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諏訪内 晶子&エフゲニ・ボジャノフ デュオ・リサイタル(2023/09) レポート

※おことわり。こちらのレビュー公開時点では、リサイタルツアーは継続中です。これからリサイタルをお聴きになるかたで、新鮮な気持ちで本番を迎えたいかたは、どうぞ本レビューをお読みくださるのは千穐楽を迎えて以降にお願いいたします。

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ヴァイオリニストの諏訪内晶子さんとピアニストのエフゲニ・ボジャノフさんのデュオリサイタルがKitara大ホールにて開催されました。2023年9月に全国6カ所を回るコンサートツアーの一つで、札幌公演はその初回。プログラムは、ブラームスのヴァイオリン・ソナタ全3曲です。近い日程で魅力的な演奏会が目白押しの中、私はこちらの演奏会を最優先に計画を立て、当日をとても楽しみにしていました。

 

諏訪内 晶子&エフゲニ・ボジャノフ デュオ・リサイタル
2023年09月15日(金)19:00~ 札幌コンサートホールKitara 大ホール

【演奏】
諏訪内 晶子(ヴァイオリン)
エフゲニ・ボジャノフ(ピアノ)

【曲目】
ブラームス
 ヴァイオリン・ソナタ第1番 ト長調 Op.78 「雨の歌」
 ヴァイオリン・ソナタ第2番 イ長調 Op.100
 ヴァイオリン・ソナタ第3番 ニ短調 Op.108

(アンコール)
ブラームス
 5つのリート 作品106より 第4曲「わが歌」
 ヴァイオリン・ソナタ第3番 ニ短調 Op.108 より 第2楽章


初めて出会う音と空気で、ブラームスの愛と情熱に触れる喜び!ブラームスの3つのヴァイオリン・ソナタはいずれも主役級の作品にもかかわらず、その全曲演奏会はよく企画されます。しかしこんな素晴らしい出会いがあるなら、私は何度でも聴きたい!言うまでも無く、演奏家にとっては生半可な気持ちでは到底立ち向かえない作品ばかり。それを、今回の諏訪内さんとボジャノフさんのデュオは、作品の魅力を十二分に引き出した愛ある演奏で聴かせてくださいました。例えば影が薄くなりがちな第2番は溌剌と、技巧的な面が注目されがちな第3番は歌心たっぷりに!ブラームス大好きな私にとって、忘れられない特別な出会いとなりました。ありがとうございます!

これはあくまで個人的な感じ方なので参考までに。はじめ率直に感じたのは「ピアノの音が大きすぎる」こと。メリハリはありましたが、盛り上がりのところでは時にヴァイオリンをかき消すほどの大音量となり、しかもテンポが速くなる傾向があったように思います。鍵盤を強く打ったはずみで手が大きく跳ね上がる動作も相まって、特に前半では私はピアノに気を取られて仕方がありませんでした。ただ今回はツアーの初日。しかも弦とピアノのデュオにとっては広すぎるホール(と私は思っています)にて、ホール全体に響かせるためには手探りな部分もあったことと存じます。これも生演奏ならではの味わいです。もとよりブラームス自身は「ピアノとヴァイオリンのためのソナタ」として、ピアノとヴァイオリンを対等の扱いで書いている作品たち。弦がいると弦に気持ちを持って行かれがちな私にとって、ブラームスのピアノをじっくり聴けたのは素直によかったです。厚みのある低音の説得力、情熱的な高音の秘めたエネルギー!今後ブラームスのピアノ・ソナタ3曲の演奏もぜひ聴かせて頂きたいです。そしてやはりヴァイオリンが素晴らしい!個性的なテンポに難なく乗り、繊細さを保ったまま深みある音色で聴衆を惹きつけてくださいました。何より諏訪内さんがお持ちの「音」そのものが形容しがたい良さ!他の作曲家のソナタや協奏曲の演奏も聴きたくなりました!また後の方に行くにつれて、ピアノとヴァイオリンのバランスも良くなっていき、プログラム最後の第3番はデュオの気持ちが一つになった最高の演奏だったと私は思います。偉そうに言って申し訳ありません。


出演者のお二人が舞台へ。諏訪内晶子さんは薄いピンクベージュにスパンコールで装飾された、背中が大きく開いたドレス姿、エフゲニ・ボジャノフさんは黒シャツ姿でした。すぐに演奏開始です。今回はオールブラームスで、最初は「ヴァイオリン・ソナタ第1番 ト長調 Op.78 『雨の歌』」。第1楽章 ピアノの和音に乗って、そっと登場したヴァイオリンは柔らかな響きで美しい!2人の語らいは、ややテンポが揺らぎ、儚い美しさを感じました。抑えがちに歌うところと感極まるところのメリハリはっきり。ただ、盛り上がる部分でピアノがとても力強くなり、ザ・ブラームスのピアノを聴けた一方で、ヴァイオリンの音色がちょっとかき消された?と感じたシーンも(あくまで個人的な感覚です)。やや穏やかになったところでは、ヴァイオリンが3連符(9連符?)のうねうねした音をしっかり作り込んで演奏していたので、かき消された部分もじっくり聴きたかったと正直思います。しかしヴァイオリンが歌うところではブラームスの歌心が感じられ、艶っぽい音色もとても素敵で、引き込まれました。明るい楽章締めくくりは、ヴァイオリンがひときわ長く音をのばして余韻を残したのが印象的。第2楽章 冒頭ピアノがまるでピアノ・ソナタのようなインパクト!内なる思いを一音一音に力強く込めているように感じました。ほどなく登場したヴァイオリンは、ゆったりと素朴に少し哀しげに歌うのが素敵!ふと音がまるくなるところが何とも素敵で印象に残っています。ピアノのダッダーン♪の力強さ!続いたヴァイオリンは、シャープな音でピアノに引けを取らないインパクト!このシャープさがあって、続く重音のふくよかなところ(すごく素敵でした!)の良さが際立ったと感じました。穏やかにフェードアウトするラストは、ここでもヴァイオリンの余韻がじっくり。第3楽章 はじめの歌曲引用のところは、少し前のめりで先を急ぐように感じられました。滑らかな流れの中で、ヴァイオリンとピアノが細かく呼応し合う間合いが絶妙!情熱的なところも、甘くふくよかな重音も、第1楽章と第2楽章のメロディを思わせるところが何度か登場。その一つ一つが愛しく、丁寧な演奏から愛を感じられたのがうれしかったです。ラストはヴァイオリンとピアノが一緒に、幸せな感じでフェードアウト。個人的に、最初こそパワフルなピアノに少し戸惑ったものの、次第になじんで音楽を楽しめるようになりました。普段あまりにも「聴きすぎている」演目のため、こだわりの強さから素直に受け入れられなかったのかもしれません。申し訳ありません。

後半。はじめは「ヴァイオリン・ソナタ第2番 イ長調 Op.100」。第1楽章 ピアノの和音に乗って、そっと登場したヴァイオリンの柔らかさ甘さ!高音での重音は凜とした美しさ!歌曲『メロディのように op.105-1』に似たところでは、はじめにメロディを歌ったピアノは堂々たる響き。続いて歌ったヴァイオリンは、美しくも意思を感じる音色で、まっすぐな清々しさが素敵!力強いピアノと重なっても、芯の通った強さのあるヴァイオリンは存在感抜群でした。中盤、少し不穏な感じになるところでは、ヴァイオリンの音の刻みやシリアスな響きがクールでカッコ良かったです。幸せな重音を繰り返す楽章締めくくりは、超スピードかつエネルギッシュ!(と私は感じました)。第2楽章 アンダンテとスケルツォが色合いを変化させながら交互に登場するスタイル。はじめのゆったりと優雅なアンダンテでは、高音をのばすヴァイオリンはまるでソプラノ歌手が優しく歌っているよう。そしてスケルツォでの駆け引き(と私は勝手に妄想)では、ピアノが大胆にステップを踏む感じで、とても積極的なアプローチ(!)。対するヴァイオリンはそのテンポに乗りながらもうまく自己主張していて、この一筋縄ではいかない男女2人の駆け引き(私の妄想です)にドキドキ。中間のアンダンテでの、高音で歌うヴァイオリンは様々な思いを秘めているような孤高の美しさ!その後に続くスケルツォでは、ピアノと息ぴったりなピッチカートが小粋な感じでとても良かったです。「なーんてね」と駆け足での締めくくりは思いっきり元気よく!第3楽章 はじめの、低めの音程でゆったり歌うヴァイオリンがなんて素敵なこと!深みある、と一言では到底形容できない、諏訪内さん独自の音色に私は魅了されました。間奏のピアノはなんて輝かしい!歌曲『わが恋は緑 op.63-5』に似たところは、思いを叫ぶような、切なくも情熱あふれ青春の輝きを感じる歌い方!私は胸がいっぱいになりました。柔らかく重音を繰り返し、幸せで輝かしい締めくくり。まっすぐで明るい、こんな溌剌とした第2番もイイですね!加えて、内なる思いが何層にも重なっているような、豊かなヴァイオリンの響きが楽しめたのもうれしかったです。

プログラム最後は、「ヴァイオリン・ソナタ第3番 ニ短調 Op.108」。第1楽章 重厚なピアノに乗って、そっと浮かび上がってきたヴァイオリン。悲しみを内に秘めたような音色に胸打たれました。ヴァイオリンとピアノが細かく呼応し合い、クレッシェンドとデクレッシェンドを繰り返すのが細やかですごく良かったです。感情が揺らぐ人がそこにいるようで、とても惹きつけられました。ついに悲鳴を上げたヴァイオリンと続いた激しいピアノからの流れがドラマチック!ピアノ独奏のところでは、優しさに満ちたピアノが大樹のよう!続いたヴァイオリンが次第に前向きな感じに変化したのが素敵でした。ヴァイオリンがうねうねした音を連ねるところの緻密さ繊細さ!楽章締めくくりでの、沈み行きフェードアウトするヴァイオリンに対し、優しく繊細に音階を上がったピアノがなんとも温かく、愛を感じました。第2楽章 こちらが最高に良かったです!はじめ、ゆっくり優しいピアノに乗った、ヴァイオリンの音色にハッとさせられました。上手く言えないのですが、温かで優しく、人生の年輪を感じる音色。なんて素敵なのでしょう!ヴァイオリンはじっくり丁寧に、とても穏やかに歌い、まさにブラームスの歌曲のよう。高音での重音には胸いっぱいになりました。ピアノが少し力強く前向きな感じになってからは、ヴァイオリンも顔を上げて前を向いたようになり、この繊細な変化が愛しい!楽章締めくくりでのフェードアウトは、ヴァイオリンとピアノが一緒に。音が消え入る余韻がとても美しかったです。第3楽章 揺らぐテンポで、ヴァイオリンとピアノが小気味よく掛け合うのにドキドキ。研ぎ澄まされた空気にぐっと引き込まれました。空気を切り裂くようなシャープな重音!続く、沈み行くところには切なく胸に来ました。今回はここで小休止を挟み、第4楽章へ。緊迫感ある超充実の演奏が素晴らしい!ぐいぐい進むヴァイオリンがなんて情熱的!ピアノのタンタ タタンタ♪の低音が力強く歩みを進めるようで心にズシンと響きました。中盤やや穏やかになり、ヴァイオリンとピアノがぴたっとシンクロして細やかに音を繰り出すのも、とても緻密で素敵でした。ヴァイオリンもピアノも悲劇的に、堂々たる響きで締めくくり。ブラームスの繊細な心の機微を大切にした上での、激しさと情熱!このヴァイオリン・ソナタ第3番も間違いなくブラームス「らしい」作品!と、私はお二人の心を込めた演奏に触れてそう確信しました。この出会いに感謝いたします。

アンコール。こちらもブラームスで、5つのリート 作品106より 第4曲「わが歌」。歌曲をヴァイオリンが歌うスタイルです。切なく優しい響きのピアノに乗って、一人語りのように思いを吐露するヴァイオリン。ピアノの後奏は、ブラームス最晩年のピアノ小品のよう!内なる感情を慈しむ感じが素敵でした。ああ、ブラームスはやはり愛!そして歌心!いかにもブラームス「らしい」歌曲のチョイスと、何より心を込めた演奏に感謝です。

カーテンコールでは、お二人が何度も舞台に戻って来てくださいました。そして、なんとアンコール2曲目へ!ブラームス「ヴァイオリン・ソナタ第3番 ニ短調 Op.108」より 第2楽章。今回私が最も感銘を受けたまさにその楽章をもう一度取り上げてくださるなんて、感激です!ありがとうございます!アンコールにおいても繊細に、かつ歌心たっぷりに聴かせてくださいました。ああ、ブラームスは素敵です!作品と作曲家自身に誠実に向き合い愛あふれる演奏に出会う度に、私はブラームスに何度でも惚れ直し、どこまでも好きになる。今回の諏訪内晶子さんとエフゲニ・ボジャノフさんのデュオによる演奏も、私にとって最高の出会いとなりました。ありがとうございました!


ふきのとうホール レジデント・アーティスト 小菅 優コンサートシリーズ Vol.4 ベネディクト・クレックナー&小菅 優 デュオ・リサイタル」(2023/06/29)。バッハに強い影響を受けた第1番、円熟期にのびのび楽しく書いた第2番。愛してやまないブラームスのチェロ・ソナタ2曲に再び恋に落ちた、最高に素敵な出会いでした!

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ブラームス室内楽シリーズ イ調で結ぶ作品集」(2023/06/26)。会田莉凡さんのヴァイオリンを堪能できたソナタ、「音楽する」三重奏曲、ピアノ四重奏曲の「化学反応」の素晴らしさ!ブラームスの隠れた名曲たちの充実した演奏に浸れた、とても幸せな時間でした!

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最後までおつきあい頂きありがとうございました。