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第135回OKUI MIGAKUギャラリーコンサート 下川朗コントラバスリサイタル(2023/11) レポート

okui-migaku.com
奥井理ギャラリーの主催公演で、札幌交響楽団コントラバス奏者・下川朗さんのリサイタルが開催されました。個人的に好きなシューベルトのアルペジョーネソナタコントラバスで聴ける!そしてもちろん下川さんによる「主役としてのコントラバス」の演奏をぜひ拝聴したくて、私は当日を楽しみにしていました。なお当日の会場には一般のお客さんのみならず、札響の団員さん達も大勢いらしていました。


第135回OKUI MIGAKUギャラリーコンサート 下川朗コントラバスリサイタル
2023年11月05日(日)15:00~ 奥井理ギャラリー

【演奏】
下川 朗(コントラバス
仲鉢 莉奈(ピアノ)

【曲目】
A.デサンクロ:アリアとロンド
F.ヘルトル:ソナタ
F.シューベルト:アルペジョーネソナタ

(アンコール)G.ボッケリーニ:エレジー


下川朗さんによる「主役としてのコントラバス」に魅了された、あっという間の2時間でした!オケの時の重低音ベース(こちらもとても素敵ですが)からは想像もつかない、高音で柔らかく歌ったり感情の揺らぎを表現したりの歌心の良さに、時にジャズを思わせるようなキレッキレのリズム感、さらに超絶技巧のすごさも!個人的に楽しみにしていたシューベルト「アルペジョーネソナタ」はもちろんのこと、私にとっては「お初」だったコントラバスのための作品たちの演奏でもうれしい驚きの連続で、最初から最後まで夢中になって聴くことができました。しかも、こんなにすごい演奏の連続なのに、聴く方の私達はリラックスして楽しめたのもうれしかったです。きっと下川さんの親しみやすいお人柄によるものですね!プログラムに掲載されたプロフィールにも、輝かしい経歴の最後にギリギリの残り文字数を使って「犬派」と書かれていて、下川さんはタダモノではないなと(笑)。おそらく「夢は牧場主」は字数が足りなかったから書けなかったのかも?会場にオケの同僚が大勢いても(下川さん愛されていらっしゃる!)、下川さんはプレッシャーを感じるどころか、傍目には力むことなく自然体で演奏していたようにお見受けしました。一見すごそうじゃないのに(超失礼・ごめんなさい!)、実はすごいって、最強ですね!

また仲鉢莉奈さんのピアノも素晴らしかったです!下川さんのコントラバスと音楽の鼓動を共有してリズミカルに、かつ気持ちもシンクロして感情が高ぶったり穏やかになったりと表情豊か。さらに独奏の時はとても輝かしく、存在感抜群!調べたところ、下川さんとは今年の1月にもKitara小ホールでの演奏会で共演されていらっしゃるようです。お互いに信頼関係があって、今回の息の合った演奏につながったのですね!ソロや室内楽等、仲鉢さんの今後のご活躍にも大注目です!

そして、こちらの素敵なギャラリーで生演奏を聴けることのありがたさを私は再確認しました。小さな空間で演奏を間近に感じられるのはとても贅沢!演奏家の息づかいや細かな動作(コントラバスの運指や、超高音を出すときに指板がない場所で弦を押さえている!の気づきなど。凝視してごめんなさい!)までわかるほど、演奏家との距離が近いのも魅力です。大きなガラス窓からは自然光が入り、演奏姿が景色と溶け込むのも素敵!今回は、秋の色づいた木々がキレイな明るい時間から暗くなるまでの色合いの変化を楽しめました。素敵な時間を過ごすために、私はこれからも折に触れて奥井理ギャラリーへうかがいたいと思います。


開演前に、まずギャラリーのオーナーである奥井さん(理さんのお父様)からごあいさつ。今年は雪虫が多いというお話から、雪虫についての詳細な解説になりました。かなり専門的な内容で、私はビックリ!続いて、フルーティストの阿部博光さんのトークに。阿部さんから、奥井さんが高校の生物の先生だった事と奥井さんが書かれた学術書の紹介がありました。道理でお詳しいわけですね!阿部さんはギャラリーのご近所にお住まいとのことで、20年前にギャラリーがオープンした時からご縁があるそう。OKUI MIGAKUギャラリーコンサートには阿部さんご自身も何度も出演されていらっしゃるようです。ギャラリーの建築家についての紹介や、音響に優れているという解説、過去のギャラリーコンサートに多くの札響メンバーが出演した事など、お話は多岐にわたりました。またこの日の会場に札響の団員さん達が大勢いらしている事に触れ、とても良い事と仰っていました。ちなみに阿部さんが日本フィルハーモニーに在籍中に何度か開催したリサイタルには、同僚が来てくれることは滅多になかったそう。「(同僚がたくさん来ているのが)下川さんにはプレッシャーになるかな?いえ、そんなかたではないと思います」と仰ってから、出演者のお2人をお呼びくださいました。お2人を客席は拍手で迎え、いよいよ開演です。

コントラバスの下川さんは黒シャツ、ピアノの仲鉢さんは黒いドレスの装いでした。今回使用されたコントラバスはオケで使うものより小ぶりで(後ほどインタビュー内でもそう紹介がありました)、弦は4弦。下川さんは、座面が高いイスに浅く腰掛けての演奏でした。1曲目は、A.デサンクロ「アリアとロンド」。アリアは、冒頭のコントラバスの重低音が「らしく」て、床から伝わる振動にゾクゾク。ほどなく高音域になり、ドラマチックなピアノに乗って、滑らかに穏やかに歌うコントラバスが素敵!ゆらぐ音が心地良く、まるでチェロのよう、とその時の私は率直にそう思いました。ロンドは、タタッターン♪とノリの良いリズムでのジャジーな音楽がカッコイイ!コントラバスは重低音から高音まで自在に行き来しながら、即興的で生き生きとした演奏。重低音のピッチカートはコントラバス「らしさ」全開で、重低音の響きが振動とともに来てゾクゾクしました。コントラバス小休止のときのピアノが華やか!終盤のコントラバス独奏は、数多の音の連なりをもりもり弾く超充実の演奏がすごい!クライマックスでの高音のトレモロは衝撃的で、コントラバスがこんな音を奏でるなんて!と、私は失礼ながらとても驚き、初めて出会う音に圧倒されました。コントラバス、超男前!私は1曲目から早くも下川さんのコントラバスのとりこになりました。

F.ヘルトル「ソナタ。こちらは下川さんが学生時代に熱心に取り組み、初めての演奏会でも取り上げた、思い入れがある作品とのことです。第1楽章 少し深刻な感じのところでは、ピアノと呼応しながらのリズム感が良くてドキドキしました。滑らかに歌うところでは、ふっとまるくなる高音が艶っぽく素敵!ピッチカートでメロディを奏でたのがカッコイイ!後半ではどんどん情熱的で前のめりな感じになり、ピアノと掛け合いながらガンガン弾くコントラバスに、聴く方もぐいぐい引っ張られていきました。第2楽章 穏やかに歌うコントラバスはなんとも温かく優しく、過去を懐かしむようにも今を慈しむようにも感じられました。中盤の感情が高まったところは、都会的な洗練された印象。ピアノと一緒に高音でフェードアウトしたラストがとても美しかったです!第3楽章 コントラバスとピアノがリズミカルに掛け合う、ノリの良さと勢いある音楽に、聴く方も血が騒ぎました。中盤のゆったりしたところでは、少しだけ登場したピッチカートによるメロディが個人的にぐっと来たツボ。そしてクライマックスでの超絶技巧が圧巻!ありえないほど加速して超高速で音を繰り出すのに圧倒され、目の前で繰り広げられる凄技に私は目と耳が釘付けになりました。すっごい!超充実の演奏に大拍手です!

休憩時間に入る前に、阿部さんから下川さんへのインタビューがありました。はじめに阿部さんは、チェロのような表現力を絶賛。下川さんは、まず(ゲネプロの時もお客さん達が入ってからも)ギャラリーの音響が良い事や、今回演奏会が開催できる運びになった事への感謝、先ほど演奏したF.ヘルトル「ソナタ」についての思い、等をお話されました。コントラバスの曲は「アカデミックなものは出尽くしている感があり、そうではない作品がこれから重要になってくる」といった趣旨の事を仰っていたのが印象に残っています。なお、下川さんのためにコントラバスの作品を作曲してもらえる事があれば「光栄」と、新作を献呈される事にとても前向きでいらっしゃいましたよ。「我こそは」という作曲家のかた、ぜひお願いいたします!下川さんが札響に入団されたのは2019年とのこと。札響については、(オケそのものも本拠地kitaraも)環境が素晴らしいと仰っていました。ただ、冬の雪にはまだ慣れないのだそう。阿部さんも札響の事を「素晴らしいオケ」と仰り、「後半も頑張って下さい」と下川さんを激励して、インタビュー終了となりました。

続けて奥井さん(理さんのお母様)のお話に。「コントラバスはこんなに表情豊か!」と、演奏についての感想の後、理さんの思い出話と理さんが残された詩の朗読がありました。「私達は子を亡くしたけれど、多くの出会いに恵まれた」とも。ちょうど18歳の息子がいる私は、お話も詩の内容自体も胸に来て、さらに理さんのお母様が今の境地に至るまでの事を思うと、こみ上げてくるものがありました。


後半は、F.シューベルト「アルペジョーネソナタ。下川さんご自身による編曲版の演奏です。私が今回拝聴した限りの印象では(もろもろ勘違いでしたら申し訳ありません)、ピアノは原曲そのままで、コントラバスのパートは演奏機会が多いチェロ版より数オクターブ低くして、調性の変更は無かったと思います。また単に平行移動で音を低くしただけではなく、同じフレーズが繰り返されるシーンでの2回目はあえて音程を変えていたり、コントラバス独奏が充実していたりといった、さりげないオリジナリティが感じられました。第1楽章 じっくり足取りを確かめるようなピアノの序奏に続き、低音でそっと登場したコントラバス。強弱の波やトレモロやゆらぐ音で抑揚を付けながら、切なく美しく歌うのがとっても素敵でした!ピアノと呼応しながらの、(ン)タ(ン)タ♪のリズムの良さ。ギターのように弦をかき鳴らす低音のピッチカートがカッコイイ!続くピアノのターンでの高音のピッチカートがまた良かったです!優しく可憐な響き、こんなピッチカートをコントラバスで聴けるなんて!悲しさを吐露するようなところから、コントラバス独奏にハッとさせられ、その後の楽章締めくくりに向かう流れがとても良かったです。前のめりな感じだったのが、次第に炎が消えゆくようにゆっくりになり、今まで登場したフレーズを繰り返しながら高音でフェードアウトする流れにゾクッとしました。そしてジャンジャン♪の強奏で締めくくり。この緊迫感、すごい!第2楽章 穏やかなピアノの和音に乗って、滑らかに歌うコントラバス。まるで歌曲のような美しさでした!コントラバスには全く休符がなかったようで(!)、音楽自体はゆったりでも演奏は細やかに神経を巡らせていた様子。ピアノが沈黙してのコントラバス独奏は、バリトンがゆっくり愛を語っているようで、すごく素敵でした!そのまま続けて第3楽章へ。 ピアノは温かな響きで希望の光が見えるよう。それに乗って穏やかに優しく歌うコントラバスは、ほんの少し切なさを垣間見せるのに色気があって素敵でした。一転して、速いテンポで情熱的に弾くところのシャープなカッコ良さ!中盤の明るいところはリズム感が素敵で、ピアノと一緒にダンスしているようにも感じられました。ピアノのターンでのピッチカートがまたまた素敵!タンタンタン♪と、少ない音で切なく美しく歌う表現力がすごいです!穏やかなところと激しいところが交互に来て、その切り替わりがごく自然で滑らかだったのも印象的でした。ラストは音をのばしすぎず、すぱっと締めくくり。個人的に愛してやまないこの曲を、下川さんと仲鉢さんの愛あふれる演奏で聴けて感激です!下川さんが奏でるコントラバスの表現力に驚愕したのと同時に、歌声あふれる音楽に魅了されどっぷり浸ることができた幸せな時間でした。

カーテンコールで何度も戻って来てくださったお2人。下川さんはごあいさつの後、「せっかくなのであと1曲弾きます」。会場に大きな拍手が起きました。下川さん自らアンコールの曲名を紹介くださり、「短い曲です。本日はありがとうございました」と仰ってから、演奏へ。アンコールは、G.ボッケリーニ「エレジー。優しいピアノの和音に乗って、高音域でゆったり歌うコントラバスが美しい!強弱の波やさらに高音になって消え入る音など、曲線を描くような優しく穏やかな波長に心身が癒やされました。大熱演の後、心穏やかになれるアンコールまで、ありがとうございます!下川さんによる「主役としてのコントラバス」、超素敵でした!リサイタルをはじめ、室内楽やもちろんオケでも、これからのご活躍に大期待です!

ここでも阿部さんから下川さんにインタビュー。語り尽くしていた(!)ようで、既出のトピックを再確認する感じでした。「今後の演奏会のご予定は?」の問いかけには、11/13に賛助出演する演奏会にてシューベルトピアノ五重奏曲「ます」をやります、と宣伝。「低音ならいくらでも弾きます!」と、高音が多かった今回の演奏の大変さが窺えるアピールの仕方をされていました。最後に阿部さんから今後のいくつかの演奏会(今回譜めくりを担当された、新進フルーティスト・金子愛英さんのリサイタルも!)の宣伝とごあいさつがあった後、会はお開きとなりました。


札響メンバーは室内楽でもご活躍です!今まで私が拝聴した演奏会はいずれも素晴らしいものでした。最近のものから、いくつかの弊ブログ記事をご紹介します。

ウィステリアホール プレミアムクラシック 2023シーズン 23rd」(2023/10/29)。信頼のメンバーによる室内楽ブラームスクラリネット三重奏曲とホルン三重奏曲は、作曲家の人生を思わせるものでした。V.ウィリアムズのめずらしい編成の五重奏曲は超充実の演奏!期待を大きく上回る幸せな演奏会でした!

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鈴木勇人 ヴィオラリサイタル」(2023/10/02)。最晩年の作曲家が秘めている純粋さや情熱が感じられた、ブラームスソナタ。丁寧で誠実な演奏による色合いの変化が味わい深く、ヴィオラの良さを再確認しました。共演の野平枝里さんのピアノも素晴らしかったです!

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あかまかるてっと 札幌公演」(2023/07/24)。空間全体がまるで絵画のようなギャラリーにて異空間に旅した1時間半。メンデルスゾーンの充実ぶりや、ウェーベルンの美しさと深み等、独墺の弦楽四重奏曲の数々を優美かつ重厚に聴かせてくださいました。

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最後までおつきあい頂きありがとうございました。