自由にしかし楽しく!クラシック音楽

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第43回もいわ山麓コンサート 青木晃一×石田敏明 ヴィオラ・ピアノデュオコンサート(2021/10) レポート

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オーケストラでも室内楽でも「縁の下の力持ち」的な存在のヴィオラ。しかし今回はピアノ伴奏付きでメロディを奏でる、夢みたいな演奏会です。私は娘の音楽教室にあったチラシでたまたま知り、即電話申し込み。当日は受付で名前を告げ参加費(なんとワンコイン!500円!)を支払い、ロビーの一角に待合のソファを集めた特設会場へ。定員50名とのことでしたが最初に用意された席はすべて埋まり、後から少しイスが追加されていました。お客さんはご年配のかたが多かったようです。


第43回もいわ山麓コンサート 青木晃一×石田敏明 ヴィオラ・ピアノデュオコンサート
2021年10月30日(土)15:30~ 北海道循環器病院 本館1階特設会場

【演奏】
青木晃一(ヴィオラ) ※札幌交響楽団副首席ヴィオラ奏者
石田敏明(ピアノ)

【曲目】
G.プッチーニ 歌劇「つばめ」より“ドレッタの美しい夢”
J.S.バッハ ソナタ第1番ト長調 BWV1027
F.ショパン ノクターン第2番 変ホ長調 op.9-2 (ピアノ独奏)
M.ブルッフ ロマンス op.85
P.I.チャイコフスキー ただ憧れを知る者のみが op.6-6
K.バンチ The 3 Gs (ヴィオラ独奏)
K.バンチ 組曲より 第1曲ラプソディー 第2曲スケルツォ
R.シューマン ソナタ第1番イ短調 op.105
(アンコール)モンティ チャルダッシュ


ヴィオラって素敵!いつもは主役の座をヴァイオリンに譲っているヴィオラ。しかしその少し影がある味わい深い音色でメロディを奏でるのも素敵です!音域は私が想像していたよりも広く、またヴァイオリンでおなじみの超絶技巧の数々だってお手の物。ヴァイオリンとは単に大きさの違いのみならず、鳴る音そのものや指使いに弓の運びや力加減その他もろもろすべて勝手が違うはずですが、青木さんの奏でるヴィオラはヴァイオリンに引けを取らない表現力で、多彩な音が幾重にも重なるとても贅沢な響きを聴かせてくださいました。また「人の話す声に近い」ためか、聴く人の心にすっと入ってくる心地よい音色と感じました。ドラマや映画でも、華やかな主役だけでなく名バイプレーヤーがいる作品は奥行きがありますよね。その名バイプレーヤーが主演する作品は超面白かったりしますが、奥行きを作れる人だからこそ土台がしっかりした主役になれるのかなと思ったり。そんな「名バイプレーヤーが主役」な演奏を存分に楽しめてうれしかったです。私、ヴィオラが主役の演奏をもっと聴いてみたいです!そしてこれからはオーケストラも室内楽ヴィオラや2ndヴァイオリンの活躍に注目して聴きたいと思います。

青木さんと石田さんのデュオ。私はネット動画では何度かその演奏を聴いたことがあったものの、実演に触れたのは今回が初めてでした。もうとっても素晴らしかったです!他楽器をヴィオラに置き換えた作品から、最初からヴィオラのために書かれたレアな作品まで、幅広いレパートリーを息の合った演奏で聴かせてくださいました。開演前に「ヴァイオリンとヴィオラってどう違うの?」と仰っていたかたを含め、お客さん達は演奏が始まると皆その音楽に夢中になっていました。コアなクラシック音楽ファンは少ないと思われる会場で、しかも耳なじみのあるポップスや懐メロではなくザ・クラシックの演目で、この実力。素晴らしい!これからも様々な作品の演奏を聴かせてください!


はじめに北海道循環器病院の理事長よりごあいさつ。今年開院40周年、通院患者さんやご近所のかたにとのお考えで企画する「もいわ山麓コンサート」も今回で43回目とのこと。会場のお客さん達には常連さんも多いようにお見受けしましたし、長い年月をかけて回数を重ね地元で愛される場を作ってこられたのですね。一流の演奏を気軽に聴ける環境を継続的に提供くださり、本当にありがとうございます!

お待ちかね、青木さんと石田さんが拍手で迎えられ、すぐに演奏開始です。なおお2人は演奏の時だけマスクを外し、移動やトークのときはマスク着用されていました。1曲目はG.プッチーニの歌劇「つばめ」より「ドレッタの美しい夢」メゾソプラノのような歌うヴィオラの音色が気持ちにすっと入ってきて、早速引き込まれました。演奏後の青木さんのお話では、ヴィオラは人が話す声の高さに最も近い楽器と言われていて、また青木さんご自身が歌が大好きなことから、オペラの歌を選曲されたとのことです。

J.S.バッハソナタ第1番」は、本来は古楽器ヴィオラ・ダ・ガンバチェンバロのための曲。ピアノは音をのばさずに(チェンバロ風にあえて?)、決まったフレーズの繰り返しが多い演奏でした。そこに重なるヴィオラがまた良いんです!先ほどのプッチーニが布のやわらかさなら、こちらのバッハは大理石のような硬さを感じさせる音で、同じ奏者・同じ楽器とは思えないほどの違いに良い意味で驚かされました。とはいえガチガチに凝り固まったという意味ではなく、緻密に音を紡いでいく繊細な演奏。ピチカートは一度も出てこなくて音をなめらかにつなげての演奏が多かったにもかかわらず、私は撥弦楽器リュートを思い起こしたほどの古風な響きで、とても新鮮でした。

F.ショパンノクターン第2番」(ピアノ独奏)。石田さんは「日本人はショパンが好きですよね」と仰って、会場はうんうんと頷いていました。石田さんはこの日の午前中に北大の銀杏並木を見てこられたとのことで、「秋」をイメージしておられたようです。コンパクトなアップライトピアノによるショパンは、まさにショパン自身が好んだ小さなサロン向けの純朴な感じ。秋の雰囲気にぴったりの、ちょっぴりもの悲しい心に寄り添ってくれる優しい演奏でした。

M.ブルッフ「ロマンス」。初めからヴィオラのために書かれた曲です。青木さんは、留学していたドイツ・ケルン出身のブルッフには愛着があるそう。ブルッフが活躍した時代は既に近代に入っていたものの、ブルッフ自身はロマン派の音楽を貫いたとのことです。私はこちらの演奏が強く印象に残っています。ロマンティックなメロディをヴィオラの味わい深い音色で奏でるととっても素敵。少しゆったりしたテンポで複数の音を重ねたり震わせたり、こんなに豊かな響きが味わえるなんて!ヴァイオリンやチェロでも可能かもしれませんが、この曲に限って言えばやはりヴィオラの音色が一番似合う気がしました。改めてヴィオラって素敵です!

休憩後の後半1曲目はP.I.チャイコフスキーの歌曲「ただ憧れを知る者のみが」。原曲はゲーテの詩に曲を付けた歌曲で、今回はヴィオラが歌うスタイルです。これがまた良かったです!低い音から入る冒頭からインパクト大で、だんだんと高音に。そして美しい音が幾重にも重なる感極まった感じのところが最高でした。低音も高音も温かみがあって、人の真心が感じられる「歌うヴィオラ」でした。

K.バンチ「The 3 Gs」ヴィオラ独奏)。K.バンチはヴィオラを弾く現役の作曲家(いま40代!)だそう。青木さんは演奏に入る前に、まず手持ちのヴィオラの弦を順番にはじいて「ドソレラ」の音を、次に別のヴィオラを取り出しやはり弦をはじいて「ソソレソ」の音を聴かせてくださいました。この「ソ」(ドイツ語の音名では「G」)が3つの特別な調弦がされたヴィオラによる演奏。こちらの演奏がとっても個性的で面白かったです!冒頭の連続ピッチカートが超カッコイイ!続いて弓は規則正しく動いているのに、弦をおさえる左手は忙しく動いて奏でる音が細かく変化。もうすっごい!ここだけの特別な音を独特のリズムを刻んで奏でる……青木さんは当たり前のように弾きこなしていらっしゃいましたが、超絶技巧の連続でそう簡単に出来るものではないと思います。すごいものを聴かせて頂きました。ありがとうございます!

再び従来の調弦ヴィオラに持ち替え、ピアノ伴奏も入って、K.バンチの組曲より「第1曲ラプソディー」「第2曲スケルツォ。現代曲でもメロディがあって聴きやすかったです。ラプソディーは、ジャズのようでもあり、ロマン派の小品のようでもありました。スケルツォは、連続ピッチカートと弓を使う演奏が目まぐるしく変化し、スリリングでとにかくカッコイイ!またいずれもピアノが優等生路線から少し離れてダイナミックな響きだったのも印象的でした。このK.バンチの「ヴィオラとピアノのための組曲」は全部で5曲あるようなので、他の3曲もいつかお2人の演奏で聴かせてください!

今回のトリを飾るのは、R.シューマンソナタ第1番」。演奏前に青木さんから「ヴァイオリンの曲でも低音が多い」「第1楽章は情熱的、第2楽章は穏やか、第3楽章は速くていきいき」と解説がありました。原曲のヴァイオリンをヴィオラに置き換えての演奏。ただでさえ難曲なのに、本家と音域が異なるヴィオラで違和感なくかつ「聴ける音楽」にするのは相当難しいと思われます。しかし演奏を聴く限り「借り物感」は一切なく、はじめからヴィオラソナタだったかのようでした。ただただ感服です!第1楽章は低めの音色によるメロディに心揺さぶられ、高い音で感情を露わにするシーンでも金切り声ではなく知的な大人の雰囲気。第2楽章は歌曲を歌っているような音色が心地よいです。第3楽章は舞曲のようなテンポで、派手ではないけど愁いを帯びたヴィオラとピアノの掛け合いや重なりが素晴らしい!ずっと夢中になれた演奏でした!

プログラムに記載されたすべての演目が終わると、拍手の中、青木さんと石田さんに花束贈呈がありました。手渡ししたのは小学生低学年くらいのかわいらしい姉妹で、場が和やかに。もう一度盛大な拍手がおくられました。

アンコールはおなじみモンティ「チャルダッシュ。はじめの深みのある低い音にぐっと心掴まれました。細かくテンポを変化させながらの情熱的な演奏は、まるで聴いているほうも心の中で踊っているような気持ちに。途中にヴァイオリンに負けない超高音も登場し、超絶技巧盛りだくさんでしたが、そうとは感じさせない生き生きとした音楽を聴かせてくださいました。


終演後は出演者のお2人によるお見送りもありました。音響や客層等、普段とは違った舞台での演奏は大変だったことと存じます。心を込めた本物の演奏は、聴く人すべてに響いたはずです。素晴らしい演奏をありがとうございました!

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今回ご出演の青木晃一さんとピアノの石田敏明さんデュオによる演奏会が、2021/12/26にも予定されています!ご都合がつくかたはぜひ!詳しくは、以下添付のツイートにあるパンフレットの写真をご参照ください。


この約1週間前に聴いた、ウィステリアホール 朗読と歌で綴る「マゲローネのロマンス」演奏会のレビュー記事は以下のリンクからどうぞ。ブラームスの連作歌曲をオリジナル日本語訳による朗読と字幕付きで。物語の世界に引き込まれ、会場にいながら中世の物語の世界を旅した幸せな時間でした。

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最後までおつきあい頂きありがとうございました。