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ウィステリアホール5周年記念事業 ジングシュピール「ファウスト」(2023/05) レポート

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ウィステリアホール5周年記念事業として開催された、ジングシュピールファウスト」。ウィステリアホールではおなじみの出演者の皆様による、歌とお芝居でゲーテの「ファウスト」を上演するオリジナル作品です。企画発表当初から話題となっていたため、当日は札響定期と日程が被っていたにもかかわらず会場はほぼ満席。またウィステリアホール5周年記念として、来場者全員にオリジナルCDが配られました。

ウィステリアホール5周年記念事業 ジングシュピールファウスト」 -長編作品を歌と芝居で構成したオリジナル公演-
2023年05月28日(日)14:00~ ウィステリアホール

【出演】
ソプラノ:中江 早希
バリトン:駒田 敏章
俳優:宇井 晴雄
ピアノ:新堀 聡子

【曲目】
<第1幕>
ブゾーニメフィストフェレスの歌(蚤の歌)
シューベルト:トゥーレの王 Op.5-5 D 367
シューマンゲーテファウストからの情景」より「庭の場面」
シューベルト:糸を紡ぐグレートヒェン Op.2 D118
ワーグナーゲーテファウスト」からの7つのコンポジションより「グレートヒェンのメロドラマ」
シューマンゲーテファウストからの情景」より「教会の場面」

<第2幕>
シューマンゲーテファウストからの情景」より「日の出」
シューマン:塔守リュンコイスの歌 Op.79-28
シューマンゲーテファウストからの情景」より「真夜中 ファウスト盲目に」
シューマンゲーテファウストからの情景」より「ファウストの死」
シューマンゲーテファウストからの情景」より「救済と変容」

<劇伴/劇中使用楽曲>
リスト:メフィスト・ワルツ第1番「村の居酒屋での踊り」S514/R181より
モーツァルト:歌劇「魔笛」K.620より
プロコフィエフ:交響組曲「キージェ中尉」Op.60より
ベルリオーズ幻想交響曲 Op.14より
ワーグナー:楽劇「トリスタンとイゾルデ」より
シューベルト:水の上で歌う Op.72,D.774より


お芝居と歌でこんなにも心揺さぶられ、魂が震える体験は初めてです!実は予習(さらっとストーリーを追った程度です)の段階ではこの物語を正直受け入れがたく(苦笑)、やや不安な気持ちで当日を迎えた私。そんな私が最初から最後までのめり込み、どっぷり浸れたのは嬉しい誤算でした。ありがとうございます!オリジナル台本の良さはもちろんのこと、何よりお芝居と歌が素晴らしかったです。バリトンの駒田敏章さんが演じる、知的で男前なファウストを嫌いになれなかった時点で私の完敗(笑)。またソプラノの中江早希さんが演じるグレートヒェンは可憐なだけでなく、信心深さと意志の強さに凄みを感じさせ、愛あふれ慈悲深いのはまるで聖母のようでもある、とても魅力的な女性でした。そしてメフィストフェレスを演じた宇井晴雄さんのカメレオン俳優ぶりがすごいです!狂言回し的な存在で台詞の量がとても多く、それでもテンポ良く物語を進めてくださいました。また主役のファウストやヒロインのグレートヒェンがお話の中心になる時は、同じ舞台に立っていても気配を消し、一度きりの登場人物をその瞬間だけ演じても説得力がある!と私は後から気付きました。その時は観客に意識させないレベルで演じ分けていたなんて、すごいことでは!?また信頼する新堀聡子さんのピアノは、バリトンとソプラノの歌唱を支えた他、シーンに応じた劇伴も演奏し、物語世界の土台を作ってくださいました。映像や照明での演出で、限られた舞台上を様々な世界に変化させた舞台スタッフのかたにも大拍手です!大きな舞台でのオペラやミュージカルとは訳が違う、ミニマムなキャストと仕掛けでここまでできるんですね!こんなにも素晴らしい舞台、一度きりなのが惜しいです。ぜひ再演や映像作品化をお願いいたします!

オリジナルの台本は駒田さんと宇井さんが書かれたそうです。ゲーテの「ファウスト」にまつわる音楽作品は多々あれど、原作全てを網羅したものはなく(例えばシューマン作品は原作の全編にわたるとはいえピックアップした情景に曲をつけたもの。グノーのオペラはグレートヒェンの死までで後半はナシ)、今回のように既存の音楽作品とストーリーの台詞劇を組み合わせた舞台は今までなかったのでは?ゲーテの「ファウスト」のストーリーをぎゅっと圧縮し、音楽はシューマンゲーテファウストからの情景」の曲を中心に、他の作曲家の作品も取り混ぜて構成。台詞劇と演奏で進められ、ナレーションはありませんでした。テンポ良く進み、引き込まれる展開だったため、お話を知らない人でも楽しめた内容だったと私は思います。メインの登場人物の呼び方は、グレートヒェンはマリガリータ呼びは使われず全編にわたりグレートヒェンで統一。またファウストをハインリヒ様と呼んだのはグレートヒェンのみで、他の人はファウストと呼んでいたと思います。ストーリーは時間的制約がある上に、台詞で説明できる情報量には限りがあるため、ゲーテの原作から思い切って省いた部分もあったようです。例えば、メフィストフェレスは黒イヌの姿ではなく最初から人の姿でファウストの前に現れたり、グレートヒェンの兄の絶命後にファウストメフィストフェレスが魔女の祭典「ワルプルギスの夜」に出かけた話や、ファウストが美女ヘレネーを追い求め子を成す話などは省略したり、それに関連して登場人物もぐっと減っていたり。この辺りはシューマンも曲を付けておらず、また読み解くにはギリシャ神話はじめ数多の教養も必要となってくるため、省いて正解と思われます。結果としてファウストはグレートヒェンのみを愛したと捉えられる構成になっていたのは個人的に好印象でした。別の女を追い求める展開は私にはどうしても受け入れられなくて(苦笑)。あとは、グレートヒェンの兄に致命傷を与えたのは誰かがはっきりしなかったり、ファウストが失明した瞬間があやふやだったり等、想像に任せる余白も残してあったと感じました。ただ、グレートヒェンの兄の登場は、お話を知らない人にはちょっと唐突だったかも?確か遠くに赴任していて普段は自宅におらず、妹の噂を聞きつけ急ぎ帰宅したのですが、グレートヒェンに兄がいることはこの時まで話題にすら出ていなかった気がします(勘違いでしたら申し訳ありません)。しかしその瞬間だけの登場にもかかわらず、宇井さんが演じたグレートヒェンの兄はものすごい存在感で、お話を展開させる重要ポイントとなってくださいました。

学者として成功したファウストが悪魔メフィストフェレスと契約。それは、この世で何でも望みを叶えてもらう代わりに死後は魂をメフィストフェレスに渡す。その死はファウストが「とどまれ、お前は美しい」と言った瞬間に訪れる、というもの。ファウストは名声は要らないようですが(劇中でも「名声など意味は無い」と明言していました。これは既に得たものだからかも?)、肉欲や支配欲に関しては正直に「欲しい」と願う人のようです。個人的には、ファウストは自分の欲望ばかりが大事で他人を不幸にするクズでは!?とか、そもそもずば抜けて頭が良い人がなぜこんなに短絡的な行動をするの?とか、悪魔メフィストフェレスは約束を必ず守るなかなか良いヤツでは?等、ツッコミどころ満載(笑)。しかし、人の欲望は果てしなく、それによって周りを不幸にもするというのは、人類がずっと抱えてきた普遍的なテーマなのだと思います。文豪ゲーテが生涯かけて取り組み、多くの作曲家が影響を受けて曲を生み出したのは、作品を通じて人の生き方そのものを問うているからですよね。設定や登場人物は、すべての人が自己を映し出すための単なる枠組みに過ぎないのだと今は思います。ゲーテの「ファウスト」はそれこそ一生かけて読むべきものではありますが、今回の舞台を拝見して私が最も感じ入ったのは、ずばり「最後に愛は勝つ」です。限りない欲をどんなに満たそうとしても、過ぎ去っていくものはただ空しいだけ。それでも最後に魂が救われ永遠の存在となれるのは純粋な愛の力によってなのだと、私なりにそう受け止めました。しかし物語の要である、ファウストがどのような思いで「とどまれ、お前は美しい」と言ったのかについてや、この世での「瞬間」と天での「永遠」をどう捉えるかについては、今はまだ自分の答えを出さずにいたいと思います。この辺りは今回の舞台ではフラットに描かれていたため、私達に解釈の余地が残されていたのもありがたかったです。

舞台は向かって左端にピアノ、右端に段差がある少し高い場所が設けられ、舞台後ろには幅いっぱいの大きなスクリーン。ドイツ語の歌詞の日本語訳は演奏とシンクロしてスクリーンに表示されました。またシーンに合わせた映像(影絵に近い派手では無いもの)がスクリーンに映し出され、その時に応じて明るさを変化させた照明やスポットライトによる演出も。ピアノの新堀さんは黒い衣装で、他の皆様は下が黒・上が白のシンプルな装い。主な登場人物では、ファウストを駒田さん、メフィストフェレスを宇井さん、グレートヒェンを中江さんが演じ、他の登場人物はお三方が羽織り物を変える等して演じ分けていました。なおプログラムに演目解説やストーリーは書かれておらず、プレトークやアフタートークもナシ。ミニマムなキャストと仕掛けによる歌とお芝居のみで、私達は最初から最後まで物語の世界に没頭できました。

以下、舞台のレポートは印象深かったところを中心に、ストーリーを端折りながら書きます。なお台詞は大意です(一字一句の違いについてはご容赦を)。第1幕。暗がりにいる神(中江さん)と悪魔メフィストフェレスとの対話から。小賢しそうなメフィストフェレスのキャラ立ちが最初からすごくて引き込まれました。背景がファウストの部屋になり、メフィストフェレスファウストと対面。魔除けを外してほしいと願うメフィストフェレスは、やはり悪魔なんだなと(笑)。ファウストは落ち着いた話しぶりの知的な印象。2人で酒場に繰り出して、バリトン独唱でブゾーニメフィストフェレスの歌(蚤の歌)」。「蚤の歌」には様々な作曲家が曲を付けているようですが、今回はブゾーニの作品が取り上げられました。ノミが跳ねているようなお声とピアノで、バカバカしい内容を(演出として)投げやりな感じでの演奏。魔女に若返りの薬をもらいに行くシーンでは、ぐっと腰を曲げて頭から布を被っている老魔女(中江さん)の存在感がすごい!声色がとても面白くて、私は老魔女の再登場を密かに期待してしまいました(実際はこの一度きりでした)。駒田さんは髪を束ねてイメチェンし、若返ったファウストに。グレートヒェンに一目ぼれして、「あの娘が欲しい!」。「欲しい」とか、お若いですね……。グレートヒェンの部屋に宝石箱を置きに行くシーンでは、ファウストは「見つかったら変態だと思われる」とそわそわ。すごく良いお声でそんな変なことを仰るのと、学問で大成した博士が形無しになっているのとで、ちょっと笑えました。いやいやどう見ても変態ですから(笑)。ソプラノ独唱でシューベルト「トゥーレの王 Op.5-5 D 367」。はじめは無伴奏で、途中からピアノの和音の伴奏が入る演奏でした。素朴な昔語りのようでありながら、やや影のあるお声に、既に恋してしまった乙女の揺らぐ心が垣間見えるよう。バリトンとソプラノの二重唱でシューマン ゲーテファウストからの情景」より「庭の場面」ファウストとグレートヒェンの明るい掛け合いが素敵でした。また、グレートヒェンが花占いで「好き、嫌い、好き……」と花びらを1つずつ取る(スクリーンには1枚ずつ舞う花びら)のが可憐で、最後「好き」となったときの喜びの声が愛らしい!今すぐ抱きしめたくなる!お芝居のみでの、グレートヒェンがファウストに「神様を信じていらっしゃる?」と問うシーンでは、「~が神と言えるかもしれない」なんて理屈を言うファウスト。彼女がイメージする神なんてたぶん信じてないよこの人……。グレートヒェンがファウストの周りをウロウロする邪悪な存在(メフィストフェレス)を嫌がるのに対しても、ファウストは「気が合わないだけだ」なんて!なんかかみ合わない感じ(笑)。それでも恋は理屈じゃない、わかる!ソプラノ独唱でシューベルト「糸を紡ぐグレートヒェン Op.2 D118」では、スクリーンに速度を変えながら回る糸車が映し出されました。糸車がくるくる回るようなピアノに乗って、恋に悩み苦しむグレートヒェンの思いそのもののようなソプラノが切ない!既にグレートヒェンはファウストに心奪われているのが伝わってきました。結局、ファウストからもらった睡眠薬で同居の母親を眠らせて、グレートヒェンはファウストを受け入れることに。直接の描写はありませんでしたが、メフィストフェレスファウストに「一度じゃ済まず……」等とやいやい言う台詞で、男女2人が何度も逢瀬を重ね、母親が亡くなってしまった状況が掴めました。噂好きなご近所さん(宇井さん)が、グレートヒェンに「男と通じた嫁入り前の娘がいた」とヒソヒソ。グレートヒェンは一人になってから、以前なら世間と一緒になって非難したであろうそんな娘に自分がなってしまったことに愕然として、続く演奏がすごかったです。ソプラノ独唱でワーグナー「グレートヒェンのメロドラマ」。中江さんは膝をつき壁に向かい懺悔する姿勢で、高らかに歌うのではなくボソボソ独白する演奏。派手な感情表現はないのに、「この恥辱からお救いください」というグレートヒェンの苦しみが痛いほど伝わってくる演奏は鳥肌モノでした!場面が変わり、外で諍いの音がして、お腹に血痕があるグレートヒェンの兄(宇井さん)がグレートヒェンの前に登場。自慢の妹だったお前が世間から汚い言葉で罵られている……と、おそらくそのせいで喧嘩になり致命傷を負ったことは語らずに、絶命。打ちひしがれるグレートヒェンの背後に悪霊(駒田さん)が現れ、二重唱でシューマン ゲーテファウストからの情景」より「教会の場面」。「お前はなんと変わってしまったことか」と、バリトンのひときわ低い声の恐ろしさ、「ああ苦しい!」とソプラノの悲痛な叫び。バリトンによる「お前の腹の中に動く萌芽が」との言葉で、グレートヒェンが懐妊していることがわかりました。容赦なくバリトンが「怒リノ日」「最後の審判のラッパが」……ああもう止めて!私はお話に入り込みすぎて苦しくてとてもつらかったです。救いのなさに絶望したところで、第1幕終了となりました。(シューマンファウストからの情景」では第1部の最後にあたる、牢屋のグレートヒェンとの別れは第2幕に持ち越されました)。

第2幕。「裁判になったら神の前に出なきゃいけないから」と、グレートヒェンの兄が来る直前にメフィストフェレスファウストを連れて異世界へ高飛び。しかし地上界ではいつの間にか、グレートヒェンが婚前交渉と嬰児殺しの罪で処刑を待つ状況に。それを知ったファウストはグレートヒェンを助けに行くため、グレートヒェンの牢屋の前へ。ここでのグレートヒェンが素晴らしくて、私は震えが止まりませんでした!泣き叫んだりせず普通に話しているのに「あなたは誰?」等と言う、気がおかしくなっているグレートヒェンがあまりに自然でぞわっとしました……。しかし来た人が愛するファウストだと分かっても、グレートヒェンは頑なに牢を出るのを拒みます。信心深くまじめな彼女が罪に問われて、その原因を作った男の方はお咎めなしなのが理不尽!「もう明るくなるから戻ろう」とメフィストフェレスが現れ、「いや!」となったグレートヒェンを救い出すのは不可能に。おそらく彼女は処刑されたのでしょうが、その描写は無く、次の場面はかなり年月が経った後。山々が広がる映像がスクリーンに映し出され、バリトン独唱でシューマン ゲーテファウストからの情景」より「日の出」。壮大な世界を讃えるような堂々たる響き。「目がくらみ」「目の痛みに」等の歌詞は、この先ファウストが失明することを暗示しているよう。ファウストが悟りの境地にいるようにも私は感じたので、もうここで「とどまれ、お前は美しい」と言っちゃっても良いのでは?と、密かに思ったのは内緒です(笑)。「あれから色々あった」という説明は、メフィストフェレスが「皇帝に仕えたこともありましたね」……なんとお話がかなり進んでいる!しかし一発で状況はわかりました。しかし、もうここまで散々欲を満たしてきたはずなのに、ファウストは「海が欲しい」。ソプラノ独唱で、シューマン「塔守リュンコイスの歌 Op.79-28」。目に映る自然の美しさを静かに歌うソプラノが美しい!なおここでは日本語訳がスクリーンに出ていなかったようです。意味を深読みしないよう、あえて歌詞を出さなかったのかも?ファウストメフィストフェレスの手助けにより海を支配できるようになると、今度はその海を高い場所から見下ろすために「老夫婦が住む高台が欲しい」。少々手こずったメフィストフェレスは家に火を放って、老夫婦はじめそこにいた人達を皆殺しに。「交渉を望んだんだ!」と怒るファウストに対して、「力に楯突くな!」とメフィストフェレスが一喝しファウストが黙ってしまったシーンが忘れられません。ファウストは「死後にメフィストフェレスに従う」契約だったはずだったのに、既に現世においてもメフィストフェレスの「力」の奴隷となっているのでは……そう思うと、私はなんとも空しい気持ちになりました。「憂い」(中江さん)とファウストとの対話は二重唱で、シューマン ゲーテファウストからの情景」より「真夜中 ファウスト盲目に」。「憂い」に対して反発するファウスト。しかしどんなに強がっても、「憂い」が言うところの空しさをファウスト自身も気付いているのでは?(あくまで私見です)。束ねていた髪がほどかれたことで、薬で若返ったファウストは再び年を重ねたとわかりました。スクリーンには骸骨(絵はかわいらしかったです)がたくさん!メフィストフェレスの台詞によると、悪霊達にファウストの墓穴を掘らせているにもかかわらず、ファウスト自身は開拓工事が進められていると思い込んでいるそう。ファウストは理想郷が築かれるのを想像し、バリトン独唱で、シューマン ゲーテファウストからの情景」より「ファウストの死」。まるで夢を見ているような語り口。そして歌詞の中にあの台詞が!ついに「とどまれ、お前は美しい」と言ったことで、ファウストは息絶えました。急ぎその魂を回収しようとしたメフィストフェレスでしたが、まばゆい光で照らされ、目がくらみ動けなくなりました。「おまえ達(天使)の方がよっぽど性悪じゃないか!」と天に向かって悪態をついてはみても、光には敵わず、メフィストフェレスは退場。個人的には、この瞬間のためにずっと頑張ってきたメフィストフェレスがなんだか可哀想に思えてしまいました……。ここからはシューマン ゲーテファウストからの情景」の第3部「救済と変容」から曲を抜粋して、バリトンとソプラノによる演奏で進められました。ファウストの亡骸に天使(中江さん)が手をかざし、ファウストの魂は光の滝(背景に映し出されていました)の前へ。光の滝のように美しいピアノの響きに乗ったバリトン独唱は、ただただ魂が浄化されていくよう。そして、こちら側に背を向けていた中江さんが正面を向きました。ああグレートヒェン!天で愛するファウストと再会できましたね!地上では道徳的人道的に罪に問われたけど、純粋に人が愛し合うこと自体が罪なはずはないのです!私は胸がいっぱいになりました。背景は宇宙に浮かぶ地球。美しく慈悲深いソプラノ独唱に救われました。ラストは二重唱となり、背景は宇宙空間へ。愛しあう2人の魂が寄り添い永遠の存在になったと感じられる演出が素晴らしい!物語は静かに幕を下ろし、小さな会場は割れんばかりの拍手!出演者の皆様はカーテンコールに何度も戻ってきてくださいました。この舞台を目の当たりにできた私達は幸せです!今回の舞台は私にとって得がたい体験となりました。本当にありがとうございました!

ウィステリアホール5周年記念オリジナルCDは、バリトン駒田敏章さんとピアノ新堀聡子さんによるシューマンシューベルトの歌曲集。私は帰宅後に何度もリピートしています。こちら大切にします!

 

ウィステリアホールでの音楽劇はこちらも『ウィステリアホール プレミアムクラシック12 朗読と歌で綴る「マゲローネのロマンス」』(2021/10/24)。ブラームスの連作歌曲をオリジナル日本語訳による朗読と字幕付きで。物語の世界に引き込まれ、会場にいながら中世の物語の世界を旅した幸せな時間でした。

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なお、ソプラノ中江早希さんとバリトン駒田敏章さんはウィステリアホールの公演に多数ご出演されています。いずれも大変素晴らしいもので、私にとって忘れられない体験となりました!各公演のレビューは以下のリンクからどうぞ。

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この日の前日に聴いた「札幌交響楽団 第653回定期演奏会」(土曜夕公演は2023/05/27)。最初の計画発表から3年の時を経てやっと出会えたドイツ・レクイエム。体温を感じる人の声はストレートに心に響き、遠いと感じていた作品が一番自分のハートに近いものと思えるように。会場全体の気持ちが一つになれたラストも素敵でした。

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最後までおつきあい頂きありがとうございました。