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R弦楽四重奏団 Vol.1 (2023/11) レポート

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札響メンバーと札響に縁あるメンバーで結成された、R弦楽四重奏団の初回公演が奥井理ギャラリーにて開催されました。チーム名の由来は、メンバーのお名前にすべて“R”が入っているからなのだそう。実力・キャリアともに十二分に兼ね備えたメンバーによるカルテットの旗揚げ公演ということで、札幌市民の期待は大きく、小さな会場にはぎっしりとイスが並べられ、多くのお客さん達が集まっていました。


R弦楽四重奏団 Vol.1
2023年11月18日(月)15:00~ 奥井理ギャラリー

【演奏】
飯村 真理(1stヴァイオリン) ※札幌交響楽団副首席ヴァイオリン奏者
坪田 規子(2ndヴァイオリン) ※元 新日本フィルハーモニー交響楽団ヴァイオリン奏者
廣狩 亮(ヴィオラ) ※札幌交響楽団首席ヴィオラ奏者
廣狩 理栄(チェロ) ※札幌交響楽団チェロ奏者

【曲目】
J.ハイドン弦楽四重奏曲 No.71 op.33-2 「冗談」
D.ショスタコーヴィチ弦楽四重奏曲 No.8 op.110
J.ブラームス弦楽四重奏曲 No.1 op.51-1

(アンコール)J.ハイドン弦楽四重奏曲第39番 op.33-3 「鳥」より 第4楽章


演奏家との距離が物理的にも心理的にも近いギャラリーにて、信頼のメンバーによる充実の演奏を肌で感じられる贅沢!お堅いイメージだった弦楽四重奏を身近に感じ、自然体で楽しめた幸せな時間でした。三者三様のカラーが異なる作品を取り上げたプログラムの良さはもちろんのこと、それぞれの作品の個性を際立たせる演奏で聴き手を魅了したチームのお力が素晴らしいです!まず、作曲家のサービス精神あふれる楽しい音楽に癒やされたハイドンでは、魅力的な1stヴァイオリンとそれを支える他の弦とのチームワークの良さが素敵!遊び心いっぱいの第4楽章での掛け合いの楽しさからは、メンバーの信頼関係がうかがえました。また、「癒やし」とは真逆の得体の知れなさやおそろしさに圧倒されたショスタコーヴィチは、気迫と緊迫感がすごい!一瞬の隙が命取りになりそうなこの作品で、4名の奏者の皆様は驚異の集中力にてピンと張り詰めた空気を作り、その堅牢な土台があった上で思い切り「狂気」を表現していたと感じました。そして、一見地味なブラームス弦楽四重奏曲を、今回とても面白く聴けたのが私にとって大収穫でした。交響曲にも引けを取らないガッツリ作り込まれた曲の、誠実で精力的な演奏は、個人的な作曲家への思い入れを差し引いても十分すぎるほどの聴き応え!その充実の演奏を通じ、シンプルな喜怒哀楽では言い表せないブラームスの複雑な内面がうかがえて、重厚で生真面目な中にもブラームスらしい情熱や愛、歌心があふれていると私は感じました。これこそ作曲家渾身の「第1番」!噛めば噛むほど味が出る、これは一生付き合っていきたい!とまで思えるように。弦楽四重奏は奥が深い世界ではありますが、今回感じるままに聴いても夢中になれたのは、ひとえにR弦楽四重奏団の皆様のおかげです。ありがとうございます!第2回以降の公演も楽しみにしています。


出演者の皆様が舞台へ。女性奏者の皆様のドレスはいずれも濃い青色、ヴィオラの廣狩亮さんは黒シャツの上に前身頃が濃い青色のベストを着用されていました。4名でリンクコーデの衣装、素敵です♪はじめは、J.ハイドン弦楽四重奏曲 No.71 op.33-2 「冗談」。第1楽章 他の弦が刻む(ン)タッタッタ♪のリズムに乗って、少し低めの音程で品よく歌う1stヴァイオリンがなんて素敵なこと!早速心掴まれました。1stヴァイオリンによる高速演奏が何度も登場し、私はその時々によって鳥のさえずりや春の突風をイメージ。優雅で明るい春のような音楽が心地良かったです。少し不穏なところがあったり強弱の波があったりと、変化が多い演奏は聴き手をずっと楽しませてくれました。第2楽章 ここでもはじめの1stヴァイオリンに心掴まれました!1stヴァイオリンに対し、他の弦がリズムを取ったり重なったりして下支え。一緒にダンスしているようで、明るいメロディとリズム感が楽しかったです。スキップから優雅なターンに変化し、1stヴァイオリンのフレーズ最後にキュン♪とあがる音の愛らしさに、私はもうメロメロになりました。第3楽章 冒頭はヴィオラとチェロのゆったりとした歌からで、今までとの違いにちょっと意表を突かれました。ゆったり穏やかな流れの中で、時折全員の強奏でアクセントが入るのに驚かされ、明るさの下に様々な感情を秘めているかのよう。ピアニッシモでフェードアウトするラストの温かさが素敵でした。第4楽章 想像以上に面白かったです!明るく軽快な音楽が楽しい……と、のんきに構えていると、ちょこちょこ休符で止まるようになって「おや?」となりました。この止まる時の絶妙な間合いと、メンバーのにこやかな表情がとても良かったです。もう一度最初のメロディが登場して、繰り返しかな?と思いきや、次は無かったのでようやく曲が終わったことがわかりました。会場は和み、仕掛けは大成功ですね♪明るく楽しい音楽に癒されました。

2曲目は、D.ショスタコーヴィチ弦楽四重奏曲 No.8 op.110」。すべての楽章が続けて演奏されました。第1楽章 はじめチェロ→ヴィオラ→2ndヴァイオリン→1stヴァイオリンの順に楽器が増えていき、弱音を重ねていくことで少しずつ浮かび上がってくる音楽に私は何やら得体の知れなさを感じ、ぞわっとしました。他の弦が低音を長くのばしている上を、1stヴァイオリンが少し掠れた音でゆっくり進むのには、先が見えない中をひとり彷徨っているよう。ゆっくりでも空気は研ぎ澄まされていて、主役がいつの間にか他のパートに移ったり、足並み揃えて強弱の波を作ったりと、一瞬たりとも隙のない緻密なアンサンブルに引き込まれました。第2楽章 突然速く激しくなったのに驚愕!1stヴァイオリンが超高音で駆け抜けていくのを他の弦がリズミカルに強奏で合いの手を入れたり、2つのヴァイオリンが速いテンポでダンスしているようだったり、ヴァイオリンが沈黙しヴィオラが駆け抜けたりと、次々と展開する流れは怒濤の勢い!次第に狂気を感じる歌とリズムになっていき、熱狂的な盛り上がりがすさまじかったです。ものすごい気迫と緊迫感に圧倒されっぱなしでした!第3楽章 はじめの1stヴァイオリン独奏は悲痛な叫びのようでガツンときました。中低弦の(ン)タッタ♪のリズム、2ndヴァイオリンのトレモロに乗ってのダンスは、それこそ骸骨の踊りのような恐ろしさ!ヴィオラと1stヴァイオリンの掛け合いの緊張感は半端なかったです。2つのヴァイオリンのざわざわした音に乗って、チェロが高音域で彷徨うように歌うのは、魂が連れていかれそうな不思議な感覚に。楽章の終わりには再び1stヴァイオリン独奏になり、今度は命の火が消えていくように低音で弱い音になっていくのがまた不気味でした。第4楽章 1stヴァイオリンが低音をぐーっと長くのばして、他の弦が時折ガッガッガと強奏する度にドキっとしました。1stヴァイオリン以外の弦がユニゾンでぐっと暗く重く歌うのが、個人的にはもう怖くて怖くて。この世ではない場所に来たかのようでした。極め付けは、チェロが超高音域で天国的に美しく歌ったところです。きっとここだけ取り出したら「きれい」とシンプルに思えたのかもしれませんが、他の弦によるぐーっと長くのばす暗い低音の上で歌うのは、奇妙な感じ(もちろん狙ってのことと存じます)で背筋が凍りました。第5楽章 ぐっと遅い流れの中で、各パートが順番に囁くように奏でる子守唄のようなメロディ。癒やしではなく、その得体の知れなさが強く印象に残っています。そして曲の締めくくりに向かう流れが圧巻でした。少しずつ音を小さくしながら消えゆくラストは、すべての終わりのようにも感じられ、自分も無になってしまった感覚に。今自分がどこにいるのかあやふやになるほど、演奏が作り出す世界に引き込まれ、のめり込んだ時間でした。今の私がきちんと受け止められたかどうかはわかりませんが、大変衝撃的な、忘れられない体験となりました。


後半は、J.ブラームス弦楽四重奏曲 No.1 op.51-1」。第1楽章 そっと始まる冒頭から次第に大きくなっていく深刻さ厳しさにドキドキ。頂点に達した後、ヴィオラが音を長くのばす余韻は鮮烈な印象で、私は思わず背筋が伸びました。最初の1stヴァイオリンのメロディを中低弦がぐっと重厚に演奏。痺れる!暗く深刻なところから、希望の光が見える明るいところへ。この堂々とした歌い方、すごく素敵でした!しかし一方で疾走感ある音の刻みはずっと続いていて、私は複雑な内面を垣間見たような気持ちに。1stヴァイオリンが高音で力強く弾く盛り上がりは、すごくカッコいいのに胃がキリキリしました。この悲鳴にも似た1stヴァイオリンに、終盤ではチェロが寄り添い、全員で並走しながら少し希望が見えるラストに向かうのが素敵!ラストの長くのばす音の余韻で、私はようやくほっと一息つけた気がします。それほどに引き込まれた、緊迫感に手に汗握る演奏でした。第2楽章 はじめのゆったりロマンティックに歌うところの優しさ美しさに聴き入りました。1stヴァイオリンだけでなく時々チェロも主役になる、これもブラームスらしさ!ふと寂しげに変化するところでの、ためらいがちに1歩ずつ歩みを進めるように休符が入る間合いが良かったです。締めくくりでの2つのヴァイオリンによるピッチカートが可愛らしい!第3楽章 ミステリアスな音楽は、チェロのリズムが心臓の鼓動のようで印象深かったです。全員で重厚に音階を駆け上ってから明るいところへ。ここでのヴィオラ(後から2ndヴァイオリンに)と1stヴァイオリンの親密な会話がとても素敵でした!中盤の温かな雰囲気のところでは、他の弦が順番にピッチカートをしていく中で、2ndヴァイオリンがずっと細かく弓を動かしてベースを作っていたのも印象に残っています。第4楽章 最初の強奏がガツンと来ました!情熱的な流れの中で、細かく入る休符がバシッと揃うのが気持ちイイ。肩で息をしているようにも再度力を込め直しているようにも感じられ、休符の後には切れ味鋭い音が登場し、私はその都度ガツンとやられていました。クライマックスではスピードを増し、曲のはじめに登場したメロディがほんの少し登場して、堂々たる締めくくり。シンプルな言葉では形容できない複雑な内面がうかがえる、充実した演奏に夢中になれました!

カーテンコールの後、チェロの廣狩理栄さんからごあいさつがあり、アンコールの曲目を紹介くださいました(J.ハイドンの「ロシア四重奏曲」の1つ、とのことです)。アンコールは、J.ハイドン弦楽四重奏曲第39番 op.33-3 「鳥」より 第4楽章。鳥がさえずるように歌う1stヴァイオリンが愛らしく、軽快なリズムが楽しい音楽。曲の締めくくりは、ふわっとした終わり方だったのが印象的でした。プログラム最初の「冗談」と似ているかも!会場は和み、出演者の皆様に温かな拍手を送り、会はお開きとなりました。弦楽四重奏の良さを十二分に堪能できた、素敵な時間をありがとうございます!第2回公演も楽しみにしています!


ショスタコーヴィチに衝撃を受けたのはこちら。「Trio MiinA トリオ・ミーナ第5回公演 小児がんチャリティコンサート」(2023/09/22)。彩り豊かな新作初演、凄まじさに打ちのめされたショスタコーヴィチ、お初のピアノカルテットによるシューマンの充実ぶり!今回もうれしい驚きの連続で、最初から最後までとても楽しかったです!

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第135回OKUI MIGAKUギャラリーコンサート 下川朗コントラバスリサイタル」(2023/11/05)。歌心の良さにキレッキレのリズム感、超絶技巧!アルペジョーネソナタコントラバスのための作品たちの演奏はうれしい驚きの連続で、下川さんによる「主役としてのコントラバス」に魅了された、あっという間の2時間でした!

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歌い、踊り、想うコントラバス」(2023/11/08)。東京音楽コンクール2023弦楽部門にて第1位となった水野斗希さんとピアノの鵜飼真帆さんの演奏会。歌心とリズム感、「想い」を音に映し出せる表現力!無条件に聴き手を惹きつける音楽に夢中になりました。

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最後までおつきあい頂きありがとうございました。