プロアマ混合オケの札幌室内管弦楽団の定期演奏会。今回は昨年8月からの延期公演です。札響副首席トランペット奏者・鶴田麻記さんをソリストにお迎えしての協奏曲に、後半はブラ4。私は企画発表当初から楽しみにしていました。
札幌室内管弦楽団 第19回演奏会
2022年07月03日(日)18:30~ 札幌コンサートホールKitara 大ホール
【指揮】
松本寛之
【トランペット】
鶴田麻記 ※札幌交響楽団副首席トランペット奏者
【曲目】
モーツァルト:フィガロの結婚 序曲
フンメル:トランペット協奏曲 変ホ長調
(ソリストアンコール)アンダーソン:トランペット吹きの子守歌
ブラームス:交響曲第4番 ホ短調 作品98
(アンコール)ブラームス:ハンガリー舞曲 第5番
ソリスト鶴田麻記さんによる歌心あふれる表情豊かな演奏、とっても素敵でした!トランペットはファンファーレのようなパンチが効いた演奏だけでなく、今回のような温かみのある音色で歌うのも素敵です!おそらく難易度が高い演目を、鶴田さんは安定感ありながらも軽やかに歌うように演奏。心地良い響きはずっと聴いていたいほどでした。もちろん独奏とごく自然に溶け合ったオケも素晴らしいです。1年以上前から決まっていた企画。依然続くコロナ禍の中で、ソリストの鶴田さんもオケも、本番を迎える日までモチベーションを保ち、様々な制約がある中でリハーサルを重ねたのは大変だったことと存じます。今回とても良い形で初共演が実現し、クオリティの高い演奏を聴かせてくださったことに大感謝です。
また後半ブラ4の作品への愛が感じられる丁寧な演奏も素敵でした。私自身、繰り返し聴いてきた思い入れのある演目ですが、何度でも聴きたいですし、聴く度に新たな発見があるのがうれしいです。今回、私にとって大収穫だったのは、やや異質な第3楽章を第2楽章からの流れで違和感なく受け入れられたこと。あくまで個人的な感覚なのですが、自分が今まで聴いてきた第2楽章の演奏は厳格なものが多く、どうしても第3楽章の明るさとのギャップを感じていたのだと思います。一方、今回の演奏での第2楽章は優しさと温かさに満ちていたと感じました。これはブラームスなりの「愛」で、穏やかな優しさの第2楽章から陽気な明るさへ振り切る第3楽章は地続きなのかも?と、ようやく自分なりの受け止め方が出来た気がします。あとは正直に言うと、私はこの曲を聴きこんできた故に、演奏にちょっと注文したくなる部分もありました。しかし技術的なものより大事なのは、作曲家と作品へのリスペクトと愛情。今回の演奏からもそれらが感じられたのがうれしかったです。些末なことにこだわっては本質を見失ってしまいます。思えば初めて札幌室内管弦楽団の演奏会を聴いたとき(2019年10月)、私はブラ2の演奏に心から感激したのでした。初心を忘れずに、まっさらな気持ちで目の前の演奏を心から楽しむのが一番!帰りに地下鉄駅へ向かう道すがら、常連さんと思われる皆様が口々に「良い演奏会だった」と仰っていたのは、本当に素敵だと私は思います。そしてこんな素敵なファンが大勢ついている札幌室内管弦楽団は、やはりとても素敵なオケだと改めて実感しました。
1曲目はモーツァルト「フィガロの結婚」序曲。序奏に続いて華やかな盛り上がりになり、聴いている私達の気分も一気にあがります。速いテンポでの快活な流れの中で、個人的に好きな中低弦がメロディ担当したところや、木管が主役の穏やかなところ、すべて素敵でした。弦がごく小さな音からクレッシェンドで浮かび上がってくるところがとっても良かったです。ラストはうんと華やかな盛り上がりで、掴みはOK!
協奏曲の演奏に入る前に、指揮の松本さんがマイクを持ってごあいさつ。続いて前回の演奏会でのソリストを讃えた上で、今回のソリスト紹介がありました。ソリストの鶴田麻記さんをお迎えして、2曲目はフンメル「トランペット協奏曲 変ホ長調」。鶴田さんは淡い黄色のふんわりしたドレス姿、髪をアップにまとめていました。第1楽章、オケによる序奏はモーツァルトのような華やかさとベートーヴェンのような力強さが感じられました。満を持して独奏トランペットの登場。華やかな冒頭からインパクト大!音量があっても耳に触る感じは皆無で、温かなまるい音色がとても心地よかったです。基本的に明るく歌った独奏トランペットでしたが、時折ふっと陰りを見せたのが印象に残っています。音を震わせたり細かく刻んだりといった奏法や息が長いフレーズも、流れるようにごく自然な演奏で聴かせてくださいました。オケは、独奏トランペットが主役のときは音量を下げて支えに回り、独奏と会話するようにメロディをやり取り。また独奏が小休止のときは自然に音量を上げ、華やかに盛り上げたのも素晴らしかったです。第2楽章は哀しげな感じに。哀しいのに優しい響きの独奏トランペットが超素敵でした!音を長くのばすだけでなく、細かく音程を変えたり震わせたりと、音楽自体はゆったりなのに演奏はきめ細やか。対するオケも良い仕事をしていて、特に独奏に合いの手を入れた木管群の包容力ある響きや、終盤の低弦が効いたところが個人的にはツボがでした。そのまま続けて第3楽章へ。スキップするような独奏トランペットの演奏が楽しい!リズム良く合いの手を入れるオケの、中でもホルンの響きがとても良かったです。クライマックスでの独奏トランペットによるテンポが速く息が長いフレーズが圧巻でした。ラストは独奏トランペットとオケが一体となって華やかに締めくくり。伸びやかに歌う独奏トランペットと優しく包み込むオケ、気持ちの良い協演でした!
カーテンコールでは、鶴田さんへ花束が贈られました。ソリストアンコールはアンダーソン「トランペット吹きの子守歌」。音を刻みながらも穏やかに流れるような音楽。温かく優しい響きに、心穏やかになれました。同じアンダーソンの「トランペット吹きの休日」のイケイケドンドンとは違った、こんな響きのトランペットも新鮮で素敵!鶴田さん、協奏曲に続いてソリストアンコールまで、トランペットの魅力たっぷりの演奏をありがとうございました!
後半、演奏前に指揮の松本さんがマイクを持ってお話されました。4月の公演(第20回)と今回7月の公演(第19回)の番号が前後しているのは、コロナ禍での延期によって企画順と開催順が入れ替わったためとのこと。これから演奏するブラ4は「美しさと力強さが同居」する、松本さんが大好きな曲なのだそうです。そんなお話があった後、演奏に入りました。ブラームス「交響曲第4番」。第1楽章、ささやくような出だしに早速引き込まれました。曲が進むにつれて次第に熱量が増していった流れがごく自然で、高音とそれを追いかける低音の呼応がとても良かったです。情熱を秘めたブラームスはこうでなくっちゃ!ブラームスの歌心が感じられる演奏はどの部分も良かったのですが、中でもホルンとチェロによるもの悲しいメロディが素敵でうれしかったです。ここ好きなんです、ありがとうございます!クライマックスでのドラマチックな強奏では、特にティンパニの思い切った強打が印象に残っています。第2楽章、開始のホルンの響きに胸打たれました。この後ホルンは組み合わせを変えながら何度も登場し、もの悲しくも温かな響きはいずれも素敵でした。ホルンに続いた木管のまるい音色による歌が心に染み入り、終盤の弦の優しいメロディがとにかく素晴らしかったです。やはりブラームスは愛!天国的な響きのラストでは、ティンパニが前の楽章とは違って穏やかな響きだったのが印象的。私はこの第2楽章の演奏に深く感銘を受け、続く異色の楽章を地続きと感じ、すんなり受け入れられました。第3楽章は、この曲の中では唯一明るい楽章。派手な盛り上がりの中で、この楽章のみに登場するトライアングル大活躍!リズム感とメリハリがある演奏が楽しく、潔い締めくくりまで、気分爽快な演奏でした。そして第4楽章へ。この楽章で初めて登場したトロンボーンの荘厳な響きがとても良かったです。悲劇的な弦がカッコイイ!フルートソロ、お見事でした。続いた木管群と支える弦、トロンボーンは温かで包容力ある響き!深刻になりがちなこの曲の中で、時折光が差すような穏やかなところがしっかり生きていた演奏でした。パワフルなトロンボーンがインパクト大のクライマックスを経て、堂々とした締めくくり。愛と情熱のブラ4、とっても素敵でした!
アンコールはおなじみブラームス「ハンガリー舞曲 第5番」。先ほどのブラ4と同じ編成で、仄暗くもパワフルな演奏でした。中盤の穏やかなところでは、思いっきり力を溜める演奏で優しく温かな響きになったのが印象に残っています。潔く締めくくるラストが気持ちよく決まり、聴いていて清々しい気持ちになりました。カーテンコールの後、最後に松本さんが舞台へ戻って来て、「これで終わりです。気をつけてお帰りください」と仰って、会はお開き。今回も楽しかったです!愛ある素晴らしい演奏をありがとうございました!これからの演奏会も楽しみにしています!
指揮の松本寛之さんのYouTubeチャンネルにて、今回の公演と今までの公演の一部が聴けます。要チェックです♪
前回はこちら。「札幌室内管弦楽団 第20回演奏会」(2022/04/03)。札響副首席ヴィオラ奏者・青木晃一さんの独奏は、高音の華やかさから低音の深さまで多彩な表情で客席を魅了し、存在感抜群でもオケと自然にシンクロ。ベートーベン「運命」は堂々たる響きの丁寧な演奏でした。
最後までおつきあい頂きありがとうございました。