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ウィステリアホール プレミアムクラシック 14th「弦楽四重奏とピアノ五重奏」(2022/02) レポート

www.msnw-wishall.jp

ウィステリアホールのプレミアムクラシック。2021年度の最後となる今回はブラームスの「弦楽四重奏とピアノ五重奏」です。ピアノはもちろん新堀聡子さん。そして弦は我らが札響の3名(Vn.岡部亜希子さん・Vn.桐原宗生さん・Vc.武田芽衣さん)と都響から1名(Vla.村田恵子さん)をお迎えしての布陣。このメンバーによるブラームスの代表的な室内楽が聴けるとあって、会場は90席(収容率50%以下)ほぼ満席でした。


ウィステリアホール プレミアムクラシック 14th「弦楽四重奏とピアノ五重奏」
2022年02月27日(日)14:00~ ウィステリアホール

【演奏】
岡部亜希子(ヴァイオリン)
桐原宗生(ヴァイオリン)
村田恵子(ヴィオラ
武田芽衣(チェロ)
新堀聡子(ピアノ)

【曲目】
ブラームス弦楽四重奏曲 第1番 Op.51-1
ブラームスピアノ五重奏曲 Op.34

(アンコール)ブラームス:16のワルツ Op.39-第15番 ※ピアノ五重奏アレンジ


ブラームス自己批判で同編成の曲を20作以上破棄した後に世に送り出した、渾身の「第1番」の弦楽四重奏曲。そしてウィーンに移り住んだばかりでまだ味方らしい人がいなかった頃に、紆余曲折を経て若き日の思いを昇華させたピアノ五重奏曲。そんな作曲家自身の強い思いが込められた今回の2作品の演奏は、技術面だけでは形にならない難しさがあると思われます。しかし今回の演奏は曲自体が持つパワーに負けない大変な熱量で、私達はどっぷりと作品の世界に浸ることができました。奏者お一人お一人の技術レベルの高さは言うまでもなく、なによりアンサンブルが素晴らしかったです!各人がバラバラに主張し合うのではなく、全員で一つの人格のように各パートが有機的に絡み合い、小さな綻びは全体で瞬時に吸収して流れを止めず音楽が生き続ける演奏。当たり前のように細かなテンポや強弱の変化そして呼吸や間合いを揃えて、音楽自体が心臓の鼓動を打っているような「生きた音楽」を聴かせてくださいました。その上で「ここぞ」という場面では遠慮のない感情の発露!オケとは勝手が違う上に所属オケ以外のかたとも共演してこのクオリティ、素晴らしいです!しかも札響はこの日の前日に主催公演があり、またVla.村田さんは東京からお越し下さったわけですから、全員揃ってのリハーサル時間はごく限られていたのでは?なお今回ご出演のヴァイオリンの桐原さんと岡部さんは、2022年3月にkitara小ホールで開催される「2人が最後に愛したクラリネット五重奏曲~モーツァルトとブラームス~」にも札響メンバーと一緒にご出演予定。そちらも今からとても楽しみです!

ブラームスLOVEの私でも、実は今まで彼の弦楽四重奏曲が正直ピンときませんでした。なんだか凝り固まっている印象があって、他の編成の室内楽はもっと自由なのに……と。しかし今回の演奏は、かっちりした中でも抑えきれない情熱があふれているのが感じられ、夢中になれたのがうれしかったです。そしてピアノ五重奏曲では、作品に真摯に向き合い全身全霊で思いを表現した演奏を聴けて感激しました!作曲家自身のターニングポイントとも言えるこの作品。個人的に思い入れが強すぎて、演奏が始まる前の私は期待に胸膨らませながらも、内緒ですが「中途半端な演奏なら承知しない(←過激派 ←何様)」と、少し身構えていたのです。いざ演奏を聴くと、私のつまらない意地は吹き飛び、本気の演奏に自分の感受性をすべて預けられました。素直にすごくうれしい!そして私は、やはりこの曲は弦がいてこそ一層輝くと感じました。シャイなブラームスがここまで胸の内をさらけ出している曲は他にないです(と私は思っています)から、心かき乱す弦で思いっきり感情の発露をするのがハマる!とはいえ姉妹曲の2台ピアノ版だって今も変わらず大好きです、念のため。ちなみにウィステリアホールの2021年度最初の公演(2021/07/22)では、今回のピアノ五重奏曲Op.34の姉妹曲「2台のピアノのためのソナタOp.34b」が取り上げられました。Op.34は、最初の弦楽五重奏が行き詰まって(破棄)、2台ピアノ版に作り直し(Op.34b)、さらにピアノ五重奏版にした(Op.34)経緯があります。ブラームスが大切に手をかけた曲の、2台ピアノ版とピアノ五重奏版。その両方をウィステリアホール・シーズン企画の素晴らしい演奏で聴けた私は幸せ者です!


プレトークは新堀さんと桐原さん。なお私はトークの途中から入室したため(ごめんなさい!)、聞けた範囲でのレポートになります。桐原さんによると、ブラームス室内楽は「弦では表現しきれない要求をしていることがある(※要旨)」。そこでヨアヒム(ヴァイオリニストでブラームスの盟友)の名前が出て、私は思わずふふっとなりました。ブラームスは、クララさんの助言は割とすんなり受け入れるのに、ヨアヒムとは結構もめたりしたんですよね……。ブラームス室内楽は弦奏者泣かせの難曲揃いなんだろうなと想像します。そして「オーケストラ的なところと、(歌曲や合唱曲を得意とした)歌心」との解説が、すとんと腑に落ち、これから始まる演奏がますます楽しみになりました。

前半はブラームス弦楽四重奏曲 第1番」。奏者は向かって左から1stヴァイオリン、2ndヴァイオリン、チェロ、ヴィオラの順に着席。またヴァイオリンは1st桐原さん、2nd岡部さんでした。第1楽章、渋い音のヴァイオリンがクレッシェンドで駆け上る冒頭からインパクト大!全員で頂点に達した後にヴィオラひとりが音をのばしたのも印象的で、早速引き込まれました。重厚でありながら情熱あふれる演奏にゾクゾク。中盤の不穏なチェロや、メロディをヴァイオリンに繋ぐヴィオラの「歌」も印象に残っています。第2楽章は一転して穏やかでやさしい響き。美しく「歌う」弦のまるい音色が心地よく、しみじみ聴き入りました。控えめなピッチカートでの締めくくりも素敵。第3楽章、個人的にはこの楽章の演奏をとても良いと感じました。速すぎないテンポで、不安定な揺らぎを各奏者で見事に繋いで、時折入るピッチカートがアクセントになって曲の表情を変化させる。緻密でもそうとは感じさせない、血の通った演奏が素晴らしいです。そして力強いユニゾンで始まる第4楽章は、第1楽章の情熱再び。メロディを演奏するヴァイオリンと、中低弦が刻むリズムにドキドキ。厳しい響きの中でも時々ふっと穏やかな表情が垣間見えることがあり、そんな細かな変化もごく自然に表現されていました。曲は情熱的に力強く締めくくり。私、ブラームス弦楽四重奏曲の演奏でここまで夢中になれたのは初めてです!きちっとした作りでも、内に秘めた情熱は隠しきれない。熱く流れる血が感じられる、素晴らしい演奏でした。


後半はブラームスピアノ五重奏曲。ヴァイオリンが前半とはパートが入れ替わり、1st岡部さん、2nd桐原さんになりました。第1楽章、ピアノトリオによる少し不穏なユニゾンから始まり、ピアノが駆け上り弦の強奏が重なるところからパワフルかつ情熱的で、掴みはバッチリOK!激しいだけでなく、少し穏やかなところや不安定になるところ等、変化が多い楽章。強弱・緩急のメリハリがある演奏は、若き日のブラームスの複雑な胸の内を表しているかのようでした。激しさが最高潮に達したクライマックスも良かったです。第2楽章は少しゆったりして、ピアノのやさしい響きと弦のまるい音色を堪能。個人的には、中盤のピアノが切なくメロディを奏でるところ(ここももちろん素敵でした)の直前に、ピアノを導くように2ndヴァイオリンが少し低めの音で切なく歌ったところ(細かすぎて伝わっている気がしない)がとても刺さりました。声高な主張をしない2ndヴァイオリンに心かき乱されるなんて!と、不意打ちに私は動揺して、ここからはあれこれ考えるのをやめ演奏に身を任せることに。そして第3楽章が最高に良かったです!冒頭の低弦のピッチカートから入り、全員ピアニッシモで鼓動を打っていたのが、一転フォルテッシモで力強く感情爆発!聴いている私達のテンションもMAXに。ピアノが「運命が扉を叩く音」を響かせ、弦もそれに負けずに力強く歌ってと、ピアノも弦も全力で感情をぶつけ合う大熱演!私は圧倒され、期待を遙かに超える演奏と出会えた喜びに感極まりました。息つく暇も無い目まぐるしい展開の中でも、例えば次の鼓動はフォルテッシモになっている等、単純な繰り返しではなく違いをきっちり表現されていたのが素晴らしいです。ピアノとチェロから入った中盤の温かみがあるところでは少しほっとでき、そこでの弦は先ほどまでの激しさとは違う優しさが感じられたのも印象に残っています。全力の感情の発露で楽章締めくくり、続く第4楽章もまた良かったです。神秘的な序奏、ピアノとチェロによる仄暗い足音、からの急展開。ここのピアノと弦の重なりが重厚かつドラマチックで超素敵!不安げだったり激しい感情だったりと次々と表情が移ろうこの楽章を、細かくリズムとテンポを変化させながらハートに刺さり続ける演奏で聴かせてくださいました。加速しながら思いをすべて音楽に乗せたようなクライマックスに、ピアノから入り弦が追いかけ全員で力強く締めくくる個性的なラストが鮮烈な印象を残して、この日限りのスペシャルな演奏は終了。私、この日この演奏に出会えて本当によかったです!


カーテンコールの後、大熱演の直後で息を切らせた新堀さんからシンプルなご挨拶があり、すぐにアンコールの演奏へ。アンコールブラームス「ワルツ 第15番」のピアノ五重奏アレンジ!ちなみに今回のピアノ五重奏曲の2台ピアノ版が取り上げられた「2台のピアノによる2つのソナタ」演奏会(2021/07/22)でも、アンコールはこの有名なワルツでした。ピアノ五重奏曲のほんの少し後、ブラームスがウィーンになじみ始めた頃の作品です。主に桐原さんのヴァイオリンがメロディを歌い、寄り添うピアノとブラームスらしい中低弦の下支え、高音弦のハモりが幸せな感じ!先ほどまでとはガラリと雰囲気が変わった、そのやさしい響きに私は思わず涙が出てきました。ああブラームスってこんな人なんですね……!よく知る曲を素敵なアレンジと演奏で聴けてうれしかったです。アンコールに至るまで、ブラームスに誠心誠意向き合った素晴らしい演奏をありがとうございました!


ウィステリアホールのプレミアムクラシック。2021年度はブラームスをシーズンテーマに掲げ、全6公演が開催されました。

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私はすべての公演を拝聴。今回より以前の5公演のレビュー記事へのリンクを以下に掲載します。ブラームス三昧できた本年度はとても幸せでした!

2021/07/22 2台のピアノによる2つのソナタ
2021/08/29 チェロアンサンブル
2021/10/24 朗読と歌で綴る「マゲローネのロマンス」
2021/11/07 ソプラノ・クラリネット・ピアノ
2022/01/16 ピアノ三重奏


そして、ウィステリアホール プレミアムクラシックの2022年度ラインナップが発表されました。6つの企画はどれも魅力的!来年度もウィステリアホールに通う幸せな1年になりそうです♪

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最後までおつきあい頂きありがとうございました。