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札幌交響楽団 第645回定期演奏会(日曜昼公演)(2022/05)レポート

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↑札響の公式サイトにて、今回のソリストであるアンヌ・ケフェレックさんのメッセージ動画が視聴できます。

2022年5月の札響定期に、首席指揮者マティアス・バーメルトさんが今シーズン初出演です!シーズンテーマ「水」にかかわる音楽として、「水上の音楽」と「ライン」の2曲。またソリストにアンヌ・ケフェレックさんをお迎えし、モーツァルト最後のピアノ協奏曲が取り上げられました。

なお、土曜夜公演についてはラジオ放送が予定されています。7月17日(日)14:00からの放送予定。札幌圏外のかたもネットラジオで聴くことができます。

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また今回の「オンラインプレトーク」は、札響トランペット首席奏者の福田善亮さんとトロンボーン首席奏者の山下友輔さんがご出演。演奏の細かなところまで踏み込んだ演奏家ならではのお話や、ソリストの昔の思い出話など、興味深い話題がてんこ盛りです♪

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札幌交響楽団 第645回定期演奏会(日曜昼公演)
2022年5月29日(日)13:00~ 札幌コンサートホールKitara 大ホール

【指揮】
マティアス・バーメルト

【ピアノ】
アンヌ・ケフェレック

管弦楽
札幌交響楽団コンサートマスター:田島高宏)

【曲目】
ヘンデル:「水上の音楽」第2組曲
モーツァルト:ピアノ協奏曲第27番
ソリストアンコール)ヘンデル(ケンプ編):メヌエット ト短調 HWV434 No.4

シューマン交響曲第3番「ライン」


シーズンテーマ「水」をはっきりとイメージできた、よどみなく流れるような演奏。とても清々しい気持ちになれました!1曲目の「水上の音楽」は、船上という限られたスペースに合わせた小編成でもとても華やかで、各楽器の見せ場が盛りだくさん!作曲家のサービス精神がうかがえる明快な響きの音楽が楽しかったです。また後半メインのシューマン「ライン」は、作曲家自身がつけたタイトルではないにせよ、まるで大きなライン川の流れを思わせる壮大な響き。川の流れは変化しつつもよどむことはなく、生命力あふれた迷いのない音楽には、ずっと夢中になれました。中でも私は第4楽章が特に印象深かったです。全体の流れの中に溶け込んでいながらも、荘厳な響きで特別な存在感!ちなみにシューマン交響曲第2番でも唯一の短調である第3楽章が気になった私。曲全体の中での少し異質な部分になぜ惹かれるのか?このあたりを追求したら、私はシューマンとはもっと仲良くなれそうな気がしています。

そして「水」とは直接関係ないように思えるモーツァルトの協奏曲の演奏でも、個人的には「水」のイメージが浮かびました。アンヌ・ケフェレックさんの可憐で繊細なピアノは、とても自然体で湧き水のように生まれた音がさらさらと流れていく印象。力んだところや過剰な演出がない、ただただ純粋な音楽には聴いている私達の心も洗われるようでした。ちなみに私は2019年4月定期でも、ケフェレックさんと札響によるモーツァルトの協奏曲(この時は第22番)を聴いています。しかし当時の私にはその良さがまるでわかっていませんでした。そして今回、今の自分なりに聴いて、しみじみ素敵と感じられたことが素直にうれしかったです。ケフェレックさんと札響の協演が再び実現し、今回の演奏に出会えたことに心から感謝します。

なおプログラムには、「61年目の札響と共に目指すこと」と題したバーメルトさんのメッセージが掲載されていました。他ページよりも小さなフォントで1ページぎっしり詰まった文章からは、札響と今シーズンへかけるマエストロの熱い想いが伝わってきます。私は先日の札響えべつコンサートにて、バーメルトさんには意外に熱い一面があると感じたばかり。クールな印象のバーメルトさんが、シーズンテーマ「水」の本年度はどんな形で熱い情熱を見せてくださるか、とても楽しみです。


1曲目はヘンデル「『水上の音楽』第2組曲。今回はハーティ編曲版ではなくオリジナル版の演奏です。この曲のみバーメルトさんは指揮棒ナシ。また動きは「ここぞ」というときの最小限で、演奏は基本的に奏者の皆様に任せていた印象でした。この曲は、何と言ってもトランペットとホルンですよね!トランペットが高らかに歌い、呼応するようにホルンが歌うのが華やかかつ壮大で超カッコイイ!また同じメロディの繰り返しと思える部分でも少しずつ変化をつけてあり、例えばトランペットがフレーズ末尾で音を震わせたのを、こだまのようにホルンも同じ感じに演奏したのが楽しかったです。木管とホルンとの掛け合いも素敵でした。トランペットには高音弦、ホルンには中低弦が寄り添うのが基本スタイルで、弦が華やかさをさらに盛り上げてくれました。加えて金管が小休止して弦が主役になるところはとても美しく、まさに「水」のイメージがぴったりの澄んだ響き。あと個人的に「お?」と思ったのは、管楽器の見せ場で弦が沈黙するシーンがあったことです。弦は常に働いているイメージだったので新鮮でした。そして、弦と重なり控えめに音を刻んだチェンバロの存在感!声高な主張はしないのに、音楽にぐっと高貴な印象を与えてくれました。各楽器の個性が際立ち、小編成ながら華やかで開放感のあるとても贅沢な気持ちになれる演奏でした。


ソリストのアンヌ・ケフェレックさんをお迎えして、2曲目はモーツァルト「ピアノ協奏曲第27番」。第1楽章、はじめのオケのターンはモーツァルトらしい穏やかで美しい音楽。心穏やかに聴き入りました。満を持して独奏ピアノが登場。つま先からそっと踏み出すバレエのステップのような開始がとっても素敵で、早速引き込まれました。キラキラと流れるように美しい音を奏でるピアノは、清水が湧き出てくるような印象。このピアノと会話するオケも澄んだ瑞々しい響きで、幸せあふれる時が流れていました。明るい流れの中で、独奏ピアノが転調しふと寂しげな響きになり、続くオケも哀愁を帯びた感じに。1つのみのフルートが存在感ありました。またピアノに寄り添う弦ピッチカートが印象に残っています。カデンツァは、ややゆっくりと始まり少しずつ早くなって、確実にステップを踏んでいるよう。低音から高音へじっくりと上昇していくところがとても良かったです。オケによるかわいらしい締めくくりも印象的でした。第2楽章では、独奏ピアノが可憐で美しい!時にハンマーやペダルの物理的な音が聞こえる程の繊細な演奏による、ピアノの1音1音はまさに珠玉の音色!対話するオケも優しく温かな響きで心地よかったです。どの木管も個性的なまるい音色がとっても素敵でしたが、個人的にインパクト大だったのはホルンです。ピアノに寄り添う長くのばす音が繊細で美しい!ホルンは大きな音による咆哮だけでなく、柔らかで繊細な演奏も素敵ですね!第3楽章は、軽やかで明るいピアノから入り、ピアノとオケが一緒にスキップするように、タッタタッタターのリズムにのる幸せな音楽が楽しい。ピアノと掛け合う、オーボエファゴットの大人びた音色が素敵!中盤のピアノソロでは、この明るさにふと陰りが見えました。ほんのちょっとした変化なのに場の空気変えたピアノに、私は思わず感嘆のため息。ラストはオケによる明るい締めくくり。しみじみ素敵で、ずっと聴いていたい演奏でした!なおカーテンコールではバーメルトさんとケフェレックさんが手を取り合い、会場はひときわ大きな拍手で包まれました。

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ケフェレックさん自ら口頭で曲名をお知らせくださり、ソリストアンコールへ。ヘンデル(ケンプ編)「メヌエット ト短調 HWV434 No.4」。オケ1曲目の作曲家の作品をチョイスする、小粋な演出。この演奏がまた素晴らしかったです!ぽつぽつと語るような左手の伴奏に、右手のメロディの切なさ美しさ!一つ一つの音を大切に紡ぐ演奏は、派手さも過剰な演出もなく、とても純粋な響きでした。こんなに少ない音で胸打たれるとは……私は思わず涙が。今の世の中の情報過多な状態にやや疲れていた身としては、いっそう心に沁み入りました。聴けて本当によかったです。ありがとうございました!

ちなみにソリストアンコール後のカーテンコールでは、ケフェレックさんは何度もバーメルトさんを呼びましたが、バーメルトさんは舞台に戻ることはありませんでした(私の座席位置から舞台袖でのやり取りが見えてしまったので……)。またケフェレックさんがオケメンバーに起立を促しても、メンバーは着席のまま。盛大な拍手はソリストのみへ、という配慮だったのかもしれません。でもちょっとお気の毒(笑)。しまいには、んもう!といった感じで鍵盤のフタを閉じたケフェレックさん。チャーミングな振る舞いに、客席が和みました。素晴らしい演奏はもとより、お人柄の良さまで!私はすっかりケフェレックさんのファンになりました。ぜひまた札響との協演にいらしてくださいね。お待ちしています!


後半はシューマン交響曲第3番「ライン」。バーメルトさんは暗譜でした。勢いのある第1楽章は、華やかな冒頭に早速引き込まれ、少し切なさが垣間見える弦に心掴まれました。最初のテーマをホルンが歌ったのが壮大でカッコイイ!ロマンティックな木管が素敵!華やかな弦が、もう一段階上昇してさらに華やかな盛り上がりを作るのがインパクト大でした。この勢いこの多幸感!作曲家はこの曲を書くにあたりベートーヴェンの第3番を意識したという説がプログラムノートに書かれていましたが、高音が歌う多幸感と低音が効いた重厚感の合わせ技は、むしろベートーヴェンの第8番に近いイメージを個人的には感じました(素人の思いつきです)。堂々たる締めくくりも良かったです。穏やかな第2楽章、はじめの中低弦のメロディがとっても素敵!引き継いだ高音弦、続いて木管によるメロディも美しく、心穏やかになれました。弦はメロディのときはもちろんのこと、木管のターンではごく小さな音を刻む演奏で寄り添ったのも素敵でした。また個人的に印象深かったのはホルンです。牧歌的ではあっても、明るかったり少し影を見せたりと、登場する度に表情が異なる歌い方をしたのが新鮮!せせらぎのような第3楽章は、美しい木管から入り、高音弦のやさしい響きが素敵。コントラバスのピッチカートと、チェロのタリラリラ……という感じの下支えが、控えめなのにぐっと奥行きを作ってくれました。ピッチカートによるかわいらしい締めくくりも印象に残っています。荘厳な第4楽章、温かみのある音色で厳かに歌う金管群が素晴らしかったです!中でも、この楽章で初登場かつ通常より高い音域で歌ったトロンボーン!ホルンやトランペットとの重なりがとっても素敵でした。弦も音がキツくなりすぎず、やや深刻でもささやくように美しく歌ったのが心に染み入りました。終盤では金管木管も重なり、まるでオルガンのような響きに。そのまま続けて快活な第5楽章へ。勢いある弦の明るく流れるような演奏が爽快!しかし速度や強弱は一定ではなく、木管が歌うところで少し穏やかになる等の変化があり、生き生きとした流れでした。また金管は前の楽章とは雰囲気が変わり、華やかで力強い!個人的にはティンパニの鼓動に乗るトランペットのファンファーレとホルンが高らかに歌ったところが印象に残っています。そしてクライマックスの金管オールスターズによる堂々たる響きが最高でした!演奏は明るくパワフルに締めくくり。バーメルトさんの十八番(きっとそうですよね?)は、とても気持ちの良い演奏でした。ありがとうございました!8月のブラームスも楽しみにしています!



バーメルトさんは、この日の1週間前に開催された「札響えべつコンサート2022」(2022/05/22)にもご出演。前半はモーツァルト、後半はシベリウスでした。特にシベリウスでは、清廉で美しいだけでなく、情熱的で感情が湧き上がる力強さが感じられ、マエストロの新たな一面を発見しました。

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2022年1月に開催された「札幌交響楽団 第642回定期演奏会」(土曜夜公演は2022/01/29)では、シューマン交響曲第2番が取り上げられました。東京公演にも同じ布陣で臨んだ気鋭のプログラム。しかし当初予定されていたバーメルトさんの来日が叶わず、指揮者は当時来日中のユベール・スダーンさんへ交代。この公演を聴いて以来、私にとってシューマンは、「ものすごく好き」とは言えないけれど気になって仕方が無い存在になりました。

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最後までおつきあい頂きありがとうございました。