↑kitaraの公式サイトにて、PR動画を観ることができます。
木管五重奏&ピアノの編成による「東京六人組」は、オケの首席奏者やソリストとして活躍する同世代のメンバーで結成された、今注目のアンサンブルです。その演奏会がKitara小ホールにて開催されました。札幌市民の期待は大きく、開演前の小ホール入り口には当日券を求める人達による長蛇の列が出来ていました。また会場はほぼ満席に近い盛況ぶりでした。なお今回(2022年)の企画は、日本各地のコンサートホール企画連携会議事業(札幌・新潟・すみだ・所沢・京都・福岡)の一環のようです。
〈Kitaraアフタヌーンコンサート〉東京六人組
2022年11月12日(土)15:00~ 札幌コンサートホールKitara小ホール
【演奏】
東京六人組
上野 由恵(フルート)
荒 絵理子(オーボエ)
金子 平(クラリネット)
福士 マリ子(ファゴット)
福川 伸陽(ホルン)
三浦 友理枝(ピアノ)
【曲目】
ブラームス/岩岡 一志 編曲:ハンガリー舞曲より 第1番、第5番、第6番
プーランク:六重奏曲 FP100
デュカス/浦壁 信二 編曲:交響詩「魔法使いの弟子」
磯部 周平:きらきら星変装曲
1.主題 きらきら星 2.三星のテーマ 3.ケッヘル博士の忘れ物 4.嵐のハイリゲンシュタット 5.クララのためのロマンス 6.紅葉のマズルカ 7.指輪(リング)はお嫌い? 8.コスモスの舞踏 9.オレンジ色の行進曲 10.星に憑かれた12音 11.たそがれどきのレント 12.もう一つのフーガ 13.主題 きらきら星
ブラームス/夏田 昌和 編曲:ハイドンの主題による変奏曲(札幌コンサートホール・所沢ミューズ・アクロス福岡共同委嘱新作)
(アンコール)ハチャトゥリアン:バレエ音楽「ガイーヌ」より レズギンカ
「オーケストラの響きをぎゅっと濃縮」した「カラフルな」演奏、とっても楽しかったです!お一人お一人の個性的な音色は、シーンによって様々に変化して、次はどんな音に出会えるかと最初から最後までわくわくしながら聴けました。それらが重なる良さと、何よりアンサンブルの緻密さが素晴らしい!指揮者なしで6名の呼吸を合わせるのはおそらくとても難しいことと思われますが、素人目には音楽の流れはごく自然で、足並みを揃えながらも全員が遠慮無く表現していたと感じました。また自称ブラームスおたくの私としては、ブラームスが重視していたバス(低音)がしっかり聞こえたのがうれしかったです。土台が堅牢だからこそ奥行きが感じられ、主役のメロディが引き立つ!しかし人数が多く得意分野で分業できるオーケストラとは違い、この少人数で、有り体に言えば無茶なこと(音域や音の出し方や息継ぎする暇がない忙しさなど)をなさっていると拝察します。それでも「<無理>の二文字は我々の辞書に存在しません」(by.三浦 友理枝さん)なのですよね!安全策をとらずに最高のパフォーマンスを追求する姿勢と、無茶を無茶だと感じさせない完成度の高さに、ただただ敬服いたします。私にとっては「お初」だった東京六人組。その魅力は、オリジナル作品が少ない編成という物珍しさよりも、このアンサンブルだからこそ創れる音楽そのものにあると強く実感しました。この出会いに感謝です。
そして曲の合間のトークも楽しかったです。その時によってお一人だったりお二人だったりしましたが、メンバーの一部が代表して舞台に出てお話してくださいました。曲の解説のみならず、編曲についての思い入れやホールの印象(kitaraのことを絶賛!)、札幌で食べたもの(ジンギスカンとかスープカレーとか)や「紅葉を見て、気分が高揚(!)」なんてダジャレまで!ちなみにこの渾身のダジャレを、後から登場した他のメンバーがあえて繰り返したりも(会場は大ウケでした)。お互いが信頼し合う仲間だからこそのノリの良さが素敵です♪
東京六人組の皆様が舞台へ。すぐに演奏開始です。配置は、ピアノの前に木管が扇形に並び、向かって左からフルート・オーボエ・ファゴット・ホルン・クラリネットの順に着席。また演目によってフルートはピッコロ、クラリネットは数種類の持ち替えがありました。「名刺代わりの」最初の演目は、ブラームス(岩岡 一志 編曲)「ハンガリー舞曲」より3曲を抜粋で。まずは、PR動画にも少しだけ入っていた第1番。ほの暗いメロディの上を高音で彩るフルートがインパクト大!ベースを作るファゴットの低音のリズムと、ホルンとクラリネットによる対旋律が印象的でした。第5番は、低音が効いた勢いある演奏がクール!第6番は、オーボエが歌うメロディが心地良く、クライマックスの華やかさが素敵!また3曲とも、中間部のテンポが細かく変化していく流れが阿吽の呼吸でぴったり揃っていて、とても気持ち良かったです。耳慣れたハンガリー舞曲なのに、木管とピアノによるカラフルな響きが新鮮!しかも、このコンパクトな編成でオーケストラに引けを取らない壮大さと奥行き!この後に続く演奏への期待が一気に高まりました。
木管楽器といえばこの人!フランス六人組の一人であるプーランクの「六重奏曲 FP100」。木管五重奏とピアノの編成にとって「金字塔」という、この編成のために書かれたオリジナル作品です。「この編成ならではのカラフルさが一番よく出ている作品」とトークの中で紹介がありました。第1楽章、リズミカルでがっちりしたピアノのベースの上を、自由な感じで跳ね回る各木管の響きが楽しい!シーンを切り替えた、ファゴットの語るような長い独奏がとても素敵でした。続くピアノ独奏がドラマチック!中間部のゆったりしたところは、ホルンと他の木管が会話しているように感じました。オーボエから入った第2楽章は、穏やかな流れの中で各楽器が順番に主役となったり、2つの木管が同じ旋律をユニゾンで演奏したり、一部の木管が即興的に駆け足の演奏で彩ったりと、細やかな変化とそれらが重なる良さが素敵でした。第3楽章は、フランスの流の軽快なリズム感が楽しい!高音が華やかな中で、クラリネットの低い音を刻むような演奏が差し色になっていたのが印象的でした。盛り上がるところのホルンがカッコイイ!ラストはゆったりになって、ぐっと重厚なピアノの上を順番に歌った木管の音色を味わいました。そして全員揃っての強奏で締めくくり。ピアノ&単独の木管によるデュオ作品にはない、木管同士の重なりや呼応が楽しい、彩りある演奏。重要なレパートリーを緻密なアンサンブルで聴けてうれしかったです。
デュカス(浦壁 信二 編曲)の交響詩「魔法使いの弟子」。原曲はゲーテの詩を元に作られた作品で、ディズニー「ファンタジア」でアニメ化もされていると紹介がありました。ちなみに、編曲版初稿は木管の息継ぎ等に配慮してからか、ピアノが引き受ける部分が多かったそうですが、メンバーが「もっともりもりで!」と希望して、木管群にとって難易度の高いものになったとのことです。冒頭の神秘的なところでは、ベースの低音とキラキラしたピアノの上で、高音パートの長くのばす澄んだ音がとても印象的でした。歩みを進めるようなファゴット&クラリネットの存在感!ホルンがトランペットのような高音で音を刻んだのには驚きました。しかも次のシーンはザ・ホルンの伸びやかな音に戻っている!また、ホルンは時折ミュートを使用(?間違っていたら申し訳ありません)して、ザラザラした重低音を発していたのも印象に残っています。ストーリー上でどんどんピンチになっていく様を、だんだんとテンポが速くなる演奏で表現。その緊迫感に、聴いていた私達も引き込まれました。ピッコロの悲鳴のような盛り上がりがインパクト大!一瞬の静寂の後、持ち替えたフルートで今度は怪しげな雰囲気の響き!そしてファゴット&クラリネットの歩みは、先ほどよりも速くなり、クライマックスの盛り上がりも一層パワフルに。またもや一瞬の静寂の後、次に登場したフルートは不安と安堵がごちゃまぜになったような音色だったのがとても印象的でした。全員によるジャジャジャジャン!の強奏で締めくくり。物語を見ているような、テンポや音の変化がとても面白く、最初から最後まで夢中になれた演奏でした!
後半。はじめは磯部周平「きらきら星変装曲」。「変奏」ではなく「変装」なのがポイントだそうです。有名な「きらきら星」のテーマを、様々な作曲家風に着替えていくスタイルの作品。どの作曲家が登場するかは、各副題と「音楽史の順に登場」がヒントです、と解説がありました。はじめの「主題」は、キラキラしたピアノの上を各木管が伸びやかに歌う「きらきら星」。音を震わせるフルートの余韻が印象的でした。「変装」のトップバッターはおそらくバッハ(小フーガト短調?フーガの技法?)。チェンバロ風に音をのばさないピアノから入り、各木管が追いかけっこをしながら重なる厳かな響き。次はモーツァルト「きらきら星変奏曲」の更なるアレンジでしょうか?明るい音楽に私はついブラームス「大学祝典序曲」を連想……。その次はベートーヴェンと思われますが、明るさから悲壮感までてんこ盛りで、次から次へと展開される音楽を(途中で曲名推測は諦めて・苦笑)素直に味わいました。そして個人的に楽しみにしていた「クララのためのロマンス」へ。副題からシューマンかな?ブラームスかな?と始まる直前までワクワクドキドキ。フタを開けたらブラームスでした!ホルンが歌ったのはピアノトリオ第1番の最初のメロディでは!?クラリネットはブラ1の第4楽章の穏やかなメロディ?いずれも原曲では弦が奏でるメロディを、作曲家が愛した楽器による温かな響きにて聴けてうれしかったです。他の楽器も重なった壮大なクライマックスに、私は胸がいっぱいに。以降は副題からショパン、ワーグナー、サン=サーンスやシェーンベルクを思い浮かべましたが、原曲をよく知らない私は具体的に誰のどのメロディが引用されているかはピンとこなくて(ごめんなさい!)。しかし元を知らなくても、例えばスウィングのようなノリの良さだったり、調性が掴みにくい感じだったりと、表情が変化する演奏はフラットに聴いて楽しかったです。そして「変装」のトリである「もう一つのフーガ」(こちらについては、オマージュしたのは「ブリテン『青少年のための管弦楽入門』のフィナーレのフーガ」と後から補足がありました)の演奏に圧倒されました。バッハとはカラーが違う、テンポが速く音が多い追いかけっこは百花繚乱の華やかな響き!ラストはもう一度はじめの「主題」が登場。よく知る「きらきら星」のテーマがそのままの形で帰ってきてほっとすると同時に、このシンプルなメロディが様々な作曲家風に衣替えした今回の「変装」曲のすごさを改めて実感しました。とてもとても面白かったです!こんなにも様々な要素が詰まった遊び心あふれる演目を、各楽器の多彩な響きによる演奏で聴けた私達は超ラッキーでした。
プログラム最後の演目は、ブラームス(夏田 昌和 編曲)「ハイドンの主題による変奏曲」。こちらは東京六人組のために今回新たに編曲されたもので、3つのホール(札幌コンサートホールkitara・所沢ミューズ・アクロス福岡)の共同委嘱新作とのことです。はじめの主題は、原曲でも木管大活躍のところですが、今回の東京六人組も温かみのあるメロディを各木管が美しく柔らかな響きにて聴かせてくださいました。また下支えとなる低弦ピッチカートを、低音が出せる木管群とピアノで自然に表現していたのがすごい!このように、原曲と同じ楽器のところの良さはもちろんのこと、置き換えで演奏するところの工夫と表現が素晴らしかったです。最初から最後まですべて良かった上で、以降については個人的なイチオシ部分に絞って書きます。ほの暗く情熱的な第2変奏の、小刻みでリズミカルなメロディと、対する低音の重厚さ!第4変奏では、各木管の追いかけっこがフーガのようでもあり、その緻密さと重なる美しさが素敵!ホルンとファゴットから入った第6変奏は、各木管が高らかに歌い上けるところがまさに演奏家の真骨頂!また原曲の弦パートの再現(ピアノとその時に主役ではない木管が担当)の壮大さが素晴らしかったです。美しいフルートと牧歌的なクラリネット・ファゴット・ホルンの第7変奏では、澄んだ高音弦を表現したオーボエがとにかく素敵でした。第8変奏では、ミステリアスな雰囲気による各木管の掛け合いが素晴らしい!あえてホルンが沈黙して、他の4つの木管の密なアンサンブルを演出していたのが印象的でした。そして終曲では、クライマックスでの音の多い盛り上がりがすごい!それぞれの楽器が次々と音階を何度も駆け上ったり駆け下りたり、最初の素朴な主題が華やかでパワフルになっていて、聴いている私達も気分があがりました。ラストは力強く明るく締めくくり。たった6人による演奏で、こんなにも贅沢な響き!ブラームスのハイドンバリエーションはこんなに面白い曲だったんですね!すごいものを聴かせて頂きました。夏田昌和さまによる「もりもり」な編曲と、何より見事な演奏で披露くださった東京六人組の皆様、ありがとうございます!
カーテンコール。ごあいさつと、kitaraのスタッフ手作りによる「東京六人組のPRパネル」(ホワイエに展示されていました)の紹介、CD販売(先着順で6名のサイン入りポストカード付き!)についての案内がありました。アンコールは最新CDにも収録されている、ハチャトゥリアのバレエ音楽「ガイーヌ」より レズギンカ。速いテンポの元気な舞曲で、各木管が切れ目無く音を小刻みに演奏するのがすごい!重なるところと各ソロが順番に演奏するところの変化も楽しい!クライマックスでは、パワフルなピアノとホルンの咆哮(超カッコイイ!)に乗って、他の4つの楽器による強奏が最高潮の盛り上がりを見せてくださいました。最後に最高に気分があがる演奏!本プログラムからアンコールに至るまで多彩な響きに浸れて、とっても楽しかったです!最後は6名の皆様が会場ににこやかに手を振ってくださいました。ありがとうございます!この日会場にいたお客さん達は皆、東京六人組のとりこになったはず!近い将来、新たなレパートリーと一緒に再び札幌にいらしてくださいね。紅葉だけでなく、雪の白さにも春の息吹にも夏の爽やかさにも、きっと気分が高揚することうけあいです♪お待ちしています!
【来場御礼】「〈Kitaraアフタヌーンコンサート〉東京六人組」にお越しいただき、ありがとうございました!
— 札幌コンサートホール Kitara (@Kitara_sapporo) 2022年11月12日
精鋭たちによる豊かなハーモニーをお楽しみいただけましたか?
<アンコール曲>
ハチャトゥリアン:バレエ音楽「ガイーヌ」より レズギンカ pic.twitter.com/kubjzpcqAT
木管(クラリネット)とピアノによる演奏で、ブラームスの再発見があったこちらの公演のレポートを紹介します。「レジデント・アーティスト 小菅 優コンサートシリーズ Vol.3 吉田 誠&小菅 優 デュオ・リサイタル」(2022/10/15)。独仏3つのクラリネットソナタ、それぞれ独立した歌曲を一つの物語のように構成した演奏、小菅優さんによるプログラムノート。待ち焦がれていた私達に最高の演奏で聴かせてくださいました。
「きらきら星」のテーマを使った遊び心あふれる新作(委嘱作品・初演)が聴けたこちらの公演も。「Trio MiinA トリオ・ミーナ第3回公演 小児がんチャリティコンサート」(2021/11/23)。クオリティの高さと楽しさ親しみやすさが同居する、心温まる演奏会。隠れた名曲グラナドスに王道メントリの素晴らしさ。そして世界初演のパスカル・ヒメノは斬新で超面白かったです!
最後までおつきあい頂きありがとうございました。