「森の響フレンド 札響名曲コンサート」(本年度からシリーズ名が少し変更)に、ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団の第一コンサートマスターであるフォルクハルト・シュトイデさんが登場!シュトイデさんと札響は、2016年6月に初共演し、2018年1月の共演を経て、今回3度目の共演となるそうです(コロナ禍のため2021年6月の予定は叶わず)。ブラームスとJ.シュトラウスⅡというウィーン縁の作曲家の作品を、指揮者なしでの演奏。当日会場は9割近くの席が埋まる盛況ぶりでした。
森の響フレンド 札響名曲コンサート~ウィーンのヴァイオリンで聴くブラームスとJ.シュトラウスⅡ
2023年06月17日(土)14:00~ 札幌コンサートホールKitara 大ホール
【コンサートマスターとヴァイオリン独奏】
フォルクハルト・シュトイデ
【管弦楽】
札幌交響楽団(前半のみコンサートマスター:田島 高宏)
【曲目】
ブラームス:ヴァイオリン協奏曲
J. シュトラウスⅡ:
「くるまば草」序曲
ワルツ 「もろびと手をとり」
常動曲
入り江のワルツ
ポルカ「雷鳴と稲妻」
(アンコール)ヨゼフ・シュトラウス:ポルカ「短いことづて」op.240
ブラームスのヴァイオリン協奏曲、愛してやまないこの曲に私はまたしても恋しました!温かみがあり、自然な波長で滑らかに歌う独奏ヴァイオリンがとにかく素敵!細かなニュアンスをごく自然に表現する独奏は、さりげなく心の機微に沿うもので、まるでブラームスの歌曲のようにも感じました。また特に第3楽章のリズミカルで生き生きとした演奏には、若くまっすぐな情熱を感じ、幸せな気持ちになれました。重厚さや厳格さを言う以前に、ブラームスは歌心と純粋な情熱があってこそ!と私は改めて認識。また後半ウィンナ・ワルツが超楽しかったです!バラエティ豊かな演目はどれもユニークな波長を持っていて、同じ3拍子とは思えないほど多彩な表情!最初から最後までワクワクしました。シュトイデさんを通じてウィーンの「方言」をマスターした道産子オケによるウィンナ・ワルツは、借り物感はなく伸び伸びと楽しそう!聴いている私達の気持ちも晴れやかになりました。本場ウィーンフィルのニューイヤーコンサートにも引けを取らない(はず)、華やかで明るい音楽は、北海道の初夏にぴったり!
今回は指揮者なしでの演奏でした。初めの方こそ少し慎重かも?と個人的には感じましたが、ブラームスの中盤からは勢いが付いて、後半ワルツでは超ノリノリに!シュトイデさんがプレトークで仰っていた「一人一人が自分の音楽を表現できる」は、良い形で実現されていたのでは?もちろん指揮者がいることといないこと、それぞれ長短があり、いつもと違う取り組みには大変な面も多々あったことと存じます。しかし指揮者なしでもこんなに素敵な演奏ができる、我が町のオケのお力を再確認できたのはうれしかったです。めずらしいスタイルでの演奏を聴けたのは、私達聴き手にとっても貴重な経験となりました。
フォルクハルト・シュトイデさんと、札響コンマスの田島高宏さんが舞台へ。開演前のプレトークはこのお二人で進められました。田島さんはインタビュアー兼通訳としてシュトイデさんとドイツ語でやり取り。札響には、シュトイデさんはポジティブな印象を持たれたそうです。ただ、ここでウィンナ・ワルツをやるのは「(ウィーンの)方言」のままで学ぶのが「(シュトイデさんが日本語で)大変」と仰っていました。また、「ブラームスのコンチェルト」については、初演の地であるライプツィヒ生まれのシュトイデさんは縁を感じていらっしゃるようです。「ヴァイオリニストであれば誰もが憧れる曲」ではあるものの、演奏するのは「(ここもシュトイデさんが日本語で)富士山」に登るようなものと仰っていました。この曲をシュトイデさんは30年ほど前に勉強してはいたものの、演奏会でソリストとして演奏するのは今回の来日が初めて(!)。日本で指揮者なしで初演することを音楽家仲間(お名前を失念しました、申し訳ありません)に相談したところ、「大丈夫」と背中を押して貰ったそうです。シュトイデさんがコンマスとしてウィーンフィルで初めて演奏したのは、リッカルド・ムーティ指揮(年代等の情報は失念……)にて。ウィンナ・ワルツはウィーンのものではあるけれど、ウィーンフィルに色々な指揮者や演奏家が来ることで影響を受けているとのこと。「指揮者なしでやること」については、一人一人が自分の音楽を表現できるメリットがあると仰っていました。最後にお客さん達へのメッセージとして「僕たちがやってきた事を見てほしい」。客席から大きな拍手が送られ、シュトイデさんと田島さんががっちり握手して、トーク終了となりました。
前半はブラームスのヴァイオリン協奏曲。シュトイデさんの弾き振りです。第1楽章 中低弦&ホルン&ファゴットによる冒頭と続くオーボエが素敵!オケは着実に歩みを進めている印象でした。シュトイデさんは独奏が登場する少し前から1stヴァイオリンの一員として演奏を始め、そこから独奏にスイッチ。独奏がまさにオケの中から浮かび上がってきたため、違和感なくすっと受け入れられました。独奏はややゆったりしたテンポ(あくまで個人的な感覚です)で、高音で滑らかに歌うのが美しい!オケの弦ピッチカートに乗った柔らかな響き、オケの弦と呼応する細やかさがとっても素敵で、低い音の重音で歌うところは温かみがあり、まるで歌曲のよう!カデンツァでは、最初の音階駆け上りや重音のインパクトだけでなく、小さめの音で奏でるところの細やかさ滑らかさに私は惹かれました。カデンツァの終わりの方で少しずつオケが合流する流れがよかったです。指揮者なしでもこんなに自然で滑らかな合流!第2楽章 木管群のベースに乗っての、温かなオーボエソロが素敵!第1楽章でもこの第2楽章でも、始めに空気を作ってくださったオーボエに大拍手です!ほどなく登場した独奏ヴァイオリンの柔らかな響きが美しく、こだまするようなオケの低弦とホルンが世界を広げてくださいました。ゆったりしたオケは子守歌のように心地よく、独奏は肌触りよい優しい響き!しかし一本調子ではなく、切れ味ある高音や内省的な低音にははっとさせられる良さがありました。第3楽章 は、リズミカルで生き生きとした演奏が楽しい!「ター タタタター タタタタッタッタ(ン)タッター♪」の(ン)のところは溜めすぎず軽快な印象(これも個人的な感覚です)。情熱的でも重すぎない独奏には瑞々しさを感じました。全員合奏で思いっきり盛り上がるところのオケの包容力!加えて個人的には、独奏ヴァイオリンが囁くようなところでの、オケの弦のナイスアシストぶりがとても好印象でした。フィナーレでは独奏もオケもギアチェンジして、ほんの少し駆け足に。わずかな変化でしたが、希望に向かって駆けていく「青春」っぽさを感じて、私はうれしくなりました。明るく幸せいっぱいな締めくくりが清々しい!ブラームスのヴァイオリン協奏曲、なんて良い曲なんでしょう!交響曲的な協奏曲とか、三大ヴァイオリン協奏曲とか、三大Bとか、そんな一切合切を抜きにしても、シンプルに素敵な曲!歌心あふれ、まっすぐな情熱が感じられた今回の演奏。私はまるでこの曲を初めて聴いた時のように夢中になれて、この曲を改めて好きになりました。ありがとうございます!
後半、シュトイデさんはコンマス席に着席し、田島さんはそのお隣へ移動。後半はすべてワルツ王・J.シュトラウスⅡの作品でした。はじめは「くるまば草」序曲。華やかな冒頭から一気に気分があがりました!少し穏やかになってからのオーボエが素敵!2つのフルートによるワルツのアクセントがユニークで(メロディの途中で2回ステップするような?)、引き継いだ弦も同じようにアクセント入れていたのが印象的でした。スキップが駆け足になってからの金管打楽器の迫力!再びシーンが変わってからの木管群とヴァイオリンのタッタッタッ♪と音を短く切る演奏&弦ピッチカートのリズムが楽しい。スネアドラムがカッコイイ!終盤では、初めの方に出てきた特徴的なフルートに乗って、コンマスとチェロ首席による二重奏が登場。こちらが「ブラームスが書いたと噂される対旋律(※確たる証拠は無いようです)」でしょうか?とっても素敵でした!ラストははちゃめちゃに盛り上がっての締めくくり。次々変化するテンポやリズムがいずれもユニークで、カラフルな音楽が楽しかったです。
ワルツ「もろびと手をとり」。プログラムノートによると、この曲はブラームスに献呈されているそうです。交響詩のような壮大な世界!温かみのある木管にゆったりと美しい弦が心地よく、聴き入りました。華やかな盛り上がりの後、この曲にも特徴的なリズムが登場(ゆったり→ゆったり→ステップ→ステップのような?)!このセットを繰り返す中でも、ふと陰りを見せたり派手に盛り上げたりと表情が変化するのが面白かったです。「ゆったり」のところでの弦は、上等な布がたなびくような揺らぎがあってなんとも素敵!また別のシーンではこのリズムの発展系(?)もあって、スネアドラムや金管のアクセントがカッコ良かったです。スピードアップした(この速さでは踊れない……)フィナーレはとても華やか!ブラームスが書かない(書けない)ような、華やかで美しいワルツ。とても新鮮で心地よく聴けました。
おなじみ、「常動曲」。基本のメロディを様々なパートでリレーしていくスタイルの、終わりが無い曲です。ズチャズチャズチャズチャ……のリズムでの快速演奏で、チェロが素敵にメロディを歌ったかと思ったら、ピッコロがさえずりファゴットがコミカルに歌い、金管がガツンとくる!鉄琴がキラキラとメロディを奏で、それをコントラバスが重低音で支えたところがとても印象的でした。合間にオケ奏者の男声による「ウ!」のかけ声が一度だけ登場(もっと言って・笑)。それぞれのパートに見せ場がある軽快な演奏に引き込まれ、ずっと聴いていられそうでした。しかし「もっと続きまーす」とオケの皆さんが仰ったのに合わせて、演奏はフェードアウト。どうぞもっと続けてください(笑)。キレッキレの演奏とかけ声、とっても面白かったです!
「入り江のワルツ」。先ほどのキビキビしたテンポから打って変わり、優雅で美しい王道ワルツに。優雅な流れの中で緩急やアクセントが変化し、寄せては返す波が音楽のベースにあると感じました。高音弦のメロディを低弦がこだましたり、ホルンが伸びやかに歌ったりするのには穏やかな水面を、管楽器が跳ねるように歌い、弦がピッチカートするのには水が跳ねるのをイメージ。超定番の「美しき青きドナウ」とは異なる、個性的な水のワルツでした。
プログラム最後の曲は、ポルカ「雷鳴と稲妻」。パワフルで超高速、エンジン回転フルスロットルの演奏!皆様ノリノリ!スパークする打楽器陣!後半の方では、金管群がメロディを演奏する際に、トランペット首席とトロンボーン首席が立ち上がって演奏するパフォーマンスも。ただずっと立奏ではなく、メロディに合わせて立ったり座ったりと忙しそう。誰もが知る名曲の快演に、会場の気分も大盛り上がりでした!
アンコールは、ワルツ王の弟であるヨゼフ・シュトラウスのポルカ「短いことづて」op.240。先ほどの勢いそのままに、さらにもう一押し盛り上げてくださいました!ウキウキするようなメロディのアップテンポな演奏、節目節目でパンチある打楽器が鳴るのは「雷鳴と稲妻」と似た雰囲気かも?短い演奏時間でしたが、底抜けに明るい音楽に、気分が晴れやかになりました。道産子オケによる「ウィーンの方言」の演奏、超楽しかったです!オケを導いてくださったシュトイデさん、札響の皆様、ありがとうございました!
【名曲コンサート】
— 札幌交響楽団(公式) (@sapporosymphony) 2023年6月17日
本日(6/17)開催、フォルクハルト・シュトイデ(コンサートマスターとヴァイオリン独奏)『名曲コンサート~ウィーンのヴァイオリンで聴くブラームスとJ.シュトラウスⅡ』にご来場いただきありがとうございました。#札響
♪アンコール:https://t.co/2OPU7TV38S pic.twitter.com/hTlInHOc6Q
「札幌交響楽団 第653回定期演奏会」(土曜夕公演は2023/05/27)。最初の計画発表から3年の時を経てやっと出会えたドイツ・レクイエム。体温を感じる人の声はストレートに心に響き、遠いと感じていた作品が一番自分のハートに近いものと思えるように。会場全体の気持ちが一つになれたラストも素敵でした。
「札幌コンサートホール開館25周年〈Kitaraワールドオーケストラシリーズ〉山田和樹指揮 横浜シンフォニエッタ」(2023/03/17)。新作初演の爽快さ!川久保賜紀さん共演のブラームス ヴァイオリン協奏曲は、交響曲のようにも感じられた濃密さ。そして何度も聴いたベト7は初めて出会ったような新鮮さ!想像を遙かに超えた体験でした。
最後までおつきあい頂きありがとうございました。