し出てくださっていて、毎年恒例になるかも、と仰っていました(ありがとうございます!来年以降ももちろん聴きにうかがいます!)。パームホールでのコンサートは色々な人とのご縁で企画が入るとのことで、今まで金子さんご自身から出演オファーをしたことはない(!)そうです。また地元の人達にも支えられ、演奏会を取り仕切ることのみならず、地元農家の食材等の差し入れがたくさんあるとのこと。「そんな蘭越の良さも伝えたい」そうです。そして、金子さんは「ゆっくり、がいい」とお考えだそうで、その思いを共有するパームホールに集まるお客さん達とは気が合う、とも。最後に、予定されていた演目が変更になった事へのお詫びがありました(当初は「深淵なるバッハとブラームスの世界 vol.2」として、後半にブラームスのピアノトリオ第1番を予定)。「バッハ!ブラームス!では重い(!)ので、新緑のこの季節に気持ち晴れやかにお帰り頂ければ」と金子さん。会場に温かな笑いが起き、トーク終了となりました。
はじめは、島田さん独奏によるJ.S.バッハ「無伴奏ヴァイオリンソナタ第1番ト短調 BWV1001」。アダージョ 最初のインパクトある重音に、私は約1年ぶりの「島田さんの音」との再会にうれしくなりました。途切れることのない1つの連なりの中で、重音の厳しさとゆったり流れるメロディの優美さが両立。何度も登場したトリルは丁寧で、音の揺らぎが心地よかったです。音をのばして消え入るラストが繊細で素敵!フーガ 「ひとり追いかけっこ」の職人技!厳格でも演奏自体に堅苦しさはなく、個人的には歌のように感じられました。終盤の多くの音の連なりは、まるでクラシックギターを情熱的にかき鳴らしているようでカッコイイ!ピッチカートは一切使わず、弦を擦る演奏のみで表現されているのが驚きです。こちらもラストはフェードアウトして、余韻を残したのが印象的でした。シチリアーナ ステップを踏むような舞曲のリズムが心地よく、柔らかく幸せな響きが素敵!こちらも歌っているように私は感じました。プレスト 息つく間もなく超高速での演奏がクールでアツイ!美音と技巧の素晴らしさに圧倒され、貫禄ある演奏にホレボレしました。なお島田さんによると(終演後、お見送りの時間に少しお話しできました)、昨年と同じ演目でも更に勉強(と仰っていました)を重ね、演奏に磨きをかけてこられたとのこと。もちろん昨年の演奏も素敵でしたが、更に磨きがかかった今回の演奏はとても新鮮に感じられ、私は初めて出会った曲のように夢中になって聴けました。ありがとうございます!
続いて、石川さん独奏によるJ.S.バッハ「無伴奏チェロ組曲第2番 ニ短調 BWV1008」。前奏曲 最初の1音が床の振動と一緒に来て、私は思わず身震い。そうこの感じ!この体感を得るためなら私はどこにでも行きます!よどみない音の連なりが素晴らしく、きっちりした流れの中で時折ふっと音をのばすところがあって、柔らかな表情が垣間見えるのが素敵でした。節目に入った重音の重量感!ラストの音が自然に消え入る、その余韻も素敵!アルマンド 滑らかな流れの舞曲は少し前のめりな印象で、根底に熱い血が流れているように私は思いました。時折入るトリルが胸焦がす感じで素敵!低音をのばしたラストの余韻がまた素敵!クーラント 高速で駆け抜ける演奏、超カッコイイ!この勢いに身も心も委ねるのは快感!しかし真面目な音楽なのに艶っぽいのは何故でしょう?サラバンド 今度はゆったりとした流れに。穏やかで祈りを思わせる響きと、チェロの胴が鳴る重厚な響きと、そのどちらもぐっと来る良さでした。メヌエット 1つ目の厳しい感じと、2つ目の優しい感じが好対照で、タッタッタ♪とステップを踏むようなところが印象的でした。ジーグ 軽やかに始まり、どんどん音の厚みと勢いを増していく演奏に驚愕!メロディに合いの手のような音が重なるのが情熱的でカッコイイ!まるでクラシックギターのよう(ピッチカートは一切なし!)とも感じました。締めくくりの、自信に満ちた音の貫禄がすごい!石川さんのチェロで、バッハの無伴奏チェロ組曲を通しで聴けるなんて、超うれしい!そして、やはり贅沢!札幌でも滅多にない事ですから、感激はひとしおです。昨年1番、今年2番を聴かせて頂いたので、来年以降に3番から6番もぜひお願いいたします!
15分間の休憩時間には、別棟でお菓子と飲み物のサービスがありました。手作りトマトジュースがとても美味しかったです。ごちそうさまでした!
後半。はじめはピアノソロです。ベートーヴェン「6つのバガデル op.126」より、4曲を抜粋しての演奏。石田さんは舞台へ登場してすぐに1曲目を演奏、演目の解説を挟んで後の3曲を演奏してくださいました。その解説の内容をここでは先に記します。「バガデル」とは、日本語に訳すと「取るに足りない(!)」といった意味だそうです。56歳で亡くなるベートーヴェンは、50代に大曲をたくさん書いているとのこと。大曲を書いている合間に、ふと思いついた事や見聞きしたことを活かしたこんな「バガデル」も書いている、と紹介がありました。ベートーヴェンが生きた時代はピアノがどんどん発展しており、ベートーヴェンは新たなピアノに出会う度に様々な挑戦をしていたそうです。その1つとしてこの作品では「ペダル踏みっぱなし」の演奏をするところがある、と実演付きで解説してくださいました。各曲の簡単な紹介もあり、第6曲は「街を散歩していたら人々がダンスしている所に出会った」というイメージと、この頃の社会情勢(市民階層が主権を握りつつある)も合わせてお話しくださいました。第1曲 穏やかで可愛らしいメロディを優しく歌うピアノ。私は心安らぎ、ベートーヴェンの意外な一面を見た気持ちに。しかし、次第に低音の重厚さも出てきて、そこはベートーヴェン「らしい」と感じました。第3曲 ゆったり優しいメロディにタンタンタン♪のリズムが心地よく、このリズムが胸の高まりのように大きくなったりキラキラしたりと変化するのが素敵でした。第5曲 「第1曲と性格が似ている」と解説で紹介されたこちらは、高音のメロディを低音がリフレインする形のところが多く、ペダルの効果(?)で、音が消えないうちに次が重なっているようでした。まるで水彩画の重ねた色がにじむように、色合いが変化していくのが興味深かったです。第6曲 思いっきり力強く華やかに始まり、今まで穏やかな曲が続いていたので私はちょっとびっくり!ダンスのところでは、お互い様子をうかがっているような慎重さと楽しくステップ踏むところが交互に登場。楽しいステップでは軽やかな高音と寄り添う低音が親密な感じで、ほっこりしました。最後は再びはじめの華やかさが登場し、パワフルに爽快に締めくくり。ベートーヴェンが肩肘張らずに書いた作品を、聴き手もリラックスして楽しめました。演奏後、石田さんは「ベートーヴェンは作曲当時53歳。その年齢に(石田さんご自身が)近づいている事を意識して演奏しました」と仰っていました。
続いて、ベートーヴェンのバガデル イ短調「エリーゼのために」。演奏前に解説がありました。はじめに、大変有名なこの作品も「バガデル」ですと紹介。こちらはベートーヴェンが40代で書いた作品で、他のバガデルと一緒に出版したかったようですが実現されず、作曲家の死後に発見されたのだそう。また「エリーゼ」とは誰か?について、諸説ある中から2つほど紹介くださいました。ちなみに先ほどの「6つのバガデル op.126」にあった「ペダル踏みっぱなし」は、「エリーゼのために」には無いそう。なお、この日の後半のプログラムは作曲された年代がどんどん遡っていく並びにしたとのことです。演奏は、はじめの有名なメロディは繊細で、追いかける低音にはさりげない優しさが感じられ、これは「エリーゼ」への愛!と私は確信しました。中盤の盛り上がるところは美しくかつ情熱的!石田さんのピアノによる名曲中の名曲、しみじみ素敵でした。
出演者の3名が揃い、プログラム最後の演目は、ハイドン「ピアノ三重奏曲 ト長調 Hob.XV-25『ジプシー風』」。演奏前に石田さんからお話がありました。宮廷音楽家だったハイドンは数多くの作品を残していると紹介。ベートーヴェンの師匠で、ベートーヴェンのピアノソナタ第1番はハイドンに献呈されているそうです。また今回取り上げるピアノトリオについては、各章の簡単な解説があり、第3楽章のメロディから「ジプシー風」と呼ばれるとのこと。「どの辺が『ジプシー風』なのかはお聴きいただければわかると思います」と仰って、いよいよ演奏開始です。第1楽章 はじめのヴァイオリンがなんて素敵なこと!華やかかつ幸せあふれる感じ、まるで鳥がさえずっているよう!私は瞬時に恋に落ちました。温かく幸せな響きで包み込むチェロは愛!メインで歌うヴァイオリンに寄り添い支えながら、とても生き生きとしたベースを作っていたと感じました。またフレーズ最後に残る低音は、控えめなのにぐっと来る良さ!コロコロと歌うようなピアノの多幸感とリズムが心地良かったです。変奏が続くこの楽章では、例えばタッタタッタッタッタ♪とスキップする楽しいリズムだったり、やや哀しげになったり、様々な表情が次々と。流麗な音楽の波に身を任せながら、色々な変化を楽しめました。第2楽章 ゆったりとした流れで、優しいピアノに乗って歌う2つの弦の柔和で美しい音色がなんとも心地よく、心安らぎ癒やされました。第3楽章 はじめの軽やかなピアノは、心躍る感じでワクワク。滑らかな抑揚をつけたチェロの優美な音色が良すぎます!ヴァイオリンが華やかに舞曲のメロディを奏でるところでは、合間合間に少しトーンを抑えるところがあって、そのメリハリが楽しい!ごく小さな音での掛け合いの親密さにぐっと引き込まれました。ほの暗い舞曲のメロディを3人で力強く奏でる、この勢いと熱量!情熱的に駆け抜けたラストまで、生き生きとした演奏に気持ちが晴れやかになりました。島田さん・石川さん・石田さんによる生きた音楽の呼吸と鼓動、その熱を同じ空間で体感できて幸せです!
カーテンコール。出演者の皆様から順番にごあいさつがありました。昨年度の公演(2023年度)は、島田さんと石川さんがソリストとして出演される「ある本番」の前に、ピアノがオーケストラパートを弾く演奏会。島田さんは「今回同じメンバーで『室内楽』のコンサートを実現できてうれしい」、石川さんは「今年は好天に恵まれ(昨年の公演は雨模様)、気持ちよく演奏しています」といった事を仰っていました。加えて、石川さんは「別のメンバーとのピアノトリオ演奏会を8月に蘭越パームホールで行います(!)」と突然の衝撃予告。会場が色めき立ちました。すごい!「ご縁」が繋がって新たな企画が続きますね!そしてアンコール1曲目の演奏へ。おなじみエルガー「愛のあいさつ」。ゆったりと優しいピアノに乗って、メロディをはじめにヴァイオリンが奏で、そこにチェロがそっと重なった後メロディを奏でました。なんと優しく柔らかで愛あふれる弦の音色!甘く美しい音色にうっとりしました。ヴァイオリンとチェロが寄り添い歌うのは、思い合う男女の語らいを思わせる心地良さ。叶うことならずっと浸っていたい!
アンコール2曲目は、「来年には(当初予定していた)ブラームスのピアノトリオ第1番をやるので、予告編として(!)」、ブラームス「ハンガリー舞曲第5番」。今回のハイドン「ジプシー風」ともつながる、粋な選曲ですね!先ほどの「愛のあいさつ」からガラリと変わって、低めの艶っぽい音色で全員がガンガン来る勢いと熱量がすごい!血が騒ぐ舞曲に聴き手のテンションも一気に上がりました。中盤のBメロでは、弦2つの強弱の波、ピアノとの掛け合いと、メリハリくっきりで楽しい!チャンチャンチャン♪の情熱MAXの締めくくりまで、超カッコ良かったです!会場はプラボー&拍手喝采。来年度の公演が今から待ち遠しいです!
最後にオーナーの金子さんのごあいさつ。「とても満足、でもこの場を去りがたい」……そうですよね、私も同じです!「こんな感じで続けていけたらと思います。これからもお付き合い頂けたら」といった趣旨のことを仰って、会場に大きな拍手が起きました。特別な時間が流れる「蘭越パームホール」、この素晴らしい場所を生み素敵な時間を提供し続けてくださり、本当にありがとうございます!良い形でいつまでも続いていきますように。
昨年度(2023年度)の公演です。「蘭越パームホール20周年 深淵なるバッハとブラームスの世界」(2023/04/30)。温かみのある木のホールにて、最小単位から広がる深く壮大な世界!ピアノトリオによるブラームス二重協奏曲は、大ホールに引けを取らない堂々たる響きで、想像を超えたスケールの大きさでした。
島田さんと石川さんがソリストとして出演された公演。私は名古屋まで聴きにうかがいました。「セントラル愛知交響楽団 第196回定期演奏会~春・声~」(2023/05/13)。ディーリアスの美しさに誘われた、愛あふれる春のブラームス。魅力的な独奏とオケによる二重協奏曲に打ちのめされる快感!ブラ1の「苦悩から歓喜へ」の素晴らしさ!しらかわホール定期のラストイヤー初回公演に居合わせて幸せでした。
ピアノの石田敏明さんが出演された演奏会です。「第21回 楽興の時 青木晃一×石田敏明 ~ロベルトとクララ、そしてヨハネスの愛~」(2024/03/24)。ブラームスのソナタはレクチャー付き!演奏もトークも盛りだくさんの愛あふれる演奏会で、シューマン家の居間で音楽とお話を楽しんでいるような、幸せなひとときを過ごすことができました。
最後までおつきあい頂きありがとうございました。