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骨髄バンクチャリティー 石川祐支&大平由美子 春待ちコンサート(2022/03) レポート

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札響首席チェロ奏者の石川祐支さんと地元札幌でご活躍のピアニスト・大平由美子さんのデュオコンサートが開催されました。北海道骨髄バンク推進協会の主催によるチャリティコンサートで、収益は骨髄バンク患者支援基金等に寄付されるとのことです。


骨髄バンクチャリティー 石川祐支&大平由美子 春待ちコンサート
2022年03月05日(土)19:00~ 札幌コンサートホールKitara小ホール

【演奏】
大平由美子(ピアノ)
石川祐支(チェロ)

【曲目】
エルガー:愛の挨拶
ベートーヴェン:「魔笛」の主題による7つの変奏曲
シューベルト:「楽響の時」より第3曲 ( ピアノ・ソロ)
バッハ:羊は安らかに草を食み ( ペトリ編曲 ピアノ・ソロ)
メンデルスゾーンベネチア舟歌 ( ピアノ・ソロ)
フランク:チェロ・ソナタ イ長調( ヴァイオリン・ソナタ編曲版) より 第1楽章・第2楽章

ドビュッシー亜麻色の髪の乙女 ( ピアノ・ソロ)
ドビュッシー:美しき夕べ
フォーレシチリアーナ
ドヴォルジャーク:母の教え給いし歌
ショパンノクターン第2番 変ホ長調 ( ピアノ・ソロ)
ラフマニノフ:ヴォカリーズ
ラフマニノフ:ここは美しい
カサド:親愛なる言葉

(アンコール)サン=サーンス:白鳥


2019年12月に地下鉄大通駅で開催された駅ピアノのイベント以来、ようやく石川さんと大平さんのデュオに再会できました!その時はまさにコロナ禍に入る直前。いつでも会える感覚でいたのに、結果としてあれから2年以上が経過したのですね。お待ちしていました!そして今回はチャリティイベントへの出演依頼を受けてとのこと。通常のリサイタルでも大勢の人が集まる、人気と実力を兼ね備えたお二人です。しかしどのようなオファーも快諾し、クオリティの高い演奏を聴かせてくださるその姿勢に頭が下がります。また今回のチャリティに関しては、演奏を聴く私達にとっても、自分の楽しみが結果として何らかの支援に繋がるのはありがたいこと。そんな場を提供くださった関係スタッフの皆様にも感謝です。

今回はその趣旨から、お客さん達の中にはクラシック音楽のコンサートになじみがないかたも大勢いらっしゃったと思われます。そんなかたたちを含め、会場の皆様は演奏をとても楽しまれていたようにお見受けしました。演目は有名曲が中心のアットホームな会ではありましたが、いざ演奏が始まると会場の空気は一変。お客さん達は皆、演奏に気持ちが引き込まれていた様子でした。素晴らしいです!まっさらな人に響いてこそ本物ですよね!またトークでは(トークの時はマスク着用されていました)お二人のお人柄の良さがうかがえ、会場は終始和やかな雰囲気でした。

そして以前からのファンである私も心から楽しむことができました。私はこれでも少しは場数を踏んできたため、「何でも大喜び」する時期は既に過ぎています。舞い上がって大事なことを見逃してはいけないと、最近ではむしろ努めて冷静になって演奏と向き合いたいと考えているほど。それなのにいざお二人の実演に触れると、私は頭で理屈が考えられなくなり、ただただ夢中になっていました。冷静でなんかいられない(笑)。それでもとてもとても楽しかったので、素直にもっと聴きたいと思いました。次はできるだけ落ち着いて聴く努力をしますので、お忙しいことと存じますが、今後もぜひ演奏会で再会できますことを心待ちにしています!チャリティでも、もちろん通常のデュオリサイタルでも。


大平由美子さんは白地に若葉が描かれた春らしいドレス姿、石川祐支さんは黒シャツの装い。出演者のお二人が拍手で迎えられ、すぐに演奏開始です。1曲目はエルガー「愛の挨拶」。ちなみに2019年12月の地下鉄駅イベントでも1曲目はこの曲でした。温かみのあるピアノに、甘く優しい音色のチェロ。そうこの感じ!と、私は石川さんと大平さんのデュオに再会できた喜びで胸がいっぱいに。演奏後、お二人がマイクを持ち「ごあいさつの1曲目です」とご挨拶。「エルガーが後に妻となる女性へのプレゼントとして書いた曲」と解説してくださいました。なお、この日配布されたプログラムには曲目解説はなく、曲についてのエピソードはトークの中で楽しく紹介するスタイルでした。

続いて、ベートーヴェン「『魔笛』の主題による7つの変奏曲」。ピアノが主役のときは低音で伴奏していたチェロが主役になった途端に高音になったり、ピアノにピッチカートで合いの手を入れたりと、テンポの良い掛け合いはお二人の息ぴったりでした。カラーが異なる7つの変奏は、いずれも素朴な舞曲のようでもあり、リズミカルでとっても楽しかったです!あとはチェロの小休止のとき、石川さんがピアノのリズムにのって弓や身体を小さく動かしてノリノリだったのが印象に残っています。そのクールなイメージから、ちょっと意外な感じがして新鮮でした。

チェロ石川さんがいったん退場されて、ピアノ大平さんによるソロ演奏に。いずれも独墺の作曲家による有名曲が3曲続きました。はじめは、現在も放送中のラジオ番組『音楽の泉』のテーマ曲と紹介された、シューベルト「楽響の時」より第3曲。切なく哀しげな感じなのに優しさや希望が見える、素敵な演奏でした。また昔のラジオ番組『バロックの森』のオープニングテーマだった、バッハ「羊は安らかに草を食み」は、領主への誕生日プレゼントとして作られた曲だそうです。牧歌的で幸せに満ちた響き!厳格なイメージのバッハはこんな曲も書いていたんですね。そして「なかなか旅行に行けない今、ベネチアの情景を思い浮かべて」と紹介された、メンデルスゾーンベネチア舟歌は、哀しくも美しいピアノが心に沁みました。

いよいよ大曲のフランク「チェロ・ソナタ イ長調( ヴァイオリン・ソナタ編曲版)」より、第1楽章・第2楽章の抜粋演奏です。ドイツ系の重厚さも感じられるフランスの音楽。私はヴァイオリンの演奏でなじんでいました。石川さんの「先生の先生」の説によると、この曲は「フランクは最初はチェロのつもりで書いたけれど、当時弾けるチェリストがいなくて、ヴァイオリン用に書き換えた」(!)とのこと。「作曲当時、誰も弾けなかった曲を、今日は石川さんが演奏します」と大平さん。会場に大きな拍手が起きました。でもこの曲はおそらくピアノだって難しいですよね。第1楽章、繊細に情緒豊かにメロディを奏でるチェロ。その美しさに私は引き込まれ、チェロの感情が最高潮に達したところでは思わず感嘆の溜息が出ました。生演奏は聴いた瞬間に消えてしまうのが惜しい、ずっと覚えていられたらいいのに!また引き継いだピアノ独奏も素敵でした。続く第2楽章は、冒頭の情熱的なピアノからもうドキドキ。満を持して登場したチェロの第1音からドストライクで私のツボに刺さりました!もう絶対に敵いません。ヴァイオリンでは低めの音でやや深刻に演奏されるところが、チェロだとさらに深みが感じられて、やはりこれはチェロのための曲では?と思ったり。ピアノとチェロの掛け合いも素晴らしかったです。そしてクライマックスでは、主役のピアノの下で、チェロがごく小さな低音でゆっくり入って、グラデーションでだんだん音量を上げながら音域を高くしながら加速していき、遂には主役に躍り出る様を目の当たりにしました。もうすごいことすごいこと……。石川さんは涼しい顔で演奏なさっていましたが、弦を抑える手も弓の動きも超高速の超絶技巧。演奏は素人目で見ても絶対に難しいと思われます。何より石川さんのチェロの音色がドハマりしていて超素敵!すごいものを聴かせて頂きました。ありがとうございます!それにしても、全部で4楽章ある曲なのに、今回は前半2つの楽章だけだったのがもったいない。いつか必ず全楽章の演奏を聴かせてください!また他楽器をチェロに置き換えた曲なら、シューベルトアルペジオーネ・ソナタ」をお二人の演奏でぜひ聴いてみたいです。絶対に素敵なはず!


後半の1曲目はピアノ独奏。いきなりホール全体の照明が真っ暗になり(!)、カツカツとヒールの音が聞こえ、ドビュッシー亜麻色の髪の乙女の演奏が始まるとピアノ演奏をする大平さんにスポットライトがあたって、少しずつ会場も明るくなりました。ぽつぽつ語るようなピアノは乙女への優しい眼差しのようで、とっても素敵!演奏後に大平さんが「(照明をこのようにしたのは)一度やってみたかったんです」と茶目っ気たっぷりにお話されて、会場がほっこりしました。他の曲でも照明は色々と工夫されているとのこと。ムードに直結する照明は大事ですよね。わかる!なおドビュッシー亜麻色の髪の乙女」については、どこか懐かしい感じがするのは東洋の音階で作られているからとか、ピアノ曲で有名になっているけど元々は歌曲、といったお話がありました。

次はチェロとピアノでの演奏で、ドビュッシー「美しき夕べ」。この曲も元々は歌曲なのだそう。前半のフランクのソナタの真剣勝負とはまた違った、ゆったりと美しい響きをたっぷりと聴かせてくださいました。いつまでも聴いていたい心地よさ。夕暮れだったのが遂に日が沈んだ(?)かのように、ふっと消え入るようなラストも印象的でした。

フランスものが続きました。フォーレシチリアーナは、管弦楽作品であるフォーレ組曲ペレアスとメリザンド」の中ではハープとフルートで演奏される美しい曲。しかし元々はピアノとチェロの曲だったそうです。ちなみに私は管弦楽の演奏を2021年4月の札響定期で聴いています。なお今回の演奏会チラシには書かれていなかった演目で、取り上げられるのは当日知りました。それでも私は、超有名な「シシリエンヌ」ね、この曲ならよく知ってる!と、演奏前は気楽に構えていました。そして演奏が始まると……ごめんなさい私が甘かったです。神秘的なピアノの序奏に続いて登場したチェロに、私は息を呑み一瞬で気持ちを持って行かれました。うまく言えないのですが、チェロの哀しみを抱えた切ない音色は形容しがたい良さで、容赦なく心の奥底の一番弱いところに響いてきました。また弦楽器なのに、音をのばすところでなぜか木管楽器のような空気の流れが感じられる不思議な響き。ピッチカートはハープのようでもありました。しかしチェロの演奏でこんなに心かき乱されるとは、想定外だったんです。こんな演奏に出会えてうれしいと、大はしゃぎできたらよかったのに、想像を超えた体験に私は茫然自失となって、完全に余裕をなくしてしまいました。

そして次のドヴォルジャーク「母の教え給いし歌」の切なく美しい音楽が始まると、私は参ってしまい、コップの水があふれたように涙がボロボロ止まらなくなって困りました。一生懸命に聴こうとしても、自分のコンディションのせいできちんと聴けていなかったのがとても心残りです。私この曲の演奏を叶うことならもう一度聴き直したい!あとフォーレにはチェロの良い曲がたくさんありますが、お二人に今後再び演奏して頂けるならやはり今回の「シチリアーナ」をお願いしたいです。次は平常心で聴きたいと思います。

ここでピアノ独奏が1曲入りました。ショパンノクターン第2番 変ホ長調。このタイミングでこの曲の演奏を大平さんのピアノで聴けて、本当によかったです。耳なじみのある曲を丁寧な演奏で聴くと、純粋な美しさに心洗われました。私の場合は、ここでもまだ本来の「鑑賞」はできていなかったかもしれません(ごめんなさい!)。しかし心地よいピアノの響きを味わいながら、私は落ち着きを取り戻すことができました。

再びデュオでの演奏へ。ロシア出身の作曲家ということで、現在の戦禍のお話も少しありました。ラフマニノフ「ヴォカリーズ」は、歌詞がない歌曲。ソプラノ歌手に献呈されたそうですが、低音のチェロがよく似合う曲ですよね。切なく朗々と歌い上げるチェロがストレートに心に響いてきました。この曲、確かに歌詞は必要無いかも。ちなみに2020年のStayHome期間中、札響のYouTubeチャンネルにて公開されたチェロアンサンブルの1曲がこの「ヴォカリーズ」でした。私はついあの頃を思い出してしまいましたが、今こうして生演奏を聴けるありがたみをしみじみ実感。今回聴けてよかったです。ありがとうございます。

続くラフマニノフ「ここは美しい」も、元々は歌曲だそうです。演奏前に「自分と神と自然が重なる」と大平さんから解説がありました。ピアノのやさしい響きに、大人の落ち着きで幸せを噛みしめるように歌うチェロがとっても素敵。短い曲でしたが、じんわり心に染み入り、癒やされました。

プログラム最後となる曲はカサド「親愛なる言葉」。カサドはスペインの作曲家で、この曲は尊敬するカザルスのために書かれたそう。こちらの演奏、石川さんのチェロを聴いた女性(男性も?)はもれなく恋に落ちると思います!なにこの胸を焦がす音色は……この日は既に様々な音色を聴かせてくださっているのに、さらに別の切り札を出してくるなんて!一体どれだけ引き出しあるんですかもう訳わかんない(※褒めてます)。スペインの舞曲のような独特のリズム感があり、ピアノの安定した下支えがあった上で、胸を焦がす音色のチェロが歌うのがたまらなく良かったです。そして例えば「愛の挨拶」の女性へ向けた甘さもいいけど、男同士の信頼関係がわかるクールさもすごくイイ!それでいて情熱的かつ愛(親愛)が感じられて、もう訳わかんないほどカッコイイ!スペイン系、イイですよね!私、スペインの曲なら、グラナドス「アンダルーサ」やカザルス「鳥の歌」、あとはファリャの曲も好きです(訳:ぜひお二人による実演で聴きたいです)。いえ詰まるところ演目は何でもいいので、これからもお二人の演奏をもっと聴きたいです!


カーテンコールで出演者のお二人に花束が贈られました。大平さんから、骨髄バンクの活動について簡単なご紹介があり(演奏会の企画・準備や当日の会場スタッフもすべてボランティアなのだそうです)、アンコールの演奏へ。定番のサン=サーンス「白鳥」。水面のようなピアノと優雅に泳ぐ白鳥のようなチェロ……ああ素敵すぎ!この曲はお二人の演奏動画がネット上で公開されていて、私は何度もリピートしていますが、やはり生演奏で聴けるのは格別です!この日の演奏1曲1曲すべてが私にとってスペシャルな体験となりました。

分散退場の後、私はロビーで心ばかりの募金をしてkitaraを後に。あこがれのデュオの実演をたっぷり聴けて、私はとっても幸せな時間を過ごすことができました。本当にありがとうございました!次回開催もぜひお待ちしています!


ロビーで販売されていたCDはこちら。私の愛聴盤です♪ブラームスの2つのチェロソナタと、シューマンドヴォルジャーク。いずれの演奏も必聴です!CD収録曲のすべてをいつかお二人による実演で聴けたらいいなと、私はずっと願っています。

tower.jp


ピアノの大平由美子さんのYouTubeチャンネルでは、たくさんの演奏動画が公開されています。ピアノ独奏やチェロとの共演では今回取り上げられた演目も多数!演奏の素晴らしさはもちろんのこと、演出や編集にも美学が感じられます。要チェックです♪

www.youtube.com

 

チェロの石川祐支さんは、チャリティの演奏活動を行っているピアノ三重奏団「トリオ・ミーナ」にも参加されています。Trio MiinA トリオ・ミーナ第3回公演 小児がんチャリティコンサート(2021/11/23)では、隠れた名曲グラナドスに、斬新なパスカル・ヒメノ(世界初演)と、前半はスペインの作曲家の作品が取り上げられました。また後半は王道のメンデルスゾーン第1番でした。

nyaon-c-faf.hatenadiary.com

 

最後までおつきあい頂きありがとうございました。