自由にしかし楽しく!クラシック音楽

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第14回楽興の時 石川祐支 秋に聴くチェロの調べ(2022/10) レポート

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札幌交響楽団の首席チェロ奏者・石川祐支さんの演奏による、アットホームな演奏会。今回の共演は地元札幌でご活躍のピアニスト・永沼絵里香さんです。なお同プログラム・同日2回公演のうち、私が聴いたのは第1公演です。

私にとっては「お初」の会場・Studio26は、札幌郊外にある古民家を利用した文化施設で、小規模な演奏会や講演会が定期的に開催されています。レトロな館内もお花がきれいなお庭もオーナーの気配りが行き届いた雰囲気もとっても素敵。また、石川祐支&大平由美子デュオのCDのジャケット写真は、この会場で撮影されたものとのことです。


第14回楽興の時 石川祐支 秋に聴くチェロの調べ(第1公演)
2022年10月15日(土)13:30~ Studio26

【演奏】
石川 祐支(チェロ)
永沼 絵里香(ピアノ)

【曲目】
フォーレ:ロマンス op.69
カッチーニアヴェ・マリア
シューマン:幻想小曲集 op.73
ラフマニノフソナタより 第3楽章
カサド:愛の言葉
ポッパー:タランテラ
サン=サーンス:白鳥
バッハ:G線上のアリア


小さな会場にて、少人数で聴くサロンコンサートはとても贅沢!まるで演奏家が自宅に来てくださり、プライベートの演奏を聴いているような、夢のような時間を過ごすことができました。オーナーさんが「あの石川さんが」と仰っていましたが、まさにその通りですよね。kitara大ホールにて堂々たるソロ演奏で2000人を魅了する石川さんが、20人弱の聴衆を前に弾いてくださるなんて!この独り占め感、最高です!演奏自体はもちろん真剣でしたが、お客さん達はくつろいだ様子で演奏を楽しみ、終始和やかな雰囲気だったのも素敵でした。演奏の合間のトークもリラックスモードで、大きなホールでは聞けないようなお話(アンコールの演奏で途中がすっぽり抜けてしまった、とか!)もあって、こちらも新鮮で楽しかったです。また、永沼さんのピアノ伴奏はとても安心して聴くことができました。私は以前、別の会場で永沼さんのピアノ伴奏を聴いた際、コンパクトなアップライトピアノなのに華やかさと重厚感が感じられたのに感激し、今回の石川さんとの共演を楽しみにしていたのです。今回、永沼さんはソロ演奏もトークもなく支える役目に徹しておられましたが、大きなグランドピアノでの安定感ある演奏は、チェロと気持ちまでシンクロして私達のハートにすっと入ってきました。ありがとうございます!なお永沼さんと石川さんは、以前に映画音楽のコンサートでの共演経験があるとのことです。今回の演奏会では、石川さんから永沼さんをご紹介くださったときのお話ぶりと、何より息の合った演奏からお二人の信頼関係がうかがえました。今後もぜひお二人の共演をお待ちしています!

今回は「僕(石川さん)が音楽家ではなかったら、秋に聴きたい曲」をチョイスしたそうです。ちなみに石川さんはプライベートではクラシック音楽を聴かないらしく、それは「自分ならこうするのに」とつい仕事モードになってしまうため、純粋に楽しめないからだとか。そんな石川さんが、仕事抜きで聴きたいクラシック曲の数々!どの演目も作品への愛が感じられる、心に響く素敵な演奏でした。大曲を見事に演奏するのも良いものですが、いつものレパートリーを誠実に心を込めて演奏するのはとても大切で素晴らしいことですよね。また個人的には、「あの石川さんが」意外にもネット動画を参考にしているとのお話を聞き、ちょっと驚きました。現役のチェリストの演奏を良いなと思って今回演目に入れたとか、往年の名チェリストの演奏をとても参考にしたとか。いてもたってもいられず、私は帰宅後にお名前があがったチェリストの演奏動画を探して視聴。それらももちろん素敵な演奏でしたが……ごめんなさい、やっぱり私は石川さんの演奏の方が断然好き!演奏が魅力的なのは、やはり「自分ならこうするのに」があって、他の演奏家の良いところは取り入れつつも、最終的には石川さんオリジナルのものに仕上げているからですよね。

願わくばずっと聴いていたかったのに、楽しい時間はあっという間に過ぎてしまいました。石川さんはオケをはじめ室内楽や後進指導でもご多忙とは存じますが、今回のようなサロンコンサートに定期的に出演くださったらうれしいです。今回のテーマ「秋」だけでなく、冬も春も夏もぜひ!もっと言うと月イチや、可能なら週イチでも大歓迎!痛いファンでごめんなさい!どんな演奏会でも私は大人しくかしこまって拝聴しますので、万一「よく見る顔だな」と私の存在に気付かれてもどうかお気になさらず、これからも素敵な演奏を聴かせてくださいませ。


「こんにちは」とのご挨拶と一緒に、石川さんと永沼さんが会場へ。すぐに演奏開始です。1曲目は、フォーレ「ロマンス op.69」。冒頭のチェロの低い音にぐっと引き込まれ、滑らかに高音域へ移るところでじんわりと気持ちも高揚しました。優雅で可憐なピアノに乗って歌うチェロの音色は、秋の物寂しい心を癒やしてくれる温かさ。時折音階を下降したかと思うと再び上昇する、その変化は穏やかでしたが、感情の波にそっと寄り添ってくれる感じ。先月のリサイタルのアンコールにも演奏された曲。石川さんは、その時と同じ事を言いますが……と前置きした上で、10年前のあるチェリストの演奏会で感銘を受けた曲を、ご自身も演奏したいと願ってきてようやく実現したとお話されました。「(フォーレの作品として)有名な『シチリアーナ』にも負けない、素敵な曲」とも。はい、フォーレのチェロの曲は名曲揃いですよね。フォーレの他の作品の演奏も、今後ぜひ聴かせてください。もちろん『シチリアーナ』も!

カッチーニアヴェ・マリア。一定のリズムでボンボンボン……と音を刻むピアノに、程なく重なったチェロが切なく哀しいのにとても美しくて、またもや心掴まれました。低音域で歌ったときはより哀しく、高音域で歌ったときはより切ない、同じメロディでも異なるニュアンスで聞こえるのが素敵。灯火が静かに消え入ったようにフェードアウトしたラストも印象的でした。心に染み入る美しい曲!素敵な演奏で私達にご紹介くださり、ありがとうございます。

シューマン「幻想小曲集 op.73」。元々はクラリネットのために書かれたもので、チェロでもよく演奏される曲です。石川さんのCDにも収録されています。石川さんはシューマンがお好きだそうで、ピアノトリオ第1番を取り上げる12月のトリオ・ミーナ演奏会をちょこっと宣伝。今回の「幻想小曲集」に関しては「短編小説を読んでいるよう」と仰っていました。第1曲は、美しくゆったりとしたピアノに乗って、落ち着いた甘やかな音色のチェロが、穏やかな流れの中で時折ふっと感情が揺らぐのが素敵。少し快活になる第2曲では、チェロとピアノが交互に音階を駆け上るところが印象的でした。秘めた想いはあっても、まだ落ち着いた感じ。そして大本番の第3曲。情熱的に音階を駆け上るチェロ!最高です!このがっちりした音が高音に振り切れたときに少し儚い感じになるのも、力強いピアノに支えられてやや切なく歌うところも、すべてが素敵!自信に満ちあふれた人が、繊細さを内に秘めている感じにぐっと来ます。堂々たるフィナーレでハッピーエンド。ああ人生バラ色!同じ曲の演奏でも、石川さんのチェロと、他の演奏家のチェロやクラリネットでは、すべて別の物語のように私には思えます。そして、先月のホールでのリサイタルと今回のサロンコンサートでは気持ちの距離感がまったく違う!すぐ目の前でシューマン「幻想小曲集」の石川さんによる演奏が聴けた喜びは格別でした。

ラフマニノフ「チェロ・ソナタ」より 第3楽章。「チェロのオブリガートつきピアノ・ソナタ」とも言えるほどピアノがとても難しい曲、と紹介がありました。なお「チェロもそこそこ難しい」そうです(笑)。またラフマニノフのことも、あの大きな身体が繊細で美しいメロディを生み出す、と仰っていたので、石川さんはきっとラフマニノフもお好きなのでは?ゆったりとした流れで、美しいピアノには奥行きもあり、私はロシアの広大な大地をイメージ。そして歌うチェロの甘く美しい音色が素敵すぎ!音を長くのばすところで、半音上がったり下がったりの微妙な変化に感情の機微が感じられ、ほろっとさせられました。ただ素人目からは、ピアノもチェロも落ち着いて優雅な感じだったので、難易度が高そうとは正直思えませんでした(ごめんなさい!)。しかし、難しいものを聴き手にそうとは感じさせないように演奏するのも演奏家のお力なのだと拝察します。ちなみにトークでは触れられませんでしたが、石川さんはラフマニノフチェロソナタを今年8月に首都圏で開催された2つの演奏会でお弾きになったようです。私も飛んでいきたかった……いつか札幌でも全楽章の演奏をぜひ聴かせてください!

カサド「愛の言葉」。カサドはチェリストで、この作品は信愛するチェリストであるカザルスへ捧げられたもの。「スペインのフラメンコのように情熱的」と、この曲を石川さんはかなり推しておられました。ダンスのステップのようなピアノの序奏から素敵!耳慣れた大平由美子さんの艶やかな感じも好きですが、今回の永沼さんの軽やかな感じも好き!そしてチェロが華やかに登場。来ました胸焦がす音色!聴く度に降参してしまいます。この音をどうやって生み出しているのか、今回じっくり観察してみたのですが、素人目では仕組みがわかりませんでした。魔法かもしれない……。切なく高音をのばすところは思いの丈をすべて吐露したよう。中盤、ピアノが沈黙しチェロがフラメンコのリズムで高音をかき鳴らすのが超カッコイイ!えぐいほどの高音で駆け抜けるクライマックスからラストまで、今回も清々しいほどカッコ良かったです。なお9月のリサイタルのレビューでは、私はこの曲の演奏について「チェロは一番高い音の弦1本で演奏していたかも?」と書きましたが、ごめんなさい間違っていました。この日に拝見した限りでは、主に一番高い音の弦と、時々はすぐ隣の弦も使っていたようです。演奏の様子がよく見えるのは小さな会場のメリットですね!ただ、私はもしかすると食い入るように見ていたかもしれず、視線が刺さって痛い思いをさせてしまったようでしたら申し訳ありません……。

ポッパー「タランテラ」。ポッパーもチェリストで、「ハンガリアンラプソディ」が有名です、と紹介がありました。先ほどのスペイン風とはまた違った、速いテンポの軽快な舞曲。独特なリズムで跳ねるようなところと滑らかなところが交互に来て、かわいらしいピアノの響きとちょっと陽気なチェロの音が楽しかったです。また、中間部でチェロがゆったり歌うところが艶っぽくて、感極まったような重音がとっても素敵!これは絶対に石川さんだけの音色!と思いました。クライマックスはピアノもチェロもどんどん加速していき、目の前で繰り広げられる超絶技巧に耳と目が釘付けに。聴き手としてはとても楽しく聴けた演奏でした!

サン=サーンス「白鳥」。「動物の謝肉祭」の中の1曲で、言わずと知れたチェロの定番曲ですね。キラキラした水面(ピアノ)の上を、ゆったり泳ぐ白鳥(チェロ)は、なんて優雅で美しいこと!一見、同じメロディの繰り返しのようでも、実際は少しずつ変化していて、そのすべての音の表情が素敵!ずっと浸っていたい。おそらく石川さんは目をつぶっても弾けるほど、何度も演奏されてきた曲と思われますが、今回もチェロの魅力たっぷりの演奏で聴かせてくださいました。

最後の演目は、バッハ「G線上のアリア。バッハの「アリア」をヴァイオリニストのウィルヘルミがヴァイオリン用に編曲し、G線のみで演奏することから「G線上の」と呼ばれるようになった、と解説。そして「チェロはG線だけでは弾けません。色々な弦を使います」と石川さんが仰って、会場が和みました。ピアノの優しい響きの上に、そっと重なったチェロの音色は、とても温かで柔らかな肌触り!大きく感情を揺さぶることなく、ただただ美しく崇高な音楽でした。ゆったりとした流れの中で、時折入る控えめなビブラートがほんの少しアクセントに。祈りのような音楽に、心洗われました。ヴァイオリンのG線のみでの演奏もイイけど、チェロの落ち着いた音色による演奏も素敵です!石川さんのチェロならなおさら!

出演者のお二人が拍手で見送られて退場し、オーナーさんからご挨拶と、石川さんのCDの紹介があった後、会はお開きに。休憩なしの1時間ちょっとの会は、最初から最後まで楽しくてあっという間でした。私はこのまま会場に残り、第2公演も聴きたい衝動に駆られましたが、次の予定が控えていたため後ろ髪を引かれる思いで会場を後にしました。夢のような時間をありがとうございました。Studio26、こちらの素敵な場所に私は今後もうかがいます!


石川祐支&大平由美子デュオ・リサイタル」(2022/09/24)。地元で愛されるデュオ、結成10年の節目は独仏プログラム。フランクのソナタは、酸いも甘いもかみ分けた人の人生ドラマのようでした。CD化を切に希望します!

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第44回もいわ山麓コンサート 櫨本朱音&永沼絵里香 ヴィオラ・ピアノデュオコンサート」(2022/06/11)。札響にすごい若手ヴィオラ奏者がいらっしゃいました!愛と情熱のブラームス、超絶技巧のヒンデミット、超カッコ良いピアソラ。華やかで重厚感あるピアノも素晴らしかったです。

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最後までおつきあい頂きありがとうございました。