名ヴァイオリニストで名指揮者のドミトリー・シトコヴェツキーさんと札響との初共演が、コロナ禍での公演中止(2020年10月)を経て、今回ついに実現しました!シトコヴェツキーさん編曲による弦楽合奏版のバッハ「ゴルトベルク変奏曲」は札響初演。またシーズンテーマ「水」にちなんだ音楽として、チャイコフスキーの「白鳥の湖」組曲が取り上げられました。
今回の「オンラインプレトーク」は、札響のヴァイオリン奏者・土井奏さん、ヴィオラ副首席奏者・青木晃一さん、チェロ副首席奏者・猿渡輔さんがご出演。シトコヴェツキーさん編曲による弦楽三重奏版のゴルトベルク変奏曲を演奏してきたことやシトコヴェツキーさんに会いに行った(!)お話、プレーヤー視点からの聴きどころなど、今回のメンバーならではのトークは必聴です!
札幌交響楽団 第646回定期演奏会(土曜夜公演)
2022年6月25日(土)17:00~ 札幌コンサートホールKitara 大ホール
【指揮・ヴァイオリン】
ドミトリー・シトコヴェツキー
【曲目】
J.S.バッハ(シトコヴェツキー編):ゴルトベルク変奏曲(弦楽合奏版)
チャイコフスキー:「白鳥の湖」組曲
弦楽合奏版のゴルトベルク変奏曲、この日の演奏に出会えた私は幸せです!レベル高そうと敬遠していた曲に夢中になれたのは、まさに編曲と演奏によるマジック!私は予習で少しかじったピアノ版をとっつきにくいと感じてしまったのですが、編曲によって各パートが際立ったためか、今回の弦楽合奏版の演奏はすんなり受け入れることができました。不眠症の伯爵を楽しませるために作曲されたとの逸話があるこの曲は、きちんと計算されているにもかかわらず堅苦しさは感じられず、むしろ心地よい誰でもウェルカムな音楽と思えたほどです。また、感情表現でも物語を描くのでもない純粋な音楽だからこそ、いたずらに心をかき乱されずにそのままの形で味わえる良さもありました。加えて、緻密な演奏によって音楽の構成が浮き彫りになったおかげで、音楽の構成自体に後の時代の作曲家にも通じるものがあると感じられ、バッハの偉大さを再認識。流行廃りとは無縁のクラシック(古典)とは、まさにこのような作品なのですよね。今回の出会いに大感謝です!私は、今回の弦楽合奏版のみならず、同じくシトコヴェツキーさん編曲の弦楽三重奏版も聴いてみたいですし、慣れてきたら原曲にも再チャレンジしたいです。
世界的な芸術家のシトコヴェツキーさんが自身の編曲作品を弾き振り、加えて会場はkitara大ホール!最高の条件が揃っている中で、音楽に命を与えたのはやはり札響メンバーお一人お一人のお力によるもの。本来はチェンバロ独奏の曲を、複数の奏者による合奏、しかも弾き振りの指揮に合わせるのは素人考えでも相当難しそうです。また派手さや物語でごまかせない上に、計算通りきっちり演奏しないとバランスが崩れてしまうため、高度な演奏スキルが必要と思われます。しかし札響の弦奏者の皆様はさすがの安定感で、初演かつ1時間超の大曲を見事に演奏してくださいました。そしてシトコヴェツキーさんの独奏ヴァイオリンに引けを取らない、首席の皆様のソロ演奏がとにかく良かったです。お一人お一人がすごいプレーヤー揃いの札響を代表しての独奏は、誰もが納得する貫禄!そんな札響の弦メンバーが緻密に音を繋いで奏でたゴルトベルク変奏曲は、まるで壮大な宇宙のようでした。この日の演奏を、その場で聴けた私達はもちろん幸せですし、札響を導いたシトコヴェツキーさんも喜ばれたに違いありません。原曲を生み出したバッハも、この日の演奏を聴いたらきっと喜んでくれるのでは?
後半の「白鳥の湖」は、気合いの入ったパワフルな演奏で、美メロだけじゃないチャイコフスキーの骨太な魅力も堪能できました!見せ場となるソロ演奏の良さは言うまでもなく、どのパートも大活躍で、弦だけじゃない札響の良さを改めて実感。今回、前半の(イメージとして)ハイレベルな演目に対し、親しみやすい演目をチョイスしたシトコヴェツキーさんの心意気と、マエストロの生まれ故郷であるロシアの風土を感じさせる力強い演奏、とっても素敵でした!なお「白鳥の湖」組曲の札響定期での演奏は、意外にも今回が2回目とのこと(1962年7月以来60年ぶり)。ちなみに定期以外での抜粋演奏なら、バレエ公演を除いても札響演奏歴は実に481回!おそらくは第1曲「情景」を中心とした超有名曲の抜粋がほとんどと思われます。しかし名曲の宝庫の「白鳥の湖」、超有名曲をほんの少しだけなんてもったいない。今後、超有名曲に限らず他の曲の演奏機会も増えるとうれしいです。時々は定期でもがっつり取り上げてください!
前半はJ.S.バッハ「ゴルトベルク変奏曲」のシトコヴェツキーさん編曲による弦楽合奏版です。指揮台は無く、シトコヴェツキーさんがコンマス席(背の高いイスに浅く腰掛けていました)で弾き振り。オケの配置は、通常とは2ndヴァイオリンとヴィオラの場所が入れ替わり、コントラバスは舞台中央のいつもは木管群がいる場所に。またチェロの後ろあたりにチェンバロ(演奏はKitara専属オルガニストのニコラ・プロカッチーニさん)が配置されました。私ははじめ演奏を聴きながら今何番目の変奏かを指折り数えていたものの、早い段階で怪しくなり(苦笑)、それからは目の前の演奏に集中することに。以下のレポートには、自分の記憶を録音と照らし合わせて数値を書き入れましたが、ズレがあるかもしれません(ごめんなさい!)。演奏は「アリア」からスタート。シトコヴェツキーさんと各パート首席による弦楽五重奏、ゆったりとした切なく美しく純粋な響きが素敵すぎて、早速引き込まれました。以降も首席が代表して演奏するシーンは多く、また全体の構成の中でのかっちりした役割は協奏曲のソリストとはまた違った難しさがあると思われ、首席の皆様はとても大変だったことと存じます。しかしそこは私達の札響首席の皆様ですから、どのシーンでも期待以上の素晴らしい響きを聴かせてくださった上で、屋台骨をがっちり支えてくださいました。アリアの後は30種類の変奏へ。通奏低音としてチェンバロが加わりました。最初の方は全員参加による華やかな盛り上がり。高音弦の明るいメロディが心地よかったです。また高音弦に対する低弦が、例えば第1変奏では鏡のようで、第2変奏ではこだまのよう。このような低弦のバリエーションが全編にわたりとても自分好みでした。ブラームスがやりそう!と一瞬思ったのですが、どう考えてもバッハの方が先ですよね……。また3の倍数はカノン(「かえるのうた」のような追いかけっこ)になっていて、第3変奏はまったく同じメロディ、第6変奏は2度、第9変奏は3度……と追いかける側の音程が1つずつズレていることや、高低が逆になる「反行カノン」を確認できたのも楽しかったです。心地よい音楽は最初から最後まで楽しめましたが、部分的には、小鳥がさえずるような華やかな独奏ヴァイオリン(第7変奏と第14変奏?)、カノンとはまた違った追いかけっこの形(第10変奏?私はこのあたりで何番目かわからなくなった気がします)、厳かなところからの華やかな盛り上がり(第15変奏から第16変奏の流れ?)、軽やかなピッチカートのリズム(第19変奏?)、首席奏者たちによるテンポの速い掛け合い(第23変奏と第29変奏?)、短調で哀しく歌う独奏ヴァイオリン(第25変奏?)、ピアニッシモよりさらに小さな音による全員参加の演奏(第28変奏?)、等が特に印象に残っています。そして第30変奏はカノンではなく「クオドリベット」という、複数の歌を重ねる形式に。カオスになるかも?との予想はうれしくも裏切られ、複数のメロディがシンクロして素敵なハーモニーになっていました。そしてラストは最初の「アリア」に戻り、ゆったりと美しい弦楽五重奏に。静かに消え入るラストがとても印象的でした。宇宙空間を旅してきたような感覚、1時間超があっという間でした。聴けて本当によかったです。緻密かつ心に染み入る素晴らしい演奏をありがとうございました!
後半はチャイコフスキー「白鳥の湖」組曲。今回は8曲バージョンでした。シトコヴェツキーさんはヴァイオリンを指揮棒に持ち替え、指揮台へ。前半より弦の人数は増員。コントラバスは舞台向かって右側後方のいつもの場所へ移動し、舞台中央と後方には木管・金管・打楽器・ハープが配置されました。最初は超有名な第1曲「情景」。ハープと弦のトレモロに続いて魅惑的なオーボエソロ登場。何度聴いてもイイ!全体的にテンポが速い(体感速度ではいつもの1.2倍速くらい)と感じられましたが、このスピードでも演奏が乱れることはなく美しい音楽を聴かせてくださいました。また、他の管楽器とティンパニが加わってからの盛り上がりがとてもパワフルだったのも印象に残っています。第2曲「ワルツ」は、最初の弦ピッチカートから力強く、ワルツのリズムに乗った弦による艶っぽいメロディがとっても素敵。弦の皆様、前半の大曲を弾き終えた後にもかかわらず、こんなに素敵な演奏を聴かせてくださるなんて、もうありがとうございます!壮大で華やかなところはもちろんのこと、穏やかなところでの木管群のまるい音色と、かわいらしいトライアングル、温かなトランペットのソロも印象的でした。木管金管に多彩な打楽器も加わったラストの大盛り上がりは清々しく、私はついチャイ4を連想。この頃には自分が慣れたのか、テンポの速さの違和感はなくなっていました。続いては第3曲「白鳥たちの踊り」。バレリーナたちのステップのようなリズムで、各木管が音を刻みながら演奏するのが素敵。低弦のピッチカートと、ヴァイオリンとヴィオラの合いの手もバッチリでした。まさに「オンラインプレトーク」で「タイミング合わせるのが難しい」とのお話があったところ!そして「オデットと王子の愛の踊りを表現」している第4曲の「情景」へ。木管群に続いて登場したハープ独奏が麗しく、物語への期待が高まりました。来ましたヴァイオリン独奏(オデット)!美しく華やかで少し影があるヴァイオリン独奏は存在感抜群でした。満を持してチェロ独奏(王子)が登場!待ってました!高音域で歌うチェロにたちまち心掴まれ、もうずっと聴いていたかったです。ヴァイオリンとチェロの重なりは素敵すぎて泣きそう。私もオデットになりたい。しかし演奏は、第5曲「チャルダッシュ:ハンガリーの踊り」へ。弦による冒頭からインパクト大!超素敵!でもでも、前の曲の余韻は半ば強引に終了(笑)。ハンガリーの風を感じる演奏はとっても素敵で、哀愁を帯びた前半とテンポが速くなる後半のコントラストも楽しかったです。第6曲「スペインの踊り」。独特なリズムを刻む弦に、合いの手を入れるカスタネットとタンバリンが超カッコイイ!第7曲「ナポリの踊り」は、やはりコルネット(小ぶりなトランペット)の独奏ですよね!南国の太陽のような温かな響きがとっても素敵でした。何度でも聴きたい!最後の第8曲「マズルカ」は、はじめから大迫力の盛り上がり!中盤の木管のターンでは、中でもクラリネット2つの掛け合いがとても印象に残っています。思いっきり華やかな締めくくりまで、とっても楽しかったです!札響は弦だけじゃなく木管も金管も打楽器も全部すごいと改めて。皆様最高です!ありがとうございました!
【定期演奏会】
— 札幌交響楽団(公式) (@sapporosymphony) 2022年6月26日
6月25・26日、ドミトリー・シトコヴェツキー(指揮・ヴァイオリン)『第646回定期演奏会』にご来場いただきありがとうございました。#札響 pic.twitter.com/0vzDW7hXvH
前回の札響定期はこちら。「札幌交響楽団 第645回定期演奏会」(日曜昼公演は2022/05/29)。首席指揮者マティアス・バーメルトさんが今シーズン初出演!華やかな「水上の音楽」に、アンヌ・ケフェレックさんの可憐で繊細なピアノによるモーツァルト。ライン川を思わせる壮大な響きのシューマン。シーズンテーマ「水」がよどみなく流れるような演奏に、清々しい気持ちになれました。
札幌市と札響の主催による特別演奏会「札幌交響楽団演奏会 Kitaraでクラシック!」(2022/06/02)。チケットはサービス価格設定(一般1000円、65歳以上500円)で、平日昼間にもかかわらず会場はほぼ満席でした。有名曲の数々にサプライズなアンコール、それぞれの個性が際立つ楽器紹介と盛りだくさん!ちなみにチャイコフスキー「白鳥の湖」組曲からは、第1曲“情景”と第5曲“チャルダッシュ”が取り上げられました。
最後までおつきあい頂きありがとうございました。