オーディションで選ばれた若手演奏家がプロのオーケストラと協演する「新進演奏家育成プロジェクト~オーケストラ・シリーズ」。2021年2月に開催された今回(第58回)のオケは我らが札幌交響楽団です。その札響からもコントラバス下川朗さんとヴァイオリン鶴野紘之さんがソリストとして大舞台に立たれました。なお4名の若手演奏家の詳しいプロフィールは以下の演奏会詳細ページ、本番の様子は札響公式ツイッターの写真を参照ください。
本日(2/11)は、現田茂夫(指揮)、下川朗(コントラバス)、三上結衣(ピアノ)、月下愛実(ソプラノ)、鶴野紘之(ヴァイオリン) 出演の『新進演奏家育成プロジェクト オーケストラ・シリーズ第58回札幌』にご来場いただき誠にありがとうございました。#札響 #日演連 pic.twitter.com/dfdU0NsUjG
— 札幌交響楽団(公式) (@sapporosymphony) 2021年2月11日
私はいつも衣装のことを細かく書いちゃうのですが、百聞は一見にしかずですから、今回は公式ツイッターの写真でご確認頂ければと思います。皆様とってもお似合いでしたよ。そして4名とも暗譜での演奏、お見事でした。
出演者のかたならびに関係者の皆様におことわりです。私は音楽に関しては楽譜も読めないほどの素人で、弊ブログには思いつきしか書いていません。今回のレポートもおそらく勘違いや大事なところの見逃し等が多々あるかと思われます。大変申し訳ありませんが、私の勝手な感想についてはどうか真に受けずに受け流して頂けましたら幸いです。
新進演奏家育成プロジェクト~オーケストラ・シリーズ 第58回札幌
2021年2月11日(木)15:00~ 札幌市教育文化会館大ホール
【指揮】
現田茂夫
【独奏】
下川朗(コントラバス)
三上結衣(ピアノ)
月下愛実(ソプラノ)
鶴野紘之(ヴァイオリン)
【曲目】
- クーセヴィツキー コントラバス協奏曲嬰ヘ短調
- ラフマニノフ ピアノ協奏曲第2番ハ短調作品18
- ベッリーニ 歌劇「夢遊病の女」から、“ああ、信じられない”
- ブラームス ヴァイオリン協奏曲ニ長調 Op.77
最初から最後まで期待以上!これからの飛躍が楽しみな若手演奏家の皆様の大舞台、いずれも素晴らしい演奏でした。今の状況にもかかわらず、例年通りにプロジェクトを遂行してくださったことに感謝いたします。プログラム冊子には、今回の第58回札幌だけでなく令和2年度の各地での演奏会(第55回から第60回まで)すべての演目と出演者紹介、曲目解説が掲載されていました。また第1回からの出演者が一覧で載っていて、そこには現在プロとしてご活躍されている演奏家のお名前がずらり。札響奏者のお名前もたくさん見つけました。まさに若手演奏家の登竜門なのですね。文化庁委託の新進演奏家育成プロジェクト、今後も末永く続いてほしいです。
札幌市教育文化会館大ホール。私は以前一度だけ別のイベントで来たことがあるものの、管弦楽は今回が初。金管打楽器がうるさくなかったですし、木管や弦の響きもキレイで、音響は良いと私は感じました。無論kitaraやhitaruと比べてはいけません。なおチケットは完売。定員1100席のホールは1席飛ばしでの配席で、この演奏を聴けた観客は単純計算で550名のみです。今はkitaraが改修工事中ですし、感染症対策もあってのことなのは承知しています。しかしこの日の素晴らしい演奏をより多くの人と共有できたらよかったのにと、ついわがままなことを思ったりもしました。せめて私はその場にいたラッキーな聴衆のひとりとして、この日の感激を自分目線ではありますが文章で書き残したいと思います。
開演前に舞台では自主練をしているオケのメンバーがちらほら。この日の演目に混ざって、チャイコフスキーのピアノ協奏曲第1番のメロディも聞こえてきました。本番が詰まったハードスケジュールですものね……。ご多忙な中いつもハイクオリティな演奏をありがとうございます。13日の北広島でのオールチャイコフスキー、叶うことなら聴きたかったです……特に協奏曲!そして開始時刻になり、まずはオケのメンバーが舞台へ。首席が降り番だったパートや客演が入ったパートもありましたが、言うまでも無く安定の演奏で若い演奏家のかたたちを支えてくださいました。手加減はしないけど、さりげなく寄り添うのが素晴らしいです。ありがとうございます!
トップバッターはコントラバス下川朗さんで、曲はクーセヴィツキー「コントラバス協奏曲」。コントラバスが主役の協奏曲があるんですね。オケの編成はコンパクトでしたが、ハープが入っていました。オケのコントラバスパートはわずか2人で、首席と副首席が入って下川さんをベースで支える体制に。下川さんは大きなコントラバスを抱えて登場。指揮者の横にでんと構えるコントラバス、まず目に訴えてくるインパクトがすごいです。ホルンの第一声から勇ましく始まったオケ演奏、しかし続く独奏コントラバスは意外にもロマンティックな音色を奏でました。音域的にはチェロでもいけるかも?と一瞬思いましたが、むしろ雄弁なチェロよりも朴訥なコントラバスだからこそ響く美しさなのかもしれないと、演奏を聴きながら思い直しました。ハープが良い仕事をしています。コントラバスの場合、高い音を出すときは前屈みの無理な姿勢にならざるをえず、しかも基本的にメロディは高音の曲だったので、見た目ではソリストはかなりキツイ体勢をとり続けながらの演奏でした。また演奏姿を拝見していると、コントラバスで高い音を響かせるには、弓を動かすのに強い力が必要なのかも?と感じました(※実情を知らずに想像で言っています)。曲の終わりに近づくと少しお疲れが出たのか、下川さんは肩で大きく息をして渾身の力を込めて演奏されている感じに。しかし演奏自体は乱れずにきっちり聴かせてくださったのはさすがです。フィニッシュのオケの演奏では、オケのコントラバスパートを先輩達と一緒に演奏し、最後の最後まで全力で駆け抜けた下川さん。コントラバスの隠れた魅力満載の演奏をありがとうございます!
続いて、ピアノ三上結衣さんによるラフマニノフ「ピアノ協奏曲第2番」。フィギュアスケートの浅田真央選手がBGMに採用したり「のだめカンタービレ」でも使われたりした有名な楽曲ですが、私は部分的にしか知らず、通しで聴くのはこの日が初めてでした。ピアノ独奏から入るも、すぐにオケが参戦し最初からクライマックスのような壮大さに鳥肌が。素直にオケがすごいと思いつつ、まってピアノがのまれちゃうかも?と余計な心配をしてしまったことを白状します。ごめんなさい、ピアノは全然負けていませんでしたね。厳しいオーディションを勝ち抜いてこられたかたですから当然とはいえ、三上さんの堂々とした演奏に「肝が据わっていらっしゃるな」と感心しました。第1楽章のオケとのガチンコ勝負も良かったですし、第2楽章の語るようなピアノもとっても素敵でした。そして高速のピアノから始まる第3楽章、私は一度聴いただけで好きになってしまいました!オケは個人的に好きな中低弦がゾクゾクさせてくれて、大事なところでビシッと決めてくれる金管打楽器の使い方がツボ。そして華やかなピアノは絶対に外せません!素人目から見ても、低音と高音を高速で行き来したり、ゆったりかつ壮大に響かせたりと、ピアノは相当難しそうです。それでもピアノ演奏に危なっかしいところは皆無で、それどころか強弱やテンポがめまぐるしく変化するオケと一体化しているよう。私は演奏に感嘆しながら、ああイイ曲!と安心して音楽の流れに身を任せられました。ピアノ一台だけでもあるいはオケだけでもおそらくこの良さは味わえない、掛け算の良さ。私、今回の三上結衣さん×札響がラフマニノフ「ピアノ協奏曲第2番」の生演奏初体験で本当によかったです。素晴らしい演奏をありがとうございます!
休憩後、後半のはじめはソプラノ月下愛実さん。曲はベッリーニ「歌劇『夢遊病の女』から、“ああ、信じられない”」。月下さんは表情と身振り手振りで完全に役になりきった歌い方をされました。美しいお声を、キラキラして美しいけど儚げだなと、私ははじめのうちはイメージだけでそう感じました。きっとそんな曲なのだと思いますが、オケは比較的小さい音、木管を中心としたあたたかな音色で「夢見がちな女性」に寄り添うような演奏をしていたのが印象的(でも場面展開で一度大音量になったところはビックリしました……)。個人的にツボだったのは、独奏チェロがソプラノと会話しているようなところです。男性が地声より少し高めのやさしい声で女性に語りかけているようなのがステキ。妄想失礼。歌詞の意味はわからないにもかかわらず私がその世界に引き込まれたのは、なにより月下さんの歌声が「女性の揺れる気持ち」を直接ハートに訴えてきたからです。クライマックスの高くて長くのばす歌声には、この大声量が月下さんのぺたんこのお腹から発せられているなんて!とまず驚かされ、そして圧倒されました。素晴らしい!ありがとうございます!お声のキラキラは薄氷やガラスではなく硬度の高い宝石の輝きです!今回は「夢子ちゃん」を演じきった月下さんですが、この美しくかつ底力のあるお声ならきっと強い女性も見事に演じてくださるのでは?
トリはいよいよヴァイオリン鶴野紘之さんによるブラームス「ヴァイオリン協奏曲」。お若いソリストであればチャイコフスキーやメンデルスゾーンあたりを選びそうなところを、あえてのブラームス!期待しちゃうに決まってます!私はチケット購入後、この曲の手持ちのCDを全部封印し、先入観をできるだけ消す努力をしてからこの日を迎えました。我ながら重いです。中低弦とホルンから始まる最初からブラームス節全開で、この重厚なオケだけで既に大満足な私(苦笑)。しかし独奏ヴァイオリンが登場して空気が一変、ここからが本番です。パガニーニの左手ピッチカートのような派手な超絶技巧は出てこなくても、例えば同時に複数の音を重ねて鳴らす等があるブラームスだって絶対に難しいはず。私、はじめのうちは、ヨシここは難なくクリア、ここは綱渡りだったかも、なんて変な聴き方をしてしまったことを申し訳なく思います。先入観は持つなとあれほど!しかしこの難曲を見事に弾きこなした鶴野さん、タダモノじゃないです。札響はこんなにすごいヴァイオリニストを秘密兵器に隠し持っていたんですね。またティンパニが小さめの音で併走してくれた、ソリストの見せ場がとっても素敵でした。ところで、カデンツァは誰の作品だったのでしょう?勉強不足で申し訳ありません。もしご存じのかたがいらっしゃいましたら教えてください。「オーボエの弱々しいアダージョ」で始まる第2楽章は、まずはオーボエのソロの美しさにうっとり。この部分はサラサーテにディスられたそうですが、そんな、とっても素敵じゃないですか!それに前の楽章で全力疾走した独奏ヴァイオリンもちょっと一息つかなきゃ、たぶんこの後がもちません。満を持して独奏ヴァイオリンの再登場。オーボエに負けない美しさに、大丈夫これなら最後まで素晴らしい音楽を聴かせてくださるはずと期待が膨らみます。そして聴き所しかない第3楽章へ。流れるような高速だったり逆にぐっと気を溜めたりとテンポが細かく変化する、情熱的な独奏ヴァイオリンが素晴らしい……これは私の頼りない耳で聴いた限りですが、この時のテンポの変化は、私が今まで聴いてきた数多くの録音のどれとも一致しない、鶴野さんオリジナルのテンポのように感じました。奇をてらっているわけではなく、一般的な(と思われる)演奏とは本当に微妙な違いではあっても、鶴野さんが大事にしていらっしゃるものが感じ取れる演奏。ブラームス好きな私はとてもうれしかったです。まってオケがズレちゃうのでは?と一瞬余計な心配が頭をよぎりましたが、まったくの杞憂でしたね大変失礼しました。我らが札響、ズレるわけがないって!コンマスは前後に小さく頭を振りながらテンポを掴んでいたようにお見受けしました。それでも無理をしている様子は微塵も感じさせず、驚くほど自然にソリストとシンクロするオケがすごいです。なによりも、いつもはオケの一員として全体の流れに合わせるのがお仕事の鶴野さんが、ソリストとして個性を発揮されたことに大拍手をおくります。しかも派手さでごまかせない上に、のっぺりと演奏した途端に退屈になるブラームスで!またソリストの個性をあたたかく受け止め、壮大な演奏で包みこむオケが素敵すぎました。これって愛ですよね愛!私が愛してやまないブラームス「ヴァイオリン協奏曲」、この日の演奏はこの先ずっと忘れることはないと思います。良いものを聴かせて頂きました。ありがとうございます!
カーテンコールでは、鶴野さんは指揮の現田さんとお互いに腕を回して胸を付けないハグ。きっと様々なものを背負い、ものすごいプレッシャーを感じながら大舞台に立たれたのですよね。そんな中でただ「こなす」のではなくご自身の芸術性を追求した演奏、お見事でした。そして先に演奏した下川さん、三上さん、月下さんも舞台に登場し、盛大な拍手が贈られました。この舞台に立てるだけでもすごいことなのに、4名全員がプロオケ札響と互角に渡り合って素晴らしい演奏を聴かせてくださいました。何度でも拍手喝采したいです!皆様大変お疲れ様でした。これからますますご活躍の場を広げていってくださいね。応援しています!
コントラバスは主役にもなれる!札響首席コントラバス奏者・吉田聖也さんご出演「ウィステリアホール ふれあいコンサートVol.3」のレポートは以下のリンクからどうぞ。いつもは縁の下の力持ちのコントラバスですが、時々はセンターになってお腹の下の方にくる重低音の主旋律を響かせてください!
冠婚葬祭の「あいプラン」さんも毎年「ラブ&サンクスコンサート」を開催(管弦楽はもちろん札響)し、「道内在住の音楽家応援企画」として若手演奏家の大舞台を用意してくださっています。私が聴いたのは2018年9月、この時の指揮も現田茂夫さんでした。ソリストはヴァイオリンの板倉竹香さんで、演目はチャイコフスキー。カーテンコールの際、コンサートマスター(当時)の大平まゆみさんが横でさりげなくアドバイスして板倉さんをサポートなさっていたのが印象的でした。その時のミニレポートは以下にあります。
健康上の理由で2019年11月末日に退団された大平まゆみさん。その著書『100歳まで弾くからね!』の、愛が重い読書感想文のリンクも以下に置いておきます。私のまとめかたではその魅力が伝わらないのがもったいない。ですから私の記事を読んでくださるかたは、必ず大平まゆみさんの著書そのものをお読みになってからにしてくださいね。
数多のエピソードの中から一つだけネタバレ。アメリカで活動されていた若き日のまゆみさんは、演奏家として思い悩み行き詰まったことがありました。しかし偶然ラジオから流れてきたヴァイオリンの音色に涙があふれ、「こういう演奏をしたい」と強く心に決めて、再起を果たしたのだそうです。その時の演奏は、ダヴィット・オイストラフによるブラームスのヴァイオリン協奏曲!魂に響く演奏は、誰かの人生を変えちゃうことだってあるんです!
最後までおつきあい頂きありがとうございました。