プログラム発表当初から気になっていた公演です。バーメルトさんが指揮した2019年8月定期のブラームス二重協奏曲がとても良かったので、葵トリオをソリストに迎えてのベートーヴェン三重協奏曲はぜひとも聴きたいと願っていました。しかし当初は予定が未定だったため、私は1次販売を見送り、開催日の2週間前から始まった2次販売でチケットゲット。運良く1階の良い席を選べました。
渡航制限の影響により、当初予定のバーメルトさんに代わり札響指揮者の松本宗利音さんが指揮することに。1ヶ月前に同じhitaruで第九の副指揮者を務められた松本さんが、今回は正指揮者です。なお、1月定期と同じくプログラムにバーメルトさんからのメッセージが掲載されていました。同じ内容が札幌交響楽団公式ツイッターから発信されています。バーメルトさん、ありがとうございます!近い将来きっと再会できますように。
第634回定期演奏会プログラムに掲載した、札響首席指揮者マティアス・バーメルトからのメッセージをご紹介します。#札響 pic.twitter.com/IFjykjGzIi
— 札幌交響楽団(公式) (@sapporosymphony) 2021年1月23日
また、今回の公演前に札響動画配信プロジェクトでティンパニ『ギュンター・リンガー』の皮の張替えをレポートした動画が公開されました。なかなか見られない舞台裏、必見です!
『動画配信プロジェクト』~札響打楽器奏者によるティンパニの皮の張替え
札幌交響楽団 hitaruシリーズ新・定期演奏会 第3回
2021年1月28日(木)19:00~ 札幌文化芸術劇場 hitaru
【指揮】
松本宗利音
【独奏】
葵トリオ
A=秋元孝介(ピアノ)、
O=小川響子(ヴァイオリン)、
I=伊東裕(チェロ)の3人によるユニット
【曲目】
指揮の松本さん、バーメルトさんの代打という大役お疲れ様でした!最初から最後まで素晴らしい演奏をありがとうございます。三重協奏曲で、葵トリオの皆様と並んだ姿がとても印象に残っています。松本さんは若いソリストお三方と同世代ですよね。これからの音楽界を引っ張ってくださる若い音楽家の皆様が、クオリティ高い演奏を聴かせてくださったのがうれしかったです。何もお若い指揮者だから大目に見ようとか、そんな色眼鏡で見たつもりはないのですよ。初めて聴く曲もよく知る曲も、私は気付いたら演奏に聴き入っていて、そういえば今日の指揮者は松本さんだったなと、そんな感じで気負わず聴けました。むしろご年配の大指揮者のほうが、過去の実績と比べてしまい私達は過度な期待を抱きがちなのかも。とはいえ私は、指揮者による味付けの違いはほんの少しわかってきたかな?のレベルです。そんな私が言うのは大変おこがましいのですが、松本さんのカラーが出てくるのはきっとこれからだと思います。これからの演奏も楽しみにしています!そして今後も札響をよろしくお願いします!
1曲目は早坂文雄「左方の舞と右方の舞」。プログラムによると札響演奏歴は2回という演奏回数がとても少ない曲で、私も聴くのは初めてです。編成が大きく、弦や管楽器の人数が多い上に、多彩な打楽器やハープ、チェレスタが入りました。曲は、和風の雰囲気はあるものの、雅楽のようなゆーったりではなかったです。かといって西洋音楽のスピードとも違う、ドラや拍子木のような打楽器の数々がタイミング良く入ってくれて独特のリズムが新鮮。和楽器はいないのに、弦で笙、ハープとチェレスタで琴のような音を聴けたのも驚きでした。泥臭さや「懐かしい」とは違う、こんな東洋的な音楽もあるんですね。スケールの大きさで私はなんとなく「大河ドラマのテーマ曲のよう」だとも感じました。普段ノーマークの日本人作曲家の作品も、今後気にかけていこうと思います。
2曲目はいよいよベートーヴェン「三重協奏曲」。ベートーヴェンの代表作の一つですし素敵な曲だと思うのに、札響演奏歴はわずか10回(ほか楽章抜粋演奏は1回)なんですね。プログラムノートの解説にあった通り、ソリストを3人も集める興行的な難しさも一因かも。札幌で生演奏を聴ける貴重な機会、背筋が伸びます。葵トリオのお三方は、秋元さんと伊東さんは黒シャツで、小川さんは全体にラメが入ったシルバーのキャミソールドレス姿でした。冒頭、オケのチェロ・コントラバスの控えめな音色からだん盛り上がってくるのだけでも既に大満足なのに、独奏チェロが入った途端に私は全部気持ちを持って行かれました。高めの甘い音色で歌う独奏チェロ、めちゃくちゃ好きです!続く独奏ヴァイオリン、独奏ピアノも高音域で幸せな気持ちを歌ってくれて、それをさらにオケが盛り上げてくれます。三重協奏曲は英雄交響曲と同時期に作曲されたとのことですが、この頃のベートーヴェンは遺書を書くほど思い悩んでいたのですよね確か。そんな時でもこんなに幸せを噛みしめる曲を生み出すなんて、やっぱりベートーヴェンには敵わないなと改めて思いました。頭の中がお花畑じゃないからこその「幸せ」の価値、素晴らしいです!第一楽章の終わりにパラパラと拍手が起きたのはご愛敬。まるでクライマックスの盛り上がりでしたよね。第2楽章、もうもう独奏チェロ素敵すぎです!ベートーヴェンはこの曲をはじめはチェロ協奏曲にする予定だったのかも?と一瞬思ったほど。しかし独奏ヴァイオリンとピアノが入るとやはり3つの独奏楽器がトリオで主役と思いなおしました。第2楽章の個性の掛け合い、ブラームス二重協奏曲がいぶし銀なら、ベートーヴェン三重協奏曲はまるでプラチナの光沢のようです。そしていつの間にか第3楽章に。独奏はまるで3人で親しく会話をしているよう。それでもソリストが我が道を突っ走るわけではなく、協演するオケと一緒に一つの音楽を創りあげているのがすごいです。ベートーヴェン三重協奏曲の場合、テレビ放送やネット動画でよく見るのはスターソリストを3人集めた「夢の共演」的な演奏が多い印象があります。豪華でも目移りしてしまい、一体どこに注目すれば良いかわからなくなる面も(私だけかも?)。しかし今回は葵トリオというピアノトリオの常設チームをお招きしての演奏、まさに目の付け所がシャープです。ピアノトリオを一つの人格のソリストと捉えれば良いのですね。またルドルフ大公への当て書きでピアノパートがやや簡単だという説がありますが、聴いている側の印象ではピアノだって絶対に難しそうです。クライマックスの一歩間違えばピアノの練習みたいになりそうな部分だって、今回はまるで「皇帝」のクライマックスのような華やかな盛り上がりで聴かせてくださいました。もちろん併走する独奏ヴァイオリンと独奏チェロのお力もあるからこそなのでしょう。やっぱりピアノトリオはイイですね!それぞれが主役でありながら時には脇役に回って、お互いに良さを高めあう感じ、私は大好きです。しかも今回はオケとの協演で素晴らしい演奏を聴けて、私はとても贅沢な気持ちになれました。ありがとうございました!
ソリストアンコールはピアノトリオによる演奏でした。どのパートも忙しそうで、わずかなズレがおそらく命取りになりそうな曲。しかしお三方の呼吸や間合いは完全にシンクロしていて、明るい曲をこちらは安心して楽しく聴くことができました。オケとの全力投球の直後にこんなにクオリティ高いソリストアンコール、素晴らしい!ありがとうございます!帰宅して札響公式サイトを確認したところ、曲はハイドン「ピアノ三重奏曲 第27番 ハ長調 第3楽章」でした。ハイドンのピアノ三重奏曲は他のピアノトリオによる演奏を私は何度か聴いていますが、いずれも長調のあたたかな雰囲気がとても素敵だったと記憶しています。ハイドンはピアノ三重奏曲の良い曲をたくさん書いているのですね。そして葵トリオの皆様、今度は本来のピアノトリオでの演奏を室内楽向けのホールでぜひとも拝聴したいです。札幌での公演、お待ちしています!
休憩をはさみ、後半はドヴォルジャーク「交響曲第9番『新世界より』」。ちなみに私はちょうど2年前、同じhitaruで海外オケによる「新世界より」を聴きました。陽気なティンパニ奏者がマレットをくるくる回しながら楽しそうに演奏なさっていたのが妙に印象に残っています。また2018年11月にはkitaraで尾高忠明さん指揮による札響の演奏も聴いています。プログラムによると、「新世界より」の札響演奏歴は実に326回(ほか楽章抜粋演奏は136回)。頻繁に登場するベト7の倍以上なのですから、その人気は半端ないです。もちろんどんな曲でも、聴く度に新鮮な気づきがあるので何度でも大歓迎です!冒頭のヴィオラ・チェロ・コントラバスで静かに始まるところから素敵。静かに木管も続いて、一転パワフルな演奏で世界ががらっと変わる感じが良いです!皮を張り替えたティンパニも大迫力!バーメルトさんに鍛えられた(?)強弱のメリハリはさすが。次々とキャッチーなメロディが出てきて退屈させない曲ではありますが、変化するところはビシッとキメる演奏があればこそです。第2楽章、チューバはここの「家路」のイントロで登場するだけなんですね。他の金管がパワフルなところに登場しないのは意外でした。イングリッシュホルンの素敵なソロで懐かしい気持ちになるのは、おそらく小学校時代の下校の時刻に毎日聴いていたせい。主に管楽器が奏でる2番目3番目の主題も素敵で、この時は伴奏にまわる弦のザワザワやピッチカートも好きです。弦の首席奏者で弦楽四重奏の演奏があるのには今回初めて気付きました。こんなレベルで申し訳ないです。第3楽章、トライアングルの発車ベルで出発進行(と私が勝手に思っています)からゾクゾク。木管のリレーがキレイなのはもちろん、低弦が良い仕事するなあと聴き入っていました。やっぱりhitaruって低弦がよく響く!私の勝手な思い込みかもしれませんが。第4楽章、金管がパワフル!頼りにしてますティンパニ!ホルンが世界を変えてくれるんですね。控えめに一度だけ鳴ったシンバルも今回はわかりました。私はドヴォルジャークのオリジナル版とブラームスが整えた版の違いに気づけるような聴き方はできませんが、列車の車窓から次々と新たな景色に出会うように曲の移り変わりを楽しめました。定番曲、何度聴いても良いです!素晴らしい演奏をありがとうございました!
演奏とは関係ないことで一つだけ。終演後、分散退場前にそそくさと立ち上がり会場の外へ出る人が多かったのは少し残念でした。急用やおトイレ等の事情がある人は致し方ないですが、そうでなければ少しだけ気持ちに余裕を持って順番を待ちましょうよ皆様。いい大人が自分さえ良ければいいとの振る舞いをするのはみっともないと私は思います。分散退場に意味があるのかうんぬんの主張は別の場所でどうぞ。お小言ごめんなさい。人のことを言う前にまずは我が身を省みるべきなのは承知しています。私自身ももろもろ気をつけます。
本年度から始まった平日夜のhitaruシリーズ新・定期。日本人作曲家の演奏機会が少ない作品に、華やかな協奏曲、そして超有名な交響曲という組み合わせは盛りだくさんで、思いっきり楽しめますね。通常の定期の演目が時にハードル高いと感じる人(私です)にも受け入れやすいです。今回私は初めてでしたが、これなら平日夜でも頑張って聴きに来たくなると思いました。札幌でお勤めのかたは大通駅直結のhitaruで19時開演なら足を運びやすいでしょうし、実際今回は真冬の夜にもかかわらず1階席は9割ほどの席が埋まっていました。週末にわくわくお出かけもいいけど、平日夜の帰宅前に演奏会に寄るのも素敵ですよね。今は大勢で集まってわいわいお酒を飲むことは難しい状況ですが、静かに座って楽しむクラシック音楽の演奏会なら感染症の心配が少なく、幸せな時間を過ごせると思います。何かと息苦しい昨今、たまにはささやかな楽しみがあっても良いのでは?札幌の皆様、お仲間同士でもお一人様でも、平日夜は札響のコンサートにぜひ♪
2021-2022『hitaruシリーズ新・定期演奏会』4回通し券発売のお知らせが発表されています。ラインナップは超豪華!4回通し券やhitaruシリーズ限定のラッキーhitaruパスならオトクな料金で楽しめますよ。
通常の定期とkitaraでの「名曲シリーズ」を含む、2021-2022シーズン『札幌交響楽団主催演奏会』のラインナップは以下のリンクから確認できます。
今回の公演の1ヶ月前に開催された「札響の第九」のレポート記事は以下のリンクからどうぞ。何より演奏が素晴らしかったからこそ、記憶に残る特別な第九でした。
ブラームスの二重協奏曲が聴けたバーメルトさん指揮の2019年8月定期演奏会は、Eテレ「クラシック音楽館」で放送されました。以下のリンクの番組レビューでは、バーメルトさんへのインタビュー内容はすべて書き起こしています。また演奏会レポート記事に遡ることができますので、よろしければあわせてお読みください。
最後までおつきあい頂きありがとうございました。