自由にしかし楽しく!クラシック音楽

クラシック音楽の演奏会や関連本などの感想を書くブログです。「アニメ『クラシカロイド』のことを書くブログ(http://nyaon-c.hatenablog.com/)」の姉妹ブログです。

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亀井聖矢 凱旋リサイタルツアー2023 札幌公演(2023/05) レポート

※おことわり。こちらのレビュー公開時点では、リサイタルツアーは継続中です。これからリサイタルをお聴きになるかたで、新鮮な気持ちで本番を迎えたいかたは、どうぞ本レビューをお読みくださるのは8月の千穐楽を迎えて以降にお願いいたします。


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2022年にフランス・パリで行われたロン=ティボー=クレスパン国際コンクールにて、第1位を受賞したピアニストの亀井聖矢さん。その凱旋リサイタルツアー2023が開催され、全国12公演のうち2番目となる札幌公演を聴きました。当日、2000人超の会場は満席に近い盛況ぶりで、聴衆の期待の高さがうかがえました。

はじめて弊ブログをお読みくださる皆様へ。アクセスありがとうございます!私はピアノはもちろん他の楽器も一切演奏できない「聴き専」です。また家で聴く録音は別として、演奏会は室内楽やオーケストラを中心に通っており、今までピアノリサイタルはほとんど聴いてきませんでした。演奏家へのリスペクトは常に心がけているつもりですが、素人が感じたままに書いているコンサートレビューのため、至らないところは多々あると存じます。おそれいりますが、弊ブログの記述はどうか真に受けずさらっと読み流して頂けましたら幸いです。もちろん何かありましたら遠慮なくツイッターにてコメントをお願いいたします。


亀井聖矢 凱旋リサイタルツアー2023 札幌公演
2023年05月30日(金)19:00~ 札幌コンサートホールKitara 大ホール

【出演】
亀井 聖矢

【曲目】
ショパン:3つのマズルカ Op.59
ショパン:幻想曲 Op.49
ショパン:アンダンテ・スピアナートと華麗な大ポロネーズ Op.22

ラヴェル:ラ・ヴァルス
ラヴェル:亡き王女のためのパヴァーヌ
ストラヴィンスキーペトルーシュカからの3楽章

(アンコール)
リスト:ラ・カンパネラ
バラキレフ:東洋風幻想曲「イスラメイ」


ピアニスト亀井聖矢さんとの出会いに感謝!亀井さんのことは失礼ながらお名前しか存じ上げなかった私ですが、亀井さんのピアノにすっかり魅了されてしまいました。何も知らないまっさらな人に響いてこそ本物だと思う私にとって、こんな出会いは本当にうれしい!熱心なファンが多いのもうなずけます。おそらく難曲揃いの演目たちでも、リズム感がとても良くて、1音1音がとてもキレイ!しかも軽やかに楽しそうに弾いていらして、聴いている方も楽しくなりました。前半ショパンでは、とにかくピアノの素敵さを堪能でき、後半オーケストラ作品のピアノ版ではピアノの可能性は無限大と実感。どの演奏も大変素晴らしいものでしたが、中でも私が最も感銘を受け良い意味で驚かされたのは、ストラヴィンスキーペトルーシュカからの3楽章」です。多くの場合、ロシアの管弦楽作品は派手でロシアのピアノはパワフル……しかし有り体に言うと泥臭い(あくまで個人的な感覚です)と私は思っていたのですが、亀井さんの演奏は華やかさと力強さはありつつも、粗野とは無縁のエレガントな響き!しかも舞踏の曲らしく、まるで音がダンスしているようなリズムと躍動感!これは素敵です!十八番のアンコール2曲に至るまで、バラエティ豊かな作品たちを、すべて異なる色彩の音楽として私達に聴かせてくださった亀井さん。今21歳というお若さでここまで到達していることに驚愕すると同時に、これから年齢を重ねて変化していく演奏を拝聴するのも私は楽しみになりました。今後ますますのご活躍に期待大です!


前半はショパンの作品。1曲目は、ショパン「3つのマズルカ Op.59」。第1曲 美しく哀しげな冒頭から早速引き込まれました。なんて純粋でキレイな音!一人語りのような流れの中で、時折ふと明るい表情を見せるときがあり、その瞬間での跳ねるような音の響きが印象的でした。第2曲 では、穏やかで幸せそうな音楽に心安らぎました。しかしどこか哀しい感じも。ラストは低い音を「タンタン タンタン♪」と響かせて締めくくり。小さく控えめな音量ではありましたが、今までずっと高音で歌ってきたのもあって鮮烈な印象でした。第3曲 は舞曲のリズムが速くなったり遅くなったりと様々に変化。哀しげなのに音楽は生き生きとしていて、感情の機微にぴったり添うようなリズムが心に沁みました。ラストは音をのばさずにすぱっと潔く締めくくったのがとても印象に残っています。3つの個性的な小品で、最初にピアノの素敵さを肌で感じることができました!

ここで亀井聖矢さんがマイクを持ち、ごあいさつとトーク。北海道は初上陸(!)で、kitaraで演奏することを楽しみにしていたと仰っていました。亀井さんはkitaraの音響を大絶賛(ありがとうございます!)。また楽屋に用意された食事はスープカレーだったそうで、「今の僕の元気は鶏肉と野菜と香辛料で出来ています」と仰って会場に笑いが起きました。前半のショパンについては、お若い亀井さんは「(作曲当時のショパンの)実年齢に近付いてきた」ことを意識されていらっしゃるようでした。

ショパン「幻想曲 Op.49」。はじめの低音の厚み!交互に登場する高音と会話しているようにも感じました。力強く華やかになってからは、音のきらびやかさと艶っぽさ!音階を駆け上るところはとても堂々とした印象で、最初の重たい空気があったためか、より一層晴れ晴れしく感じられました。クライマックスはしっかりとした足取りで前進しているようで、聴いている方は気分爽快に。音が多く華やかな流れの中で、ラスト直前に右手だけの単旋律となったところの細やかさがかえってインパクトがあって忘れられません。ラストは堂々たる締めくくり。暗から明へ、一つの曲がピアノ一つの演奏で変化していくのがとても素敵で、ドラマチックな体験でした。

ショパン「アンダンテ・スピアナートと華麗な大ポロネーズ Op.22」。前奏 は、左手のみで始まった冒頭から引き込まれました。キラキラとした高音が美しく、時折「タンタタタン タンタタタン♪」のリズム(マズルカ風?)で奏でられる響きはなんとも優しく穏やか。ポロネーズ になるとぐっと華やかに!ダイナミックに鍵盤を鳴らすところの迫力ある響きの良さはもちろんのこと、、舞曲のリズムで歌うところと、それを飾るポロンポロン♪とした光の球が転がるような音(上手く言えなくてごめんなさい!)がとっても素敵!繊細なところも迫力あるところも、リズム感がとても良くて、自然と気持ちが高まりました。鍵盤の上を縦横無尽に手が動いて思いっきり華やかに盛り上げたクライマックスが素晴らしい!ああピアノって素敵です!心地よいリズムに乗って、ダイナミックさも繊細さも美しい音も全部入り!ピアノの良さをたっぷり堪能できた演奏でした。


後半は、管弦楽作品の作曲家自身によるピアノ編曲版。ちなみに私はいずれの曲もオーケストラの生演奏で聴いたことがあります(ピアノ独奏では今回がお初です)。1曲目は、ラヴェル「ラ・ヴァルス」。左手によるぐっと低い音から入り、オーケストラの重低音にも引けを取らない重厚さにゾクッとしました。次第に右手の艶っぽいワルツが姿を現してきて、高音メロディと低音ベースが手を取り合い楽しく踊っているよう。跳ねるリズムが楽しく、輝かしいところも少し抑え気味なところもダンスの足取りは確かで、ずっと音が生き生きしていました。華やかなグリッサンドが目を引きましたが、そうでない時も細かく手が動いてキラキラした1音1音が湧き出てくるのと、アクセント的に入る低音の存在感も印象に残っています。そしてダーン!と重低音の一打からのクライマックスの充実ぶりがすごい!グリッサンドが何度も登場し、タンタタン♪のリズムを華やかに大きく響かせるのは、まるで大舞踏会のような盛り上がり。会場から「ブラボー」のかけ声も出た、超充実の演奏でした!

ここで「休憩がてら」(会場に温かな笑いが起きました)、トークが入りました。後半は全部オーケストラの曲です、というお話から。演目の簡単な解説に加えて、意気込みも語られました。オーケストラの色々な楽器の音をピアノ一台でどこまで出せるかは「僕の腕の見せどころ」で、バレエ音楽のすごく唐突にくるようなアクセントもピアノ一台でどこまで表現できるか挑戦したいとのことでした。

ラヴェル「亡き王女のためのパヴァーヌ。ゆりかごのような、ややゆっくりしたテンポ(あくまで私個人の感覚です)。子守歌のような音楽は繊細でとても美しく優しい!繰り返すメロディは同じでも、伴奏やテンポや音の表情自体が変化していく色彩豊かな演奏でした。ラストの力強い響きさえも美しい!内省的なのに多彩な響きは、まるでピアノからオーケストラが浮かび上がってくるようにも感じられ、ピアノの表現力の素晴らしさを実感しました。

ストラヴィンスキーペトルーシュカからの3楽章」。第1曲 は、キャッチーなメロディの力強く華やかな響き!やはりバレエの曲らしく、高く跳躍するような音階駆け上りや、ステップのリズムを刻む低音にインパクトがありました。第2曲 はじめの方は、独特のリズムと意味ある休符による沈黙が印象的でした。先が読めない中で、民謡のようなフレーズが登場してほっとしたりも。前半は音が少なく研ぎ澄まされた感じ(神秘的で引き込まれました!)でしたが、後半は一転して音が盛り盛りで、ロシアピアニズムを思わせる体重を鍵盤にかけた力強い音がインパクト大!第3曲 はさらに音が増えて、ピアノ一台をお一人で弾いてるのが信じられないほど!大人数でステップを踏んでいるようなリズム。手元は忙しく、時折低音域や高音域の方へ手を跳躍させてインパクトある音を響かせていたのが印象的でした。こんなに大忙しでも、あくまでリズミカルで音が洗練されていて、生き生きとした音楽が楽しい!亀井さんは、ペダルを踏んでいない足で床を踏みリズムを取っていたり、鍵盤に体重をかける際に腰がイスから浮いていたりと、全身全霊で音楽を奏でていらっしゃいました。クライマックスの充実ぶりは圧巻!両手とも鍵盤の上を跳躍したり、ごく小さな音でエネルギーを溜めてから長いクレッシェンドで情熱的に浮かび上がってきたりと、百花繚乱の響きがすごい!パワフルなグリッサンドで締めくくり。オーケストラに引けを取らない分厚い音をお一人のピアニストが奏で、ロシア音楽がこんなにも洗練されていて、ただただ驚愕です。すごいものを聴かせて頂きました!

カーテンコール後、亀井さんがマイクを持って御礼とトーク。「札幌に来たときは肌寒いと感じたけど、今は汗びっしょりです」。そうですよね!大熱演ありがとうございます!「ロン=ティボーでもこれは弾いていないのですが」と前置きして、「僕の得意なラ・カンパネラを」とアンコール曲を紹介くださり、わあ!と会場から歓声が上がりました。ピアノに疎い私でも耳にしたことがある超有名曲、亀井さんの演奏で聴けるのは私も嬉しいです!アンコール1曲目は、リスト「ラ・カンパネラ」。第1音からその繊細で美しい響きに引き込まれました。手は鍵盤の上を軽やかに跳躍していて、音も動きも粗野とは無縁のエレガントさ!グリッサンドはせずに1音1音を丁寧に奏でながら音階を駆け上るところの細やかさ!後半になると、低音の重厚感だけでなく、高音の鐘の音の美しさもいっそう存在を増して素敵!ドラマチックなクライマックスまで、難曲をのびのびとかつ1音1音の美しさが際立つ細やかさで聴かせてくださいました。ラ・カンパネラって、こんな曲だったんですね!ピアニストの勝負曲で、鍵盤をガンガン叩いて厳しい音がする(あくまでピアノをよく知らない私の勝手なイメージです)のとはまるで違う、繊細でピアノの響きの美しさをめいいっぱい楽しませて頂けた素晴らしい演奏でした!

拍手喝采の中、亀井さんが戻ってきてくださり、再びトーク。「他にも僕が得意としている曲、聴きたいよという方がいらしたら……ロビーでCDを販売しています」とちゃっかり宣伝(!)。会場がどっと沸きました。「超絶技巧、聴きたいですか?」で会場は大きな拍手。「あと1曲だけ、8分ほどお時間ください」と、曲目は仰らずに(終演後にアンコールボードで知りました)、アンコール2曲目へ。バラキレフの東洋風幻想曲「イスラメイ」。独特のリズムがあり、勢いを保ちながら囁くようだったりダイナミックだったりと、まるでダンサーが生き生きとステップや跳躍をして踊っているよう!少しゆったりになったかと思ったのも束の間、中盤から終盤にかけてはどんどん音が増えていき、さらに勢いを増してよりダイナミックになっていきました。それでも「タタタタタタ タタタタン♪」のリズムが生きていて、勢いあるのに1音1音がキレイ。難曲をそうとは悟らせない、胸がすくような快演に、聴いている方の気持ちもとても晴れやかになりました。満席近い客席はスタンディングオベーション!改めてピアニスト亀井聖矢さんとの出会いに感謝です!今回初上陸だった北海道に、きっとまたいらしてくださいませ。ピアノ独奏のリサイタルはもちろんのこと、室内楽の一員や協奏曲のソリストとしてもぜひ!お待ちしています♪

※亀井聖矢さん公式ツイッターへのリンク失礼します。

 

牛田智大 ピアノ・リサイタル」(2023/03/31)。演奏を通じて作曲家と出会えた独墺ロマン派3つのピアノ・ソナタ。アンコールに至るまで、重量級プログラムの大変充実した演奏に圧倒され、音楽そのものに無心で浸ることができた、あっという間の2時間半でした!

nyaon-c-faf.hatenadiary.com

 

実は今回は頂いたチケットでの参加でした。3月の牛田さんのリサイタルの帰り道に、初対面の女性がお名前も連絡先も告げないまま「行けなくなったから」と私にチケットをお譲りくださったのでした(チケット代は受け取って頂けず……)。あの時チケットをお譲りくださったかた、ありがとうございました。大変素晴らしいリサイタルで、心から楽しませて頂きました。このご縁に感謝いたします。


最後までおつきあい頂きありがとうございました。