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文化庁の助成を受けて、日本クラシック音楽事業協会が主催し全国各地で演奏会を開催するクラシック・キャラバン。3年目となる今年の札幌公演は、注目のソリストたちによる協奏曲が一度に3つも聴ける豪華な企画です!大好きな演目をこの布陣で聴けるとあって、私は企画発表当初から楽しみにしていました。
クラシック・キャラバン2023 札幌公演 華麗なるガラ・コンサート~熱狂三協奏曲~
2023年11月23日(木・祝)15:00~ 札幌コンサートホールKitara 大ホール
【指揮】
原田 慶太楼
【管弦楽】
スーパー・クラシック・オーケストラ(コンサートマスター:藤原 浜雄)
【曲目】
伊福部昭:ヴァイオリンと管弦楽のための協奏風狂詩曲 (ヴァイオリン:豊嶋 泰嗣)
ラフマニノフ:ピアノ協奏曲第2番 (ピアノ:清水 和音)
ブラームス:ヴァイオリンとチェロのための二重協奏曲 (ヴァイオリン:川久保 賜紀/チェロ:遠藤 真理)
大熱演による三者三様の個性を思いっきり楽しめた、幸せな時間でした!指揮の原田慶太楼さん、ソリストの皆様、そしてスーパー・クラシック・オーケストラの皆様、ようこそ札幌へ!スーパー・クラシック・オーケストラは、皆様ブロの音楽家とはいえ、常設オケとは異なり普段は別々に活動されているかた達の集まり。しかし原田さんの指揮のもと、目指す方向を同じくしての迷いが無い熱演が清々しかったです!札幌のプロオケは1つだけなので(札響は大好きです念のため)、異なるカラーのオケは新鮮でした。また今回は選曲も気が利いていました。北海道出身の伊福部に加え、今年(2023年)が生誕150年のラフマニノフと生誕190年のブラームスをチョイス。かつ独奏のスタイルはすべて異なり、それぞれ豪華なソリストをお招きする、とても贅沢な企画!バラエティに富んだ作品たちを豪華な独奏で聴けて、聴き手としては大満足でした。ありがとうございます!
はじめの伊福部昭は、耳慣れた西洋のヴァイオリン協奏曲たちのいずれとも似ていない、独特の個性を楽しめました。あくまで個人的な感じ方ですが、今回の演奏を聴いた限りは、オケが土着の音楽に近いイメージの一方、独奏ヴァイオリンは意外にも都会的な印象。なぜそのように感じたのか、自分でも理由はわからないのですが(ごめんなさい!)、2つの個性が同じリズムやメロディを共有して一つの音楽になるのが面白かったです。また、聴く機会が多いラフマニノフのピアノ協奏曲第2番は、ピアノのすごさに圧倒されっぱなしでした!なんというか、「貫禄」なんて一言では言い表せない圧倒的な存在感!音の厚み、説得力、もちろん美しさもあって、余裕で大編成オケと渡り合っていたと感じました。これこそまさに「協奏」!そして個人的に様々な演奏で親しんできたブラームスの二重協奏曲は、ソリストお2人の個性と息ぴったりなやりとりに、オケの勢いある大熱演が素晴らしい!やっぱり私はこの曲が好き!と改めて実感しました。ただオケが大編成だったためか、独奏の音がオケの強奏にかき消された部分があったのは少しもったいないと感じました。弦の場合は、すごく大きな音を出そうとすると妙な音になったりするので、独奏の音の大きさはこれが最適だったのでは?そうするとオケが独奏の弦の繊細さをつぶさないためには、1曲目と同じくオケの弦の人数を少なくするか、大編成のままでいくなら独奏と重なる部分では音量をしっかりコントロールするか。いずれにせよオケ側で調整が必要かと思います。もちろん2つの独奏の美音と存在感は素晴らしく、ブラームスの分厚いオケを楽しめたのはうれしかったです。偉そうにごめんなさい。
開演に先立ち、司会(HBCアナウンサー:森 結有花 さん)が舞台へ出て、ごあいさつとお話がありました。クラシック・キャラバンの簡単な紹介の後、1曲目に取り上げる作曲家・伊福部昭さんについての解説へ。北海道出身の伊福部昭さんは、「ゴジラ」テーマ曲で有名。しかしクラシック音楽でも様々な作品を残しているとのこと。またヴァイオリンの演奏が得意だったそうです。司会の案内があり、スーパー・クラシック・オーケストラの皆様、続いて指揮の原田慶太楼さんとソリストの豊嶋泰嗣さんが舞台へ。拍手で迎えられました。オケの皆様の装いは、男性は燕尾服で女性はカラードレス。弦は舞台向かって左から1stヴァイオリン→チェロ(後方にコントラバス)→ヴィオラ→2ndヴァイオリンの対向配置でした。
前半1曲目は、伊福部昭「ヴァイオリンと管弦楽のための協奏風狂詩曲」。ソリストは豊嶋泰嗣さん。弦は1stヴァイオリンが8名(私の席からは他のパートの正確な人数は把握出来ませんでしたが、チェロは6、コントラバスは4)と人数少なめで、管は基本の2管編成に加え低音の木管・金管も。他は多彩な打楽器にティンパニ、ハープという編成でした。第1楽章 ハープと弦ピッチカートの序奏が鮮烈な印象で、続いた独奏ヴァイオリンの低く深みある音がすごい!早速引き込まれました。日本の子守歌のようなメロディが、柔らかくもどこか哀しい感じで、重音に心がざわつき、次第に祭り囃子のようなリズムに変化したのにドキドキ。少しずつオケが重なり、中でもコールアングレの低音での哀しい歌がとても印象的でした。テンポが速くなってからは、独奏ヴァイオリンも軽快な感じに。オケも独奏もはじめの方にアクセントが来る、「ゴジラ」と似たリズムでした。独奏ヴァイオリンと重なってメロディを歌ったトロンボーンやファゴットの存在感!来ましたオケによる「ゴジラ」のメロディ!そこに続いた独奏ヴァイオリンの掠れた音での歌に心かき乱されました。ホルンとバスクラリネットの暗さ、弦楽合奏の重々しさに、日本の子守歌の「本当は怖い」部分を垣間見た気持ちに。独奏ヴァイオリンの独特なテンポでの哀愁ある響きが刺さり、独奏チェロやハープとの重なりが一層印象深かったです。少しずつ盛り上がって、ダダダダン!の強奏の締めくくりのインパクト!第2楽章 序奏の力強いティンパニ&弦ピッチカートがアツイ!独奏もオケも前の楽章よりさらにテンポが速くなって、ますます血が騒ぐ感じに。また、はじめの方にアクセントが来る「ゴジラ」のリズムはずっとベースにあると感じました。独奏ヴァイオリンが高速で小刻みに音を繰り出すのに目と耳が釘付けになり、弦を擦るのとピッチカートをリズミカルに交互に演奏するのがすごい!目の前で展開する凄技に圧倒されました。低音が効いたオケが男前!オケが沈黙しての独奏ヴァイオリンは、掠れる音にインパクトがあり心かき乱されました。終盤はゴジラのリズムでオケ全体がお祭りのようなアツイ盛り上がりに。独奏ヴァイオリンのみの演奏が一瞬入って、オケ全体で力強くバシッと締めくくり。カッコイイ!演奏後、ソリストの豊嶋さんと指揮の原田さんがハグ。都会的で哀愁あるヴァイオリンの音色と、日本人の血が騒ぐリズムに、最初からガツンとやられました!
配置転換の時間に、司会が指揮者の原田さんにインタビュー。原田さんのインスタグラムには、札幌のグルメを満喫している様子がうかがえる写真がたくさんUPされているというお話から入りました。原田さんは「締めパフェ」を4種類の味で楽しみたいと考え、夜中に川久保さんと遠藤さんを呼び出して(!)、既に一緒にいた豊嶋さんと4人で実行に移したそうですよ。またアメリカでの活動が長い原田さんによると、アメリカでも「ゴズィーラ」(ゴジラ!)はよく知られているそう。ラヴェルのピアノ協奏曲にもゴジラのメロディが登場する事や、原田さんが日本人作曲家の作品を世界に広めたいと考えている事、等のお話がありました。
前半2曲目は、ラフマニノフ「ピアノ協奏曲第2番」。ソリストは清水和音さん。弦の人数が倍近くに増え(14型でしょうか?)、オケは大所帯となりました。管は基本の2管編成で、打楽器はティンパニ、バスドラム、シンバル。第1楽章 ピアノによる鐘の音は、はじめごく小さな音から、次第に音が大きくなって浮かび上がってきたのに鳥肌が立ちました。これだけで世界を一変させてしまうピアノ、すごい……と、最初からピアノに気持ちを持って行かれた私。力強いピアノにガツンとやられてから、オケの登場。低音の効いた壮大なオケがカッコイイ!コントラバスのピッチカートがピアノとシンクロしていたのがとても刺さりました。遠くにきこえるホルン、ピアノ小品を思わせる美しいピアノから、オケがぐーっと盛り上がって、頂点に達した「ジャン!」と、続いたヴィオラパートがピアノと呼応しながら優しくメロディを奏でるのが素敵でした。木管群とピアノの重なりは温かく優しい響き。金管群の咆哮とキラキラしたピアノのコントラスト!ピアノとオケが少しずつ盛り上がっていく流れにゾクゾクし、オケに最初のメロディが戻って来てからの力強いピアノに打ちのめされました!心揺さぶられる悲劇的で美しい響き!オケのメロディを引き継ぎ、ゆったりと奏でたピアノがなんとも美しく、聴き入りました。チェロパートのメロディ(こちらも素敵でした!)と重なるピアノは、繊細なのに存在感抜群!オケがジャンジャン♪と力強く楽章締めくくったのがすごくカッコ良かったです。第2楽章 冒頭、ごく小さな音から次第に浮かび上がってくるオケがとっても素敵でした!私はロシアの広大な大地を連想。ほどなく登場したピアノは優しい響きで、歌曲を思わせる美しさ!ゆったり歌う木管群や弦に寄り添うピアノは、前の楽章よりずっと音が少なく、しかし1音1音にとても存在感がありました。音楽は、穏やかで幸せな感じだったのが、哀しみを感じる響きになり、盛り上がりへ。グラデーションで変化していたと個人的には感じました。ピアノの盛り上がりの頂点で、バン!とパワフル金管群の会心の一撃!ガツンとやられました。そしてカデンツァのピアノの貫禄がすごい!ダーン!と低音から高音へ駆け上るのは圧倒的なインパクトなのに、素人目にはまだまだ余裕があるように感じられました。穏やかなオケのターンでの、優しく重なるピアノも素敵!オケは遠くに聞こえるホルンと幸せな感じの木管群がとても良かったです。そのまま続けて第3楽章へ。 はじめ、ごく小さな音でリズムを刻むオケにドキドキ。オケが強奏になってから、音階駆け上りで華やかに登場したピアノがなんてパワフル!ダダダーン♪と弦が低音を力強く奏でた後のピアノは、舞曲のようにリズミカルでカッコイイ!弦がピッチカートで合いの手を入れたのが小気味よかったです。ジャズを思わせるところで、ゆったりと歌うピアノがなんて輝かしい!金管打楽器がキレッキレのチャイ4のような盛り上がりがアツイ!オケのメロディを引き継いだピアノが、情感たっぷりに奏でたのが心に染み入りました。ピアノと呼応しながら歌うチェロとヴィオラの美しさ!終盤ピアノとオケが一緒になって、自信に満ちた響きでの盛り上がりがとても清々しかったです。ジャンジャカジャン♪と力強い締めくくりが最高に素敵!演奏後、ソリストの清水さんと指揮の原田さんがハグ。ピアノの圧倒的な存在感と厚みあるオケに魅せられ、壮大な音楽を堪能できました!
後半は、ブラームス「ヴァイオリンとチェロのための二重協奏曲」。ソリストは川久保賜紀さんと遠藤真理さん。弦の人数は前半ラフマニノフと同じ、管は基本の2管編成、打楽器はティンパニのみの編成でした。第1楽章 オケ序奏が大迫力!続く独奏チェロの重低音もガツンと来て、思わず身震いがしました。独奏チェロは基本骨太でも、語尾がまるく(表現が上手くなくてごめんなさい!)、力強さの中でふっと良い感じに柔らさが入るのが印象的でした。柔らかな木管に続いた独奏ヴァイオリンは、柔らかく始まりほどなくシャープな切れ味に。2つの独奏の絡みの緊迫感にゾクゾクし、音階駆け上りは駆け足ではなくじっくりと着実に足元を固めていたように個人的には感じました。オケのターンでが、悲劇的な高音もぐっと重厚な低音も超パワフルでカッコイイ!肩で息をするような間合いが印象的で、フルートの転がす音がインパクトありました。2つの独奏の対話、高音と低音の重なりがぐっと来る良さ!オケの弦ピッチカートがリズミカルに重なるのも素敵でした。穏やかなところでの、さりげなく抑揚を付けて歌う独奏チェロの柔らかな響きが心地良い。再び盛り上がっていく流れでの独奏ヴァイオリンの悲鳴のような超高音がキレッキレ!終盤での二重奏で、独奏チェロの音がまるくなるところの美しさ!ラスト直前に一度沈黙してからの二重奏は、お2人が持つ艶っぽい音が重なる事でさらに深みある響きに。すごく素敵でした!オケ強奏の「ジャーン!」という重低音にしびれました。第2楽章 冒頭、穏やかなホルンと木管の美しさ!続いた2つの独奏のユニゾンが素敵すぎました!上手く言えないのですが、大はしゃぎはしないけど幸せを噛みしめているような、大人の落ち着きを感じさせる幸せな響き!優しく寄り添うオケも素敵で、中でも木管群のゆったりした歌がとても心地よかったです。2つの独奏が会話するように交互に演奏したところは、まるで恋人同士の語らいのよう!独奏が2ついることの良さとブラームスのさりげない愛に、うっとり聴き入りました。楽章終盤での、一瞬ささやくような弱音で重なった独奏2つが愛しい!2つの独奏が高音で重なり合いながらフェードアウトし、木管群がこだましたラストは幸せいっぱいな感じ!そのまま続けて第3楽章へ。 中低弦のピッチカートのリズムに乗って、艶めかしい独奏チェロと続いたミステリアスな独奏ヴァイオリンにドキドキ。全力で弦をかき鳴らし、大迫力オケが登場したのがアツイ!独奏2つの緊迫感あるやり取りに続いた、大らかで温かな独奏チェロが最高に良かったです!オケの中低弦のベースに乗って堂々と歌う独奏チェロは、まるで王者の風格!楽章冒頭の再現の後は、オケの勢いや力強さがさらに増し、その熱量に圧倒されました。一方で、独奏2つの音がかき消されたと感じたところも(私だけかもですが)。クライマックスでのソリストの二重奏は、2人で力強く希望へ向かって前進しているようで胸が熱くなりました。そしてラスト直前では、2人が交互に主役になりながら支え合う、見事な競演!2人一緒に明るく輝かしく上り詰め、ティンパニとオケの堂々たる強奏で締めくくり。気分爽快になるラストでした!演奏後、ソリストの川久保さんと遠藤さんがハグ。素晴らしいお2人のソリストと力強いオケによる、この日ならではのブラームスの二重協奏曲を楽しめました!
カーテンコールでは、指揮の原田さんとオケの皆様の清々しい表情が印象的でした。全力投球の熱量高い演奏をありがとうございます!アンコールはナシで、司会による今後のクラシック・キャラバン2023の公演予定の紹介とあいさつがあり、会はお開きとなりました。主役を3つというボリューム満点のプログラムで、最初から最後まで大熱演をありがとうございました!今後の各地での公演のご盛会をお祈りいたします。
この日の2日前に聴いた公演です。「札幌交響楽団 hitaruシリーズ定期演奏会 第15回」(2023/11/21)。オピッツさんの「ブラームスのピアノ」と、バーメルトさん率いるオケの演奏によるブラームスのピアノ協奏曲第2番は、あこがれの曲と最高の出会い!間宮芳生さんの作品、モーツァルトではオーケストラの奥深さと面白さを改めて実感しました。
ヴァイオリンの川久保賜紀さんがソリストとしてご出演。「札幌コンサートホール開館25周年〈Kitaraワールドオーケストラシリーズ〉山田和樹指揮 横浜シンフォニエッタ」(2023/03/17)。新作初演の爽快さ!川久保賜紀さん共演のブラームス ヴァイオリン協奏曲は、交響曲のようにも感じられた濃密さ。そして何度も聴いたベト7は初めて出会ったような新鮮さ!想像を遙かに超えた体験でした。
最後までおつきあい頂きありがとうございました。