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第44回もいわ山麓コンサート 櫨本朱音&永沼絵里香 ヴィオラ・ピアノデュオコンサート(2022/06) レポート

hokujun.or.jp
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↑「北海道循環器病院」のサイトにて、今回のコンサートの様子が写真付きでUPされています。

北海道循環器病院が開催する、もいわ山麓コンサート。今回は札幌交響楽団ヴィオラ奏者の櫨本朱音さんと、札幌でご活躍のピアニスト・永沼絵里香さんのデュオコンサートです。前回(2021/10)、札響副首席ヴィオラ奏者の青木晃一さんによる「主役としてのヴィオラ」に触れその魅力を知った私は、今回の演奏会も楽しみにしていました。

第44回もいわ山麓コンサート 櫨本朱音&永沼絵里香 ヴィオラ・ピアノデュオコンサート
2022年06月11日(土)15:30~ 北海道循環器病院 本館1階特設会場

【演奏】
櫨本朱音(ヴィオラ) ※札幌交響楽団ヴィオラ奏者
永沼絵里香(ピアノ)

【曲目】
エルガー:愛のあいさつ
クライスラー:愛の悲しみ
リスト:愛の夢(ピアノ独奏版)
ブラームスヴィオラソナタ第2番 op.120-2

クライスラーシンコペーション
ヴォーン・ウィリアムズ:グリーンスリーブス幻想曲
ヒンデミット無伴奏ヴィオラソナタ op.25-1 より 1,2,4楽章
ピアソラ:タンティ アンニ プリマ
ピアソラ:タンゴの歴史 より 1,2,3曲

(アンコール)サティ:ジュ・トゥ・ヴー


櫨本朱音さん、札響にすごい若手ヴィオラ奏者がいらっしゃいました!お一人お一人がこんなに素晴らしい演奏家なのですから、札響の演奏は良いに決まってますよね!櫨本さんは2019年10月に札響に入団、その時点でオケの最年少だったというお若い女性です。一見、天然キャラでふんわりした雰囲気の櫨本さん。そんなイメージとは裏腹に演奏は真剣そのものかつクオリティ高く、王道クラシックも近現代の作品もお手の物。小品ではかわいらしさや美しさで私達を魅了し、大曲では迫力ある演奏で私達を圧倒しました。もちろんオケとは別のレパートリーを、いつもとは違い「主役になって」演奏することには人知れずご苦労があったことと存じます。オケでの活動がお忙しい中、今回のデュオコンサートでも最高のパフォーマンスをありがとうございます!

また共演のピアニスト・永沼絵里香さんのピアノがとにかく素晴らしかったです。コンパクトなアップライトピアノで、あの華やかさと重厚感!ヴィオラが主役のところでは控えめに、逆にピアノが主役の時は存在感抜群にと、ごく自然に役割を演じ分けながら、ヴィオラとの掛け合いは息ぴったりでした。ちなみに私が永沼さんのピアノを聴くのは、札幌市役所の市民ロビーコンサート(2020年10月)以来。その時はトロンボーン(札響副首席の中野耕太郎さん)との共演で、演目のためかピアノは大人っぽい印象でした。今回は、小品のかわいらしさ美しさに、独奏の華やかさ、ピアソラのカッコ良さ、そしてブラームスの重厚さ!と様々な表情のピアノが聴けてうれしかったです。

そしてなにより、今回も素敵な演奏会を企画・実施くださった北海道循環器病院さんにお礼申し上げます。参加費ワンコインで、一流の演奏が聴けるのは本当にありがたいです。回数を重ねたイベント、会場には常連と思われるお客さんも大勢いらっしゃいました。地域に開かれた、誰もが音楽に親しめる場所を提供し続けてくだり、ありがとうございます。

前半は、「愛」がテーマ。なお私は1曲目の演奏開始ギリギリのタイミングで会場に入ったので(ごめんなさい!)、開演前の様子(あいさつ等があったかも?)についてはわかりません。1曲目はエルガー「愛のあいさつ」。ピアノの短い序奏に続いて登場したヴィオラの深い音色に早速心掴まれ、この時点で来て良かったと実感。甘く歌うところも、中盤の少し寂しげなところも、静かに消え入るラストまで、とっても素敵でした。おなじみの曲による「ごあいさつ」で、掴みはOK!

クライスラー「愛の悲しみ」。はじめの方の有名なフレーズは、ピアノもヴィオラもステップを踏むような音を細かく刻む丁寧な演奏。中盤の切なく歌うところ、終盤のヴィオラの音を震わせる演奏も印象的でした。元々はヴァイオリンのために書かれた曲とはいえ、ヴィオラの影のある音色が驚くほどぴったりで、その響きをしみじみ味わいました。

ここで櫨本さんが一旦退場して、ピアノ独奏でリスト「愛の夢。はじめの方は、低めの音でゆったりと甘く歌ったピアノ。想いが溢れたような高音の盛り上がりが力強く情熱的でインパクト大!感極まった後のキラキラした音が華やかで儚げで素敵すぎて。甘く情熱的な「愛」に、私は胸がいっぱいになりました。こちらのピアノ独奏を拝聴して、私は次のブラームスへの期待値がゲージMAXまで上がりました。

前半の山場、ブラームスヴィオラソナタ第2番 op.120-2」。演奏前に曲についての解説があり、まずは永沼さん、続いて櫨本さんがお話されました。元々はクラリネットソナタとして書かれたものを、作曲家自身がヴィオラ用に編曲。老いて創作意欲を失っていたブラームスが、クラリネットの名手に出会ってから作曲した経緯があり、タイトルに「愛」はないけれどクラリネットへの愛が込められている、といった趣旨のお話でした。「(愛は)こじつけです」と櫨本さん。いえいえ、ブラームスの作品はすべて愛で出来ていますから!第1楽章、穏やかな冒頭から引き込まれました。ヴィオラが高音域で甘く歌うのと、ピアノの下支えが高音で優しく寄り添いながらも重厚感があったのが素敵。またピアノがダイナミックな響きになるところが印象に残っています。幸せな感じから一転、短調になる第2楽章でも冒頭でぐっと心掴まれました。仄暗く切ないヴィオラの歌に、低音で寄り添うピアノ。またヴィオラ小休止のシーンでピアノが情熱的に躍り出るところがすごく良かったです。中盤、ヴィオラが丁寧に音を繋ぎながら少しずつフェードアウトしてからの、じっくりと歩みを進めるようなピアノの重厚な響きと、後から重なったヴィオラ(高音→低音→重音)がドラマチックで素敵すぎました。ここ大好きなんです、ありがとうございます!第3楽章、ヴィオラとピアノが穏やかに会話するような掛け合いが息ぴったりで、優しく美しい響きを堪能。クライマックスではテンポが速くなり、ハンガリー舞曲を思わせる快活な盛り上がりで締めくくり。作曲家最晩年の作品の、優しさと愛に満ち、しかしまだ情熱の火は消えていない良さが伝わってきました。こんなに素敵なブラームスに出会えてうれしかったです。ありがとうございます!


後半は、「20世紀の作曲家の作品」がテーマです。1曲目はクライスラーシンコペーション。タイトルの通り、規則正しいリズムを刻みながら、ウキウキと小さくステップを踏むような楽しい音楽。ピアノとヴィオラが手を取り合い素朴な舞曲を踊っているように感じられました。ラストはピアノの高音の一打とヴィオラのピッチカートの重なりで締めくくったのが、可憐でとても印象に残っています。

ヴォーン・ウィリアムズ「グリーンスリーブス幻想曲」。前の曲とはガラリと雰囲気が変わり、ひとり草原に佇み冷たい風を受けているような、寂しさを感じる曲。高い音から入ったヴィオラが次第に低い音に移るところで引き込まれました。中盤、メロディがピアノに移ってからのヴィオラの重音も素敵。最初のメロディが戻ってくると、ヴィオラが今度は低い音程で切なく歌ったのも心に染み入りました。演奏が終わると櫨本さんは「来週の土曜日にオーケストラでこの曲を演奏します」と、hitaru公演(hitaruのひととき ~尾高忠明 presents 偉大なる英国の巨匠たち~)をしっかり宣伝。抜かりナシ。完璧です!

ピアノの永沼さんが一旦退場し、ヴィオラ独奏でヒンデミット無伴奏ヴィオラソナタ op.25-1」より 1,2,4楽章ヒンデミットヴィオラを弾く作曲家ですと紹介があり、「演奏にびっくりするかも?」と前置きした上で、演奏に入りました。はじめの方の、ヴィオラの深みのある音色による重音や悲鳴のような音に会場の空気が一変。心地よいメロディではないものの、その気迫に圧倒されました。中盤、高低や強弱が細かく変化する音の波がすごい。パワフルなところだけでなく、ごく小さな音での演奏もインパクトありました。そして終盤、弓も弦を抑える手も超高速!超絶技巧と繰り出される音楽に度肝を抜かれました。すっごい!札響はとんでもない秘密兵器を隠し持ってましたね!

「皆さん大丈夫ですか?お子さんは泣いていませんか?」と、お客さん達を気遣った櫨本さん。「次は心が落ち着く曲を選びました。血糖値を下げてください」(!?)……はい!血圧でも中性脂肪でも(笑)。曲は、ピアソラ「タンティ アンニ プリマ」。映画の挿入歌だそうです。穏やかな波のようなピアノに、ゆったりと歌うヴィオラ。美しい音楽に心洗われました。血圧が20くらいは下がったかも(笑)。

プログラム最後はピアソラ「タンゴの歴史」より 1,2,3曲。「盛り上がってください。踊れる人は踊っちゃってください!」と櫨本さん。年齢層が高めの会場で、さすがにタンゴが踊れる猛者はいませんでしたが、所謂クラシック音楽のお上品なイメージとは違う音楽に、会場の熱気が上昇したのが感じられました。はじめ、ヴィオラとの掛け合いで、ピアノが鍵盤ではなくピアノ本体を打楽器のようにリズミカルに叩いて音を発したのが超カッコ良かったです。タンゴ特有のリズムで、ピアノの低音の下支えに乗ってヴィオラが高めの音域で陽気に奏でる音楽。時折ヴィオラがキュンと高音へ駆け上ったところが素敵!中盤のしっとりした美しいところにも聴き惚れました。終盤はぐっと妖艶な雰囲気になり、ヴィオラの音色も少しダミ声に変化。駒の内側の弦を擦ってギーギー鳴らしたところがインパクト大!音を駆け上るのも、1曲目の明るさとは違う、夜の酒場に似合う感じなのがカッコイイ!超楽しかったです!

子供達からの花束贈呈があり、櫨本さんがごあいさつされました。アンコールサティ「ジュ・トゥ・ヴ」。日本語では「あなたがほしい」との訳で知られている有名な曲ですね。ピアノは低音域、ヴィオラは高音域で甘く歌うのがとっても素敵でした。ラストは音を引っ張らずにすぱっと清々しく締めくくり。1曲目の「愛のあいさつ」と好対照のアンコール、素晴らしいです!

終演後は出演者のお二人によるお見送りもありました。コンサートホールとは勝手が違う会場で、演奏は大変だったことと存じます。クラシック音楽の演奏会に慣れていない人達をも魅了した、本物の演奏をありがとうございました!今後、室内楽やもちろんオケでの演奏も楽しみにしています。


北海道循環器病院が開催する、もいわ山麓コンサート。前回は「青木晃一×石田敏明 ヴィオラ・ピアノデュオコンサート」(2021/10/30)でした。味わい深い音色に超絶技巧の数々。札響副首席・青木さんによる「主役としてのヴィオラ」はヴァイオリンに引けを取らない表現力で、「名バイプレーヤーが主役」な演奏を存分に楽しめました!

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札幌はリーズナブルな価格で本物の演奏が聴ける機会に恵まれていると思います。この日の9日前に聴いた、札幌市と札響の主催による特別演奏会「札幌交響楽団演奏会 Kitaraでクラシック!」(2022/06/02)。チケットはサービス価格設定(一般1000円、65歳以上500円)で、平日昼間にもかかわらず会場はほぼ満席でした。有名曲の数々にサプライズなアンコール、それぞれの個性が際立つ楽器紹介と盛りだくさん。ちなみに演目にはエルガー「愛のあいさつ」の管弦楽版もありました。

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この日の前日に聴いた「藤木大地 カウンターテナー・リサイタル」(2022/06/10)。この声を知る驚き、触れる喜び!加えて「真心に触れる喜び」でもありました。「死んだ男の残したものは」と続く演目の流れが圧巻!日本とフランスの曲を中心に、唯一無二の演奏は魂を揺さぶられるスペシャルな体験でした。ちなみにリスト「愛の夢」はオリジナルの歌曲が演奏されました。

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最後までおつきあい頂きありがとうございました。