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札幌コンサートホール開館25周年〈Kitaraワールドオーケストラシリーズ〉山田和樹指揮 横浜シンフォニエッタ(2023/03) レポート

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↑指揮者の山田和樹さんからのメッセージ動画がKitara公式YouTubeチャンネルで公開されています。また今回ご出演のオケメンバーの中から、フルートの北川森央さん、ヴァイオリンの長岡聡季さん、オーボエの荒絵理子さんのスペシャルメッセージ動画もあります。

Kitara開館25周年記念に、指揮者の山田和樹さんと横浜シンフォニエッタが来てくださいました。山田和樹さんが創設した横浜シンフォニエッタkitaraと同じく25周年を迎えたとのこと。また協奏曲のソリストにはヴァイオリニストの川久保賜紀さんが登場。個人的に好きな演目を注目のオケと演奏家で聴けるとあって、企画発表当初から私は楽しみにしていました。


札幌コンサートホール開館25周年〈Kitaraワールドオーケストラシリーズ〉山田和樹指揮 横浜シンフォニエッタ
2023年03月17日(金)19:00~ 札幌コンサートホールKitara 大ホール

【指揮】
山田 和樹

【ヴァイオリン】
川久保 賜紀

管弦楽
横浜シンフォニエッタコンサートマスター:高木 和弘)

【曲目】
小田 実結子:Olive Crown(新作初演)
ブラームス:ヴァイオリン協奏曲 ニ長調 作品77
ソリストアンコール)J.S.バッハ:パルティータ 第2番 サラバンド BWV826

ベートーヴェン交響曲 第7番 イ長調 作品92
(アンコール)ベートーヴェン交響曲 第2番 ニ長調 作品36 第4楽章 アレグロモルト


2時間20分の公演時間があっという間!想像を遙かに超える、充実した楽しい時間を過ごすことができました。新作初演の爽快さ!ブラームスのヴァイオリン協奏曲は、存在感抜群の独奏と厚みのあるオケが一体となって、まるで交響曲のようにも感じられた濃密さ。そしてメインのベト7がすごい!演奏機会が多い演目を、慣れ親しんだkitara大ホールにて、まるで初めて出会ったかのように聴けたスペシャルな体験となりました。あえて極端に特色を打ち出してきた今回の横浜シンフォニエッタの演奏は、まさに唯一無二。自分にはまだまだ知らないことが無限にあると痛感し、何度も聴いた演目を「また聴いてみたい」と思えたほどです。クラシック音楽って奥深い!そして楽しい!この出会いに感謝いたします。

演奏会に先立ち、kitara公式Twitterにてオケメンバーのメッセージ紹介、YouTubeチャンネルにてスペシャルメッセージ動画の公開があったのも良かったです。私達地方の聴き手は、地元オケであればメンバーの人となりを大まかに把握しているものの、「お初」のオケの場合はメンバーの事をほぼ知らない状態。その一部のメンバーだけでも「顔が見えた」ことで親しみがわきました。そしてその動画からの情報によると、地元札幌で演奏活動と後進指導をされているヴァイオリンの長岡聡季さんは、横浜シンフォニエッタの創立メンバーでもあるとのこと。今回の演奏会では2ndヴァイオリンのトップを務められ、プログラムノートの解説(新作初演を除く)も長岡さんによるものでした。また今回の横浜シンフォニエッタの出演メンバーには「北海道に関わりがある人」が7名もいらっしゃると、演奏会当日のトークで知りました。北海道とは浅からぬ縁がある横浜シンフォニエッタさん、ぜひまた山田さんと一緒にkitaraにいらしてください!


開演前、指揮の山田和樹さんによるプレトークがありました。札幌は2度目で、前回はアンサンブル金沢の公演でいらしたそう(kitaraで8年前に開催されたようです)。今回、平日の夜の開催となったのは、指揮の山田さんとオケメンバーのスケジュールが合う日程の中で、ホールが空いていた日時だったからだとか。山田さんが設立した横浜シンフォニエッタは、元は芸大で指揮科の学生たちがシンフォニーの指揮をしたいために作ったと仰っていました。なお設立当初の名称は、山田さんがお嫌いなトマトを冠した「TOMATOフィルハーモニー管弦楽団」(!)。ベートーヴェン交響曲は第1番からすべて演奏してきたそうで、中でも今回取り上げる第7番は、デビュー公演や節目となる時に必ず取り上げてきた大切な演目なのだそうです。(オケの創設から25年・Kitaraの開館25周年といった)記念の演奏会に、何か特別な事をしたいと考え、今回は小田実結子さんに新作をお願いしたとのこと。またブラームスのヴァイオリン協奏曲のソリスト川久保賜紀さんと共演するのは初めてで、楽しみと仰っていました。そして「このまま後半の話もした方がいいですか?」と、会場に対して「今がいい人」と「後半がいい人」の2択で拍手による多数決が行われました。後者の方が多かったため、ベト7のお話は後半へ持ち越しに。「精一杯演奏するので楽しんで!」と山田さん。トークはここでいったん終了となりました。

オケの編成は、各木管とトランペットは2管ずつにホルンは4つ、ティンパニ、弦は10-8-6-6-4でした。また弦の配置は舞台に向かって左から1stヴァイオリン、2ndヴァイオリン、ヴィオラ、チェロ。チェロの後方にコントラバス。地元の札響での通常配置はヴィオラとチェロの位置がこの逆なので、とても新鮮でした。1曲目は、小田実結子「Olive Crown」。この日の公演のために書かれた新作初演です。この曲のみホルン2つでした。トランペットとホルンによる冒頭から、ティンパニでぐっと盛り上がり、美しい弦で視界が開けたように感じられました。明るく耳なじみの良い音楽で、木管群による温かみのある歌が素敵!また転調し少し低音を効かせたところは、しかし重苦しくはなく、澄んだ水の底を見たかのような深さが感じられました。プログラムノートに掲載されていた作曲者の小田実結子さん自身の解説によると、この作品は指揮者の山田和樹さんのお名前から「平和の象徴であるオリーブの樹」「オリンピックの勝者に贈られるオリーブの冠」をイメージしたとのこと。スケールが大きく、希望の光が見えるような音楽は、聴いていてとても気持ちが晴れやかになれました!演奏後、作曲者である小田実結子さんが客席から舞台へ。小田さんを指揮の山田さんがハグ!客席も温かな気持ちになれました。

ソリスト川久保賜紀さんをお迎えして、ブラームス「ヴァイオリン協奏曲」。第1楽章。オケの前奏は丁寧で、強弱のメリハリがはっきり。個人的には、少しゆっくりかも?と感じましたが、テンポにはすぐに慣れました。木管が印象的なやわらかな響きも、弦の深刻なところも素敵!満を持して独奏ヴァイオリン登場。最初の低音からの音階駆け上りが鮮烈な印象!オケの弦が良いタイミングで合いの手を入れてくれて、存在感ある独奏がオケとすんなり親和したと感じました。やわらかな響きでゆったり歌うところも、重音の厳しさも、さすがの貫禄!個人的には、オケの弦が主役の時に独奏ヴァイオリンが繊細な音色で重なったところや、小休止の後に再登場した独奏ヴァイオリンがとてもふくよかで味わい深い音色で歌ったところが強く印象に残っています。また、オケのターンでのオケは壮大な広がりで、同時期の作品であるブラ2のような爽やかさも感じられました。カデンツァはヨアヒム作のものだったと思います(違っていましたら申し訳ありません)。はじめの深い低音から、ヴァイオリン独奏のみで作る世界にぐっと引き込まれました。連続する重音がすごい!また間合いにも気迫が感じられ、高音のフェードアウトからオケが次第に重なっていく流れがとても良かったです。重なったオケでは遠くから聞こえてくるようなホルンの響きが印象的でした。独奏ヴァイオリンとオケが一体となって駆け抜けた楽章締めくくりが爽快!第2楽章。やはり前奏のオーボエソロがとっても素敵!他の木管群が牧歌的な響きで重なったのも素敵で、心穏やかになれました。柔らかな高音から入った独奏ヴァイオリンもまた、優しく美しい!悲劇的な独奏の雄弁さ!しかしそれだけではなく、オケがゆったり美しく歌うところでの独奏ヴァイオリンの仕事ぶりが素晴らしいと私は感じました。繊細な超高音でオケと併走する独奏ヴァイオリンは、大きな音で主張するわけではないのに存在感抜群!オケと独奏は一心同体!そして第3楽章へ。生き生きと力強い独奏ヴァイオリン。その「タータタタタータタタタッタッタ(ン)タッター♪」の(ン)のところでぐっと力を溜めて上昇するのかカッコイイ!またそれをオケが再現する際にソリストと同じように演奏していたのがニクイです。明るい流れの中、独奏ヴァイオリンとオケが最適な間合いで呼応し合うのが気持ちよく、オケ全体での盛り上がりはとても清々しい。また少しクールダウンするところでは、独奏ヴァイオリンが控えめな音量でも緻密かつ流麗に演奏していたのが素晴らしいです。終盤、独奏ヴァイオリンはいっそう明るく自信に満ちた響きとなり、ラストはパワフルに独奏とオケが一緒にビシッと締めくくり。ソリストとオケがお互いに高め合い、一体となった濃密な時間。これぞまさにブラームスの協奏曲!聴けて本当にうれしかったです。演奏後、ソリストの川久保さんを指揮の山田さんがまたしてもハグ!欧米か!?(笑)。でも自然な感じでとても素敵だと私は思いました。演奏はもとより、こんな振る舞いがスマートにできるのも、世界のヤマカズだからこそですね!

ソリストアンコールJ.S.バッハ「パルティータ 第2番 サラバンド BWV826」。印象深い重音や控えめなビブラート、kitara大ホールに響く研ぎ澄まされた音色を堪能できました。ヴァイオリニストにとっては最高に大変なブラームスの協奏曲の後に、バッハの無伴奏の純度の高い演奏まで、素晴らしい演奏をありがとうございます!


後半の演奏に入る前にも、指揮の山田さんによるトークがありました。オケメンバーに「北海道に関わりがある人」と挙手を求め、その7名の自己紹介(山田さん自らマイクを持ち一人一人のもとに駆け寄るスタイル!)。皆様お名前と出身地(札幌市内であれば区まで!)くらいの簡単なもので、ちょっと駆け足で進められました。ちなみにあるかたが「しゃべってもいいですか?」とたずねたところ、山田さんがブンブン首を横に振り「巻き」のジェスチャー(手をぐるぐる)をして、会場に笑いが起きました。そしてベト7についてのお話。「7は虹の色の数ですね」といった事から始まり、「音階の数でもある」として、ベト7の第1楽章で音階を1つずつ上っていくところをオケの実演付きで解説(!)。ベートーヴェン自身はこの交響曲の数字「7」を意識していたと、山田さんはお考えのようでした。また、第3楽章での2番目の旋律(ホルンが伸びやかに歌うところ)も実演付きで、「ここはワルツですが、ズンチャッチャ無しでの(リズムの)踊り」と解説。大きく2点をお話くださいましたが、私はいずれも思いも寄らなかった視点で大変興味深かったです。またこの短い解説の中でも、山田さんは何度も「ベートーヴェンは天才」と仰っていたのも印象に残っています。

いよいよメインプログラム。ベートーヴェン交響曲 第7番」。第1楽章。冒頭はパン!とインパクトある強奏から。丁寧に繰り返されるタタタタタタタタ……の1つずつ音階を上がるところでワクワク。同時にとても愛しく感じられました。フルートが明るく歌うところは重なる他の木管群も素敵!続く弦が一気に音階を駆け上るところ、ここも音階を1つずつ7段のぼっている!と私は今更ながら気付きました。明るくパワフルな演奏は気分爽快!ピアニッシモからフォルテッシモへ段々と盛り上がっていく流れが明快で、強奏の後に来る意味ある休符がビシッと揃うのが気持ちイイ!中盤のオーボエを中心とした木管群の少し哀しげな歌も印象的でした。うんとパワフルに盛り上がってから、そのまま続けて第2楽章へ。個人的に、ここでは弦の仕事の緻密さに目と耳を奪われました。管楽器群の和音に続き、中低弦がピアニッシモで一歩ずつ歩みを進めるところの厳かさ!続いて2ndヴァイオリン、1stヴァイオリン、と参戦する弦のパートが増えていっても葬送行進曲の歩幅は一定に保たれていました。全員合奏での悲劇的なところからの、木管群の天国的な響き!木管群が葬送行進曲を歌うところでの、弦ピッチカートが作るリズムにも私は惚れ惚れしました。静かに楽章締めくくった後、一呼吸置いてから第3楽章に。ここでは2つのトリオのコントラストがすごく面白かったです!はじめは少し速いテンポでリズミカルに。ティンパニがカッコイイ!そして解説で取り上げられた2番目のトリオは、思いっきりゆっくりじっくり演奏。長く音をのばすトランペットが華やか!交互に現れる2つのトリオは、極端なほどにテンポを変えたことで個性の違いが際だったように感じられました。チャッチャッチャッチャッチャッ♪の明るい楽章締めくくりから、そのまま続けて第4楽章へ。パワフルかつ生命力あるリズムが超楽しい!弦リレーからぐっとエネルギーを溜めて上昇するのが爽快!音楽はぐいぐい進みクライマックスではさらにパワフルになって、熱量高い演奏に最高に気分があがりました!ジャカジャン・ジャカジャン♪の締めくくりまでずっと楽しかったです!やはりベートーヴェンは天才……いえそれ以上に指揮の山田さんとオケの皆様は天才!よく知る曲がこんなに新鮮に感じられるなんて!最高に気分があがりました。ありがとうございます!

カーテンコールでは、全パートが順番に起立を促され、盛大な拍手が贈られました。そして指揮の山田さんとオケの皆様は、正面だけでなく四方八方の客席に向かってお辞儀(!)。拍手喝采の中、指揮の山田さんがマイクなしでアンコールの演目をご紹介くださいました。アンコールは、ベートーヴェン交響曲 第2番」から、第4楽章。こちらもリズムが楽しい曲でした!最初に拍が来るリズミカルで勢いある演奏。私は、パワフルなのは確かにベートーヴェンだと思いつつ、なんとなくモーツァルトっぽい?とも感じました。全体的に明るい感じではありましたが、ファゴットが歌うメロディに少し影が感じられたのが印象に残っています。終盤、長めの休符のところで指揮の山田さんがチラッと客席の方に振り返り、クスッと笑いが起きました。そこから次第にエネルギーを増していき、再び生命力あふれる感じに。フィナーレのホルンにやはりモーツァルトの雰囲気を感じ、明るくパワフルに締めくくり。大熱演の後のアンコールに、なんと交響曲の1つの楽章をフルで聴かせてくださるなんて!最初から最後まで思いっきり楽しませてくださりありがとうございます!

最後に、指揮の山田さんとオケの皆様が客席に大きく手を振ってくださいました。山田和樹さん、横浜シンフォニエッタと一緒にまたkitaraへいらしてくださいね。機会がありましたら地元の札響の指揮もぜひお願いします。お待ちしています!


今回、横浜シンフォニエッタにご参加のオーボエ・荒 絵理子さんが、「東京六人組」のメンバーとして出演された演奏会はこちら。「Kitaraアフタヌーンコンサート〉東京六人組」(2022/11/15)。3つのホールによる共同委嘱新作・ハイドンバリエーションやきらきら星変装曲等、オーケストラの響きをぎゅっと濃縮したカラフルな演奏はとっても楽しかったです!

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ありがたいことに、ここ最近kitaraではブラームスの作品を聴ける演奏会が続いています。この日の2日前に聴いた公演はこちら。「Kitaraアーティスト・サポートプログラムⅡ〉青木晃一×石田敏明 デュオリサイタル~ブラームスから拡がるヴィオラ×ピアノの響~」(2023/03/15)。雄弁さと歌心と超絶技巧による「主役としてのヴィオラ」の輝き!ブラームス最後のソナタでは、感情の機微を丁寧に表現する演奏によって作曲家の最晩年の境地を見ることができました。

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最後までおつきあい頂きありがとうございました。