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ウィステリアホール プレミアムクラシック 2023シーズン 23rd (2023/10) レポート

www.msnw-wishall.jp


ウィステリアホールのプレミアムクラシック。今回は、ピアノの新堀聡子さんと札響メンバーによる室内楽です。ブラームスクラリネット三重奏曲とホルン三重奏曲、そしてヴォーン・ウィリアムズのめずらしい編成の五重奏曲という、演奏機会が少ない演目揃い。当日はkitaraでの注目公演と開催日時が被っていたにもかかわらず、客席は9割近くの席が埋まる盛況ぶりでした。


ウィステリアホール プレミアムクラシック 2023シーズン 23rd
2023年10月29日(日)14:00~ ウィステリアホール

【演奏】
桐原 宗生(ヴァイオリン) ※札幌交響楽団首席ヴァイオリン奏者
小野木 遼(チェロ) ※札幌交響楽団チェロ奏者
白子 正樹(クラリネット) ※札幌交響楽団副首席クラリネット奏者
山田 圭佑(ホルン) ※札幌交響楽団首席ホルン奏者
新堀 聡子(ピアノ)

【曲目】
ブラームスクラリネット三重奏曲 イ短調 作品114
ブラームス:ホルン三重奏曲 変ホ長調 作品40
ヴォーン・ウィリアムズ:五重奏曲 ニ長調クラリネット、ホルンとピアノ三重奏のための)


個人的に愛してやまないブラームスをもっともっと好きになれた、幸せな演奏会でした!信頼のメンバーによるブラームス室内楽ですから、期待ゲージMAXで当日を迎えた私。その期待を大きく上回る素晴らしい演奏に出会えて感激です!ブラームスが特に好んだ楽器たち――自身が名手だったピアノ、演奏経験があるチェロとホルン、朋友ヨアヒムのヴァイオリン、そしてクラリネット奏者ミュールフェルトとの出会いで引退撤回するほど惚れ込んだクラリネット。そのすべてがなんて魅力的なこと!やはりブラームスはこれらの楽器に並々ならぬ思い入れがあった事がうかがえ、おのずと自身の思いを投影していると、私は今回の演奏を拝聴して感じました。作曲家の思いを汲んだ誠実な演奏のおかげで、私は作曲当時のブラームスに思いをはせ、その人生を重ねてしまったほどです(勝手に物語をつけてはいけないのは重々承知の上ですが)。やっぱり私はブラームスが好き!ブラームスを素敵に演奏してくださる音楽家の皆様のことは最大限にリスペクトします!

後半のヴォーン・ウィリアムズの五重奏曲も超充実の演奏で、楽しく聴くことができました。作曲家がどのような考えでこのめずらしい編成にしたのかは不明ですが、様々な楽器が一度に聴ける「お得さ」はもちろんのこと、とにかく明るい音楽の生き生きとした演奏が素敵!聴いていて気分があがりました!しかし演奏する方はとても大変だったことと存じます。メンバー全員がこの作品に取り組むのは初めてで、しかも他ではまず見られない編成。それを限られた準備期間で習得し、さらにリズム感も勢いもある熱量高いアンサンブルにて、私達に聴かせてくださいました。ありがとうございます!こんな出会いは素直にうれしいです。あと、これは私の感じ方なので参考までに。後半の五重奏では、全員合奏の際にホルンの音がかき消された?と感じるところが部分的にありました。おそらくこのホールにて金管を大音量で鳴らすと音が割れてしまう(と私は思っています)ため、音量を絞りホールに最適な音にて演奏くださったのでは?(違っていましたら申し訳ありません)。大ホールとは勝手が違う上に、ホールの特性に合わせて常に音量をコントロールしての演奏は、きっと並大抵の事ではなかったと存じます。しかし最初から最後まで安定した、柔らかで美しい響きを保っての演奏でした。プロのお仕事とはいえ頭が下がります。加えて管弦楽作品での咆哮とはまた違った、室内楽ならではの繊細な表現によって、ホルンの魅力をたっぷり味わうことができました。重ねてありがとうございます!


出演者の皆様が舞台へ。ピアノの新堀さんはエメラルドグリーン色のドレス、男性奏者の皆様は黒シャツの装いでした。すぐに演奏開始です。1曲目は、ブラームスクラリネット三重奏曲 イ短調 作品114」。席順は舞台に向かって左側にクラリネット、右側にチェロ。第1楽章 冒頭チェロと続いたクラリネットの、暗闇の中でかすかに灯がともったような音色の良さ!早速心掴まれました。運命の動機のようなピアノの低音にドキドキ。次の展開までの間、クラリネットがごく小さな音を切れ目無く伸ばし続けていたのがすごいです……もしかして息継ぎナシ!?ピアノの強奏からの情熱的な展開では、クラリネットをチェロが追いかけ、ついに重なるのがアツイ!それでも若い頃の作品とは違い、熱いだけではなく、時に暗さやためらいを感じるシーンも。クラリネットとチェロが鏡映しのように感情を共有して、細かなニュアンスの変化でほんの少し幸せそうだったり寂しげだったりを演出していたと私は感じ、その感情の機微と移り変わりがとても面白くて引き込まれました。第2楽章 ゆったりメロディを歌うクラリネットの素朴な美しさ!それに優しく寄り添うチェロ&ピアノの良さ!1拍毎に入る休符に(演出として)慎重さが感じられたのが印象的でした。クラリネットとチェロがゆっくり会話した後は、一緒に穏やかに歌い、次第に幸せな感じに変化していく流れが素敵!支えるピアノは胸の高鳴りのよう!第3楽章 ピアノの(ン)タッタ♪のリズムに乗って、クラリネットとチェロが手を取り合いダンスしているような、幸せな音楽が心地よかったです。ピアノの(ン)タッタ♪は一辺倒ではなく、穏やかなところもあれば少し感情が高ぶるところもあり、その繊細な変化が素敵でした。第4楽章 厚みあるピアノに乗って、チェロ、続いてクラリネットが切なく歌うのがとっても素敵で、それぞれの楽器のソナタ第3番とも呼べそうな充実の演奏でした。そんな個性がぶつかる三重奏の情熱的な盛り上がりがカッコイイ!クラリネットとチェロが足並み揃えてピアノと呼応しながら進むところは、絶妙な間合いで生きた鼓動が感じられたのが良かったです。再び情熱に火がついたような、終盤の盛り上がりがドラマチックで圧倒されました。創作意欲を失っていた晩年のブラームスが、クラリネット奏者のミュールフェルトに出会い情熱を取り戻した。まさにそのドラマを目の当たりにしたような、心震える演奏でした!

2曲目は、ブラームス「ホルン三重奏曲 変ホ長調 作品40」。席順は舞台に向かって左側にヴァイオリン、右側にホルン。第1楽章 はじめの穏やかに歌うヴァイオリンが素敵すぎました!ブラームスは、ヴァイオリンソナタ第1番よりもずっと前にこんなに美しいヴァイオリンのためのメロディを書いていたんですね!メロディを引き継いだホルンは、牧歌的な響きが優しく美しく、木管楽器のようにも感じられました。ホルンとヴァイオリンが重なると、明るさに少し陰りが見えて、ぱっと激しくなり(議論白熱!?)、静まってからのホルンが音を長くのばすのがすごい……もしかして一息で吹ききりました!?優しいピアノに乗って、独り言のように歌うホルンの温かさ、それにそっと寄り添うヴァイオリンの優しさ!ヴァイオリンは陰に陽にホルンを支えていたように感じられ、寂しげだったホルンが次第に明るくなっていったのが素敵でした。第2楽章 タタタタ……と駆け足のピアノの序奏が助走となり、思いっきり飛躍したようにホルンとヴァイオリンがパワフルに登場。聴いている方も一気に気分があがりました!まっすぐな情熱がまぶしい!ヴァイオリンはホルンに併走しながらも、時折入る重音やトレモロや装飾音が存在感あって、とても華やか。またホルンがピアノの序奏と同じように音を細かく区切りながら(タンギング?)高速演奏したのには驚かされました。こんなホルンは新鮮!中間部の穏やかなところでは、物憂げなホルンとピアノが印象的でした。第3楽章 ピアノの序奏は、ギターをかき鳴らすような響き。悲劇的でゾクッとしました。一人語りのように歌うホルンは、大泣きはしなくとも深い悲しみを感じさせ、とても引き込まれました。そのホルンを支えるヴァイオリンとピアノの良さ!ヴァイオリンとピアノの音色の変化によって、静かに涙したり時には慟哭したりといった感情の移り変わりが絶妙に表現されていたと私は感じました。そして再び明るくなる第4楽章へ。 タタタタ……と駆け足のリズムで、うんと華やかに盛り上げてくる強奏の潔さ!三者が一緒に駆け抜けた演奏から、ヴァイオリンが沈黙してからのホルンの歌い方が素敵!悩みながらも前へ進む事を決意したような、次第に明るくなっていったのが印象的でした。クライマックスでの三者が一体となった情熱的な盛り上がりは圧巻!苦悩が多かった若き日のブラームスに、寄り添い時に鼓舞する朋友ヨアヒムがいた事。それを私は強く認識し、胸が熱くなった演奏でした!

後半。演奏に入る前に、ピアノの新堀さんとクラリネットの白子さんによるトークがありました。お2人で「前半、重かったですね」(!)。会場が和みました。後半のヴォーン・ウィリアムズの作品はめずらしい編成の事もあり、今回のメンバー全員が初めて弾くとのこと。聴くのも生演奏では初めてのかたが多いのでは?という問いかけに、会場はうんうんと頷いていたようでした。なお、ヴォーン・ウィリアムズにはもう一つのピアノ五重奏曲(帰宅後に調べたところ、編成はピアノとヴァイオリン、ヴィオラ、チェロ、コントラバスシューベルトの「ます」と同じですね)があり、そちらは比較的演奏機会が多いそう。今回のニ長調の五重奏曲について、白子さんは「思っていたより良い曲」「(ピアノも弦も木管金管も)全部楽しめるのがお得」と感じたとのことです。新堀さんが「(演奏するのは)最初で最後かも?ぜひ楽しんでください」と仰って、トーク終了となりました。

ヴォーン・ウィリアムズ「五重奏曲 ニ長調クラリネット、ホルンとピアノ三重奏のための)」。今回の出演者5名全員が揃っての演奏です。席順は舞台に向かって左からヴァイオリン、クラリネット、ホルン、チェロでした。第1楽章 冒頭、ピアノに乗ってクラリネット続いてヴァイオリン&チェロが登場。その伸びやかで美しい響きに私は空の広がりをイメージしました。ホルンの一声を皮切りにピアノが力強くドラマチックになり、まるでブラームスのような重厚さに!またピアノの間奏を挟む度に、シーンが切り替わっていたと私は感じました。流麗な流れの中で、クラリネットとホルンがピアノと足並み揃えて音を切る演奏(タンギング?)したり、弦が高音で滑らかに美しく歌ったり、他の楽器が沈黙する中でホルンの独奏(孤高な感じにハッとさせられました)があったり。また、クラリネットにはヴァイオリン、ホルンにはチェロが寄り添う事が多かったと思います。その弦によるさりげないアシストが素敵でした。ユニークな編成に、はじめこそやや戸惑った私ですが、ピアノ三重奏の発展形と考えると追いかけやすかったです。ピアノの穏やかな和音に乗って、クラリネットとホルンが長く音をのばし、弦がピッチカートやごく小さな音で支え、フェードアウトする楽章締めくくりが温かで優しい感じ。第2楽章 ジャーン♪の全員合奏を合図に、シリアスなシーンとそれを茶化すシーンが交互にくるのが面白く、「真面目に不真面目」を地で行く職人技の演奏(崩壊するとカオスになりそう)にやられました!部分的には、チェロの妖艶な演奏に心掴まれたり、ヴァイオリンのツィゴイネルワイゼンのような音階駆け上りに圧倒されたり、しかし一方でクラリネットのコミカルな響きにほっとしたり。シリアスでもそうじゃなくても、リズム感がすごく良かったです!第3楽章 穏やかなピアノに乗って、伸びやかに歌うホルンが美しい!他の楽器が加わるとさらに優しく美しく、心洗われるよう。中間部の激しいところでは、パワフルなクラリネットが存在感抜群でした!ホルンの消え入る音から、そのまま続けて第4楽章へ。 祭り囃子にも似た、陽気な音楽が楽しい!イギリスのパブで即興演奏が始まったかのような自由な感じで、スピード感とノリの良さにぐいぐい引っ張られていくのが快感でした。音盛り盛りで快活なピアノに、高速で華やかな弦、コロコロ歌うクラリネット、音を区切りながらパワフルに歌うホルン。息つく間もない盛り上がりで、全員合奏でパワフルに駆け抜けたラストまで、超充実の演奏!めずらしい編成の曲をすごい演奏で聴くことができて感激&超面白かったです!

拍手喝采の会場に、出演者の皆様は何度も戻って来てくださいました。今回アンコールはナシで会はお開きに。超重量級の室内楽を3つも、充実の演奏で聴かせてくださり、ありがとうございました!これからも室内楽の充実した演奏をぜひ!期待ゲージMAXでお待ちしています♪


1年半ほど前の公演になりますが、ブラームスクラリネット五重奏曲が聴けた演奏会です。クラリネットの白子正樹さん、ヴァイオリンの桐原宗生さん、チェロの小野木遼さんが出演されています。「Kitaraアーティスト・サポートプログラムⅡ>2人が最後に愛したクラリネット五重奏曲~モーツァルトブラームス」(2022/03/14)。表情豊かなクラリネットと、やさしい響きの弦。晩年にクラリネットを愛した2人の作曲家の名曲を、札響メンバー5名による愛あふれる演奏で聴けた、素晴らしい演奏会でした!

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めずらしい演目が並んだ会はこちらも。Kitara小ホールでの演奏会で、ピアノの新堀聡子さんが出演されています。「札幌・リトアニア文化交流コンサート」(2023/08/28)。リトアニアの大スター・ミシュクナイテさんの圧倒的なお声と表現。信頼のメンバーによるピアノと弦。「歌の国」リトアニアの精神に触れ、その音楽にどっぷり浸れた幸せな時間でした。

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ウィステリアホール5周年記念事業 ジングシュピールファウスト」(2023/05/28)。ミニマムなキャストと仕掛けによる、歌とお芝居で作るオリジナル舞台。魅力的な登場人物と音楽に心揺さぶられ、壮大な世界にどっぷり浸れた得がたい体験でした。再演&映像作品化をぜひ!

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最後までおつきあい頂きありがとうございました。