北洋銀行が主催する無料招待のコンサート。今回は美唄市にて札響メンバーによる弦楽アンサンブルです。抽選で招待される札幌とは異なり、会場や銀行の支店で事前に頂ける入場券があれば入れるシステム。私は「札響メンバーによる弦楽アンサンブル」をどうしても聴きたくて、厚かましくも開催直前にホールに問い合わせ、入場券を一枚取り置き頂きました。快く対応くださいましたスタッフのかたのご厚意に感謝いたします。
第26回北洋銀行presentsクラシックコンサート 札響メンバーによる弦楽アンサンブル
2023年07月09日(日)14:00~ 美唄市民会館
【出演】
札幌交響楽団メンバー(編成は弦のみで4-3-2-2-1)
1stヴァイオリン:桐原 宗生(コンサートマスター)、飯村 真理、赤間 さゆら、高木 優樹
2ndヴァイオリン:土井 奏、佐藤 郁子、中村 菜見子
ヴィオラ:鈴木 勇人、櫨本 朱音
チェロ:石川 祐支、武田 芽衣
コントラバス:下川 朗
【曲目】
≪弦楽アンサンブル≫
チャイコフスキー:弦楽セレナーデより“ワルツ”
アンダーソン:プリンク・プランク・プルンク
ハイドリッヒ:ハッピーバースデー変奏曲
ヘンデル:「水上の音楽」より“アラ・ホーンパイプ”
ガーシュウィン:サマータイム
早川正昭:バロック風日本の四季「夏」
(アンコール)久石譲:Summer
休憩なし、一時間強の演奏会。札幌でもなかなか出会えない、内容も演奏自体も超充実した、すごい弦楽アンサンブルでした!プチ遠征して本当によかった!改めまして、無料招待ありがとうございます。演目は何であっても札響の弦の響きは素敵で、それをたっぷり堪能できるだけでも幸せなのですが、もとより魅力は音色だけではありません。とにかくアンサンブルがイイ!素人目には無理しているようなところや綻びは全く感じさせず、この大所帯を指揮者なしで合わせて、かつ生き生きとした演奏。私は慣れ親しんでいたはずの札響の弦にホレボレし、もっともっと好きになりました!このクオリティの高さ、地元の方々にもきっと喜ばれたことと思います。また今回は短めの聴きやすい定番曲や有名曲のみならず、ちょっと攻めた演目もあったのが個人的にはうれしかったです。バロック風日本の四季は、「バロック風」も「日本の唱歌」も同時に楽しめる曲。こんなに良い曲が(私を含めてですが)一般に知られていないのは不思議!と率直に感じたほどでした。そしてハッピーバースデー変奏曲の充実ぶりが半端なかったです!様々なジャンルや作曲家風の変奏が13種類。ウィンナ・ワルツやハンガリー風の音楽はオケのレパートリーにも多いためお得意なのはわかりますが、加えて大勢の作曲家たちの室内楽作品(主に弦楽四重奏曲)がベースのところも各作曲家の個性が光る魅力的な演奏なのが素晴らしい!私は夢中になって聴き入りました。弦奏者の皆様は、代表的な室内楽作品の数々も当たり前にマスターされているのかも?さすがです!私はやや踏み込んだ聴き方をしてしまったかもしれませんが、たとえ作曲家と作品のことを知らない人であっても、短いスパンでカラーが変化していく音楽は大いに楽しめたと思います。それに「ハッピーバースデートゥーユー♪」は何回言われてもうれしくなっちゃうはず!
今回は桐原さんがコンマスにトークにと大活躍で、全体を引っ張ってくださいました。オケでは2ndヴァイオリンの首席のため、普段あまり聴けないソロ演奏を今回はたっぷり聴けたのがうれしい!またトークがとても上手くて、会場の気持ちを引きつけながら多岐にわたるお話をしてくださいました。なお演奏とは直接関係しないことかもしれませんが、私がさすがだなと感じたのは、1曲目の後のトークで「空調」に触れたことです。昔ながらの市民会館で、私は1曲目を聴きながら「水がチョロチョロ流れるような音」や「重たい扇風機がゴーと回る音」が耳に入ってくるのが正直気になって仕方がありませんでした。目立つ音だったので、気になったお客さんは他にもいた事と思います。桐原さんは、そんな空調の音についてはネガティブな言葉にすることなく、「雪を活用した冷房システム」を紹介し、主催者である北洋銀行の理念「SDGs」と絡めてさらっとお話くださいました。なんてスマート!おかげで私は2曲目以降は空調の音がまったく気にならなくなりました。桐原さんはきっとこんな感じで良い雰囲気を作り、今回のチームを準備段階から率いてくださったのだと拝察します。素晴らしいチームによるクオリティ高いアンサンブル、最高です!弦楽アンサンブル「桐原組」の再結成&再演を札幌でもぜひ♪
出演メンバーの皆様が舞台へ。全員が黒い装いで、男性奏者は長袖黒シャツで統一。コントラバス以外は椅子に着席しての演奏でした。1曲目はチャイコフスキー「弦楽セレナーデより“ワルツ”」。ズンチャッチャのリズムによる品の良い音楽。ヴァイオリンのみで演奏するところの美しさ!淑女の登場です♪また低弦メインで演奏するところもカッコ良く、こちらは紳士の登場ですね。ペアとなって踊るリズムが心地よく、ラストのピッチカートがかわいらしい。演奏機会が多く、私は札幌でも札響の弦で何度か聴いている曲ですが、何度聴いてもイイですね!ごあいさつの1曲目で、札響の弦の良さを再確認しました。
ここで桐原さんからごあいさつとトーク。以降も曲の合間に桐原さんのトークが入りました。「札響が美唄に来たのは5年ぶり。5年に1回は、オリンピックより貴重です」と仰って会場の笑いを取り、掴みはOK!オケの皆様は会場に入るとはじめに空調を確認する、というお話から。今回の会場は冬の雪による冷房システムを採用していることに「SDGsですね」と、プログラムの裏表紙にあった北洋銀行の理念とも絡めてお話されました(さすがです♪)。今回のプログラムは「前半は『(クラシック音楽のお勉強的な?)弦楽合奏』、後半は『夏』がテーマ」だそう。パンフレットに記載があったスークの弦楽セレナーデを今回演奏しない事のお詫びもありました。
また今回は弦楽アンサンブルということで、弦楽器の演奏方法について「馬の尻尾の毛を張った弓で、松ヤニを塗った4本(コントラバスは5本の場合も)の弦を擦る」と解説。各パートの紹介では、1stヴァイオリンはさらっと「主にメロディを担当」。2ndヴァイオリンは、桐原さんがマイクを向けた土井さんから「和声やメロディの補強」と紹介。桐原さんは「僕は普段は2ndヴァイオリンを担当しています」とニコニコでした。ヴィオラはヴァイオリンとの大きさ比較をした後、「ヴァイオリンより弦が長くなる分、低い音が出ます」。加えて古典的な「ヴィオラ・ジョーク」の数々を紹介。なかなか辛辣な内容でしたが、ちゃんとフォローもありました(笑)。チェロは、エンドピンがあることと、「弦楽器の中では一番音域が広い」。実際に一番低い音と一番高い音を発して聴かせてくださいました。最後に紹介されたコントラバスは、一番低い音を発して重低音の迫力を披露。またコントラバスは和名が面白く、「妖怪提琴」(!)と呼ばれるとのお話も。ちなみにヴァイオリンは「小提琴」、ヴィオラは「中提琴」、チェロは「大提琴」だそうです。
2曲目は、アンダーソン「プリンク・プランク・プルンク」。曲名は「チン・トン・シャン」くらいの意味合いだそう。(弦を擦る)オーソドックスな演奏とは異なる、全部ピッチカートによる演奏は、弦楽器の紹介にもぴったりな選曲です!軽快にウキウキと跳ねるようなピッチカートの音が楽しく、リズム感がイイ!時折、ムチのようなパン!という強い音や、キュン!と弦を手で擦ることで発する音などが登場し、良いアクセントになっていました。奏者の皆様の手は痛手を負う(?)演奏かもしれませんが、聴いている方はずっと聴いていたい(!)楽しい音楽でした。
ハイドリッヒ「ハッピーバースデー変奏曲」。おなじみ「ハッピーバースデー」のメロディを様々な作曲家風にアレンジしていくスタイルの作品。なんと登場する作曲家(全員ですよ全員!!)の解説と、引用された作品(バッハとブラームス以外。この2人の分は言い忘れ?)の紹介を都度挟みながらの演奏でした。準備もトークそのものも大変だったことと存じます。ありがとうございます!おかげで作曲家とその作品をよく知らない人であっても、置いてけぼりにはならずに済んだはず。以下、作曲家の解説は割愛(充実した内容でご紹介したいのは山々ですが分量が多いので……申し訳ありません!)してレビューします。なお帰宅後に調べたところ、本来はドヴォルザークの後にレーガーが入るようですが、今回の演奏では省略されていました。「主題」は「ハッピーバースデー」のメロディを上品に素敵に演奏。トゥーユー♪の後にぐっと低い音が入るのが印象的でした。「バッハ」は引用された作品はわかりませんが、コラール風の厳かな音楽はいかにもバッハ!音の揺らぎはオルガンのようにも感じました。「ハイドン」はドイツ国歌にも採用されている弦楽四重奏曲「皇帝」。ゆったりとハッピーバースデーを歌った後の、タッタタッタタッタタッタター♪と軽快なところが楽しかったです。「モーツァルト」は弦楽四重奏曲「不協和音」。タタタータ♪を高音と低音でこだまし合い、最後のぐっと低い音のチェロ&コントラバスが印象的でした。心地よい響きで、私には「不協和音」の要素がわからず(苦笑)。「ベートーヴェン」は弦楽四重奏曲「ラズモフスキー」。はじめ各パートのトップによる弦楽四重奏から入り、人数が増えるとぐっと重厚な響きに!交響曲みたい!深刻な音楽だったのが最後になってハッピーバースデートゥーユー♪といきなり歌い、なんとかミッションクリア!?「シューマン」は弦楽四重奏曲第3番。こちらもはじめは弦楽四重奏からでした。悲しみから幸せへぱっと変化するのがシューマンだなと感じ、ラストのトゥーユー♪を何度も繰り返しながらフェードアウトするのは、まるで今この瞬間を慈しむよう。「ブラームス」は曲名紹介ナシでしたが、引用された作品は「弦楽六重奏曲第1番 Op.18」で、メロディは第1楽章の最初に出てくるテーマだと思います(勘違いでしたら申し訳ありません)。ゆったりとハッピーバースデートゥーユー♪と歌い、ディア♪のあたりで揺らぐのがいかにもブラームス!そしてやはり私はブラームスの低弦が好きすぎます!「ワーグナー」は「ジーグフリード牧歌」。ゆったりと優しい響きは、勇ましく壮大な楽劇の音楽とは違うものの、これも紛れもなくワーグナー!しかし弦の音の刻みは壮大な世界の広がりを思わせるものでした。ラストの低い音で歌うチェロが素敵!「ドヴォルザーク」は弦楽四重奏曲「アメリカ」。はじめのうねうねしたところでのヴィオラの音色がとっても素敵でした!機関車が加速していくような流れがイイ!以降の5つの変奏は特定の作曲家に限らないもので、途中解説を挟まず続けて演奏されました。「ウィーン風」はズンチャッチャのリズムが楽しく、メロディの最後の伸ばし方や締めくくり方がウィンナ・ワルツ「らしい」!「映画音楽風」はゆったりとした全員合奏から弦楽四重奏に。ロマンティックで、まるで恋に落ちた瞬間のよう!「ジャズ(ラグタイム)」はウキウキするリズムに、締めくくりのチャンチャン♪が面白かったです。「タンゴ」は独特のリズムでヴァイオリンが高音でシャープに歌うのと、支える低弦の重低音が超素敵!「ハンガリー(ロマ)風」は、コンマス以外のメンバーによるトレモロにゾクゾクして、ほどなくコンマスソロが登場!サラサーテのツィゴイネルワイゼンに似た、超絶技巧と音階駆け上りが超カッコイイ!ハンガリー舞曲のような哀愁感じる音楽が、よくよく聴くとハッピーバースデーという不思議な感じでした。様々な作曲家やジャンルを贅沢に楽しめて、最初から最後まで聴きどころしかない音楽。めちゃくちゃ面白かったです!聴けて本当によかった!
ヘンデル「『水上の音楽』より“アラ・ホーンパイプ”」。ヘンデルは同時代のバッハとは真逆の、派手な音楽を得意とする作曲家。(ドイツ生まれでも)イギリスで活躍した人で、「水上の音楽」は国王ジョージ一世のために書いた船上で演奏する曲、といったお話がありました。私はこちらを札響(全パート揃ったフル・オーケストラ)の演奏で聴いたことがあり、トランペットとホルンの掛け合いがキモの“アラ・ホーンパイプ”を弦のみでどのように表現するの???と、始まる前から興味津々。演奏は、はじめの全員合奏のユニゾンの華やかさに気分が晴れやかになりました。そしてトランペットとホルンの掛け合いはヴァイオリンと中低弦の掛け合いになっていて、音色が伸びやかで涼しげで素敵!これは大いにアリな美しさ!弦のみで作る水上の広がりを感じさせる音楽。良いものを聴かせて頂きました!
ガーシュウィン「サマータイム」。(先ほどのヘンデルが涼しさと明るさだったのに対し)うだるような暑さと、悲しみの曲とのこと。ガーシュインはクラシックとジャズを融合させた作曲家で、「サマータイム」はオペラ「ポーギーとベス」に出てくるアリア。子守歌でも「貧しさからくる願望」を歌っていて、第一幕と第三幕では同じアリアでもまったく意味が異なる、とオペラの内容に合わせた解説がありました。中低弦によるけだるい感じな序奏から、私は夏の夜をイメージ。メインで歌ったコンマスソロが超カッコイイ!サマータイム♪と高音で切なく歌うところはもちろん、独り言のような少しくぐもった低音にぐっと来ました。リズムも音色も独特で、王道クラシックではなかなか出会えないジャジーな音楽。とっても素敵でした!
プログラム最後の演目は、早川正昭「バロック風日本の四季『夏』」。ヴィヴァルディの「四季」をオマージュした作品だそう。何も知らずに聴いた人はバロック期の音楽と思うかも?と仰っていました。また「我は海の子」「雨」「海」の3つのメロディが、それぞれ3つの楽章に出てくるとのことです。第1楽章 ヴァイオリンのメロディが「我は海の子」とわかり、また低音のベースにバロックらしさを感じて、私はうれしくなりました。後半は2ndヴァイオリンから始まった各パートの追いかけっこ(カノン?)があったのも面白かったです。第2楽章 コンマスソロが「♪雨が降ります 雨が降る」を哀しく歌うのがすごく素敵!先ほどのガーシュインの子守歌とはまた違った個性の、日本的な歌と歌い方がとても心に染み入りました。第3楽章 「♪松原遠く消ゆるところ」を舞曲のリズムで軽やかに演奏。コンマス・2ndヴァイオリン首席・チェロ首席による三重奏と全員合奏が交互に登場しました。この組み合わせの三重奏は珍しいのと、チェロによるベースがバロック風と感じられ何とも素敵で、私は熱心に聴き入りました。全員合奏での、ヴァイオリンが喜びに満ちた歌い方をしたのと、対する中低弦がきっちりお作法に則った支え方(対位法?)をしていたのもツボ!私にとって初聴きだった「バロック風日本の四季」。音楽自体の素敵さに加えて作りの面白さもあり、とても楽しく聴くことが出来ました。他の春・秋・冬も聴いてみたいです!そして「四季」といえばヴィヴァルディかピアソラが定番ですが、こちらの早川正昭の演奏機会ももっと増えて欲しいと思います。
カーテンコールの後、桐原さんは会場の壁にある時計を見て「時間が過ぎてしまいましたが」と、終了予定時刻を越えたことを気遣ってくださいました。しかし用意されていたアンコール曲を最後に演奏。ありがとうございます!アンコールは、久石譲「Summer」。映画「菊次郎の夏」(監督・北野武)のメインテーマとして有名な曲ですね。はじめは中低弦によるピッチカートから。続いてヴァイオリンもピッチカートで加わり、どこか懐かしい雰囲気。弦を擦る演奏になってからは世界が広がり、スクリーンに映し出される情景が浮かぶようでした。バロック風に続いて、アンコールではまた異なるカラーの「日本の夏」。最後の最後まで選曲が素晴らしい!演奏自体が素晴らしいのは言うまでもありません。願わくばもっともっと聴いていたかったほど、あっという間の一時間強。最高に素敵な時間をありがとうございました!これからも「札響メンバーによる弦楽アンサンブル」を何度でもぜひ聴かせてくださいませ。
私はこの日の5日前にも企業主催による無料招待コンサートを聴きました。「第539回ほくでんファミリーコンサート」(2023/07/04)。エリアス・グランディさん指揮による超充実した演奏会はもはや定期!オーボエ大活躍のクープランの墓、超絶カッコイイ独奏とオケが幸せに協演したトランペット協奏曲、生命力あふれるベト2。隠れた名曲達の熱奏に夢中になれました!
ヴィヴァルディ「四季」の「夏」が聴けた公演はこちら。この時のヴァイオリン独奏は札響コンマスの田島高宏さんでした。「Kitaraあ・ら・かると きがるにオーケストラ」(2023/05/03)。夜の女王のアリアやオルガン付き、高校生との共演やタイプライター、ヴィヴァルディ「夏」など、バラエティ豊かな音楽を親子で超満喫しました!
最後までおつきあい頂きありがとうございました。