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WISTERIA HALL PREMIUM CLASSIC Ⅹ 2台のピアノによる2つのソナタ(2021/07) レポート

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ウィステリアホールでの演奏会は半年ぶりです。この間2つの公演が中止・延期され、今回は待ちに待った再開でした。また今回は昨年2020年11月に中止となった公演が、演目・出演者はそのままに再企画されたもの。私は昨年から楽しみにしていた演奏会で、今回改めて聴けるとわかったときはとてもうれしかったです。早い段階でチケットゲットし、今度こそは無事に開催されますようにと祈りつつ、この日を迎えました。収容率50%以下の90席限定での開催。様々なハードルを乗り越えて開催くださり、ありがとうございます。


WISTERIA HALL PREMIUM CLASSIC Ⅹ 2台のピアノによる2つのソナタ
2021年7月22日(木)14:00~ ウィステリアホール

【演奏】
鎌倉亮太(ピアノ)
新堀聡子(ピアノ)

【曲目】

ピアノは奥がベーゼンドルファー、手前がスタインウェイで、向かい合わせに配置。また手前のピアノはフタが完全に取り外されていました。


もう最高です……!コンパクトなホールで、しかもピアノ2台でこのスケールの大きさ!すごいものを聴かせて頂きました。ありがとうございます!新堀聡子さんは、この日の約1ヶ月前(2021/6/25)にオールブラームスのピアノリサイタルで素晴らしい演奏を聴かせてくださったばかり。今回の鎌倉亮太さんとの2台ピアノでは、お二方とも骨太な演奏をした上でさらに息を合わせてリズムやテンポを揃え、生き生きした音楽を生み出してくださいました。連弾とは違いピアニスト同士の距離が離れていますから、2台のピアノによる演奏はたとえ常に一緒のデュオであっても難しい気がします。普段は別々に活動されているお2人がここに至るまでには、相当入念なすりあわせと練習を重ねてこられたのでは?そして今回の「2台のピアノのためのソナタ」、超有名なモーツァルトはもちろんのこと、ややマイナーなブラームスを素晴らしい演奏で聴けたことが私は何よりうれしかったです。演奏機会が多い姉妹曲のピアノ五重奏曲(Op.34)の影に隠れてしまっている、「2台のピアノのためのソナタ(Op.34b)」。何度かお話していますが、ピアノ五重奏曲ブラームス大好きな私があえて1つだけ選ぶならこれにするくらい好きな曲です。ブラームス全集で初めて出会った時に「違う作曲家のCDが混ざっている?」と思ったほど、「らしくない」取り乱した感じに衝撃を受け、一瞬でとりこになりました。しかし今回2台ピアノによる演奏を聴いて、いやこの曲はむしろものすごくブラームス「らしい」と考えるように。確かに感情のゆらぎはあっても、時に感情的になりすぎる弦と違って、ピアノは地に足をつけている印象。さらに内に秘めた情熱や若さゆえのパワフルさを、分厚くて骨太な「ザ・ブラームス」のピアノから感じ取れました。弦がいなくて物足りないどころか、2台ピアノだからこそ、若き日のブラームスの本質が浮かび上がったと思えるほど。ブラームスは少しでも難アリと自己判断した曲は徹底的に処分した人です。そんな彼が、ピアノ五重奏曲が世に出た後でも、先に出した「2台のピアノのためのソナタ」を破棄せず残した(出版社への手紙でもそのようにお願いしています)のは、それだけ作曲家本人も気に入っていたからだと思います。そんな作曲家の思いが込められた「2台のピアノのためのソナタ」を、今回新堀さんと鎌倉さんの最高の演奏で聴けて本当によかったです。ありがとうございます!2021-2022シーズン最終公演での、新堀さんと弦のゲスト奏者4名による「ピアノ五重奏曲」の演奏(2021年2月に予定)もとても楽しみにしています!


新堀聡子さんはエメラルドグリーンのノースリーブドレス姿。鎌倉亮太さんはチャコールグレーのスーツに白いシャツ、ノータイでした。演奏を始める前に、出演者お2人によるトークがありました。お2人は大学の先輩後輩(新堀さんが4年生のとき鎌倉さんが1年生)の関係なのだそう。鎌倉さんによると、「2台ピアノ」の演奏機会が少ない理由の一つは、ピアニストに「自分が!」と主張する人が多いから(※明るくお話されていました)。また、今回演奏するモーツァルトはアニメやドラマにもなったマンガ『のだめカンタービレ』に登場した有名な曲で、聴けば「あー!」となりますとか、大学で教鞭をとる鎌倉さんがまさに今学生さん達と取り組んでいる曲、といったお話がありました。続いて新堀さんがブラームスについてのお話をされました。ブラームスは先人達へのリスペクトが強い作曲家で、モーツァルトもその一人であること。今回の演目は、弦楽五重奏曲(破棄)→(今回の)2台のピアノのためのソナタ(Op.34b)→ピアノ五重奏曲(Op.34)と作曲過程に紆余曲折があったこと。2台のピアノのためのソナタを献呈された王女が、お礼にモーツァルト交響曲第40番』の自筆譜をブラームスにプレゼントしたエピソードの紹介もありました。


「2台のピアノのためのソナタ」、前半はモーツァルトです。奥のピアノに新堀さん、手前のほうに鎌倉さんが着席して演奏が始まりました。第1楽章、最初からバーンと発せられる堂々とした音に気分があがります。明るく華やかなメロディが次々と歌うように流れてくるのはまさしくモーツァルト!高音のキラキラした美しさだけでなく、低音の下支えが効いているのが印象的でした。少しゆったりする第2楽章は、ずっと聴いていたいような心地よさ。また、お2人のピアニストのメインとサブがいつ交代したか素人目ではわからないほど自然だったのにも驚きました。第3楽章では再びスピード感ある演奏に。軽やかなメロディと、ここでもまた対する低音の下支えが素敵でした。中盤で一瞬短調に?少し哀しげな雰囲気があったところが印象に残っています。音楽の流れは最後まで止まることなく、ピアノはお2人が見事にシンクロした上で駆け抜けていきました。素晴らしい!のだめちゃんが千秋先輩とレッスンで初共演したこの曲。私はアニメを一気見したとき、連弾ではなく2台ピアノだったこともあり「まだ2人の間にはかなり距離があるな」なんて思った記憶があります。しかしこの曲は、ピアニスト2人の気持ちがバラバラならおそらく演奏が成立しない気がするので、出会って間もない時からのだめちゃんと千秋先輩は波長が合っていたのかも?そんな妄想が炸裂した、息の合った素晴らしい演奏でした!それにしても、モーツァルトは当時の音域が狭く表現できることも限られていたフォルテピアノで、ここまでスケールの大きいかつ華やかな音楽が書けちゃうんですね。後に続いた作曲家たちの多くがモーツァルトを敬愛したのも頷けます。偉大な「神様」モーツァルト先生が前座だなんて、ブラームスご本人は恐縮しちゃうかもしれませんね。


後半はブラームスです。前半とは逆に、奥のピアノに鎌倉さん、手前のほうに新堀さんが着席されました。第1楽章。冒頭の少し不穏な空気から一気に駆け上るところからもう最高です!力強い演奏には内に秘めた力を、また何層にも重なった音には複雑に絡み合った感情を感じることができ、私は最初からテンションMAXに。弦がいるとつい弦ばかりを追いかけてしまう私ですが、2台のピアノによる演奏だとメインとサブを両方同じウェイトで聴くことができました。そして同じメロディでも、やはりピアノ五重奏曲と2台ピアノでは違う印象で聞こえます。例えばチェロがどこかへ行ってしまいそうな不安定さを出すところは、クールな人が冷静さを装いつつもやや動揺しているような感じに。終盤のヴァイオリンが悲鳴をあげるようなところは、がっちりと地に足をつけた上での力強い感情の発露に。最初の楽章からブラームス「らしい」抑えきれない情熱がある上で、「らしくない」ゆらぎが同居しているのが2台のピアノで見事に表現されていました。素晴らしいです!私は第1楽章が終わったタイミングでもう大拍手を送りたい衝動にかられましたが、曲の途中ですからぐっと堪えました。続いて第2楽章。ピアノ五重奏曲だと、弦が甘くまるい音色でピアノに甘えている印象できこえたり(あくまで私見です)するのに、2台のピアノだと対等で知的な会話にきこえ新鮮でした。これは素敵!穏やかで心地よい響きを楽しみながらも、一瞬だけ少し不安な様子を垣間見せるところが印象的で、ここはピアノ五重奏曲でもピアノが演奏していたなと思ったり。そして第3楽章の良さといったら!心臓の鼓動のような冒頭からドキドキ。バーンと若き情熱が爆発し、「運命が扉を叩く音」も全力なら、それに対峙するのも全力で、演奏に圧倒され夢中になりました。2台のピアノはどちらもリミッターを振り切り全力で演奏しているにもかかわらず、リズムやテンポの変化は見事にシンクロ。中盤少し穏やかになるところは歌っているようで心に染み入ります。そして最終楽章である第4楽章へ。序奏から始まりドラマチックに表情が目まぐるしく変化していくこの楽章は、リズムとテンポがとりわけ大事。お2人は強弱や速さや間合いに細かい変化をつけながら、メリハリある演奏で聴かせてくださいました。ソロによる演奏でもおそらく難しいのに、デュオでこの一体感!素晴らしいです!聴いている私達はためらわずに音楽の流れに乗ることが出来ました。そしてクライマックスがさらに素晴らしかったです!弦に比べて落ち着いていると私が勝手に思い込んでいたピアノが、これほどまで情熱的にきこえるなんて!私は自席で震えるほど感激していました。今回の演奏を聴いて、ブラームスの「2台のピアノのためのソナタ(Op.34b)」は、たとえ「ピアノ五重奏曲(Op.34)」がなくても2台ピアノの傑作として聴いていきたい作品だと、私はそう思うようになりました。素晴らしい演奏をありがとうございます!


アンコールブラームスの16のワルツから第15番。元々は連弾の曲ですが、ブラームス自身の編曲によるピアノ独奏版(難易度が異なるバージョンが複数あり)と、2台ピアノ版(16曲の中から5つ選んで編曲、調性も変更)が存在します。特に15番は有名ですよね。私はすごく好きな曲ですし、「2台ピアノ版」は録音が少なく聴く機会がまれなこともあって心の中で大喜び。ブラームスのワルツは、彼らしい音の厚みはあっても可憐な感じ。お2人の演奏は、先ほどまでのガッチリ骨太なものとは違い、まるで小さな存在を慈しむかのようなやさしさを感じました。テンポも速すぎたり遅すぎたりせず、心地よかったです。ああブラームスってこんな人なんですよね……!アンコールの演奏を聴きながら、私はしみじみとその良さをかみしめていました。新堀さん、鎌倉さん、アンコールまで素敵な演奏をありがとうございました!


WISTERIAHALL WEBCAST では、アンコールで演奏されたブラームス 16のワルツ Op.39-第15番 変イ長調(2台ピアノ版)を鎌倉亮太さんと新堀聡子さんの演奏で聴けちゃいます!他にもブラームス ハンガリー舞曲集 WoO 1 - 第5番 、J.S.バッハ 主よ、人の望みの喜びよ BWV 147 の動画も公開されています。超おすすめです!

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2021/6/25に聴いた、新堀聡子さんのピアノリサイタルのレビュー記事は以下のリンクからどうぞ。ブラームス最晩年の小品、変奏曲、ソナタ第3番、アンコールに至るまで、私が思う「ザ・ブラームス」な演奏に胸がいっぱいになりました。 

nyaon-c-faf.hatenadiary.com

 

最後までおつきあい頂きありがとうございました。