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江別振興公社が主催する「身近で楽しむクラシック」。今回は青木晃一さんと石田敏明さんのデュオによる演奏会が開催されるとのことで、私は野幌までプチ遠征して聴きにうかがいました。なおチケットは前売り完売したとのことです。
身近で楽しむクラシック 青木晃一&石田敏明 ビオラ&ピアノ デュオコンサート
2023年11月26日(日)14:00~ 野幌公民館 ホール
【演奏】
青木 晃一(ヴィオラ) ※札幌交響楽団副首席ヴィオラ奏者
石田 敏明(ピアノ)
【曲目】
プッチーニ:オペラ「つばめ」より“ドレッダの美しい夢”
シューベルト:楽に寄す D.547
メンデルスゾーン:歌の翼に op.34-2
チャイコフスキー:ただ憧れを知る者のみが op.6-6
レーガー:無伴奏ヴィオラ組曲 第1番 ト短調 op.131d-1 より 第1曲 第2曲 ※ヴィオラ独奏
リスト:愛の夢 第3番 ※ピアノ独奏
ブラームス:愛の歌 op.71-5
ブラームス:ヴィオラソナタ第2番 op.120-2
カッチーニ(伝):アヴェ・マリア
(アンコール)
シークレット・ガーデン:ユー・レイズ・ミー・アップ
見岳章:川の流れのように
クラシック音楽の名曲の数々と、クラシック音楽の枠を超えたアンコールまで、盛りだくさん!青木さんと石田さんデュオの演奏をたっぷり堪能できて、トークも楽しく、幸せな時間を過ごす事ができました!昔ながらの公民館に地域の人々が集まり、参加費もリーズナブルな気取らない会。もちろん演奏中は皆様しっかりと聴き入っておられましたが、トークの時は時折笑いが起きて、とても温かい雰囲気でした。コンサートホールのかしこまった空気とは違う、こんなリラックスした会も良いものですね!言うまでもなく演奏のクオリティは高く、奥ゆかしい音色のヴィオラが様々な表情を見せるのも、そのヴィオラと思いをシンクロし安定感あるピアノも、そしてお2人の呼吸が驚くほどぴったりなのも、改めてすごい事だと今回実感しました。素人目にはそれらをさらっと実現しているように見えるのは、長く一緒に活動してこられたお2人だからこそですよね!
今回のメインのブラームスop.120-2について。今回の演奏を拝聴し、私が率直に感じたのは「なんて愛らしい!」でした。op.120-1の方はもう少し深刻(と個人的には思います)でも、op.120-2の方では色々と吹っ切れたのかも?最晩年のブラームスにこんな穏やかな気持ちの頃があったと思うとうれしくなり、私は今まで以上にこの曲が愛しくなりました。なお今回はクラリネットの音域での演奏(!)とのことですが、あまりにも自然で(もちろん演奏は思うほど簡単な事ではないと存じます)、私には通常のヴィオラ版との違いは明確にはわからなかったです(ごめんなさい!)。しかし、お2人がじっくりと作曲家最後のソナタ作品と向き合い、愛情を込めて演奏してくださったからこそ、作品の魅力が聴き手に伝わったのだと感じました。音域を変えたのはあくまで手段の1つであり、今回の魅力あふれる演奏に至るまでには様々な試行錯誤と努力の積み重ねがあったことと存じます。本番での一度きりの演奏を楽しく聴かせて頂くだけのお気楽な聴き手ではありますが、今回の演奏に出会えて私はとてもうれしかったです。ありがとうございます!
青木さんと石田さんが舞台へ。すぐに演奏開始です。1曲目は、プッチーニのオペラ「つばめ」より“ドレッダの美しい夢”。ピアノの序奏は、ダーン!とインパクトある低音から。少しずつ音階を上っていくのが輝かしい!メロディを歌うヴィオラは、はじめの方では(演出として)何か戸惑っているよう。ピアノのタタタン♪にシンクロするところが印象的でした。原曲でソプラノが「ああー」と感極まるところの、ヴィオラの丸みある音色の優しさ可憐さが素敵!後の方では戸惑いが確信に変わったように感じました。控えめでも思いがあふれる華やかな音楽に、はじめから気分があがりました!
ここで出演者のお2人によるごあいさつとトーク。以降も曲の合間には演目の解説をメインにしたトークが入りました。オーケストラで活躍するヴィオラ。しかしヴィオラ&ピアノのコンサートはめずらしく、今回はその魅力が伝えられたら、と仰っていました。楽器の大きさは厳密には決まっていないそうですが、ヴァイオリンよりも大きく、奥ゆかしい音色がします、と簡単に特徴を紹介。今回はブラームスのソナタ第2番をメインに、他は歌曲を中心としたプログラム、とのこと。先に演奏した1曲目と次に演奏する2曲目の解説もありました。
シューベルト「楽に寄す」 D.547 。穏やかなピアノの和音に乗ってゆったり歌うヴィオラは、歌でいうところの1番を低音域、2番を高音域で歌うスタイルでした。低音域での艶っぽい音色も、高音域での美しさも素敵!音がふっと消え入るような儚さもあり、心地よく少し切ない歌がじんわり心に染み入りました。
メンデルスゾーン「歌の翼に」 op.34-2 。音楽の時間に歌ったのでは?と、青木さん。今回はライオネル・ターティスによる編曲版の演奏とのことです。ヴィオラは、歌でいうところの1番を低音域、2番を高音域で歌うスタイルでした。穏やかなピアノ伴奏に乗って、低音域で歌うヴィオラの一人語りのような落ち着き、高音域で滑らかに歌うところの可憐さ。高音域の重音のふくよかな響きは何とも優しく、癒やされました。終盤、ピアノが沈黙してのヴィオラ独奏は穏やかでもどこか哀しくて、ハッとしました。ヴィオラの少し影のある音色がぴったりな歌!もちろん控えめな主張を細やかに表現できるお力があってこそと思います。
チャイコフスキー「ただ憧れを知る者のみが」 op.6-6 。ゲーテによる詩(ドイツ語)をロシア語に訳したものに曲を付けたものだそうです(私はてっきりドイツ語のまま曲を付けたと思い込んでいました!)。プリムローズによる編曲版の演奏。ピアノの序奏から既に歌っていて、温かで優しい響きが素敵でした。ピアノとシンクロしながらしっとり歌うヴィオラは、独り言のようだったり時に少し駆け足になったりと、感情が揺れ動いているように感じられました。感極まったところでの高音の重音は、思いがあふれているよう!高音でフェードアウトするラストまでとても美しく、短いながらもドラマチックな歌でした。
ヴィオラ独奏で、レーガー「無伴奏ヴィオラ組曲 第1番 ト短調 op.131d-1」 より。日本ではあまり知られていない作曲家・レーガーは、ブラームスの後継者と言われた人物だそうです。ヴィオラのための無伴奏組曲を3つ作ったそうで、これらはヴィオラを弾く人は避けて通れない重要なものとのこと。高度な演奏技術が必要で、「(弦を押さえる)4本の指はフル稼働」(!)。その上で「きれいなハーモニーをごく自然に聴かせる」のが肝要なのだそうです。第1曲 重音から入り、私は思わずバッハの無伴奏ヴァイオリンを連想。重音が何度も登場し、高音も低音もインパクトありました。はじめのうちは厳しく、ふと温かな感じになったり、少し駆け足になったり、強弱の波を作ったりと変化が多い演奏でした。第2曲 A-B-A'の形式でしょうか?はじめタタタッタ♪と舞曲のリズムで切れ味鋭く進むヴィオラがカッコイイ!中間部は滑らかに歌い、何度も登場した重音に深みが感じられ存在感ありました。舞曲のリズム再び。はじめよりも速くなり音も増えたように感じました。素人目には難しさをまったく感じさせない軽やかな演奏で、バロックの薫りがする音楽を楽しめました。
ピアノ独奏で、リスト「愛の夢 第3番」。はじめにリストを「ピアノの魔術師」と紹介。今回取り上げる「愛の夢 第3番」は、元々は歌曲「おお、愛しうる限り愛せ」(石田さんは「どれだけ愛せばいいのか!」と仰って、会場の笑いを取っていました)で、思いがあふれるのはロマン派のスタイルと仰っていました。また、石田さんと青木さんが留学されていたドイツの話題になり、この時期はクリスマスマーケットを楽しみにしていた事や、そこでの料理の味が濃かった事をお話しくださいました。「濃い気持ちを持って演奏します」(!)と宣言されてから、演奏へ。はじめの落ち着いたところは艶っぽい音色で、愛を静かに語っているよう。やがて思いが隠しきれなくなり、メロディも重なる音も鮮やかになっていきました。クライマックスでは思いっきり華やかにタタンタタン!と高音を響かせ、キラキラした音は輝いている感じ!思いが「濃い」、美しくも力強く愛を語るような演奏でした!
後半。はじめはブラームスの歌曲「愛の歌 op.71-5」。「ドイツ三大B(バッハ、ベートーヴェン、ブラームス)」の一人であるブラームスは、石田さん曰く「ザ・ドイツ」。同じ愛に関する歌でも、リストの場合は「聞いて聞いて」と外向きで、ブラームスの場合は自分との対話。その響きの違いを楽しんで、と仰っていました。ゆりかごのような優しいピアノに乗って、低音域で一人語りのように歌うヴィオラ。音がまるくなるところの穏やかさ、前のめりなところの切なさ等、細やかな表情の変化が素敵でした!中間部は高音域で歌い、再び低音域に。ブラームスの歌曲にラブソングは多々あれど、こちらは大人の渋さや奥ゆかしさが感じられ、ヴィオラにぴったりの曲ですね!
いよいよ、ブラームス「ヴィオラソナタ第2番 op.120-2」。演奏前に、ブラームスが作った最後の大曲というお話や、作曲のきっかけはクラリネット奏者・ミュールフェルトとの出会いで、原曲は「クラリネット・ソナタ」といった紹介がありました。青木さんによると、ブラームスがヴィオラ向けの編曲をした際に「気を遣いすぎて」ヴィオラが弾きやすい音域にしたため、部分的に演奏効果が出にくい(ピアノにかき消されてしまう等)ところが生じているそうです。もちろん「ブラームスの編曲に忠実に」という主張もあれば、「原曲に添った音域で」という考え方もあるとのこと。そしてこの日の演奏は、「原曲に添った音域で演奏し、重音奏法等の弦楽器特有の表現は取り入れる」(!)ものでした。第1楽章 そっと入った出だしから、ヴィオラがなんて愛らしい!早速心掴まれました。ピアノと呼応しながら歌う柔らかくも力強いヴィオラが素敵で、ピアノの情熱的な盛り上がりに続いたヴィオラの強奏が輝かしい!高音域で華やかに歌ったり、ぱっと切り替わっての存在感ある低音だったり、一方で一人語りのような奥ゆかしさや、音階を一歩すつ上るところ等だったり。そんな細部にわたり丁寧な演奏から、作品自体が持つ愛と演奏するお2人の音楽への愛情が伝わってきました。ヴァイオリンを思わせる高音域にて、思いを吐露するように歌うヴィオラがすごい!しかし押しつけがましくはなく、ピュアな感じがとても素敵でした。静かな締めくくりも愛らしい!第2楽章 少し深刻なヴィオラの最初の音にまた心掴まれ、ほの暗く情熱的に歌うヴィオラと激情のピアノが絡み合うダンスが超カッコイイ!交互に歌うところはもちろんのこと、両者が重なってからがまた良かったです。運命の荒波のようなピアノの上を、前のめりに進むヴィオラの存在感!情熱的な流れを静かに締めくくってから、来ましたピアノから始まるコラール風のところ。ピアノの音の厚みはまさしくブラームス!厳かなピアノに乗って、ヴィオラははじめそっと囁くように、次第に浮かび上がってきて、最高潮に達したところでの重音の連なりがとても崇高で美しい!弦楽器だからこその響き、素晴らしいです!楽章はじめの情熱的なところ再び。燃え上がった炎が少しずつ小さくなっていき、ふっと消えたようなラストでの、ピアノの低音の一打が印象的でした。第3楽章 はじめのゆったりと歌う主題の愛らしさ!優しいピアノも穏やかに歌うヴィオラもとっても素敵!続くいくつもの変奏は、長く一緒に活動しているお2人ならではの呼吸とリズム感で、自然な流れがとても良かったです。ヴィオラとピアノが交互になるところでの間合いや主役の入れ替わりが鮮やか!穏やかなところでも当たり前に足並みは揃っていて、華やかなピアノからの流れがドラマチック!ヴィオラの重音のインパクト!そしてその後、音の連なりの確かな足取りから、音階駆け上るピアノにつながる流れがアツイ!明るく輝かしい締めくくりは気分爽快でした!クラリネットでもヴィオラでも繰り返し聴いてきたop.120-2。私はこの日の演奏に出会ってこの曲が一層愛しくなりました。ありがとうございます!
カッチーニ(伝)「アヴェ・マリア」。こちらはチラシには書かれていたものの、配布されたプログラムには「手違いで」載っていなかった演目、と仰ってから、プログラム最後に演奏してくださいました。丁寧にありがとうございます。ピアノの切ない前奏に続いたヴィオラは、初めの方は(演出として)内省的な印象で、その世界観に引き込まれました。後の方になると次第に力強くなり、感極まったところが美しい!ピアノの和音もヴィオラとシンクロして盛り上がりを作っていたのが素敵でした。さすが、青木さんと石田さんデュオにとって、ブラームスと並ぶ重要なレパートリーの1つですね!
カーテンコールでお2人は舞台に戻って来てくださいました。アンコール1曲目は、シークレット・ガーデン「ユー・レイズ・ミー・アップ」。曲名紹介の後、青木さんが「どういう意味でしたっけ?」と仰って、会場が和みました。直訳で「あなたが私を高みに上らせる」と仰ってから、演奏へ。はじめはヴィオラ独奏から。これがすごく素敵でした!ケルト音楽(イギリスのお隣のアイルランドの文化?私は詳しくないのですが……)を思わせる、色気と温かさがあるどこか懐かしい感じ。ヴィオラのかすれる音が印象的で、ほどなくピアノの和音が重なりました。歌のメロディに移ると、「ああこの曲!」とピンと来たお客さんが多数いらした様子。ヴィオラが高音域で“ You raise me up ”を繰り返す度に胸に来て、希望が見える歌に心癒やされました。「クラシック音楽」ではない洋楽の演奏も素敵です!
再びお2人が舞台へ。石田さんから「私事ですが」と、江別市へ最近お引っ越しされた事をお話しくださり、会場が温かな雰囲気になりました。「クラシックの垣根を越えて、歌い継がれていく曲ですね」とご紹介くださった、アンコール2曲目は、見岳章「川の流れのように」。美空ひばりさんが歌った昭和の名曲!会場にはご年配のお客さんも多く、とても喜ばれたことと思います。ピアノによる序奏は、高音がキラキラして美しく優しい!ヴィオラは、はじめ低音域でしっとりと歌い、「ああー」からの盛り上がりは優しくも力強く、とても心に響きました。中間部では、ピアノが歌いヴィオラがハモるスタイルになり、語るように歌うピアノと優しく寄り添うヴィオラが素敵!高音でフェードアウトするラストまで、心温まるとっても素敵な演奏でした!今回は大曲のブラームスのソナタに加え、小品をアンコール含め10曲と盛りだくさん!最初から最後まで私達を思いっきり楽しませてくださり、ありがとうございます!これからのお2人の演奏もとても楽しみにしています!
「〈Kitaraアーティスト・サポートプログラムⅡ〉青木晃一×石田敏明 デュオリサイタル~ブラームスから拡がるヴィオラ×ピアノの響~」(2023/03/15)。雄弁さと歌心と超絶技巧による「主役としてのヴィオラ」の輝き!ブラームス最後のソナタでは、感情の機微を丁寧に表現する演奏によって作曲家の最晩年の境地を見ることができました。
こちらも青木さんと石田さんがご出演された演奏会です。「ブラームス室内楽シリーズ イ調で結ぶ作品集」(2023/06/26)。会田莉凡さんのヴァイオリンを堪能できたソナタ、「音楽する」三重奏曲、ピアノ四重奏曲の「化学反応」の素晴らしさ!ブラームスの隠れた名曲たちの充実した演奏に浸れた、とても幸せな時間でした!
ありがたいことに、ここ最近ブラームスを聴ける演奏会が続いています。数多の演奏会のうち、札響メンバーが出演した室内楽の公演から2つご紹介します。
「 R弦楽四重奏団 Vol.1 」(2023/11/18)。ハイドン、ショスタコーヴィチ、ブラームス。演奏家との距離が近いギャラリーにて、信頼のメンバーによる充実の演奏を肌で感じられる贅沢!お堅いイメージだった弦楽四重奏を身近に感じ、自然体で楽しめた幸せな時間でした。
「ウィステリアホール プレミアムクラシック 2023シーズン 23rd 」(2023/10/29)。信頼のメンバーによる室内楽。ブラームスのクラリネット三重奏曲とホルン三重奏曲は、作曲家の人生を思わせるものでした。V.ウィリアムズのめずらしい編成の五重奏曲は超充実の演奏!期待を大きく上回る幸せな演奏会でした!
最後までおつきあい頂きありがとうございました。