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第39回潮陵記念館コンサート 札響、新日本フィルの首席奏者、ピアノによる ~初秋に響く木管の美音、ソロとトリオによる室内楽の夕べ~(2023/09) レポート

choryo-concert.com

小樽市潮陵高校にある記念館にて、1983年からほぼ毎年開催されている「潮陵記念館コンサート」。第39回となる今回は、札響首席ファゴット奏者の坂口聡さん、新日本フィル首席フルート奏者で元札響副首席フルート奏者の野津雄太さん、ピアノの坂口睦さんによる演奏会でした。私は小樽まで日帰りプチ遠征。なお定員200名ほどの会場はほぼ満席でした。


第39回潮陵記念館コンサート 札響、新日本フィルの首席奏者、ピアノによる ~初秋に響く木管の美音、ソロとトリオによる室内楽の夕べ~
2023年09月02日(土)16:00~ 潮陵記念館

【演奏】
坂口 聡(ファゴット) ※札響首席ファゴット奏者
野津 雄太(フルート) ※新日本フィル首席フルート奏者
坂口 睦(ピアノ)

【曲目】
G.ドニゼッティ:フルート、ファゴットとピアノの為の三重奏曲 ヘ長調
C.グルック:「オルフェオとエヴィリディーチェ」~精霊の踊り
N.ギャロン:レシとアレグロ
E.ボザ:フルート、ファゴットの為のソナチネ

C.ドビュッシー:牧神の午後への前奏曲
R.シューマンアダージョアレグロ op.70
L.V.ベートーヴェン:フルート、ファゴットとピアノの為の三重奏曲ト長調 WoO.37

(アンコール)
中田 喜直:夏の思い出


坂口聡さんのファゴットと野津雄太さんのフルート、それぞれの魅力あふれる「音」とアンサンブルの良さをたっぷり楽しめた素敵な時間でした!フルートの野津さん、束の間の北海道への里帰りありがとうございます!野津さんが札響に在籍していた頃をほんの少ししか知らない私は、野津さんが小樽に来てくださると知った時、ぜひ聴きたい!と迷わずプチ遠征を決めました。聴けて本当によかったです!誠実で実直なお人柄がうかがえる演奏は、叶うならずっと聴いていたいと思える良さ!温かみがあったりミステリアスだったりと多彩な表情で、華やかで美しいだけではないフルートの奥深さが感じられました。また坂口さんのファゴットは、いつも札響の演奏会(先日の3大Bでも大活躍でした)とはまた違った、都会的な響きや超絶技巧満載の演奏が新鮮!私は以前、坂口さんのファゴットによる演歌(!)を聴いたこともあり、一体どれだけ引き出しをお持ちなの!と、今回もオドロキでした。そんな魅力的なお二人の演奏が、アンサンブルになると足し算を超えた良さになるのがよかったです。呼吸を合わせるのもメインとサブの交代もごく自然で、合うのは当たり前(!)。その上で、それぞれの持ち場で思い切りやって、ぶつかり合い高め合うのが本当に素晴らしい!特にベートーヴェンのトリオの充実ぶりは特筆したいです。それまでは主に支えの役割だった坂口睦さんのピアノも、ベートーヴェンのトリオでは2つの木管と対等に渡り合い、三つ巴で分厚い音楽を作ってくださいました。この大熱演で、会場は熱気はさらに上がったはず!

配布されたプログラムには、演目と曲目解説、出演者紹介に加え、潮陵記念館コンサートの歩みとこれからについての文章、そして第1回からのすべての出演者一覧もありました。そこには札響メンバーはじめ、名だたる演奏家の名前がずらり。会場の雰囲気からも、地元小樽で愛され続けられてきた企画なのがうかがえました。なお潮陵記念館コンサートには、ファゴットの坂口さんは過去2回ご出演、遠路はるばるお越し下さったフルートの野津さんは今回が初出演とのこと。野津さんは、札響にいた頃からのご縁で今回のオファーを快諾されたそうです。また、潮陵記念館コンサートの第1回から何度もご出演のフルーティスト細川順三さんは、野津さん(以前は学校の先生をされていたそう!)をN響アカデミー生として推してくださったかた。過去数回ご出演されているピアニスト田中宏明さんは、野津さんが現在教鞭を取っている茨城大学で交流がある、といったお話もありました。なお、当日の配置転換を取り仕切っていたのは、以前に札響のステージマネージャーをされていたかた(お名前を失念しました、申し訳ありません)とのことです。そんな様々な話題が出た、曲の合間のトークも楽しかったです。ファゴットの坂口さんとフルートの野津さんが、その時によってお一人だったりお二人で会話する形だったりで、様々なことをお話くださいました。ちなみにこの日の会場はとても蒸し暑く(気温が高い上、小さな講堂に200名近くのお客さん達がぎっしり!スポットクーラー2つと演奏の合間の業務用扇風機では間に合わない感じでした)、トークの始まりは「暑いですね」が決まり文句に(!)。この過酷な環境の中、大熱演と楽しいトークまで本当にありがとうございます。


出演者の皆様が登場。ピアノの坂口睦さんは鮮やかな青色のドレス、男性お二人は黒シャツでした。すぐに演奏開始です。1曲目はトリオで、G.ドニゼッティ「フルート、ファゴットとピアノの為の三重奏曲 ヘ長調。第1楽章 穏やかなピアノにのって、優しくゆったり会話し歌う木管2つが素敵!タタタタタタタタ~♪と音階駆け上ったり、スキップするようだったりと楽しそうだったのが、中盤いきなり嵐のような激しい感じに。少し驚きましたが、鮮やかな変化を楽しめました。第2楽章 明るく快活になり、フルートとファゴットが交互に歌ったり二重奏になったりするのは、ソプラノとテノールが歌う二重唱のアリアのようにも感じました。ごく小さな音からクレッシェンドで浮かび上がったかと思うと、超スピードで駆け抜けていき、タッタッタッタ~♪とタンギングで軽やかに歌い……と、目まぐるしく変化していく音楽が楽しい!ここでも中盤で明るさに少し影が差すところがあり、ファゴットとフルートがやや哀しい音色で会話していたのが印象に残っています。ラストは明るく元気よく!2つの木管の様々な表情が楽しめた演奏でした。

ここでファゴットの坂口さんからごあいさつと出演メンバー紹介。演奏会テーマにあげた「初秋」とは思えない暑さ、とのお話で会場を和ませてくださってから、フルートの野津さんにバトンタッチしました。野津さん(「しゃべっている間はプログラム冊子で風を仰ぐチャンスですよ」と、客席を気遣ってもくださいました)からこのコンサートとのご縁のお話があった後、2曲目はフルートとピアノの曲です。C.グルックの「オルフェオとエヴィリディーチェ」~精霊の踊り。オペラの劇中曲で、単独で演奏されることも多いようです。穏やかに美しく歌うフルートがとっても素敵!中盤、少し影のあるところは切なく美しく、何度も登場した転がすような音が心に響きました。再び穏やかになってからは、柔らかな音をうんと長くのばしながらクレッシェンドで次第に浮かび上がってくる名人芸(しかし素人目にはさらっと演奏しているように見えました)にホレボレ。フルートの美しさ盛り盛りの素敵な曲を、野津さんのフルートでたっぷり堪能できました!演奏後、ファゴットの坂口さんが「気品高い」「貴公子のよう」と、野津さんのフルートをとても褒めていらっしゃいました。

3曲目はファゴットとピアノで、N.ギャロン「レシとアレグロ。フランスの音楽院での試験のために書かれた曲だそうです。バソンを想定して書かれた曲を、今回はファゴットによる演奏で。はじめのレシ(レシタティーボ)では、出だしの低音が想像を超えた低い音でビックリ!ファゴットってこんなに低い音が出るんですね!そこから音階を駆け上って、どこまでも高音域に行くのにまたビックリして、ファゴットの音域の広さを目の当たりにしました。ゆったりとした歌い方は都会的でとてもスマートな印象。少し速いテンポになったアレグロでは、ファゴットが高速で音を繰り出したり、細かく音を刻んだり、語るように歌ったりと、様々な表情を見せてくださいました。それに呼応し支えるピアノの包容力が、愛あふれる感じでまた素敵!クライマックスはどんどん加速して即興的な演奏になり、ファゴットとピアノの凄技に引き込まれました。超カッコイイ!今まで知らなかったファゴットの魅力を知ることができました。

配置転換と下準備(リードの調整?)中、フルートの野津さんからファゴットの坂口さんに、ファゴットとバソンの違いは?と質問。坂口さんによると、ドイツのファゴットとフランスのバソン(バスーン?)は、サイズや材質(ファゴットは楓、バソンは紫檀)や指使いなどすべてが異なるそうです。私は呼び方の違いだけで、てっきり同じものだと思っていました!大変失礼しました。なお坂口さんの楽器はファゴットで、バソンを想定して書かれたフランスの曲をファゴットで演奏すると、特に高い音を出すのが難しいのだとか。近年ハイブリッド型のドイツ式バソンが登場しているそうで、いつか演奏してみたいと仰っていました。続いて「音」の話になり、野津さんは、「オケで大事なのは他の人がどんな音を出しているかキャッチすること」であり、「(作曲家が)どういう音色を求めているか、作曲当時の音を想像」するのだそうです。「簡単に音が出せない方が良い」は、真理ですね……私達素人にはすいすい演奏しているように見えても、プロフェッショナルが発するその音は「簡単に出したものではない」事を、私は心に留めておきたいと強く思いました。坂口さんが「それを一番考えなきゃいけないのは指揮者。指揮者の文句は後半で(!)」と、軽く場を和ませてくださり、演奏に移りました。

前半最後は、フルートとファゴットのデュオで、E.ボザ「フルート、ファゴットの為のソナチネ。ボザもフランスの作曲家のようです(ということは、バソンを想定した曲ですね?)。第1楽章 フルートとファゴットが「ああ言えばこう言う」感じで交互に演奏し、時に重なり、勢いある流れがスリリングかつユーモラス!両者一歩も譲らず、テンポ良く掛け合うのが面白かったです。高音でチャンチャン♪と、かわいらしく締めくくったのも印象的でした。第2楽章 少し穏やかになり、2つの楽器の掛け合いでは、フルートがうんと高い音を発したり、ファゴットが重低音を長くのばしたりと、各楽器の得意な表現が次々と登場。似たメロディでもそれぞれ別の演奏をしていて、さらに調和しているのがすごい!ぐーっと長く息をのばしながらフェードアウトしたラストが素敵!第3楽章 バリエーション豊かな跳ねるリズムに、ジェットコースターのように音階を上下する息の長い演奏など、変化の多い流れは息つく間がないほど(演奏家も聴いている私達も!)。よどみなく流れる演奏はとても生き生きとしていて、パワフルに吹ききった締めくくりがアツイ!フルートとファゴットによる二重奏(めずらしい!)の、息の合った掛け合いに生き生きとしたリズム感、素晴らしかったです!「暑い中で熱い曲をやりました!」と坂口さん。アツイ演奏をありがとうございます!

後半1曲目はフルートとピアノによる、C.ドビュッシー「牧神の午後への前奏曲。オーケストラ曲のピアノ伴奏版です。はじめのフルートのミステリアスな音色にはハッとさせられ、瞬時に気持ちを持って行かれました。厚みあるドラマチックなピアノに乗って、フルートが音階を自在に上下するのには、まるで身体が浮遊しているような不思議な感覚に。かと思うと、低い音をゆっくり長くのばすところは深淵に引き込まれそうな感じ。「美しい」だけではとても言い表せない、フルートの奥の深さ!野津さんの演奏のおかげで、私は今まで知らなかったフルートの魅力に気付かされました。ただ、今回の私は初めて出会う音に戸惑いもあり(ごめんなさい!)、受け止める余裕がなくてきちんと消化できなかったのが心残りです。次は野津さんのソロでぜひ管弦楽版も聴いてみたい!と私は率直に思いました。

坂口さんから問いかける形で、新日本フィルと指揮者のシャルル・デュトワさんのお話になりました。野津さんは、デュトワさんの指名で新日本フィル定期演奏会にてドビュッシー「牧神の午後への前奏曲」のフルートソロを演奏したそうです。徹底的にやれて幸せだったそう。デュトワさんは過去に色々あり(「色々」とだけで詳細には触れられませんでした)、しばらく日本のオケから離れていたものの、最近少しずつ戻ってきているとのことです。新日本フィルでは今まで3公演を振っていて、そこでわかった事は「0.1ミリまでやる」ほど、練習は知的でメカニカル。かつ本番での棒(指揮)は一発で決める、ファンタスティック(!)ですごい!と、野津さんは絶賛。坂口さんは「指揮者は音を出せない分、動きが大事」と仰っていました。

後半2曲目はファゴットとピアノによる、R.シューマンアダージョアレグロ op.70」。原曲はホルンとピアノですが、様々な楽器向けの編曲があり、今回はファゴット版(M.ガット編曲)の演奏です。前半は穏やかな音楽で、優しい響きのピアノに乗って、温かな音色でゆったり歌うファゴットはホルンのようにも感じられました。しかし重低音を長くのばすのはファゴットならでは!後半は快活になり、前のめりな感じに、私はシューマンの「幻想小曲集 op.73」をつい連想しました。パワフルなピアノと情熱的に歌うファゴットが素敵!ファゴットが速いテンポでたくさんの音を繰り出すのには圧倒されました。このクラリネット的な表現、ファゴットには相当難しいのでは?しかし原曲のホルンでも大変そう(それがシューマンらしさ!?)。ほぼ休みなしで吹き続け、最後の最後までパワフルに歌っていたファゴットに大拍手です!

プログラム最後はトリオによる演奏で、L.V.ベートーヴェン「フルート、ファゴットとピアノの為の三重奏曲ト長調 WoO.37」ベートーヴェンが15歳(!)の時に書いた、この編成のための曲は、なぜか演奏家から敬遠され(!)、意外と演奏機会が少ないとのこと。今回初めてこの曲を演奏するというフルート野津さんが、ぜひプログラムに入れたいと希望したそうです。ファゴット坂口さんは「古典派からロマン派への転換期にある作品で、バリエーション(変奏)が多様な曲」と紹介くださいました。第1楽章 インパクト大な出だしから、ずっとピアノがパワフルで厚みがあり、とてもベートーヴェン「らしさ」を感じました。2つの木管が軽やかに音を刻んだり、堂々たるトリルが登場したりと楽しい音楽にウキウキ。フルートとファゴットが交互に何度も音階を駆け上るのには、聴いている私達の気分もあがりました。また明るい流れの中で、ふと陰りを見せるシーンが何度か登場し、陰と陽がごく自然に変化。優雅な音楽に身を任せるのが心地よかったです。第2楽章 ゆったりと美しい音楽で、2つの木管が足並みを揃えて同じ旋律を歌うのがとっても素敵!ピアノのターンの時に音を長くのばし(息が長い!)、ごく小さな音でささやくようなところにも引き込まれました。再び快活になった第3楽章 この終楽章での変奏がとても面白く、聴き応えありました!はじめのモーツァルトのような明るいテーマが、次々と形を変えていくスタイル。3つの楽器が一緒にタッタ~ン♪のリズムで歌ったり、それぞれの木管が主役になるターンがあったり。ちなみに私が特に印象深かったのは、ファゴットが切なく歌いピアノが重低音の合いの手を入れたところ(第4変奏?)と、フルートが小鳥がさえずるように可愛らしく歌ったところ(第6変奏?)です。この2つの変奏でのソロはどちらも歌心たっぷりで、ずっと聴いていたい良さでした!最後はうんと明るく元気いっぱいに締めくくり。若き日のベートーヴェン、こんなに素敵な曲を書いていたんですね!今回のお三方による素晴らしい演奏で出会えてうれしかったです。ありがとうございます!

拍手喝采の中、ファゴット坂口さんとフルート野津さんががっちり握手。高校生達から出演者の皆様に花束贈呈がありました。「暑いですが、アンコールの演奏をしてもよいでしょうか?」とのファゴット坂口さんの言葉に、会場は大きな拍手でこたえました。アンコールは「初秋」を意識して選曲したという、中田喜直「夏の思い出」。穏やかなピアノ伴奏に乗って、歌でいうところの1番をフルート、2番をファゴットがメロディを担当し、それぞれもう片方の木管がハモり担当で歌うスタイル。「♪夏がくーれば~」の懐かしいメロディが染み入りました。対旋律もとっても素敵で、「♪みずばしょうーの花が~」の盛り上がりでのハーモニーが美しく、特に印象深かったです。残暑厳しかったこの日、忘れられない素敵な夏の思い出ができました!ありがとうございました!


森の響フレンド 札響名曲コンサート~ポンマーの贈り物 ドイツ3大B」(2023/08/26)。職人技のバッハ、新たな魅力を知ることができたベートーヴェン、重厚なブラームス。すべてが美味しい「親子丼、天丼、カツ丼」を一度に堪能でき大満足!元首席指揮者・ポンマーさんによる快演を気持ち良く聴くことが出来ました。

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札幌・リトアニア文化交流コンサート」(2023/08/28)。リトアニアの大スター・ミシュクナイテさんの圧倒的なお声と表現。信頼のメンバーによるピアノと弦。「歌の国」リトアニアの精神に触れ、その音楽にどっぷり浸れた幸せな時間でした。

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最後までおつきあい頂きありがとうございました。