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クラチェリオ・コンサート ブラームスの夕べ(2024/12) レポート

doshin-playguide.jp
札響の首席クラリネット奏者・三瓶佳紀さん、チェロ奏者・荒木均さん、そしてピアニストの岡本孝慈さんによる、オールブラームス室内楽コンサート。ブラームスの特に室内楽が大好きな私は、企画発表当初からとても楽しみにしていました。なお、同プログラム・同出演者によるコンサートが後日旭川でも開催予定とのことです(2025年5月11日 14時~ 木楽輪)。


クラチェリオ・コンサート ブラームスの夕べ
2024年12月03日(火)19:00~ ふきのとうホール

【演奏】
三瓶 佳紀(クラリネット) ※札幌交響楽団首席クラリネット奏者
荒木 均(チェロ) ※札幌交響楽団チェロ奏者
岡本 孝慈(ピアノ)

【曲目】
ブラームス:チェロ・ソナタ 第1番 ホ短調 Op.38
ブラームスクラリネットソナタ 第2番 変ホ長調 Op.120-2
ブラームスクラリネット三重奏曲 イ短調 Op.114

(アンコール)
ブラームスハンガリー舞曲 第6番


名手たちによるオールブラームスをじっくりたっぷり味わえた、至福のひとときでした。衣装は燕尾服でトークは一切ナシの、真剣勝負な演奏会。その真剣な演奏を通じて、私達はまっすぐにブラームスと向き合うことができました。低音が魅力的なチェロに、愛らしいクラリネットは、さすがの安定感!加えて、私にとっては「初めまして」だった、岡本孝慈さんのピアノが大変素晴らしかったです!弦や管を彩る側面のみならず、リズムやテンポや感情を司り、熱い情熱も温かな愛情も、さらに一筋縄ではいかない複雑な感情の機微も、厚みある響きや繊細な表現で体現してくださっていたと私は感じました。この頼れる「ブラームスのピアノ」があったからこそ、チェロもクラリネットも最高に輝けたのでは?また、私が今回のチームの良さを強く認識したのは、後半のトリオでの演奏です。比較的性格がはっきりしている前半2つのソナタとは異なり、割り切れなさがともすれば「つかみ所のなさ」になってしまうかもしれない作品(と個人的には思います)。しかしどのシーンも明確に表現してくださった演奏を通じて、矛盾した思いが同居する複雑な性格を私達はそのままの形で受け止めることができました。ありがとうございます!

今回のプログラムノートは、すべて出演者の皆様による執筆でした(チェロ・ソナタは荒木さん、クラリネットソナタは三瓶さん、三重奏曲は岡本さん)。楽曲の解説に加えて、その作品に今までどのように取り組んできたかのお話しや、お若い頃に聴いた名演にまつわる思い出話まで!大変読み応えがありました。中でも私が感銘を受けたのは、ブラームスが晩年に作曲したクラリネットの作品群と作曲時期が近い作品(ピアノ小品集や「4つの厳粛な歌」)を一連の流れとして捉えるお考えについてです(岡本さん)。言われてみれば当然のことではあるのですが、それをしっかりと認識した上で研究を深め、実際の演奏に繋げていらっしゃる事に、私は敬意を表します。たゆまぬ研究の成果とそれを表現につなげる努力があって、初めて本当の意味での「ブラームスのピアノ」になるのですね!今後、私はブラームス作品はもとより他の作曲家の室内楽作品でも、目の前の作品のみならず関連作品とのつながりも意識して聴いてみようと思います。この出会いに改めて感謝です。

1曲目は、ブラームス「チェロ・ソナタ 第1番 ホ短調 Op.38」。第1楽章 ぐっと落ち着きあるチェロの低音、それがホールに共鳴する良さに、始めから心掴まれました。タン タン♪と呼応するピアノは落ち着いた鼓動のよう。ピアノにメロディが移ってからは、低音メインのチェロが高音で歌うところの切なさ、ぐっと低音をのばす渋さが印象深かったです。ピアノの変化は心拍が速くなったように感じられ、ゆったり歌うチェロも次第に感情が高ぶってくる繊細な変化が感じられました。チェロが高音で思いを吐露する、その踏み込む第一声の力を込めた低音の重量感!この楽章は全般にわたってピアノの鼓動とチェロの感情が絡みあうのが素敵でしたが、中でもインパクトがあったのは、ピアノのタン タン タン タン♪と連動して、チェロが何度も力強く音階を上下して鳴らしたところです。若きブラームスの抑えきれない情熱が感じられる鳴りが超カッコイイ!静まってゆく流れでの、控えめな左手ピッチカートと続いた通常のピッチカートに引き込まれました。再現部での厚みを増したピアノと、重音が印象的なチェロの豊かな響きがまた素敵!ゆったり丁寧に音を連ねながら、じっくり低音に沈みゆくラストの引力!第2楽章 メヌエットのリズムが素敵で、チェロとピアノが手を取り合いダンスをしているように感じられました。メインとサブを交代しながらの重なりは、お互いの距離感を探っているようなドキドキ感!ピアノが艶っぽく変化(トリルが印象的!)してからは、チェロは高音と低音で交互に歌い、クールに振る舞いながらも内心タジタジ(?妄想です)な感じが個人的ツボでした。中盤のトリオは、滑らかに歌いながらも、次第に感情が高ぶっていったりまた静まっていったり。繊細な色合いの変化がとっても素敵!控えめなピッチカートを重ねた、静かな締めくくりもぐっと来ました。第3楽章 冒頭のピアノの第一声が目が覚めるようなインパクト!情熱的なピアノにチェロが合流し、熱い展開の合間に入ってきたタタッタタ♪と小粋にステップ踏むところや、フレーズ最後にチェロが重低音を力強くのばして空気を締めたところがとても印象的でした。ダンスのステップのようなところから少しずつ加速していき激しく盛り上げていく、目まぐるしい展開に目と耳が離せない!どんなシーンでも常にピアノとチェロが呼応しあって、同じ鼓動を共有していると感じられた演奏でした。また、少し穏やかになったところにて、バッハの無伴奏チェロ組曲を思わせるチェロの響きにハッとさせられました。若きブラームスの精神性の高さがうかがえて、感激です!チェロもピアノも加速しながら次々と音を繰り出し、思いっきり駆け抜ける終盤の熱さ!チェロの重音とピアノの和音を力強く重ねたラストがめちゃくちゃカッコイイ!低音の渋みとブラームス流の歌心があるチェロ、そして音楽の根幹を形成しかつ熱量高いピアノによる、充実の演奏を聴けて幸せでした!

2曲目は、ブラームスクラリネットソナタ 第2番 変ホ長調 Op.120-2」。第1楽章 優しい響きのピアノに乗って、ほのかに光をともしたようにクラリネットが柔らかく歌う良さ!丸みのある「愛らしい」響きに、私は瞬時に恋に落ちました。音階を駆け上るところは甘く儚い感じ!ピアノがタッターン♪と力強くなると、クラリネットも思いっきり強奏!全力での盛り上がりが清々しい!ピアノの優しいタタン タタン♪に呼応しながら、細かく音を連ねながら滑らかに歌うクラリネットの繊細な響きにも引き込まれました。目立った休符が見当たらない流れを、もしかして一息で!?すごい!また音をぽつぽつ切りながら(スタッカート?)歌うところは、愛らしさに加えて遊び心が感じられ、私は思わず笑みがこぼれました。ピアノが沈黙し、クラリネットのみで音階を下がっていくところの儚さ。終盤はクラリネットもピアノもささやくように変化し、丁寧に音を紡いでいたのが素敵!まるで今この時を慈しんでいるようでした。穏やかにフェードアウトするラストは、最後にのばした低音のまろやかさがとても印象に残っています。第2楽章 ほの暗く歌うクラリネットと、厚みある音を激しく鳴らすピアノによる、情熱的なダンスにドキドキ。クラリネットの狭間にピアノが大音量で鳴る、絶妙な間合いがイイ!併走する流れになると、クラリネットの歌をかき消すことなく、ピアノが音階を上下しながら荒波のようになベースを作っていたのが良かったです。そして中間部のコラール風のところへ。はじめのピアノ独奏の重厚さと厳かさ!私は心打たれ、思わず身震いしたほどでした。ほどなく登場したクラリネットは、祈りを思わせる純粋な美しさ!ほのかな光のような高音も、ぐっと深みのある低音も、とっても素敵でした。思いが頂点に達したところが神々しい!第3楽章 変奏はいずれも楽しく、よどみなく流れる音楽を、聴いている方はリラックスして楽しめました。はじめのうちの幸せな流れでは、ピアノの力強い歩みに乗るクラリネットの丸みを帯びた音色、クラリネットとピアノがテンポ良く掛け合うところが印象深かったです。ピアノから始まる情熱的な急展開のところでは、クラリネットも思いっきり情熱的に!しかし私がさらに引き込まれたのは、その後からラストへ向かう流れです。細かく音を連ねながら穏やかに歩みを進め(休符らしいところは見当たらず!)、次第に力強くなっていく、その丁寧さと滑らかな流れがすごい!ラストスパートでは、躍動感あるピアノと楽しく幸せに歌うクラリネットがとても生き生きとしていました。タッタッ♪と高音2つの後に、低音をのばして締めくくったラストが輝かしい!ブラームスが最後に残してくれたソナタ作品は、酸いも甘いもかみ分けた人が人生終盤で遂にたどり着いた「愛の形」だと私は思います。それを、愛されクラリネットと大きな愛で包み込むピアノで聴けた、しみじみ幸せな時間でした。

後半は、ブラームスクラリネット三重奏曲 イ短調 Op.114」。第1楽章 寂しげなチェロ独奏から始まり、ほのかな光を思わせるクラリネットが登場。運命の動機のようなピアノが重厚にダダダダン♪と響いて、運命が回り出すのにゾクッとしました。ピアノのダダダダン♪は、ブラームスの若い頃の作品よりもはるかに「重く」感じられ、そこに重ねてクラリネットが暗い低音を(おそらく一息で)のばしていたのがすごい!始めの重さや暗さがあったからこそ、強奏での展開が一層ドラマチックに感じられました。ただ熱いだけでなく、暗さやためらいも感じられるのが若い頃の作品とは異なる良さで、中でもクラリネットによる4つの音の連なりのほの暗さが印象的でした。チェロとクラリネットが併走したり交互になったりしながら、ピアノが大きな波を作って、細やかな感情の機微とダイナミックなうねりの両方が存在する演奏が素晴らしかったです。少し寂しげなクラリネットに寄り添うように、チェロが高音域でゆったり優しく歌うのが素敵!次第にクラリネットが明るくピアノも輝かしくなっていく、このグラデーションの良さ!ささやき合うように、チェロとクラリネットが一緒に音階を細かく上下しながら駆け抜ける終盤にジーンときました。出会った2人の思いがついに1つになったよう!第2楽章 思い合う2人の幸せな語らいを思わせるこの楽章はとりわけ素晴らしく、私は音楽に浸りながらしみじみとその良さを味わいました。クラリネットとチェロが高音域で優しくゆったり語り合うところから、少しテンポが速くなったところでのクラリネットが愛らしい!草木の芽吹きのようなこの響きに、最晩年のブラームスは恋に落ちたに違いないと私は勝手に納得です!続くチェロはラブソングを歌っているような切なさ美しさでした。クラリネットとチェロが交互に優しくささやき合うのが素敵で、そんな丁寧なやり取りを経て、クラリネットとチェロが足並み揃えて一緒に歌うところへ。ここでの支えるピアノがすごく良かったです!音を重ねて重厚な響きを作りながら、そのテンポ感は胸の高まりのよう。これぞ「大人の恋」!クラリネットが甘く歌いチェロがピッチカートで寄り添う終盤、大らかに2人の幸せを包み込んでくれたピアノがまた素敵でした。ラストのピアノのアルペジオの優しさ!第3楽章 2人が手を取り合いダンスしているような音楽。明るさと暗さが地続きで交互に現れる流れがとても自然で素敵でした。中盤でのピアノの(ン)タッタ♪は、はじめの(ン)がぐっと低い音で、そのリズム・抑揚が印象深かったです。また盛り上がりでは、はじめにピアノがぐっと波を作ってそこにクラリネットとチェロが乗るスタイルで、ピアノがとても頼もしい!やがてダンスは落ち着き、クラリネットとチェロがじっくり丁寧に音をのばしながら次第に静まってゆくラストが印象的でした。第4楽章 力強く情熱的な音楽にゾクゾクしました。重厚なピアノに乗って、歌うチェロの艶っぽさ、続いたクラリネットの憂いを帯びた感じ!ピアノのタターン タターン♪のパッション!クラリネットとチェロが、肩で息をするように、休符を挟みながら細かく音を繰り出すところは、まさにブラームス「らしい」前のめりな情熱!ピアノの幸せなタン タタタタターン♪に、明るさが垣間見えたと感じたのも束の間、憂いと重厚さのある盛り上がりに。その激しさに圧倒されました。ほの暗いまま力一杯駆け抜けて、ダーン!と重厚な締めくくりがアツイ!クラリネット奏者のミュールフェルトに出会い、創作意欲を取り戻した最晩年のブラームス。それでも一筋縄ではいかない「愛」と「情熱」をそのままの形で感じることができた、大熱演に感激です!


カーテンコール。トークなしですぐにアンコールの演奏へ。ブラームスハンガリー舞曲 第6番」を、クラリネット&チェロ&ピアノによるスペシャルバージョンでの演奏でした。テンポ良く勢いある舞曲が楽しい!安定感あるピアノのベースに乗って、クラリネットがまるい音色で幸せに歌い、チェロが高音域で(!)彩るのが素敵!ブラームスが「ナイチンゲール」と形容した、ミュールフェルトのクラリネットはこんな風にコロコロ歌ったのかも?そして支える重厚ピアノも、高音域で優しくハモるチェロも、クラリネットを愛した最晩年のブラームス自身!と私は感じました。中間部をたっぷりと渋めに演奏したのもニクイ!ジャンジャンジャン!とスパッと歯切れ良い締めくくりまで、とても気持ちの良い三重奏による舞曲でした。超重量級の3つの作品を取り上げた本プログラムに加えて、気の利いたアンコールまで、ありがとうございます!今後もこのトリオによる演奏をぜひ!お待ちしています!


札響チェロ奏者・小野木遼さんによるブラームスのチェロ・ソナタ第2番が聴けた会です。ピアノ・成毛涼香さんのソロによるリスト「ため息」も!「第23回 Sound Space クラシックコンサート チェロ&ピアノの奏」(2024/09/29)。ブラームスの傑作「チェロ・ソナタ第2番」は、熱量高くかつ知的に高みを目指し、未知なるブラームスの魅力を鮮やかに浮かび上がらせた大熱演!地元・札幌にて、こんなにも夢中にさせてくれる演奏に出会えて大感激でした!

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こちらは、ふきのとうホール主催公演です。「時代を超えて輝く名曲、世代を超えて紡ぐ新しい響き! 堀米 ゆず子 室内楽の夕べ」(2024/11/07)。極上の音色と響きにて編まれた、幸せな音楽に浸れる幸せ!ベートーヴェンは生命力あふれる「らしさ」に加え、繊細で美しい緩徐楽章が魅力的。ブラームスは柔和な表情をしていても内に秘めた思いはアツイ!「2大B」の魅力を最大限に引き出した演奏と、洒落たアンコールまで、大大大満足な夜でした。

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最後までおつきあい頂きありがとうございました。